(平22.10.13裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人E(以下「請求人E」という。)及びF(以下「請求人F」といい、この2名を併せて「請求人ら」という。)が、贈与により取得した不動産の価額は不動産鑑定士による鑑定評価額が相当であるとして行った贈与税の申告について、原処分庁が、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成20年3月14日付課評2−5ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)に基づく評価額が相当であるとして、贈与税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人らが当該不動産の価額の評価については評価基本通達により難い特別の事情が存するとして当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成19年6月30日に請求人らの父であるG(以下「本件贈与者」という。)から、不動産を贈与により取得したとして、それぞれ平成19年分贈与税の申告書に、課税価額の合計額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載し、相続税法第21条の9《相続時精算課税の選択》第1項の規定の適用を受けるものとして、法定申告期限までにS税務署長へ申告した。
ロ 請求人Eは、平成20年10月31日、住所をR市r町○−○から肩書地へ異動したので、これに伴い、原処分庁はS税務署長からT税務署長となった。また、請求人Fは、平成21年5月25日、納税地をR市r町○−○から、V市v町○−○に定める申告(相続税法第62条第2項)をしたので、これに伴い、原処分庁はS税務署長からT税務署長となった。
ハ 原処分庁は、平成21年6月30日付で、請求人Eの課税価額の合計額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円、請求人Fの課税価額の合計額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円とする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びにそれぞれの過少申告加算税の額を○○○○円とする各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ニ 請求人らは、平成21年7月21日、本件各更正処分等を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成21年10月20日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年11月11日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、平成22年1月29日、請求人Eを総代として選任し、その旨を届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人らは、平成19年6月30日、本件贈与者との間で、請求人Eは別紙3不動産目録記載の土地及び建物(以下、全体の土地を「本件甲土地」、贈与を受けた共有持分に係る土地を「本件甲1土地」及び各建物を「本件乙建物」といい、本件甲1土地と本件乙建物を併せて「本件乙不動産」という。)及び別紙4不動産目録記載の土地及び建物(以下、贈与を受けた共有持分に係る土地を「本件甲2土地」及び各建物を「本件丙建物」といい、本件甲2土地と本件丙建物を併せて「本件丙不動産」という。)の持分2分の1、請求人Fは本件丙不動産の持分2分の1及び別紙5不動産目録記載の土地及び建物(以下、贈与を受けた共有持分に係る土地を「本件甲3土地」及び各建物を「本件丁建物」といい、本件甲3土地と本件丁建物を併せて「本件丁不動産」といい、本件乙不動産及び本件丙不動産と併せて「本件各不動産」という。)の贈与契約(以下、この贈与を「本件各贈与」という。)を締結し、これらを取得した。
ロ 本件各不動産は、昭和○年に建築された本件甲土地上に存する4階建の5棟の共同住宅(全148戸で1戸当たりの敷地の平均地積は約76平方メートルである。以下、これらを併せて「H住宅」という。)のうちいずれも3号棟に存する区分所有建物(床面積各39.27平方メートル)及び管理用事務所並びにその敷地(各約73平方メートル)である。

(5) 争点

 本件の争点は、本件各不動産の評価について、評価基本通達により難い特別の事情があるか否かである。

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2 主張

(1) 原処分庁

 以下の理由から、本件各不動産の価額は、別表のとおり、評価基本通達の定めにより評価した請求人Eは9X,XXX,XXX円、請求人Fは9X,XXX,XXX円である。
イ 請求人らが本件各贈与により取得した本件各不動産の相続税評価額は、別表の3に記載のとおり、請求人Eは9X,XXX,XXX円、請求人Fは9X,XXX,XXX円であると認められるところ、本件甲土地の近隣における公示価格及び取引事例を基にこれらと比較して請求人らが本件各贈与により取得した本件各不動産の時価(客観的交換価値)を算定するとそれぞれ143,031,232円となる。
 したがって、請求人らが本件各贈与により取得した本件各不動産の相続税評価額は、客観的交換価値とみるべき合理的な範囲内にあり、特別な事情があるとは認められない。
ロ 本件各贈与の日において、H住宅の各区分所有者が、敷地の持分を出資し、建替え事業完了後にそれぞれの出資に見合った価額の新築住戸を取得する方式を採用した建替えが行われる蓋然性が高いことから、請求人らが主張するJ社が作成した平成19年6月25日付の不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)の各鑑定評価額21,000,000円(以下「本件各鑑定評価額」という。)は、本件各不動産の将来性を考慮し、土地の財産価値に重きを置く積算価額を比準価額より重視すべきであるところ、積算価額は参考程度としていることから、H住宅の建替計画(以下「本件建替計画」という。)の存在を適切に反映したものとはいえず、本件各不動産の客観的交換価値(時価)を表した価額であるとは認められない。

