(平成23年6月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、平成20年1月○日に死亡したS8(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、原処分庁が、医療法人K会(以下「K会」という。)の出資持分の総口数910口のすべてが相続財産に当たるなどとして、その相続人等に対してそれぞれ更正処分等をしたことから、相続人等のうち、審査請求人S2、同S3、同S4、同S5、同S1、同S6及び同S7(以下、これらの者を併せて「請求人ら」という。)が、出資持分910口のうち850口は既に贈与され、相続財産は出資持分60口にすぎないとして、請求人らに対する各更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求(平成22年7月14日請求)に至る経緯及び内容は、別表1−1及び別表1−2のとおりである。
 なお、以下、平成22年2月25日付で請求人らに対してされた本件相続に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。
ロ 請求人らは、S1を総代として選任し、その旨を平成22年8月4日に届け出た。

(3) 基礎事実

イ 本件相続等について
(イ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻であるS9、子であるS2、同S3、同S10、本件被相続人の子で平成6年7月○日に死亡したS11の代襲相続人であるS4、同S5、同S1及び同S6の8名である。
(ロ) 本件被相続人は、平成20年1月10日、公正証書による遺言書を作成し、本件被相続人名義のK会の出資持分40口をS1に相続させ、また、S12(S10の子)及びS7に財産の一部を遺贈するなどの遺言をした。
 以下、本件被相続人が作成した上記遺言書を「本件遺言書」という。
ロ K会について
(イ) 概要
 K会は、昭和54年9月○日に設立された、病院及び診療所を経営することなどを目的とする社団たる医療法人で、L病院、M病院等を開設している。
 K会の理事長には、設立当初から本件被相続人が就任していたが、平成19年11月1日、本件被相続人が辞任し、同日からS1が就任している。
(ロ) 出資持分等の状況
 K会の設立時の出資金は、91,000,000円(1口が100,000円で910口)であり、出資名義人、出資額及び出資持分は、別表2の「設立時」欄のとおりであったが、設立時に実際に出資をした者は本件被相続人のみであり、S9、S11、S13(S11の妻)、S10及びS14(S10の夫)の5名は、名義上の出資者にすぎなかった。
 また、K会は、本件相続の開始時における出資名義人及び出資持分については、別表2の「本件相続の開始時」欄のとおりとしていた。
 なお、K会は、医療法人であるため、剰余金の配当を行っていない。
(ハ) 定款
A 出資持分及び社員に関する定めは、設立当時、以下のとおりであった。
(A) 第5条第1項 K会の社員になろうとする者は、すべて総会の承認を受け、かつ、1口以上の出資口数を引き受けなければならない。
(B) 第5条第2項 出資1口の金額は100,000円とする。
(C) 第6条第1項 社員は、総会の議決、死亡及び除名によりその資格を失う。
(D) 第7条 第6条に定める場合のほか、やむを得ない理由があるときは、社員はその旨を理事長に届け出て退社することができる。
(E) 第8条 退社した社員は、その出資額に応じて、払戻しを請求することができる。
(F) 第37条 K会が解散した場合の残余財産は、解散当時の社員の払込済出資額に応じて分配する。
 なお、上記第37条の定めは、平成19年10月25日の臨時社員総会における定款変更の決議により第32条に移行した。
B K会は、平成13年12月31日、臨時社員総会において、以下のとおり、定款の第5条及び第8条を変更する決議をし、その定款変更について、平成14年1月23日付でf県知事の認可を受けた。
(A) 第5条第1項 K会の資本の総額は91,000,000円、出資1口の金額は100,000円とする。
(B) 第5条第2項 社員になろうとする者は、すべて社員総会の承認を受けなければならない。
(C) 第8条 退社した社員は、その払込済出資額を限度として、払戻しを請求することができる。
ハ K会の出資名義人の変更等の経緯について
(イ) S10及びS14は、昭和63年5月27日付で、K会に対し、それぞれ内容証明郵便で「退社及び監事辞任届」及び「退社及び理事並びに管理者辞任届」を郵送し、K会を退社した。
 K会は、平成元年5月30日付の第10回定時社員総会において、S10及びS14の各名義の出資持分各20口について、真正な出資者である本件被相続人の名義に復元する決議をした。
(ロ) 平成2年5月30日付で、贈与者をS11、受贈者をS5とし、「贈与者S11は、本日、その所有する出資持分20口のうち15口を受贈者S5に贈与し、受贈者はこれを承諾した。」旨記載された贈与契約書(以下「本件甲贈与契約書」という。)が作成されるとともに、同日付で、贈与者を本件被相続人、受贈者をS5とし、「贈与者S8は、本日、その所有する出資持分850口のうち825口を受贈者S5に贈与し、受贈者はこれを受諾した。」旨記載された贈与契約書(以下「本件乙贈与契約書」という。)が作成された。
 K会は、平成2年5月30日付で、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書に基づき、出資持分840口をS5の名義に変更することを社員全員が賛成した旨記載した第11回定時社員総会議事録を作成した。
(ハ) 平成2年5月30日付で、贈与者を本件被相続人、受贈者をS4とし、「贈与者S8は、本日、その所有する出資持分のうち5口を受贈者S4に贈与し、受贈者はこれを受諾した。」旨記載された贈与契約書(以下「本件丙贈与契約書」といい、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書と併せて「本件各贈与契約書」という。)が作成された。
 K会は、平成2年5月30日付で、本件丙贈与契約書に基づき、出資持分5口をS4の名義に変更することを社員全員が賛成した旨記載した第11回定時社員総会議事録を作成した。
(ニ) K会は、平成6年7月23日付で、同日付の「持分相続に関する同意書」と題する書面(提出者を相続人代表S13、あて先をK会理事長の本件被相続人とする書面で、以下「本件同意書」という。)を添付し、同月○日に死亡したS11名義の出資持分5口をS4に相続させることを社員全員が承認した旨記載した臨時社員総会議事録を作成した。
