(平22.9.2裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、租税特別措置法(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第40条の4《居住者に係る特定外国子会社等の留保金額の総収入金額算入》第1項(以下、この規定による課税の特例を「外国子会社合算税制」という。)を適用して、審査請求人(以下「請求人」という。)が株式を保有する外国法人に係る課税対象留保金額に相当する金額を請求人の雑所得の総収入金額に算入する等の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該外国法人は外国子会社合算税制の適用除外の要件を満たし同税制が適用されないなどとして、同各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年分、平成17年分及び平成18年分(以下「本件各年分」という。)の所得税について、確定申告書に別表1ないし別表3の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 次いで、請求人は、別表2の「修正申告」欄のとおりとする平成17年分の修正申告書を平成18年4月17日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成20年3月11日付で別表1ないし別表3の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成20年5月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月8日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年9月5日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の役職等
 請求人は、H市に本店を置くJ社の専務取締役であり、同社は、精密機械部品製造業を営む同族会社で、請求人の父であるKが代表取締役社長であった。なお、請求人は、平成20年5月、同社の代表取締役社長に就任している。
ロ L社について
(イ) L社の構成等
A L社は、T国に本店を置く外国法人であり、平成12年1月○日に卸売業を目的として設立された。
 L社の出資金は、7,800T国通貨であり、この出資の内訳は、請求人が7,799T国通貨及びMが1T国通貨である。
B 請求人は、設立当初から本件各年分に対応するL社の各事業年度(平成15年1月から同年12月まで、平成16年1月から同年12月まで及び平成17年1月から同年12月までの各事業年度をいい、以下「本件各事業年度」という。)を通じて、同社の発行済株式総数の約99.9%を直接に保有していた。
C L社の役員は、請求人及びMの取締役2名であり、Mは、T国の就労ビザを取得して同国に居住していた。
 なお、Mは、L社の事務所があるN社の取締役であり、L社と同様にN社内に事務所がある法人のうち約10社の取締役を兼務していた。
(ロ) L社の施設等
A L社の事務所は、Mが取締役であるN社から賃借している机1台分のスペース(以下「L社事務スペース」という。)である。
B L社には、同社採用の従業員がおらず、本件各事業年度においては、給与及び役員報酬の支払がない。
(ハ) L社の新株引受け
A L社は、J社がL社のみを引受人とした第三者割当増資を行うに際し、同社の株式32,000株を1株当たり500円で引き受け、払込みに係る期日である平成17年8月8日に16,000,000円を払い込んだ(以下、J社によるこの増資を「本件増資」といい、払込みに係る期日である平成17年8月8日を「本件払込期日」という)。
 これにより、L社は、J社の発行済株式総数及び議決権数の61.5%を保有することとなった。
B J社の株式は、証券取引所に上場されておらず、気配相場のある株式にも当たらない。
(ニ) L社の特定外国子会社等の判定に関する事項
 L社は、上記(イ)のBのとおり、同社の発行済株式総数の約99.9%が請求人によって直接に保有されており、T国の法人税に関する法令(法人税法第69条《外国税額の控除》第1項に規定する外国法人税に関する法令をいう。)により、本件各事業年度の所得に対して我が国の法人税に相当する租税が課され、その課された税額の当該所得の金額に占める割合は、別表4のとおり、本件各事業年度のいずれについても25%以下である。
ハ J社の資産等の状況
 J社の本件増資の直前事業年度末(平成17年3月31日)における資産等の帳簿価額は、別表5の「J社の帳簿価額」欄のとおりである。
ニ N社について
 N社は、T国に本店を有する法人であり、事務所設備の賃貸、人材派遣等を業とし、複数の顧客の総務や経理等のアウトソース事業を行っている。

(5) 争点

 本件の争点は次のとおりである。
イ 争点1 L社は、本件各事業年度において、次の外国子会社合算税制の適用除外要件をいずれも満たし、当該税制の適用を除外されるか否か。
(イ) 本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下「本店所在地国」という。)においてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の施設を有すること(実体基準)。
(ロ) その事業の管理、支配及び運営を自ら行っているものであること(管理支配基準)。
ロ 争点2 仮に、外国子会社合算税制が適用されるとした場合、原処分庁が行った平成18年分の雑所得の総収入金額に算入すべき措置法第40条の4第1項に規定する課税対象留保金額(以下「本件課税対象留保金額」という。)の算定における、本件増資に係るJ社の株式の評価方法等は適法か否か。

トップに戻る

2 争点1(L社は、本件各事業年度において、実体基準及び管理支配基準を満たし、外国子会社合算税制の適用を除外されるか否かについて)

