(平成23年6月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、N税務署長が原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、中華料理業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、青色申告の承認を受けている居住者が備え付けるべき所定の事項を記載した帳簿書類の備付けがないとして平成15年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分を行い、また、請求人の平成15年分ないし平成20年分の所得税並びに平成15年1月1日から平成15年12月31日までの課税期間ないし平成20年1月1日から平成20年12月31日までの課税期間の各消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の申告内容が真実でない等として、所得金額及び課税資産の譲渡等の対価の額を推計する方法により、所得税及び消費税等の各更正処分及び重加算税等の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、青色申告の承認の取消処分については、裁量権の濫用等があるとして、さらに、所得税及び消費税等の各更正処分及び重加算税等の各賦課決定処分については、申告内容は真実のものである等として、違法等を理由に原処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の4点である。

  1. 争点1 青色申告の承認の取消処分に裁量権の濫用等があるか否か。
  2. 争点2 事業所得に係る推計の必要性及び合理性が認められるか否か。
  3. 争点3 課税資産の譲渡等の対価の額に係る推計の必要性及び合理性が認められるか否か。
  4. 争点4 所得税及び消費税等の更正処分に係る偽りその他不正の行為並びに所得税及び消費税等の納税申告書の提出に係る隠ぺい又は仮装行為があったか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求に至る経緯は、別表1、別表2、別表3−1及び別表3−2のとおりである(以下、平成15年1月1日から平成15年12月31日までの課税期間を「平成15年課税期間」といい、他の課税期間についても同様に、順次、「平成16年課税期間」、「平成17年課税期間」、「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」及び「平成20年課税期間」という。)。
 なお、請求人は、まる1青色申告の承認の取消処分について平成22年6月30日に、まる2その他の原処分について同年9月3日に審査請求をしたところ、当審判所は、これらの各審査請求を併合して審理した。

(3) 関係法令

 別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の事業内容等について
(イ) 屋台関係
A 請求人は、j市m町のn(以下「n」という。)において、平成12年に、「Q」の屋号で中華料理屋台1店(以下「本件屋台1号店」という。)を開店した(以下、本件屋台1号店に係る事業を「本件屋台1号店事業」という。)。なお、本件屋台1号店が所在する建物の2階部分は、販売商品の調理等を行うための厨房として利用されている。
B 請求人は、平成17年8月に、本件屋台1号店と同じくnに「Q」の屋号で中華料理屋台1店(以下「本件屋台2号店」という。)を開店した(以下、本件屋台2号店に係る事業を「本件屋台2号店事業」といい、本件屋台1号店事業と本件屋台2号店事業を併せて「本件屋台事業」という。)。
C 本件屋台事業においては、店頭で、不特定多数の通行客(顧客)に対して肉まん、中華ちまき及び麺類等を販売し、対価として現金を受領するという営業形態が採られている。
D 本件屋台1号店及び本件屋台2号店の営業時間は、いずれも、おおむね午前11時ころに開店し、午後9時ころに閉店する。
(ロ) 店舗関係
A 請求人は、j市k町において、平成17年7月に、「Q」の屋号で中華料理店(以下「本件店舗」という。)を開店した(以下、本件店舗に係る事業を「本件店舗事業」という。)。なお、請求人は、平成21年9月、本件店舗を閉店し、本件店舗事業を廃業した。
B 本件店舗事業においては、店内で、中華料理等を不特定多数の顧客に提供し、対価として現金を受領するという営業形態が採られていた。
C 本件店舗の営業時間は、おおむね午前11時から午後2時ころまで、及び、午後5時から午後9時ころまでであった。
ロ 請求人の来歴及び親族関係等について
(イ) 請求人(昭和○年○月○日生)の配偶者は、RことS(以下「R」という。)(昭和○年○月○日生)であり、T(昭和○年○月○日生)、U(昭和○年○月○日生)及びV(昭和○年○月○日生)は、請求人とRの子である。
(ロ) 請求人、R、T、U及びVは、昭和57年ころ、p国から来日し、以後、日本に居住している。
(ハ) Uは平成12年ころから主に本件屋台1号店事業に従事し、Tは平成17年8月ころから主に本件屋台2号店事業に従事し、Vは平成17年7月ころから主に本件店舗事業に従事した。
(ニ) 本件屋台事業については、平成22年1月に、請求人からUに対して事業の引継ぎがなされた。
ハ 請求人の申告状況等について
(イ) 請求人は、平成15年分ないし平成20年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の各確定申告について、いずれも別表2の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を法定申告期限内に提出した(なお、平成15年分及び平成16年分はW税務署長に対し、平成17年分ないし平成20年分は、納税地の異動に伴い、N税務署長に対し提出した。)。
(ロ) 請求人は、平成15年課税期間について、法定申告期限経過後である平成17年3月15日に、また、平成16年課税期間ないし平成20年課税期間について、いずれも法定申告期限内に、別表3−1の「確定申告等」欄及び別表3−2の「確定申告」欄のとおり記載した消費税等の各確定申告書を提出した(なお、平成15年課税期間及び平成16年課税期間はW税務署長に対し、平成17年課税期間ないし平成20年課税期間は、納税地の異動に伴い、N税務署長に対し提出した。)。
(ハ) 請求人は、N税務署長に対し、平成17年課税期間を適用開始課税期間として、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定の適用を受ける旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を提出した。
(ニ) Uは、本件屋台事業に係る事業所得について、N税務署長に対し、平成22年分の所得税の確定申告書を提出した。

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2 争点1(青色申告の承認の取消処分に裁量権の濫用等があるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 原処分庁は、請求人に対し、調査に当たり本件各年分の各帳簿書類の提示を求め、保存のあるすべての帳簿書類の提示を受けたが、その中には請求人の事業に係る平成15年分の総勘定元帳及び現金出納帳等の帳簿書類はなかった。
 したがって、所得税法第150条第1項第1号に規定する帳簿書類の備付け、記録又は保存が行われていないと認められることから、青色申告の承認の取消事由が存するので、平成15年分以後の青色申告の承認の取消処分を行ったものであり、同処分に裁量権の逸脱ないしは不相当な行使はない。
 請求人は、平成15年分の総勘定元帳及び現金出納帳等を作成しておらず、平成15年分の青色申告に関して、所得税法第150条第1項第1号に規定する事由があることは認める。
 しかしながら、平成15年分の所得税については、平成16年12月から実施された前回の調査で完了し、修正申告書も提出している。その際、青色申告の承認が取り消されることはなかった。
 それにもかかわらず、今回の調査の結果、平成15年分までさかのぼって青色申告の承認を取り消したことは、裁量権の濫用ないしは不相当な行使であり、青色申告の承認の取消処分は違法ないし不当である。

(2) 判断

イ 法令解釈
(イ) 所得税法第150条第1項第1号は、青色申告者について、その行う事業所得を生ずべき業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法第148条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないことを青色申告の承認の取消事由とする旨規定している。
 そして、当該青色申告者の帳簿書類は、所得税法第148条並びに所得税法施行規則第56条第1項及び第3項からすれば、同規則第57条から第64条までに定める仕訳帳及び総勘定元帳等がこれに該当し、また、同規則第57条から第59条まで、第61条及び第64条の規定に定めるところに代えたものとして、「財務大臣の定める簡易な記録の方法及び記載事項」によることができるとされ、具体的には、昭和42年大蔵省告示第112号「所得税法施行規則第56条第1項、第58条第1項及び第61条第1項に規定する記録の方法及び記載事項、取引に関する事項並びに科目」(最終改正は、平成19年財務省告示第103号)によって告示された定めによる帳簿がこれに該当する(同規則第56条第1項ただし書参照。)。なお、当該告示においては、事業所得に関し、現金取引の年月日、事由、出納先及び金額並びに日々の残高が記載された現金出納帳等が要求されている。
 そうすると、以上の規定による青色申告者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が行われていない場合には、青色申告の承認の取消事由(所得税法第150条第1項第1号)が存することとなる。
(ロ) 一方で、所得税法第150条第1項各号に規定する事由が存在する場合に青色申告の承認を取り消すか否かは、税務署長の合理的な裁量にゆだねられており、税務署長の裁量権行使の逸脱、濫用が存する場合には、当該取消処分は違法となると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 帳簿関係
A 請求人は、平成15年分の仕訳帳、現金取引の日々の残高が記帳された現金出納帳及び総勘定元帳を作成していない。
B 請求人の平成16年分以降の確定申告を代理したX税理士は、遅くとも、平成17年12月ころまでに、請求人に対し、事業に関する現金取引に係る日々の残高を記載した現金出納帳を作成するよう指導した。
C 請求人は、平成16年分ないし平成20年分について、仕訳帳及び現金取引に係る日々の残高が記載された現金出納帳を作成していない。
(ロ) 請求人に係る従前の調査の概要
 請求人は、平成16年12月ころから、W税務署長所属の職員による税務調査(以下「前回調査」という。)を受け、Rと共に前回調査に対応し、本件屋台1号店事業に係る売上げ及び仕入れの除外等を指摘され、平成17年3月15日、平成12年分ないし平成15年分の所得税の各修正申告書を提出したところ、W税務署長は重加算税の各賦課決定処分を行い、請求人は同賦課決定処分に対し不服申立てをしなかった。なお、W税務署長は、前回調査の際、請求人に対し、青色申告の承認の取消処分を行わなかった。
ハ 判断
 上記ロの(イ)のAのとおり、請求人は平成15年分の仕訳帳、現金取引の日々の残高が記帳された現金出納帳及び総勘定元帳を作成していなかった事実が認められる。
 このことを上記イの(イ)の法令解釈に当てはめると、請求人は、平成15年分の所得税について、事業所得を生ずべき業務に係る帳簿書類として、青色申告者の帳簿書類を所得税法が要求する程度に備え付けていなかったのであるから、青色申告の承認の取消事由(同法第150条第1項第1号)が存する。
 ところで、請求人は、青色申告の承認の取消事由が存することは認めつつ、平成15年分の所得税については、前回調査で完了し、修正申告書も提出しており、青色申告の承認が取り消されることはなかったにもかかわらず、今回の調査の結果、平成15年分までさかのぼって青色申告の承認を取り消したことは、裁量権の濫用ないしは不相当な行使である旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、前回調査において、青色申告の承認の取消事由(所得税法第150条第1項第1号)が存したにもかかわらず、当該取消処分が行われなかったのであり、青色申告者の帳簿書類の備付けを行うべき機会を付与されていたといえ、また、上記ロの(イ)のBのとおり、税務申告に係る代理人であるX税理士から、遅くとも、平成17年12月ころまでに、現金取引に係る日々の残高を記載した現金出納帳の作成を指導されたところ、それにもかかわらず、前回調査以降の年分においても、後述のように一定の帳簿書類を備え付けるものの、上記ロの(イ)のCのとおり、仕訳帳及び現金取引に係る日々の残高が記載された現金出納帳を作成せず、青色申告者の帳簿書類を所得税法が要求する程度に備え付けていなかったというのである。
 このことに加えて、後述するように、本件屋台事業及び本件店舗事業がいずれも現金売上げを主体とする営業であること及び請求人が備え付けた一定の帳簿書類については、誠実かつ信頼性のある記帳がなされたものとは認められないことを併せて考慮すれば、青色申告者に対して課税手続や税額計算等に関する各種の特典を与える代わりに帳簿書類を備え付けさせ、所得の基因となる一切の取引を正確、組織的かつ継続的に記録し、これを保存することを義務付け、これに基づいて申告させることにより申告納税制度における適正な課税を実現するという青色申告制度の趣旨に照らしても、もはや請求人については、青色申告の承認を維持すべき合理的な理由が存しないというべきである。
 そうすると、N税務署長が本件調査担当職員の調査に基づき、請求人に対して行った平成15年分以後の青色申告の承認の取消処分が、裁量権の濫用ないしは不相当な行使に当たるとは認めることができない。
 よって、請求人の主張には理由がない。
ニ 小括
 以上のことからすれば、N税務署長が本件調査担当職員の調査に基づき、所得税法第150条第1項第1号に該当するとして、請求人の平成15年分以後の青色申告の承認の取消処分を行ったことが、違法ないし不当であるということはできない。

