(平22.4.13、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者A社(以下「本件滞納者」という。)が納付すべき国税を徴収するため、本件滞納者が審査請求人(以下「請求人」という。)に対して債権を担保の目的で譲渡したとして、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定に基づき、譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分をしたところ、請求人が、当該告知処分により原処分庁が徴収しようとする国税のうち、請求人と本件滞納者との間で集合債権譲渡担保契約を締結した日以降に法定納期限等の到来した国税は同条の規定により徴収することはできないとして、当該告知処分の一部取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成20年10月16日付で、本件滞納者が納付すべき別表1の順号1から3までの国税を徴収するため、本件滞納者とB社との間における取引により発生した別表2記載の外注加工代金の支払請求権(以下「本件債権」という。)を差し押さえた(以下、この差押処分を「本件差押処分」という。)。
ロ 原処分庁は、その後の調査により、本件債権が本件滞納者と請求人との間で締結された集合債権譲渡担保契約により請求人に譲渡されていたことが判明したことから、本件債権が徴収法第24条第1項に規定する「納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下「譲渡担保財産」という。)」に該当するとして、請求人に対し、同条第4項及び第2項の規定に基づき、平成21年2月17日付の告知書により、譲渡担保財産である本件債権から別表1の順号1から4までの国税(以下「本件滞納国税」といい、また、別表1の順号2から4までの国税を以下「本件甲滞納国税」という。)を徴収する旨の告知処分(以下「本件告知処分」という。)を行った。
ハ 請求人は、平成21年3月18日に、本件告知処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成21年4月30日付で、棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成21年5月6日に、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人と本件滞納者及びC(以下「本件滞納者ら」という。)との間で作成された平成20年3月4日付「集合債権譲渡担保契約書」と題する書面には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 請求人と本件滞納者らは、本日、譲受人を請求人、譲渡人を本件滞納者として、集合債権譲渡担保契約(以下「本件譲渡担保契約」という。)を締結した。
(ロ) 本件滞納者は、請求人に対して現在負担している債務及び将来発生する債務のうち、極度額10,000,000円を限度とする債務の履行を担保するため、別表3記載の第三債務者に対して本件滞納者が有する売掛債権を請求人に譲渡し、請求人は、これらの債権を正に譲り受けた。
(ハ) 請求人及び本件滞納者は、請求人が債権譲渡の対抗要件を具備するため、動産債権譲渡特例法に係る債権譲渡登記を行うものとし、本件滞納者は、登記に必要な書類一式を請求人に提供する。
(ニ) 上記(ハ)の登記によるほか、請求人は、民法第467条に定める方法により債権譲渡の対抗要件を具備することができる。
ロ 請求人は、平成20年10月○日8時30分付で、動産債権譲渡特例法第4条第1項に基づき、本件滞納者が平成20年6月30日から平成21年9月29日までの間に発生する本件債権を含むB社に対して有する売掛債権について、債権譲渡登記(以下「本件債権譲渡登記」という。)を経由した。
ハ 請求人は、B社に対して、上記ロの本件債権譲渡登記に係る登記事項証明書及び債権譲受通知書を送付し、これらは平成20年10月8日にB社に到達した。
ニ 原処分庁は、徴収法第24条の規定により、その法定納期限等が本件債権譲渡登記の日より前である本件滞納国税を本件債権から徴収することができるとして、平成21年2月17日付で本件告知処分を行った。

(5) 争点

 譲渡担保財産から徴収することができる本件滞納国税の範囲

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 同一の指名債権について、債権譲渡登記と滞納処分による差押えが競合した場合の優劣関係の判定は、債権譲渡登記がされた時と債権差押通知書が第三債務者に送達された時との先後により判定するものと解されており、請求人の本件債権譲渡登記の日時が本件差押処分に係る債権差押通知書の到達よりも先に行われていることから、本件債権は、請求人に帰属するものと解される。
ロ そして、納税者に帰属するものとして差し押さえた財産が、譲渡担保財産であることが判明した場合は、当該差押えを解除することなく、徴収法第24条第4項の規定に基づき滞納処分を続行することができることとされている。
ハ 徴収法第24条第8項によれば、権利移転の登記の制度がある譲渡担保財産について、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転登記がある場合には、同条第1項の規定は適用されない(譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができない)旨規定されており、また、判例によれば、国税の法定納期限等以前に将来発生すべき債権を目的として債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され、その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には、譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限等の到来後に発生したとしても当該債権は「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当すると解するのが相当であるとされている。
ニ これを本件についてみると、本件債権が譲渡担保財産となった日は、本件債権譲渡登記がなされた平成20年10月○日であり、これは本件滞納国税の法定納期限等後であることから、徴収法第24条第8項の規定の適用はなく、本件告知処分は適法である。

