(平22.9.8裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、養鶏用の機器を据付販売する際の契約書として、当該機器の販売に係る売買契約書及び組立据付工事に係る工事請負契約書の2通を作成し、当該工事請負契約書のみ印紙税法上の課税物件表の第2号に掲げる文書である「請負に関する契約書」に当たるとして印紙税を納付したところ、原処分庁が、当該機器の据付販売は請求人の材料を用いて発注者の指示した規格等に従い複数の養鶏機器を複合的に組み合わせる養鶏システムの製作を請け負ったものであるから、上記の売買契約書についても印紙税法に規定する「請負に関する契約書」に該当するなどとして、印紙税の過怠税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該売買契約書は、あらかじめ一定の規格で統一された養鶏機器を供給するために作成された契約書であり、発注者の指示した規格等に従い養鶏設備を製作することを請け負うために作成された契約書ではないので、「請負に関する契約書」に当たらないなどとして、同処分の全部又は一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 印紙税の不納付事実の申出
 請求人は、原処分庁に対し、平成21年5月22日に、課税文書として認識不足であったことを理由として、別表1の「印紙税の不納付事実の申出」欄のとおり、印紙税の不納付事実を申し出た。
ロ 処分
 原処分庁は、上記イの申出が、印紙税についての調査があったことにより印紙税法第20条《印紙納付に係る不納付額があった場合の過怠税の徴収》第1項の過怠税についての決定があるべきことを予知してされたものでなかったので、同条第2項に規定する100分の10の割合によって、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、平成21年6月24日付で平成18年3月3日から平成20年3月19日までの間及び平成20年4月1日から平成20年10月7日までの間に作成された各課税文書に係る印紙税の過怠税について、それぞれ通知書番号第○○号及び第××号による各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を行った。
ハ 不服申立て
 請求人は、本件各賦課決定処分のうち通知書番号第○○号による賦課決定処分についてはその全部を、また、同第××号の賦課決定処分についてはその一部を不服として、別表1の「異議申立て」欄のとおり、平成21年6月29日に異議申立てをしたところ、3月を経過しても異議決定がされなかったため、異議決定を経ないで同年10月21日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人の設立と商号変更等
 請求人は、昭和47年6月○日に、養鶏をはじめとする畜産用施設、機器、資材の開発、設計、製造、施工及び販売を目的に設立され、設立当初の商号はG社、同本店所在地はh市j町○−○であったが、平成20年1月○日に、商号をE社に変更し、本店所在地を肩書地へ移動した。
ロ 請求人が作成し所持している文書の概要
 請求人は、次の(イ)ないし(ニ)の文書を作成し所持しているが、その概要は以下のとおりである。
(イ) 売買契約書及び工事請負契約書
 別表1の「番号」欄の1ないし22の各売買契約書(以下「本件各売買契約書」という。)には、契約先が別表2の「本件各売買契約書」欄の「契約先名」欄及び「所在地」欄のとおり、契約締結日が同「契約締結日」欄のとおり、それぞれ記載されているが、いずれも収入印紙がちょう付されておらず、本件各売買契約書の「その他の条件」欄には、別表3のとおり記載されている。
 また、本件各売買契約書の各契約先に係る養鶏機器の組立据付工事に関する工事請負契約書(以下「本件各工事請負契約書」という。)には、それぞれ契約締結日が別表2の「本件各工事請負契約書」欄の「契約締結日」欄のとおり記載されており、契約金額に応じた印紙税相当額の収入印紙がちょう付されている。
(ロ) 売買契約々款及び契約見積書又は見積書
 本件各売買契約書とともに袋とじにされ契印の押されている各売買契約々款(以下「本件各売買契約々款」という。)及び各契約見積書又は各見積書(以下、各契約見積書と併せて「本件各契約見積書等」という。)には、契約当事者双方の署名及び押印はなく、本件各売買契約書の末尾にのみ両者の署名及び押印がされている。
(ハ) 「モニター納入についての覚書」
 請求人がk市m町○−○に在住するHとの間で次のAないしDについて合意した平成18年3月8日付の「モニター納入についての覚書」と題する書面(以下「本件モニター納入覚書」という。)には、要旨次のとおり記載されているが、収入印紙がちょう付されていない。
A 請求人はHに○○設備を供給し、両者はその設備について様々な協力関係を維持していくことを基本とする。
B 請求人がHにモニター納入する対象品目は、○○1式、○○1台、○○2台である。
C 上記Bにかかわる取付工事、電気配線工事はHの責任において実施する。
D 上記Bの対象品目は、請求人が無償で宅配便により納入する。
(ニ) 漏電対策工事費、部品、修理代金の無償処理についての覚書
 請求人がHとの間で漏電対策工事費等について合意した平成19年5月26日付の「漏電対策工事費、部品、修理代金の無償処理についての覚書」と題する書面(以下「本件無償処理覚書」という。)には、要旨次のとおり記載されているが、収入印紙がちょう付されていない。
A 請求人はHに○○設備を供給し、両者はその設備について様々な協力関係を維持していくことを基本とする。
B Hが所有する○○において2006年中に発生した漏電問題の対策工事費105,000円をHが支払い、請求人はHに売掛けしている部品代及び修理代金156,669円を無償処理する。
C 2007年4月に請求人が施工した○○は、Hの希望により追加設置したものであるため、部品代6,825円は同年5月の有償扱いとする。
ハ 養鶏機器の組立据付工事の建設業法第2条第1項に規定する建設工事への該当性
 本件各売買契約書の各契約先に係る養鶏機器の組立据付工事は、租税特別措置法第91条に規定する建設業法第2条第1項に規定する建設工事に該当する。

