(平22.6.16、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者の滞納国税を徴収するために債権の差押処分を行ったのに対し、審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該債権は請求人に帰属するものであるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成20年9月1日付、同月4日付及び同月11日付で、納税者A社(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、別表の各債権(以下「本件各債権」という。)について、それぞれ差押処分(以下「本件各差押処分」という。)を行った。
ロ 請求人は、平成20年9月25日に、本件各差押処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月11日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年12月19日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 B社(以下「本件譲渡担保権者」という。)は、平成20年6月18日付で、債権譲渡特例法第4条第1項に規定する債権譲渡登記ファイルに、譲渡人・原債権者を本件滞納者、譲受人を本件譲渡担保権者、債権の種類を売掛債権、債務者を別表の差押債権欄記載の各債務者として債権譲渡の登記をした。
 請求人は、平成20年7月9日付で、債権譲渡特例法第4条第1項に規定する債権譲渡登記ファイルに、譲渡人・原債権者を本件滞納者、譲受人を請求人、債権の種類を売掛債権、債務者を別表の差押債権欄記載の各債務者として債権譲渡の登記をした。
 原処分庁は、平成20年11月14日付で、別表の順号6記載の債権を除く本件各債権が徴収法第24条第1項に規定する譲渡担保財産に該当するとして、同条第4項の規定に基づき、別表の順号6記載の債権に対する差押処分を除く本件各差押処分を本件譲渡担保権者に対する差押処分として続行させるため、本件譲渡担保権者に対し、当該譲渡担保財産から本件滞納国税を徴収する旨の告知書を発して告知した。

(5) 争点

 本件各差押処分は、違法か否か。

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2 主張

(1) 請求人

 本件各債権については、請求人が、本件各差押処分の前に本件滞納者から本件各債権の全部を譲渡担保として譲り受け、債権譲渡特例法第4条第1項に規定する債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記をしたことにより、民法第467条に規定する指名債権の譲渡の対抗要件を具備したものとみなされた。
 原処分庁は、本件各債権には、本件譲渡担保権者の債権譲渡の登記が残存しており、本件譲渡担保権者を最も優先する譲渡担保権者として認定しているが、同者は、債権の譲受人として権利を主張しておらず、債権譲渡の登記を抹消していないだけで何らの権利も有していないと考えるべきである。
 そうすると、本件各債権は請求人に帰属するものであり、これらの事実を確認しないで行った本件各差押処分には、徴収法第47条の要件を欠く違法があるから、その全部の取消しを求める。