(1) 主張

 争点に係る当事者の主張は、次のとおりである。
イ 請求人
 L社は、次のとおり、実体基準及び管理支配基準を満たしており、外国子会社合算税制が適用されない。
(イ) 実体基準について
A 措置法第40条の4で認められる固定施設の規模は業種業態によっておのずと異なるものであり、法が必要とする固定施設の規模は、その事業規模や内容に応じて個別に判断すべきである。
(A) L社の業務は、比較的簡易な施設で行い得る業務であり、取引先も限定的であるから、L社事務スペースの事務所とパソコン、モデム、携帯電話2台の器具備品という施設の規模は、同社の事業内容、事業規模からすれば必要十分である。
(B) L社がN社に対し、主要な事業行為や意思決定を委託している事実はない。
 また、L社の事業は、その業務について専任の従業員を置く規模ではないから、同社の人的設備も必要十分なものである。
(C) L社の主要な事業行為は、N社から派遣された従業員がL社専任の営業担当者としてこれを行っているが、実体基準の充足に当たっては、直接的な雇用契約か派遣社員契約かという形式ではなく、従業員としてその法人の業務を行う人間が存在しているか否かが問題であり、役員についても、役員報酬の支払の有無ではなく、役員として登記され、現実に業務を遂行しているか否かが問題であるところ、L社の従業員及び役員はこれらを満たしている。 
B L社は、事業規模は小さいものの施設を有し、そこで事業が行われているのであるから、事業実体がある。
(ロ) 管理支配基準について
 L社は、以下の各事実から、本店所在地国であるT国において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っている。
A 管理支配基準は、外国子会社等の重要な意思決定機関である株主総会及び取締役会の開催、役員の職務執行、会計帳簿の作成及び保管等が本店所在地国で行われているかどうか、業務遂行上の重要事項を当該子会社等が自らの意思で決定しているかどうかなど諸事情を総合的に考慮し、当該外国子会社等がその本店所在地国において独立した企業としての実体を備えて活動しているといえるかどうかによって判断すべきものである。
B 株主と役員が同一であるような規模の法人では、株主総会や取締役会は重要な意思決定機関とはなり得ないから、形式的なこれらの会議に臨場していないことは管理支配基準の充足を否定する根拠とはなり得ない。
 L社では重要な意思決定や経営判断は、常日頃から役員である請求人及びT国常駐役員であるMによって、適宜の会議、打ち合わせ及び電話等の機会に実行されており、これらが取締役会や株主総会に代わる重要な意思決定機関といえる。また、取引上の重要な意思決定は、役員である請求人が自らT国に赴いて行っている。
 したがって、重要な意思決定が、L社の本店所在地国であるT国において行われているといえる。
C 業務遂行上の重要事項は、L社の役員である請求人とT国常駐役員のMによって遂行され、L社の主要な事業行為である日々の営業販売活動は、原則としてN社から派遣されている営業担当者の権限により遂行されており、L社が業務遂行上の重要事項を自らの意思で決定していることは明らかである。
D 会計帳簿は、L社からの委託によりN社によって作成され、L社事務スペース内や書類保管倉庫内に保管されており、L社の本店所在地国であるT国において作成、保管されている。
ロ 原処分庁
 L社は、次のとおり、実体基準及び管理支配基準を満たしていないため、外国子会社合算税制が適用される。
(イ) 実体基準について
 L社は、以下のとおり、施設・設備の提供から人材に至るすべてをN社に委託しており、T国に主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有しているとは認められない。
A L社の事務所は、L社事務スペースのみである。
B L社が所有する器具備品は、パソコン、モデム及び携帯電話2台のみである。
C L社には従業員がおらず、給与及び役員報酬の支払がない。
 なお、L社の業務がN社内でL社に派遣されたN社の社員によって遂行されているとしても、L社名義で取引されているにすぎず、同社名義で取引がされていることをもって実体基準を満たすものではない。
(ロ) 管理支配基準について
A 管理、支配及び運営を自ら行っているかどうかは、措置法第40条の4第1項に規定する特定外国子会社等の株主総会及び取締役会の開催、役員としての職務執行、会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所並びにその他の状況を勘案して判定すべきである。
B この点につき、
(A) 請求人は、平成16年3月4日に開催されたとき以外は、取締役会、株主総会とも出席していない。
(B) L社は、同社のほとんどすべての業務をN社に委託し、N社から経営、管理及び運営上のサービスを提供されている。
 L社の営業担当者は、得意先からの受注を担当するのみであり、新規又は大口の取引については請求人自身が対応している。
 Mに対する役員報酬の支払はなく、同人は、N社の取締役としてL社から委託された業務を遂行しているにすぎない。
(C) L社は、事務所に会計帳簿を保存していない。
 L社の会計帳簿の作成及び伝票処理は、N社に委託されているから、N社内にL社の帳簿書類が保管されているとしても、L社自らが保管しているとはいえない。
C 以上のとおり、L社には、常勤役員及び従業員は存在せず、取締役会及び株主総会の議事録も単に書類上作成されたものにすぎないと認められることから、同社は、事業の管理、支配及び運営を自ら行っているとは認められず管理支配基準を満たしていない。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ L社の施設及び設備等
(イ) L社は、N社からL社事務スペースを賃借しており、N社内には、同様に他社の事務スペースも存在し、各社のスペースが区分されていた。
(ロ) L社は、パソコン、モデム、携帯電話2台を所有しており、L社事務スペースに設置していた。
(ハ) L社は、製品及び帳簿書類を保管するため、P社からT国に所在する倉庫を月ぎめで賃借していた。
 なお、毎月賃借するスペースは、保管する製品の多寡に応じ変動していた。
ロ 株主総会及び取締役会の開催状況
(イ) 平成16年から平成18年までの間、いずれもT国において、L社の取締役会及び株主総会が下記のとおり開催された。