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2 争点

(1) 争点1 本件各売買契約書は、印紙税法別表第一課税物件表第2号に規定する「請負に関する契約書」に該当するか否か。

(2) 争点2 本件モニター納入覚書は、印紙税法別表第一課税物件表第1号に規定する「運送に関する契約書」に該当するか否か。

(3) 争点3 本件無償処理覚書は、印紙税法別表第一課税物件表第2号に規定する「請負に関する契約書」に該当するか否か。

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3 主張

 別紙4のとおりである。

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4 判断

(1) 争点1 本件各売買契約書は、印紙税法別表第一課税物件表第2号に規定する「請負に関する契約書」に該当するか否か。

イ 法令等解釈
(イ) 課税文書に該当するかどうかの判断基準
 印紙税は、特定の契約や権利等それ自体を課税対象とするものではなく、これらの事項を証明する目的で作成された文書を課税対象とするものであることからすると、課税文書に該当するかどうかの判断は、その文書に表されている事項に基づいて判断するべきであり、その文書に表されていない事項は、原則として判断の要素にとり入れるべきではなく、また、当事者の約束により文書の名称や文言は種々の意味に用いられる可能性があることからすれば、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するべきものと解される。
 そうすると、課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断すること、つまりその文書に記載又は表示されている文言、符号等を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする旨の印紙税法基本通達第3条の定めは、当審判所においても相当であると認められる。
(ロ) 印紙税法に規定する「一の文書」の判断基準
 課税物件表の適用に関する通則2及び3によれば、印紙税は「一の文書」であれば、その内容に別表第一課税物件表の2以上の号の課税事項が記載されている場合であっても、そのうち一つの事項の文書として課税されることになっており、この場合の「一の文書」の判断基準は、文書の外形(物理的な形状)により判断するのが相当と解される。
 そうすると、印紙税法に規定する「一の文書」とは、その形態からみて1個の文書と認められるものをいうのであって、文書の記載証明の形式、紙数の単複は問わず、1枚の用紙に2以上の課税事項が各別に記載証明されているもの又は2枚以上の用紙が契印等により結合されているものは「一の文書」となる旨の印紙税法基本通達第5条の定めは、当審判所においても相当であると認められる。
(ハ) 請負に関する契約書と物品の譲渡に関する契約書との判別
 民法第632条において、請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる旨規定されている。そして、税法に請負に関する明確な定義がない場合には、私法上(民法)の概念と別意に解すべき合理的な理由がない限り、私法上(民法)の概念に従って解釈することが許されており、印紙税法別表第一課税物件表の第2号の「課税物件」欄の請負も民法第632条に規定する請負の概念と異なって解する理由が認められないことから、印紙税法基本通達別表第一の第2号文書の1で、「請負」とは、民法第632条に規定する請負をいうとする定めは、当審判所において相当と認められる。
 したがって、いわゆる製作物供給契約書のように、請負に関する契約書と物品の譲渡に関する契約書との判別が明確にできないものについては、契約当事者の意思が仕事の完成に重きをおいているか、物品の譲渡に重きをおいているかによって、そのいずれであるかを判別するものとする旨を定めた、印紙税法基本通達別表第一の第2号文書の2の定めは、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各契約見積書等に記載のある養鶏機器
A 本件各契約見積書等に記載のある養鶏機器のうち、主な養鶏機器及びその機能は、別表4のとおりである。
B 本件各契約見積書等に記載のある養鶏機器について、以下の事実が認められる。
(A) 養鶏機器の中には、請求人が商標を取得したもの、請求人の特許が成立しているものがある。