 本件同意書には、「私達相続人4名は、被相続人故S11の所有する医療法人K会の持分『5口』について、そのすべてを相続人S4が相続することに一切異議無く、下記相続人は全員同意いたします。」と記載され、S13、S5、S15(S1の改姓前の氏名)及びS6の記名押印がある。
(ホ) S13は、K会に対し、平成14年2月12日付の「退社及び理事辞任届」を提出し、K会は、同月13日付で、S13の退社を承認する旨記載した臨時社員総会議事録を作成した。
 その後、K会は、平成14年5月30日付の第23回定時社員総会において、S13名義の出資持分20口について、真正な出資者である本件被相続人の名義に復元する決議をした。
(ヘ) S5は、平成14年9月12日付で、K会に対し、一身上の都合により退社する旨記載した「退社届」を内容証明郵便で郵送し、K会は、同月26日付の臨時社員総会において、S5の退社を承認する決議をした。
 S5は、K会に対し、退社に伴う出資金の払戻請求を行わず、K会は、同人名義の出資持分について、その口数及び名義を変更しなかった。
(ト) S9は、平成19年10月25日付で、K会に対し、「退社届」及び「退任届」を提出し、S4は、同日、K会に対し、退社する旨の通知をし、K会は、同日付の臨時社員総会において、S9及びS4の退社並びにS1ほか2名を社員とすること、S1の理事就任、同年11月1日をもって、本件被相続人が理事長を退任し、S1が理事長に就任することなどを承認する決議をした。
 なお、S9及びS4は、K会に対し、退社に伴うそれぞれの出資金の払戻請求を行わず、K会は、両者名義の出資持分について、それぞれの口数及び名義を変更しなかった。
ニ 本件相続に係る相続税の申告等について
(イ) 請求人らは、本件相続に係る相続税について、本件被相続人に帰属するK会の出資持分は、出資持分の総口数910口のうち本件被相続人名義の40口であるなどとして、法定申告期限内に相続税の申告をした。
(ロ) これに対し、原処分庁は、本件相続に係る相続税の調査(以下「本件調査」という。)を行い、K会の出資持分については、本件被相続人名義の40口のほか、S9名義の20口、S4名義の10口及びS5名義の840口の合計870口も、本件被相続人に帰属する財産であると認定し、これらを本件相続に係る相続税の課税価格に算入するなどして、請求人らに対し、平成22年2月25日付で本件各更正処分及び本件各賦課決定処分をした。

(4) 争点

 本件相続の開始時において、本件被相続人に帰属するK会の出資持分は何口か。

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2 主張

原処分庁 請求人ら
(1) 本件相続の開始時において、本件被相続人に帰属するK会の出資持分は、以下のとおり、910口である。
イ 相続税は、相続又は遺贈により取得した財産について課するものであるから、何を相続財産とみるかは、原則として、民法等の一般私法の定めるところに基づいて、私法上の法律関係を前提として判断されるものであるが、相続税が財産の取得により生じる担税力の増加を課税の根拠としていることからすると、相続財産が何であるかを判断する際には、単に形式的な私法上の法律関係にとらわれることなく、相続税課税上の妥当性、相当性の観点、換言すれば、経済的実質の観点からの検討も考慮した上で、関連する諸事実を総合的に判断して、実質的な財産の帰属を判定すべきである。
 そして、財産の帰属の判定において、当該財産の名義は重要な要素となり得るものであるが、親族間においては、親族の名義で財産を取得することや、便宜上、親族の名義に変更することなどが行われるため、必ずしも財産の名義と帰属が一致しないことが見受けられる。
 そのため、相続の開始時における財産の帰属の判定においては、当該財産の名義のほか、当該財産の管理運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、当該財産の取得原資の出えん者と名義人及び管理運用をする者との関係、当該財産の贈与契約の有無等の諸要素を総合勘案して判断すべきである。
ロ 本件においては、本件相続の開始時において存在するS5名義の840口、S4名義の10口及びS9名義の20口を合計した870口の出資持分の実質的な帰属者は、以下の理由により、本件被相続人であると認められる。
(イ) 上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、K会の設立当時、すべての出資金を出えんしたのは本件被相続人であり、別表2の「設立時」欄のS9、S11、S13、S10及びS14の各名義の出資持分は名義上のものにすぎず、出資持分910口はすべて本件被相続人に帰属していたものと認められる。
(ロ) 出資持分の一部がS5及びS4に贈与されたとする本件各贈与契約書は存在するが、まる1S5及びS4は、名義上出資持分を有する社員とされていたものの、S5は、社員総会に出席したことはなく、出資持分を有する社員としての権利義務を履行していないなど、出資持分を有する社員としての認識がなかったこと、まる2K会においても、同人に社員総会への出席を要請したことがないなど、出資持分を有する社員として取り扱っていなかったこと、まる3本件被相続人は、平成14年9月にS5を一方的に退社させ、また、K会を持分の定めのない社団医療法人へ移行するためにS4を退社させたなど、K会の重要事項を実質的に決定していたのは本件被相続人であったことなどからすれば、本件相続の開始時にS5名義及びS4名義とされていた出資持分合計850口について、出資者としての権利を有し、支配、管理していたのは本件被相続人であるから、その実質的な帰属者は本件被相続人であると認められる。
(ハ) S9及びS10が原処分庁に提出した平成22年1月14日付の申立書と題する書面によれば、本件相続の開始時におけるS9名義の出資持分20口は、本件被相続人に帰属することが認められる。
ハ 以上から、本件相続の開始時において、本件被相続人に帰属するK会の出資持分は、本件被相続人名義の40口のほか、S5、S4及びS9の各名義の出資持分を加えた910口である。
(1) 本件相続の開始時において、本件被相続人に帰属するK会の出資持分は、以下のとおり、60口である。
イ K会の設立時の出資は、すべて本件被相続人が行っており、別表2の「設立時」欄のS9、S11、S13、S10及びS14は名義上出資者となっていただけであるから、設立時において、すべての出資持分は本件被相続人に帰属していた。