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3 争点2(事業所得に係る推計の必要性及び合理性が認められるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
1 本件屋台事業について
(1) 推計の必要性
 請求人は、まる1平成17年分ないし平成20年分に係る売上げについて記載した大学ノートの保存は行っているものの、当該大学ノートの記載内容を裏付ける原始記録の保存を行っていないことから、当該記載内容は、その適否を確認することができず、信ぴょう性に欠ける。また、まる2平成15年分及び平成16年分については、帳簿の備付け、記録及び保存が行われていない。
 したがって、本件各年分について、請求人の所有する資料によっては、本件屋台事業に係る事業所得の金額を実額により算定することができないと認められることから、これを推計によって算定せざるを得ない。
1 本件屋台事業について
(1) 推計の必要性
 請求人は、平成15年分ないし平成20年分のいずれにおいても、大学ノート等を正確に記帳しており、当該大学ノートに記帳された真実の収入金額及び必要経費の額に基づいた本件屋台事業に係る事業所得の金額を実額で把握することができるのであるから、推計によって所得金額を算定することは許されない。
(2) 推計の合理性
 本件屋台事業に関しては、まる1平成21年1月から同年8月までの期間(以下「本件進行年分」という。)の本件屋台事業に係る収入金額を、商品の仕入数量等に販売単価を乗じる方法により算定し、まる2本件進行年分の収入金額に占める麺類の収入金額の割合と本件各年分の麺の仕入数量より、本件各年分の収入金額を算定し、まる3本件進行年分の収入金額に占める所得金額の割合(以下「特前所得率」という。)を、本件各年分の収入金額に乗じる方法によって、本件各年分の本件屋台事業に係る所得金額を算定する方法が合理的である。
 この方法によった場合、本件各年分の本件屋台事業に係る各収入金額及び各所得金額は、付表1の「異議決定額」の各「収入金額」欄及び各「所得金額」欄のとおりである。
(2) 推計の合理性
 原処分庁が行った本件屋台事業から生じる事業所得に関する推計は、以下のとおり不合理である。
 まず、請求人が仕入れた食品のすべてが定価で販売されることはなく、腐敗等によって必然的に一定の廃棄が生じ、また、一部を店頭で飲食したり、値引きして販売をしたり等することがある。
 また、原処分庁が主張する推計の効率要素のうち、まる1鶏カラアゲ、まる2ゴマ団子、まる3マーボー丼、○○○○(効率要素としたスプーンの使用数量)及びまる4○○○○(効率要素としたおわんの使用数量)について事実誤認がある。
 さらに、原処分庁の主張と異なり、本件屋台1号店と本件屋台2号店では麺類の販売内容及び販売単価に違いがある。
 加えて、本件進行年分の収入金額に占める所得金額の割合も原処分庁の主張は事実と異なる。
 これらを考慮して本件各年分の本件屋台事業に係る各収入金額及び各所得金額を推計すると、付表1の「請求人主張額」の各「収入金額」欄及び各「所得金額」欄のとおりである。
2 本件店舗事業について
(1) 推計の必要性
 請求人は、まる1平成18年分ないし平成20年分に係る売上げについて記載した大学ノートの保存は行っているものの、当該大学ノートの記載内容を裏付ける原始記録の保存を行っておらず、また、まる2平成17年分については、大学ノートの保存を行っていない。
 したがって、平成17年分ないし平成20年分について、請求人の保存する資料では、本件店舗事業に係る事業所得の金額を実額により算定することができないと認められることから、これを推計によって算定せざるを得ない。
(2) 推計の合理性
 本件店舗事業に関しては、まる1営業を開始した平成17年分ないし平成20年分のいずれの年分についても、本件店舗事業に係る売上原価の額を、同業者13件の収入金額に対する売上原価の額の割合(以下「売上原価率」という。)の平均値で除して収入金額を算定し、まる2当該収入金額に同業者13件の収入金額に対する青色申告特別控除前の所得金額の割合(以下「同業者所得率」という。)の平均値を乗じて本件店舗事業に係る所得金額を算定する方法が合理的である。
 この方法によった場合、平成17年分ないし平成20年分の本件店舗事業に係る各収入金額及び各所得金額は、付表2の「異議決定額」の各「収入金額」欄及び各「所得金額」欄のとおりである。
2 本件店舗事業について
 請求人は、大学ノート等を正確に記帳しており、本件店舗事業に係る事業所得の金額が実額で把握することができるのであるから、推計によって所得金額を算定することは許されない。

