(平22.12.8裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、医療業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項に規定する課税仕入れ等の税額の計算を行うに当たり、同項第1号に規定する方法(以下「個別対応方式」という。)を選択して申告したところ、原処分庁が、個別対応方式における課税仕入れの用途区分に区分誤りがあるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、区分誤りはないとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年5月1日から同年5月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ これに対し、原処分庁は、平成21年6月30日付で本件課税期間の消費税等について、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成21年8月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月26日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年12月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成2年2月○日に設立された医療法人であり、Dが理事長を務めている。
ロ 請求人は、平成19年2月22日に、F市が公募する認知症対応型共同生活介護(グループホーム)を内容とする地域密着型サービス事業(以下「本件介護事業」という。)に応募した。
ハ 請求人は、平成19年3月26日付のF市長からの「F市介護保険施設整備計画に基づく認知症対応型共同生活介護申請の選考結果について(通知)」により、請求人の本件介護事業の計画を適当と認める旨の通知を受けた。
ニ 請求人は、平成19年11月29日にG社との間において、グループホームH(以下「本件施設」という。)の新築工事に係る工事請負契約を締結し、平成20年5月21日に本件施設の引渡しを受けた。
ホ 請求人の平成20年4月24日付の臨時社員総会議事録には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) かねてより計画中であった高齢者のための本件施設が、5月中に完成引渡しになるため、その完成引渡し後は、計画どおり、以下の内容のような事業を実施していくことを説明した。
A 日中は高齢者が集い、レクリエーションや、食事サービス、入浴サービス等を提供する。
B 夜間はショートステイとして一時的に宿泊施設として利用させ、場合によっては、長期の受入れ施設(仮の住居/住まい)としてのサービスを提供する。
(ロ) 本件施設の開設と並行し、F市に地域密着型サービス事業の指定申請を行い、将来的にF市から指定を受けた際には、その指定内容に沿って、地域密着型サービス事業の事業所として、本件施設の利用を変更していきたいことを説明した。
ヘ 請求人は、平成20年4月28日に「消費税課税期間特例選択届出書」及び「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出し、同年5月1日以後について、課税期間を1か月とすることとし、簡易課税制度選択の適用をやめることとした。
ト 請求人は、本件施設において本件介護事業を行うため、平成20年5月12日にF市長に対し、介護保険法に規定する地域密着型サービス事業を行う事業所の指定を受けるための指定申請書(以下「本件申請書」という。)に事業開始予定年月日を同年6月1日と記載して提出し、本件申請書に対する同年5月28日付の指定通知書(以下「本件指定通知書」という。)を受理した。
 なお、本件指定通知書には、指定年月日が平成20年6月1日と記載されている。
チ 請求人は、平成20年5月12日にJ社との間において、自動販売機の設置及びその運用に係る自動販売機設置契約(以下「本件設置契約」という。)を締結した。
 そして、請求人は、本件設置契約に基づき、清涼飲料製品に係る自動販売機を本件施設の玄関前に設置した。
 なお、請求人は、本件課税期間における自動販売機設置に係る手数料として2,173円を得た。
リ 請求人は、本件課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないことから、個別対応方式における用途区分について、本件施設及び附属の構築物並びに本件施設内に設置する什器及び備品等の購入といった課税仕入れ(以下「本件課税仕入れ」という。)を、別表2の「請求人の申告額」欄のとおり、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税用」という。)に区分し、別表3の「請求人」欄のとおり、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れ等の税額(控除対象仕入税額)を計算して、本件課税期間の消費税等の申告書を提出した。
ヌ 原処分庁は、これに対し、個別対応方式における用途区分について、本件課税仕入れは、別表2の「原処分庁調査額」欄のとおり、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「共通用」という。)に区分されるとして、別表3の「原処分庁」欄のとおり控除対象仕入税額を計算して、本件更正処分等をした。

トップに戻る

2 争点

 本件課税仕入れは、共通用に区分されるか否か。

トップに戻る

3 主張

(1) 原処分庁

 請求人は、本件介護事業に応募した平成19年2月22日において、F市長から、本件介護事業を行う事業者として指定を受けることを企図していたものと認められる。
 そして、F市は、請求人の本件介護事業の計画を適当と認め、その旨を平成19年3月26日付で通知していたことからすると、請求人は、本件課税期間より前の時点において、F市長から、本件施設において本件介護事業を行うことのできる事業者としての指定を受けることを認識していたものとうかがわれる。
 さらに、請求人が本件施設の引渡し後において、入居者等の募集を行っていたとする事実は認められず、一方、請求人は、平成20年5月12日にF市長あて本件申請書を提出していることからすれば、本件申請書の提出は、本件介護事業を行う事業所としての指定を受ける旨のF市長に対する確定的な意思表示であり、請求人は、本件課税期間において、本件介護事業を行う事業所としての指定を確実に受けることができることを十分に認識していたものとみるのが相当である。
 そうすると、請求人は、本件課税期間において、本件介護事業を行う事業所としての指定に基づき、本件介護事業を行うことを目的として本件施設を建設し、引渡しを受けたものと認められる。
 したがって、本件課税期間における本件施設に係る課税資産の譲渡等は、本件設置契約に基づく自動販売機の設置場所の貸付けのみしかないが、本件施設を建設し引渡しを受ける目的が本件介護事業を行うことであると認められることを勘案して判断すると、本件課税仕入れは、共通用に区分される。

