(平成23年2月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営んでいる審査請求人(以下「請求人」という。)が、建物の賃貸借契約の終了に伴い生じた債務免除益は3年以上の期間の不動産所得の補償であり、臨時所得に該当するとして、所得税法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》の規定を適用して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該債務免除益は臨時所得に該当しないとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該各処分に不服があるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 確定申告
 請求人は、原処分庁に対し、平成20年分の所得税について、青色の確定申告書により、別表1の「確定申告」欄のとおり、法定申告期限までに確定申告をした。
ロ 処分
 原処分庁は、平成20年分の所得税について、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成22年3月2日付で、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 審査請求
 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成22年4月8日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 住宅等譲渡・賃貸借契約の内容等
 請求人及び請求人の妻C(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)は、E社F支社との間で、昭和63年9月9日に、要旨次のとおりの内容の住宅等の譲渡及び住宅の賃貸借に関する契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
(イ) F支社は、請求人らの所有するa市c町○−○所在の土地に5階建ての建物1棟(以下「本件建物」という。)を建設し、割賦金総額等確定契約の締結と同時に請求人らに譲渡するとともに、請求人らから本件建物のうち住宅部分(以下「本件住宅」という。)を一定期間賃借して、これを○○住宅として使用する。
(ロ) 本件住宅の譲渡の対価として請求人らがF支社に支払う割賦金総額(以下「本件割賦金総額」という。)及び割賦金の額等の確定は、請求人ら及びF支社間の割賦金総額等確定契約の締結によって行い、割賦払の回数は70回とする。
(ハ) 本件住宅の賃借期間は、割賦金総額等確定契約締結の日から20年間とする。また、本件住宅の賃借期間満了の日の3年前までに、請求人ら又はF支社の申出により、請求人ら及びF支社は、協議の上、更に5年、10年又は15年のいずれか1回に限り賃借期間を更新することができる。
(ニ) 請求人ら及びF支社は、本件住宅の賃借料(以下「本件賃借料」という。)と本件住宅に係る割賦金支払債務の対当額を相殺し、残額がある場合には、請求人ら又はF支社は相手方に残額を支払うものとする。
ロ 割賦金総額等確定契約の内容等
 請求人らは、F支社との間で、平成元年7月12日に、要旨次のとおりの内容の本件建物の譲渡代金、本件賃借料及び割賦金並びにこれらの支払方法についての契約(以下「本件譲渡代金等確定契約」という。)を締結した。
(イ) 本件建物の譲渡代金は、315,087,410円とし、うち本件住宅の譲渡代金は、292,992,170円とする。
(ロ) 請求人らは、上記(イ)の本件住宅の譲渡代金を割賦の方法により支払うものとし、本件割賦金総額は、582,684,200円(うち割賦利息の額289,692,030円)とする。
(ハ) F支社は、本件住宅を、平成元年7月12日から平成21年7月11日までの間(以下「本件賃借期間」という。)、請求人らから賃借するものとし、本件賃借料及び割賦金の支払期日並びにこれらの相殺の時期は、毎年4月(平成元年は7月)分から9月(平成21年は7月)分までを9月25日と、10月分から翌年3月分までを翌年3月25日とする。また、本件賃借期間経過後は、割賦金の支払期日を毎年3月25日及び9月25日とする。
ハ 割賦元金残高の一部免除の申請状況等
 請求人らは、F支社に対して、本件賃貸借契約の賃借期間を15年延長するよう更新を申し出たが、拒まれたため、平成20年8月21日に「割賦元金残高一部免除申請書」と題する書面(以下「本件免除申請書」という。)を提出し、割賦元金残高のうち○○○○円の免除を申請した。
ニ 本件譲渡代金等確定契約の一部を変更する契約の内容等
 請求人らは、F支社との間で、平成20年11月25日付の「Gの返還に関する覚書」と題する覚書(以下「本件覚書」という。)及び同年12月9日付の「譲渡代金確定契約の一部を変更する契約書」と題する契約書を取り交わし、要旨次のとおりの内容の本件譲渡代金等確定契約の一部を変更する契約(以下「本件変更契約」という。)を締結した。
(イ) F支社は、本件賃借期間の満了日である平成21年7月11日をもって、請求人らに対し、本件住宅を返還する。
(ロ) F支社は、請求人らがF支社に支払う本件住宅の譲渡代金のうち、平成20年9月25日の割賦金支払後の割賦元金残高177,373,892円の一部の支払を免除して○○○○円に変更する(以下「本件債務免除」といい、その免除益を「本件債務免除益」という。)。
(ハ) 本件変更契約は、平成20年11月25日から有効とする。