(2) 判断

イ 法令解釈
 課税処分における課税標準の認定は、実額計算の方法によるのが原則であるが、所得税法第156条は、所得の金額を推計して課税することを認めているところ、これは、納税義務者が、収支を明らかにし得る帳簿書類を備えていない、帳簿書類を備えていても記帳が不正確である、あるいは、資料の提供を拒否する等税務調査に非協力であるなどのため、実額での把握が不可能又は著しく困難である場合、課税を放棄することは租税の公平負担の見地から許されないため、税務署長が入手し又は容易に入手し得る推計のための基礎事実及び統計資料等の間接的な資料を用いて、所得額に近似した額を推計し、これをもって課税することを是認する趣旨と解される。
 そうすると、所得金額を推計して所得税に係る課税処分を行う場合には、推計の必要性及び合理性がその要件となるものである。
ロ 推計の必要性
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 帳簿関係
(A) 原処分庁の調査に対して請求人及びRが提出した書類
 本件調査担当職員は、平成21年9月2日以降、請求人の税務調査を実施した(以下、原処分に係る税務調査を「本件調査」といい、本件調査の初日である平成21年9月2日を「本件調査初日」という。)。
 請求人及びRは、本件調査の際、本件調査担当職員に対し、本件屋台事業及び本件店舗事業に関する以下の各書類及びその他の書類等を提出した。
a 平成17年分ないし平成20年分の各総勘定元帳
b Rが作成した平成21年7月分及び同年8月分の本件屋台事業に係る日々の売上金額を記載したとする合計4枚のルーズリーフ(各書面の上部に「7月1号店」、「7月2号」、「8月1号」及び「8月2号」とそれぞれ手書で記載されたもの。)(以下、4枚のルーズリーフを併せて「本件7月分8月分ルーズリーフ」という。)。
 なお、平成21年7月分及び同年8月分以外の年分ないし月分の本件屋台事業に係る売上金額が記載されたルーズリーフは提出されていない。
c 本件屋台事業に係る平成17年分ないし平成20年分及び平成21年1月分ないし同年6月分の日々の売上金額及び経費等の支払金額を記帳したとする各年分の大学ノート(以下「屋台ノート」という。)。
 なお、本件調査初日の時点において、屋台ノートには、平成21年7月分及び同年8月分の記載が全くなかった。
d 本件店舗事業に係る平成18年分ないし平成20年分の日々の売上金額及び経費等の支払金額を記帳したとする各年分の大学ノート(以下「店舗ノート」という。)。
e 本件屋台事業に係る平成18年分ないし平成20年分及び本件進行年分の経費の領収証等の原始記録並びに本件店舗事業に係る平成17年分の経費の一部、平成19年分の経費及び平成20年分の経費の領収証等の原始記録
(B) 屋台ノートの記帳状況等
a 請求人は、平成15年分の本件屋台事業に係る売上金額等を記帳したとする屋台ノートを作成し、同記載の金額に基づいて確定申告をした。ただし、請求人は、当該平成15年分の屋台ノートを本件調査初日までに紛失した。
b 請求人は、平成16年分の本件屋台事業に係る売上金額等を記帳したとする屋台ノートを作成した。ただし、請求人は、当該平成16年分の屋台ノートを本件調査初日までに紛失した。
c 請求人が本件調査において提出した平成17年分ないし平成20年分及び本件進行年分の各屋台ノートには、本件屋台事業に係る日々の売上金額、経費等の支払金額及び売上金額と経費等の支払金額の差額の趣旨の金額等が記載されているが、現金残高の記載はない(「残高」欄が設けられて金額が記載されているものの、現金の残高ではなく、売上金額と経費等の支払金額の差額を意味するものである。)。なお、屋台ノートは、請求人及びRが保管する。
(C) 店舗ノートの記帳状況等
a 請求人は、平成17年分の本件店舗事業に係る売上金額等を記帳したとする店舗ノートを作成した。ただし、当該平成17年分の店舗ノートの保存はない。
b 請求人が本件調査において提出した平成18年分ないし平成20年分の各店舗ノートには、本件店舗事業に係る日々の売上金額、経費等の支払金額及び売上金額と経費等の支払金額の差額の趣旨の金額等が記載されているが、現金残高の記載はない(「残高」欄が設けられて金額が記載されているものの、現金の残高ではなく、売上金額と経費等の支払金額の差額を意味するものである。)。なお、店舗ノートは、請求人及びRが保管する。
(D) 総勘定元帳の作成等
a 請求人は、平成16年分の売上金額等について、売上げ、仕入れ及び経費の金額を1枚の書面にまとめたとする年間集計表を作成してX税理士に提出し、X税理士は当該年間集計表に基づいて、請求人の税務代理人として、確定申告をした。
b 請求人は、平成17年分ないし平成20年分の各売上金額等について、屋台ノート及び店舗ノートを基に毎月の月別集計表を作成し、これを年に1回、X税理士に提出し、X税理士は、平成17年分ないし平成20年分の各総勘定元帳を作成し、請求人の税務代理人として確定申告をした。なお、当該各総勘定元帳記載の本件屋台事業及び本件店舗事業に係る各売上金額は、各屋台ノート及び各店舗ノート記載の各金額と合致する(ただし、平成17年分の店舗ノートは保存がないので不明である。)。また、総勘定元帳における各勘定科目は、本件屋台事業に係るものと本件店舗事業に係るものとに区分けされている。
(E) 本件屋台事業に関して請求人が記帳した本件進行年分の売上金額
 請求人が記帳した本件屋台事業の本件進行年分の売上金額については、まる1平成21年1月分ないし同年6月分の本件屋台ノート記載の売上金額及びまる2本件7月分8月分ルーズリーフ記載の売上金額を合計すると、40,061,000円となる。
B 請求人及びUが行った確定申告等における本件屋台事業の差益率
 請求人の平成15年分ないし平成21年分の所得税の各確定申告(平成15年分の修正申告を含む。)及びUの平成22年分の所得税の確定申告における本件屋台事業に係る各差益率(1−売上原価÷収入金額)は、付表1の「申告額」の各「差益率」欄のとおりである。
 ここから差益率の変動をみれば、平成18年分は64.72%、平成19年分は64.77%及び平成20年分は63.42%であるところ、平成22年分は72.02%と変動している。
 なお、本件屋台事業については、平成21年以前と平成22年において、事業主体が請求人からUに承継されたものの、特段の事業規模及び営業形態の変化は認められない。
C 本件屋台事業に係る売上金の管理方法等
(A) 本件屋台1号店についての金銭管理は、商品が販売され、順次、売上金として硬貨ないし紙幣を受領して屋台の所定の場所に管理するという方法が採られている。そして、本件屋台1号店事業に従事するUは、平均して1日に3回、当該売上金のうち、釣銭として用いる硬貨及び一定の紙幣を除き、それ以外の紙幣を回収し、厨房にある鞄に入れて、ないしは自ら所持して保管する。
(B) 本件屋台2号店についての金銭管理は、閉店の段階で、本件屋台2号店事業に従事するTが紙幣を回収し、Uに手渡すという方法が採られている。
(C) 請求人は、平成16年12月ころから実施された前回調査において、「12月4日(土) 店0 外65,000 合計65,000 支払 24,500」、「40,500」との記載があるメモ等をW税務署長に提出した。
 なお、Uは、本件調査初日において、本件調査担当職員に対し、前回調査のころには日々の売上金をRに引き継ぐ際に売上金額を記載したメモ(以下「集計メモ」という。)を作成していたが、前回調査において集計メモがあることによってややこしいことになったから、その後は作成していない旨申述した。
D 屋台ノートの作成経緯並びにこれに関する関係者の答述内容の変遷及び矛盾
(A) 本件調査時に作成されたUに係る質問てん末書
 本件調査担当職員は、平成21年11月5日付で、Uに係る2通の質問てん末書を作成した。当該2通の質問てん末書のうち、まる11通は、本件屋台事業における商品の調理方法等が記載されたものであり、本文3枚及び別添として商品のメニューが記載された書面1枚からなる。
 まる2他方の1通(本文3枚)には、屋台ノートの作成経緯について、要旨、上記Cの(A)及び(B)のことと整合する内容及び下記aないしdのことが記載されており、「別添1」として平成20年分の屋台ノートの写し(合計25枚)が、「別添2」として本件7月分8月分ルーズリーフが添付されている(以下「本件U質問てん末書」という。)。また、Uは、本件U質問てん末書の「被質問者」欄に署名及び指印をし、本文(3枚)、別添1(合計25枚)及び別添2(合計4枚)のいずれにも指印により割り印をした。
a Uは、本件屋台1号店及び本件屋台2号店から回収した売上現金を、店ごと日ごとに輪ゴムで留め、自分がいつも使っている鞄に保管し、2、3日保管した後、仕入先より受領した領収証等とともにRの自宅に持参して交付する。
b Uは、経費の支払については、同人が前もってRから現金を受け取り、当該現金で支払をしているが、不足した場合は回収した売上現金からも支払をする場合がある。その場合には、支払った金額をメモに書いて、当該メモを輪ゴムで留めている売上現金の上に挟む。支払後の領収証や納品書については、売上金と一緒にRに渡す。
c 本件調査担当職員による「あなたが記帳しているこのノートについて教えてください」(写しをとって本てん末書末尾に別添1として添付)との質問に対し、「このノートの売上、仕入、残高、売上欄は私が書いています。売上欄が2つあり、左側はn広場前の店の売上金額を書き、右側はYの横の店の売上金額を書いています。売上金額、仕入金額は、父から受けとるルーズリーフに書かれた金額を基に書いています」との回答(なお、n広場前の店は本件屋台1号店、Yの横の店は本件屋台2号店のことである。)。
d 本件調査担当職員による「あなたが言っているルーズリーフとはこちらですか」(写しをとって本てん末書末尾に別添2として添付)との質問に対し、「はい、そうです。大体翌月初めに父からルーズリーフとノートを受けとります。ルーズリーフには日々の売上金額と日々の支払をした経費の金額が書かれていますので、その金額をそのままノートに書きます。書いた後は、ノートとルーズリーフは父へ渡します」との回答。
(B) Rの当審判所に対する平成22年11月18日時点での答述
 Rは、平成22年11月18日、当審判所の面談において、「売上はどのように管理していたのですか」との質問に対し、「Uから私が現金を受け取り、それをルーズリーフに整理し、最終的には妻のLが管理していました。Uには、経営に携わらせるために、私が書き取ったルーズリーフを基に、毎日の売上額及び支払額を大学ノートに整理させ、月計は私が整理していました」と回答し、平成23年1月11日付で、同内容が記載された質問調書に署名及び押印をした。
(C) Uの当審判所に対する答述
 Uは、当審判所に対して、要旨以下のとおり答述した。
a Uは、本件屋台事業に係る売上金を、その日のうちに、ないしは2、3日保管して、Rの自宅に持参する。
b Uが売上金をRの自宅に持参した際、R又は請求人が金額を確認し、Uが当該金額を屋台ノートに記載する。
c 屋台ノートはRが保管しており、Uが何日も保管するということはない。
d Uは、Rが作成するというルーズリーフを見たことがない。
e 平成21年7月及び同年8月については、売上金をUが保管しており、1日か2日に1回程度、Rに電話をして売上金額を伝えており、Rがそれを本件7月分8月分ルーズリーフに記載した。平成21年7月及び同年8月についてこのような記帳方法を採ったのは、たまたまのことであり、特に理由はない。
f Uは、本件調査時に本件U質問てん末書が作成され、署名及び指印をしたことは覚えている。なお、このとき、1時間ないし2時間くらい、本件調査担当職員と本件屋台1号店の厨房で話をした上で本件U質問てん末書が作成された。
g 本件U質問てん末書に添付されている本件7月分8月分ルーズリーフの写しは、指印はしているが、本件調査担当職員から質問を受けたときには見ていないと思う。
h 本件U質問てん末書の作成時に、Uは、本件調査担当職員に対し、平成21年7月分及び同年8月分以外のことについて、Rからルーズリーフを渡されてから屋台ノートに記載するという説明はしていない。本件U質問てん末書にルーズリーフと屋台ノートの関係が記載されているのは、平成21年7月分及び同年8月分についての質問に対する答えとして説明したものと思う。
