(平22.2.18、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、請求人が所有する不動産の公売に係る、売却決定の日時を変更する旨の公売公告処分をしたのに対し、請求人が、当該公売公告処分には瑕疵があるとして、その全部の取消しを求めた事案である。
 なお、請求人は、併せて公売通知及び最高価申込者決定通知並びに異議決定の取消しも求めている。

(2) 原処分の概要

イ 原処分庁は、平成16年5月11日付で、請求人の滞納国税を徴収するため、請求人が所有する別紙1記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の差押処分をした。
ロ 原処分庁は、平成18年3月8日付で、本件不動産を公売するため、公売の日時、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を下記(イ)ないし(ハ)とする旨の公売公告(以下「当初公売公告」という。)及び本件不動産の見積価額を○○○○円とする旨の見積価額公告(以下「本件見積価額公告」という。)をするとともに、請求人に対し、公売通知(以下「当初公売通知」という。)をした。
(イ) 公売の日時     平成18年○月○日
(ロ) 売却決定の日時   同月○日午前10時
(ハ) 買受代金の納付期限 同日午後3時
ハ 請求人は、平成18年3月30日、当初公売公告及び当初公売通知を不服として異議申立てをし、異議審理庁は、同年6月29日付で、当初公売公告について棄却、当初公売通知について却下の異議決定をした。
ニ 原処分庁は、上記異議決定に先立つ平成18年○月○日、当初公売公告に係る入札を実施し、同日付で、最高価申込者の決定処分(以下「本件決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、平成18年7月31日、異議決定を経た後の当初公売公告及び当初公売通知に不服があるとして審査請求をし、国税不服審判所長は、平成19年5月22日付で、当初公売公告について棄却、当初公売通知について却下の裁決をした。
ヘ 原処分庁は、平成19年○月○日付で、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を下記(イ)及び(ロ)のとおり変更する旨の公売公告(以下「第2次公売公告」という。)をするとともに、請求人に対し、公売通知(以下「第2次公売通知」という。)及び最高価申込者決定通知(以下「第2次決定通知」という。)をした。
(イ) 売却決定の日時   平成19年○月○日午前10時
(ロ) 買受代金の納付期限 同日午後3時
ト 請求人は、平成19年8月13日、第2次公売公告、第2次公売通知、第2次決定通知及び同年○月○日に予定されている売却決定処分を不服として異議申立てをし、異議審理庁は、同年11月13日付で、いずれも却下の異議決定をした。
チ 請求人は、平成19年12月11日、異議決定を経た後の上記ヘの各処分等に不服があるとして審査請求をし、国税不服審判所長は、平成20年2月15日付で、いずれも却下の裁決をした。
リ 原処分庁は、平成20年○月○日付で、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を下記(イ)及び(ロ)のとおり変更する旨の公売公告(以下「第3次公売公告」という。)をするとともに、請求人に対し、公売通知(以下「第3次公売通知」という。)及び最高価申込者決定通知(以下「第3次決定通知」という。)をした。
(イ) 売却決定の日時   平成20年○月○日午前10時
(ロ) 買受代金の納付期限 同日午後3時
ヌ 請求人は、平成20年5月29日、第3次公売公告、第3次公売通知、第3次決定通知及び同年○月○日に予定されている売却決定処分を不服として異議申立てをし、異議審理庁は、同年8月25日付で、いずれも却下の異議決定をした。
ル 請求人は、平成20年9月23日、異議決定を経た後の上記リの各処分等に不服があるとして審査請求をし、国税不服審判所長は、同年11月4日付で、いずれも却下の裁決をした。
ヲ 原処分庁は、平成21年○月○日付で、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を下記(イ)及び(ロ)のとおり変更する旨の公売公告(以下「第4次公売公告」という。)をするとともに、請求人に対し、公売通知(以下「第4次公売通知」という。)及び最高価申込者決定通知(以下「第4次決定通知」という。)をした。
(イ) 売却決定の日時   平成21年○月○日午前10時
(ロ) 買受代金の納付期限 同日午後3時
ワ 請求人は、平成21年5月19日、第4次公売公告、第4次公売通知、第4次決定通知及び同年○月○日に予定されている売却決定処分を不服として異議申立てをし、異議審理庁は、平成21年5月21日付で、いずれも却下の異議決定をした。
カ 請求人は、平成21年5月25日、異議決定を経た後の上記ヲの各処分等に不服があるとして審査請求をし、国税不服審判所長は、同年6月22日付で、いずれも却下の裁決をした。
ヨ 原処分庁は、平成21年○月○日付で、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を下記(イ)及び(ロ)のとおり変更する旨の公売公告(以下「本件公売公告」という。)をするとともに、請求人に対し、公売通知(以下「本件公売通知」という。)及び最高価申込者決定通知(以下「本件決定通知」という。)をした。
(イ) 売却決定の日時   平成22年○月○日午前10時
(ロ) 買受代金の納付期限 同日午後3時
タ 請求人は、平成21年11月9日、本件公売公告、本件公売通知及び本件決定通知に不服があるとして異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成21年11月25日付で、いずれも却下の異議決定をした。
レ 請求人は、平成21年12月22日、異議決定後の本件公売公告、本件公売通知及び本件決定通知並びに異議決定に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙2のとおり

