(平成23年2月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者D(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税を徴収するために行った原処分に対し、被差押債権の債務者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分は差押えの対象とすることのできない債権を差し押さえたものであるから差押手続に違法があるなどと主張して、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納者が納付すべき別表1記載の滞納国税を徴収するため、別表2記載の債権(以下「本件債権」という。)があるとして、請求人に対し、平成21年11月16日付の債権差押通知書(以下「本件通知書」という。)を送達し、本件債権についての差押処分(原処分)をした。
ロ 請求人は、平成22年1月14日、原処分を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、異議申立ての利益を欠く不適法なものであるとして、同月21日付で却下の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月25日に送達した。
ハ 請求人は、平成22年2月23日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定している。また、同条第3項は、異議申立てについての決定があった場合において、当該異議申立てをした者が当該決定を経た後の処分になお不服があるときは、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨規定している。
ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第62条《差押えの手続及び効力発生時期》第1項は、債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う旨、同条第2項は、徴収職員は、債権を差し押さえるときは、債務者に対しその履行を、滞納者に対し債権の取立てその他の処分を禁じなければならない旨規定している。
ハ 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第27条《債権差押通知書の記載事項》第1項は、債権差押通知書には、次の事項を記載しなければならない旨規定している。
(イ) 滞納者の氏名及び住所又は居所
(ロ) 差押えに係る国税の年度、税目、納期限及び金額
(ハ) 差し押さえる債権の種類及び額
(ニ) 上記(ハ)の債権につき滞納者に対する債務の履行を禁ずる旨及び徴収職員に対しその履行をすべき旨

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、貸金業法(平成18年法律第115号による改正前のものをいう。なお、同法の改正前の題名は、「貸金業の規制等に関する法律」である。)に基づく登録を受け(E財務局長(○)第○○○○号)、貸金業を営む○○会社である。
ロ 請求人と本件滞納者は、平成12年2月28日付で、本件滞納者を借主、請求人を貸主とする金銭消費貸借契約(以下「本件契約」といい、同日付の「極度借入基本契約書」を「本件基本契約書」という。)を締結した。
ハ 本件滞納者は、請求人から別表3の契約日欄の日付において、それぞれ同表の金額欄記載の金額を借り入れた。
ニ 本件滞納者は、請求人に対し別表4のとおり返済した。

(5) 争点

 本件の争点は、次の3点である。

争点1 請求人は、原処分に「不服がある者」として、原処分の取消しを求めることができるか否か。

争点2 原処分は、差押えの対象とすることのできない債権を差し押さえた違法な差押えか否か。

争点3 債権差押通知書に記載不備の違法があるか否か。

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2 争点1について

(1) 当事者の主張

イ 原処分庁
 第三債務者である請求人は、次のとおり、原処分によって自己の権利又は法律上の利益を侵害されていないのであるから、請求人の審査請求は、審査請求の利益を欠く不適法なものである。
 通則法第75条は、国税に関する法律に基づく処分に対して不服申立てができる場合を規定しているところ、同条によって不服申立てができるのは、その処分が不服申立てをする者の権利又は法律上の利益を侵害する場合に限られると解されている。これを本件についてみると、原処分庁は、原処分によって本件債権の取立権を取得し、本件滞納者に代わって債権者の立場に立つものの、第三債務者である請求人が任意に債務の履行をしない場合には、訴えを提起し、債務名義を得た上で強制執行することとなり、これに対して、請求人は、原処分前から本件滞納者に対して有する一切の異議、抗弁事由をもって原処分庁に対抗することができるのであって、第三債務者としての請求人の地位及び債務の内容に何ら変わりはないのであるから、請求人は原処分によって自己の権利又は法律上の利益を侵害されていない。
ロ 請求人
 借主である本件滞納者の意思に反して過払金返還請求権が差し押さえられた場合には、本来予定していなかった取引が終了し、本件契約に基づく請求人の利息収受権が害されることになるから、請求人は原処分により自己の権利又は法律上の利益を侵害されている。

