(平成23年5月11日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の相続税について、原処分庁が、被相続人名義の株式を相続財産であると認識していたにもかかわらず当初申告に含めなかったことは、隠ぺい又は仮装の行為に当たるとして、重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該株式も当初申告に含まれていると勘違いしただけであり、隠ぺい又は仮装の行為はなかったなどとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年11月○日に死亡したC(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書に課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載して法定申告期限までに提出した(以下、提出された申告書を「本件申告書」という。)。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」といい、本件調査を担当した職員を「調査担当職員」という。)を受け、本件相続に係る相続税について、課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円とする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成21年11月27日に提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成22年1月18日付で重加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成22年2月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月22日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成22年5月18日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき同法第35条第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、本件被相続人の子で、本件相続に係る唯一の法定相続人であり、本件相続により本件被相続人の財産全部を取得した。
ロ 請求人は、本件相続に係る相続税について、D税理士に税理士法第2条《税理士の業務》第1項第1号に規定する税務代理を委任した。
ハ D税理士が作成した本件申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」(以下「財産明細書」という。)に記載された上場株式は、次表のとおりである。なお、本件申告書には、平成19年6月26日付のE社の「第83期期末配当金明細書」(所有株式数86株)の写し及び平成18年6月28日付のF社の「第82期利益配当金計算書」(所有株式数10,105株)の写しが添付されていた。

銘柄 数量 単価 価額
E社 86株 2,805円 241,230円
F社 10,105株 2,890円 29,203,450円

ニ 上記ハの株式に係る株券の現物は、本件相続の開始日において、本件被相続人の自宅で保管されており、その名義は、本件被相続人の別名であるGであった。
ホ 本件申告書において上場株式が申告漏れであったとして提出された本件修正申告書の財産明細書に記載された上場株式(以下「本件株式」といい、上記ハの各上場株式と併せて「本件相続株式」という。)は、次表のとおりである。

銘柄 数量 単価 価額
E社 10,400株 2,805円 29,172,000円
F社 300株 2,890円 867,000円

ヘ 本件株式は、本件相続の開始日において、H証券J支店の本件被相続人名義の口座に保管されており、その名義は、本件被相続人であった。

(5) 争点

 本件株式の申告漏れについて、請求人に隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 次の事実を総合的に判断すると、請求人は、D税理士に対し本件株式の存在を秘匿し、同税理士に過少な申告額を記載した本件申告書を作成させ、これを原処分庁に提出したものと認められ、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたといえるから、本件株式の申告漏れについて、請求人に隠ぺい又は仮装の行為があった。
イ 請求人は、平成20年4月25日に、D税理士から「相続税申告に必要な資料一覧表」と題する書面(以下「本件一覧表」という。)を交付され、証券会社の残高証明書を入手するように指示されたにもかかわらず、当該資料の入手手続をしなかった。
ロ 請求人は、平成20年7月7日に、H証券J支店○○課長K(以下「K課長」という。)から本件株式を含む本件相続株式の名義変更手続について説明を受けたことが認められることからすると、同日において、本件株式が本件相続に係る相続財産であると認識したことは明らかである。
ハ D税理士は、平成20年7月25日に、本件申告書の原案(以下「本件申告書案」という。)の財産明細書を請求人に示しながら、相続財産について一つ一つ説明を行ったが、請求人は、その際、本件申告書案に本件株式の記載がないことをD税理士に指摘しなかった。
ニ 請求人は、本件調査において調査担当職員に対し、本件被相続人は株式を現物で保有していたので証券会社には預けていない、また、配当金の通知書で確認したのでE社株は86株以外にはないはずであるなどと明らかに事実と異なる虚偽の答弁を行った。また、本件被相続人あてにはH証券から多数の書類が送付されていたが、請求人は、本件調査において調査担当職員に対し、本件被相続人とH証券との取引に関する書類を一切提示しなかった。