(B) 養鶏機器のうち、ケージは、給餌機、集卵機、除糞機等の複数の機器が取り付けられた上で稼動する。具体的には、飼料タンクに蓄えられた餌が○○によって給餌機へ運ばれ、卵は、ケージに取り付けられた集卵機から○○によって集卵場へ運ばれ、途中○○によって、その個数が数えられる。また、○○は、ケージに取り付けられた○○を鶏舎外に運び出す○○であり、ケージにはケージ下ブラシ、中間デッキが取り付けられる場合もある。さらに、○○、○○、停電時非常開放装置などは、建物に取り付けられた上で稼動する。
C 請求人が作成したカタログ(以下「本件カタログ」という。)には、次のとおり、本件各契約見積書等に記載のある養鶏機器のうち記載されていないものがある。
(A) 別表1の番号9の売買契約書に添付された見積書に記載されたハイエコノミータイプの除糞機
(B) 別表1の番号8及び同22の各売買契約書に添付された各見積書に記載されたカーテンドライブ
(C) 別表1の番号4、同10及び同19の各売買契約書に添付された契約見積書又は各見積書に記載された除糞ベルトの下部に金網を張ることで鶏が除糞ベルトをつつくのを防ぎ、鶏の病気の予防をするSC仕様
(D) 別表1の番号5の売買契約書に添付された契約見積書に記載された間口のサイズが600mmのケージ
(ロ) 本件各契約見積書等に記載のある工事
A 本件各契約見積書等における工事についての記載の有無及びその内容は、別表5−1及び同5−2のとおりであり、当該工事内容には、据付工事のほかに組立工事も含まれている。
B 本件各売買契約書のうち、別表5−1及び同5−2の番号2、6、7以外の各売買契約書に添付された各契約見積書又は各見積書に記載された工事代金の額は、各契約見積書又は各見積書に記載された総額の9パーセント以上22パーセント以下の金額である。
C 上記Bの各契約見積書又は各見積書に記載のある工事は、完成までおおむね1か月ないし2か月程度かかるものである。
(ハ) 本件各売買契約々款に記載された引渡時期
 本件各売買契約々款には、引渡時期について、請求人が売買物件の据付けを完了し売買物件を顧客に引き渡した時点(養鶏機器納入のみの場合は、納入時点)、又は鶏が収容された時点のいずれか早い時点をもって引渡時期とする旨記載されている。
(ニ) 本件各工事請負契約書に記載のある工事
 本件各工事請負契約書及び本件各工事請負契約書とともに袋とじにされている約款には、別表5−1及び同5−2の「工事の記載の有無及びその内容」欄のような具体的な工事内容の記載はない。しかし、別表2の番号21の工事請負契約書の「工事名」欄には「3棟6室(ケージ列8段2列各々75.6メートル長)の内部設備・付帯設備機器組立据付工事」と、「工事場所」欄には「J県下K社L様」と、また、「注文者」欄には「n市p町○−○M社代表取締役N」と、それぞれ記載され、これらの記載から、別表2の番号21の工事請負契約書は、売買契約書記載の養鶏機器に係る工事に関するものであることは明らかであり、また、これを除く本件各工事請負契約書の工事名の欄には、本件各売買契約書による旨記載があり、工期の欄には本件各売買契約書の引渡条件に準ずる旨記載されていることから、本件各工事請負契約書の工事内容は、本件各売買契約書に記載された養鶏機器に係る工事である。
ハ 本件への当てはめ
(イ) 本件各売買契約書における「一の文書」の範囲
 前記1の(4)のロの(ロ)のとおり、本件各売買契約々款及び本件各契約見積書等には契約当事者双方の署名、押印はなく、本件各売買契約書に、それぞれ袋とじにされ、契印が押されており、契約当事者双方の署名、押印は本件各売買契約書の末尾になされていることからみると、契約当事者は、本件各売買契約々款及び本件各契約見積書等の内容を含めて合意し、本件各売買契約書の末尾に署名、押印したものと認められる。
 したがって、本件各売買契約書、本件各売買契約々款及び本件各契約見積書等は、上記イの(ロ)によれば、印紙税法上の「一の文書」と認められ、本件各売買契約書が課税文書に該当するか否かの判断は、同(イ)のとおり、本件各売買契約々款及び本件各契約見積書等に記載されている事項を含めて総合的に行うことになる。
(ロ) 本件各売買契約書が印紙税法に規定する「請負に関する契約書」に該当するかどうかの判断
A 前記1の(4)のロの(イ)のとおり、本件各売買契約書の「その他の条件」欄の主な記載内容は、別表3のとおりであり、同表の番号9、11、17、19、20の各売買契約書には「組立据付工事は(一切)含まない。」と、同表の番号8、15の各売買契約書には「機器据付工事は一切含まない。」と、同表の番号18、21の各売買契約書には「機器組立据付工事は含まない。」とそれぞれ記載されている。
 このことは、請求人が各契約見積書又は各見積書により顧客に対し提示した組立据付工事について、契約当事者が、上記各売買契約書に係る契約において請求人が当該工事を請け負うことまでは含めない旨合意したことを意味するものであると認められる。