ロ S5は、平成2年5月30日、本件被相続人からこれで病院はお前のものになると言われ、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書に自ら署名押印し、本件被相続人から、本件被相続人名義の出資持分825口及びS11名義の出資持分15口を贈与により取得した。
 なお、S11がS5に出資持分15口を贈与する旨の本件甲贈与契約書は、S11名義の出資持分の真正な出資者である本件被相続人が、S5に出資持分15口を贈与する旨を記した契約書である。
ハ S4は、本件丙贈与契約書のとおり、平成2年5月30日、本件被相続人から出資持分5口を贈与により取得した。
 また、上記1の(3)のハの(ニ)のとおり、S11の死亡に伴い、同人名義の出資持分5口がS4へ名義変更されているが、これは、実際には、S4が、S11名義の出資持分の真正な出資者である本件被相続人から出資持分5口を贈与により取得したものである。
ニ 上記ロ及びハの各贈与は、贈与者が贈与の意思を表示し、受贈者がこれを承諾して成立しているが、以下のように、周辺事実を考慮しても、有効に成立したものと認められる。
(イ) 本件被相続人が、S5へ出資持分840口を贈与した動機は、本件被相続人がS5を将来のK会の実質的経営の後継者とするというものであり、また、平成2年5月当時、K会は債務超過の状態で、出資持分の贈与を行ってもS5に贈与税の負担がないなど、贈与する理由があり、また、贈与をするのに良い時期であった。
(ロ) K会は、名義上出資者となっていた者が退社した際にその者名義の出資持分を本件被相続人名義に変更しているが、上記1の(3)のハの(ヘ)及び(ト)のとおり、S5及びS4は、平成14年9月及び平成19年10月にそれぞれK会を退社したにもかかわらず、両者名義の出資持分が本件被相続人の名義に変更されていないのは、両者名義の出資持分が名義上のものではなく、S5及びS4に対する各贈与が実体を伴うものであったからである。
ホ 以上のとおり、S5及びS4は、本件相続の開始時までに、本件被相続人からK会の出資持分840口及び10口をそれぞれ贈与により取得しているから、本件相続の開始時において、本件被相続人に帰属するK会の出資持分は、総口数910口のうち、本件被相続人名義の40口とS9名義の20口を合計した60口である。
(2) 仮に、上記(1)の主張が認められないとしても、K会の定款第32条が「解散した場合の残余財産は解散当時の社員の払込済出資額に応じて分配する。」旨定めていることからすれば、本件被相続人以外の出資者は、本件相続の開始時までに退社させられ社員でなくなっており、その退社の時点で残余財産分配請求権を有しないことになるから、本件相続の開始時において、残余財産分配請求権を有する社員は本件被相続人のみとなる。
 そして、残余財産分配請求権を有する社員が、出資によってK会の企業価値を分有するものといえるから、本件相続の開始時におけるK会の企業価値の全体を本件被相続人のみが有しているといえる。
 そうすると、本件相続の開始時におけるK会の出資持分の評価に当たっては、本件被相続人が有する出資持分40口を出資持分の総口数として1口当たりの出資持分の価額を算定することになる。
(2) K会の定款第32条は、過去の定款変更に伴って、「解散当時の払込済出資額に応じて分配する。」と改定すべきところを、誤って改定がなされなかったものであるが、仮に、定款第32条の解釈が原処分庁主張のとおりであったとしても、S5及びS4は、K会を退社した後においても出資持分を有している。
 そして、残余財産分配請求権が医療法人の解散時に限って行使されるものであるのに対し、出資金払戻請求権は、出資持分権者が任意に行使することができるものであるから、本件相続の開始時における医療法人の価値は、残余財産分配請求権ではなく、むしろ出資金払戻請求権に収れんしているといえる。
 そうすると、本件相続の開始時において、K会の出資持分を有する者は、本件被相続人、S5及びS4となり、上記(1)のとおり、出資持分の総口数910口のうち、本件被相続人に帰属する出資持分は60口である。

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3 判断

(1) 争点について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 出資持分の譲渡に関する定款の定め
 平成2年当時、K会の定款は、出資持分の譲渡に関して、以下のとおり定められていた。
A 第9条第1項 社員がその出資持分の一部、又は全部を譲渡するには社員総会の承認を得なければならない。
B 第9条第2項 前項の規定により譲渡を受ける者は社員でなければならない。ただし、相続の場合はこの限りにあらず。
(ロ) 本件各贈与契約書の作成
A 本件各贈与契約書の作成者等
 S5の本件調査の担当者(以下「本件調査担当者」という。)に対する「父が亡くなる前に、祖父から、これで病院はおまえのものになるからと言われ、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書にサインして印を押した記憶はあります。」旨の申述、異議申立てに係る審理の担当者(以下「本件異議審理担当者」という。)に対する「本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書に書かれた署名は間違いなく僕の字です。」旨の申述、当審判所に対する「L病院の理事長室で、祖父から、これで病院もおまえのものになると言われて、祖父が用意した本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書に私が名前を書き、判を押した記憶があります。」旨の答述、S13の本件異議審理担当者に対する「本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書に書かれたS5の名前は、息子(S5)の字で間違いないですね。S11とS8の名前も、夫(S11)とおじいちゃん(本件被相続人)の字に間違いないです。」旨の申述及び本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書の署名押印の状況から、本件被相続人が、贈与者欄にS11が署名押印した本件甲贈与契約書及び贈与者欄に本件被相続人が署名押印した本件乙贈与契約書をそれぞれ用意し、S5が各受贈者欄にそれぞれ署名押印したことが認められる。