i Uは、本件U質問てん末書に署名を求められた際に、最初は断ったが、本件調査担当職員から、これを押さないと帰れないと言われ、自分も忙しい時間であったので、邪魔だなと思って、仕方なく署名等をした。なお、内容の読み聞かせはなかったと思う。また、本件調査担当職員が無理やりUの指を取って指印させたとか、これに署名等をしないと大きく課税するとか言われたことはないが、これを押さないと帰れないと言われたから、強要はあると思う。
(D) 本件調査担当職員の当審判所に対する答述
 本件調査担当職員は、当審判所に対し、本件U質問てん末書作成の経緯について、要旨以下のとおり答述した。
a 本件調査担当職員は、平成21年9月30日に、本件調査担当職員がUの自宅を訪問し、屋台ノートの作成過程について質問をし、Uより申述を得た。具体的には、まる1いつ、何を基に屋台ノートを記帳するのかとの質問をしたところ、Uは、Rが屋台ノートとルーズリーフを大体翌月に持ってくる、そのルーズリーフに経費の金額も売上金額の横に書いてある旨申述し、まる2いつもはRが経費の金額もルーズリーフに書いているんですねと質問したところ、Uは、そのとおりであり、そのまま屋台ノートに書く、書いた後はRに屋台ノートを返す旨申述し、まる3そういう方法であれば、Rが書くルーズリーフをもらって屋台ノートに書くよりも、最初からRに売上金を渡すときに屋台ノートに書いたらいいではないですかと質問したところ、Uは、知らんわ、親父に聞いてくれと申述した。
b 本件調査担当職員は、平成21年11月5日の数日前に、Uと連絡をとり、面談の日程調整をした上で、同年11月5日の午前12時ころから、本件屋台1号店の厨房において仕込み作業中であったUに面談をした。
 そして、Uに対して、面談当日までに聴取していた事項について再度質問を行いたい旨を告げ、準備していた質問てん末書の下書及び関係資料を提示し、一つ一つ質問を行い、回答内容の確認を行い、すべての質問が終了し、読み聞かせを行い示したところ、同人が誤りのない旨を申し立てたため、製本し、同人に署名及び押印を求めたところ、同人は、印鑑を持ち合わせていなかったことから、本件調査担当職員の面前にて自署の上、指印をした。
(E) Rの当審判所に対する平成23年5月13日時点での答述
 Rは、平成23年5月13日、当審判所の面談において、平成21年7月分及び同年8月分以外については、ルーズリーフを作成しておらず、Uが売上金を数えて、直接屋台ノートに記帳をしていた旨答述した。
(F) Rが平成23年5月31日に提出した申述書
 Rは、平成23年5月31日、当審判所に対し、屋台の売上げは通常Uが屋台ノートに記帳するが、給与が低いこと等で同人と請求人との間にトラブルが続き、平成21年7月ころからUが屋台ノートを作成しなくなり、Rがルーズリーフに記入せざるを得なかった、また、当局への回答が不十分であったのは、家族間の不和を言いたくなかったからである旨を記載した「申述書」と題する書面を提出した。
E U、R及びTの本件調査初日の言動
 本件調査担当職員の答述等によれば、次の事実が認められる。
(A) 本件調査担当職員は、本件調査初日の午前9時ころ、請求人及びRの自宅へ臨場し、請求人の事業に係る経理について質問したところ、Rは、すべて長男であるUに任せている旨申述し、所要がある旨を申し出て自宅から外出した。
(B) Uは、本件調査初日の午前9時10分ころ、同人の自宅に臨場した本件調査担当職員に対し、経理の原始記録等及び売上金はすべてRに渡しており、また、本件調査初日の前日である平成21年9月1日(以下「本件調査前日」という。)の売上金も渡しており、同売上金は40,000円である旨申述し、所要がある旨を申し出て自宅から外出した。
(C) 本件調査担当職員は、Rが本件調査初日の午後4時ころ帰宅したことから、同人の自宅の現況調査を実施したところ、約2,000,000円の現金が入った鞄が提示され、同人は、当該現金は本件調査前日までの売上金である旨及び本件調査前日の売上金は40,000円である旨申述した。
(D) 本件調査担当職員は、上記(C)の鞄に入った現金に、本件調査前日に、本件屋台1号店及び本件屋台2号店において商品を購入する際に交付していた一万円札が見当たらないことをRに告げ、申述の真実性を追及した。
 また、本件調査担当職員は、Rに対し、平成21年7月分及び同年8月分の経費の支払に係る原始記録の所在を質問した。これに対し、Rは、Uに電話を架け、p国語で会話をした後、本件調査担当職員に対し、今からUが持参する旨申述した。
(E) その後、Uが請求人宅へ来訪し、本件調査担当職員に対して、現金40,000円を提示し、本件調査前日の売上げである旨申述した。当該現金には、上記(D)の本件調査前日に交付された一万円札が含まれていた。
(F) 本件調査担当職員は、屋台ノートに記載のある日々の売上げからして、本件調査前日の売上げが40,000円というのは過少ではないかとの旨をUに質問し、同人の自宅に赴いて現況調査を実施したところ、本件調査前日までの仕入れに係る原始記録と共に、一万円札2枚、五千円札2枚及び千円札20枚の合計50,000円が、明らかに他の金員と区別するように折り畳まれて入っていた鞄を発見し、当該50,000円についてUに質問したところ、同人は、本件調査前日の売上金であることを認め、本件調査初日の朝、本件調査担当職員が自宅に来て、本件調査前日の売上げがいくらかと聞いてきたので、思わず40,000円と言ってしまった、その後、q町の「Z」という喫茶店でRと落ち合い相談したところ、Rから、それでは40,000円にしておこうと言われたので嘘をついた、及び本件調査前日の本件屋台1号店の売上げは合計90,000円であり、本件屋台2号店の売上げは合計23,000円であった旨申述した。
(G) 本件調査担当職員は、Uに対し、真実を話したことをRに連絡するよう依頼したところ、Uは、Rに携帯電話で連絡を取り、p国語で会話し、時折日本語で「ごめん、ごめん」と発言した。
(H) 本件調査担当職員は、本件屋台2号店の本件調査前日の売上金を確認するため、Uと同行してTの自宅に臨場して同人と面談し、Uに、Tに対して本件調査前日の売上金を提示するよう伝えることを依頼した。
 これに対して、Tは、本件調査前日の売上金はすべてUに渡した旨申述したところ、Uは、Tに対し、「姉ちゃん、もうええんや、全部しゃべったから」などと伝えた。
(I) 本件調査担当職員は、本件屋台2号店の本件調査前日の売上金の確認ができないまま、本件調査初日の調査を終了した。
F Rの本件調査担当職員に対する売上除外の自認
(A) 本件調査担当職員は、平成21年9月2日以降に収集した資料等を基に、請求人の本件各年分の各収入金額及び各所得金額等を推計し、平成21年12月9日午後1時から午後4時35分ころまで実施された請求人、R及び請求人の代理人であるX税理士との面談において、推計の結果を提示して売上除外の事実の確認等を行った。なお、請求人が屋台ノート及び本件7月分8月分ルーズリーフに記帳した本件進行年分の本件屋台事業の売上金額は合計40,061,000円であったが、本件調査担当職員の推計の結果によれば、60,486,041円とされており、約20,000,000円の差異があるものであった。
 これに対して、Rは、面談の当初において売上除外の事実を否認したものの、最終的に売上除外の事実を認める発言をし、面談は終了した。
(B) 原処分庁が当審判所に提出したまる1平成22年10月14日付答弁書には、「R氏は、原処分担当者に対して、売上を除外している旨申述していること」との記載があり、まる2同年11月18日付意見書には、「R氏は、売上を除外した事実を認めたものの、その具体的な方法などについて一切説明をしないなど調査に協力しなかったことから、やむを得ず推計により原処分を行った」との記載がある。
 その一方で、請求人が当審判所に提出したまる3平成22年12月4日付反論書には、原処分庁の同年11月18日付意見書に対する反論として、「Rは自己の記入した内容等は適正だと信じており、不正をしていないから具体的方法が説明できなかっただけです。売上除外を認めたのは、記帳ミスがあるかも、また自家消費を計上していなかったことなどを考え、認めたものであり、『脱税はしていない』の主張は今も変わりない。日本語も十分でない者が意見を十分伝えられないのは、仕方のないことではないでしょうか」との記載がある。
G Rの当審判所における会話状況
 Rは、当審判所において、日本語による質問に対しておおむね日本語で回答し、p国語での確認が必要な事項については、当審判所の質問をX税理士によるp国語への通訳によって回答した。
H 請求人が提出した廃棄記録と屋台ノート等に記載された収入金額の整合性
 請求人は、本審査請求において、後述の日々の商品の廃棄数量等を踏まえた本件進行年分の売上げに係る推計結果を主張し、当該主張の根拠となる証拠(平成22年1月分ないし同年6月分の本件屋台事業に係る商品の廃棄数量を記録したもの)を提出した。当該請求人の推計結果によっても、本件進行年分の売上金額は合計49,586,842円とされており、請求人が平成21年1月分ないし同年6月分に係る売上げとして記帳したとする屋台ノート及び本件7月分8月分ルーズリーフに記帳した売上金額の合計額40,061,000円を約9,000,000円上回っている。
I 店舗ノートの作成経緯等
 Vは、当審判所に対して、店舗ノートの作成経緯等について、要旨以下のとおり答述した。
(A) Vは、本件店舗において顧客から注文を受ける際に、原則として伝票等(以下「本件店舗伝票」という。)に注文をメモし、調理して料理を提供した。
 なお、調理等の仕事が忙しいときにビールの注文を受けたときには、本件店舗伝票にその旨のメモを忘れることがあり、このときはビールは提供するものの、代金の支払を求めない。
(B) 本件店舗の営業終了後、Vは、その日の本件店舗伝票を集計し、店舗ノートに売上金額を記載する。
(C) 上記(B)の店舗ノートへの記載が終了したら、本件店舗伝票はすべて捨てる。その理由は、売上げが少ないので、見ていて悲しくなるからである。
(ロ) 本件屋台事業に関する推計の必要性の有無
A はじめに
 原処分庁は、請求人の本件屋台事業に関して推計の必要性を主張し、これに対し、請求人は、屋台ノートを正確に記帳しており、事業所得の金額は実額で把握することができるのであるから、推計によって所得金額を算定することは許されない旨主張する。
B 平成15年分の事業所得について
 そこで検討するに、まず、請求人は、平成15年分の事業所得については、上記(イ)のAの(B)のa及び別表2のとおり、平成16年3月15日に、作成した屋台ノートの記載金額に基づき、事業所得の金額を○○○○円とする確定申告(当初申告)をしており、同年12月から実施された前回調査を経て、上記2の(2)のロの(ロ)のとおり、売上げ及び仕入れの除外等を指摘され、平成17年3月15日に、事業所得の金額を○○○○円とする修正申告をしているが、請求人自身は、推計の必要性があることは認めるものの、実額は修正申告額を上回ることはない旨主張するところ、平成15年分の本件屋台事業に係る収入金額の実額を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、請求人の平成15年分の事業所得については、所得金額を実額で算定することができない。
C 平成16年分ないし平成20年分の事業所得について
(A) 請求人が保存した帳簿書類等
 次に、請求人は、平成16年分の事業所得について、上記(イ)のAの(B)のb及び同(D)のaのとおり、屋台ノートを作成し、また、1年間の売上げ、仕入れ及び経費の金額を1枚の書面にまとめた年間集計表をX税理士に提出し、X税理士は同集計表に基づいて確定申告をした。
 そして、平成17年分ないし平成20年分の事業所得については、上記(イ)のAの(B)のc及び同(D)のbのとおり、屋台ノート記載の金額に基づいてX税理士により総勘定元帳が作成され、確定申告がされた。
 そうすると、本件屋台事業に関して推計の必要性が認められるか否かは、請求人が保存した原始記録である屋台ノート等の記載に信用性があるといえるか否かによるものである。
 ところで、請求人は、本件屋台事業に関して顧客から注文ないしは代金の支払を受ける際に、その都度作成されるべき伝票等の資料を原処分庁及び当審判所に提出しておらず、本件全証拠によっても個々の売上げについての即時的な記録が残されているものとは認められない。そして、上記2の(2)のロの(イ)のCのとおり、請求人は、平成16年分ないし平成20年分において、仕訳帳及び現金取引に係る日々の残高が記載された現金出納帳を作成しておらず、請求人の保存する帳簿等の売上金額の記載の信用性を直ちに検証することができない。
