(平22.9.21裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、冷凍・冷蔵装置の設計、施工及び建築工事請負業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が関係法人から受注した賃貸用マンションの新築工事について、その請負金額の全額を資産の譲渡等に該当するとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をしたところ、その後の関係法人の税務調査において、当該請負代金のうち通常の取引価額を超える部分の金額が、法人税法上、請求人に対する寄附金に該当するとされたことから、請求人が、当該寄附金に相当する金額は請求人において資産の譲渡等の対価の額には該当しないことになるとして、消費税等の更正の請求をしたのに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成21年11月12日請求)に至る経緯は、別表のとおりである。
 なお、以下、請求人が平成21年5月13日に行った平成19年5月1日から平成20年4月30日までの課税期間の消費税等の更正の請求を「本件更正の請求」という。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は別紙のとおりである。

(4) 事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人とその関係法人であるC社(P市p町○−○所在。代表取締役は請求人と同じB及びD。)は、平成20年2月に竣工したQ市q町所在の賃貸用マンション(以下「本件建物」という。)の新築工事に関し、平成18年12月26日付で、C社を発注者、請求人を請負者として、要旨次のとおりの工事請負契約を締結した(以下、当該契約を「本件請負契約」といい、その契約に基づいて行われた取引を「本件取引」という。)。
(イ) 請負代金は774,900,000円とし、C社は契約成立時に52,500,000円、着工時に210,000,000円、中間時に262,500,000円、完成引渡し時に249,900,000円それぞれ請求人に支払う。
(ロ) 請求人は、Q市q町に本件建物を建設して発注者へ引き渡す。
(ハ) 引渡しは本件建物の完成の日から14日以内にする。
ロ 本件請負契約に係る契約書にC社から請求人に資金を贈与する旨の記載はなく、また、当該契約が無効又は取消しとされた事実はない。
ハ 本件建物は、平成20年2月に、請求人からC社へ引き渡され、請求人は、本件建物の新築工事に係る請負代金として、総額765,941,400円(以下「本件請負代金」という。)をC社に請求し、C社は当該金額の全額を請求人に支払っている。
 なお、本件請負契約における請負代金774,900,000円と上記の本件請負代金との差額は、本件建物に係る工事内容の変更により生じたものであり、また、C社から請求人に支払われた金員のうち、請求人がC社に返還したものはない。
ニ その後、C社は、納税地の所轄税務署長所属の調査担当職員による税務調査を受け(以下、当該調査を「C社に対する税務調査」という。)、その調査に基づき本件請負代金のうち17,000,000円を、法人税法上、同社から請求人への寄附金とする内容の法人税の修正申告をした(以下、当該寄附金とした部分を「本件寄附金」という。)。
ホ 本件寄附金の内容等
(イ) 上記ニの本件寄附金は、本件請負代金が請求人の役務提供の内容からみて通常の取引価額よりも高額であり、その通常の取引価額を超える部分の金額は実質的に贈与したと認められる金額であるから法人税法上の寄附金の額に含まれるというものである。
(ロ) なお、C社の納税地の所轄税務署長は、C社の課税仕入れに係る消費税について、本件取引に係る対価の額のうち本件寄附金に相当する金額が、消費税法上、課税資産の譲渡等の対価に該当しないとする更正処分はしておらず、また、C社も本件取引に関連して消費税等の修正申告をしていない。
ヘ 請求人は、C社が上記ニの法人税の修正申告をしたことから、本件請負代金のうち本件寄附金に相当する金額は、消費税法上、資産の譲渡等の対価に当たらないとして消費税等の更正の請求をした。

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2 争点

 本件請負代金のうち本件寄附金に相当する金額が、消費税法上、課税資産の譲渡等の対価の額に含まれるか否か。

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3 主張

(1) 請求人

イ 消費税法において寄附金は、反対給付の対価として支出されるものではないため、資産の譲渡等に係る対価に該当しないとされている。
ロ 本件寄附金は、C社に対する税務調査において、本件請負代金の一部が法人税法上、C社から請求人に対する寄附金、すなわち、反対給付の対価ではないと認定された部分であるから、当該部分は請求人においても対価性がないこととなる。
 したがって、本件寄附金に相当する金額は、消費税法上、本件請負契約に係る資産の譲渡等の対価の額に該当せず消費税の課税対象外となる。

(2) 原処分庁

イ 本件寄附金は法人税法上の寄附金に該当するものではあるが、本件請負代金として請求人に支払われた金員の一部であって、C社から請求人に対して寄附金その他対価性のないものとして支払われたものではなく、請求人もこれを本件請負契約に係るものと認識していたと認められるものであるから、本件寄附金に該当する部分も本件請負代金の一部である。
ロ 消費税法にいう課税資産の譲渡等の対価の額は、その課税資産の譲渡等を行った場合の当該課税資産等の価額(時価)をいうのではなく、その譲渡に係る当事者間で授受することとした対価の額をいうものと解されるから、本件請負契約に係る請負代金の一部が、法人税法上、C社から請求人に対する寄附金に該当するものであっても、消費税法上は、当該請負代金の全額が消費税の課税対象となる。
 したがって、本件寄附金に相当する金額を、課税資産の譲渡等の対価の額から除外することはできない。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 消費税法第2条《定義》第1項第8号、同法第4条《課税の対象》第1項及び同条第4項の各規定によれば、消費税の課税の対象となる取引の判定は、資産の譲渡とみなされる場合(個人事業者の棚卸資産等の自家消費及び法人による役員に対する資産の贈与)を除き、その取引が、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供か否かによってなされることとなる。
 そして、上記の判定については、その資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が対価を得て行われるものであるか否かによればよく、その対価の額が通常の取引価額(時価)であることまでを要件とするものではないと解するのが相当である。
ロ 次に、消費税法第28条《課税標準》第1項は、消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額を、「対価として収受し、又は収受すべき額」とする旨規定しているところ、これは、実際に収受した、又は収受する権利が確定している対価の額を意味すると解される。この点、消費税法基本通達10−1−1《譲渡等の対価の額》は、この場合の「収受すべき」とは、別に定めるものを除き、その課税資産の譲渡等を行った場合の当該課税資産等の価額(時価)をいうのではなく、その譲渡等に係る当事者間で授受することとした対価の額をいうのであるから留意する旨定めており、当審判所においても相当と認められる。
 したがって、消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額は、別に定めるもの(個人事業者の棚卸資産等の自家消費及び法人による役員に対する資産の贈与)を除き、その取引額が時価であるか否かにかかわらず、その譲渡に係る当事者間で取り決めた実際の取引額によることになる。

(2) 本件へのあてはめ

イ 消費税の課税の対象となる資産の譲渡等に係る対価については、上記(1)のとおりであるところ、本件取引は、上記1の(4)のイないしハのとおり、請求人とC社との間で有効に成立した本件請負契約に基づき、請求人が本件建物を完成させ引渡しをし、それに対してC社が対価を支払ったものであり、本件建物の完成・引渡しとそれに係る代金の支払との間には一の対価関係があると認めるのが相当である。そうすると、本件取引は課税資産の譲渡等に該当し、また、契約当事者である請求人とC社が、本件請負金額の全額を課税資産の譲渡等の対価としていることは、上記1の(4)のイないしハのとおりである。
ロ すなわち、本件取引に係る対価の額のうち本件寄附金に相当する金額は、法人税法上は寄附金の額に含まれるとしても、消費税法上は課税資産の譲渡等の対価の額に含まれると認められるから、消費税等の課税対象になる。
ハ 以上のことからすれば、請求人の主張には理由がないから、本件更正の請求に理由がないとして行われた原処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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