A 平成16年3月4日取締役会
B 同年6月30日株主総会
C 平成17年5月12日取締役会
D 同年6月30日株主総会
E 同年7月27日取締役会
F 平成18年5月26日取締役会
G 同年6月30日株主総会

 これらのうち、請求人が出席したのはAのみであった。
(ロ) 各取締役会において決定された事項は、各事業年度の決算の承認及び同決算の承認を議題として株主総会を招集することであり、また、平成17年7月27日開催の取締役会においては、同年8月8日にJ社が行った本件増資の引受けについての承認であり、各株主総会で決定された事項は、役員及び監査人の再任、各事業年度の決算の承認であった。
ハ 会計帳簿の記帳、保管等
(イ) L社は、設立当初より、営業活動に付随する必要な記帳、伝票処理等の事務をN社に委託し、これらの事務はN社のオフィススペースでN社の従業員がN社の会計システムや伝票管理システムを用いて遂行していた。
(ロ) L社の会計帳簿書類や伝票等は、L社事務スペース内及びL社が賃借する倉庫内に保管されていた。
ニ 各役員の業務内容
(イ) MがL社のT国常駐役員として行った業務は、同社がT国に開設している取引銀行口座の資金管理を中心とした総務、経理事務及び営業担当者の日々の営業活動に対する指揮監督並びに同社の通常の業務執行に必要な意思決定であった。
(ロ) Mの権限を制限する定款上の規定は存在しないが、事実上、L社の新規取引先の選定、初回取引の契約締結、既存の取引の大口契約、N社から派遣された営業担当者に対するノウハウの教示、取引銀行に対する融資の申込み、販売単価の決定及び取引先との間で想定外のトラブルが生じた場合の対応等の重要な業務は、M又は営業担当者のみで決定、遂行することはさせず、請求人自らが決定していた。
ホ 請求人のT国滞在状況
 請求人が、平成16年から平成18年までの間、T国に滞在した期間は、下表のとおり年間約10日ないし23日程度である。

平成16年 3月4日から同月6日
10月24日から同月26日
11月29日から12月2日
平成17年 2月20日から同月22日
3月27日から同月28日
9月4日から同月6日
11月19日から同月21日
平成18年 2月10日から同月13日
2月19日から同月22日
3月23日から同月26日
6月20日から同月21日
6月25日から同月26日
6月27日から同月28日
8月31日
9月2日から同月3日
11月19日から同月20日

ヘ 職務執行状況等
(イ) L社の設立当初は、請求人自らがT国に赴き営業販売活動を行い、また、必要な場合にはMが営業の一部を遂行していた。
 L社は、平成14年後半からN杜にL社専任の営業担当者の派遣を依頼し、1名(前任者の退職時には、2名)の派遣を受けていた。
(ロ) N社から派遣された営業担当者は、取引先への訪問、商品の説明、値段交渉、注文から納品までの営業活動のほか、通常のクレーム対応を行った。L社の販売活動は、受注生産品の販売であり、営業担当者は、顧客に製品カタログを見せながら説明した上で見積書を作成し発注するなどの業務を行っていた。また、販売単価については、請求人が仕入価格にいくら利益を上乗せするかを指示し、営業担当者は、その指示の下の裁量の範囲内で交渉し決定していた。