 また、S4の当審判所に対する「私が○年生ころだった平成2年ころ、L病院の理事長室で、贈与契約書を作成し、祖父が用意した本件丙贈与契約書に私自身が署名し、祖父が用意した印鑑を押しました。」旨の答述及び本件丙贈与契約書の署名押印の状況から、本件被相続人が、贈与者欄に自ら署名押印した本件丙贈与契約書を用意し、S4が受贈者欄に署名押印したことが認められる。
B 受贈名義人の認識
 S5の本件調査担当者に対する「祖父から、これで病院はおまえのものだと言われました。それで社員になったのかなと、今思えばそう思いますが、その後、病院から給料をもらったりとか、会議に出席したりとか、書類に押印した記憶はありません。病院に対して何らかの権利はあったのだろうと思っていました。」旨の申述、本件異議審理担当者に対する「病院の権利が譲渡され、自分に移ったと思いました。株的なものと思いました。社員になっているのは分かっていたんですが、中学、高校生でしたので、親に任せて何もしていません。」旨の申述、当審判所に対する「祖父であるS8や父のS11から病院を継ぐのはおまえだと再三言われていました。中学生のころで、はっきりした日にちは覚えていませんが、祖父からK会の出資持分の贈与を受けた認識はあります。L病院の理事長室だったと思います。本件甲贈与契約書と本件乙贈与契約書は、祖父からこれで病院もおまえのものになると言われて、祖父が用意した契約書に私が名前を書いたものです。贈与契約の場には祖父がいた覚えがあるので、S11名義の15口の出資持分も祖父からもらったという認識です。」旨の答述、S4の当審判所に対する「平成2年から平成19年までK会の社員となっていました。平成2年当時は高校生でしたので、K会の社員であると明確に理解したのは大学院生であった平成14年ころになります。祖父のS8や両親は、私を医者にしたがっていましたので、出資持分を贈与して私をK会の社員にしたのだと思います。贈与契約の際、祖父が、弟のS5が中心となって病院を背負うので、私にも病院を支えていけと言ったのを記憶しています。贈与時は、学生だったし、父や母が代わりに総会に出席していたので、当時は総会に出席することはありませんでした。ただ、父が死亡し、母もK会を退社したことから、母の退社後は、社員総会に出席するようになりました。社員として総会に出て議決権を行使したり、平成14年から平成17年にかけては、毎月1度は、病院を訪ね、祖父と病院の経営について話もしていました。」旨の答述等から、当時○歳であったS5は、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書に署名したことによって、本件被相続人からK会の病院を継ぐためのK会に対する何らかの権利を取得した旨の認識を持ったこと、ただし、K会から給与等を受領したことはなかったことから、その「社員」になった旨の認識はなかったこと、また、当時○歳であったS4も、出資持分について十分な法律知識はなく、社員となったことを理解したのは大学院生になってからであったことが認められる。
 なお、S5は、本件異議審理担当者に対し、社員となったことは分かっていた旨申述し、また、当審判所に対しても、出資持分の贈与を受けた認識はある旨答述するが、S5の本件調査担当者に対する上記申述から、S5は、「社員」を病院から給与をもらう従業員のようなものと理解していたこと、出資持分の贈与により社団の構成員としての「社員」の地位を取得するという認識はなかったことが認められるのであるから、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書が作成された当時○歳であったS5の認識は、上記のとおり、本件被相続人からK会の病院を継ぐためのK会に対する何らかの権利を取得したというものであったと認めるのが相当である。
(ハ) 本件各贈与契約書作成時のK会の財務状況
 K会の平成元年4月1日から平成2年3月31日まで及び昭和63年4月1日から平成元年3月31日までの各事業年度の決算報告書によれば、平成2年3月31日現在の貸借対照表上の資産の部の合計額は3,591,238,238円であるのに対し、負債の部の合計額は3,669,392,882円であり、同日時点で、K会は78,154,644円の債務超過の状態にあったこと、平成元年3月31日現在の貸借対照表上の資産の部の合計額は3,361,792,399円であるのに対し、負債の部の合計額は3,421,088,017円であり、同日時点で、K会は59,295,618円の債務超過の状態にあったことが認められる。
(ニ) 本件被相続人の言動等
A S5の当審判所に対する「祖父であるS8や父のS11から病院を継ぐのはおまえだと再三言われていました。」旨の答述及びS4の当審判所に対する「祖父のS8や両親は、私を医者にしたがっていましたので、出資持分を贈与して私をK会の社員にしたのだと思います。贈与契約の際、祖父が、弟のS5が中心となって病院を背負うので、私にも病院を支えていけと言ったのを記憶しています。」旨の答述から、本件被相続人は、本件各贈与契約書作成当時、S5にその出資持分の大部分を贈与してK会を継がせ、S4にも出資持分の一部を贈与してS5を補助させたいとの意向を持っていたものと認められる。
B また、平成2年5月30日当時、K会の理事であり、現在までM病院の院長であるS16の本件異議審理担当者に対する「僕が理事になった時には、S5さんに出資持分が移っていて、理事長のS8さん(本件被相続人)がもう自分のはないんだからと言っていました。理事長のS8さんがK会の出資持分をS5さんに移したのは、長男のS11さんに渡したら将来二度相続のことがでるし、そのころ、経営状態が悪かったので、S5さんに出資持分を移すのはよい時だったからでしょう。これは理事長のS8さんの意見であり、私もそう思います。」旨の申述から、本件被相続人は、S16に対し、K会の出資持分をS5に移せば、その出資持分について、本件被相続人及びS11が順次死亡した時にそれぞれ相続税がかかることを回避できること、また、K会が債務超過の状態にあったため、K会の出資持分を贈与しても受贈者に贈与税の負担がかからないことを理由に、本件被相続人が有するK会の出資持分をS5に移した旨述べていたことが認められる。
 なお、本件異議審理担当者がS16の申述を取りまとめた聴取書には、上記のとおり、「僕が理事になった時には」との記載があるが、昭和63年6月13日付臨時社員総会議事録及び同日付S16作成の就任承諾書によれば、同人がK会の理事となったのは昭和63年6月13日であるから、当該聴取書中「僕が理事になった時には」との記載は誤りであり、同人が本件被相続人からK会の出資持分をS5に移したという話を聞いたのは、平成2年以降の別の時期と認められる。