(2) 請求人ら

イ 本件各不動産の価額の算定に際しては、以下のとおり、評価基本通達により難い特別な事情がある。
(イ) 一般的なマンションの売買は、区分所有建物の専有床面積に着目して行われているが、評価基本通達の定めによりマンションを評価する場合には、マンションが共有財産であり、単独所有の建物とその敷地に比し、制約があるということが考慮されず、マンションの土地部分と建物部分を区分し、それぞれ別個の不動産として価額を算定することとなるから、建物の専有部分の床面積に対応するその敷地面積が広大なH住宅の時価の算定を評価基本通達の定めにより行うと売買の実態と乖離した非常に高い価額となる。
(ロ) 本件各不動産は、築50年のW社が供給した団地型マンションで、住戸面積は狭く、建物も経年劣化し、給排水設備は陳腐化し、エレベーターはなく高齢者に対応した構造にはなっておらず、今日の水準から見ると居住性能は著しく不十分な建物である。
ロ 本件各不動産の価額は、本件各鑑定評価額とするのが相当である。
 原処分庁は、H住宅の建替えが行われる蓋然性が高かったことが考慮されていないから、本件鑑定書の信用性はない旨主張するが、客観的にみて建替え事業が確実に実現するであろうと判断できるのは、建替え決議がなされた平成19年10月28日以降であり、本件各贈与の日においては、建替えの検討・計画段階にすぎず、建替えが確実に実現すると判断できる状況ではない。
 相続税法第22条は時価主義をとっているから、本件各不動産の評価額の判断は、贈与時点の本件各不動産の客観的交換価値によるべきであり、本件各贈与の日には、建替えが行われる蓋然性が高かったとはいえないから、原処分庁の主張は失当である。

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3 判断

(1) 法令解釈等

 相続税法第22条に規定する財産の取得の時における時価とは、当該財産を取得した時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかしながら、贈与税の課税の対象となる財産は多種多様であることから、国税庁長官は、課税の公平、公正の観点から、財産評価の一般的基準である各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を評価基本通達に定め、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。
 このような画一的な評価方法が採られているのは、各種の財産の客観的な交換価値を適正に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由によるものであり、一般的には、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができることから、租税平等主義にかなうものであると解する。
 したがって、贈与により取得した財産については、評価基本通達に定める評価方法を画一的に適用したのでは、適正な時価が求められず、著しく課税の公平を欠くことが明らかであるなど、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められるような特別な事情がある場合を除き、評価基本通達の定めに基づき評価した価額をもって時価とすることが相当である。

