(平成23年6月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、焼肉店を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、事業所得に係る帳簿書類の保存がされていないことを理由に請求人の平成14年分以後の青色申告の承認の取消処分を行うとともに、請求人の平成14年分ないし平成20年分の所得税並びに平成16年1月1日から平成16年12月31日までの課税期間ないし平成20年1月1日から平成20年12月31日までの課税期間の各消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に係る各確定申告において、請求人は現金売上げを除外して申告しており、また、飲料販売に係るリベート収入や自己の下着等をオークションで販売した収入を請求人名義以外の口座に入金し、収入金額を隠ぺいしていたとして、請求人の所得金額及び課税資産の譲渡等の対価の額を推計して所得税及び消費税等の各更正処分並びに過少申告加算税ないし重加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、原処分庁の調査手続等に違法があり、推計課税の計算方法に合理性がなく、リベート収入は請求人に帰属しない収入であり、下着等の販売収入は生活用動産の譲渡に基因する収入に当たるから課税されるものではなく、請求人に隠ぺい又は仮装の事実はないなどとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の9点である。

  1. 争点1 調査手続等に違法があったか否か。
  2. 争点2 所得税の青色申告の承認の取消しをすべき事実があったか否か。
  3. 争点3 Jと称する店舗(以下「J店」という。)に係る推計課税の計算方法に合理性が認められるか否か。
  4. 争点4 リベート収入は、請求人に帰属する収入か否か。
  5. 争点5 下着等をオークションで販売したことは、生活用動産の譲渡に当たるか否か。
  6. 争点6 下着等をオークションで販売したことは、課税資産の譲渡等に当たるか否か。
  7. 争点7 請求人の申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。
  8. 争点8 請求人の申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか否か。
  9. 争点9 平成16年1月1日から平成16年12月31日まで及び平成17年1月1日から平成17年12月31日までの各課税期間の消費税等の課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年分、平成15年分、平成16年分、平成17年分、平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下、すべての年分を併せて「本件各年分」という。)の所得税について、それぞれ青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 また、請求人は、平成16年1月1日から平成16年12月31日まで、平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、及び平成20年1月1日から平成20年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成16年課税期間」、「平成17年課税期間」、「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」及び「平成20年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、それぞれ確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、請求人に対し、平成22年2月16日付で、平成14年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をし、同月25日付で、所得税及び消費税等について、それぞれ別表1及び別表2の各「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税ないし重加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成22年4月6日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月4日付で、平成14年分、平成15年分及び平成20年分の所得税並びに平成20年課税期間の消費税等の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分について、別表1及び別表2の各「異議決定」欄のとおり、それぞれ一部取消しの異議決定をし、その他の原処分については、棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成22年7月1日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙10のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年6月にa市b町○−○にて、1店舗目の焼肉店であるJ店を開業し、同年7月24日に原処分庁に所得税の青色申告承認申請書を提出した。
 なお、J店は、本件各年分において営業を行っていた。
ロ 請求人は、平成19年11月にc市d町○−○にて、2店舗目の焼肉店(開店から2か月間の店名はK、その後、Lに店名変更。以下「L店」といい、J店と併せて「本件各店舗」という。)を開店し、以後、平成20年分において営業を行っていた。