トップに戻る

2 争点

 本件債務免除益は、3年以上の期間の不動産所得の補償に該当するか否か。

トップに戻る

3 主張

 当事者双方の主張は、別紙2のとおりである。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈

 臨時所得を規定する所得税法施行令第8条第3号にいう3年以上の期間の補償に該当するか否かは、補償に係る契約等において、補償の期間が明らかであり、その内容も相当と認められるような場合には、その契約等において示された期間によって判定するのが相当であるが、補償の期間が契約等において示されず又は契約等で示されているもののその内容が相当と認められない場合には、補償に至った各種の事情等を総合的にみて、補償に係る金額の算定の基礎とされるべき内容及びその金額に基づき、補償に係る金額が3年以上の期間の補償に該当するのかを判定するのが相当と解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 割賦元金の一部返済免除の趣旨及び要件
 E社が作成した「○○住宅の返還協議について」と題する返還協議の実施方法等を記載した書面によれば、E社は、○○住宅について、E社と建物所有者との賃貸借契約に定める賃借期間(20年間)の満了をもって建物所有者に建物を返還することを基本とした上で、返還に当たっての建物所有者との協議に関する方針を定めており、これによれば、E社は、建物所有者との○○住宅の返還に係る協議の中で、建物所有者から割賦元金の一部返済免除等の要望等があった場合には、協議の円滑な実施及び建物所有者の自立的な賃貸住宅経営を可能とするために、割賦元金の一部返済免除等の措置を講ずることができたことが認められる。
 また、E社が作成した「○○住宅を返還する場合の取扱要領について」及び「○○住宅を返還する場合の取扱要領の運用について」と題する取扱要領によれば、E社は、当該取扱要領で、E社と建物所有者との賃貸借契約に定める賃借期間(確定契約締結の日から20年間)の満了をもって建物所有者に建物を返還するに当たっての建物所有者との協議及び返還に関する業務等についての処理要領を定めており、これによれば、F支社の支社長は、建物所有者との○○住宅の返還に係る協議において、建物所有者から割賦金の一部返済免除の申出があった場合で、かつ、建物所有者の○○住宅から得られる賃貸料収入、維持管理等費用及び割賦金返済額等を勘案し、○○住宅の賃貸経営が困難(維持管理等費用及び割賦金返済額等を勘案し算定した額が本件住宅の賃貸料収入を上回る)と認められる場合には、まる1建物所有者が、一部返済免除後の割賦元金の残高について、E社に対して全部繰上償還すること、まる2賃借期間の満了をもって賃貸借契約を終了することを条件として、E社の理事長の承認を得た上で、割賦金のうち割賦元金の一部の返済を免除する措置を講ずることができたことが認められる。
ロ 請求人らによる債務免除希望額の算定内容
 本件免除申請書に添付された「G収支推定資料」と題する書面によれば、請求人らは、本件住宅に係る年間の賃貸料収入の見込金額(年間18,117,120円)から、本件住宅に係る年間の支出金額(割賦元金残高の全部又は一部を○○○○からの借入れ(年利3.75%、元金15年均等返済)により完済した場合の借入金の年間返済額、修繕費、固定資産税(建物分1,373,722円、土地分303,423円)、火災保険料)を控除した差額が黒字になり、賃貸経営が成り立つ最低条件は、別表2のとおり、○○○○からの借入金の額が○○○○円のときであるから、平成20年9月末の割賦元金残高177,373,892円から○○○○円を差し引いた概算額○○○○円を債務免除の希望額としたことが認められる。
ハ 平成20年度の本件賃借料の額等
(イ) 請求人らに支払われた平成20年度(平成20年4月1日から平成21年3月31日までの期間)における本件賃借料の額は、平成20年9月25日支払分(同年4月分から同年9月分まで)が○○○○円及び平成21年3月25日支払分(平成20年10月分から平成21年3月分まで)が○○○○円の合計○○○○円である。
(ロ) F支社が作成した「G団地概要」及びF支社の職員であるHの当審判所に対する答述によれば、F支社と本件住宅の入居者との間で締結した賃貸住宅賃貸借契約(以下「本件賃貸住宅賃貸借契約」という。)により、平成20年度においてF支社が入居者から受領した賃貸料の額及びF支社が負担した修繕費の額は、別表3のとおりと認められる。
ニ 賃貸人たる地位の承継等
 F支社が作成し、本件住宅の入居者に配付した「○○住宅Gの返還に伴う賃貸住宅賃貸借契約に基づく賃貸人の地位の継承に関する通知及び必要となる手続き等についてのご案内」には、要旨次のとおり記載されていることから、本件賃貸借契約の終了に伴い、本件賃貸住宅賃貸借契約に係る賃貸人たる地位はF支社から請求人らに移り、本件住宅の入居者は居住を継続できる状態であったことが認められる。
(イ) 本件住宅については、平成21年7月11日をもって、地権者及び建物所有者である請求人らに返還することとなるが、本件賃貸住宅賃貸借契約に基づく賃貸人としてのF支社の地位は、本件住宅の返還と同時に請求人らに承継される。
(ロ) 入居者は、本件住宅の返還後も引き続き居住することができるが、当該地位の承継に伴い、F支社が保有する本件賃貸住宅賃貸借契約に係る契約書を請求人らに引き渡す。
(ハ) 本件住宅の返還後は、本件賃貸住宅賃貸借契約の契約条項に定められた賃貸条件については何ら変更がないが、本件賃貸住宅賃貸借契約の契約条項に定められた内容以外の取扱い(継続家賃の改定ルール等)については、請求人らが定める新たな取扱いに移行する。