 したがって、別表1の番号8、9、11、15、17ないし21の各売買契約書は、請負に関する契約書ではなく、各契約見積書又は各見積書に記載のある養鶏機器の売買に関する契約書とみるのが相当である。
B 本件各契約見積書等には、別表5−1及び同5−2のとおり記載されているが、同5−1の番号2、6、7の契約見積書又は各見積書には工事の記載がなく、また、これらの契約見積書又は各見積書が添付された売買契約書及び売買契約々款にも請求人が組立据付工事を行うことを約した記載はない。
 したがって、これらの契約見積書又は各見積書が袋とじにされた別表1の番号2、6、7の各売買契約書は、請負に関する契約書ではなく、養鶏機器の売買に関する契約書と認められる。
C 上記(イ)のとおり、本件各売買契約書は、契約当事者が、本件各売買契約々款及び本件各契約見積書等の内容も含めて本件各売買契約書に係る契約に合意したものと認められるのであるから、本件各売買契約書のうち、本件各契約見積書等に、請求人が別表5−1及び同5−2のとおり記載された工事を行う旨の記載があり、売買契約書の「その他の条件」欄に「組立据付工事は含まない」等の記載がなく、かつ、売買契約書の「その他の条件」欄以外の部分及び売買契約々款においても「請求人が据付工事を行わない。」など、明確に請求人が組立据付工事を行わない旨の記載がないものについては、請求人が養鶏機器の売買とともに組立据付工事を請け負うことに合意して作成された契約書であると解するのが相当である。
 そうすると、本件各売買契約書のうち上記A及びB以外の各売買契約書(別表1の番号1、3ないし5、10、12ないし14、16、22の各売買契約書をいい、以下、併せて「本件各工事付売買契約書」という。)は、養鶏機器の売買とともに請求人がその当該機器の組立据付工事を請け負うことを含む内容であるものと認められる。
 ところで、請負に関する契約書と物品の譲渡に関する契約書との判別が明確にできないものについては、上記イの(ハ)のとおり、契約当事者の意思が仕事の完成に重きをおいているか、物品の譲渡に重きをおいているかによって、そのいずれであるかを判別しなければならない。
 そこで、本件各工事付売買契約書についてみると、本件各工事付売買契約書に添付された各契約見積書又は各見積書に記載された組立据付工事の金額は、上記ロの(ロ)のBのとおり、各契約見積書又は各見積書に記載された総額の9パーセント以上22パーセント以下の金額であり、別表5−1及び同5−2の「工事代金の額」欄のとおり、最も少額なものでも同5−2の番号16の6,600,000円である。また工期は、同Cのとおり1か月ないし2か月程度かかるものであることから、請求人が行う工事は、その規模からみても、家庭用電気器具の取付けのような物品の譲渡に付随する簡単な工事とは到底認められない。
 さらに、上記ロの(ハ)のとおり、本件各売買契約々款における引渡時期は、据付工事を伴う場合は、請求人が売買物件の据付けを完了し売買物件を顧客に引き渡した時点、又は鶏が収容された時点のいずれか早い時点となっているところ、このような条件としたのは、部分的に据付けが完了することもあるからそれを念頭においたものと認められる。
 そうすると、部分的であれ、上記のような簡単な工事とは到底認められない規模の組立据付工事が終了して初めて養鶏業者が大量の鶏を飼養するという目的を果たすことができるようになるのであるから、本件各工事付売買契約書は、契約当事者の意思が養鶏機器の組立据付工事という仕事の完成に重きを置いたものであることが認められる。
 また、本件各工事付売買契約書に添付された各契約見積書又は各見積書には、多数の養鶏機器が列記され、かつ組立据付工事を行うことが記載され、上記ロの(イ)のBの(B)のとおり、本件各契約見積書等に記載のある養鶏機器は、大量の鶏を飼養する目的を達成するため、複数の養鶏機器が組み立てられ、据え付けられることによって有機的に関係し合い、機能を発揮する養鶏システムであると認められることからすれば、上記A及びBのように契約書上明示的に組立据付工事の請負を排除しない限り、養鶏業者である養鶏機器の購入者は、個々の養鶏機器の購入を目的としたというより、複数の養鶏機器が有機的に関係し合い機能を発揮する養鶏システムの組立・据付けまでを請求人に期待して、請求人と本件各工事付売買契約書を取り交わしたと解するのが相当であり、このことからも、契約当事者の意思が仕事の完成に重きを置いたものであることが認められる。
 以上によれば、本件各工事付売買契約書は、印紙税法別表第一課税物件表第2号に規定する「請負に関する契約書」に該当するものと認められる。