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2 主張

 別紙11のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1 調査手続等に違法があったか否か。

イ 法令解釈
(イ) 所得税法第234条及び消費税法第62条に規定する質問検査権は、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入・保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合に行使できるものであり、税務調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において、社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられると解される。
(ロ) また、通則法第24条の規定する調査は、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念であると解される。そして、当該調査の方法、時期等その具体的な手続については、法令上何ら規定されておらず、どの段階で調査を打ち切って更正を行うかについても、実定法に何らの定めもないことから、制度の趣旨、目的に反しない限りにおいて、原処分庁に広い裁量が認められていると解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分庁関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 調査担当職員は、平成21年10月21日午前10時ころ、請求人に対する所得税及び消費税等の税務調査のため、c市e町○−○所在の本件調査当時の請求人の自宅であった家屋(以下「旧自宅」という。)、J店及びL店に同時に臨場したが、請求人は不在であった。このため、調査担当職員は、請求人に電話連絡を行い、税務調査である旨を伝えて調査協力を要請したところ、請求人は、病院で検査中であり、検査終了後にH税務署に赴く旨の返答をした。
(ロ) 請求人は、平成21年10月21日の昼過ぎに、請求人の所得税及び消費税等の各確定申告書の作成に関与していたM税理士と共にH税務署に来署したため、調査担当職員は、同日中に本件各店舗等に臨場して調査したい旨を要請した。
 しかしながら、請求人は、病院での検査の途中であり本日の調査は止めてほしい旨及び検査のため退出したい旨を申し述べたため、調査担当職員は、当該申出を受けて、本件各店舗に臨場することなくその日の調査を終了した。
 その後、調査担当職員は、N税理士から、請求人の代理人として関与する旨の電話連絡を受けたため、N税理士と日程の調整を行い、平成21年10月23日にJ店に臨場することを約した。
(ハ) 調査担当職員は、平成21年10月23日午後3時ころに、J店に臨場し、帳簿調査等を実施し、併せて、請求人の承諾の下に、請求人のバッグの中にあった売上げに係る現金及び財布の中身について確認を行った。
 さらに、調査担当職員は、レジスターの記録状況等を確認するため、請求人にレジスターの設置場所等を尋ねたところ、請求人は、調査担当職員をレジスターの設置場所へ案内したが、レジスターの操作方法が分からない旨申述し、さらに、レジスターの取扱説明書等も調査担当職員に提示しなかった。そのため、調査担当職員は、やむを得ずレジスターのメーカーに電話で操作方法について聴取し、調査を行った。
 なお、レジスターは、記録保存用のペーパーを作成することができない形式のものであり、さらに、請求人は、レジスターの保存データに係る日付を設定することができず、そのため、調査担当職員は、レジスターに保存されている売上金額データに係る営業日を確認することができなかった。
 請求人及びN税理士は、調査担当職員の調査方法等について、特に抗議等を行わなかったが、調査担当職員に対してJ店の開店時間が迫っている旨申し述べたため、調査担当職員は、当該申出を受けてその日の調査を終了した。
(ニ) 調査担当職員は、平成21年11月12日に、H税務署庁舎内で、請求人及びN税理士と面談し、帳簿書類等の記帳及び保存状況等について、質問調査を実施した。
(ホ) 調査担当職員は、平成21年11月16日に、L店に臨場し、店長であるP及びN税理士と面談し、L店の経営状況等について質問調査をした。
(ヘ) 調査担当職員は、平成21年12月1日及び同月9日、H税務署庁舎内において、N税理士と面談し、請求人が申告した売上金額について計上漏れがあると認められることから、この点について質問調査を行い、また、L店の開店資金等の出所について質問調査を行った。
(ト) 調査担当職員は、平成21年12月21日及び平成22年1月18日、H税務署庁舎内において、請求人及びN税理士と面談し、これまでの調査状況等から推計の方法により調査額を算定する旨の説明を行った。
 平成22年1月18日の面談の際、調査担当職員は、調査額に基づいて修正申告しなければ、申告内容を確認できる書類等がないことから、更正処分を行う旨の説明をした。
(チ) 請求人及びN税理士は、平成22年2月8日午後4時ころ、本件上司との面談を求めてH税務署に来署したため、本件上司は、事前に請求人等から面談の約束はなかったが、請求人及びN税理士との応対を行った。しかし、請求人は、本件上司との面談開始後15分ほどで体調を崩して救急車で病院に運ばれることとなった。その後、本件上司は、請求人に付き添っていたN税理士から請求人が無事に帰宅した旨の電話連絡を受けた。
(リ) 調査担当職員は、平成22年2月15日に、N税理士に架電し、請求人に修正申告の意思があるか否かを確認したところ、N税理士は、請求人には修正申告を行う意思がない旨を申し述べた。
ハ 判断
(イ) 請求人は、本件調査において、原処分庁が事前通知を行わず、請求人が病院で診察を待っているときに調査を強要したこと(争点1の請求人の主張(1))及び平成21年10月23日の調査において、調査担当職員が請求人の私物であるバッグを開けさせて財布の中身を確認して請求人に現金を数えさせ、レジスターを勝手に触ってメーカーに直接操作方法を問い合わせたこと(同(3))が違法である旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)のとおり、質問検査権に基づく税務調査に際し、納税者に対する事前通知をしなければならないことを定めた法令上の規定はなく、税務調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において、社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられている。
 そして、上記1の(4)並びに上記ロの(イ)及び(ハ)の各事実、特に、請求人が現金売上げを主体とする焼肉店を2店舗経営しており、現金を確認する必要性が存したこと、調査担当職員が旧自宅、J店及びL店に臨場した際に請求人は不在であったため、調査担当職員が電話をしたところ、病院で検査中であった請求人と連絡が取れたことから、請求人に調査協力を要請したこと、請求人のバッグないし財布の中にあった売上げに係る現金の確認については請求人の同意を得て確認作業を行ったこと、調査担当職員が売上げに係るレジスターの記録状況等を確認する際には請求人が調査担当職員をレジスターの設置場所へ案内したこと、請求人がレジスターの操作方法が分からない旨申述し、レジスターの取扱説明書の提示も行わなかったため、調査担当職員は、やむを得ずレジスターのメーカーに電話で操作方法について聴取したこと、請求人及びN税理士は、調査担当職員のレジスター等の調査方法等について、特に抗議等を行わなかったこと等にかんがみると、原処分庁が、質問検査権に基づく本件調査に際し、納税者に対する事前通知をしなかったこと、病院で受診中の請求人に対して電話連絡により調査協力要請を行ったこと、調査担当職員が請求人のバッグないし財布の中にあった売上げに係る現金の確認を行い、レジスターについて操作方法を知らない請求人に代わって調査担当職員がメーカーにその操作方法を電話で問い合わせたことについては、いずれも、質問検査の必要性と相手方の私的利益の比較衡量において、社会通念上相当な限度にとどまっており、かつ、調査権限を有していた調査担当職員の合理的な判断を超えたともいえない。
(ロ) 請求人は、平成21年10月21日の調査において、調査担当職員が調査終了時間について請求人と約束をしたにもかかわらずこれを守らなかったこと(争点1の請求人の主張(2))、平成21年10月23日の調査において、J店の開店時間を過ぎても調査が終了せず、店を休まざるを得なくなったために肉が無駄になったこと(同(4))及び請求人が平成22年2月8日にH税務署庁舎内で本件上司と面談中に倒れて救急車で病院に運ばれたこと(同(5))を指摘して、本件調査が違法である旨主張する。
A しかしながら、上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、平成21年10月21日の昼過ぎにH税務署に来署していること、調査担当職員は、請求人の病院での検査の途中であり本日の調査は止めてほしいとの要望をいれて、請求人が病院での検査のため退出することを認めた上、同日予定していた本件各店舗への臨場を取り止めていることからすれば、そもそも、調査担当職員が請求人との間で調査の終了時間について約束をしていたとは認め難く、さらに、請求人は、自ら退出を申し出て退出しているのであるから、調査担当職員が請求人と約束した調査の終了時刻を守らなかった旨の請求人主張事実を認めることはできない。
B また、上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、調査担当職員は、事前に請求人の代理人のN税理士と日程を調整した上で、平成21年10月23日午後3時ころにJ店に臨場していること、平成21年10月23日の調査の際に、請求人は、J店の開店時間が迫っている旨調査担当職員に申し述べ、調査担当職員は、当該申出を受けて調査を終了していること、請求人及びN税理士は、調査担当職員に対して特に抗議等を行っていないことからすれば、J店の開店時間を過ぎても調査が終了せず、請求人がJ店を休業した事実を認めることはできない。
C さらに、上記ロの(チ)のとおり、請求人は、平成22年2月8日に、事前の約束なしに本件上司に面談を求めてN税理士と共にH税務署に来署し、本件上司との面談開始後15分ほどで体調を崩しているが、そもそも、請求人が本件上司と面談した際に、本件上司が請求人に対して請求人の所得税及び消費税等に係る質問検査を行っていたとは認められないから、上記の事実は何ら本件調査の違法性を基礎付けるものではない。
D 以上のとおり、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。
(ハ) 請求人は、本件調査に協力する姿勢を示し、可能な限り資料も提供したにもかかわらず、請求人が推計の根拠の説明を求めても明確な回答もなしに修正申告をしょうようし、請求人のあらゆる説明にも耳を貸さずに調査を打ち切って原処分を行ったこと(争点1の請求人の主張(6))が一方的な調査義務の放棄であり、原処分庁には調査に係る裁量権の逸脱がある旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、質問検査権に基づく税務調査に際し、どの段階で調査を打ち切って更正を行うかについて実定法に何らの定めもなく、制度の趣旨、目的に反しない限りにおいて、原処分庁に広い裁量が認められているところ、上記ロの(ト)及び(リ)のとおり、本件調査の結果、請求人が申告した売上金額について計上漏れが認められたものの、申告内容を確認できる書類等が得られなかったこと、調査担当職員は、請求人及びN税理士に対し、これまでの調査状況等にかんがみ推計の方法により調査額を算定する旨の説明をした上、N税理士に対して請求人に修正申告の意思の有無を確認し、N税理士から請求人には修正申告を行う意思はない旨の回答を得ていることからすれば、原処分庁が、N税理士から請求人に修正申告を行う意思がない旨の回答を得て調査を打ち切り、原処分をしたことが、原処分庁の裁量権を逸脱ないし濫用したものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ニ) 以上のとおり、原処分における調査手続に違法はない。