(2) 認定事実

イ 本件甲土地について
(イ) 本件甲土地は、K線L駅(○口)の南約○メートル、M線N駅の北西約○メートルに位置し、所在する地区(評価基本通達14−2《地区》に定める地区をいう。)は普通住宅地区である。また、北東側道路に○メートル接面しており、同道路に付された平成19年分の路線価(評価基本通達14《路線価》に定める路線価をいう。)は1,230,000円である。
(ロ) 本件甲土地は、実測地積が11,345.91平方メートルであり、地盤に甚だしい凹凸があり、利用価値が著しく低下していると認められる法面が北側に○平方メートル、公衆化している建築基準法第42条《道路の定義》第1項第5号に規定する道路が○平方メートル及び公衆化している公園が○平方メートル存し、北側が三角状になった全体として略台形の宅地である。
(ハ) 本件各贈与の日現在、P市教育委員会による試掘調査によって、H住宅の3号棟の付近は埋蔵物文化財包蔵地であることが確認されており、本件各更正処分等が行われた平成21年6月30日には、その発掘調査費用の見積金額は64,000,000円であった。
ロ 本件建替計画等について
(イ) H住宅の管理組合(以下「本件管理組合」という。)の臨時総会が平成18年2月18日に開催され、建替えに関する議題について、次のとおり決議された。
A 建替推進決議(議決権総数148票中、賛成133票、反対0票、無効15票)
B 建替推進委員会の設置決議(議決権総数148票中、賛成134票、反対0票、無効14票)
C 事業パートナーとしてQ社を選定するための決議(議決権総数148票中、賛成126票、反対4票、無効18票)
なお、建替推進決議における建替えの計画概要は、7階建ての建物を建築し、H住宅の区分所有者全員が、それぞれにその敷地の持分を出資し、建替えにかかる事業パートナーが新築建物の建設費その他の事業費を出資し、事業完了後に、各区分所有者及び事業パートナーが出資額に見合った評価額の新築建物の住戸を各々取得する方式(以下「等価交換方式」という。)により、新築建物の取得面積は既存建物の2倍以上となるものであった。
(ロ) 本件管理組合は、平成18年4月25日、Q社との間で、建替え事業について、等価交換方式による建替えを目標としてお互いに事業協力する旨及びその費用の精算等について、「H住宅建替え事業協力に関する覚書」を締結した。
(ハ) 本件管理組合の臨時総会が平成18年9月16日に開催され、建物の棟配置を2倍の返還率を目指す上で最も有効な囲み型とし、建物構造方式を免震構造とする具体的な建替え計画を進めるための建物基本計画案作成について決議した(議決権総数148票中、賛成129票、反対1票、無効18票)。
 なお、上記(イ)の建替推進決議以降、平成18年8月末までに建替推進準備委員会は4回、建替推進委員会は12回、地権者勉強会は3回開催され、Q社が確認されている組合員103組に対する地権者個別面談を実施した結果、建替え推進に反対を表明する者はいなかった。
(ニ) 本件管理組合の臨時総会が平成19年4月22日に開催され、新築建物の基本設計を決定するための建物基本計画案の承認について議決した(議決権総数148票中、賛成139票、反対0票、無効9票)。
 なお、平成18年9月1日から平成19年4月4日までに建替推進委員会は21回、上記(ハ)の臨時総会以降、賃貸人説明会は1回、地権者勉強会は2回開催された。
(ホ) 本件管理組合は、平成19年5月30日、Q社との間で、建替え事業について、上記(ニ)の建物基本計画の詳細検討及び建替え実施決定の判断に必要な建替え計画の作成等及びその費用の精算等について、「H住宅建替え事業協力に関する覚書(その2)」を締結した。
(ヘ) H住宅の5棟すべての建物を取り壊し、その敷地に共同住宅建物を建設するための建替え決議は、平成19年10月28日、建替え決議集会において、H住宅の区分所有者の全員同意により成立した。
(ト) 請求人Eは、平成20年11月18日、上記(ヘ)の建替え決議に基づき、H住宅建替え事業に係る等価交換契約により、Q社に対し本件乙不動産及び本件丙不動産の持分2分の1を代金130,860,000円(土地価額130,860,000円、建物価額零円)で譲渡し、その敷地に建築される共同住宅の1室(土地11,005.53平方メートル(公園として提供する部分○平方メートルを除く。)の持分2,082,438分の12,566、建物の専有部分の床面積125.66平方メートル)を代金145,833,480円で譲り受けた。
(チ) 請求人Fは、平成20年12月15日、上記(ヘ)の建替え決議に基づき、H住宅建替え事業に係る等価交換契約により、Q社に対し本件丙不動産の持分2分の1及び本件丁不動産を代金130,860,000円(土地価額130,860,000円、建物価額零円)で譲渡し、その敷地に建築される共同住宅の1室(土地11,005.53平方メートル(公園として提供する部分○平方メートルを除く。)の持分2,082,438分の12,566、建物の専有部分の床面積125.66平方メートル)を代金148,278,420円で譲り受けた。