(ハ) 原処分庁の主張の採否
 原処分庁は、別紙4の1の「原処分庁」欄のとおり主張するが、上記イの(イ)のとおり、課税文書に該当するかどうかの判断は、文書に記載されている事項に基づいてされるべきものであるところ、原処分庁は、本件各売買契約書に記載されたどの部分をもって請負に関する契約書に該当するのか、具体的な主張立証を行っておらず、請求人から聴き取った内容、請求人が記載した請負工事台帳の内容、施設引渡書及び注文書の記載内容などの周辺事実から、契約の当事者の意思が仕事の完成に重きを置いていると認定している。
 しかしながら、印紙税が文書課税である以上、課税文書に該当するかどうかの判断は、文書に記載されている事項に基づいてされるものであることは上記のとおりであり、周辺事実をもって判断することは、印紙税法の適用に当たり予定されていないといわざるを得ない。
 また、原処分庁が主張するとおり、別表1の番号1を除く本件各売買契約書の「支払条件」欄には、着工時、完工時等の記載があるものの、これらの記載は、いずれも、別表1の番号1を除く本件各売買契約書と同時期に取り交わされた各請負工事契約書に係る工事の一定の時期を、別表1の番号1を除く本件各売買契約書に係る代金の支払時期としたものにすぎず、当該記載があるからといって直ちに、別表1の番号1を除く本件各売買契約書が請負工事を約するために作成された文書であるとはいえない。
 以上によれば、原処分庁の主張を採用することはできない。
(ニ) 請求人の主張の当否
A 請求人は、別紙4の1の「請求人」欄の(1)のイ及びニのとおり主張するところ、確かに、請求人の取り扱う養鶏機器は、上記ロの(イ)のBの(A)のとおり、請求人が保有する特許技術及び商標権を背景として一定の規格で製作されるものがある。
 しかしながら、上記ロの(イ)のCのとおり、本件各契約見積書等に記載のある養鶏機器のうち、本件カタログには記載されていないものがあり、本件カタログに記載のない養鶏機器が売買の対象物となっていること、また、顧客の求めに応じて、規格が変更されている取引も存在することが認められることから、本件各売買契約書に係る取引において、顧客が、本件カタログや見本だけですべての養鶏機器の選定を行ったとは認められず、あらかじめ一定の規格で統一された機械に価格を付して注文を受け、あるいは、統一された規格に従って製作したにすぎないとは言い切れない。そして、たとえ取り付けられた養鶏機器が本件カタログに記載のある養鶏機器だけで構成されているとしても、本件各工事付売買契約書は、上記(ロ)のCのとおり、契約当事者の意思が仕事の完成に重きをおいていると認められる請負に関する契約書となる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、別紙4の1の「請求人」欄の(1)のロのとおり、本件各売買契約書に記載された製品は、農林業用減価償却資産の耐用年数表に個別に例示される家畜飼養管理用機具であり、これらは個別に機能する旨主張する。
 しかしながら、耐用年数省令は、飽くまで所得税法や法人税法における減価償却費の計算のための規定であり、当該省令の規定に従い印紙税法が適用されるものではなく、また、上記(ロ)のCのとおり、本件各契約見積書等に記載のある養鶏機器は、大量の鶏を飼養する目的を達成するため、複数の養鶏機器が組み立てられ、据え付けられることで有機的に関係し合い機能を発揮する養鶏システムであると認められるのであるから、当該機器が個別に機能するか否かという事実は、本件各工事付売買契約書が印紙税法に規定する「請負に関する契約書」に該当するかどうかの判断に影響するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、別紙4の1の「請求人」欄の(1)のハのとおり、養鶏機器の売買と組立据付工事を明確に区別している旨主張する。確かに、上記ロの(ニ)のとおり、本件各売買契約書に記載された養鶏機器に係る工事に関する契約書は、本件各売買契約書とは別に作成された本件各工事請負契約書であるし、本件各工事付売買契約書と一体の各契約見積書又は各見積書上も、組立据付工事の代金は商品代金とは区別されていることが認められる。
 しかしながら、印紙税は文書課税であるところ、本件各売買契約書のうち請負に関する契約書と認められる記載があるものについては、たとえ養鶏機器の売買と組立据付工事を明確に区別していたとしても、上記(ロ)のCのとおり、本件各工事付売買契約書は課税文書となる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2 本件モニター納入覚書は、印紙税法別表第一課税物件表第1号に規定する「運送に関する契約書」に該当するか否か。

