(平成23年3月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、賃貸用マンションの取得に係る課税仕入れについて、当該賃貸用マンションは信託受益権の売却を目的として取得したものであるから、個別対応方式による控除対象仕入税額の計算上、課税資産の譲渡等にのみ要するものに当たるとして消費税及び地方消費税の申告をしたところ、原処分庁が、当該課税仕入れは、売却目的と賃貸目的を併せ持つものであり、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに当たるとして更正処分等を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成21年5月○日に吸収合併したD社の平成20年7月1日から平成21年5月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告(以下「本件確定申告」という。)をした。
ロ 原処分庁は、これに対し、別表1の「更正処分等」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成22年1月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月11日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、平成22年4月1日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

イ D社は、本件課税期間において、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定の適用を受けない事業者である。
ロ D社は、平成19年11月○日に、E社との間で、d市e町の土地に居住用ワンルームマンションの建物(以下「本件建物」という。)及びこれに付属する機械式駐車場を請負金額○○○○円で建築し、平成20年8月11日に引渡しを受ける旨の工事請負契約を締結した。
ハ D社は、平成19年12月○日に、F社との間で、要旨別紙3のとおり、本件建物及びこれに付属する機械式駐車場(その敷地を含む。以下「本件マンション」という。)を信託財産として、D社が信託受託者との間で締結する予定の不動産管理信託契約又は不動産管理処分信託契約に係る信託受益権(以下「本件信託受益権」という。)をF社に譲り渡す旨の信託受益権売買契約(以下「本件受益権売買契約」といい、本件受益権売買契約に係る契約書を「本件受益権売買契約書」という。)を締結した。
ニ D社は、平成20年8月11日に、f県水道局に対し、本件マンションに水道を引くための建築物負担金○○○○円及び給水申込納付金○○○○円(以下、これらを併せて「本件負担金等」という。)を支払い、本件マンションに係る水道施設利用権(以下「本件水道施設利用権」という。)を取得した。
ホ F社は、平成20年9月○日に、G地方裁判所に破産手続開始の申立てをしたところ、同裁判所は、同日、破産手続開始の決定をした。
ヘ D社は、平成20年9月30日に、E社から本件建物の引渡しを受けた。また、D社は、同日、H社との間で、本件マンションの賃貸借業務管理委託契約(以下「本件管理委託契約」という。)を締結した。
ト D社は、平成20年10月3日に、F社に対し、確答期限を同月31日として、破産法第53条第2項に規定する催告を行った。
チ D社は、平成20年10月20日に、H社の仲介を受けて、S及びTとの間で、本件マンションの貸室賃貸借契約をそれぞれ締結し、同日から本件マンションの賃貸を開始した。
リ D社は、上記トの催告に対するF社からの確答がなかったことから、本件受益権売買契約が解除されたものとみなし、その後、平成21年6月○日に、Jに本件マンションを譲渡した。
ヌ 請求人は、本件課税期間の課税売上割合が100分の95に満たないことから、消費税法第30条第2項に規定する課税標準額に対する消費税額から控除される課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を同項第1号に規定する方法(以下「個別対応方式」という。)により計算し、本件確定申告をした。
 なお、請求人は、本件建物及び本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れが、消費税法第30条第2項第1号に規定する課税資産の譲渡等にのみ要するものに当たるとして控除対象仕入税額の計算をした(以下、同号に規定する課税仕入れの区分を「用途区分」という。)。
ル 原処分庁は、これに対し、本件建物及び本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れが、消費税法第30条第2項第1号に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに当たるとして、本件更正処分等をした。

(5) 争点

 本件建物及び本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等にのみ要するもの又は課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもののいずれに当たるか。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件信託受益権の売買予定日が平成20年10月末日であることからすると、D社が本件建物の引渡しを受けた同年9月30日において、同年10月末日までに本件マンションの賃料収入が発生することが見込まれていたと認められ、また、実際にD社は、平成20年10月末日までに本件マンションの賃料収入を得ている。そうすると、D社は、本件建物の引渡日において、本件マンションを販売する目的だけではなく、住宅として貸し付けることも併せてその目的として仕入れたものと認められるから、本件建物の取得に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに当たる。
 また、D社は、平成20年8月11日に本件負担金等を支払っているところ、本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れについても、本件建物の取得に係る課税仕入れと同様に、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに当たる。

(2) 請求人

 課税仕入れについての用途区分の判定は、課税仕入れを行った日の状況により行うこととされているところ、次のとおり、本件建物及び本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等にのみ要するものに当たる。
イ 本件受益権売買契約書において、本件マンションに係る信託受益権を平成20年10月末日にF社に対して売却する旨が定められているとおり、本件建物は、当初から信託受益権の売買を目的として取得したものであり、D社が自らの賃料収入を得ることを目的として取得したものではない。
 なお、F社は、平成20年9月○日にG地方裁判所に破産手続開始の申立てをしたが、破産によって直ちに会社が継続できないというものではなく、また、D社は、同年10月3日付でF社に破産法第53条第2項に規定する催告を行っているところ、同条第1項の規定によれば、本件建物の引渡日である同年9月30日現在においては、本件受益権売買契約は有効に存在しており、契約当事者はその契約内容の履行を完了しなければならないのであるから、本件建物の取得が信託受益権の売買を目的としたものであることには変わりがない。
ロ 本件建物を取得した日から本件信託受益権の売買日までの間が1か月と短期間である上、本件建物の取得日である平成20年9月30日現在において、本件マンションに係る賃貸借契約が締結された事実がなく、D社に賃料収入が発生する見込みもなかった。
ハ 本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れは、本件建物に関する課税仕入れであるから、本件建物の取得に係る課税仕入れと同様に、課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当する。