(3) 判断

イ 特定外国子会社等の該当性等
(イ) 上記1の(4)のロの(ニ)のとおり、L社は、本件各事業年度において措置法第40条の4第1項に規定する特定外国子会社等に該当する。
(ロ) L社は、各事業年度においてJ社製品を輸入し、T国及び周辺諸国を拠点とする顧客に対してその卸売を行っており、措置法第40条の4第4項に規定する外国子会社合算税制の適用除外要件(事業基準、実体基準、管理支配基準及び非関連者基準をいう。)のうち、事業基準及び非関連者基準を充足している。
ロ 法令解釈
 措置法第40条の4第4項は、特定外国子会社等が、事業基準、実体基準、管理支配基準及び非関連者基準のすべてを充足する場合には、外国子会社合算税制が適用されない旨の適用除外要件を規定しているところ、これは、特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その所在地国で事業活動を行うにつき十分な経済的合理性がある場合にまで外国子会社合算税制を適用することは、我が国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことになるので避けるべきであるとの趣旨から設けられたものと解される。
 そして、管理支配基準は、特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、所在地国で事業活動を行っているかどうかについて事業の管理運営の面から判断する基準であると解されるから、特定外国子会社等が管理支配基準を満たしているか否かは、当該特定外国子会社等の重要な意思決定機関である株主総会及び取締役会の開催、役員の職務執行、会計帳簿の作成及び保管等が本店所在地国で行われているかどうか、業務遂行上の重要事項を当該特定外国子会社等が自らの意思で決定しているかどうか等の諸事情を総合的に考慮し、当該特定外国子会社等が本店所在地国において、独立した法人としての実体を備えて活動しているといい得るか否かによって判断すべきものであると解するのが相当である。
ハ 本件へのあてはめ
(イ) 株主総会又は取締役会の開催について
 請求人は、L社の設立当初から本件各事業年度を通じて、同社の発行済株式総数の約99.9%を直接に保有することにより同社を支配している。
 L社の株主総会及び取締役会は、上記(2)のロの事実によれば、平成16年から平成18年までの間にT国で開催された事実は認められるものの、請求人が実際に出席したのは1回のみであり、これらの議題は毎回定型化したものであって、また、L社の業務のうち、顧客の獲得、大きなクレームの処理、既存の取引の大口契約、注文発注後の取消し等、想定外の事態が生じた場合の対応及び資金繰り等、L社の経営を左右するような事業上の重要事項については、上記(2)のニの(ロ)のとおり、株主総会又は取締役会においてではなく、通常は日本にいる請求人自らが決定し、自ら実行していたことが認められる。
(ロ) 役員等の職務執行について
A 上記(2)のニのとおり、Mが行っていたL社の銀行口座の資金管理、日常業務及び営業担当者の指揮監督についての決定及び執行は、取引先との間で日々生じる取引を処理するために必要なものとしてあらかじめ想定されたものにとどまり、業務上重要な事項については、請求人によってしか決定、実行できないことになっており、事実上、Mによる業務執行は、請求人が与えた権限内にとどまっていたと認められる。
B 上記(2)のヘのとおり、N社から派遣された営業担当者が受注から納品に伴う取引先とのやり取りを行っていた事実は認められるものの、当該営業担当者は、取引先にJ社製品のカタログを示した上で発注の勧誘を行い、受注から納品までのあらかじめ決められた業務をこなしているにすぎず、営業担当者の権限により遂行されているという販売活動は、請求人が販売単価を指示し、その一定の範囲内で自ずと販売価格が決まる仕組みになっており、営業担当者がL社から与えられた権限によって自ら販売価格を決定し活動していたとは評価できない。
C したがって、L社の事業遂行のための重要な事項は、請求人自身が単独で決定、実行しているものと認められる。
 なお、この点、請求人は、L社の法人としての重要な意思決定は、請求人とMとの適宜の会議、打ち合わせ、電話等の別の機会に実行されていると主張するが、関係各証拠を精査しても、これを裏付けるに足る証拠はなく、当審判所の調査によっても、重要な事項について請求人及びMの協議によって決定された事実は認められない。
D また、請求人は、L社の取引上の重要な意思決定は、役員である請求人が自らT国に赴いて行っている旨主張する。
 しかしながら、請求人がT国に滞在した期間は、上記(2)のホのとおり、平成16年から平成18年までの間をみても年間約10日ないし23日程度とわずかであったことに加え、請求人が、L社の発行済株式総数のほぼすべてを直接に保有しているという支配的影響力の強い株主としての立場、あるいは、L社と密接な関連があり、かつ主要な仕入先であるJ社の専務取締役であるという立場にあったこと、請求人のL社の事業への関与の実態は、上記AないしCのとおりであったと認められることからすると、L社は、同社の大株主、あるいは主力関連会社の役員である請求人個人の強い管理、支配の下に置かれていたものと評価するのが相当であり、請求人が、本店所在地国であるT国において、L社の役員という立場で、同社の事業の管理、支配及び運営を行っていたと認めることはできない。
(ハ) 小括
 以上のことを総合すると、L社が、本件各事業年度を通じて、T国において、独立した法人として、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたとはいえず、L社は、本件各事業年度において管理支配基準を満たしていなかったと判断するのが相当である。
 そして、措置法第40条の4第4項は、適用除外要件のすべてを満たしている場合に外国子会社合算税制を適用しない旨規定しているところ、上記のとおり、管理支配基準を満たしていない以上、実体基準については判断するまでもなく、L社は、同項に規定する適用除外は認められず、この点についての請求人の主張には理由がない。

トップに戻る

3 争点2(原処分庁が行った本件課税対象留保金額の算定におけるJ社の株式の評価方法等は適法か否かについて)

