(平成23年1月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、経常利益が対前年比で6%減少したことを理由として代表取締役に対して支給していた法人税法第34条《役員給与の損金不算入》第1項第1号に規定する定期同額給与を事業年度の中途において減額改定したところ、原処分庁が改定理由が経営状況の著しい悪化等に該当しないから、減額前の各月の支給額のうち減額後の各月の支給額を超える部分の金額は損金の額に算入できないなどとして法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対して、これらの処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年8月1日から平成20年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、所得金額を○○○○円、差引所得に対する法人税額を○○○○円と記載した青色の確定申告書を法定申告期限までに、D税務署長へ提出した。
ロ 請求人は、平成20年10月1日に本店所在地をP市Q町○−○から肩書地に移転した。
ハ 原処分庁は、平成22年7月6日付で本件事業年度の所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成22年7月28日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 法人税法第34条第1項は、内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与等を除く。)のうち、同項第1号から第3号までに規定する給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の損金の額に算入しない旨規定し、同項第1号に規定する定期同額給与とは、その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」という。)で各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与をいう旨規定している。
ロ 法人税法施行令第69条《定期同額給与の範囲等》第1項は、法人税法第34条第1項第1号に規定する政令で定める給与とは、定期給与で、事業年度の中途において給与改定が行われた場合における当該給与改定の前後それぞれの期間の各支給時期における支給額が同額であるもの(第1号)、継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものをいうとし(第2号)、同項第1号に規定する給与改定とは、まる1同号イにおいて、その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日までにされた改定、まる2同号ロにおいて、役員の職制上の地位の変更等による改定、まる3同号ハにおいて、内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(以下「業績悪化改定事由」という。)による改定をいうものとしている。
ハ 法人税基本通達9−2−13《経営の状況の著しい悪化に類する理由》は、上記ロのまる3の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれない旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、心身の緊張を緩和するマッサージ等の役務の提供を行うことを主な業務として、昭和62年2月○日に設立された資本金5,000万円の法人である。なお、請求人は、平成20年10月○日に商号をE社から現商号に変更している。
ロ 平成20年7月末現在の請求人の株式は、請求人の代表取締役B及びその母Fによって、そのすべてが保有されていた。
ハ 請求人は、本件事業年度の決算月(平成20年7月)の前月である平成20年6月○日に開催された取締役会(以下「本件取締役会」という。)において、Bの給与を月額○○○○円から○○○○円に減額する改定決議(以下「本件減額改定決議」という。)を行い、減額後の金額を同年6月及び7月の各支給日に支給した。

(5) 争点

 本件減額改定決議の理由(経常利益が対前年比で6%減少したこと)が業績悪化改定事由に該当するか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 決算月の2か月前(平成20年5月)における経常利益が対前年比で6%減少している状況は、業績悪化改定事由に該当する。

(2) 原処分庁

 請求人がいう経常利益が対前年比で6%減少したという状況は、単に業績目標に達しなかったものであり、経営状況が著しく悪化した状況とはいえないから、業績悪化改定事由に該当しない。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 法人税法第34条第1項第1号は、定期同額給与を損金不算入となる役員給与から除いているところ、定期同額給与には、法人税法施行令第69条第1項第1号ハで規定する事業年度の中途において業績悪化改定事由による給与改定が行われた場合の当該給与改定の前後それぞれの期間において各支給時期の支給額が同額である定期給与が含まれる。
 これは、役員給与のように支給される者が支給額を決定できるような性質の経費について、損金算入を安易に認め、結果として法人の税負担の減少を容認することは課税の公平の観点から問題があることなどから、法人税法においては、従来から役員給与の支給のし意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠であると考えられており、損金算入される役員給与の範囲を制限すべく、外形的基準として定期同額給与が定められているのであるが、定期同額給与について、事業年度の中途で給与改定がされた場合であっても、それが業績悪化改定事由によるものである場合には、当該給与改定の前後それぞれの期間における各支給時期の支給額が同額である限り、当該給与改定にはやむを得ない理由があり、し意性はないと考えられるので、役員給与の損金不算入の規定を適用しないことにしたものと解される。
ロ したがって、上記1の(3)のロの業績悪化改定事由に該当するか否かについては、定額で支給されていた役員給与の額を減額せざるを得ないやむを得ない事情が存するかどうかにより判定することになると解される。そうであるから、法人税基本通達9−2−13が、経営の状況の著しい悪化に類する理由について「やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情がある」かどうかという客観的な事情の有無などにより判断することとし、「一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれない」としていることは、法人税法における役員給与のし意的な支給を排除するという趣旨に沿うものであり、当審判所においても相当であると認められる。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が毎月作成している月次損益計算書によれば、請求人の本件事業年度の各月末における売上高計、売上原価、売上総利益、販売管理費計、営業利益及び経常利益の各累計額及びその対前年割合(当年度の各月までの累計額÷前年度同月までの累計額×100。以下同じ。)は、別表1のとおりであり、請求人が根拠とする平成20年5月の月次損益計算書(以下「本件5月次損益計算書」という。)における経常利益に係る対前年割合は94.2%である。
 また、請求人の本件事業年度及びその前6事業年度の決算内容は、別表2のとおりであるところ、本件事業年度の売上高は約○○○○円とこれらの各事業年度の中で最も多額なものであり、経常利益も約○○○○円とこれらの各事業年度の中で2番目に多額なものとなっている。
ロ 請求人の監査役G及び財務部係長Jの答述及び本件取締役会の議事録によれば、まる1本件事業年度においては経常利益が前年実績に比して下回ったものの、請求人の業績を悪化させたと認められる特段の事情は生じていないこと、まる2請求人は経常利益が前年実績を上回ることを業務目標としており、本件5月次損益計算書の経常利益が対前年割合で6%減少したことから、代表取締役の経営責任を示すとのBの申出に基づいてその給与を減額したこと、まる3請求人の役員の中で給与の減額があったのはBのみであることが認められる。