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3 判断

(1) 法令解釈

 消費税法第30条第1項第1号は、課税仕入れに係る消費税額の控除をする課税期間を課税仕入れを行った日を基準に規定しており、これを前提に同条第2項第1号は、その課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、その用途区分が明らかにされている場合に、個別対応方式により控除対象仕入税額の計算をする旨規定している。この課税仕入れについての用途区分について、同号は、いずれの用途区分も「要するもの」という文言を用い、実際にどのような用途に用いたかを要求していないのであり、また、消費税法第34条《課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》及び第35条《非課税業務用調整対象固定資産を課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》が、課税仕入れを行った課税期間において用途を変更した場合にも、これらの規定による調整計算の対象としていることからすると、課税仕入れについての用途区分の判定は、原則として、その課税仕入れを行った日の状況によって行うものと解するのが相当であり、その判定に合理性が存すれば、結果的に用途区分が異なったとしても、遡って修正計算をする必要はないと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
イ D社がG地方裁判所から送付を受けた平成20年9月○日付「破産手続開始通知書」(以下「本件破産手続開始通知書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) F社の破産手続が平成20年9月○日午後3時に開始された。
(ロ) 当裁判所は、本破産事件について、破産者の財産で債権者に対する配当ができない可能性が高いと考え、破産債権の届出期間と破産債権の調査をするための期日を当面定めない。
(ハ) 破産財団の調査により債権者に対する配当の見込みが生じた場合に、改めて破産債権届出期間等について連絡をすることから、当面、破産債権届出書の提出の必要はない。
ロ 本件破産手続開始通知書に同封されていたF社の破産管財人作成の平成20年9月○日付「ご連絡」と題する書面(以下「本件連絡文書」という。)には、破産債権に対する配当財源の確保が難しい状況にあり、このため、本件破産手続は配当には至らず、異時廃止で終了する可能性がある旨記載されている。
ハ D社の役員で、本件マンションの売買に関する責任者であったUは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成20年9月○日に、ホテルKでF社の担当者(以下「F社担当者」という。)と会い、F社が倒産しそうだと聞かされ、F社担当者に対しその場で本件受益権売買契約の解除を依頼した。
(ロ) F社担当者は解除に応じる旨の回答をしたが、実際には解除をしなかったため、本件受益権売買契約の解除に向けてD社の顧問弁護士に相談し、F社に係る破産手続開始通知を受けて、破産法に基づく催告の実施を依頼した。
(ハ) D社は、本件マンションの新たな売却先を探すに当たり、L社に本件マンションの再査定を依頼した。
(ニ) 本件マンションの入居者の募集については、F社が行っていたかもしれないが、D社が本件建物の引渡しを受ける以前に募集を行ったことはなく、本件管理委託契約の契約日以降、H社に依頼して募集した。
ニ Uが備忘録として記載していたノートには、平成20年9月○日付で、要旨次のとおり記載されている。
(イ) L社の副社長、平成20年9月○日に現地を見学。レントロールを調査中。
(ロ) 社長よりF社倒産の一報。募集行為は不動産会社で継続。後日、募集会社で契約。
ホ 請求人は、異議申立書において、本件マンションは、最初から販売目的で建築し、並立的に平成20年9月30日の引渡しを受ける以前から賃借人の募集活動をしている旨を主張した。