(1) 主張

イ 原処分庁
(イ) 原処分庁が行った本件課税対象留保金額の算定は、以下のとおり、J社の株式を1株当たりの純資産価額によって評価したものであり、適法である。
A 法人税法施行令第119条第1項第3号は、株主等以外の者が新株の有利発行を受けた場合、当該発行に係る払込みにより取得をした有価証券の取得価額は、払込期日における価額とする旨規定している。
 そして、本件増資は、株主等以外の者に対する新株の有利発行に該当するから、本件払込期日の価額が本件増資における新株の取得価額となる。
B 法人税法施行令第119条第1項第3号に規定する有価証券の取得価額について、法人税基本通達2−3−9は、非上場株式については、同通達9−1−13(4)及び9−1−14に準じて合理的に計算される払込期日の価額である旨定めている。
C そして、法人税基本通達9−1−13(4)は、非上場株式で、売買実例がなく、公開途上ではないもので、その株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額がないものについては、事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して、通常取引されると認められる価額を当該株式の価額とする旨、また、同通達9−1−14は、非上場株式について、事業年度終了の時における当該株式の価額につき財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)178から189−7までの例によって算定した価額によっている場合には、課税上弊害がない限り、一定の条件の下でこれを認める旨定めている。
 したがって、評価通達に定める「1株当たりの純資産価額」の算定方式を法人税課税においてそのまま採用すると課税上の弊害が生ずる場合にはこれを解消すべく修正し、弊害が生じない場合はそのまま適用し、それによって算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、法人税基本通達9−1−13(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に該当するというべきである。
D J社は、評価通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》に定める「小会社」に該当するところ、評価通達179《取引相場のない株式の評価の原則》(3)において、小会社の株式の価額は、1株当たりの純資産価額によって評価する旨定められている。そして、J社の純資産価額は、別表5の「原処分庁主張額」欄の「1株当たりの純資産価額」欄のとおりである。
(ロ) この点、請求人は、類似業種比準価額(評価通達180《類似業種比準価額》によって計算した金額をいう。以下同じ。)を加味する余地がある旨主張する。
 しかしながら、評価通達179(3)は、小会社の株式の価額を、原則として1株当たりの純資産価額によって評価することとし、納税者の選択により類似業種比準価額との併用方式により評価することができる旨定めているのであって、類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額のいずれか低い価額によって評価する旨定めたものではないから、J社の株式を1株当たりの純資産価額によって評価したことは適法であり、請求人の主張には理由がない。
(ハ) また、請求人は、評価通達185の適用に当たり、J社の純資産価額及び同社が資産計上しているU国に本店を有するQ社への出資金については、本件払込期日(平成17年8月8日)の直前の試算表をその基準とすべきである旨主張する。
 しかしながら、原処分庁の収集した証拠によっては、J社及びQ社の同日における1株当たりの純資産価額を算出できなかったことから、やむなく本件払込期日に最も近い事業年度(平成17年3月期)の1株当たりの純資産価額によって評価したものであるから、原処分には違法はない。
(ニ) さらに、請求人は、評価通達188《同族株主以外の株主等が取得した株式》及び評価通達188−2《同族株主以外の株主等が取得した株式の評価》において、同族株主以外の株主等が取得した株式の評価は、その株式に係る年配当金額(ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭)を基に計算する旨定めているから、J社が資産計上しているV国に本店を有するR社への出資金の評価に当たり、年配当金額を2円50銭として配当還元方式によって計算しなかったことは違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のCのとおり、評価通達を適用できるのは課税上の弊害がない場合に限るものである。そして、評価通達188−2において少数株主の取得した株式の評価を配当還元方式によるものとしているのは、少数株主は単に配当を期待するにとどまるという実態を考慮したものであるところ、R社はJ社にとってV国オフィスとして位置付けられており、J社が単に配当を期待してR社の株式を保有していたと評価することはできないから、「R社出資金」を配当還元方式で評価することは著しく不合理な結果を生じさせ課税上の弊害をもたらすことから、「R社出資金」の評価に当たり、評価通達188−2を適用すべきではない。
 そこで、「R社出資金」について、法人税基本通達9−1−13(4)の定めるところにより1株当たりの純資産価額で評価すべきところ、原処分庁が収集した証拠では、R社の1株当たりの純資産価額を算定できなかったため、やむなく、R社への出資額で評価したものであるから、違法はない。
(ホ) 加えて、請求人は、J社の「Q社出資金」及び「R社出資金」の評価に当たり、対顧客直物電信売買相場の仲値(以下「TTM」という。)により邦貨換算しているのは違法である旨主張する。
 しかしながら、「Q社出資金」及び「R社出資金」の評価に当たっては、いずれも、法人税基本通達13の2−1−2《外貨建取引及び発生時換算法の円換算》に基づき、平成17年12月末のTTMにより邦貨換算したものであり、違法はない。
ロ 請求人
 原処分庁の行った本件課税対象留保金額の算定は、以下の点で誤りがあるから、原処分は取り消されるべきである。
(イ) 原処分庁は、J社の株式を評価通達185によって評価しているが、評価通達は、もともと相続、贈与という限定された事象においてのみ適用されるのであって、本件において評価通達に基づいて計算することは違法である。
 法人税基本通達9−1−14は、上場有価証券以外の株式の価額の算定につき、課税上弊害がない限り、一定の条件の下で評価通達によることを認めているが、本件のような増資取引の場合に同通達の適用を認める法的根拠はない。
(ロ) 仮に評価通達を用いて評価するとしても、同通達179では、納税者の選択により、純資産価額のみではなく、類似業種比準価額を加味する余地があるところ、本件において、原処分庁は、一方的に純資産価額方式のみを用いて評価しているから違法である。
(ハ) 原処分庁は、J社の1株当たりの純資産価額については、本件払込期日(平成17年8月8日)の直前事業年度末(同年3月31日)の財務諸表に計上されている各資産の帳簿価額をそのまま「課税時期における各資産の評価額」として算出し、また、J社の「Q社出資金」の評価については、Q社の直前事業年度末(平成16年12月31日)の財務諸表を基準としつつも、平成17年3月に実施されたQ社の増資額37,000,000U国通貨のみを純資産価額の計算上加算している。
 評価通達185及び186−3《評価会社が有する株式等の純資産価額の計算》は、1株当たりの純資産価額は、課税時期における各資産を同通達の定めるところにより評価した価額の合計額から各負債の合計額を控除した金額を基に評価するとしているところ、本件における課税時期は、本件払込期日である平成17年8月8日時点である。
 したがって、評価通達185の適用に当たり、直前事業年度終了後の取引を評価額に反映させることを前提とするのであれば、J社の純資産価額及び「Q社出資金」ともに、本件払込期日の直前の試算表をその基準とすべきである。
(ニ) 評価通達188及び188−2は、同族株主以外の株主等が取得した株式の評価については、その株式に係る年配当金額(ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭)を基に計算する旨定めている。
 しかるに、原処分庁は、J社がその発行済株式の1.16%を保有するR社への出資金の評価に当たり、同社は無配であるにもかかわらず、J社の出資額をそのまま評価額とし、2円50銭を基に評価をしなかったことは違法である。
(ホ) J社の「Q社出資金」及び「R社出資金」については、評価通達4−3に基づき、本件払込期日である平成17年8月8日における最終の為替相場(対顧客直物電信買相場(以下「TTB」という。))により邦貨換算すべきである。
 しかるに、原処分庁は、本件払込期日におけるTTBではなくTTMにより邦貨換算しており、違法である。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ Q社の資産等の状況
 Q社の平成16年12月31日における資産等の帳簿価額は、別表6の「Q社の帳簿価額」欄のとおりであり、同社は平成17年3月に増資を行い、同社の資本金は37,000,000U国通貨から74,000,000U国通貨となった。
ロ R社の資産等の状況
 R社の平成16年12月31日における資産等の帳簿価額は、別表7の「R社の帳簿価額」欄のとおりである。