(2) 請求人

 本件株式の申告漏れは、次のとおり、請求人の勘違い等が原因であり、隠ぺい又は仮装の行為に基づくものではない。
イ 請求人は、D税理士から本件一覧表を交付され、申告に必要な有価証券に関する資料の説明も受けたと記憶しているが、不動産については別途作成された一覧表により説明を受け、有価証券についても過去の本件被相続人の所得税の確定申告書の控えを基に説明を受けたため、提出済である本件被相続人の確定申告資料によりD税理士が既に把握しており、資料の追加提出の必要はないと思った。
ロ 請求人は、K課長から本件相続株式の名義変更手続に関する説明を受ける前から、本件被相続人が本件相続株式を保有していることは承知していたが、当該株式の保有株数についてはよく知らなかった。
ハ 請求人が本件申告書案に記載された株式の株数及び価額の誤りに気付かなかったことは事実であるが、D税理士が本件株式を含む全相続財産を正確に把握し、本件申告書案を正しく作成しているものと思い込んでいたため、結果的にその誤りを是正できなかっただけであり、意図的に誤りを指摘しなかったわけではない。
ニ 本件調査における調査担当職員の株式に関する質問は、株はこれだけですかというものであったが、請求人は、すべての株式が申告されていると思っていたため、そのとおりである旨回答したのであって、虚偽の答弁はしていない。また、調査担当職員の求めに応じて預金通帳などを提示し、自宅の居間の机の引出しや棚に保管していた不動産に関する書類や証券会社との取引に関する書類なども、指示があればいつでも提示できる状態であり、求められた資料はすべて提示したのであって、請求人がH証券との取引に関する書類を一切提示しなかったとはいえない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであるから、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要すると解される。
 しかし、上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成20年7月7日に自宅で、K課長から本件相続株式の名義変更手続について説明を受けた際、本件被相続人名義の口座に保管されていた本件株式の銘柄、数量及び評価金額等が記載された「保有資産一覧」と題する書類についても説明を受け、当該書類を受け取っている。また、請求人は、K課長の説明に従い、同日、H証券J支店で請求人名義の口座を開設し、その後、本件株式の相続手続を行い、本件株式は、平成20年9月5日付で請求人の口座に引き継がれている。
ロ 請求人は、E社及びF社から本件被相続人あてに送付された本件相続株式に係る平成20年6月26日付の期末配当金明細書等を受け取っており、また、H証券J支店から請求人の口座に係る平成20年9月9日現在及び同月30日現在の取引残高報告書をそれぞれ受け取っている。そして、これらの書類には、いずれも本件相続株式の株数等が記載されている。
ハ 不動産貸付業を営んでいた本件被相続人の所得税の確定申告については、本件被相続人が自ら必要な資料を収集して袋に入れ、袋ごと請求人に渡し、請求人は、毎年2月頃、袋の中身について具体的に知らないまま、自身の確定申告資料とともにD税理士に送付していた。また、請求人は、平成20年2月頃、本件被相続人が本件相続の開始前に袋に入れて準備していた平成19年分の所得税の確定申告資料を、袋の中身を具体的に確認しないままD税理士に送付し、本件被相続人の名前が書いてある書類をすべて送ったものと認識していた。
ニ 本件申告書の財産明細書は5ページからなり、これには土地が38行、家屋が8行、現金預貯金等が20行にわたって記載され、有価証券のその他の株式・出資については上記1(4)ハの表に係るものを含めて4行に記載されている。また、本件申告書案の財産明細書は、本件申告書の財産明細書とほぼ同じ内容であった。
ホ 請求人は、平成20年4月25日、同年7月25日及び同年9月8日の3回、自宅にD税理士の訪問を受けており、その際の状況について、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成20年4月25日は、D税理士から、本件一覧表のすべての項目について説明されたわけではなく、あらかじめ印を付けた項目について説明を受けた記憶がある。特に強調されたのは、銀行口座の残高証明書を急いで入手してほしいというものだった。有価証券についての話はあったと思うが、具体的にどのような指示があったか記憶にない。
