(平22.11.4裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、被相続人C(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の一人である納税者D(以下「本件滞納者」という。)に係る滞納相続税を徴収するため、共同相続人である審査請求人(以下「請求人」という。)、E、F、G、H及びJに対し、当該滞納相続税の連帯納付義務があるとして督促処分をしたところ、請求人が、当該連帯納付義務の徴収権は時効により消滅しているとして、当該督促処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成5年11月26日付で、本件滞納者の相続税物納申請に係る相続税額について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、K税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、平成22年1月19日付で、請求人に対し、本件滞納者が納付すべき次表の滞納相続税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第34条《連帯納付の義務》第1項に規定する連帯納付義務(以下「連帯納付義務」という。)に係る国税について、通則法第37条《督促》第1項の規定に基づき、本件滞納国税の連帯納付義務に係る督促処分をした(以下「本件督促処分」という。)。
 なお、本件督促処分の督促状には、請求人の連帯納付責任の限度額は○○○○円である旨の記載がされている。

税目 納期限 本税 延滞税
相続税 平成5年11月1日 ○○○○円 法律による金額

(注) 税額(本税)は、平成22年1月19日現在の滞納税額である。

ハ 請求人は、平成22年2月9日、本件督促処分を不服として、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 相続関係
(イ) 相続税法第34条第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責に任ずる旨規定している。
ロ 時効関係
(イ) 通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》第1項は、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定し、同条第3項は、国税の徴収権の時効については、別段の定めがある場合を除き、民法の規定を準用する旨規定している。
(ロ) 通則法第73条《時効の中断及び停止》第1項第4号は、国税の徴収権の時効は、督促処分に係る部分の国税については、督促処分の効力が生じた時に中断し、督促状又は督促のための納付催告書を発した日から起算して10日を経過した日までの期間を経過したときから再び進行する旨規定し、同条第4項は、国税の徴収権の時効は、延納、納税の猶予又は徴収若しくは滞納処分に関する猶予に係る部分の国税につき、その延納又は猶予されている期間内は、進行しない旨規定している。
(ハ) 民法第457条《主たる債務者について生じた事由の効力》第1項は、主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対してもその効力を生ずる旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 相続の事実
(イ) 本件被相続人は、平成5年1月○日に死亡し、相続が開始した(以下「本件相続」という。)。
(ロ) 本件被相続人の遺産については、平成5年10月17日、遺産分割協議書により、請求人、本件滞納者、E、F、G、H、J及び本件被相続人の妻であるLが取得した。
 なお、Lは、平成7年12月○日に死亡した。
ロ 申告状況等
(イ) 請求人及び本件滞納者は、平成5年10月29日、他の共同相続人と共にK税務署長に対し、本件相続に係る相続税の確定申告書を提出した。
 なお、当該確定申告書における相続税の総額は○○○○円、本件滞納者が納付すべき税額は○○○○円、請求人の相続財産の価額は○○○○円、相続税額は○○○○円であった。
(ロ) 請求人は、平成5年10月29日、K税務署長に対し、上記(イ)の請求人の相続税額の全額について、物納を求める相続税物納申請書を提出した。
(ハ) K税務署長は、請求人の平成7年1月20日の更正の請求に基づき、平成7年3月28日付で、本件相続に係る請求人の相続財産の価額を○○○○円、相続税額を○○○○円とする相続税の減額更正をした。
(ニ) 原処分庁は、平成7年8月30日付で、請求人から申請のあった上記(ロ)の相続税の物納申請額の全額について物納許可をした。

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2 争点

 本件の争点は、本件滞納国税に係る連帯納付義務の徴収権(以下「本件連帯納付義務」という。)は、時効により消滅しているか否かである。

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3 主張

(1) 請求人

 本件連帯納税義務に係る徴収権は、本件相続開始より16年も経過しているから、時効により消滅している。

(2) 原処分庁

イ 本件滞納国税について、平成5年11月2日から本件滞納者が物納申請を取り下げた平成21年8月6日までの間、徴収の猶予により、時効の進行が停止していた。
ロ また、平成21年11月6日の本件督促処分により、時効が中断していた。
ハ 相続税の連帯納付義務は、主たる納付義務に対して付従性を有していることから、本件滞納国税に関する時効の中断及び進行の停止の効果は、本件連帯納付義務にも及ぶ。
 したがって、本件連帯納付義務についても徴収権の消滅時効は完成していない。

