(平22.10.22裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、請求人が内国法人から受領した金員は法人からの贈与により取得した金員であり一時所得に該当するとして、決定処分等をしたのに対して、請求人が、当該決定処分等に係る通知書が適法に送達されていないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 処分等
(イ) 決定等
 請求人は、平成14年分の所得税について、確定申告書を提出しなかったところ、M税務署長は、同署長所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成18年9月22日付で、別表の「決定処分及び賦課決定処分」欄記載のとおり、決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件決定処分等」という。)をした。
(ロ) 徴収の引継ぎ及び差押え
 T国税局長は、平成18年12月19日に、本件決定処分等に係る滞納国税について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、M税務署長から徴収の引継ぎを受け、平成19年1月30日付で、P市Q町○−○他に所在する請求人所有の土地2筆及び建物1棟を差し押えた。
ロ 異議申立て及び異議決定(第1回目)
 請求人は、上記イの(イ)の本件決定処分等を不服として、平成19年6月5日にM税務署長に対して異議申立てをしたところ、異議審理庁(M税務署長)は、平成19年8月9日付で、本件決定処分等に関する通知書(以下「本件通知書」という。)は平成18年9月22日に適法に送達されており、上記異議申立ては送達の翌日から起算した不服申立期間(通則法第77条《不服申立期間》第1項)を徒過した後にされた不適法なものであるとして、これを却下する旨の決定をした。
 なお、請求人は、平成13年12月19日ころにP市Q町○−○からR国に転出し、その後の平成20年12月1日に肩書地へ転入したので、これに伴い、原処分庁及び異議審理庁は、M税務署長からS税務署長となった。
ハ 異議決定取消訴訟
 請求人は、上記ロの異議決定の取消しを求めて、平成19年11月14日に、B地方裁判所に訴訟提起(平成○年(行○)第○号異議決定取消請求事件)したところ、同裁判所は、平成○年○月○日に、本件通知書は平成18年9月22日に送達されたものと認められるなどとして、請求人の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
 請求人は、上記判決に不服があるとして、平成20年10月10日に、C高等裁判所に控訴(平成×年(行×)第×号異議決定取消請求控訴事件)したところ、同裁判所は、平成○年○月○日に上記ロの異議決定を取り消す旨の判決(以下「本件高裁判決」という。)を言い渡し、被控訴人が上告しなかったため、当該判決が確定した。
ニ 異議決定(第2回目)
 異議審理庁(S税務署長)は、本件高裁判決により上記ロの異議決定が取り消されたため、異議審理庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成22年3月4日付で、異議申立てをいずれも棄却する旨の異議決定をした。
ホ 審査請求
 請求人は、上記ニの異議決定を経た後の本件決定処分等に不服があるとして、平成22年3月31日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 通則法
(イ) 第12条《書類の送達》
 第1項は、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類は、郵便若しくは民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項(定義)に規定する一般信書便事業者若しくは同条第9項に規定する特定信書便事業者による同条第2項に規定する信書便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所に送達する旨、ただし、その送達を受けるべき者に納税管理人があるときは、その住所又は居所に送達する旨規定している。
(ロ) 第28条《更正又は決定の手続》
 第1項は、第24条から第26条まで(更正・決定)の規定による更正又は決定は、税務署長が更正通知書又は決定通知書を送達して行う旨規定している。
(ハ) 第32条《賦課決定》
 第1項第3号は、税務署長は、第69条(加算税の税目)に規定する加算税については、その計算の基礎となる税額及び納付すべき税額を決定する旨、第3項は、第1項の規定による決定は、税務署長がその決定に係る計算の基礎となる税額及び納付すべき税額を記載した賦課決定通知書を送達して行う旨、それぞれ規定している。
ロ 行政事件訴訟法
 第33条第1項は、処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する旨規定し、第2項は、申請を却下し若しくは棄却した処分又は審査請求を却下し若しくは棄却した裁決が判決により取り消されたときは、その処分又は裁決をした行政庁は、判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分又は審査請求に対する裁決をしなければならない旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 本件高裁判決における前提事実及び認定事実
(イ) 所得税・消費税の納税管理人の届出書
A 平成18年4月17日に、M税務署長に対し、請求人の所得税・消費税の納税管理人として、D社の従業員であり請求人の納税地と同じ地を住所とするEを定める旨の届出(以下「本件納税管理人届」という。)がされた。
B 本件納税管理人届は、請求人の納税地及び氏名等をD社の社員のFが、「1 納税管理人」欄以下をEがそれぞれ記入し、Fが三文判を押印して「○○」(請求人姓)の印影を顕出することにより作成され、平成18年4月17日に、Eによって、Fが作成した請求人名義の同日付委任状とともに、M税務署長に提出された。
(ロ) 本件通知書の送達
 M税務署財務事務官Hは、平成18年9月22日午前11時48分ころに、Eの住所地(P市T町○−○)において、同人の妻Jに対し、本件通知書を交付した。
ロ 本件高裁判決における判断
 本件納税管理人届は、請求人の意思に基づいて作成、提出されたものとは認められず、また、本件通知書送達当時において、請求人がEを納税管理人として認識していたと認めることもできないから、その余の点について判断するまでもなく、本件通知書が適法に送達されたとは認められない。