(2) 争点2 所得税の青色申告の承認の取消しをすべき事実があったか否か。

イ 法令解釈
 青色申告者の帳簿書類の備付け、記録及び保存等(以下「帳簿書類の備付け等」という。)については、所得税法第148条第1項、所得税法施行規則第56条及び同規則第63条等において規定しているが、これらの規定等の趣旨は、青色申告者に対して課税手続や税額計算等に関する各種の特典を与える代わりに帳簿書類を備え付けさせ、所得の基因となる一切の取引を正確、組織的かつ継続的に記録し、これを保存することを義務付けて、これに基づいて申告することで申告納税制度における適正な課税を実現するという点にある。
 そして、所得税法第150条第1項は、同項各号のいずれかに該当する場合には、税務署長は当該各号に掲げる年までさかのぼって青色申告の承認を取り消すことができる旨規定しているから、当該各号のうちの1つでも該当する場合には、他の理由について判断を要することなく、当該取消処分は適法であると解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分庁関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、調査担当職員に対して以下のとおりの帳簿書類の提示を行った。
A 本件各年分のうちの平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下「本件後続各年分」といい、消費税等における本件各課税期間のうちの平成18年課税期間、平成19年課税期間及び平成20年課税期間を「本件後続各課税期間」という。)の総勘定元帳
B J店に係る平成20年分の売上伝票
C J店に係る本件後続各年分の売上集計表
D L店に係る平成20年6月分メモ
E 平成20年分のL店売上集計表
F 本件後続各年分の必要経費に係る領収書等
(ロ) 請求人は、平成14年分の総勘定元帳及び平成17年分以前の必要経費に係る領収書等の原始記録について、調査担当職員に提示をしなかった。
(ハ) 請求人は、J店の売上金額の計上について、日々の売上伝票を基に売上メモ(以下「J店売上メモ」という。)を作成し、J店売上メモに記載された日々の売上金額を年数回に分けて売上集計表(以下「J店売上集計表」といい、L店売上集計表と併せて「本件各店舗売上集計表」という。)に転記していた。
 なお、J店の平成20年分のJ店カード売上伝票及びJ店現金売上伝票は、その保存方法について特に区分されていなかったが、そのうち、J店カード売上伝票については、その一部について保管がなく、J店売上メモに記載されている日々の売上金額は、保管されている売上伝票の金額を基礎として計算されていることから、J店の平成20年分の売上金額の一部が計上漏れとなっていた。
(ニ) 請求人は、L店の売上金額の計上について、L店店長であるPから渡される日々の売上伝票及び顧客が代金をクレジットカードで精算する際に出力されるクレジットカード売上票に基づいて、現金売上げ及びカード売上げの各金額を記載した売上メモ(以下「L店売上メモ」という。)を作成し、L店売上メモに記載された日々の売上金額を年数回に分けてL店売上集計表に転記していた。
 L店売上メモは、請求人が3週間から1か月の間隔で作成しているが、平成20年分のL店売上メモは、平成20年6月分メモ以外に保存されておらず、さらに、平成20年6月分メモには、現金売上げのあった日が合計24日ある旨記載されているが、L店売上集計表にはそのうち2日分しか記載されておらず、当該2日分の現金売上げについても、正確に転記されていなかった。
 なお、L店にはレジスターが設置されていない。
(ホ) M税理士は、本件各店舗売上集計表を基に、総勘定元帳及び青色申告決算書を作成し、本件各年分の確定申告書に記載された請求人の事業所得に係る収入金額を算出していた。売上等に関しては、通帳とクレジットカード会社発行の明細書以外の原始記録等の確認はしていない。
(ヘ) 請求人は、本件調査において、調査担当職員に対して要旨以下のとおり申述した。
A 本件各店舗の売上げに係る金銭出納帳は、作成していない。また、平成17年分以前の必要経費に係る領収書等の原始記録について、3年以上前のものは廃棄して保存しておらず、その際に、平成17年分以前の総勘定元帳も併せて廃棄した。
B J店の売上げに係る現金管理を行っておらず、売上伝票と現金残高との照合は行っていない。
C 本件各店舗の売上伝票の管理が甘い部分があるが、伝票破棄はしていない。
(ト) 請求人は、当審判所に対して要旨以下のとおり答述した。
A 請求人がJ店売上メモを作成する際には、レジスターの横の狭い場所で行っていたことから、壁の隙間に売上伝票が入り込んでしまう等の理由でJ店カード売上伝票及びJ店現金売上伝票を紛失してしまったと思う。
B L店に係る売上伝票及びクレジットカード売上票は、旧自宅又はJ店の倉庫に段ボール箱等に入れて保管していたが、倉庫の整理状況がよくなかったこともあり、アルバイトが他のごみと一緒に捨ててしまったと思う。
ハ 判断
(イ) 所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けている居住者については帳簿書類を備え付けてこれに事業所得の金額等に係る取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない旨規定し、これを受けて、所得税法施行規則第63条は、青色申告者に帳簿書類等を7年間保存することを義務付けているところ、請求人は、上記ロの(イ)、(ロ)及び(ヘ)のAのとおり、所得税法に規定する保存義務がある平成14年分の総勘定元帳等の帳簿書類を保存していないことから、青色申告者に義務付けられている帳簿書類等の備付け及び保存を怠っていたと認められる。
 したがって、所得税法第150条第1項第1号所定の青色申告の承認の取消事由に該当するから、同号に基づいてされた本件青色取消処分は適法である。
(ロ) 請求人は、所得税法第150条第1項第3号に規定している「帳簿書類の記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」がまず吟味されるべきである旨、また、本件青色取消処分は、更正の理由附記を回避することのみを目的とした処分であり、違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、平成14年分の総勘定元帳等の帳簿書類の保存がないことを理由としてされた本件青色取消処分はそれ自体適法であり、所得税法第150条第1項第3号に規定する取消事由該当性の有無を判断する必要はなく、また、本件の全証拠をもってしても、原処分庁が、理由附記を回避することのみを目的として本件青色取消処分を行ったとは認められない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。

(3) 推計の必要性及びL店に係る推計の合理性について

 請求人は、推計の必要性及びL店に係る推計の合理性について何ら主張しないところ、上記(2)のロの(ハ)ないし(ホ)、(ヘ)のB及びC並びに(ト)のとおり、まる1平成20年分のJ店カード売上伝票について一部保存がなく、また、請求人は、売上伝票の保存状況については管理が甘い部分がある旨の申述及びJ店売上メモを作成する際に売上伝票を紛失してしまった旨の答述を行っていることから、平成20年分のJ店現金売上伝票についても、その一部を紛失しており完全な状態で保存されていないことが容易に推認されること、まる2L店における売上金額の計算の基礎となる売上伝票の保存がなく、また、請求人が作成した平成20年6月分メモの記載内容がL店売上集計表に正確に転記されていないことから、L店の平成20年分の売上金額が適切に計上されていないことが容易に推認されること、まる3上記まる1及びまる2から、M税理士が作成した平成20年分の総勘定元帳の収入金額の計算の基礎となった本件各店舗売上集計表は、適正に記載されていないと認められ、また、請求人は、本件各店舗の売上げに係る現金管理を行っておらず、金銭出納帳も作成していないこと、さらに、まる4上記まる1ないしまる3の事項を併せ考えると、平成19年分以前のJ店の売上金額が適正に計上されていないことが容易に推認されるが、一方、平成19年分以前のJ店の売上伝票が保存されておらず、平成19年分以前のJ店売上集計表の記載内容の適否についての検討を行うことができないこと等から、調査担当職員が請求人の本件各年分の事業所得の金額及び本件各課税期間の消費税等の課税標準額を請求人が保存している帳簿書類等に基づく実額収支計算の方法によらず、推計の方法により算定したことはやむを得ないと認められる。
 また、L店に係る平成20年分の事業所得の金額及び平成20年課税期間の課税標準額等も適法に算定されていると認められ、L店に係る平成20年分の事業所得の金額は、別表6の「審判所認定額」の「L店に係る事業所得の金額」欄のとおり、1,975,669円であり、平成20年課税期間の課税売上高(税込み)は、別表7−1の「審判所認定額」の「L店課税売上高」欄のとおり15,556,450円であると認める。