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2 争点

 本件の争点は、本件公売公告に、処分を取り消すべき瑕疵があるか否かである。

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3 主張

(1) 請求人

イ 請求人の異議申立てによって、前回までの売却決定はすべて中止になったのであり、これらと同様、本件公売公告も手続自体が違法である。さらに、前回までの売却決定について、中止決定等がなされていないにもかかわらず、今回、売却決定の公売公告をするのは違法である。
ロ 本件不動産の見積価額は税務署長が決定すべきところ、法定の要件とされていない鑑定評価を鑑定人に委託し、鑑定手数料を滞納処分費としたこと及び著しく低額な見積価額を採用したことは違法であり、平成18年○月○日の公売処分は違法であるから、本件公売公告も違法である。

(2) 原処分庁

イ 本件公売公告は、請求人が、本件不動産の公売手続について不服申立てを行ったため、国税通則法(以下「通則法」という。)第105条第1項ただし書の規定により、換価を進行させることができなかったことから、新たに公売の手続を続行するために売却決定の日時及び買受代金の納付期限を変更したことを公告したものであり、法令に基づき適法に行われている。
ロ 見積価額の決定手続についても何ら瑕疵はなく、その評価も妥当なものであるから、請求人の主張には理由がない。

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4 判断

(1) 本件公売公告について

イ 通則法第105条第1項ただし書は、別紙2の1のとおり規定しているところ、本件では、原処分庁が、当初ないし第4次の各公売公告において、売却決定の日時を定めたのに対し、その都度請求人から不服申立てがなされ、同不服申立てについての決定又は裁決がなされる前に、予定されていた売却決定の日時が経過したため、売却決定が行われなかったものであり、その過程に何ら違法な点はない。
 そして、本件公売公告は、上記1の(2)のワ及びカのとおり、第4次公売公告等に対する不服申立手続についての裁決がなされた後、売却決定の日時等を変更する旨を公告したものであるから、適法である。
ロ これに対し、請求人は、異議申立てにより前回までの売却決定が中止されたことから、本件公売公告も違法であると主張するが、本件不動産の売却決定が行われなかったのは、上記のとおり、通則法第105条第1項ただし書の規定によるのであって、公売処分に違法性があるためではない。また、請求人は、前回までの売却決定の中止決定等がなされていないとも主張するが、このような場合に中止決定等をしなければならない旨の規定はない。
 よって、請求人の主張は前提を欠き、採用できない。
ハ また、請求人は、見積価額が低廉であるから本件公売公告が違法であるとも主張するが、本件見積価額公告及び本件決定処分はいずれも適法なものとして存在しているところ、本件公売公告は、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を変更したものであり、見積価額の決定をしたものではないから、見積価額の適否は、本件公売公告の適否に影響しない。
 さらに、請求人は、鑑定手数料を滞納処分費に含めていることが違法であるとも主張するが、鑑定手数料の取扱いについては、本件公売公告の適否に影響するものではない。

(2) 本件公売通知及び本件決定通知に対する審査請求について

 請求人は、平成21年○月○日付でされた本件公売通知及び本件決定通知の取消しを求めて審査請求をしている。
 しかしながら、公売通知は、公売公告処分をしたとき、滞納者に対し、最後の納付の機会を与え、また、抵当権者等の第三者に対し、公売参加の機会を与えるために公売公告処分において公告した事項等を通知するものであり、そして最高価申込者決定通知は、最高価申込者の決定処分をしたとき当該処分がなされた事実を通知するものである。したがって、公売通知及び最高価申込者決定通知は、いずれもそれ自体が滞納者の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものではないから、いずれも通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する「国税に関する法律に基づく処分」に該当せず、公売通知及び最高価申込者決定通知に対する審査請求はいずれも不適法なものである。

(3) 異議決定について

 請求人は、平成21年11月25日付でされた異議決定の取消しを求めて審査請求をしている。
 しかしながら、通則法第76条《不服申立てができない処分》の規定によれば、異議決定に対する審査請求は認められないから、異議申立てに対する審査請求は不適法なものである。

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