(3) 判断

イ 本件増資に係るJ社の株式の評価方法
(イ) 法令解釈等
 法人税法施行令第119条第1項第3号は、有利な発行価額で新株が発行された場合における当該発行に係る払込みにより取得した有価証券の取得価額は、その有価証券の当該払込みに係る期日における価額とする旨規定し、この有価証券のうち非上場株式の払込みに係る期日における1株当たりの価額について、法人税基本通達2−3−9は、同通達9−1−13及び9−1−14に準じて合理的に計算される当該払込期日の価額とする旨定めている。
 そして、法人税基本通達9−1−13(4)は、法人税法第33条第2項の規定を適用して非上場株式で気配相場のないものについて評価損を計上する場合に、当該株式に売買実例がなく、その公開の途上になく、その発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する法人がないときは、事業年度終了の時における当該株式の価額は、当該事業年度の終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする旨定めている。
 もっとも、このような一般的、抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難であり、他方、評価通達の定める非上場株式の評価方法は、相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し、課税実務上も定着しているものであるから、これと著しく異なる評価方法を法人税課税において導入すると、混乱を招くこととなる。このような観点から、法人税基本通達9−1−14は、評価通達に定める非上場株式の評価方法を原則として法人税課税においても是認することを明らかにするとともに、この評価方法を無条件で法人税課税において採用することには弊害があることから、1株当たりの純資産価額の計算に当たっての条件などを付して採用することとしている。
 したがって、評価通達185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式を法人税課税においてそのまま採用すると、相続税等との性質の違いにより課税上の弊害が生ずる場合には、これを解消するために修正を加えるべきであるが、このような修正をした上で同通達所定の1株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、法人税基本通達9−1−13(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである(最高裁平成18年1月24日第三小法廷判決)。
(ロ) J社の株式の評価方法
 請求人は、本件において評価通達に基づいて計算することは違法である旨及び本件のような増資取引の場合に評価通達の適用を認める法的根拠はない旨主張するが、上記(イ)の法人税基本通達9−1−14の趣旨にかんがみれば、評価通達は相続、贈与という限定された事象にのみ適用されると解すべき根拠はなく、本件増資に係るJ社の株式の評価を行う場合において評価通達の適用を認めることは合理性がある。
 そして、J社の株式は、上記1の(4)のロの(ハ)のBのとおり、証券取引所に上場されておらず、気配相場のある株式にも当たらないものであり、当該株式を評価通達所定の純資産価額の算定方法により評価することに課税上の弊害があるとも認められない。
 したがって、J社の株式については、法人税基本通達9−1−14に基づく修正をした上で評価通達185所定の1株当たりの純資産価額の算定方式により算定した価額は、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に相当することとなるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ J社の株式の1株当たりの価額の算定
(イ) 上記イの(ロ)のことからすると、本件増資に係るJ社の株式の1株当たりの価額については、本件払込期日である平成17年8月8日を評価時点とし、評価通達185に則した純資産価額を基に算定すべきである。この点請求人は、J社の純資産価額を本件払込期日の直前の試算表を基準とすべきである旨主張する。
 しかしながら、評価時点である本件払込期日にはJ社の仮決算が行われていないことから、本件払込期日直前の試算表は存在しない。
 したがって、本件払込期日の直近のJ社の決算は、直前事業年度末(平成17年3月31日)のものであるところ、その時点から評価時点の間に同社の資産及び負債について著しい増減はなく、純資産価額の算定に影響は少ないと認められることから、当該直前事業年度末の純資産価額を基に1株当たりの価額を算定した原処分庁の算定方法には、合理性があり相当と認められる。
(ロ) また、請求人は、本件において評価通達を用いて評価するとしても、純資産価額のみではなく、類似業種比準価額を加味する余地がある旨主張する。