(3) 本件へのあてはめ

 事業年度の中途において行う役員給与の減額改定の理由が業績悪化改定事由に当たるか否かについては、上記(1)のロのとおり、定額で支給されていた役員給与の額を減額せざるを得ないやむを得ない事情が存するかどうかにより判定することになると解されるところ、本件においては、まる1上記(2)のイのとおり、一定期間の経営成績を表示する本件5月次損益計算書の経常利益の対前年割合が94.2%と若干の下落があるものの著しい悪化というほどのものではないこと、本件事業年度及びその前6事業年度において、本件事業年度の最終的な売上高が最高額であり、経常利益も2番目に高いものであって、その前6事業年度と比較して遜色のない業績であること、また、まる2上記(2)のロのとおり、本件取締役会によるBの給与の減額については、同人自らの申出に基づき、本件5月次損益計算書の経常利益が請求人の設定した業務目標に達しなかったことを理由としてなされたものであり請求人の業績が著しく悪化したことを理由とするものではないこと等からすれば、請求人の主張する経常利益が対前年割合で6%減少したことのみをもって、本件事業年度の中途である平成20年5月の時点において経営の状況の著しい悪化や業績悪化が原因でやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情にあったと認めることはできず、上記理由以外に役員給与を減額せざるを得ない特段の事情が生じていたと認めるに足る事実はない。
 したがって、請求人が減額改定の根拠とする理由は、単に業績目標値に達しなかったということに過ぎないものと評価するのが相当であり、法人税法施行令第69条第1項第1号ハに規定する業績悪化改定事由には該当しない。これは、当審判所が相当と判断した法人税基本通達9−2−13に照らして判断しても同様である。

(4) 請求人の主張について

 請求人は、本件取締役会の開催時点においては、いまだ国税庁から業績悪化改定事由に関する具体的な判断基準が示されていなかったのであるから、請求人自らが業績悪化改定事由について判断したのであり、その判断は認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件の業績悪化改定事由に関して、国税庁は、本件取締役会の開催前である平成19年3月には「平成19年3月13日付課法2−3ほか1課共同 法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」の中で法人税基本通達9−2−13を新設した旨を公表し、平成19年11月には「平成19年3月13日付課法2−3ほか1課共同 法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)の趣旨説明」として、当該法人税基本通達9−2−13の執行上の取扱いに係る情報をホームページ上において公表しているところ、請求人はこれらを判断の参考とすることができる状況にあったから、請求人の主張はその前提を誤るものである。また、国税庁が法令に関して具体的な判断基準を示していなかったとしても、個々の納税者が法令の文言や趣旨から離れて独自の解釈や判断を行うことは許されないところ、当審判所の判断は上記(3)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件更正処分について

 上記(3)のとおり、請求人が代表取締役の給与を減額改定した理由は業績悪化改定事由に該当しないことから、本件事業年度におけるBの減額改定後の給与の額を定期同額給与の額として、これを超える部分の額を定期同額給与に該当しないものとして行った本件更正処分は適法である。

(6) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(5)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定処分をした本件賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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