(ホ) 本件同意書の作成等
 上記1の(3)のハの(ニ)のとおり、平成6年7月○日に死亡したS11名義の出資持分5口について、S4に相続させることを社員全員が承認した旨記載し、本件同意書が添付された同月23日付臨時社員総会議事録が作成されているところ、S13の当審判所に対する「S11の遺産は、相続税がかかるような金額ではなかったので遺産分割協議書は作っていません。S11名義の出資持分5口に関する『持分相続に関する同意書』と題する書面は、税務調査で見るまで知りませんでした。この文書に押印し、K会に提出した覚えはありません。」旨の答述及びS4の当審判所に対する「S11名義の出資持分5口については、父(S11)が亡くなってしばらくして、祖父母から私が相続するようになったと聞きました。相続人間で協議をしたことはありません。『持分相続に関する同意書』と題する書面も知りません。」旨の答述から、S11名義の出資持分5口の名義人とされたS4本人は名義の移転を知らなかったこと、また、当時、S4の法定代理人であったS13もそれを知らなかったことが認められる。
(ヘ) S5及びS4によるK会の社員としての権利の行使等
 S5の本件調査担当者に対する申述、本件異議審理担当者に対する申述及び当審判所に対する答述、S4の当審判所に対する答述、S13の当審判所に対する答述、K会経理部長のS17の本件異議審理担当者に対する申述及び当審判所に対する答述、S16の本件異議審理担当者に対する申述などから、以下の事実が認められる。
A S5
(A) S5は、平成2年5月30日付の本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書が作成された後、平成14年9月12日付で「退社届」をK会に郵送するまでの間、両親に任せてK会の社員総会に出席したことは1度もなく、K会の社員総会に係る招集通知事務を担当していたS17も、S5に対して社員総会に係る招集を通知することはなかった。
 その間、S5は、高校卒業後、u県所在の予備校に通っていたが、21歳の時に、本件被相続人に対し、医師になる意思はなく、K会を継がない旨述べて上京した。
(B) S5は、平成14年当時、S4を通じて本件被相続人からK会からの退社を要請されると、医師になる意思がなかったことから、上記1の(3)のハの(ヘ)のとおり、平成14年9月12日付で「退社届」をK会に郵送した。
 上記退社届出後、S5は、上記1の(3)のハの(ヘ)のとおり、出資金払戻請求権を行使していないが、同人の当審判所に対する「出資金の払戻しを請求できるとは思いませんでした。」旨の答述から、同人が出資金払戻請求権を行使していない理由は、出資金払戻請求権を知らなかったためであったと認められる。
B S4
(A) S4は、平成2年5月30日付の本件丙贈与契約書が作成された後、両親に任せてK会の社員総会に出席していなかったが、上記1の(3)のハの(ホ)のとおり、平成14年2月に母S13が退社届を提出した後、K会から社員総会に係る招集通知がくるようになり、平成19年10月25日にK会を退社する旨通知するまでの間、社員総会に出席した。
 その間、S4は、高校卒業後、g県所在のN大学、同大学院に進学し、現在は、Q大学R学部の○○である。
(B) S4は、上記1の(3)のハの(ト)のとおり、平成19年10月25日にK会に退社の通知をしているが、その理由は、K会の社員の同族比率を下げることにあったものと認められる。
 上記退社通知後、S4は、上記1の(3)のハの(ト)のとおり、出資金払戻請求権を行使していないが、同人の当審判所に対する「出資金の払戻しを請求して、病院にとって損になるようなことをしたくなかったからです。」旨の答述から、同人が出資金払戻請求権を行使していない理由は、K会の負担となることを避けたいというものであったと認められる。
(ト) K会の社員の義務
 K会の定款第6条第2項には、社員たる義務を履行しない者は、総会の議決を経て除名できる旨定められているが、社員の義務を定めた規定はない。
ロ 判断
(イ) 本件相続の開始時における出資持分の帰属状況について
A 本件各贈与契約書作成前の出資持分の帰属状況
 上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、K会の設立時に実際に出資をした者は本件被相続人のみであり、別表3の順号1のとおり、出資名義人がS9、S11、S13、S10及びS14とされていたものを含め、K会の出資持分の総口数910口のすべてが本件被相続人に帰属していたのであり、その後の上記1の(3)のハの(イ)記載の出資持分の名義の移転にかかわらず、本件各贈与契約書作成前の出資持分の帰属状況は、別表3の順号2のとおり、総口数910口のすべてが本件被相続人に帰属していたものと認められる。
B 本件各贈与契約書作成後の出資持分の帰属状況
(A) 本件乙贈与契約書について、上記イの(ロ)のAのとおり、本件乙贈与契約書の贈与者欄に記載された「S8」は本件被相続人が署名したものであり、受贈者欄に記載された「S5」はS5が署名したものと認められる。
 本件甲贈与契約書についても、上記1の(3)のハの(ロ)及び上記イの(ロ)のAのとおり、本件甲贈与契約書は贈与者をS11とし、贈与者欄に記載された「S11」はS11本人が署名したものと認められるが、本件甲贈与契約書は本件被相続人が用意したこと、本件甲贈与契約書に記載された贈与の対象は本件被相続人に帰属する出資持分であること、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、理事長であった本件被相続人の下で本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書に基づき出資持分840口をS5の名義に変更することを承認した旨記載された第11回定時社員総会議事録が作成されたことなどからすれば、本件甲贈与契約書は、贈与者としてS11と記載されているが、実際の贈与者は本件被相続人であり、贈与者欄に記載された「S11」は本件被相続人の依頼によって名義人とされていたS11が贈与者欄に署名したものと認められ、また、上記イの(ロ)のAのとおり、受贈者欄に記載された「S5」はS5が署名したものと認められる。
 したがって、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書は、いずれも真正に成立したものと認められる。