(4) 争点3 J店に係る推計課税の計算方法に合理性が認められるか否か。

 上記(3)のとおり、本件の全証拠及び当審判所の調査によっても、請求人の本件後続各年分のJ店に係る事業所得の金額を実額で算定することはできないから、推計の必要性があったと認められる。そこで、原処分庁が主張する推計の方法について検討する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 請求人が仕入れたJ店に係る割箸の本数は、平成18年は18,000本、平成19年及び平成20年は、各年につき12,000本である。
(ロ) 請求人が仕入れたJ店に係る箸袋の枚数は、平成18年が10,000枚を2回仕入れて合計20,000枚、平成19年が10,000枚及び平成20年が10,000枚である。
(ハ) 請求人が仕入れたJ店に係る割箸及び箸袋については、本件後続各年分の各期末において棚卸が実施されているか明らかでなく、本件後続各年分における一年間の実際の割箸の使用本数及び箸袋の使用枚数は確認することができない。
(ニ) J店に係る本件後続各年分の水道光熱費の金額は、別表3の「水道光熱費の金額」欄のとおり、平成18年2,725,439円、平成19年2,441,658円及び平成20年2,451,269円である。
ロ 判断
(イ) J店の収入金額及び所得金額について
A 原処分庁は、請求人の事業所得の収入金額を推計する方法として、平成20年分の収入金額は、割箸の年間仕入本数から客数への反映のない本数を5%として控除した本数を推定客数とし、客1人当たりの平均単価を乗じて算定する方法が合理的である旨、さらに、平成18年分及び平成19年分の収入金額の計算上、平成20年分の推計収入金額に対する請求人の確定申告額の総収入金額に占める割合に基づいて算定するのが合理的である旨主張する。
 確かに、来客数が増加すれば、割箸の消費量も増加し、それに伴い収入金額も増加することから、店舗で費消された割箸と当該店舗の収入金額には、一定の相関関係があるといえる。このことから、推計課税において割箸を効率項目として用いる計算方法は、一応の合理性が認められる。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、J店の平成20年分の収入金額を推計するに当たって、客数に反映しない割箸本数の仕入本数に対する割合(以下「ロス率」という。)を5%と算定した上、同年における割箸の仕入本数からロス率によるロス数を控除した数をもって同年の客数と推計しているところ、そもそも、原処分庁が採用したロス率それ自体について合理的な算定根拠を確認することができないのみならず、割箸の仕入れの態様等にもかんがみると、ある年における割箸の実際の費消本数とその年の割箸の年間仕入本数(上記イの(イ)のとおり、J店においては1,000本単位での仕入れがされている。)との間の相関関係は概括的、近似的にしか把握し得ないのが通常であると考えられるから、割箸の年間仕入本数のうちその年の客数に反映しない本数を当該年間仕入本数に基づいて割合的に把握する推計方法自体が必ずしも合理的とはいい難い。
 また、平成18年分及び平成19年分の収入金額についても、上記の算定方法によって推計された平成20年分の収入金額をその算定の基礎としていることから、合理的な算定方法であるとはいい難い。
 原処分庁は、本件後続各年分の所得金額について、上記の推計方法により本件後続各年分の収入金額を算出し、これに青色申告を行っている業種・業態及び事業規模に類似性のある同業者(以下「類似同業者」という。)の青色申告の各種特典控除前の所得率(以下「同業者所得率」という。)の平均値を乗じて算定しているところ、上記のとおり、その算定の基となる収入金額の算定方法が相当であるとは認めることができないことから、原処分庁の主張する推計の方法は採用できない。
B ところで、飲食店営業の場合、類似同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の水道光熱費の割合に対し、同程度の収入を得、同程度の収入に対し、同程度の所得を得るのが通例であり、請求人の営む事業(焼肉店営業)についても上記特段の事情はうかがわれない。
 そうすると、請求人の本件後続各年分の事業所得の金額を算定するに当たっては、請求人の水道光熱費の金額を類似同業者の収入金額に対する水道光熱費の金額の占める割合(以下「水道光熱費率」という。)の平均値で除すことにより、収入金額を算定し、同業者所得率を乗じる方法が、他により合理的な推計の方法が見当たらない本件においては合理的であるということができるから、当審判所においては、当該推計方法を採用することとする。
C 当審判所において、原処分庁が主張する類似同業者について、その適否を検討したところ、これらの類似同業者は、平成20年分の割箸を効率項目として用いた収入金額を基礎として算出された本件後続各年分の収入金額の0.5倍から2.0倍の間という条件で抽出されていることから、上記Bの推計方法を採用した場合における類似同業者としては適当ではない。
 そこで、J店がH税務署管内に所在することから、当審判所でH税務署及び隣接する各税務署管内に事業所を有し、請求人と業種、業態及び事業規模が類似し、かつ、青色申告書を提出している者で、水道光熱費の金額が請求人の0.5倍から2.0倍の間であり、かつ、所得税についての不服申立て又は訴訟が係属中でないなど一定の基準により、機械的に類似同業者を抽出したところ、別表4のAないしCのとおりとなる。
D 別表4の類似同業者の水道光熱費率の平均値を算定すると、同表の「水道光熱費率」の各「平均」欄のとおり、平成18年分が3.78%、平成19年分が3.61%及び平成20年が3.82%であると認められる。よって、J店の水道光熱費の金額を水道光熱費率で除して算定されるJ店の収入金額は、別表5の「平成18年分」、「平成19年分」及び「平成20年分」の各「総収入金額」欄のとおり、平成18年分が72,101,560円、平成19年分が67,635,955円及び平成20年分が64,169,345円となる。
E 次に、同業者所得率は、別表4の「同業者所得率」の各「平均」欄のとおり、平成18年分が14.02%、平成19年分が13.67%及び平成20年分が13.54%となるので、本件後続各年分のJ店に係る所得金額は、それぞれ平成18年分が10,108,638円、平成19年分が9,245,835円及び平成20年分が8,688,529円となる。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、J店について原処分と異議決定で推計課税の計算方法を変更するということは、原処分庁の推計は根拠が薄弱であり、ずさんであるから合理性がない旨主張する。
 ところで、推計課税に基づく原処分に対する不服申立てにおいて、推計課税が推計の必要性の要件を満たしている場合、課税庁が、納税者の所得金額を処分当時の推計方法とは異なる方法(実額による場合もあり、推計方法を異にする場合もあり得る)により計算し直すことは、課税標準等又は税額等の適否を審理判断するという課税処分に係る不服申立ての本質からして、もとより許されると解されるから、異議審理庁が原処分の適法性を判断するに当たって、推計の基礎数値として採用すべき資料の把握状況等に照らし、より合理的と認められる新たな推計方法で所得金額等を推計し直したとしても、そのために原処分が違法なものであるということはできない。
 また、原処分における推計方法は、上記(イ)のAで判断したとおり、一応の合理性が認められるから、請求人の主張は採用することができない。
B 次に、請求人は、箸袋の使用枚数を加味した推計を行うと、その推計計算の結果が原処分庁の推計所得金額を大幅に下回る旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、箸袋の年間の仕入回数が1回ないし2回である上、仕入れも10,000枚単位でされていること、各年分の在庫状況が不明であることから、実際にその年に使用された枚数を把握するのが困難であること、また、原処分庁と同様にロス率を5%と勘案しているところ、上記(イ)のAで判断したとおり、ロス率については、合理的な算定根拠を確認することができないこと等から、請求人の主張する推計方法は、合理性を欠くといわざるを得ない。
 以上のことから、この点における請求人の主張は採用することができない。
C また、請求人は、請求人の確定申告額を基礎として、J店カード売上伝票の欠落に基因する売上げの計上漏れの金額から、J店現金売上伝票の欠落に基因する売上計上漏れを推認して、J店に係る収入金額を推計する方法により請求人の所得金額を推計した結果は、原処分庁の推計した所得金額を大幅に下回る旨主張する。
 しかしながら、本件の全証拠によっても、J店カード売上伝票の欠落の基因する売上げの計上漏れとJ店現金売上伝票の欠落に基因する売上げの計上漏れとの間に相関関係を認めることはできないから、請求人の主張は採用することができない。