 したがって、屋台ノート等の記載に信用性が認められるか否かについては、屋台ノート等に記載された金額の具体的内容、作成過程及び本件調査に対する請求人らの対応等を総合的に検討して判断せざるを得ない。
(B) 請求人の差益率の変動等
 ところで、上記(イ)のBのとおり、本件屋台事業については、平成17年8月の本件屋台2号店の開店という営業形態が変化した後の平成18年分以降をみても、請求人の作成した屋台ノート及び総勘定元帳によれば、差益率は、平成18年分は64.72%、平成19年分は64.77%及び平成20年分は63.42%であるのに対し、平成21年9月から実施された本件調査を経た後の平成22年分については、特段の事業規模及び営業形態の変化はないにもかかわらず、72.02%と上昇している(付表1)。
 そして、上記(イ)のHのとおり、請求人が、本審査請求に当たって自らに有利なものとして主張し証拠を提出した本件進行年分の推計結果をみても、収入金額は49,586,842円とされるのであり、屋台ノート等に記載された本件進行年分の売上金額の合計額40,061,000円を約9,000,000円上回っている。
 なお、後述のように、当審判所の推計の過程において、仮に、請求人が本件進行年分に仕入れた商品のすべてについて定価で販売をしたとすれば、本件進行年分の収入金額は合計57,610,085円(付表4の「合計」欄)と推計されるのであり、請求人の記帳が正確であるとすれば、ロス等による減額が30%程度((57,610,085円−40,061,000円)÷57,610,085円=0.3046)も生じていることとなるが、飲食料品の販売事業において、通常、このような高率のロス等が生じるとはおよそ考え難い。
 以上によれば、屋台ノート等に記載された金額の信用性については、慎重に検討することを要するというべきである。
(C) 屋台ノートの作成過程に関する関係者の答述等の変遷等
 そこで、屋台ノートの作成過程についてみると、以下述べるように、関係者の答述等に変遷及び矛盾が認められる。
a 本件U質問てん末書等の記載内容
 まず、上記(イ)のDの(A)及び(B)の本件U質問てん末書の記載及びRの当審判所に対する平成22年11月18日時点での答述からすれば、まる1Uが、本件屋台事業における売上金から現金を回収し、まる2同人は、同現金を、一日ないし数日程度保管した後、Rの自宅に持参し、まる3Rは、Uから現金を受領した後、ルーズリーフに日々の売上金とする金額を記載し、翌月の初めころ、当該ルーズリーフをUに渡し、まる4Uは、当該ルーズリーフを受け取ってから、屋台ノートに売上金とする金額を記載するということとなる。
 本件U質問てん末書及びRの答述の信用性について検討すると、両者の内容が整合している上、本件U質問てん末書には、上記(イ)のDの(A)のdのとおり、「大体翌月初めに父からルーズリーフとノートを受けとります。ルーズリーフには日々の売上金額と日々の支払をした経費の金額が書かれていますので、その金額をそのままノートに書きます。書いた後は、ノートとルーズリーフは父へ渡します」と記載されており、このことは、上記(イ)のAの(A)のb及びcのとおり、平成21年7月分及び同年8月分の本件屋台事業に係る売上げについて、請求人が本件調査初日において本件調査担当職員に対して提示した本件7月分8月分ルーズリーフには記載がある一方、屋台ノートの同年7月分及び同年8月分に記載がないという客観的事実と整合するところ、Rがルーズリーフを作成し、Uが当該ルーズリーフを受領してから屋台ノートに金額を記帳するという限度において、一応の信用性を認めることができる。
b Uの当審判所に対する答述等の信用性
 これに対して、上記(イ)のDの(C)のUの当審判所に対する答述は、ルーズリーフと屋台ノートとの関係について、まる1Uは、Rの自宅に現金を持参した際に、屋台ノートに売上金額を記載するもので、ルーズリーフを見たことはなく、まる2平成21年7月分及び同年8月分については、たまたまそのような方法を採らずに、売上金をUが保管しており、日々回収した売上金の額を電話でRに伝え、Rがそれを本件7月分8月分ルーズリーフに記帳したものであるというのであって、本件調査の段階で作成された本件U質問てん末書の内容と整合しない。
 Uは、このことについて、上記(イ)のDの(C)のhのとおり、本件U質問てん末書の作成時に、本件調査担当職員に対し、平成21年7月分及び同年8月分以外のことについて、Rからルーズリーフを渡されてから屋台ノートに記載するという説明はしていない、本件U質問てん末書にルーズリーフと屋台ノートとの関係が記載されているのは、平成21年7月分及び同年8月分についての質問に対する答えとして説明したものと思う、本件U質問てん末書に添付された上同人の指印による割り印がされている本件7月分8月分ルーズリーフの写しは、本件調査担当職員から質問を受けたときには見ていないと思う、本件U質問てん末書に署名を求められて、最初は断ったが、本件調査担当職員から、これを押さないと帰れないと言われ、忙しい時間であったので、仕方なく署名した、などと答述する。
 しかしながら、上記の答述は、その内容がそれ自体不自然、不合理である上、本件U質問てん末書の作成過程についても、Uの答述を前提としても、1時間ないし2時間の聴き取りに基づいて作成されているのであって、本件調査担当職員が申述ないしは署名及び指印に係る強要を行ったこともうかがうことはできず、その作成過程において任意性又は信用性に疑問を生じさせる事実を認めることはできない。
 したがって、本件U質問てん末書の内容と異なるUの答述は、信用することができない。
 また、上記(イ)のDの(E)及び(F)のとおり、Rは、当審判所に対し、平成21年7月分及び同年8月分以外については、ルーズリーフを作成しておらず、Uが売上金を数えて、直接屋台ノートに記帳をしていた旨答述し、請求人とUとの間に給与等をめぐってトラブルが続き、平成21年7月ころからUが屋台ノートを作成しなくなり、Rがルーズリーフに記入をせざるを得なかった旨を記載した「申述書」と題する書面を提出したが、上記(イ)のAの(B)のcのとおり、屋台ノートは、Uではなく、請求人及びRが保管しているのであるから、Rが、Uの代わりに屋台ノートに記帳をすることに何ら支障はないはずであることにかんがみても、上記書面の記載内容は不合理であって、信用することができない。
c 屋台ノートの作成過程からする記載内容の信用性
 本件屋台事業の日々の売上金については、平成21年7月分及び同年8月分以外についても、いったんルーズリーフに記載された上、改めて屋台ノートに記載されるという二段階の記帳処理が行われていた事実が認められ、また、そのような記帳処理は少なくとも前回調査後から行われていたものと認められる。
 そうすると、本件屋台事業の売上金については、上記(A)のとおり、個々の売上げの都度作成されるべき伝票等の資料が一切残されていない上(経費については領収証等の原始記録が保存されている。)、現金取引が主体であるにもかかわらず、現金出納帳が作成されておらず、上記のとおり、日々の売上金等についていったんルーズリーフに記載された上、改めて屋台ノートに記載されるという二段階の記帳処理が行われ、そのうち第一次的記録というべきルーズリーフが本件7月分8月分ルーズリーフ以外に提出されていないことになる。そうであるところ、上記(イ)のDの(B)及び(D)のとおり、Uは、本件調査の段階で本件調査担当職員よりルーズリーフと屋台ノートの両者を作成することの必要性に係る疑問点を提示して説明を求められたのに対して合理的な説明を行わず、また、Rは、Uには、経営に携わらせるために、Rが書き取ったルーズリーフを基に、毎日の売上額及び支払額を大学ノートに整理させていた旨の不自然、不合理な説明をしている。
 以上のことに加えて、上記(イ)のCの(C)のとおり、Uは、前回調査当時には、日々の売上金を請求人に引き渡す際に売上金額まで記載されていた集計メモを作成していたものの、前回調査において集計メモがあることによってややこしいことになったから、その後は作成していない旨の申述をしていることを総合勘案すれば、請求人らは、本件屋台事業の売上金額について、事業所得の確定申告の基礎となるべき屋台ノートを別途作成した上、それ以外の証拠資料上の痕跡を少なくし、証拠資料より売上金額に係る実態を把握することが困難な状態を作出するものということができるのであって、屋台ノートに記載されている売上金額等が真実のものであるとは認め難いといわざるを得ない。
(D) 本件調査初日の請求人らの行動等
 さらに、本件調査初日にみられるU及びRの行動からしても、両者が本件屋台事業に係る売上金額等を正確に記帳しているものとは認め難い。
 すなわち、上記(イ)のEの(A)ないし(F)のとおり、Uは、本件調査初日の午前9時ころ、本件調査前日の売上金額は40,000円である旨申述し、Rにおいても、同様の申述をした上、本件調査担当職員に対し、当該本件調査前日の売上金が含まれているとして現金の入った鞄を提示したが、本件調査担当職員から、本件調査前日に本件屋台1号店及び本件屋台2号店において商品を購入する際に交付した一万円札が見当たらない旨を告げられると、Uに連絡をとり、Uにおいて、本件調査前日の売上金であるとして本件調査前日に交付された一万円札を含む現金を持参して提示し、さらに、その後、本件調査担当職員によってUの自宅において売上金と思われる現金を発見されるや、Uは、上記の午前9時10分ころの申述が虚偽であったことを認めたというのである。
 このような本件調査初日のR及びUの場当たり的で不自然な行動も、上記(C)のcの認定判断を裏付けているものというべきである。
(E) 本件調査におけるRの売上除外の自認
 また、上記(イ)のFの(A)のとおり、Rは、平成21年12月9日、本件調査担当職員の質問に対し、売上除外を自認した事実が認められるところ、この点について、上記(イ)のFの(B)のとおり、請求人は、当審判所に対し、記帳ミスないしは自家消費相当額を計上していない可能性等を考えての発言であり、脱税の事実を認めたものではない旨及び「日本語も十分でない者が意見を十分伝えられないのは、仕方のないことではないでしょうか」旨記載した反論書を提出する。
 しかしながら、上記(イ)のFの(A)のとおり、本件調査担当職員は、Rが屋台ノート等に記帳した本件進行年分の売上金額の合計額を約20,000,000円も上回る推計の結果を提示しつつ売上除外の有無をRに質問していることにかんがみると、Rが、単に記帳ミスないしは自家消費相当額の記帳漏れの可能性のみを念頭に置いて、本件調査担当職員に対して売上除外の事実を自認したものとは考え難い。
 さらに、上記(イ)のFの(A)及びGのとおり、Rは一定の日本語による会話能力があると認められること及び同人が平成21年12月9日に本件調査担当職員と面談した際にはp国語の通訳を行うことができるX税理士が同席していたことからしても、Rが本件調査担当職員の日本語による質問を取り違えたために上記の自認をしたとも考え難い。
 かえって、上記のRによる売上除外の自認とこれについての請求人の反論内容は、上記(C)のcの認定判断を裏付けるものというべきである。
(F) 小括
 以上のことからすれば、平成16年分ないし平成20年分の事業所得について、請求人が保存する屋台ノート等の記載内容は信用することができないといわざるを得ない。
D まとめ
 以上のとおり、請求人は、本件屋台事業に関して、本件各年分の売上金額を認めるに足りる信用性のある資料を保存していない。
 そして、本件屋台事業の営業形態は、不特定多数の者を顧客として多数の種類の商品を販売し、対価を現金で受領するというものであるから、その売上げの正確な金額について、請求人の保存する資料以外の直接証拠から把握することも事実上不可能である。
 このことを上記イの法令解釈に当てはめると、当審判所においても、本件屋台事業に関して、本件各年分の事業所得の金額について実額での把握が不可能であって、推計の必要性を認めざるを得ない。
(ハ) 本件店舗事業に関する推計の必要性の有無
A はじめに
 原処分庁は、請求人の本件店舗事業に関して推計の必要性を主張し、請求人は、店舗ノートを正確に記帳しており、事業所得の金額は実額で把握することができるのであるから、推計によって所得金額を算定することは許されない旨主張する。