(3) 評価基本通達の定めにより評価した価額

 本件各不動産の価額を評価基本通達の定めに照らして評価すると、以下のとおりとなる。
イ 本件甲1土地、本件甲2土地及び本件甲3土地
 本件甲1土地、本件甲2土地及び本件甲3土地は、本件甲土地の共有持分であるため、その価額は、本件甲土地の価額を求め、その持分に応じてあん分した価額により評価することとなる。
(イ) 本件甲土地は、上記(2)のイの(イ)のとおり、Y国税局長が評価基本通達14−2により定めた普通住宅地区に位置する。
(ロ) 本件甲土地は、上記(2)のイの(イ)のとおり、一方のみが道路に接しているから、評価基本通達15により、奥行価格補正を行うこととなり、その内容は別表の1(注1)のとおりである。
(ハ) 本件甲土地は、上記(2)のイの(ロ)のとおり、不整形地であるから、評価基本通達20により、不整形地の補正を行うこととなり、その内容は別表の1(注2)のとおりである。
(ニ) さらに、本件甲土地はその価額に影響を及ぼす固有の事情として、上記(2)のイの(ロ)のとおり、公衆化している道路、公衆化している公園があるから、これらを評価対象地積から外し、地盤に甚だしい凹凸があり、利用価値が著しく低下していると認められる法面があるから、減額をすることが相当であり、その内容は別表の1(注3及び4)のとおりである。そして、上記(2)のイの(ハ)のとおり、埋蔵文化財発掘調査が必要であることから、当該費用として負担することとなる見積金額の80%相当額を減額することが相当であり、その内容は別表の1(注5)のとおりである。
ロ 本件乙建物、本件丙建物及び本件丁建物
 本件乙建物、本件丙建物及び本件丁建物の価額は、各建物の固定資産税評価額に1.0を乗じて評価することとなり、その内容は別表の2のとおりである。
ハ 原処分庁は、本件各不動産の価額を評価基本通達の定めにより別表のとおり評価しているが、以上のとおり、その計算過程に特段不合理な点は認められない。
 したがって、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められるような特別な事情がある場合でない限り、原処分庁が評価した価額をもって本件各不動産の時価と認めることが相当である。