(2) 判断

 通則法第75条第1項の「国税に関する法律に基づく処分に不服がある者」とは、当該処分によって直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者をいうと解するのが相当である。
 これを徴収法に基づく債権の差押処分に係る第三債務者についてみると、当該第三債務者は、同法第62条第2項の規定により、差押処分によって滞納者に対する債務の履行を禁止されることになるから、自己の権利又は法律上の利益を直接侵害されることになる。
 したがって、原処分によって本件債権の履行を禁止された第三債務者である請求人は、通則法第75条第1項の「国税に関する法律に基づく処分に不服がある者」として、原処分の取消しを求めることができると解するのが相当であり、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

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3 争点2について

(1) 当事者の主張

イ 請求人
 原処分は、以下のとおり、差押えの対象とすることのできない債権を差し押さえたものであるから、その手続に違法がある。
(イ) リボルビング取引による金銭消費貸借契約は、個別の貸付け及び弁済の集合ではなく、基本契約に基づく一体の継続的取引である。
 このような一体の継続的取引においては、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借が終了する時点までは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず、これをその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという過払金充当合意があるものと認められ、過払金充当合意があれば、過払金返還請求権は、当該金銭消費貸借契約終了時に存在する過払金について行使できるものであり、契約終了後までは、借主本人も権利行使をなし得ないこととなる。
 本件契約はリボルビング取引によるものであるところ、本件においては、本件滞納者は原処分が行われるまで取引終了の意思表示や過払金清算の意思表示をしたことはなく、本件滞納者にはいまだ取引を終了させる意思がないことは明らかである。
 そうすると、いまだ取引が終了していない以上、過払金返還請求権は不確定な権利にすぎない。
 そして、差押えの対象となる財産は、差押時に滞納者に帰属していることが必要であるところ、上記のとおり、過払金返還請求権は不確定な権利であり、本件滞納者に帰属したとはいえないから、原処分庁は、本件滞納者に帰属したとはいえない債権を差し押さえたものであり、その手続に違法がある。
(ロ) また、本件滞納者は、過払金充当合意により、契約終了時まで過払金返還請求権を行使することはできないから、過払金返還請求権は、金銭消費貸借契約終了時という不確定期限を付したものと解すべきである。
 国税徴収法基本通達(以下「基本通達」という。)第62条関係1は、弁済期未到来の債権は、差押時において契約等により債権発生の基礎としての法律関係が存在しており、かつ、その内容が明確であると認められるものに限り差押えの対象となるとしているが、過払金返還請求権は、不確定期限を付された権利であるから、同通達の定める場合には該当しない。
 したがって、原処分は、差押えの対象とすることのできない債権を差し押さえたものであるから、その手続に違法がある。
(ハ) さらに、過払金返還請求権は、取引終了時になって初めて行使することが可能であるところ、いつ取引を終了させるかは専ら借主の意思によるものである。したがって、過払金返還請求権は一身専属権と認められるから、原処分は、差押えの対象とすることのできない財産を差し押さえたものであり、その手続に違法がある。
ロ 原処分庁
 請求人の主張は、以下のとおり、理由がない。
(イ) 過払金返還請求権は、基本契約終了時に発生するのではなく、弁済の各時点で順次発生するものであるから、本件債権が本件滞納者に帰属することは明らかであり、過払金充当合意が法律上の障害となるのは、借主の過払金返還請求権の行使についてであり、貸主は、過払金充当合意の存在を理由として借主による過払金の返還請求を拒否することはできないのであるから、本件債権は、弁済期の定めのない債権と解するのが相当である。
(ロ) また、過払金充当合意があるとしても、借主は任意に取引を終了させて過払金返還請求をすることができ、その場合、貸主は、過払金充当合意の存在を理由として借主による過払金返還請求を拒否することはできないのであるから、過払金充当合意があることにより、借主は「権利行使できない」のではなく「権利を行使しない」というにすぎない。
 そして、取引を終了させるか否かという問題と、当該取引によって発生した債権の差押えができるか否かは別問題であり、過払金充当合意の存在をもって、過払金返還請求権が一身専属権であるということにはならない。