B 平成17年分の事業所得について
 そこで検討するに、まず、本件店舗事業の営業が開始された平成17年分については、請求人は、店舗ノート等の資料を保存しておらず、申告内容の真実性を検証することができない。
C 平成18年分ないし平成20年分の事業所得について
 本件店舗事業については、現金売上げを主体とする営業であるにもかかわらず、上記2の(2)のロの(イ)のCのとおり、日々の現金残高が記載された現金出納帳が作成されておらず、日々の売上金については、店舗ノートが保存されているのみで、個々の取引の都度作成されるべき伝票等は保存されていない(経費については領収証等の原始記録が保存されている。)。
 そうであるところ、上記(イ)のIのとおり、本件店舗事業に従事したVは、本件店舗において顧客から注文を受ける際に、原則として伝票等(本件店舗伝票)を作成し、営業終了後、その日の本件店舗伝票を集計して店舗ノートに売上金額を記載するが、顧客からビールの注文を受けたときに本件店舗伝票への記載を失念することがあり、その場合には代金の支払を求めず、また、本件店舗伝票に記載された売上金額を店舗ノートへ記載した後、本件店舗伝票を廃棄しており、その理由は、売上げが少ないので、見ていて悲しくなるからである旨のおよそ合理的とはいい難い答述をする。
 このことからすれば、請求人らは、本件屋台事業にとどまらず、本件店舗事業についても、その売上金額について事業所得の確定申告の基礎となるべき店舗ノート以外の証拠資料上の痕跡を少なくし、証拠資料により売上金額に係る実態を把握することが困難な状態を作出するものということができるのであり、店舗ノートに記載されている売上金額等が真実のものであるとは認め難い。
 以上のことに加えて、上記(ロ)のとおり、請求人が本件屋台事業に関して作成した屋台ノートについてもその記載内容を信用することができず、請求人らの記帳態度が誠実なものと認めることができないことを併せ考えると、平成18年分ないし平成20年分の事業所得について、請求人が保存する屋台ノートの記載内容を信用することができないといわざるを得ない。
 そして、請求人は、本件店舗事業に関して、上記各年分の売上金額を認めるに足りる信用性のある資料を保存しておらず、本件店舗事業においても、不特定多数の者を顧客として多数の商品を販売し、対価を現金で受領するという営業形態が採られているので、その売上げの正確な金額について、請求人の保存する資料以外の直接証拠から把握することも事実上不可能である。
 以上によれば、当審判所においても、本件店舗事業に関して、平成17年分ないし平成20年分の事業所得の金額について実額での把握が不可能であって、推計の必要性を認めざるを得ない。
ハ 推計の合理性
(イ) 本件屋台事業に関する推計の合理性について
A 本件屋台事業の営業実態に係る認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(A) 本件屋台1号店は、nに所在し、広場に面している。
(B) 本件屋台2号店は、nに所在し、多数の通行客の往来がある道路に面している。
(C) 本件屋台1号店と本件屋台2号店は、○○メートルほど離れている。両屋台の主な顧客層は、いずれもnを訪れる不特定多数の通行客である。
(D) 本件屋台1号店においては、付表4の各「商品」欄のとおり、肉まん、中華ちまき及び麺類等30品目程度の商品を販売しており、当該商品の品目及び販売単価は、平成15年ないし平成22年の間に大きな変動はない。
(E) 本件屋台2号店における商品の品目及び販売単価は、本件屋台1号店における品目及び販売単価とほぼ同内容であり、当該商品の品目及び販売単価は、平成17年8月の営業開始当時から平成22年までの間に大きな変動はない。
(F) 本件屋台1号店は、麺類に係る商品を食しやすい広場に面していることから、本件屋台2号店よりも、全体の収入に占める麺類の収入割合が大きい。
(G) 原処分庁が、平成21年8月に、本件屋台1号店及び本件屋台2号店の来客数を計測したところ、同月2日の来客数は、本件屋台1号店が637人、本件屋台2号店が232人(同日の本件屋台事業全体の来客数のうち、本件屋台1号店約73%、本件屋台2号店約27%)であり、同月11日の来客数は、本件屋台1号店が677人、本件屋台2号店が336人(同日の本件屋台事業全体の来客数のうち、本件屋台1号店約66%、本件屋台2号店約34%)であった。両日の平均をとると、本件屋台事業全体の来客数のうち、本件屋台1号店が約7割を占め、本件屋台2号店が約3割を占める。
(H) 本件屋台事業は、請求人が仕入れた食品に一定の加工をする等によって、商品を店頭に陳列し販売するものであるが、腐敗(ロス)等により、当該陳列した商品が、陳列した日に必ずしもすべて販売されるということはなく、また、販売されなかった商品は廃棄されている。
(I) 請求人は、当審判所に対し、上記(H)の廃棄の数量に係る資料として、U及びTが作成した平成22年1月分ないし同年6月分の本件屋台事業に係る日々の廃棄の数量を記録した資料を提出した。同資料は、屋台ごとに、日々、販売されずに廃棄された商品名及びその数量が記載されたものであり、逆に、販売された商品数量の記載はない。そして、廃棄された商品の数量の計測方法(単位の定め)に関するU及びTの当審判所に対する説明は必ずしも一貫しないものの、同人らの当審判所に対する説明としては、当該廃棄数量(平成22年1月ないし同年6月の6か月間)を8か月間に引き直した廃棄数量を基に本件進行年分の収入金額を推計すべきであって、平成21年1月ないし同年8月の廃棄商品が正規の販売価格で販売されたと仮定すれば、これに対応する売上金額は4,239,275円となり、当該金額を減算すべきであるというものである。
(J) U及びTは、当審判所に対して、上記(I)以外に、仕入れた商品の一部を店頭で飲食したり、値引きして販売したり、家に持ち帰ったり、ないしは従業員や近隣同業者に原価で販売する等の事実がある旨答述した。なお、Uは、当審判所に対し、値引きについて、雨天等により来客数が少ない場合に値引きをすることがあるが、毎日するものではなく、同人が本件屋台事業を承継した平成22年分より前については、さほど値引きをしていなかった旨答述した。
(K) Rは、当審判所に対して、従業員には屋台の商品をそれほど食べさせず、賄いとして、別の商品を買っている旨答述した。
 なお、請求人は、当審判所に対し、平成23年5月26日、「従業員の飲食及び自家消費」と題する書面を提出し、当該書面の記載によれば、従業員の飲食及び自家消費の金額が年間で6,480,000円となるというものであるが、その内訳は、本件屋台事業においては従業員は数名程度であるにもかかわらず、従業員らで缶ビールを1日24本、ドリンクを1日45本消費する等およそ合理的な内容とはいえないものであって、当該書面の記載内容は信用することができない。
B 原処分庁が主張する推計の基本的な枠組みについて
 上記Aのとおり、本件屋台1号店及び本件屋台2号店においては、販売する商品のメニューはほぼ同内容であり、平成15年ないし平成21年の間にメニューに大きな変動はない。また、本件屋台事業の主な顧客層は、nを訪れる不特定多数の通行客であり、顧客層に大きな変動があるものとは考え難く、経済情勢の変動によって事業収入及び所得が大きな影響を受けるものとはいえない。
 そして、麺類に係る商品については、○○○○における麺類の販売という性質からしても、また、後述のように、麺類に係る複数の商品が販売されているということからしても、顧客の嗜好や病原菌の被害等によって販売数が大きく変動するものとはいえないこと、並びに営業形態が同一である平成18年分ないし平成20年分において、本件屋台事業に係る各売上原価の額(付表1の「申告額」の各「売上原価」欄)及び後述の麺の各仕入数量(付表6−1の各「合計」欄)のいずれも大きな変動は認められないことからすれば、それぞれの屋台において、全体の収入のうち、麺類の販売による収入の割合が大きく変動したものとも考えられない。
 そうすると、本件進行年分の収入金額をすべての商品の仕入数量から推計し、このうち麺の仕入数量に着目して、本件各年分の収入金額及び所得金額を推計するという原処分庁が主張する推計方法の基本的な枠組みそれ自体には不合理な点は認められないので、当審判所としても、当該枠組みに沿って本件各年分の収入金額及び所得金額を推計するのが合理的であると認められる。
 しかしながら、いくつかの点において、原処分庁が主張する推計方法を是認できないものもある。
 そこで、当審判所において、本件各年分の本件屋台事業に係る各所得金額を推計すると、以下のとおりである。
C 本件進行年分の収入金額について
(A) 原処分庁は、本件進行年分の収入金額について、商品の仕入数量等に販売単価を乗じる方法によって算定し、請求人は、一部の商品について、原処分庁が主張する推計の効率要素を争う。
(B) そこで、当審判所において本件進行年分の仕入数量及び効率要素を調査したところ、次の事実が認められる。
a 本件進行年分の半製品、材料及び消耗品の仕入数量は、付表3−1ないし付表3―3のとおりである。なお、原処分庁が販売商品として主張するもののほか、豚の耳、豚足、アップル100に係る仕入れ及び販売がある。
 また、同付表記載の仕入数量については、原処分庁が主張する仕入数量の一部に事実誤認が認められたところ、当審判所においてこれを改めたものである。なお、一部の仕入れについては、個別の商品との具体的な関係が明らかでないものもあるところ、これらの仕入数量は含めていない。
b 鶏カラアゲは、鶏肉を唐揚げにし、一串に唐揚げを3個刺した形状で販売される商品であり、販売価格は一串当たり200円である。また、一串当たりに必要な鶏肉の重量は、平均140gである。
c ゴマ団子は、もち粉を油で揚げ、ごまをかけて団子にした形状で販売される商品であり、販売価格は1個当たり100円である。また、1,000個のゴマ団子を作るために、おおむね27.5キログラムのもち粉が必要となる。
d 麺類に係る商品(チャーシュー麺、○○○○、ピリ辛坦々麺、ワンタン麺、○○○○及びマーボー麺)における麺の使用数量については、本件屋台1号店(平均単価283円)においては、2玉として仕入れたものについて平均5杯分として、本件屋台2号店(平均単価383円)においては、2玉として仕入れたものについて平均2.5杯分として使用されている。
(C) 上記(B)において記載した商品以外の商品については、原処分庁が主張する販売効率等どおりの事実が認められる。ただし、原処分庁は、ゴマ団子及び肉まんについて、まる1材料からの調理品のほか、まる2半製品として仕入れて販売することもあるという前提にて推計をしたが、まる2半製品として仕入れたものについては、その仕入数量からして従業員に飲食させるためのものとも考えられるところ、念のため、これらの商品を除外して推計をするのが合理的である。また、原処分庁が一部の商品の効率要素としたスプーン及びおわんの使用数量について、請求人は必ずしも原則(スプーンは1本、おわんは2重。)どおりにはならない旨主張をするところ、当審判所の推計においては、スプーンを1.1本、おわんを2.2重として計算するのが合理的である。
 請求人が推計の効率要素について争う点については、以上の限度で理由がある。
 以上のことからすれば、本件進行年分の商品、販売単価及び効率については、付表4の各「商品」欄、各「販売単価」欄及び各「効率」欄のとおりとなる。なお、麺類の推計においては、後述のように、本件屋台1号店と本件屋台2号店でおおむね8:2の割合で麺を使用しているものと考えられるところ、これを前提とした(付表7)。
 そして、付表4をみると、全商品が仕入数量に応じて完全に販売された場合の金額(57,610,085円)に対する麺類に係る商品の売上金額(13,897,281円+2,350,854円=16,248,135円)は3割程度を占めることになり、麺類に係る商品は本件屋台事業の主力商品の一つであるということができる。
(D) また、上記Aの(H)のとおり、本件屋台事業においては、仕入れた商品のすべてが販売されるものではなく、腐敗等によって商品の一部は販売されることなく廃棄されることがあると認められる。
 しかしながら、原処分庁の推計方法は当該廃棄分をその推計の過程において全く考慮しておらず、請求人が主張するように、当該商品の腐敗等を考慮することなく本件屋台事業に係る収入金額を推計することは合理的とはいえない。