(5) 争点4 リベート収入は、請求人に帰属する収入か否か。

イ 法令解釈
 所得税法第27条は、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生ずる所得である旨、また、同条の委任を受けた所得税法施行令第63条は、飲食店業及び料理店業から生ずる所得についても事業所得に該当する旨各規定している。
 そして、所得税基本通達27−5は、事業所得を生ずべき事業の遂行に付随して生じた収入で、事業用資産の購入に伴って景品として受ける金品に係るもの等は、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入される旨定めているが、これは、事業用資産の購入に伴い受領するもので単なる値引きには該当しない割戻金ないし報奨金等のいわゆるリベートと呼ばれるものについては、事業が総合的な活動であることに着目して、たとえ個々の所得発生の基因となった事実をみれば事業所得以外の所得とされるものであっても、事業の遂行に付随して生じた所得として、これを事業所得に含める趣旨であると解され、当審判所においても上記通達に定める取扱いは相当であると認める。
ロ 認定事実
 原処分庁関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) J店の飲料に係るリベート契約
 Q社は、平成19年12月27日付で、「P’」を相手方名義人として、「拡売協力に関する覚書」と題する文書(以下「本件Q社覚書」という。)を作成して取り交わした。なお、「P’」は、Pの通称である。
 本件Q社覚書の要旨は、以下のとおりである。
A P’は、本契約の存続期間中、J店において顧客に提供する酒類等につき、Q社が製造又は販売するビール等の商品を主力商品として取扱い、その拡販に協力することを約する。(標記A、第1条の1)
B Q社は、上記Aに基因する義務の履行の対価として、販売協力金○○○○円(消費税込み)を平成20年1月31日までにP’の指定する同人名義の銀行口座へ振り込む方法で支払う。(標記B、C、第2条)
C 契約期間は、平成20年1月1日から満5年を経過する日までとする。ただし、期間満了日の3か月以上前までにいずれの当事者からも更新拒絶又は本契約内容の変更等の意思表示がされなかった場合、本契約は自動的に1年間更新され、以後も同様とする。自動更新された場合、上記Bの販売協力金の再度の支払は行わない。(標記D)
(ロ) J店の飲料に係るリベートの支払状況
 平成19年12月27日付で、Q社あてに拡売協力金として○○○○円をR銀行f支店の請求人名義の普通預金口座に振り込むよう記載されたJ店名義の請求書が発行され、平成20年1月31日に上記金額がQ社から当該預金口座に振り込まれた。
(ハ) L店の飲料に係るリベート契約
 S社は、平成19年12月20日付で、Pを相手方名義人として、L店における「専売契約書」と題する文書(以下「本件S社契約書」という。)を作成して取り交わした。なお、契約書の当事者欄にはL店に名称が変更される前の当該店舗の名称である「K」名義の署名がされている。
 本件S社契約書の要旨は、以下のとおりである。
A Pは、「K」において販売する酒類等について、S社又はS社の関係会社が製造又は販売する製品のみとすることを確約する。(第1条の1)
 なお、本件契約の有効期間中に、店舗の名称等の変更があった場合でも、本条の定めが適用されるものとする。(第1条の2)
B S社は、Pが年間仕入目標数量を達成すること等を条件として、平成19年12月31日までに専売料○○○○円(消費税込)をPが指定する銀行口座に振り込む方法で支払う。(第4条の1)
C 本契約の有効期間は、平成19年11月29日より平成24年11月28日までの5年間とする。ただし、有効期間満了の1か月前までにいずれからも終了の申出のない場合、有効期間は1年延長されるものとし、以後も同様とする。(第2条)
(ニ) L店の飲料に係るリベートの支払状況
 S社は、平成19年12月28日に、○○○○円をj信用金庫k支店のP名義の普通預金口座に振り込む方法により支払った。
(ホ) 本件S社契約書の作成当時のS社所属の営業担当者(以下「本件営業担当者」という。)の当審判所に対する答述は、以下のとおりである。なお、本件営業担当者の答述には格別不自然な点は認められず、明瞭かつ具体的であり、信用できるものと認められる。
A 本件営業担当者は、酒類販売店の紹介で、新規に開店する店舗として契約交渉に当たった。本件営業担当者は、P及び請求人の二人と面談交渉の上契約を締結した。
B 本件営業担当者は、PをL店のオーナーであると思っていた。本契約は、L店での専売契約であり、店舗のオーナーとの契約であると理解している。
ハ 判断
(イ) 本件リベート収入の帰属について
 上記イのとおり、事業所得を生ずべき事業の遂行に付随して生じた収入で、事業用資産の購入に伴って収受する割戻金ないし報奨金等のリベートは、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されるところ、上記ロの(イ)のA及びB、(ロ)、(ハ)のA及びB、(ニ)並びに(ホ)のBのとおり、Q社が販売協力金の名目で支払った○○○○円は、J店において顧客に提供する酒類等につき、Q社が製造又は販売するビール等を主力商品として取り扱うことの対価として支払われたものであり、また、S社が専売料の名目で支払った○○○○円は、L店(K)において販売する酒類等につき、S社又はその関連会社が製造又は販売する製品のみとして年間仕入目標数量を達成すること等を条件として支払われたものであって、いずれも本件各店舗に係る酒類等の取引におけるQ社又はS社の独占的地位等を付与することによってその販売拡大に協力することに対する対価としての性格を有するものであって、本件各店舗において酒類等の仕入れ及び販売を行うことに基因するリベートであると認められる。そうであるとすれば、これらの販売協力金及び専売料(本件リベート収入)は、特段の事情がない限り、本件各店舗の経営主体(経営者)に帰属すべきものであるところ、上記1の(4)のとおり、本件各店舗の経営者は請求人であるから、本件リベート収入は、いずれも、請求人に帰属するものと認められ、請求人が事業所得を生ずべき事業の遂行に付随して生じた収入であることから、請求人の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されるべきものであると認めるのが相当である。
(ロ) 請求人の主張について
 請求人は、リベート収入が酒造メーカーから飲食店に直接支払われるケースは一般的ではない旨、及び、Pが以前から酒造メーカーと付き合いや取引があり、Pが影響力を持っている同業者に対して酒造メーカーが営業を行いやすくするために、Pからの要請に応じてリベートが支払われたものである旨を理由に、本件リベート収入が請求人に帰属するものではない旨主張していると解される。
 確かに、上記ロの(イ)、(ハ)及び(ニ)のとおり、本件リベート収入に係るQ社との間の契約もS社との間の契約もいずれもPを相手方名義人として締結された上、S社からの専売料はP名義の預金口座に直接振り込まれている。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、Q社からの販売協力金もS社からの専売料も、いずれも、本件各店舗に係る酒類等の取引におけるQ社又はS社の独占的地位を付与することによってその販売拡大に協力することに対する対価として支払われたリベートであって、上記ロの(ロ)及び(ホ)のとおり、Q社からの販売協力金は、請求人名義の預金口座に直接振り込まれており、また、本件営業担当者は、専売料に係るS社との間の契約について、店舗(L店)のオーナーとの契約である旨の認識を有していたというのであるから、本件リベート収入は、上記の契約名義等にかかわらず、本件各店舗の経営者である請求人に帰属するものと認められ、この点における請求人の主張は採用することができない。