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4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件滞納者は、平成5年10月29日、K税務署長に対し、本件相続に係る本件滞納者が納付すべき税額○○○○円について、全額を物納申請税額とする相続税物納申請書を提出し物納申請(以下「本件物納申請」という。)をした。
ロ K税務署長は、平成5年11月9日付で、本件物納申請に係る相続税の全額について、同月2日から本件物納申請が許可又は却下(取下げを含む。)されるまでの間、徴収の猶予をした。
ハ K税務署長は、平成7年1月20日の本件滞納者の更正の請求に基づき、平成7年3月28日付で本件相続に係る本件滞納者の相続財産の価額を○○○○円、相続税額を○○○○円とする減額更正をした。
ニ 原処分庁は、本件物納申請に関し、平成7年8月30日、物納に充てようとする財産(以下「本件物納申請財産」という。)の一部について物納を許可した。
 これにより、本件物納申請に係る相続税の残額は、○○○○円となった。
ホ 本件滞納者は、平成15年5月9日、本件物納申請に関し、本件物納申請財産のうちの一部(本件物納申請に係る相続税の残額を超過している部分)について物納申請を取り下げるとして、相続税物納申請(一部)取下書を原処分庁に提出した。
ヘ 原処分庁は、本件物納申請に関し、平成21年1月27日、本件物納申請財産の一部について物納を許可した。
 これにより、本件物納申請に係る相続税の残額は、○○○○円となった。
ト 本件滞納者は、平成21年8月6日、原処分庁に対し、上記イの本件物納申請財産のうち、上記ニからヘの、これまで物納を許可され、又は取り下げた財産を除く残余の財産のすべてについて、第三者へ売却済みであることを理由に、相続税物納申請(一部)取下書(以下「本件取下書」という。)を提出して本件物納申請を取り下げ、同日、本件取下書に係る相続税○○○○円について、相続税の延納申請書(以下「本件延納申請」という。)を提出した。
チ 本件滞納者は、平成21年10月20日、原処分庁に、延納申請税額全額を取り下げる旨の相続税延納申請取下書を提出し、当該相続税が本件滞納国税となった。
リ 原処分庁は、平成21年11月6日付で、上記チの本件滞納国税を徴収するため、本件滞納者に対し督促状を送付した。

(2) 本件滞納国税について

イ 通則法第72条第1項は、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定し、また、同法第73条第4項記載の期間内は時効が進行しない旨規定している。
 そして、本件滞納国税の法定納期限は、平成5年11月1日であるところ、上記(1)のロのとおり、K税務署長は、本件滞納者の相続税物納申請にかかる相続税全額について、平成5年11月2日から物納許可又は却下(取下げを含む)されるまで徴収の猶予をし、上記(1)のトのとおり、本件滞納者は、平成21年8月6日、本件取下書を提出したものであるから、本件滞納者に対する徴収権の消滅時効は、平成5年11月2日から同取下書が提出された平成21年8月6日まで進行しておらず、同月7日から進行を開始したことになる。
ロ そして、上記(1)のリのとおり、原処分庁は、平成21年11月6日、本件滞納者に対し、本件滞納国税に係る督促状を送付しているから、通則法第73条第1項第4号の規定により時効が中断し、同日から起算して10日を経過した日の翌日から再び消滅時効が進行することとなるところ、本件督促処分の日は、上記消滅時効の開始日から5年を経過しておらず消滅時効は完成していない。

(3) 連帯納付義務について

イ 相続税法第34条第1項は、相続人が二人以上いる場合に、各相続人に対し、自らが負担すべき固有の相続税の納税義務のほかに、他の相続人の固有の相続税の納税義務について、当該相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務を負担させる旨規定している。
 この連帯納付義務は、内部負担がなく、本来の納税義務(租税債務)を担保するため、相続人に課された特殊な義務であり、租税債権が消滅しない限り、これを担保するために存続するものと規定されている点等を考慮すると、担保される租税債権と別個に時効消滅することは法の予定するところではないというべきであり、同様の趣旨から、独立の時効消滅を認めていない民法第457条第1項が類推適用されるべきである(平成14年2月15日大阪高裁判決、最高裁平成14年9月13日第二小法廷決定)。
 したがって、本来の納税義務者に対して生じた時効の中断の効力は、連帯納付義務者にも及ぶと解するのが相当であり、また、連帯納付義務が、相続税徴収の確保を目的として、相続人に課された特殊な義務であることからすれば、本来の納税義務者に対する徴収の猶予の効果は、連帯納付義務者にも及ぶと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、本件滞納者に係る本件滞納国税に係る徴収権は、上記(2)のとおり、時効中断等の効力が生じ消滅時効は完成しておらず、上記イのとおり、本件滞納者について生じた時効の中断及び停止の効力は請求人にも及ぶから、本件督促処分の時点において、請求人の連帯納付義務に係る国税の徴収権についても、消滅時効は完成していない。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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