(B) 本件丙贈与契約書は、上記イの(ロ)のAのとおり、本件丙贈与契約書の贈与者欄に記載された「S8」は本件被相続人が署名したものであり、受贈者欄に記載された「S4」はS4が署名したものと認められ、真正に成立したことが認められる。
(C) ところで、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書の各署名の際、S5には、上記イの(ロ)のBのとおり、K会の出資持分を取得することについて十分な法律知識がなく、K会の病院を継ぐためのK会に対する何らかの権利を本件被相続人から無償で取得する程度の認識しかなかったものと認められるが、贈与は受贈者が無償で財産権等の利益を取得する契約であること、出資持分の取得によって社員として社員総会への出席が求められることがあるとしてもそれは義務ではないこと、上記イの(ト)のとおり、K会の定款には社員の義務を定めた規定はなく、出資持分の受贈者は何らかの義務を負うことはないから、贈与の受諾について錯誤が問題となることもないと考えられること、とりわけ、本件のように、出資持分が贈与契約の対象となった場合に、それがどのようなものであるのかを認識するにはある程度の法律知識が必要であることを考慮すると、受贈者が出資持分を取得することについての法律知識を有した上で受諾しなければ贈与が受けられないとすることは適切ではない。
 そうすると、S5の出資持分についての認識がK会の病院を継ぐためのK会に対する何らかの権利程度のものであったとしても、これを無償で譲り受けることを受諾する意思表示をすれば、受贈者の受諾の意思表示としては足りると解するのが相当である。
 また、上記イの(ロ)のBのとおり、S4がK会の社員となったことを理解したのは大学院生になってからであり、本件丙贈与契約書に署名する際のS4には出資持分についての十分な法律知識はなかったものと認められるが、出資持分についての法律知識がなくても出資持分を無償で取得することを受諾する意思表示をすれば、受贈者の受諾の意思表示としては足りると解するのが相当である。
(D) そして、上記イの(ニ)のAのとおり、本件被相続人は、S5に出資持分の大部分を贈与してK会を継がせ、S4にも出資持分の一部を贈与してS5を補助させたいとの意向を持っていたこと、上記イの(ハ)のとおり、K会は、本件各贈与契約書が作成された平成2年5月の直前及び直前々の各事業年度において債務超過の状態にあったため、K会の出資持分を贈与しても受贈者に贈与税の負担がかからないことが見込まれたこと、上記イの(ニ)のBのとおり、K会の出資持分をS5に移せば、その出資持分について、本件被相続人及びS11の死亡時に相続税が課せられることを回避でき、かつ、当時K会の出資持分をS5に贈与しても受贈者に贈与税の負担がかからないことから、S5に出資持分を贈与した旨、本件被相続人がS16に述べていたことからすれば、本件被相続人がS5及びS4に出資持分を贈与することには合理的な理由が認められるのであり、本件被相続人は、将来の相続税対策をも踏まえ、S5に出資持分の大部分を贈与してK会を継がせ、S4にも出資持分の一部を贈与してS5を補助させたいとの意向を実現するために、自己に帰属する出資持分をS5及びS4に贈与したものと認められる。
 したがって、上記(A)及び(B)のとおり、本件被相続人とS5及びS4との間で、形式的に贈与の意思表示の合致が認められるのみならず、上記(C)及び上記認定のとおり、実質的にも、本件被相続人に帰属する出資持分をS5及びS4に贈与する意思が存在していたものと認められるのであり、本件被相続人とS5及びS4との間の贈与契約はいずれも有効に成立したものと認めるのが相当である。
(E) 上記イの(ヘ)のAの(A)のとおり、S5は、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書の作成後、社員として社員総会に出席し、議決権を行使したことはなかったこと、K会もS5に社員総会に係る招集を通知しなかったこと、上記1の(3)のハの(ヘ)のとおり、S5は、平成14年9月12日付でK会に退社届を郵送し、その後、出資金払戻請求権を行使しなかったことが認められる。
 しかしながら、上記イの(ロ)のB及び(ヘ)のAの(A)のとおり、S5は、本件甲贈与契約書及び本件乙贈与契約書作成時は○歳(○年生)であり、その後、高校に進学し、高校卒業後はu県所在の予備校に通っていたことから、平日行われる社員総会に出席することは困難であること、また、21歳になると医師とは別の道に進むために上京して、K会とかかわりがなくなり、K会もS5に社員総会に係る招集を通知しなかったため、社員総会に出席することもなかったものと認められるが、実際に出資したことはなく、剰余金の配当を受けることもない、贈与によって出資持分を取得しただけの者としては、上記理由で社員総会に出席しなかったとしても不自然ではなく、不合理でもない。
 また、S5が出資金払戻請求権を行使しなかったのは、上記イの(ヘ)のAの(B)のとおり、同人は、出資持分を有する社員が退社した場合、出資金払戻請求権を取得するということを知らなかったためであったと認められる。
 したがって、これらはいずれも上記(D)で認定した贈与契約の有効な成立を覆すものではない。
(F) S4についても、上記イの(ヘ)のBの(A)のとおり、平成14年2月ころまで社員総会に出席せず、また、上記1の(3)のハの(ト)のとおり、平成19年10月25日にK会に退社する旨通知し、その後、出資金払戻請求権を行使しなかったことが認められる。
 しかしながら、上記イの(ロ)のB及び(ヘ)のBの(A)のとおり、平成14年2月ころまでS4が社員総会に出席していなかったのは、本件丙贈与契約書作成時は○歳(○年生)であり、高校卒業後はg県所在のN大学に通っていたなどのためであり、その後は、社員総会に出席していたことが認められる。
 また、S4が出資金払戻請求権を行使しなかったのは、上記イの(ヘ)のBの(B)のとおり、その行使によってK会に負担を与えることになることを回避したいなどの理由であり、かかる理由が不合理とまではいうことはできない。
 したがって、これらはいずれも上記(D)で認定した贈与契約の有効な成立を覆すものではない。
(G) 上記イの(イ)のとおり、K会の定款第9条第1項は、出資持分の一部又は全部を譲渡するには社員総会の承認を得なければならないと定めるが、上記Aのとおり、平成2年5月30日当時(本件各贈与契約書作成前)、K会の出資持分はすべて本件被相続人に帰属しており、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、平成14年1月23日に定款が改定されるまで、K会においては、出資者でなければ社員になれなかったのであり、したがって、平成2年5月30日当時のK会の社員は本件被相続人のみであったと認められるから、本件各贈与契約書に基づく出資持分の譲渡(贈与)は同項の要件を満たしている。