(6) 争点5 下着等をオークションで販売したことは生活用動産の譲渡に当たるか否か。

イ 法令解釈
(イ) 所得税法第9条第1項第9号は、自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゅう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得は、所得税を課さない旨規定し、これを受けて、所得税法施行令第25条は、非課税とされる生活用動産について、生活に通常必要な動産のうち、一個又は一組の価額が300,000円を超える貴金属等以外のものと規定している。これは、戦後のいわゆる「竹の子生活」といった経済状況等を考慮して零細な所得を追及しないという執行上の配慮、又は、本来、生活用動産は投資ないし投機目的で所有するものではなく、通常はその購入価額以上で売却することができるものではないといった事情等により、当該生活用動産の譲渡による所得を非課税としている趣旨のものと解される。
 そうすると、ある動産の譲渡による所得が非課税となるか否かは、当該動産の用途、使用状況を考慮する必要があることはもとより、当該譲渡が行われた際の状況等をも考慮する必要があると解するのが相当である。
(ロ) 所得税法第33条において、非課税に該当しない資産の譲渡に係る所得は、原則として譲渡所得に区分されているが、資産の譲渡であっても、棚卸資産等の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡や山林の伐採又は譲渡による所得は、譲渡所得から除外している。これは、資産の譲渡によって生じた所得であっても、税負担の衡平を図る見地から一律の取扱いをすることなく、保有期間の値上がり益や外部的な変化に基因する資産価値の増加が一時的・偶発的に実現する場合については、人的努力及び活動に基因する資産価値の増加が経常的・計画的に実現する場合と比較して担税力において劣ることから、両者を区分し、前者については譲渡所得として税負担の軽減を図り、後者については事業所得又は雑所得等として譲渡所得の範囲から除外する趣旨と解される。
 このような趣旨からすれば、資産の譲渡による所得が営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得に当たるか否かの判断に当たっては、資産の譲渡の客観的な態様・状況からみて、経常的・計画的に発生する所得か否かを判断するのが相当であり、具体的には資産の売買回数、数量又は金額、売買に当たっての広告、宣伝等の方法、並びに当該譲渡に係る資産の取得及び保有状況等を総合して判断することとなる。
(ハ) 所得税法第35条において、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定しているところ、これは、所得税法が人の担税力を増加させる経済的利得はすべて所得を構成し、課税の対象としているものと解される。そして、ある所得が対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得(所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条第12号)として事業所得に該当するかそれとも雑所得に該当するか否かは、結局、一般社会通念に照らして決定するほかないが、これを決定するに際しては、営利性・有償性の有無、反復継続性の有無、自己の危険と計算による企画遂行性の有無、取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的物的設備の有無、資金調達方法、その者の職業・経歴及び社会的地位、生活状況等などの諸点が検討されるべきものであると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分庁関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、インターネット上の○○○○を利用して、請求人が使用したとする下着、靴及び靴下等を宣伝し、販売した。
 その際、請求人は、愛好者等の興味を喚起するような扇情的な表現等を用いて当該下着等の宣伝を行った。
(ロ) 請求人は、男性が主な販売先になるため、U信用金庫g支店のP名義の普通預金口座を本件オークション収入の振込先に指定し、同口座には、平成20年1月1日から同年12月31日までの間に、オークションの販売代金として、○○○○より計67回にわたり、合計○○○○円が振り込まれた。
ハ 判断
(イ) 上記イの(イ)のとおり、所得税法は、自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゅう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得は、所得税を課さない旨規定しているところ、上記ロの各事実によれば、請求人は、インターネット上の○○○○を利用して、愛好者等の興味を喚起するような扇情的な表現等を用いて請求人が使用したとする下着、靴及び靴下等を平成20年の1年間に計67回にわたり販売し、合計○○○○円の決済代金をP名義の普通預金口座に振り込ませて受け取っているのであって、その販売の回数、方法、態様及び決済代金額等にかんがみると、請求人の下着等の販売は、生活用品としての下着等の時価相当額による売買の域を超えて、女性が着用等した下着等という商品を新たに創出してこれを時価相当額を上回る付加価値付きの価額で愛好者に販売する行為ということができるから、上記イの(イ)の生活用動産の譲渡による所得を非課税とした趣旨にかんがみても、当該下着等の譲渡による所得は、所得税法上の生活に通常必要な動産の譲渡による所得に当たらないというべきである。
(ロ) 上記イの(ロ)のとおり、資産の譲渡による所得が営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得に該当するか否かの判断に当たっては、資産の売買回数、数量又は金額、売買に当たっての広告、宣伝等の方法等を総合して判断するものであるところ、上記ロの事実関係からすれば、請求人が行った下着等の販売は、上記イの(ロ)の「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」であると認められるから、本件オークション収入から生ずる所得は、譲渡所得に該当しないと認められる。
(ハ) 本件オークション収入から生ずる所得が利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得及び一時所得のいずれにも該当しないことは明らかであり、また、譲渡所得に該当しないことは上記(ロ)のとおりである。そして、上記イの(ハ)のとおり、ある所得が対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得として事業所得に該当するかそれとも雑所得に該当するかについては、営利性・有償性の有無、反復継続性の有無、自己の危険と計算による企画遂行性の有無、取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的物的設備の有無、資金調達方法、その者の職業・経歴及び社会的地位、生活状況等などの諸点から検討される必要があるところ、上記ロのとおり、本件オークション収入から生ずる所得には、営利性・有償性及び反復継続性は認められるものの、上記の事実関係から直ちに請求人の危険と計算による企画遂行性があるとまではいえないこと、上記1の(4)並びに上記(3)及び(4)のロの(イ)のとおり、請求人は、本件各店舗において焼肉店を営んでおり、生活の糧を本件各店舗からの所得により得ていると認められること、インターネット上の○○○○のための格別の人的物的設備を有しているとは認められないこと、本件オークション収入を得るために相当程度の精神的、肉体的労力を用いたものとは認められないことなどの諸点を総合して勘案すると、本件オークション収入から生ずる所得は事業所得にも該当しないというべきであるから、雑所得に該当すると認められる。
(ニ) 請求人は、本件オークション収入の基因となった販売物は、新たに購入したものではなく、不用品の処分を目的とした下着等であり、すべて生活用動産であるから、非課税である旨主張するが、上記(イ)で判断したとおり、本件オークション収入から生ずる所得は、所得税法上の生活に通常必要な動産の譲渡による所得に当たらないから、請求人の主張は採用することができない。
(ホ) なお、本件オークション収入に基因する雑所得に係る必要経費は、本件の全証拠によっても、その金額が明らかでなく、算定することができないから、本件オークション収入に基因する雑所得の金額は、○○○○円となる。

(7) 争点6 下着類をオークションで販売したことは、課税資産の譲渡等に当たるか否か。

イ 法令解釈
 消費税法第4条第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により消費税を課する旨規定しており、同法第2条第1項第8号は、「資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう」と規定している。
 そして、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」につき、消費税法基本通達5−1−1は、「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう」と定めているところ、消費に広く負担を求める消費税法の趣旨・目的に照らして、当審判所においても、この解釈は妥当と認められる。
ロ 判断
(イ) 上記(6)のハの(イ)のとおり、本件オークション収入に係る下着等の販売は、その販売の回数、方法、態様及び決済代金額等からして、営利を目的として反復、継続、独立して行われる資産の譲渡であると認められるのであって、消費税法の趣旨、目的に照らしても、第2条第1項第8号にいう「資産の譲渡等」に当たるというべきである。
 また、下着等の販売は、消費税法第6条第1項及び同法別表第1に掲げる非課税となる資産の譲渡等には当たらない。
 したがって、本件オークション収入に係る下着等の販売は、消費税法等の課税対象になる。
(ロ) 請求人は、本件オークション収入に係る下着等の販売は、生活用動産の譲渡に当たるから、事業上の取引ではない旨を主張する。
 しかしながら、請求人が行った下着等の譲渡等が課税資産の譲渡等に当たることについては、上記(イ)で判断したとおりであることから、請求人の主張は採用することはできない。