(ロ) 平成20年7月25日は、本件申告書案に関し、D税理士から、個々の資料についてゆっくりと説明を受けた記憶はなく、座って説明を受けたのは多くても1時間程度だったと思う。資料の量が膨大で、すべてについて理解できたとは思わない。また、本件申告書案は、D税理士が持ち帰った。
(ハ) 平成20年9月8日に、D税理士が申告書を持参したので、その内容を確認せずに押印しただけである。
ヘ D税理士は、当審判所に対し、平成20年4月25日及び同年7月25日に請求人宅を訪問した際の状況について、要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成20年4月25日に、同行していた事務員が、請求人に、本件一覧表を基に申告に必要な資料等を説明し、その提出を依頼したが、一つ一つ説明するというより、本件一覧表を読んでもらって分からないことがあれば聞いてくださいという程度の説明であり、株式に関して特に重点的に説明をしたものではなく、証券会社からの残高証明書を提出するようにと具体的な依頼は行っていない。また、当日の滞在時間は1時間半程度であり、その内、事務員による説明時間は、10分程度であった。
(ロ) 平成20年7月25日に、請求人に、本件申告書案の財産明細書を基に相続税の申告について説明したが、個々の相続財産ごとに請求人の確認を取りながら行ったものではない。また、当日の滞在時間は1時間半程度であり、その内、本件申告書案の財産明細書を基に説明した時間は、最終的な相続税額がどの程度になるかの話を含め、15分から20分程度であった。
 なお、本件申告書案は、説明後、持ち帰った。
ト D税理士は、平成21年12月11日にD税理士事務所において、調査担当職員に対し、平成20年4月25日及び同年7月25日に請求人宅を訪問した際の状況等について、要旨次のとおり申述した。
(イ) 平成20年4月25日に、請求人に、金融機関の残高証明書、固定資産評価証明書、登記事項証明書、戸籍謄本及び葬式費用の明細書を提出するよう指示した。その後、請求人から、A銀行、L信用金庫及びR銀行の残高証明書、固定資産評価証明書、戸籍謄本並びに葬式費用の明細書が郵送されてきた。不足書類については、登記事項証明書と郵便局の残高証明書について、請求人に提出を督促した。証券会社の残高証明書については、金融機関の残高証明書という形で提出を依頼していたが、新たな証明書の送付はなかった。
(ロ) 平成20年7月25日に、請求人に、本件申告書案の財産明細書を基に、その内容について一つずつ確認を求めた。
チ D税理士は、平成22年4月9日にD税理士事務所において、異議審理庁の異議申立てに係る調査担当職員(以下、調査担当職員と併せて「調査担当職員等」という。)に対し、平成20年7月25日に請求人宅を訪問した際の状況について、請求人に本件申告書案を示して内容を説明し、E社及びF社の株式について、手持ちの一番新しい配当通知書の写しを基に記載した本件申告書案の財産明細書の株式の株数及び価額を指差して「これでよろしいか。」と確認してもらった旨申述した。
リ D税理士は、当審判所に対し、上記ヘ(ロ)の答述と上記ト(ロ)及びチの申述において、本件申告書案の相続財産に関する説明振りが一部異なることについて、調査担当職員等から「税理士として説明していますよね。」などと言われ、請求人に全く説明していなかったわけではなかったので、上記ト(ロ)及びチのように申述したためであるなどと申し述べた。
ヌ 調査担当職員は、当審判所に対し、本件調査の際の株式に関する応答内容について、要旨次のとおり申し述べた。
(イ) 調査担当職員の本件被相続人はどこの証券会社を使っていましたかとの質問に対して、請求人は、本件被相続人は株式を現物で所有していたので、株は現物を金庫に保管していた旨回答した。その回答を受けて、調査担当職員の今もその株は金庫にあるのかとの質問に対して、請求人は、今はすべてH証券に預けているので、ここにはない旨回答した。
(ロ) 調査担当職員の「○○会社の株式は通常100株単位でしか買えないので、E社の株式86株と、F社の5株は端株と思われますが、申告したE社の株式86株以外にはありませんでしたか。」との質問に対して、請求人は、株に関する知識はほとんどないためよくわからないが、配当の通知書で確認したので他の株はないと思う旨回答した。
ル D税理士は、当審判所に対し、本件調査の際の株式に関する応答については、調査担当職員の「株はほかにないのですか。」という質問に対して、他の銘柄の株式は持っていないのかという趣旨だと理解したため、請求人に「これだけですよね。」と確認したところ、請求人の「これだけです。」と回答したものがあっただけである旨答述した。