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2 争点

(1) 争点1 本件通知書が適法に送達されたか否か。

(2) 争点2 請求人がK社から受領した金員が、法人からの贈与により取得した金品に該当するか否か。

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3 争点1についての主張及び判断

(1) 主張

原処分庁 請求人
 以下の点から、請求人の主張には理由がない。  以下の点から、本件通知書は適法に送達されていない。
イ 本件高裁判決は、異議決定取消請求控訴事件であり、主文においては異議申立て却下決定を取り消すとされているが、異議審理庁が異議申立ての不服申立期間を徒過していることを根拠として却下しているところ、本件高裁判決における「本件通知書が適法に送達されたとは認められない。」との判断は、本件決定処分等自体の効力を認定するための判断ではなく、不服申立期間の起算日の認定に係る判断にすぎず、送達が適法でないとすることは、本件決定処分等自体の効力について、原処分庁を拘束するものではないと解される。 イ 本件通知書が請求人の納税管理人ではない者に送達されており、請求人に送達されていないことは、本件高裁判決において認定されている。
ロ 本件納税管理人届が、請求人の意思に基づいて作成、提出されたものとは認められないとしても、原処分庁においては、当該届出書の記載要件が具備されていれば、当該届出書は適法に提出されたものとして取り扱うことが常態であるところ、請求人は、L及びEを納税管理人とする「所得税・消費税の納税管理人の届出書」がそれぞれ提出されていることを本件調査担当職員から知らされた上で、納税管理人として認識しているのはEであるためLを解任すると申し立て、Eが納税管理人であることを追認するとともに、本件通知書は納税管理人であるEに送達するよう申し立て、Lを納税管理人から解任する旨の届出書をM税務署長に提出していることが認められ、さらに、Eに本件通知書を送達し、かつ、本件調査担当職員がEに本件通知書を送達したことを電話連絡した平成18年9月22日に、請求人においては、本件決定処分等が行われたこと及び本件通知書に記載された本件決定処分等の内容を了知していた状況にあったものといえる。 ロ 原処分庁は、請求人の納税管理人がLとEの二人になっているので、本件調査担当職員が、平成18年7月18日に、文書の送付先を請求人に確認したと認定したが、そのような事実は全くない。
 また、原処分庁は、本件調査担当職員が、平成18年9月22日に、Eに送達した後に請求人に電話連絡をしてEの住所地に送達した旨説明したというが、このような事実も一切ない。
 税務署長による更正や決定は、それが国民(納税者)に納税義務を賦課するものであるから、通則法第28条でその更正や決定の通知は書面によって送達するという厳格な手続を定めている。原処分庁がいうような、通知書を送達したことを本人に連絡したことなどの事情をもって手続が適法になるものではない。電話で知らしめたとかの事実(このような事実自体もない。)をもって書面送達に取って代われるものでは決してない。
ハ 仮に、本件通知書の送達に瑕疵があるにしても、一般に、瑕疵ある行政行為の治癒については裁判例においても広く肯定され、その際には、法が処分の要件を規定した趣旨、目的、殊に処分の公正、関係人の利益保護という観点が重視されているところ、本件においては、請求人は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)に基づく本件決定処分等に係る決議書の開示請求により、平成19年5月10日にその決議書の写しを入手しており、その時点において、送達の趣旨、目的である納税者に処分の内容を了知させることはできており、当該瑕疵は治癒されたと認めるのが相当である。
 また、これにより、当該瑕疵の治癒を認めたとしても、本件において請求人の利益保護の観点に欠けることにはならず、請求人が主張するような本件通知書の送達に係る瑕疵をもって、本件決定処分等の手続に重大かつ明白な瑕疵があるとして、本件決定処分等が無効となるものではない。
ハ 行政処分の効力が発生するのは、その相手方が現実に行政処分を了知したとき、すなわち、処分通知書が送達されたときである。本件においては、本件高裁判決後も請求人の下には通知書は送達されておらず、行政処分の効力がまだ発生していない状態であり、行政処分の瑕疵が治癒されたか否かの以前の問題である。
 原処分庁は、請求人は後日個人情報保護法に基づき本件決定処分等の内容を知ったからその瑕疵が治癒されるというが、これも通則法第28条の解釈を誤った暴論である。請求人は、課税処分から5か月以上が経過してようやく本件決定処分等の内容を知ったのであるが、このことをもって瑕疵ある通知が治癒されるはずがない。
 結局、原処分庁の各論旨は、税務署長の行う更正や決定は通知書を送達して行うことを厳格に規定した通則法第28条にいずれも抵触するものである。