 ところで、上記Aの(I)のとおり、請求人は、当審判所に提出した廃棄の数量に係る資料より、本件進行年分の廃棄分が正規の販売価格で販売されたとすれば、これに対応する売上金額は4,239,275円であると試算する。
 そこで当該資料を検討したところ、廃棄の数量については、売れ残る蓋然性が一定程度認められると思われる商品については一定のロスが計上される一方、売れ残りがないと思われる商品はロスがゼロとされており、当該資料を全体としてみたときには、当審判所が把握した本件屋台事業の営業形態等と大きく齟齬する点はなく、一応の信用性を認めることができる。
 そうすると、当審判所において腐敗等による減額を考慮するとした場合においては、請求人の提出した資料を踏まえるのが合理的である。
 なお、U及びTは、腐敗等による廃棄以外の減額要因として、上記Aの(J)のとおり、仕入れた商品の一部を店頭で飲食したり、値引きして販売をしたり、家に持ち帰ったり、ないしは従業員や近隣同業者に原価で販売する等の事実がある旨答述するが、Rは、上記Aの(K)のとおり、従業員には商品をそれほど食べさせず、賄いとして、別の商品を買っている旨答述し、また、Uは、上記Aの(J)のとおり、同人が本件屋台事業を承継した平成22年分より前については、さほど値引き販売をしていない旨答述するのであるから、これらの減額要因を大きなものとして考慮する必要はなく、また、上記(B)のaのとおり、当審判所としては、収入金額の推計に当たり、個別の商品との具体的な関係が明らかでない一部の仕入れの数量は含めていないこと等も考えれば、結局のところ、本件屋台事業に係る収入金額の推計における減額要因としては、販売されずに廃棄されることによるロスを中心にして考えれば十分であるというべきである。
 そうすると、当審判所においては、本件進行年分の収入金額を推計するに当たり、上記(C)の全商品が仕入数量に応じて完全に販売された場合の金額(57,610,085円)から、請求人が自らに有利なものとして提出した廃棄の数量に係る資料を前提とした4,239,275円を減額要因として控除することが合理的であると考える。
(E) 以上のことから、本件進行年分の収入金額を推計すると、付表4の「収入金額」欄のとおり、53,370,810円となる。
D 本件進行年分の麺の仕入数量と収入金額との関係について
(A) 本件進行年分の麺の仕入数量は、付表5−1の「数量」の「合計」欄のとおり、24,554玉であり、収入金額は、上記Cの(E)のとおり、53,370,810円であるから、麺1玉当たりの本件屋台事業の収入金額(麺類及びその他の全商品の販売に係る収入金額)は、付表5−1の「本件屋台事業」の「1玉当たりの収入金額」欄のとおり、2,173円となる。
(B) ところで、原処分庁は、本件進行年分の麺の仕入数量と、すべての商品の販売に係る収入金額との比率を、本件各年分の収入金額を算定する基礎として用いた推計をしている。
 しかしながら、上記Aの(F)のとおり、本件屋台1号店は、麺類に係る商品を食しやすい広場に面していることから、本件屋台2号店よりも、全体の収入に占める麺類の収入割合が大きいと認められる。
 そうすると、麺類に着目して収入金額を推計する場合においても、平成17年8月の本件屋台2号店の開店という営業形態の変動及びこれに伴う収入金額に占める麺類の収入金額の割合の変動を考慮することが、より合理的な推計方法であるというべきである(なお、原処分庁の推計方法によれば、付表1の「異議決定額」の「平成16年分」及び「平成17年分」の各「収入金額」欄のとおり、本件屋台1号店のみで営業していた平成16年分の収入金額(○○○○円)のほうが、年の途中から本件屋台2号店を開店した平成17年分の収入金額(○○○○円)よりも多い結果となっている。)。
 具体的には、本件進行年分の麺の仕入数量及び収入金額を、合理的な方法で本件屋台1号店に係るものと本件屋台2号店に係るものとに区分し、本件屋台1号店に係る麺1玉当たりの収入金額を算定し、これを平成17年8月の営業形態の変動に合わせて適用する方法によるべきである。
(C) そこで、本件屋台1号店と本件屋台2号店それぞれの麺の仕入数量と収入金額との関係について検討すると次のとおりである。
a 各収入金額
 上記Aの(D)及び(E)のとおり、本件屋台1号店と本件屋台2号店では、商品の品目、販売単価は、若干のものを除いてほぼ同内容である。また、上記Aの(A)ないし(C)のとおり、両屋台は同じくnに○○メートルほど離れて所在し、主な顧客層は、いずれもnを訪れる不特定多数の通行客である。そうすると、両屋台の収入金額は、両屋台から商品を購入する来客数にほぼ比例するものと考えられる。
 そして、上記Aの(G)のとおり、両屋台の全体の来客数のうち、本件屋台1号店が約7割を占め、本件屋台2号店が約3割を占めることからすれば、本件進行年分の本件屋台1号店と本件屋台2号店の各収入金額は、付表5−2の「各屋台の収入金額」欄のとおり、上記Cの(E)の53,370,810円を7:3の比率であん分した37,359,567円(本件屋台1号店)及び16,011,243円(本件屋台2号店)と推認することができる。
b 麺の各仕入数量
 本件進行年分の麺の仕入数量は、付表5−1の「数量」の「合計」欄のとおり、合計24,554玉であるが、本件屋台1号店ないし本件屋台2号店におけるそれぞれの具体的な麺の使用数量は不明確である。
 そこで、両屋台における麺の使用数量の比率を検討すべきであるが、まず、本件各年分の麺の各仕入数量は、付表6−1ないし付表6−3のとおり推計することができる。
 このうち、平成15年及び平成16年は本件屋台1号店のみで営業をし、平成18年ないし平成20年は両屋台で営業をしていたのであり、このことから本件屋台1号店と本件屋台2号店におけるそれぞれの麺の使用数量を推計すれば、付表7の「各屋台の仕入割合」欄のとおり、おおむね8:2の割合で麺を使用していたものと考えられる。
 以上のことからすれば、本件進行年分の本件屋台1号店と本件屋台2号店の麺の各使用数量は、合計24,554玉を8:2の比率であん分した19,643玉(本件屋台1号店)及び4,911玉(本件屋台2号店)と推認することができる。
c 上記a及びbのことから本件屋台1号店の麺1玉当たりの収入金額を算定すると、付表8−1の「本件屋台1号店事業」の「1玉当たりの収入金額」欄のとおり、1,901円となる。
E 本件各年分の各収入金額について
 以上を踏まえて、本件各年分の各収入金額を算定すると、付表8−2の各「収入金額」欄のとおりとなる。なお、まる1平成15年分ないし平成17年1〜7月分は、本件屋台1号店のみで営業をしていたことから、上記Dの(C)のcの1,901円に麺の各仕入数量を乗じる方法により、また、まる2平成17年8〜12月分ないし平成20年分は、両屋台で営業をしていたことから、上記Dの(A)の2,173円に麺の各仕入数量を乗じる方法により算定した。
F 本件各年分の各所得金額について
(A) 本件進行年分の本件屋台事業に係る仕入金額及び経費の額は、付表9及び付表10のとおりである。
 なお、請求人は、当審判所に対して、本件進行年分の屋台事業に係る仕入金額及び経費の額について、本件調査時において提出していなかった領収証等を提出したが、当該領収証等には子供用の衣料品の購入に係るもの等明らかに事業に直接関連がない支出と認められるものも含まれており、当審判所の調査においても、当該領収証等に係る支払の有無及び事業関連性について明確な認定をすることはできない。そうすると、推計の方法としては、以上の請求人が当審判所に提出した領収証等については、まる1仕入れに係るものと考え得るものについても、これを付表3−1ないし付表3−3及び付表4に反映させず、売上げの推計において考慮しないとともに、まる2仕入金額及び経費の額の算定においても考慮しないで本件進行年分の所得率を算定する方法に合理性があるというべきであって、付表9及び付表10は、このような方法によって算定したものである。
(B) ところで、原処分庁は、本件各年分の本件屋台事業の各所得金額を算定するに当たり、本件進行年分の特前所得率を適用して推計したが、平成17年8月の本件屋台2号店の開店という営業形態の変動を反映させるため、特別経費を考慮するという方法で推計をすることがより合理的というべきである。
 具体的には、まる1本件進行年分の算出所得率((収入金額−売上原価−一般経費)÷収入金額)を上記Eの本件各年分の各収入金額に乗じて、本件各年分の特別経費控除前の各所得金額を算定し、まる2そこから本件各年分の各特別経費(人件費、地代家賃等)の額を控除して、本件各年分の本件屋台事業に係る各所得金額を算定するという方法によるべきである。
 そうすると、本件進行年分の本件屋台事業に係る算出所得率は、付表11の「算出所得率」欄のとおり、算出所得率が60.35%となる。また、本件各年分の各特別経費の額は、付表12のとおりと認められる。
 以上のことから、本件各年分の本件屋台事業に係る各所得金額を算定すれば、付表13の各「所得金額」欄のとおりとなる。
(ロ) 本件店舗事業に関する推計の合理性について
A 本件店舗事業に係る所得金額について原処分庁が主張する推計方法は、本件店舗事業に係る売上原価の額を、同業者13件の売上原価率の平均値で除して収入金額を算定し、当該収入金額に同業者所得率の平均値を乗じて所得金額を算定するというものである。
B そこで検討するに、およそ業種及び業態に類似性のある同業者にあっては、特段の事情のない限り、同程度の売上原価に対して同程度の所得を得ることが通例であり、このような同業者の平均値を用いて請求人の本件店舗事業に係る所得金額を推計する方法には合理性が認められる。
 そして、原処分庁が選定した13件の同業者のうちの7件の同業者については、原処分関係資料において、まる1N税務署長に対して、青色申告による所得税の確定申告書を提出していること、まる2中華料理業を営む者であること、まる3中華料理業以外の業種目を兼業していないこと、まる4事業所がj市k町内にあること、及びまる5売上原価の額が本件店舗事業に係る売上原価の額の0.5倍以上2倍以内であるなどの事実がいずれも認められ、業種及び業態に類似性があると評価できるところであり(なお、原処分庁が選定した13件の同業者のうちの5件の同業者については、証拠上、以上のすべてが明確に認められるとはいえず、また、うち1件の同業者については年の途中で廃業していることから、これら6件の同業者を対象から除外すべきである。)、さらに、平成17年分ないし平成20年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないことなどの事実が認められるのであって、原処分庁の採用した推計方法は合理的と認められる。
 したがって、当審判所においては、本件店舗事業に関しては、まる1営業を開始した平成17年分ないし平成20年分の本件店舗事業に係る各売上原価の額を以上の同業者7件の売上原価率の各平均値で除して各収入金額を算定し、まる2当該各収入金額に同業者7件の収入金額に対する同業者所得率の各平均値を乗じて本件店舗事業に係る各所得金額を算定する方法が合理的であると考える。
 なお、原処分庁は、同業者所得率の算定に当たり、採用した同業者のうちの一部の者について、所得金額がマイナス(すなわち、損失の金額が生じている。)であるにもかかわらず、推計の過程においてこれをゼロとしているが、当審判所の調査したところによっても、特にこれらの同業者の所得金額がマイナスとなっていることが、特殊な事情に基づくものであると認めるに足りる証拠はないことから、推計の過程においてはこれらのマイナスの所得金額はそのまま適用するのが合理的である。
C 以上を踏まえて検討すれば、まる1本件店舗事業の平成17年分ないし平成20年分の各売上原価の額は、付表14のとおりであると認められるところ、本件店舗事業と同種の事業を営む同業者7件の売上原価率の各平均値及びこれを基に算定される本件店舗事業に係る各収入金額は、付表15−1ないし付表15−4のとおりであり、まる2同業者7件の同業者所得率の各平均値及びこれを基に算定される本件店舗事業に係る各所得金額は、付表16−1ないし付表16−4のとおりである。
ニ 小括
 上記ロ及びハのことから、請求人の本件各年分の納付すべき所得税の額は、それぞれ付表17の各「納付すべき税額」欄のとおりとなる。