 また、K会の定款第9条第2項は、譲渡を受ける者は社員でなければならないと定めるが、これを文理どおり適用すると、上記のとおり、平成2年5月30日当時、K会の社員は本件被相続人のみであったから、本件被相続人は出資持分を譲渡することができず不合理であることにかんがみれば、上記定めは、K会にとって好ましくない者が社員となることを防止する趣旨であると解するのが相当である。
 そうすると、本件のように、社員である本件被相続人からその親族であるS5及びS4に対する贈与で、社員総会の承認を得た出資持分の贈与については、それぞれ有効にその出資持分がS5及びS4に移転したと認めるのが相当である。
(H) 以上から、本件各贈与契約書作成後(平成2年5月30日付定時社員総会後)のK会の出資持分の帰属状況は、別表3の順号3のとおり、本件被相続人に帰属する出資持分が65口(本件被相続人名義20口、S9名義20口、S11名義5口及びS13名義20口を合計したもの)、S5に帰属する出資持分が840口及びS4に帰属する出資持分が5口となる。
C S11の死亡後の出資持分の帰属状況
 上記1の(3)のハの(ニ)のとおり、平成6年7月○日にS11が死亡した後、同月23日付の本件同意書が添付された臨時社員総会議事録が作成され、S11名義の出資持分5口がS4の名義に変更されているが、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、S11は、名義上の出資者にすぎず、上記Aのとおり、同人名義とされた出資持分は本件被相続人に帰属していたものと認められるから、S4の名義に変更された出資持分5口は本件被相続人に帰属する。
 したがって、S11の死亡後(平成6年7月23日付臨時社員総会後)のK会の出資持分の帰属状況は、別表3の順号4のとおり、本件被相続人に帰属する出資持分が65口(本件被相続人名義20口、S9名義20口、S13名義20口及びS4名義5口を合計したもの)、S5に帰属する出資持分が840口及びS4に帰属する出資持分が5口となる。
D 関係者の退社等による出資持分の帰属状況
(A) S13の退社届出後の出資持分の帰属状況
 上記1の(3)のハの(ホ)のとおり、S13は、平成14年2月12日付の「退社及び理事辞任届」を提出し、K会は、同年5月30日付定時社員総会において、同人名義の出資持分を本件被相続人の名義に復元する旨決議しているところ、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、S13名義の出資持分は名義上のものにすぎず、上記Aのとおり、同人名義の出資持分は本件被相続人に帰属していたものと認められる。
 したがって、S13の退社届出後(平成14年5月30日付定時社員総会後)のK会の出資持分の帰属状況は、別表3の順号5のとおり、本件被相続人に帰属する出資持分が65口(本件被相続人名義40口、S9名義20口及びS4名義5口を合計したもの)、S5に帰属する出資持分が840口及びS4に帰属する出資持分が5口となる。
(B) S5の退社後の出資持分の帰属状況
 上記1の(3)のハの(ヘ)のとおり、S5は、平成14年9月12日付で、K会に対し、「退社届」を郵送し、同月26日付で行われた臨時社員総会の承認の決議を経て退社した。
 このような社員の退社について、医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)第44条以下の規定に照らせば、同法は、社団たる医療法人の財産の出資社員への分配は、収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する医療法第54条に反しない限り、基本的に当該医療法人が自律的に定める定款自治にゆだねられていたと解される。
 本件において、K会は、上記1の(3)のロの(ハ)のBのとおり、平成14年9月当時、定款の第8条において「退社した社員は、その払込済出資額を限度として、払戻しを請求することができる。」と定め、そのほかに退社した社員の出資持分に関する定款の定めを設けていないことからすれば、出資持分を有する社員は、退社により社員たる地位を喪失し、K会に対する出資持分を失うとともに、同条により、払込済出資額を限度とする出資金払戻請求権を取得することになる。
 そうすると、S5は、退社により、K会の出資持分を失うから、同人が退社した後のK会の出資持分の総口数は、910口から退社により失った840口を差し引いた70口となり、同人の退社後(平成14年9月26日付臨時社員総会後)の出資持分の帰属状況は、別表3の順号6のとおり、本件被相続人に帰属する出資持分が65口(本件被相続人名義40口、S9名義20口及びS4名義5口を合計したもの)及びS4に帰属する出資持分が5口となる。
(C) S9の退社届出後及びS4の退社後の出資持分の帰属状況
a 上記1の(3)のハの(ト)のとおり、S9は、平成19年10月25日付で、K会に「退社届」を提出しているが、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、同人名義の出資持分は名義上のものにすぎず、上記Aのとおり、同人名義とされた出資持分は本件被相続人に帰属していたものと認められる。
b S4は、上記1の(3)のハの(ト)のとおり、平成19年10月25日にK会に対し、退社する旨の通知をし、同日付で行われた臨時社員総会の承認の決議を経て退社した。
 K会は、上記1の(3)のロの(ハ)のBのとおり、平成19年10月25日当時、定款の第8条において「退社した社員は、その払込済出資額を限度として、払戻しを請求することができる。」と定め、そのほかに退社した社員の出資持分に関する定款の定めを設けていなかったから、上記(B)と同様、出資持分を有する社員は、退社により社員たる地位を喪失し、K会に対する出資持分を失うとともに、同条により、払込済出資額を限度とする出資金払戻請求権を取得することになる。
 そうすると、S4は、退社により、K会の出資持分を失うから、同人が退社した後のK会の出資持分の総口数は、70口から退社により失った5口を差し引いた65口となる。
c 以上から、S4の退社後(平成19年10月25日付臨時社員総会後)の出資持分の帰属状況は、別表3の順号7のとおり、本件被相続人に帰属する出資持分が65口(本件被相続人名義40口、S9名義20口及びS4名義5口を合計したもの)となる。