(3) 本件への当てはめ

イ 本件債務免除益に係る経済的利益の所得分類
 上記(2)のイのとおり、E社は、本件賃借期間の満了をもって請求人らに本件住宅を返還するに当たり、請求人らとの協議において、請求人らから割賦元金の一部返済免除の申出があり、請求人らの本件賃借期間満了後の本件住宅の賃貸経営が困難と認められる場合に、割賦元金の一部返済免除の措置を講じることができたところ、請求人らが、前記1の(4)のハ及び上記(2)のロのとおり、割賦元金の一部返済免除の申請をしたため、F支社は、E社の承認を得て、上記の要件に該当するとして、前記1の(4)のニの(ロ)のとおり本件債務免除を行った。
 また、本件債務免除の趣旨は、前記1の(4)のニ及び上記(2)によれば、本件賃貸借契約の終了後、本件住宅の入居者から直接賃貸料を受領することになるものの、本件住宅に係る修繕費(以下「本件修繕費」という。)を負担することとなるため、実質的には減収となる上、割賦金の返済に代わる銀行借入返済額も控除すると赤字になってしまう請求人らの、本件賃借期間満了後の不動産貸付業に係る銀行借入金の返済額が減少するように割賦元金残高を減額して、その収支の改善を図るものであったと認められる。
 したがって、本件債務免除益は、本件賃貸借契約の終了により発生する請求人らの不動産貸付業務に係る収益の減収分を補償する補償金であると認めるのが相当であり、所得税法施行令第94条第1項第2号の規定により、不動産所得を生ずべき業務の一部の転換により当該業務の収益の補償として取得する補償金に類するものとして、不動産所得に係る収入金額となる。
ロ 本件債務免除に係る補償の期間
 本件債務免除は、上記イのとおり、請求人らの不動産貸付業務に係る収益の減収分を補償するものであり、上記(2)のロのとおり、請求人らは、○○○○から15年の返済期間で借入れをして割賦元金残高を返済した場合の試算を行ったことが認められるものの、前記1の(4)のニのとおり、本件覚書及び本件変更契約からは、本件債務免除に係る補償の期間(以下「本件補償対象期間」という。)について、請求人らがF支社との間で本件補償対象期間を3年以上として合意した事実は認められないところ、上記(1)によれば、補償に係る契約等において、補償の期間が明らかでない場合には、その補償に至った各種の事情等を総合的にみて、補償に係る金額の算定の基礎とされるべき内容及びその金額に基づき、補償に係る金額が3年以上の期間の補償に該当するのかを判定するのが相当であるので、これにより本件補償対象期間を算定した結果は、以下のとおりである。
(イ) まる1上記(2)のニのとおり、本件賃貸借契約の終了に伴い、本件賃貸住宅賃貸借契約に係る賃貸人たる地位はF支社から請求人らに移り、請求人らはF支社に代わり、本件住宅の入居者から直接賃貸料を受領することとなったこと、まる2同ハの(ロ)のとおり、本件修繕費については、本件賃借期間中はF支社の負担であったのに対し、本件賃貸借契約の終了後は請求人らの負担となること、まる3上記イのとおり、これらの収支の変化を踏まえて、その改善を図るために本件債務免除がなされたことを総合してみると、本件における請求人らの減収分とは、本件賃貸借契約の終了によりF支社から受領することができなくなる本件賃借料の額ではなく、本件賃借料の額とF支社が入居者から受領していた賃貸料の額からF支社が負担していた本件修繕費の額を控除した額との差額であると認められる。
(ロ) 本件補償対象期間を算定する上で、上記(イ)の差額は、本件賃貸借契約が終了となる時点に近い年度分の実績を基に算定するのが合理的であるところ、上記(2)のハのとおり、平成20年度における本件賃借料の額は、○○○○円であり、F支社が平成20年度に入居者から受領した賃貸料の額及びF支社が負担した本件修繕費の額は、別表3のとおり、それぞれ21,508,932円及び4,055,993円である。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)のことから、請求人らの1年当たりの減収額(以下「本件減収額」という。)は、別表4のとおり○○○○円となるので、本件補償対象期間は、同表のとおり12.1年となる。
ハ 結論
 上記ロのとおり、本件補償対象期間は12.1年となり、本件債務免除益は、3年以上の期間の不動産所得の補償に該当する。