(3) 争点について

イ まず、請求人は、上記(2)イのとおり、K課長から本件相続株式の名義変更手続の説明を受け、それに従って手続等を行っていること、上記(2)ロのとおり、本件相続の開始後、本件被相続人あての本件相続株式に係る配当金明細書等を受け取っていること及び名義変更手続後もH証券J支店から請求人名義口座の取引残高報告書を受け取っていることなどからすると、遅くとも平成20年7月7日には、本件株式を含む本件相続株式について本件相続に係る相続財産であると認識しており、それらの株数についても認識していたと推認するのが相当である。
ロ そして、原処分庁は、請求人がD税理士から証券会社の残高証明書を入手するように指示されたにもかかわらず、それに従わなかったことは、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたことに当たる旨主張する。
 しかしながら、上記(2)ハのとおり、請求人は、毎年、本件被相続人から袋に入れて渡された所得税の確定申告資料を、袋の中身を具体的に確認しないままD税理士に送付しており、かつ、本件相続の開始後の平成20年2月頃、本件被相続人の所得税の確定申告に当たり必要な書類を、同税理士にすべて送付したものと認識していたのであって、このような認識の中、上記(2)ヘ(イ)及びト(イ)のとおり、D税理士が、平成20年4月25日に、請求人に証券会社と銀行等を併せて金融機関としてまとめて説明し、証券会社の残高証明書の提出を個別具体的に要求しなかった旨答述及び申述し、上記(2)ホ(イ)のとおり、請求人が、同日、D税理士から銀行の残高証明書について提出するようにとは求められたが、有価証券については記憶にない旨答述していることを併せ考えると、請求人は、本件相続に係る相続税の申告に当たって、D税理士が本件相続株式を把握するために必要な資料を既に所持しており、資料を改めて提出する必要がないと考えた可能性を否定しえず、請求人が証券会社の残高証明書を提出しなかったことをもって、請求人に過少申告の意図があったとはいえない。よって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
ハ 次に、原処分庁は、請求人がD税理士から本件申告書案に記載された相続財産について個々に説明を受けていたにもかかわらず、本件株式の記載漏れを同税理士に指摘しなかったことは、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたことに当たる旨主張する。
 この点について、上記(2)ト(ロ)及びチのとおり、D税理士は、調査担当職員等に対し、平成20年7月25日に本件申告書案の財産明細書を個々に説明した旨、原処分庁の主張に沿う申述をしている。しかしながら、D税理士は、請求人に対して、説明当日、初めて本件申告書案を提示し、その場で即座にその財産明細書の確認を求めており、それを請求人に事前に送付したり、事後に預けるなどしていなかったと認められるところ、上記(2)ニによれば、請求人が説明を受けたとされる本件申告書案の財産明細書には、土地、建物及び現金預貯金等も含め、5ページにわたって相続財産の明細が詳細に記載されており、これだけの数量の財産について個々に説明するためには相当の時間を要し、限られた時間内に請求人がその内容を理解するのに十分な説明や確認を行うことは困難であろうことが想像できるのであり、上記(2)ホ(ロ)によれば、本件申告書案の財産明細書の説明及び確認のためにD税理士が費やした時間は1時間に満たないものと認められ、そのような点からみても、D税理士が請求人に対して十分な説明や確認を行わなかったことが推認できるのであって、D税理士の上記申述に整合しない事実があるから、上記申述の信用性は減殺される。さらに、上記(2)ヘ(ロ)のとおり、D税理士は、当審判所に対し、個々の相続財産ごとに説明をしていない旨、上記の申述を翻す答述をしているところ、上記(2)リによれば、上記申述は、税理士としての職責を果たしたと自己に有利な内容を申述したというものであり、その申述に至る経緯は、上記申述の信用性を減殺させる事情であり、上記の供述の変遷が合理的なものであることをうかがわせる事情でもある。そして、ほかにD税理士の請求人に対する説明が相続財産を個々に説明するのに十分な時間であった事実など上記申述の信用性を回復又は上記答述の信用性を減殺しうるだけの事実を認めるに足りる証拠はない。以上によれば、上記申述は上記答述に比べて信用性が低いから、上記申述によってD税理士が本件申告書案の財産明細書に記載された相続財産について個々に説明した事実を認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。