(8) 争点7 請求人の申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。

イ 法令解釈
 通則法第68条第1項は、過少申告した納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、重加算税を課す旨規定している。
 この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであると解される。
 しかし、上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解すべきである。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分庁関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) L店の売上げについて
A 請求人が売上げに係る原始記録として調査担当職員に提示した平成21年1月分ないし同年8月分の各L店売上メモの中に、平成20年6月分メモが紛れていた。
B 平成20年6月分メモには、カード売上げに係る金額の記載箇所が合計20箇所あり、当該各金額については、正確にL店売上集計表に転記されている。
C 平成20年6月分メモに記載された現金売上げの合計金額は、729,071円であるところ、平成20年6月分のL店売上集計表に記載された現金売上げの合計金額は、43,000円であり、平成20年6月分メモに記載されていながらL店売上集計表に転記されていない現金売上げの合計金額は、729,071円と43,000円との差額の686,071円である。また、平成20年6月分メモにおいて、カード売上げの記載がなく、現金売上げのみ記載されている営業日は、6月2日、3日、6日、20日及び23日の5営業日であるが、当該各営業日におけるL店売上集計表の各「売上金額」欄には、それぞれ零円と記載されている。
D 平成20年6月分メモ及び平成21年1月分ないし8月分の各L店売上メモに記載された各月の現金売上げの平均額は、613,150円である。一方、平成20年分のL店売上集計表に記載された同年6月分を除いた各月の現金売上げの平均額は、123,081円である。 
E 請求人は、平成19年11月にL店を開店してから平成20年12月までの期間について、売上伝票及び平成20年6月分メモを除くL店売上メモを保存していない。
F 平成20年課税期間の消費税等の確定申告において、L店に係る課税売上高(税込み)は、9,993,600円であった。
(ロ) J店の売上げについて
 M税理士は、請求人の総勘定元帳を作成するときに、請求人よりJ店売上集計表と共にクレジットカード会社から送付される明細書及び銀行預金通帳の写しを預かり、計上したカード売上げとクレジットカード会社から支払われた支払金額とが合致しない場合は、決算調整でクレジットカード会社からの支払金額と合致するように仕訳し、修正していた。
(ハ) 本件リベート収入
 請求人は、本件リベート収入について、平成19年分及び平成20年分の各総勘定元帳に記載しなかった。
(ニ) 本件オークション収入の受取状況等
 請求人は、本件オークション収入について、総勘定元帳に記載しなかった。
ハ 判断
(イ) L店の売上げについて
 上記(2)のロの(ニ)及び上記ロの(イ)のとおり、請求人は、営業日の売上伝票等からL店売上メモを作成し、L店売上メモから転記してL店売上集計表を作成するところ、原処分に係る調査で把握された平成20年6月分メモと同月分のL店売上集計表に係る各カード売上げの金額については、平成20年6月分メモに記載されている合計20箇所のカード売上金額の記載がすべて正確にL店売上集計表に転記されているが、平成20年6月分メモに記載されている24箇所の現金売上げの金額の記載については、そのうちの22箇所の金額についてL店売上集計表に転記されておらず、残り2箇所の金額についてもL店売上集計表に正確には転記されていない。また、請求人は、カード売上げがなく現金売上げのみの計5日間の営業日における売上金額について、L店売上集計表の「売上金額」欄にそれぞれ零円と記載している。その結果、平成20年6月分のL店の売上金額について、平成20年6月分メモに記載された合計金額と同月分のL店売上集計表に記載された売上金額との間に686,071円の差額が生じている。このような誤りが単なる過誤で生じたとは認め難い。
 そうすると、少なくともL店の平成20年6月分の売上げについては、請求人は、現金売上げを意図的に除外ないし過少に計上する方法によってL店売上集計表を作成したと認めるのが相当である。また、上記ロの(イ)のDのとおり、本件6月分メモ及び平成21年1月分ないし8月分の各L店売上メモに記載された現金売上げの月額平均額は、613,150円であるところ、平成20年分のL店売上集計表に記載された同年6月分を除いた各月における現金売上げの月額平均額は、123,081円であって、約5倍の開きが生じていることからすれば、平成20年6月以外の各月についても、同様に現金売上げを意図的に除外ないし過少に計上する方法によってL店売上集計表を作成していたことが推認できる。そして、上記(2)のロの(ホ)のとおり、M税理士は、本件各店舗売上集計表を基に総勘定元帳及び青色申告決算書を作成し、平成20年分の確定申告書に記載された請求人の事業所得に係る収入金額を算出していたというのである。
 したがって、L店の売上げについては、現金売上げを意図的に除外ないし過少に計上する方法により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、又は仮装したものと認められる。
(ロ) J店の売上げについて
A 上記(2)のロの(ハ)、上記(3)及び上記ロの(ロ)のとおり、J店カード売上伝票及びJ店現金売上伝票は、共にその一部につき保存がなく、請求人の本件各年分の申告の基礎となるJ店売上集計表にJ店の売上金額が適正に計上されていないと認められるが、本件の全証拠によっても請求人が故意にJ店の売上金額をJ店売上集計表に過少に計上した事実を認めることができない。
 そうすると、J店の売上げについては、請求人が、意図的に売上金額を過少に計上する方法により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺい又は仮装した事実は認められない。
B 原処分庁は、J店カード売上伝票が欠落していることの事実に加え、J店現金売上伝票にも相当数の欠落があると想定されるところ、売上伝票の保存においてこれだけの欠落が生じることは通常考え難いこと及び平成20年分の売上伝票に基づく客1人当たりの平均単価と請求人の申告売上金額を同年分の割箸の仕入本数で除して算出した割箸1本当たりの平均単価との間に著しい開差が認められることを併せて考えると、J店現金売上伝票の欠落は、売上除外に伴って生じたものであることが強く推認され、平成19年分以前の各年分においても、それぞれ平成20年分同様の売上除外が行われていた旨主張する。
 しかしながら、上記(4)のロの(イ)のとおり、割箸の仕入れの態様等にもかんがみると、ある年における割箸の実際の費消本数とその年の割箸の年間仕入本数(J店においては1,000本単位での仕入れがされている。)との間の相関関係は概括的、近似的にしか把握し得ないのが通常であると考えられるから、割箸の年間の仕入本数を基に客数ないし客1人当たりの平均単価を推計する方法が合理的であるということはできず、そうであるとすれば、保存されている売上伝票に記載された客数と割箸の仕入本数の開差の大きさや、割箸の仕入本数を基に算定された平均単価と売上伝票を基に算定された客1人当たりの平均単価との開差の大きさから直ちにJ店における売上除外の事実を推認することもできないというべきである。
 以上により、この点における原処分庁の主張は採用することができない。
(ハ) 本件リベート収入及び本件オークション収入について
 本件リベート収入については、上記(5)のハで判断したとおり、請求人に帰属する収入であり、本件オークション収入については、上記(6)のハ及び(7)のロで判断したとおり、所得税及び消費税等についての課税の対象となる所得及び課税資産の譲渡等の対価であることがそれぞれ認められるところ、請求人は、上記(5)のロ及びハ並びに上記ロの(ハ)のとおり、本件リベート収入については、請求人が経営する本件各店舗において酒類等の仕入れ及び販売を行うことに基因するリベートとしてその支払を受けたものであり、しかも、そのうちQ社が販売協力金名目で支払った金員は、請求人名義の普通預金口座に振り込まれているにもかかわらず、所得税及び消費税等の申告の基礎とされた総勘定元帳に記載しなかったというのであるから、請求人は、当初から本件リベート収入を申告から除外することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をしたものということができる。また、上記(6)のロ及びハ並びに上記ロの(ニ)のとおり、本件オークション収入についても、請求人は、請求人自身が使用したとする下着等を営利の目的をもって愛好者向けに反復、継続して販売することにより、年間○○○○円の収入を得ながら、所得税及び消費税等の申告の基礎とされた総勘定元帳に記載しなかったというのであるから、請求人は、当初から本件オークション収入を申告から除外することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものということができる。なお、請求人は、本件オークション収入の振込口座の名義人をPにしたのは取引に係る安全を図るためであると主張するが、そのとおりであるとしても、上記の認定判断を左右するものではない。
 以上のとおり、請求人は、本件リベート収入及び本件オークション収入について、当初からこれらの収入を申告から除外することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をし、その意図に基づいて所得税及び消費税等の過少申告をしたものであるから、所得税及び消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、又は仮装したものと認められる。
(ニ) まとめ
 以上のとおり、請求人は、L店に係る売上金額、本件リベート収入及び本件オークション収入について、平成19年分及び平成20年分の各所得税並びに平成19年課税期間及び平成20年課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装して当該各年分及び各課税期間の各確定申告を行ったものと認められるが、J店に係る売上金額については、請求人は、所得税又は消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装した事実を認めることはできない。