(2) 請求人

 請求人は、本件課税期間において、本件施設の用途については、介護保険法上の指定を受けていない高齢者施設として供することを、平成20年4月24日の臨時社員総会で意思決定し、その後、本件施設を営業している。
 また、請求人は、F市に対して本件施設を本件介護事業のできる施設として指定されるよう申請を行っているが、消費税法第30条第1項の課税仕入れを行った日の属する課税期間においては、飽くまでも申請を行っているのみであり、当該申請の結果、F市から平成20年6月1日、本件介護事業のできる施設として指定を受けたものであり、この日をもって、既に営業を行っている介護保険法上の指定を受けていない高齢者施設を、本件介護事業のできる施設に転用することが可能となるのである。
 そして、請求人は、本件介護事業の指定を受けた場合、本件施設の用途区分の変更、つまり、転用を行うことを平成20年4月24日の臨時社員総会で意思決定しており、その決定に基づき、同年6月1日以降、本件介護事業を行う施設として運営を始めている。
 以上のことから、請求人は、本件課税期間においては介護保険法上の指定を受けていないため、本件施設で介護保険事業を行うことは不可能であり、本件課税期間における本件施設に係る課税資産の譲渡等は、本件設置契約に基づく自動販売機設置手数料のみしかないが、本件施設は飽くまでも課税用として供しており、本件課税仕入れは、課税用に区分される。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈等

イ 消費税法第30条第1項は、事業者が国内において行う課税仕入れについて、同項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定し、同項第1号は、課税仕入れに係る消費税額は、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間において控除する旨規定している。
ロ そして、消費税法第30条第2項は、第1項に規定する課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない場合に、第1項の規定により控除する「課税仕入れ等の税額の合計額」の計算方法を規定しており、同条第2項第1号は、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、課税用、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「非課税用」という。)及び共通用にその区分が明らかにされている場合の計算方法として、個々の課税仕入れについて課税用、非課税用又は共通用に区分した上で、課税用に係る消費税額と、共通用に係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額の合計額とする方法(個別対応方式)による旨規定している。
ハ 消費税法基本通達11−2−20は、個別対応方式により課税仕入れ等の税額を計算する場合における用途区分の判定について、課税仕入れを行った日の状況により行うこととなる旨定めているところ、当該取扱いは当審判所においても相当と認められる。

(2) 前記1の(4)の事実を上記(1)及び関係法令等に照らして判断すると、次のとおりである。

イ 上記(1)のハのとおり、消費税法基本通達11−2−20は、用途区分の判定について、課税仕入れを行った日の状況により行うこととなる旨定めているところ、この課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れを行う目的や当該課税仕入れに対応する資産の譲渡等がある場合には、その資産の譲渡等の内容等を勘案して判断するのが相当と認められる。請求人は、1前記1の(4)のロないしニのとおり、平成19年2月22日にF市介護保険施設整備計画に基づく認知症対応型共同生活介護の事業予定者に応募し、同年3月26日付で、F市の介護保険施設整備計画に基づく本件介護事業の適正事業者の決定を受け、同年11月29日に本件施設の工事請負契約を締結して本件施設の新築工事に着工し、平成20年5月21日に引渡しを受けたこと及び、2前記1の(4)のトのとおり、平成20年5月12日に本件申請書にその事業開始予定年月日を同年6月1日と記載して提出し、本件指定通知書を受理していることからすれば、請求人は、本件施設の取得日において、介護保険法の規定に基づく介護事業を行う目的で本件施設を取得したものとみるのが相当である。
 そして、本件介護事業は、介護保険法第8条第18項に規定する認知症対応型共同生活介護に該当し、消費税法第6条、別表第一第7号イ及び消費税法施行令第14条の2第3項第2号の規定により、本件介護事業に係る資産の譲渡等については、原則として消費税は課されないこととなる。
 もっとも、請求人の行う本件介護事業に伴って種々の課税資産の譲渡等が生ずるのが通常であることからすると、本件課税仕入れについて、非課税用とみることはできない。
 現に、請求人は、本件課税期間内において、前記1の(4)のチのとおり、自動販売機設置手数料を得ており、課税資産の譲渡等を行っているところである。
 以上のことから、本件課税仕入れに係る個別対応方式の適用における用途区分については、共通用に区分するのが相当である。
ロ これに対し、請求人は、本件課税期間においては介護保険法上の指定を受けていないため、本件施設で本件介護事業を行うことは不可能であり、本件課税期間における本件施設に係る課税資産の譲渡等は自動販売機設置手数料のみしかないが、本件施設は飽くまでも課税用として供しており、本件課税仕入れは課税用に区分される旨主張する。
 しかしながら、請求人は、原則として消費税が課されない介護事業を行う目的で本件施設を取得したものと認められることは上記イで述べたとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分について

 以上のとおり、本件課税仕入れは共通用に区分され、これにより本件課税期間の課税仕入れ等の税額を算定すると、別表3の「原処分庁」欄の「控除対象仕入税額」欄と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る