(2) 請求人

 本件告知処分は、債権者の利害に重大な影響を及ぼす場合に該当するので、徴収法第24条第8項の規定を字義どおりに解釈すべきではなく、指名債権の譲渡において、債権譲渡契約が適法であるならば、当該契約日を基準として、同項の法定納期限等以前か否かを判断すべきである。そうすると、本件告知処分により譲渡担保財産から徴収されるべき滞納国税は、適法に締結された本件譲渡担保契約の日である平成20年3月4日を基準に判断すべきであり、同日以降に法定納期限等が到来した本件甲滞納国税の合計○○○○円については、当該法定納期限等以前に譲渡担保財産となっていることから、この部分の一部取消しを求める。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 徴収法第24条第1項は、納税者が国税を滞納した場合において、納税者の財産で譲渡担保財産となっているものがあり、かつ、納税者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる旨を規定している。また、徴収法第24条第8項は、納税者の国税の法定納期限等以前に担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合又は譲渡担保権者が当該国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実をその財産の売却決定の前日までに証明した場合には、同条第1項の規定を適用しない旨を規定している。
 これは、納税者の財産に質権や抵当権等の担保権が設定されているときは、その財産の換価代金の配当に当たっては、国税の法定納期限等と担保権の設定年月日の先後で優先劣後を決することとしているところ、納税者の財産が担保の目的で譲渡されたときは、譲渡担保の実質が担保でありながら、譲渡担保財産は法形式上その所有権が譲渡担保権者に移転しているため、譲渡担保設定者である納税者の財産として滞納処分を執行することができず、譲渡担保財産から国税を全く徴収することができないこととすれば、国税の法定納期限等後に譲渡担保権が設定されたとしても、常に譲渡担保権者が国税に優先して譲渡担保財産の換価代金から配当を受けることができることになり、国税と他の担保権との均衡を失することになることから、国税の徴収の面からは、できるだけ質権や抵当権と同一の取扱いを受けることが望ましいとの観点に立ち、国税の法定納期限等後に納税者の財産が譲渡担保の目的とされたときは、納税者の財産につき滞納処分をしてもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限って、譲渡担保財産に対する滞納処分を執行することができることとして、国税債権の確保と私法秩序との調整を図ることとしたものと解される。
 また、徴収法第24条第8項後段は、国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実の証明について、登記することができる質権以外の質権が国税の法定納期限等以前に設定されたことの証明は公正証書や確定日付のある私署証書、内容証明郵便等によってしなければならないとする同法第15条第2項後段の規定を準用する旨規定している。
ロ ところで、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約は、譲渡の目的とされる債権が特定されている限り、原則として有効なものである。また、将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合には、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない限り、譲渡担保の目的とされた債権は譲渡担保契約によって譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡されているのであり、この場合において、譲渡担保の目的とされた債権が将来発生したときには、譲渡担保権者は、譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当然に、当該債権を担保の目的で取得することができるものである。そして、将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合、当該譲渡担保契約に係る債権の譲渡については、指名債権譲渡の対抗要件(民法第467条第2項)の方法により第三者に対する対抗要件を具備することができる。
 以上のような将来発生すべき債権に係る譲渡担保権者の法的地位にかんがみれば、徴収法第24条第8項の解釈においては、国税の法定納期限等以前に、将来発生すべき債権を目的として、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され、その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には、譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限等の到来後に発生したとしても、「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当すると解されている(最高裁平成19年2月15日第一小法廷判決)。
ハ 以上のことからすれば、国税の法定納期限等以前に、将来発生すべき債権を目的として、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結されたとしても、国税の法定納期限等以前に債権譲渡登記や徴収法第15条第2項各号に掲げる書類によって債権譲渡の第三者対抗要件が具備されていない限り、同法第24条第1項の適用は妨げられないと解される。

(2) 認定事実

イ 上記1(4)イのとおり、本件譲渡担保契約は、10,000,000円を限度として、本件滞納者とB社ほか3社間の継続取引から発生する売掛債権を請求人に譲渡することをその内容とするものであり、本件譲渡担保契約においては、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款はない。
ロ 上記1(4)イ(ハ)及び(ニ)のとおり、本件譲渡担保契約には、債権譲渡の第三者対抗要件として、動産債権譲渡特例法による債権譲渡登記のほか、「民法第467条に定める方法」によっても債権譲渡の対抗要件を具備することができる旨定められているが、この方法によって第三者対抗要件が具備された事実は認められない。

(3) これを本件についてみると、次のとおりである。

 上記1(4)イ(ロ)及び上記(2)イのとおり、本件譲渡担保契約の譲渡目的債権は、将来発生すべき債権であって、同契約においては、債権譲渡の効果の発生を留保する旨の特段の付款は付されていないのであるから、本件債権は譲渡担保権者である請求人に確定的に譲渡されており、本件債権は、遅くともその発生のときに請求人に移転するものということができる。
 そして、本件譲渡担保契約は、本件甲滞納国税の法定納期限等の日である平成20年7月18日以前に締結されていたことは認められるものの、本件債権の譲渡に係る第三者対抗要件は、動産債権譲渡特例法第4条第1項の規定に基づく本件債権譲渡登記により具備されており、これは民法第467条の規定による第三者対抗要件とみなされるところ、この第三者対抗要件が具備されたのは、上記1(4)ロのとおり、本件甲滞納国税の法定納期限等後の平成20年10月○日であり、また、上記(2)ロのとおり、本件譲渡担保契約においては、民法第467条に定める方法によって債権譲渡の対抗要件を具備することもできる旨定められているものの、この方法によって第三者対抗要件が具備された事実は認められず、他に本件甲滞納国税の法定納期限等以前に本件債権の譲渡に係る第三者対抗要件が具備されていた事実は認められないことからすれば、本件債権が、本件甲滞納国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっているとはいえず、よって、本件については、徴収法第24条第8項の規定により、同条第1項を適用することができないということはできない。
 したがって、本件告知処分により譲渡担保財産である本件債権から徴収されるべき本件滞納者の滞納国税は、本件甲滞納国税を含む本件滞納国税の全額であると認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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