 そうすると、上記(2)ホ(ロ)及び(ハ)並びにヘ(ロ)によれば、D税理士は、本件申告書案の財産明細書の記載内容を個々に説明せず、これを請求人に預けて検討する時間を与えていなかったと認められるのであり、本件申告書案には、本件株式と同じ銘柄の株式が相続財産として記載されていたことを併せ考えると、請求人は、本件株式が相続財産として当然記載されていると誤認したまま、本件申告書案の財産明細書を十分に確認せず、その誤りに気付かなかったという可能性を否定しえないから、上記イのとおり、請求人が本件株式を相続財産として認識し、本件相続株式の株数についても認識していたからといって、本件申告書案の財産明細書に本件株式が記載されていなかったことを、請求人がD税理士に指摘しなかった事実のみをもって、請求人に過少申告の意図があったということはできない。よって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
ニ ほかに、原処分庁は、本件調査の際、請求人が虚偽の答弁を行った旨主張し、調査担当職員が作成した調査報告書には同主張に沿う内容の記述がある。
 しかしながら、本件調査の際の株式に関する応答について、上記(2)ヌ(イ)によれば、請求人は、本件被相続人が株式を金庫に現物で保管していた旨回答しているものの、本件調査時にH証券に株式を預けていること自体を隠そうとしているわけではなく、本件被相続人が証券会社に株式を預けていたことを明確に否定しているとはいいきれず、また、上記(2)ヌ(ロ)によれば、他の株はないと思う旨の請求人の回答は、E社以外の銘柄の株式はないとの趣旨であった可能性も否定しえない。さらに、上記調査報告書に記載された内容は、D税理士の当審判所に対する上記(2)ルの答述とも相違しており、当審判所の調査によっても、株式に関して請求人と調査担当職員との間で実際にどのような応答があったのか特定することはできないので、上記調査報告書によって請求人が虚偽の答弁を行ったことを認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また、原処分庁の調査報告書等によっても、請求人が資料の提示を拒否するなど本件調査に非協力的な行動をしたとまでは認められない。よって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
ホ 以上のことからすれば、原処分庁が主張する事実をもって、請求人は、D税理士に対し本件株式の存在を秘匿し、同税理士に過少な申告額を記載した本件申告書を作成させ、これを原処分庁に提出したとまでは認められず、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたとまでは認められない。また、当審判所の調査によっても、ほかに請求人に真実の相続財産を隠ぺい又は仮装したものと評価すべき行為や事実の存在があったと認めるに足りる証拠もない。
 したがって、本件株式の申告漏れについて、請求人に隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。

(4) 本件賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件においては、本件株式の申告漏れについて、請求人に通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為がなかったと認めるのが相当であるから、本件賦課決定処分は、通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税を超える部分につき取り消すのが相当である。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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