 そこで、当審判所において、類似業種比準価額方式による1株当たりの価額を算定したところ2,875円となり、また、1株当たりの純資産価額は、法人税基本通達9−1−14に基づく修正をした上で評価通達185所定の算定方式により算定すると、下記(ハ)のEのとおり3,985円となるから、同通達179(3)に定める類似業種比準価額方式と純資産価額方式とを併用する方式による算式(類似業種比準価額×0.5+1株当たりの純資産価額×0.5)で計算した1株当たりの価額は3,430円となる。これを基に平成18年分の雑所得の総収入金額に算入すべき金額を算定したところ、○○○○円となり、この金額は平成18年分の更正処分の額○○○○円を上回ることとなる。
 したがって、請求人の主張を前提としても、原処分が違法であるということはできない。
(ハ) 純資産価額方式による評価額
A 上記(イ)のとおり、J社の株式の1株当たりの価額については、本件払込期日である平成17年8月8日を評価時点とし、評価通達185に則した純資産価額を基に算定すべきところ、請求人は、J社の「Q社出資金」の評価についても、本件払込期日の直前の試算表を基準とすべきである旨主張する。
 しかしながら、評価時点である本件払込期日直前のQ社の試算表が存在することを認めるに足る証拠はないから、請求人の主張はこれを採用することができない。そして、本件払込期日の直近のQ社の決算は、平成16年12月31日時点のものであり、Q社は同決算後の平成17年3月に増資を行い、同社の資本金は、37,000,000U国通貨から74,000,000U国通貨に増加したことからすると、「Q社出資金」の評価に当たり、Q社の平成16年12月31日における純資産価額をそのまま用いることは著しく不合理といえるから、本件払込期日における「Q社出資金」の評価額を算定するためには、Q社の平成16年12月31日の純資産価額に当該増資による資産増加額を加えて算定するのが相当であり、また、他に著しい増減はないと認められるから、このような算出方法を採用した原処分庁の算定方法に違法はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がなく、J社の「Q社出資金」の評価額は、別表6の「原処分庁主張額」欄の「評価額」欄のとおり32,080,488U国通貨となる。
B また、請求人は、J社の「R社出資金」の評価方法が違法である旨主張するところ、請求人の主張は、評価通達188−2に定める配当還元方式によって評価する方式を前提とするものである。
 この点について当審判所の調査の結果によれば、R社の議決権割合の58.4%を有するH市に本店を置くS社は、R社の評価通達188(1)に定める「同族株主」に該当し、J社は、R社の議決権割合の1.2%を有するから、同通達188(1)に定める「同族株主のいる会社の株主のうち、同族株主以外の株主」に該当する。
 そうすると、評価通達の定めを形式的に当てはめれば、J社の「R社出資金」の評価は、同通達188−2の定めにより配当還元方式によって評価すべきこととなる。
 しかしながら、評価通達188(1)において、同族株主以外の株主等が取得した株式の評価を配当還元方式によることとしているのは、少数株主が取得した株式については、株主は単に配当を期待するにとどまるという実質を考慮したものであると解されるところ、これに反する実態があり、評価通達に定める配当還元方式をそのまま採用することが課税上の弊害をもたらすと認められる場合には、純資産価額を基に一定の修正を加えて1株当たりの純資産価額を算定し非上場株式の評価をすることが是認されることは、上記イの(イ)のとおりである。
 本件についてみると、R社は、J社の関連会社であるS社の外国子会社でV国における拠点として設立され、J社にとってもV国オフィスとして位置づけられていたと認められ、また、S社の代表者等の役員はJ社の代表者等の役員を兼務し、S社がR社の議決権割合の58.4%を有することからすれば、J社が少数株主として単に配当を期待してR社の株式を保有していたと評価することは相当でなく、J社は、グループ企業のS社の外国子会社であるR社の事業経営につき少なからず影響力を有していたとみるのが相当であるから、J社の「R社出資金」の評価について配当還元方式を適用することは、J社の純資産価額の評価のみならず、本件課税対象留保金額の算定にとっても、著しく不合理な結果を生じさせて課税上の弊害をもたらすといわざるを得ない。
 したがって、J社の「R社出資金」の評価に当たっては、R社の純資産価額を基に評価する方法は合理的であるというべきである。
 そして、本件払込期日の直近のR社の決算は、平成16年12月31日時点のものであるが、本件払込期日までの間に同社の資産及び負債について著しい増減があったことをうかがわせる証拠はないから、J社の「R社出資金」の評価額は、平成16年12月31日時点のR社の純資産価額を基に評価するのが相当であり、当該評価額は、別表7の「審判所認定額」欄の「評価額」欄のとおり、422,935V国通貨とすべきである。
C J社の「Q社出資金」及び「R社出資金」の評価額に係る邦貨換算について、原処分庁は、法人税基本通達13の2−1−2に基づき平成17年12月末のTTMにより邦貨換算しているところ、請求人は、評価通達4−3に基づき本件払込期日である平成17年8月8日におけるTTBにより邦貨換算すべきである旨主張する。