イ 印紙税法基本通達別表第一の第1号の4文書の1は、「運送」とは委託により物品又は人を所定の場所へ運ぶことと定めており、この定めは当審判所においても相当と認められるところ、本件モニター納入覚書の前記1の(4)のロの(ハ)のDの記載内容は、請求人がモニターに無償提供する物品を納入先であるHに納品することを約したものにすぎず、本件モニター納入覚書の同AないしCの記載内容を併せてみても、モニターに関しての決め事が記載されているものと認められ、本件モニター納入覚書により、請求人がHから当該物品を所定の場所へ運ぶことを委託されたものと認めることはできない。
 したがって、本件モニター納入覚書は、印紙税法別表第一課税物件表第1号に規定する「運送に関する契約書」には該当しないから、不課税文書である。
ロ この点、原処分庁は、別紙4の2の「原処分庁」欄のとおり、本件モニター納入覚書が、運送契約の成立の事実を証明する目的で作成された文書であるとして、課税文書に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件モニター納入覚書が印紙税法別表第一課税物件表第1号に規定する「運送に関する契約書」に該当しないことは上記イのとおりであり、この点に関する原処分庁の主張を採用することはできない。

(3) 争点3 本件無償処理覚書は、印紙税法別表第一課税物件表第2号に規定する「請負に関する契約書」に該当するか否か。

イ 印紙税法上の「請負」についての解釈は、上記(1)のイの(ハ)のとおりであるところ、本件無償処理覚書の前記1の(4)のロの(ニ)のBの記載内容は、Hが鶏舎の漏電対策に要した費用の支払を請求人に求めない代わりに、請求人がHに有していた債権を放棄した事実を記載したものであると認められる。
 そうすると、本件無償処理覚書は、債権の消滅を記載した文書にすぎず、本件無償処理覚書の前記1の(4)のロの(ニ)のA及びCの記載内容からも、請負に関する契約の成立を証する文書には該当しない。
 したがって、本件無償処理覚書は、印紙税法別表第一課税物件表第2号に規定する「請負に関する契約書」には該当しないから、不課税文書である。
ロ この点、原処分庁は、別紙4の3の「原処分庁」欄のとおり、本件無償処理覚書は、修理の請負業務を含む売掛債権の支払方法の一部を変更したものであるとして、課税文書に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件無償処理覚書が印紙税法別表第一課税物件表第2号に規定する「請負に関する契約書」には該当しないことは上記イのとおりであり、この点に関する原処分庁の主張を採用することはできない。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性

 上記(1)のハの(ロ)のとおり、本件各売買契約書のうち別表1の番号2、6ないし9、11、15、17ないし21の各売買契約書は、物品の売買に関する契約書であると認められ、不課税文書であり、本件各工事付売買契約書は、請負に関する契約書であると認められ、課税文書であって、課税標準となる金額は、契約当事者が合意したと認められる本件各工事付売買契約書に記載された金額となる。
 また、上記(2)及び(3)のとおり、本件モニター納入覚書及び本件無償処理覚書については、いずれも不課税文書である。
 以上に基づいて、当審判所において、改めて過怠税の金額を算定すると、平成18年3月3日から平成20年3月19日までの間及び平成20年4月1日から平成20年10月7日までの間に作成された各課税文書に係る印紙税の過怠税の額は、別表6の「審判所認定額」欄のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、いずれも本件各賦課決定処分の額を下回る。
 したがって、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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