(2) 認定事実

 請求人からの提出資料、当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
 本件基本契約書の内容は要旨次のとおりである。
イ 借入極度額
 400,000円
ロ 借入利率及び利息の計算方法
(イ) 実質年率25.550%
(ロ) 利息の計算方法(年365日の日割計算)
 借入残高×上記(イ)の実質年率÷365日×支払期日以前利用日数
ハ 遅延利率及び遅延利息の計算方法
(イ) 実質年率29.20%
(ロ) 遅延利息の計算方法(年365日の日割計算)
 借入残高×上記(イ)の実質年率÷365日×支払期日後経過日数
ニ 約定支払日
 毎月20日
ホ 期限の利益の喪失
 本件基本契約書の借入要項に定める支払金額の支払を怠ったこと等の事由があり、請求人が必要と認める場合は、通知催告がなくとも請求人に対する一切の債務について、当然に期限の利益を失い、すべての債務全額を直ちに返済することを承認する。
ヘ 支払方式及び約定支払額
 約定支払額(元本と利息の合計額)は、借入残高別とする。ただし、利息が借入残高別の約定支払額を超える場合、約定支払額は、支払をする日までの利息とする。
ト 支払金の充当順位
 本件契約に基づく支払金の充当順位は、まる1未払利息、まる2遅延利息、まる3元本とする。
チ 極度額及び利用限度額
 本件契約に基づく極度額は、本件基本契約書の「借入極度額」欄に記載の額とし、この極度額の範囲内で繰り返し借入れができるものとする。
リ 借入期間
 本件契約に基づき極度額の範囲内で繰り返し借入れできる期間(契約期間)は、本件契約成立の日から5年間とする。ただし、期間満了日の30日前までに、当事者の一方から別段の意思表示がないときは、更に5年間、契約を自動継続するものとし、以後もその例による。
ヌ その他の特約
 本件契約に基づく借入金の残高がある状態で新たな借入れをしたときは、従前の借入金の残高と、新たな借入金との合計額に相当する借入れを行ったものとする。

(3) 判断

イ 請求人の上記(1)のイの(イ)の主張について
 被差押債権の第三債務者は、上記2の(2)で判断したとおり、債権の差押処分の取消しを求めることができる。
 しかしながら、債権の差押処分を違法とする理由が被差押債権の不存在又は消滅である場合は、被差押債権の存否は国の提起する当該差押債権の取立訴訟等においてこれを主張することができ、被差押債権の全部又は一部が存在しないときは、その部分につき執行が功を奏しないことになるだけであることから、そのような債権につき差押処分がなされても第三債務者は法律上の不利益を被ることはないということができ、そうすると、被差押債権の不存在又は消滅を違法理由とする主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするものであり、審査請求が違法又は不当な処分によって侵害された請求人の権利利益の救済を図るものであることからすれば、かかる違法理由を審査請求の理由とすることはできないと解するのが相当である。
 そして、請求人の主張は、結局、取引終了時までは、請求人は本件滞納者に過払金返還債務を負わないという主張であり、被差押債権の不存在を主張しているにすぎない。
 したがって、請求人の主張は、審査請求の理由とすることのできない理由を主張するものであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人の上記(1)のイの(ロ)の主張について
(イ) 上記1の(4)及び上記(2)のとおり、まる1請求人は貸金業法に基づく貸金業者であり、まる2本件基本契約書では、借入極度額の範囲内で繰り返し借入れをすることができる旨及び支払金の充当順位が定められていること、まる3本件滞納者は、本件契約締結後、継続的に借入れを行い、毎月15日ごろに一定額以上の返済をしていること、まる4上記まる3の各借入れの利率に変動がないことからすれば、本件契約は、借入極度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定して締結されたものと認められる。
 したがって、本件契約に基づく金銭消費貸借取引は、一連の継続した貸付取引であると認められるから、請求人と本件滞納者の間に、過払金が生じたときは、これを元本に充当する旨の過払金充当合意が存したものと認めるのが相当である。
(ロ) 請求人は、過払金充当合意が存するから、本件契約終了までは、過払金返還請求権は不確定な債権であり、債権の帰属も確定しないから、差押えの対象とすることができない旨主張する。
 しかしながら、過払金返還請求権の法的性質が、不当利得に基づく返還請求権である以上、過払金返還請求権が発生するのは、本件契約に基づいて本件滞納者が利息制限法所定の制限利率を超える額の利息又は損害金を支払った時点、すなわち、各過払金発生時と解するのが相当であり、その時に本件滞納者が過払金返還請求権を取得すると解するのが相当である。
 そうすると、既に発生した債権は、弁済期が未到来であっても差押えの対象となるから、差押手続に違法はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人の上記(1)のイの(ハ)の主張について
 請求人は、過払金返還請求権は、取引終了時になって初めて行使することが可能であるところ、いつ取引を終了させるかは専ら借主たる本件滞納者の意思によるものであり、一身専属権と認められるから、差押禁止財産となる旨主張する。
 しかしながら、過払金返還請求権は、身分法上の非財産的権利ではなく、通常の金銭債権であり、これを差し押さえることを禁止する法律上の規定はなく、また、同請求権の性質からこの差押えを禁止すべきであるとも解されない。
 したがって、過払金返還請求権を一身専属権であると認めることはできず、この点に関しても請求人の主張に理由はない。