(2) 判断

イ 取消判決の拘束力及びその及ぶ範囲
 取消判決の拘束力とは、取消判決が確定した場合、行政庁が行政処分を違法と確定した判決の判断内容を尊重するとともに、受忍し、以後その事件については、判決の趣旨に従って行動し、もし他にこれと矛盾するような行政処分等がある場合には、適当な措置を採らなければならないという拘束を生じることをいい、その拘束力の及ぶ範囲は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものと解される。
 本件高裁判決は、前記1の(4)のロのとおり、本件納税管理人届は、請求人の意思に基づいて作成、提出されたものとは認められず、また、本件通知書送達当時において、請求人がEを納税管理人として認識していたと認めることもできないから、本件通知書が適法に送達されたとは認められない旨判断し、不服申立期間の経過を理由としてなされた却下の異議決定を取り消す旨の判決をした。
 この判示内容からすれば、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定とは、1本件納税管理人届は、請求人の意思に基づいて作成、提出されたものとは認められないこと及び2本件通知書送達当時において、請求人がEを納税管理人として認識していたと認めることもできないことの二点であり、この事実認定を前提として判決主文が導き出されるのに必要な法律判断とは、Eの住所地において請求人あての本件通知書の送達が適法に行われたと認めることはできず、その送達をもって不服申立期間の経過を根拠付けることはできないという点にある。
ロ 本件決定処分等の効力発生(本件通知書の送達)の有無及びこの点に関する原処分庁の主張の採否
 行政処分が行政処分として有効に成立したといえるためには、行政庁の内部において単なる意思決定の事実があるか、あるいは右意思決定の内容を記載した書面が作成・用意されているのみでは足りず、右意思決定が何らかの形式で外部に表示されることが必要であり、名あて人である相手方の受領を要する行政処分の場合は、更に右処分が相手方に告知され又は相手方に到達することすなわち相手方の了知し得べき状態に置かれることによって初めてその相手方に対する効力を生ずるものと解されており、課税処分のような名あて人がありその受領を要する行政処分の場合には、相手方に告知されること、すなわち、適法な送達がなされることが、行政処分としての効力発生要件であると解される。
 通則法第28条第1項、同法第32条第3項及び同法第12条第1項の規定によれば、税務署長が行う決定又は加算税の賦課決定については、送達をすることによって初めて相手方に対する効力を生ずるものと解される。
 本件高裁判決によれば、本件納税管理人届は、請求人の意思に基づいて作成、提出されたものとは認められず、また、本件通知書送達当時において、請求人がEを納税管理人として認識していたと認めることもできないというのであるから、Eを納税管理人とみることはできず、請求人がEを納税管理人として認識していたと認められないという事実認定に拘束力が生じ、この事実認定を前提とするほかない。
 そうであれば、社会通念上、Eの住所地に本件通知書が送達されることにより請求人が本件決定処分等の存在を了知し得たとは認められないから、平成18年9月22日にEの住所地に本件通知書が送達されたとしても、これをもって本件通知書が適法に請求人に送達されたということはできない。
 原処分庁は、上記(1)の「原処分庁」欄のイのとおり、本件高裁判決は、不服申立期間の起算日の認定に係る判断であり、本件決定処分等自体の効力を認定するための判断ではないから、本件決定処分等自体の効力について、原処分庁を拘束するものではない旨主張するが、本件決定処分等自体の効力を直接的に拘束するものではないとしても、行政処分の効力発生要件に関する事実認定については関係行政庁を拘束するものであることは上記イ記載のとおりである。
 また、原処分庁は、上記(1)の「原処分庁」欄のロのとおり、請求人がEを納税管理人に選任し、同人を納税管理人として認識していたと主張するが、この点については、本件高裁判決は、本件通知書送達当時において、請求人がEを納税管理人として認識していたと認めることもできない旨判断しているのであるから、この主張は、本件高裁判決の拘束力に抵触するものというべきである。
 したがって、原処分庁の上記主張を採用することはできない。
ハ 送達の瑕疵の治癒及びこの点に関する原処分庁の主張の当否
 原処分庁は、上記(1)の「原処分庁」欄のハのとおり、個人情報保護法に基づく本件決定処分等に係る決議書の開示請求により、その決議書の写しを入手した時点において、送達の趣旨、目的である納税者に処分の内容を了知させることはできており、当該瑕疵は治癒した旨主張するが、送達とは、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類の到達に関する方法であり、その告知そのものがなされていないときに、単に納税者が個人情報保護法に基づく権利行使により、処分の内容を了知したからといって、これによって告知としての送達の瑕疵が治癒したということもできない。
 したがって、原処分庁の上記主張には理由がない。

(3) 結論

 前記1の(2)のイの(ロ)のとおり、本件決定処分等を前提として請求人所有の不動産に対して差押処分がなされており、本件決定処分等による請求人に対する不利益は存在している上、以上検討したとおり、原処分庁の主張は採用することができず、本件決定処分等については、当審判所の調査に係るすべての資料によっても適法な送達がなされたとは認められず、その効力は発生していないといわざるを得ないから、本件審査請求には理由があり、前記2の(2)の争点2について判断するまでもなく、本件決定処分等はいずれも取消しを免れない。

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