(3) 判断

イ 本件建物の取得に係る課税仕入れについて
 以上を前提に、本件建物の取得に係る課税仕入れのあった平成20年9月30日頃の状況についてみると、まず、上記1(4)ハのとおり、本件受益権売買契約第4条第1項に、本件信託受益権に係る売買代金の残金の支払と同時に本件信託受益権がF社に移転する旨が定められているところ、上記(2)イ及びロのとおり、本件破産手続開始通知書及び本件連絡文書には、破産者の財産で債権者に配当できない可能性が高い旨が記載されているのであるから、本件信託受益権の売買残代金を支払う能力がF社にはなかったといえる。そして、上記(2)ハ(イ)によれば、Uは、平成20年9月○日にF社担当者からF社が倒産しそうであるとの話を聞き、その場で本件受益権売買契約の解除の依頼をし、F社担当者の了承を得たことが認められるから、遅くとも同日時点において、請求人は、本件信託受益権の売買残代金の支払が事実上不可能で、F社との本件受益権売買契約を解消することとなり、同契約において予定されていた日に本件信託受益権の譲渡が行われないとの認識を有していたといえる。
 そうした中、上記(2)ハ(ハ)及びニ(イ)によれば、F社が破産手続開始の決定を受けた平成20年9月○日以前に、本件マンションの新たな売却先を探すため、L社に本件マンションの再査定を依頼したことが認められ、本件マンションの売却先及び売却時期が未定の状況下で、上記1(4)ヘのとおり、D社自らが同月30日にH社と本件管理委託契約を締結し、入居者の募集を開始したという賃料収入を得ることを前提とした行為をしていることを考え併せると、本件建物の取得に係る課税仕入れのあった同日時点において、D社は、本件マンションの新たな売却先が見つかるまでの間、本件マンションを住宅として貸し付け、これによる賃料収入を得ることを予定していたと認めることができる。
 そうすると、請求人の主張するように本件建物の取得目的が本件信託受益権を売買することにあり、また、本件受益権売買契約の法的な解除やテナントとの間の賃貸借契約の締結がされていなかったとしても、本件建物の取得に係る課税仕入れのあった平成20年9月30日における上記状況からすれば、本件建物の取得に係る課税仕入れを本件信託受益権の売買にのみ要する課税仕入れとして、課税資産の譲渡等にのみ要するものとして区分したことには合理性がないというべきであり、本件建物の取得に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに当たると認めるのが相当である。
ロ 本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れについて
 次に、本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れのあった平成20年8月11日の状況についてみると、D社とF社との契約に関しては、上記1(4)ハのとおり、本件受益権売買契約が締結された状態であり、上記イに照らすと、この時点ではD社が同契約による本件信託受益権の譲渡が事実上不可能となるとの認識は有していなかったことが認められる。
 その契約内容についてみると、上記1(4)ハによれば、本件受益権売買契約書第8条第3項、同条第5項及び第2条第4項に、まる1D社がF社によるテナントの募集及び入居を承諾する旨、まる2D社自らが賃貸借契約を締結することができる旨、及びまる3F社が本件建物の検査済証の交付日から2か月間、物件調査をすることができる旨が定められているものの、これらの定めがD社に本件マンションをテナントを入居させた状態で引き渡す義務を課したものということはできず、また、本件受益権売買契約第4条第3項及び第5条により、平成20年10月31日又はD社とF社が別途合意した日(以下「本件売買日」という。)の前日までの本件建物の賃料等の収益がD社に帰属することとされていたのであるから、D社は、F社又はD社によるテナントの募集活動によって、テナントとの間の賃貸借契約が本件信託受益権の売買日前に成立し、本件売買日の前日までに賃料等の収益が発生した場合に、本件建物の引渡日から本件信託受益権の売買日までの間に賃料収入を得られる可能性があったにすぎないものと認めることができる。
 そうすると、本件建物に関しては、上記1(4)ロ及びヘによれば、本件建物の契約上の引渡予定日であった平成20年8月11日に引渡しが行われなかった上、上記のとおり、同日時点では、本件信託受益権が同年10月31日頃までにはF社に譲渡される予定であったから、D社が賃料等の収益を上げる可能性は低く、上記1(4)ヘのとおり、D社が入居者の募集活動を開始したのは平成20年9月30日であり、同年8月11日時点ではD社自身が募集活動を行っていなかったことを併せ考えると、D社が賃料収入を得ることを予定していたとはいい難いものがある。さらに、上記(2)ニ(ロ)及びホによれば、平成20年9月○日以前に本件建物に関する賃借人の募集行為が不動産会社によって行われていたことがうかがえるが、かかる事実から、同年8月11日の時点において、F社が入居者の募集活動を開始していたことまで推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
 そうすると、本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れのあった平成20年8月11日時点において、D社に帰属すべき賃料収入が生ずる可能性は、具体的なものではなかったというべきであり、原処分庁が主張するように契約上本件信託受益権の売買予定日までに2か月半の期間があり、また、D社が実際に賃料収入を得ていたとしても、同日における上記状況からすれば、D社に賃料収入が帰属することが予定されていたということはできず、本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れを本件信託受益権の売買にのみ要する課税仕入れとして、課税資産の譲渡等にのみ要するものとして区分したことが不合理な区分とまではいうことはできないから、本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等にのみ要するものと認めるのが相当である。

(4) 原処分について

 上記(3)によれば、本件建物の取得に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等及びその他の資産の譲渡等に共通して要するものに当たり、他方、本件水道施設利用権の取得に係る課税仕入れについては、課税資産の譲渡等にのみ要するものに当たると認められるところ、これにより控除対象仕入税額を計算すると、本件課税期間の納付すべき消費税額及び地方消費税額は、別表2の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、原処分の額を下回るから、原処分はいずれもその一部を別紙1のとおり取り消すべきである。

(5) 請求人のその他の主張等について

 請求人は、異議申立てに係る調査を担当した職員が、請求人に対し具体的に質問をせず、面接による事実確認もしなかったとして、異議審理手続の違法を主張するが、異議審理手続の違法又は不当は原処分の取消事由に当たらないから、その当否について判断するまでもなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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