 そこで検討するに、本件における「Q社出資金」及び「R社出資金」の評価については、上記A及びBのとおり、評価通達185に則してQ社及びR社の純資産価額を基に算定すべきであるから、その算定した評価額の邦貨換算についても評価通達に定める邦貨換算の方法を採用することは、より合理的であるというべきである。
 また、法人税基本通達13の2−1−2は、外貨建取引及び発生時換算法の円換算について、外貨と円貨の翻訳という立場に立って、TTMをその原則とするのに対し、評価通達4−3は、一時点における外貨建てによる財産の評価額を邦貨換算する場合について、銀行等の顧客が外貨を円に交換する場合に用いられるTTBを採用しているところ、外貨建による財産である「Q社出資金」及び「R社出資金」の一時点における評価額を邦貨換算するのは、TTBによることが相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がある。
 そして、その評価時点は、本件払込期日である平成17年8月8日であるから、上記Aの「Q社出資金」の評価額(U国通貨)及び上記Bの「R社出資金」の評価額(V国通貨)を同日のTTBにより邦貨換算すると、「Q社出資金」については、別表6の「審判所認定額」欄の「邦貨換算額」欄のとおり○○○○円となり、「R社出資金」については、別表7の「審判所認定額」欄の「邦貨換算額」欄のとおり○○○○円となる。
D 上記のほか、J社の資産のうち建物及び建物附属設備について、原処分庁は、帳簿価額により評価している。
 しかしながら、評価通達185に定める1株当たりの純資産価額は相続税評価額によって計算した金額であるところ、同通達89は、家屋の評価について、その家屋の固定資産税評価額に同通達の別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定めているから、当該建物及び建物附属設備の評価額は、平成17年1月1日現在のJ社の建物等に係る固定資産税評価額○○○○円に、評価通達の別表1記載の1.0の倍率を乗じて計算した金額○○○○円とすべきである。
E 以上の結果、J社の株式の本件払込期日における1株当たりの価額は、別表5の「審判所認定額」欄の「1株当たりの純資産価額」欄のとおり3,985円となる。
ハ 本件課税対象留保金額等の算定
(イ) 本件課税対象留保金額の算定の基となる未処分所得の金額の計算において、本件増資に係るJ社の株式の取得価額(上記ロにより算定した本件払込期日における1株当たりの価額3,985円に取得株数32,000株を乗じて算出した取得価額をT国通貨に換算した額)と平成17年12月末の帳簿価額との差額は、受贈益(益金)として未処分所得の金額に含まれるところ、当審判所において当該受贈益の金額(益金加算額)を算定すると、別表8の「審判所認定額」欄の「益金加算額」欄のとおり○○○○T国通貨となる。
(ロ) なお、原処分庁は、J社の株式の取得価額の算定に当たり、平成18年2月末日のTTMを用いてT国通貨換算しているが、本件増資に係るJ社の株式の取得日は平成17年8月8日であるから、同日のTTMによりT国通貨換算することとなり、また、原処分庁は、J社の株式の帳簿価額を○○○○T国通貨としているが、L社の決算書によれば、当該原処分庁主張額にJ社の配分利益を加えた○○○○T国通貨が関連会社出資金残高として計上されているから、この金額をJ社の株式の帳簿価額として受贈益(益金)を算定することとなる。
(ハ) 以上を基に、本件課税対象留保金額を算定すると、別表9の「平成18年分」欄の「課税対象留保金額」欄のとおり、○○○○T国通貨となる。
 そして、課税対象留保金額に係る円換算については、租税特別措置法関係通達66の6−14《課税対象留保金額の円換算》の定めがあり、本件においても、これに則して円換算することが相当と認められるから、上記の金額を平成18年2月末のTTMによって円換算すると○○○○円となり、同額が平成18年分の雑所得の総収入金額に算入すべき金額となる。
ニ 本件各更正処分について
(イ) 上記2の(3)のハの(ハ)のとおり、L社は、本件各事業年度において、外国子会社合算税制の適用除外要件である管理支配基準を満たしておらず、別表9のとおり、措置法第40条の4第1項に規定する適用対象留保金額を有することから、請求人の本件各年分の所得税については、外国子会社合算税制が適用されることとなる。
(ロ) 請求人は、原処分庁が平成16年分及び平成17年分の雑所得の総収入金額に算入した課税対象留保金額の算定について特に主張していないが、当審判所が当該各年分の雑所得の総収入金額に算入すべき課税対象留保金額に相当する金額を算定したところ、別表9の「平成16年分」欄及び「平成17年分」欄の「雑所得の総収入金額に算入すべき金額」欄のとおりとなる。
(ハ) 以上のことから、請求人の本件各年分の雑所得の金額及び総所得金額を算定すると、別表10のとおりとなり、本件各年分の総所得金額は、本件各更正処分の金額をいずれも上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。
ホ その他
 本件各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る