別紙

主張

審査請求人 原処分庁
1 所得税法第72条《雑損控除》第1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領」は、租税法が独自に用いている1つの固有概念であり、その意義は、納税者がその意思に基づかない、いわば災難によって損失を被った場合の担税力への影響を考慮して、雑損控除を認めたという所得税法の趣旨・目的に照らして決すべきである。
 本件損失は、請求人の長男に渡るはずの金銭が長男以外の第三者に渡ったことによって生じたものであるから、請求人の意思に基づかない事由によって生じた損失であるといえるし、それが生じた経緯、状況、損失額等にかんがみると、請求人の担税力に与える影響は甚大であるから、雑損控除を認めることが所得税法の趣旨等にかなう。
 よって、本件損失は「災害又は盗難若しくは横領」によって生じた損失に当たる。
1 所得税法第72条第1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領」は、租税法上の1つの固有概念ではなく、それぞれ個別の概念である。
 したがって、本件損失が、雑損控除の対象となる損失に当たるか否かは、これが「災害」による損失、「盗難」による損失、「横領」による損失のいずれかに当たるか否かによって、判断すべきである。
2 「災害又は盗難若しくは横領」が租税法上の1つの固有概念ではないとしても、本件損失は、「災害」による損失、「盗難」による損失、「横領」による損失のいずれかに当たる。 2 本件損失は、「災害」による損失、「盗難」による損失、「横領」による損失のいずれにも当たらない。
(1) 「災害」による損失について
イ 上記1のとおり、本件損失は、請求人の意思に基づかない事由によって生じた損失であるし、振り込め詐欺の被害に遭うことは、通常の生活では起こらない人為的災難であるから、所得税法施行令第9条《災害の範囲》に規定する「人為による異常な災害」によって生じた損失に当たり、雑損控除の対象となる。
(1) 「災害」による損失について
イ 本件損失は、だまされたとはいえ、請求人の意思に基づいてなされた本件各振込みによって生じた損失であるから、そもそも「災害」による損失には当たらない。
ロ 「人為による異常な災害」の意義について、原処分庁が主張するような「予見及び回避不可能」や「劇的な過程」等の要件を付加するのは相当でない。仮に、それらの要件を前提とするとしても、振り込め詐欺の被害に遭うことは「予見及び回避不可能」であり、かつ「劇的な過程」を経て害を被ったといえる。
 よって、本件損失は「人為による異常な災害」によって生じた損失に当たる。
ロ 請求人は、所得税法施行令第9条に規定する「人為による異常な災害」に当たると主張するが、「異常な災害」とは、予見及び回避不可能で、かつ、鉱害、火薬類の爆発など自然界に生じた天災と同視すべき劇的な過程を経て害を被る事象であると解される。本件損失は、予見及び回避可能であり、天災と同視すべき劇的な過程を経たものでもないから、「人為による異常な災害」によって生じた損失に当たらない。
ハ また、振り込め詐欺によって生じた本件損失は、加害行為の悪質さ、被害の甚大さ、担税力に及ぼす影響、詐欺行為の介在等の点において、国税庁が雑損控除の対象であるとしたと耐震強度偽装事件に関する被害と同様であるから、「人為による異常な災害」によって生じた損失として、雑損控除の対象とされるべきである。 ハ なお、耐震強度偽装事件の事例は、同事件にかかわる損失のうち、建築設計事務所による構造計算書の偽装及び指定確認検査機関等による偽装の見過ごしに起因し、建物に耐震強度不足が判明したことによって生じた損失が、「人為による異常な災害」による損失に当たるとされたのであり、直ちに本件損失についても同様の取扱いをすべきであるとはいえない。
(2) 「盗難」による損失について
 本件損失は、請求人が長男に渡すつもりで振り込んだ金銭を、請求人の意に反して第三者に取られたことによって生じたものであるから、「盗難」による損失に当たる。
(2) 「盗難」による損失について
 「盗難」とは、占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転をいうと解されるところ、本件各振込みは、請求人の意思により行われているから、本件損失は「盗難」による損失に当たらない。
(3) 「横領」による損失について
 本件損失は、請求人が長男に渡すつもりで振り込んだ金銭を、第三者に横取りされたことによって生じたものであるから、「横領」による損失に当たる。
(3) 「横領」による損失
 「横領」とは、財物の委託者と受託者との間に委託信任関係があることを前提に、財物の占有を取得した受託者が、不法領得の意思を発現させることであると解されるところ、請求人と振り込め詐欺の犯人との間に委託信任関係はないから、本件損失は「横領」による損失に当たらない。

トップに戻る