(4) 特別な事情等の検討

イ 請求人らは、評価基本通達の定めによりマンションを評価する場合には、マンションが共有財産であり、単独所有の建物とその敷地に比し、制約があるということが考慮されず、マンションの土地部分と建物部分を区分し、それぞれ別個の不動産として価額を算定することとなるから、建物の専有部分の床面積に対応するその敷地面積が広大なH住宅の時価の算定を評価基本通達の定めにより行うと売買の実態と乖離した非常に高い価額となる旨主張する。
 ところで、本件各不動産は、マンションの建物の専有部分と共有部分及びその敷地に係る土地の持分から構成されており、本件各不動産の価額は、建物の専有部分の価額、建物の共有部分の価額及びその敷地に係る土地の価額が含まれるから、本件各不動産の土地部分の価額の上昇又は下落に連動して本件各不動産の価額も上昇又は下落することとなり、また、本件各不動産の敷地について、本件贈与者の有する共有持分が他の区分所有者が有する共有持分と質的に異なることもないのであるから、建物の専有部分の床面積に対応するその敷地の共有持分が広大であれば、それに連動して本件各不動産の価額も上昇又は下落することになる。そして、評価基本通達においては、土地の形状等に応じて、奥行距離に応じた奥行価格補正率を適用したり、その形状が不整形である場合には不整形の程度、位置及び地積に応じ不整形補正率を適用したりするなどして、土地の減価要素を考慮した評価方法が採られている(同通達15、20)。
 したがって、本件各不動産の評価において、マンションの価額をその共有者の持分に応じてあん分して共有持分の価額を評価するという評価基本通達の定めによって本件各不動産を評価した場合に、適正な時価が求められず、著しく課税の公平を欠くことが明らかであるとはいえない。
ロ また、請求人らは、本件各不動産は、住戸面積は狭く、建物等も老朽化し、今日の水準から見ると居住性能は著しく不十分な建物である旨主張する。
 しかしながら、評価基本通達は、家屋の評価については、固定資産税評価額に1.0の倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定めているところ(同通達89)、この固定資産税評価額については、家屋の適正な時価を評価するために、地方税法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項に基づく評価基準が告示されており、この評価基準に基づいて、3年ごとの基準年度に、再建築価格(評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点においてその場所に新築するものとした場合に必要とされる建築費)を基準として、これに家屋の減耗の状況による補正及び需給事情による補正を行って評価する方法が採られている。
 したがって、評価基本通達による評価では、請求人らが上記で主張するような事情については、それを織り込んで評価しているのであり、請求人らがいう上記事情の存在によって、評価基本通達に定める評価方法を画一的に適用したのでは、適正な時価が求められず、著しく課税の公平を欠くことが明らかな場合に当たるとはいえない。
ハ 本件各鑑定評価額について
(イ) 本件鑑定書の要旨は、別紙6のとおりであり、市場性を反映した比準価格(20,000,000円)を重視し、収益価格(18,100,000円)を関連付け、実現性に不透明感が残る積算価格(96,700,000円)については参考にとどめながら、将来における土地価格実現の可能性を考慮して標準住戸の鑑定評価額を決定したとしており、この価額を基に本件各不動産の評価額をそれぞれ21,000,000円としている。
なお、本件各鑑定評価額においては、本件建替計画は考慮されていない。
(ロ) 請求人らは、本件各贈与の日はまだ建替えが確実に実現すると判断できる状況にはなかった旨主張する。
 確かに、請求人ら主張のとおり、本件各贈与の日において、本件建替計画に係る建替え決議は成立していない。
 しかしながら、上記(2)のロのとおり、1建替推進委員会や勉強会等が開催されていること、2区分所有された建物の建替えは、区分所有者等の5分の4以上の賛成で実行できるところ、等価交換方式による建替えに係る各議題は、圧倒的な賛成によりいずれも可決されていること、3H住宅建替え事業協力に関する覚書も締結されていること、4本件各不動産は、上記1の(4)のロのとおり、建物の専有床面積に対するその敷地の地積が約2倍であるところ、上記(2)のロの(イ)のとおり、本件建替計画では各区分所有者は出資した敷地の持分価額に見合う既存建物の2倍以上の面積の建物を取得することが予定されていたこと、5本件各贈与の日のわずか3か月後の平成19年10月28日にH住宅の区分所有者の全員同意による建替え決議がなされ、その後、請求人らは建替え決議に基づき、H住宅建替え事業に係る等価交換契約により、本件乙不動産及び本件丙不動産の持分2分の1並びに本件丙不動産の持分2分の1及び本件丁不動産をそれぞれ代金130,860,000円(すべて土地代金)で譲渡していることからすれば、H住宅の各区分所有者は、建て替えの必要性を認識した上、等価交換方式による建替えを検討・計画していた事実が認められ、したがって、本件各贈与の日現在、H住宅は建替えが行われる蓋然性が極めて高いと認められ、その可能性を否定する要因も裏付ける証拠は存在しない。
(ハ) そこで検討するに、不動産の価額は、価格形成要因の変動について市場参加者による予測によって左右されるところ(不動産鑑定評価基準総論第4章(不動産の価格に関する諸原則)の(11))、本件各不動産の評価に際しては、建替えの蓋然性が極めて高く、その場合には敷地の持分価額に見合う既存建物の2倍以上の面積の建物を取得できることが予定されていたことなどの事情等を考慮して比準価格を求めるべきところ、本件鑑定書における比準価格の算定は、これらの事情が十分に考慮されておらず、上記評価基準総論第4章の(11)に定める予測の原則に基づく分析検討が客観的かつ十分にされていないといわざるを得ない。
(ニ) また、積算価格、比準価格及び収益価格の各試算価格の調整に当たっては各方式の持つ特徴に応じたしんしゃくを加え、鑑定評価の手順各段階について客観的、批判的に再吟味し、その際には、不動産鑑定評価基準総論第4章に定める不動産の価格に関する諸原則の当該事案に即した活用の適否や個別要因の分析の適否等について留意することが必要であるところ(不動産鑑定評価基準総論第8章第7節(試算価格又は試算賃料の調整))、本件鑑定書における鑑定評価額の決定は、建替えの実現性に不透明性があるとして積算価格96,700,000円を参考にとどめて調整しており、個別要因の十分な分析が行われていないといわざるを得ない。
(ホ) 以上から、本件各鑑定評価額が本件各不動産の客観的な交換価値を表すものとは認められず、請求人らの主張には理由がない。
ニ 本件各不動産の価額について
 上記イからハまでのとおり、本件各不動産の評価に当たり、評価基本通達の定めにより難い特別な事情は認められず、また、本件各鑑定評価額が本件各不動産の客観的な交換価値を表すものとは認められないから、原処分庁が評価した価額をもって本件各不動産の時価と認めることが相当である。

(5) 本件各更正処分について

 以上の結果、本件各不動産の価額は別表の原処分庁主張額と同額となり、これを基に請求人E及び請求人Fの本件各贈与に係る贈与税の納付すべき税額を算出すると、いずれも本件各更正処分の金額と同額になるから、本件各更正処分は適法である。

(6) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(5)のとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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