(2) 原処分庁

イ 別表の順号5記載の債権に係る差押処分について、原処分庁は、平成21年11月13日に当該債権の全額の取立手続を終了したことにより、当該処分は終結しており、同表の順号6記載の債権は発生しなかった。また、同表の順号7及び8記載の債権に係る各差押処分について、原処分庁は、平成21年11月20日付で差押解除をしたことにより、当該各処分は終結している。
 よって、これらの債権についての審査請求はその利益を欠き不適法である。
ロ 別表の順号3記載の債権については、本件滞納者とC社との間で交わされた平成17年7月20日付「出店契約書」(以下、この契約書に係る契約を「本件出店契約」という。)による譲渡禁止特約が付されており、請求人は当該譲渡禁止特約を確知していたことが確認できることから、当該債権の譲受けは無効であり、譲受人たる地位を取得していない。
 また、同一の指名債権について複数の債権譲渡登記が競合した場合の優劣関係の判定は、第三者対抗要件である債権譲渡登記がされた日時の先後又は登記番号の先後により優劣が判定されるところ、別表の順号1及び4記載の債権の債権譲渡について、本件譲渡担保権者の債権譲渡登記の日時が最も優先していることから、当該各債権の所有権は本件譲渡担保権者に帰属するものと解するのが相当であり、当該各債権に係る各差押処分は、本件譲渡担保権者に対する差押処分として適法に続行されている。
 よって、本件各差押処分の手続に違法はなく、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1) 別表の順号2及び5ないし8記載の債権に係る各差押処分(以下、これらの差押処分を併せて「甲差押処分」という。)について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件出店契約において、C社は、本件滞納者の売上金を預かり、当該売上げに係る諸経費等を控除した上でその残額を本件滞納者に返還する旨定められている。
(ロ) 別表の順号2記載の債権は、その全額が、C社が本件滞納者に対して有する上記(イ)の諸経費等の債権との相殺により消滅したことが認められ、この相殺は、本件出店契約に基づき原処分庁に対抗できる適法な相殺と認められる。
(ハ) 原処分庁は、別表の順号5記載の債権について、平成21年11月13日付で、徴収法第67条の規定に基づいて、D社からその全額を取り立てている。
(ニ) 別表の順号6記載の債権については、債権額の発生がなかった。
(ホ) 原処分庁は、別表の順号7及び8記載の債権に係る各差押処分について、平成21年11月20日付で解除した。
ロ 差押処分の取消しを求める審査請求においては、処分が既に消滅している、又は、差押えの対象の消滅・不存在等により処分の効力が消滅している若しくは発生していないという場合には、処分の取消しを求める法律上の利益がなく、その審査請求は不適法なものとなる。
 これを本件についてみると、上記イの各事実によれば、別表の順号2記載の債権に係る差押処分はその対象が消滅し、別表の順号5記載の債権に係る差押処分は取立てによりその目的を完了して効力が消滅し、別表の順号6記載の債権に係る差押処分はその対象が不存在であるから効力を生じておらず、別表の順号7及び8記載の債権に係る各差押処分は解除により消滅したといえる。
 以上からすると、本件審査請求のうち、甲差押処分の取消しを求める部分については、その取消しを求める法律上の利益を有しない不適法なものである。

(2) 別表の順号1、3及び4記載の債権(以下「乙債権」という。)に係る各差押処分(以下、これらの差押処分を併せて「乙差押処分」という。)について

イ 民法第466条第1項は、債権は、その性質上譲渡が許されないものを除き、譲渡できる旨規定し、同条第2項は、当事者が反対の意思表示をした場合には第1項の規定は適用せず、ただし、その意思表示は善意の第三者に対抗することができない旨規定している。この規定は、当事者が特約をもって債権の譲渡を禁止したときは、当該特約は善意の第三者に対しては効力がないが、悪意の第三者に対しては効力を生ずるものと解され、債権譲渡禁止特約の存在を知って債権を譲り受けた第三者については、当該債権の譲受けは無効となる。
ロ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件出店契約には、当該契約に基づく権利を第三者へ譲渡してはならない旨の条項がある。
(ロ) 請求人と本件滞納者は、平成20年7月4日付で、「集合債権譲渡契約書」と題する書面を作成した。
 なお、この書面の要旨は、別紙2のとおりであり、その「譲渡禁止特約の有・無」欄において「有」に丸印が付されている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 上記ロ(イ)のとおり、乙債権については、譲渡禁止特約が付されていたことが認められ、また、上記ロ(ロ)のとおり、本件滞納者は請求人との間で、請求人に対して現在及び将来負担する債務を担保するため、本件滞納者が現在及び将来有する債権を請求人に譲渡する旨の集合債権譲渡契約を締結したが、当該契約書の「譲渡禁止特約の有・無」欄においては「有」に丸印が付されていることから、請求人は、当該契約書の締結時において、本件滞納者がC社に対して有していた乙債権について、譲渡禁止特約が付されていたことを確認していたことが認められる。
(ロ) そうすると、請求人は、当該譲渡禁止特約につき悪意の譲受人と認められることから、本件滞納者から請求人への乙債権の譲渡は無効であり、乙債権が請求人に帰属することを理由に乙差押処分の取消しを求める請求人の主張は、その前提を欠き採用できない。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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