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4 争点3について

(1) 当事者の主張

イ 請求人
 以下のとおり、本件通知書には次の表示の不備等があるから、これに基づいて行われた原処分は違法である。
(イ) 本件通知書の別紙財産目録に記載されている債権者(滞納者)が利息制限法所定の利率を超えて受領した過払金及び過払利息は存在しないから、この点について記載誤りがある。
(ロ) また、参考として本件通知書に添付された「利息制限法に基づく法定金利計算書(取引照合表より再計算)」(以下「本件再計算書」という。)の欄外に、「借入金を過払利息より相殺」等の記載があるが、本件滞納者が請求人に対して相殺の意思表示をした事実はない。したがって、原処分には、明らかに手続上の誤りがある。
(ハ) 国税徴収法施行規則第3条《書式》は、「別紙第4号書式」として、徴収法第62条の債権差押通知書の書式を定め、同書式において「履行期限」が明記されており、この「履行期限」は、法令記載事項であるから、その記載の欠如・不備は手続違反に当たる。そして、基本通達第62条関係8は、期限の定めのない債権について、債権差押通知書の履行期限欄に、原則として「当税務署(又は当国税局)から請求あり次第即時」と記載すると定めているところ、本件通知書には、本件債権の履行期限につき「即時」としか記載されていないから、本件通知書に記載不備の違法がある。
(ニ) 本件再計算書には、請求人を民法第704条《悪意の受益者の返還義務等》の「悪意の受益者」とした上で、同条前段に基づく法定利息(過払利息)の支払義務があるとして差押財産の額を計算し、表示している不当がある。
ロ 原処分庁
(イ) 上記イの(イ)及び(ロ)について
 本件通知書の表示の不備は、本件債権の内容が誤認されるほど大きな誤りとはいえず、軽微なものであるから、取り消し得べき瑕疵には当たらない。
(ロ) 上記イの(ハ)について
 本件通知書の履行期限欄に「即時」と記載されているのは、本件通知書到達時に既に履行義務が生じているからであり、仮に、その記載に誤りがあるとしても、履行期限は法令記載事項とはされていないから、これをもって、原処分が違法となるものではない。
(ハ) 上記イの(ニ)について
 請求人は、本件滞納者に対し、利息制限法第1条《利息の制限》第1項の法定金利を超える金利で貸付けをしていることを知りながら、本件基本契約書の期限の利益喪失の定めに基づいて本件滞納者から利息の返済を受けたものであるから、悪意の受益者というべきである。