(4) 原処分庁主張の採否

 原処分庁は、別紙2の「原処分庁」欄の1のとおり、本件債務免除により補償されたのは請求人らがF支社から受領する年間賃貸料である旨主張する。
 しかしながら、補償に係る契約等において、補償に係る金額が3年以上の期間の補償に該当するか否かの判定については、上記(1)のとおりであり、例えば、賃借人が賃借物件を転貸しており、賃貸人との賃貸借契約期間の満了後は、賃貸人が、転借人との間で新たに賃貸借契約を結び、転貸人の地位を承継することに伴い補償されたような場合で、その内容が不動産貸付業務の形態の転換に伴い減少することとなる収入の額又は新たに負担することとなる費用の額を考慮した補償と認められる場合であれば、補償に係る金額が、減少することとなる収入の額又は新たに負担することとなる費用の額の3年以上の期間に相当する金額であるか否かで、3年以上の期間の補償に該当するのかを判定するのが相当である。
 したがって、上記(3)のロのとおり、本件賃貸借契約の終了に伴い、本件賃貸住宅賃貸借契約に係る賃貸人たる地位をF支社から承継し、F支社に代わって本件住宅の入居者から賃貸料収入を得ることができた請求人らに係る本件減収額は、本件賃借料の額とF支社が入居者から受領していた賃貸料の額からF支社が負担していた本件修繕費の額を控除した額との差額とするのが相当であり、本件減収額を本件賃借料の額とする原処分庁の主張は採用できない。

(5) 本件更正処分の適法性

 上記(3)のハのとおり、本件債務免除益は、3年以上の期間の不動産所得の補償に該当するので、臨時所得に該当し、また、本件債務免除益の金額は、請求人の平成20年分の総所得金額の20パーセント以上となっているので、所得税法第90条に規定する平均課税が適用され、請求人の納付すべき税額は、確定申告額のとおりとなる。
 したがって、本件更正処分は、その全部が取り消されるべきである。

(6) 本件賦課決定処分の適法性

 上記(5)のとおり、本件更正処分は、その全部が取り消されるべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部が取り消されるべきである。

トップに戻る

トップに戻る