(9) 争点8 請求人の申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか否か。

イ 法令解釈
 通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた所得税ないし消費税等についての更正決定等は、その更正又は決定に係る所得税ないし消費税等の法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。
 ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告ないし過少申告では足らず、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのが相当である。
 そうすると、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことにより、その全部又は一部の税額を免れた所得税ないし消費税等についての各更正処分は、その各更正処分に係る所得税ないし消費税等の法定申告期限から7年を経過する日まですることができることとなるが、そうでない場合の所得税ないし消費税等の更正処分は、法定申告期限から3年を経過した日以後においては、することができないこととなる。
ロ 判断
 これを本件についてみるに、上記(8)のハの(イ)及び(ハ)のとおり、L店に係る売上金額、本件リベート収入及び本件オークション収入の各計上に際しては、上記イのとおりの偽りその他不正の行為が認められる。
 しかしながら、上記(8)のハの(ロ)のAのとおり、J店の売上金額については、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行った事実は認めることはできない。
 以上からすると、請求人には、平成14年分ないし平成17年分の所得税並びに平成16年課税期間及び平成17年課税期間の消費税等の各更正処分については、偽りその他不正の行為があったとは認められないから、通則法第70条第5項の規定の適用はないこととなり、上記各年分の所得税ないし上記各課税期間の消費税等について法定申告期限から3年を経過して更正又は賦課決定処分を行うことはできない。
 したがって、争点9について検討するまでもなく、法定申告期限から3年を経過した平成22年2月25日にされた平成14年分ないし平成17年分の所得税並びに平成16年課税期間及び平成17年課税期間の消費税等の各更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(10) 本件後続各年分の所得税及び本件後続各課税期間の消費税等の税額計算等について

イ 所得税
(イ) 総所得金額について
 本件後続各年分の総所得金額は、上記(3)、(4)のロの(イ)のE、(5)のハの(イ)及び(6)のハの(ロ)のとおり、別表6の総所得金額の「審判所認定額」の各「総所得金額」欄のとおりとなり、いずれの年分も別表1の「更正処分等」の各「総所得金額」欄の額を上回ることになるので、本件後続各年分の所得税の各更正処分は適法である。
(ロ) 重加算税の賦課決定処分について
A 平成18年分
 上記(8)のハの(ニ)のとおり、請求人の平成18年分の事業所得の金額の計算の基礎となるべき事実に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為はなかったと認められるので、平成18年分の重加算税の賦課決定処分は取消しを免れない。
 他方、上記(イ)のとおり、平成18年分の所得税の更正処分は相当であり、本件の全証拠によっても、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の賦課決定処分は、別紙4のとおり、過少申告加算税を超える部分の金額について、いずれも取り消すべきである。
B 平成19年分及び平成20年分
 上記(8)のハの(ニ)のとおり、平成19年分における本件リベート収入に係る事業所得の金額並びに平成20年分におけるL店に係る所得金額、本件リベート収入に係る事業所得の金額及び本件オークション収入に係る雑所得の金額については、その課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装した行為により計上されなかったものである。そして、平成19年分及び平成20年分の所得税に係る重加算税の基礎となる税額は、別紙5及び別紙6の「取消額等計算書」の「課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額」の「重加算税」の各「加算税の基礎となる税額」欄のとおり、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円となり、重加算税の額は、同各「加算税の額」欄のとおり、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円となる。
 そうすると、重加算税の額は原処分の金額を下回るので、平成19年分及び平成20年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分は、別紙5及び別紙6のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。
ロ 消費税等
(イ) 消費税等の合計税額
 上記(3)、(4)のロの(イ)のD、(5)のハの(イ)及び(7)のロの(イ)並びに当審判所が調査した結果によれば、請求人の本件後続各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、課税標準額は、別表7−1の「審判所認定額」の各「課税標準額」欄のとおりであり、また、消費税額は、同表の「審判所認定額」の各「消費税額」欄のとおりである。
 そして、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、課税仕入れに係る消費税額は、別表7−2の「審判所認定額」の各「課税仕入れに係る消費税額」欄のとおりとなる。なお、原処分庁は、平成20年課税期間の課税仕入れに係る消費税額から、同年課税期間の本件リベート収入に係る消費税相当額を減額しているが、本件リベート収入は課税資産の譲渡等の対価であり、その消費税相当額を課税仕入れに係る消費税額から控除することはできないから、「審判所認定額」の「課税仕入れに係る消費税額」欄のとおり、平成20年課税期間の課税仕入れに係る消費税額を○○○○円と認める。
 そうすると、請求人の本件後続各課税期間の消費税等の納付すべき税額は、別表7−3の「審判所認定額」の各「消費税等の合計税額」欄のとおりとなり、いずれの課税期間も別表2の「更正処分等」の各「消費税等の合計税額」欄の額を下回ることになるので、本件後続各課税期間の消費税等の各更正処分は、別紙7ないし別紙9のとおり、その一部を取り消すべきである。
(ロ) 重加算税の賦課決定処分について
A 平成18年課税期間
 上記(8)のハの(ニ)のとおり、請求人の平成18年課税期間の消費税等の税額の計算の基礎となるべき事実に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為はなかったと認められるので、平成18年課税期間の重加算税の賦課決定処分は取消しを免れない。
 他方、本件の全証拠によっても、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の賦課決定処分は、別紙7のとおり、過少申告加算税を超える部分の金額について、取り消すべきである。
B 平成19年課税期間及び平成20年課税期間
 上記(8)のハの(ニ)のとおり、平成19年課税期間における本件リベート収入並びに平成20年課税期間におけるL店の売上金額、本件リベート収入及び本件オークション収入に係る各課税資産の譲渡等の対価の額については、その課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装した行為により計上されなかったものである。そして、平成19年課税期間及び平成20年課税期間の消費税等に係る重加算税の基礎となる税額は、別紙8及び別紙9の「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」の各「裁決後の額」欄のとおり、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円となり、重加算税の額は、同各「加算税の額」欄のとおり、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円となる。
 そうすると、重加算税の額は原処分の金額を下回るので、平成19年課税期間及び平成20年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、別紙8及び別紙9のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(11) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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