(2) 判断

イ 上記1の(3)のハのとおり、徴収法施行令第27条第1項は、債権差押通知書に滞納者の氏名及び住所又は居所のほか、差し押さえる債権の種類及び額を記載しなければならない旨を定めているところ、その趣旨は、被差押債権を特定することにあると解される。そして、どの程度に表示されていれば被差押債権が特定されているといえるかについては、第三債務者が被差押債権を確知できる程度に表示されていればよいものと解するのが相当である。 
ロ これを本件についてみると、請求人が主張する上記(1)のイの(イ)の記載誤りは、本件通知書の別紙財産目録の記載内容の全体からすれば単純な記載誤りと容易に認識することができ、そのゆえに第三債務者である請求人が被差押債権を他の債権と識別することができないとまではいえないから、原処分を取り消すほどの瑕疵があるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人が主張する上記(1)のイの(ロ)の記載が被差押債権の特定に影響を与えないことは明らかであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 さらに、請求人が主張する上記(1)のイの(ハ)の履行期限の記載については、履行期限の記載誤りによって被差押債権が特定できない場合には、差押処分は違法となるが、本件においては、その記載が被差押債権の特定に影響しないことは明らかであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 加えて、上記(1)のイの(ニ)の請求人の主張は、実体上の債権額を超える部分の不存在を主張するものにほかならず、上記3の(3)のイで判断したとおり、審査請求の理由とすることができない理由を主張するものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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5 その他の請求人の主張について

(1) 請求人は、過払金返還請求権は、借主による取引終了の意思表示を前提に借主に帰属するものであり、この借主の意思表示は、差押えの対象となる債権発生の前提となるものであり、取消権、解除権に類似する性質を有するから、過払金返還請求権の差押えに際しては、滞納者が取消権、解除権を有する場合についての基本通達第47条関係24に準じて、滞納者の無資力、第三債務者たる請求人の利益を考慮すべきであるところ、原処分に際して、その点は一切考慮されていないから、原処分は徴収法、基本通達の趣旨に反するものであり、不当である旨主張する。
 しかしながら、過払金返還請求権は、借主が利息制限法所定の制限利率を超える額の利息又は損害金を支払った時に発生するものであり、借主による取引終了の意思表示によって発生するものではない上、基本通達第47条関係24は、滞納者に帰属する財産が譲渡等によって第三者に帰属しているが、その譲渡等の行為を取り消すことができる場合や解除できる場合に、通則法第42条《債権者代位権及び詐害行為取消権》が準用する民法第423条《債権者代位権》の規定により、債権者代位権を行使した上で、その財産を滞納者に帰属させ、これを差し押さえることができることを定めたものであるところ、本件においては、発生した過払金返還請求権が譲渡等によって第三者に帰属したという事実もないから、同通達を適用することはできず、その趣旨を類推すべき理由もない。
 請求人の解釈は独自の見解であり採用できない。

(2) 請求人は、基本通達第47条関係20の趣旨は、債権が滞納者に帰属しているか否かの判断に当たり、それ自体で差押債権の存在や金額を明らかにする資料である、借用証書、預金通帳、売掛金その他取引関係帳簿書類等を基に、債権の内容や帰属を明らかにすることを要求する趣旨であるところ、原処分庁が差押えに当たり考慮した資料は、請求人が提出した取引履歴と本件基本契約書のみであると思料され、これらの資料だけでは、その帰属や内容を判定することはできないから、手続に違法がある旨主張する。
 しかしながら、基本通達第47条関係20は、債権の帰属の判定について上記書類等を参考にするよう定め、他に特別な事情がない限り、同通達に列挙された事項を基礎として財産の帰属を判断することができるものとしたものにすぎず、当該事項をすべて調査することを要求しているものではないから、請求人の主張は採用できない。

(3) 請求人は、基本通達第47条関係17は、滞納者の生活維持に与える支障が過大である場合の差押えを禁じているところ、原処分は本件滞納者の生活維持に過大な支障を与えるもので、徴収法及び基本通達の趣旨に反するものであり、不当である旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、自己の法律上の利益に関係のない不当を理由とするものであり、この点に関しても請求人の主張は採用できない。

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6 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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