別紙2

当事者の主張

争点1 所得税法第70条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。

請求人 原処分庁
 所得税法第70条第4項に規定する「やむを得ない事情」については、納税者の担税力の復活を図るという所得税法第70条第1項の規定(以下「純損失の繰越控除規定」という。)の立法趣旨を踏まえて、純損失の繰越控除規定が暦年課税の例外規定だからこそ、幅広く解釈すべきである。
 パソコンは税理士業の事務処理の必需品であり、業務用パソコンの故障は税理士の事務処理に多大な影響を及ぼす。
 平成20年分の青色の確定申告書をその提出期限後に提出したのは、本件業務用パソコンが故障して買い換えざるを得なかったため、税理士事務所の確定申告書の作成作業の能率が低下し、所得税の納付税額が発生する関与先の確定申告書の作成を優先せざるを得なかったことが原因である。
 このように「やむを得ない事情」があり、原処分は違法であるから取り消されるべきである。
 所得税法第70条第4項に規定する「やむを得ない事情」に関する原処分庁の右記のような主張は、根拠も示されておらず、原処分庁の勝手な解釈に基づくものである。また、原処分庁の右記主張は、国税通則法第66条第1項の無申告加算税のゆうじょ規定の「正当な理由があると認められる場合」の解釈と同様の解釈をするものであるが、これらの法令の規定の文言は異なっているのであるから異なる取扱いをすべきであり、原処分庁は間違った解釈をしている。
 純損失の繰越控除規定は、暦年課税の例外規定であり、所得税法第70条第4項に規定する「やむを得ない事情」を判断するに当たっては、これを厳密に解さなければならず、「やむを得ない事情」とは、天災、交通途絶その他の本人の責めに帰すことができない客観的な事情をいうのであって、個人的事情はこれに当たらないというべきである。
 請求人の主張する本件業務用パソコンの故障は、請求人の責めに帰すことができない客観的な事情とは認められず、個人的事情であるから、「やむを得ない事情」はない。
 なお、F税理士は、請求人の平成20年分の青色の確定申告書の作成に当たり、その作成作業が複雑であったことから、他の関与先の申告を優先した結果、請求人の平成20年分の所得税の青色の確定申告書の提出がその提出期限後となったというのであり、その提出期限までに青色の確定申告書を提出することが不可能であったと認められる客観的な事情があるとは認められない。
 以上のことから、原処分に違法性はない。

争点2 国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事実があるか否か。

請求人 原処分庁
 請求人は、原処分庁に対し、請求人の平成20年分の所得税の青色の確定申告書の提出がその提出期限後になったことにつき所得税法第70条第4項の規定の適用が認められるか否か(「やむを得ない事情」があるか否か)の判断について原処分庁の書面による明確な回答を求めていたが、平成21年分の所得税の確定申告書の提出期限までに、これに対する原処分庁からの書面による回答はされなかったし、また、翌年以後に繰り越される純損失の金額を○○○○円とする旨の平成20年分の所得税の更正処分もされなかった。
 このように「やむを得ない事情」があるか否かについての原処分庁の正式な見解が示されなかったため、請求人は、平成20年分の所得税の青色の確定申告書に記載した翌年以後へ繰り越される純損失の金額に相当する金額を総所得金額の計算上控除した平成21年分の所得税の確定申告書を提出したものである。
 以上のとおり、平成21年分の所得税の確定申告書に記載した納付すべき税額が過少となったことについては、真に請求人の責めに帰することができない客観的な事情があり、過少申告加算税を課すことが不当又は酷になるので、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するから、仮に平成20年分の所得税の青色の確定申告書の提出がその提出期限後になったことにつき「やむを得ない事情」があると認められなかったとしても、原処分庁がした平成21年分の所得税の過少申告加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである。
 平成20年分の所得税の青色の確定申告書の提出がその提出期限後になったことにつき「やむを得ない事情」があるか否かの原処分庁の判断については、平成21年分の所得税の確定申告書の提出期限までに原処分庁所属の担当職員がF税理士に対して「やむを得ない事情」に当たらない旨を説明していたにもかかわらず、F税理士が独自の解釈に基づいて請求人の平成21年分の所得税の確定申告書を提出したものであり、平成21年分の所得税の確定申告書に記載した納付すべき税額が過少となった原因はF税理士及び請求人にあるというべきである。
 したがって、本件は国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に当たるとは認められず、国税通則法第65条第1項及び同条第2項に基づいて行った平成21年分の所得税の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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