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4 争点3(課税資産の譲渡等の対価の額に係る推計の必要性及び合理性が認められるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 所得税と同様に、平成15年課税期間ないし平成20年課税期間(以下「本件各課税期間」という。)のいずれの課税資産の譲渡等の対価の額についても、推計の必要性及び合理性がある。  所得税と同様に、本件各課税期間のいずれの課税資産の譲渡等の対価の額についても、推計の必要性及び合理性はない。

(2) 判断

 争点2で述べたことと同様に、請求人の本件各課税期間のいずれの課税資産の譲渡等の対価の額についても推計の必要性が認められ、争点2と同様の推計方法を採用すれば、当該金額及び納付すべき消費税等の額は、それぞれ付表18の各「課税売上高(税込)」欄及び各「納付すべき消費税等の額」欄のとおりとなる。

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5 争点4(所得税及び消費税等の更正処分に係る偽りその他不正の行為並びに所得税及び消費税等の納税申告書の提出に係る隠ぺい又は仮装行為があったか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
1 請求人は、売上げについて、前回調査で不正発覚の端緒となった集計メモをあえて作成せず、虚偽の内容の屋台ノートを作成することによって、真実の所得金額の1割程度となるよう意図的に過少な申告をしていたことが認められる。
 また、請求人が仕入先に対して上様取引にして欲しいなどと依頼し、仕入先の帳簿に記録が残らないようにしようとしており、その後の調査があることも予定して、意図的に行動していたことが認められる。
2 以上からすれば、請求人は、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用して、当初から所得及び課税資産の譲渡等の対価の額を過少に申告することを意図した上で、納税申告書を提出したといえるところ、請求人は、平成15年分ないし平成17年分の所得税及び平成15年課税期間ないし平成17年課税期間の消費税等について、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れていたものである。
3 また、請求人は、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用して、当初から所得を過少に申告することを意図した上で、納税申告書を提出したといえるのであるから、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は、仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた等の事実が認められるのであって、通則法第68条第1項及び第2項の要件を具備する。
 請求人は、真実の売上金額及び所得金額を屋台ノート及び店舗ノート等の一定の帳簿に記帳して申告をしており、また、取引先に対して上様取引にして欲しいとの依頼などしていない。
 したがって、請求人は、平成15年分ないし平成17年分の所得税及び平成15年課税期間ないし平成17年課税期間の消費税等について、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れていたものであるとはいえない。
 また、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は、仮装した事実はない。

(2) 判断

イ 法令解釈
(イ) 通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によりその全部又は一部の税額を免れ、若しくはその全部又は一部の税額の還付を受けた所得税についての更正決定等は、その更正又は決定に係る所得税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
 そして、ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告ないし過少申告では足らず、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのが相当である。
 なお、通則法第70条第5項の適用範囲は、「偽りその他不正の行為」によって免れた税額に相当する部分のみに限られないと解するのが相当である。
(ロ) 通則法第68条第1項及び第2項が定める重加算税の制度は、納税者が過少申告又は無申告について隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、単なる過少申告又は無申告よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を賦課するためには、納税者のした過少申告行為又は納税者の無申告等そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為又は無申告等そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされ、又は無申告とされたことを要するものであると解される。
 しかしながら、上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告等することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告等をしたような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解すべきである。
ロ 判断
(イ) 上記3の(2)のハ及び上記4の(2)で述べたように、請求人は、本件屋台事業において、まる1当審判所において合理的であると認められる、請求人自身の本件進行年分の商品の仕入数量及び販売単価を基礎とする推計によって、付表13の各「収入金額」欄のとおり、少なくとも、平成15年分は○○○○円、平成16年分は○○○○円、平成17年分は○○○○円、平成18年分は○○○○円、平成19年分は○○○○円及び平成20年分は○○○○円の収入金額があると認められるにもかかわらず、まる2その確定申告においては、付表1の「申告額」の各「収入金額」欄のとおり、平成15年分は○○○○円(まる1との差額は○○○○円)、平成16年分は○○○○ 円(まる1との差額は○○○○円)、平成17年分は○○○○円(まる1との差額は○○○○円)、平成18年分は○○○○円(まる1との差額は○○○○円)、平成19年分は○○○○円(まる1との差額は○○○○円)、平成20年分は○○○○円(まる1との差額は○○○○円)であって、本件各年分においていずれも上記推計の方法による認定額との間に15,000,000円を超える額の開差が生じている。また、上記3の(2)のロの(ロ)のCの(B)のとおり、本件屋台事業について本件屋台2号店の開店という営業形態が変化した後の平成18年分以降の差益率をみても、屋台ノートによれば平成18年分が64.72%、平成19年分が64.77%、平成20年分が63.42%であるのに対し、本件調査を経た後の平成22年分については、特段の事業規模及び営業形態の変化がないにもかかわらず、72.02%に上昇している。
 そうであるところ、上記3の(2)のロの(ロ)のCの(C)のとおり、請求人は、本件屋台事業の売上金について、現金取引を主体とする営業でありながら、税務代理人であるX税理士の指導にもかかわらず、現金出納帳を作成せず、個々の売上げの都度作成されるべき伝票等の原始記録を一切保存せず、これらの原始記録の裏付けを欠く屋台ノートの記載のみを基に総勘定元帳等を作成するなどして本件屋台事業に係る事業所得の確定申告を行っているのであって、証拠資料により売上金額に係る実態を把握することが困難な状態を作出しているということができる。
 このことに加えて、上記3の(2)のロの(ロ)のCの(D)のとおり、R及びUにおいて本件調査初日に本件調査担当職員に対して本件調査前日の売上金額を意図的に過少に告げていること、上記3の(2)のロの(ロ)のCの(E)のとおり、Rは、本件調査の際に、本件調査担当職員に対して売上除外の事実を自認をしていること、及び、請求人は、前回調査において平成12年分ないし平成15年分について売上除外等を指摘されて修正申告に及んでいること等を総合勘案すれば、請求人は、前回調査の対象となった平成15年分のみならず、平成16年分ないし平成20年分についても、屋台ノートの記帳に際して、意図的に売上げを除外ないし過少に計上していたことが推認される。そして、上記3の(2)のロの(イ)のAの(D)のとおり、請求人は、平成15年分の所得税については屋台ノートに基づき、平成16年分の所得税及び平成16年課税期間の消費税等については年間集計表に基づき、平成17年分ないし平成20年分の所得税及び平成17年課税期間ないし平成20年課税期間の消費税等については屋台ノートを基に作成された総勘定元帳に基づき、それぞれ確定申告をした(平成15年課税期間の消費税等については、前回調査を受けて法定申告期限後の平成17年3月15日に平成15年分の所得税の修正申告とともに確定申告をした。)というのである。
 このことを上記イの法令解釈に当てはめると、請求人は、本件屋台事業に関して、まる1平成15年分ないし平成17年分及び平成15年課税期間ないし平成17年課税期間において、税額を免れる意図をもって、その手段として、集計表、売上げを除外ないし過少に計上した屋台ノート等を作成し、その裏付けとなる原始記録を保存せず、証拠資料により売上金額に係る実態を把握することが困難な状態を作出することにより、「偽りその他不正の行為」を行い、これらの行為により、平成15年分ないし平成17年分の所得税及び平成15年課税期間ないし平成17年課税期間の消費税等の一部を免れたものといわざるを得ず、また、まる2本件各年分及び本件各課税期間において、意図的に売上げを除外ないし過少に計上する方法により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺいし、又は仮装したものと認められる。
(ロ) 以上のことからすれば、N税務署長が本件調査担当職員の調査に基づき、通則法第70条第5項の適用があることを前提に、請求人の平成15年分ないし平成17年分の所得税及び平成15年課税期間ないし平成17年課税期間の消費税等の各更正処分をしたことに違法はない。
 また、N税務署長が本件調査担当職員の調査に基づき、本件屋台事業に関して、通則法第68条第1項及び第2項の適用があることを前提に、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等について、重加算税の各賦課決定処分を行ったことに違法はない。
 なお、本件店舗事業における推計結果に対応する重加算税の賦課決定処分については、上記3の(2)のロの(ハ)のCのとおり、請求人は、本件店舗事業の売上金について、現金取引を主体とする営業でありながら、現金出納帳を作成せず、個々の売上げの都度作成されるべき伝票等の原始記録を一切保存せず、これらの原始記録の裏付けを欠く店舗ノートの記載のみを基に総勘定元帳等を作成するなどして本件店舗事業に係る事業所得の確定申告を行い、証拠資料により売上金額に係る実態を把握することが困難な状態を作出しているということができるものの、当審判所の全証拠をもってしても、請求人が、意図的に売上げを除外ないし過少に計上したとまで認めることはできないから、過少申告加算税相当部分を超える部分について取り消すべきである。

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6 まとめ

(1) 所得税の納付すべき税額

 本件各年分の納付すべき所得税の額は、付表17の各「納付すべき税額」欄のとおりである。

(2) 消費税等の納付すべき税額

 本件各課税期間の納付すべき消費税等の額は、付表18の各「納付すべき消費税等の額」欄のとおりである。

(3) 所得税に係る加算税の額

 本件各年分の所得税に係る加算税の金額は、別紙2−1ないし別紙2−6の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額」の「過少申告加算税」ないし「重加算税」の各「加算税の額」欄のとおりである。

(4) 消費税等に係る加算税の額

 本件各課税期間の消費税等に係る加算税の額は、別紙2−7ないし別紙2−12の「加算税の額の計算」の「裁決後の額」の「無申告加算税」、「過少申告加算税」ないし「重加算税」の各「加算税の額」欄のとおりである。
 なお、平成15年課税期間の無申告加算税(別紙2−7)及び平成16年課税期間の過少申告加算税(別紙2−8)は、請求人が、課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿を保存せず、仕入れに係る消費税額を控除することができないことに係るものであり、平成17年課税期間の過少申告加算税(別紙2−9)及び平成18年課税期間の過少申告加算税(別紙2−10)は、それぞれの基準期間である平成15年課税期間及び平成16年課税期間の課税標準額がいずれも50,000,000円を超えることから消費税法第37条第1項に規定する計算法式(簡易課税制度)の適用を受けることが認められないことに係るものである。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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