E 本件相続の開始時における出資持分の帰属状況
 当審判所の調査によれば、平成19年10月25日付臨時社員総会後、本件相続の開始時までの間に、K会の出資持分に移転は認められない。
 したがって、上記Dの(C)のcのとおり、本件相続の開始時におけるK会の出資持分の総口数は65口であり、そのすべてが本件被相続人に帰属していたものと認められる。
(ロ) 原処分庁の主張について
A 原処分庁は、上記2の「原処分庁」欄の(1)のロのとおり、本件各贈与契約書等は存在するが、S5名義及びS4名義の出資持分合計850口について、出資者としての権利を有し、支配、管理していたのは本件被相続人であるから、その実質的な帰属者は本件被相続人であるとし、S9名義の出資持分20口は本件被相続人に帰属するとして、これらを合計した出資持分870口に本件被相続人名義の出資持分40口を加えた910口が本件相続の開始時において本件被相続人に帰属していた旨主張する。
 相続開始時における財産の帰属を、当該財産の名義のほか、当該財産の管理運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、当該財産の取得原資の出えん者と名義人及び管理運用をする者との関係、当該財産の贈与契約の有無等の諸要素を総合勘案して当該財産の実質的な帰属を判定すべきであるとの原処分庁の主張は、必ずしも否定するものではないが、私法上の行為によって当該財産の帰属が変更された場合、当該財産を取得した者は、当該財産を自由に利用、処分することができるのであるから、総合勘案に当たっては、当該私法上の行為による担税力の変動を前提に課税関係を判定すべきであり、当事者が実体の伴わない意図で法律行為を行うなど、私法上も当該財産の帰属が変動しないと解すべき特段の事情のない限り、これを否定することは適切ではない。
 本件においては、上記(イ)のBのとおり、本件各贈与契約書が作成された平成2年5月30日当時、本件被相続人とS5及びS4との間で、本件被相続人名義の出資持分825口及びS11名義の出資持分15口をS5に、本件被相続人名義の出資持分5口をS4にそれぞれ贈与したことが認められるのであるから、上記各贈与を前提として財産の帰属を判定すべきであり、その後、S5及びS4がK会を退社したことにより、本件相続の開始時において、本件被相続人に帰属する出資持分が65口となったことは、上記(イ)のBからEまでのとおりである。
 なお、原処分庁は、まる1S5は、社員総会に出席したことはなく、出資持分を有する社員としての権利義務を履行していないなど、出資持分を有する社員としての認識がなかったこと、まる2K会においても、同人に社員総会への出席を要請したことがないなど、出資持分を有する社員として取り扱っていなかったこと、まる3本件被相続人は、平成14年9月にS5を一方的に退社させ、また、K会を持分の定めのない社団医療法人へ移行するためにS4を退社させたことなど、K会の重要事項を実質的に決定していたのは本件被相続人であったなどと主張する。
 確かに、上記イの(ヘ)のAのとおり、S5は退社するまで一度も社員総会に出席せず、K会も同人に社員総会に係る招集を通知しなかったこと、同人は退社後も出資金払戻請求権を行使していないことが認められるが、本件被相続人とS5との間で、本件被相続人名義の出資持分825口及びS11名義の出資持分15口を実質的にもS5のものとする意思で贈与が行われたことは、上記(イ)のBの(C)及び(D)のとおりである。
 また、上記イの(ヘ)のAの(B)のとおり、S5が、S4を通じて本件被相続人から退社を要請されて退社届を郵送したことは認められるが、本件被相続人がS5を一方的に退社させたなどと認めるに足りる証拠はなく、上記イの(ヘ)のAのとおり、同人は、医師になる意思がなくなり、上京してK会とかかわりがなくなったため退社届を郵送したものと認められる。
 S4についても、上記イの(ヘ)のBのとおり、平成14年2月ころまで社員総会に出席していなかったこと、K会も社員総会に係る招集を通知していなかったこと、平成19年10月25日に退社通知をした後、出資金払戻請求権を行使していないことは認められるが、同人は、平成14年2月ころ以降、社員総会に出席し、K会も社員総会に係る招集を通知していたものと認められるのであり、本件被相続人とS4との間で、本件被相続人名義の出資持分5口を実質的にもS4のものとする意思で贈与が行われたことは、上記(イ)のBの(C)及び(D)のとおりである。
 また、本件被相続人がS4を一方的に退社させたなどと認めるに足りる証拠はなく、同人がK会を退社したのは、上記イの(ヘ)のBの(B)のとおり、K会の社員の同族比率を下げることにあったものと認められる。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
B また、原処分庁は、仮に、上記2の「原処分庁」欄の(1)の主張が認められないとしても、上記2の「原処分庁」欄の(2)のとおり、K会の定款第32条の定めにより、本件相続の開始時において、残余財産分配請求権を有するのは本件被相続人のみであり、残余財産分配請求権を有する社員が出資によってK会の企業価値を分有することからすれば、本件相続の開始時におけるK会の企業価値の全体を本件被相続人のみが有しているといえるので、本件相続の開始時におけるK会の出資持分の評価に当たっては、本件被相続人が有する出資持分40口を総口数として1口当たりの出資持分の価額を算定することになる旨主張する。
 しかしながら、本件相続の開始時におけるK会の出資持分の評価は、本件相続の開始時に存在する出資持分について行うのであり、上記(イ)のEのとおり、本件相続の開始時において存在するK会の出資持分の総口数は65口であると認められる。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ハ) 請求人らの主張について
A 請求人らは、上記2の「請求人ら」欄の(1)のとおり、本件相続の開始時において、本件被相続人に帰属するK会の出資持分は、総口数910口のうち60口(本件被相続人名義の40口及びS9名義の20口を合計したもの)である旨主張する。
 しかしながら、本件相続の開始時におけるK会の出資持分の総口数は65口であり、そのすべてが本件被相続人に帰属することは、上記(イ)のEのとおりである。
 なお、請求人らは、S11名義の出資持分5口が同人の死亡に伴いS4に名義変更されたのは、その帰属者である本件被相続人からS4に贈与されたからである旨主張するが、上記イの(ホ)のとおり、平成6年7月○日にS11が死亡した後、本件同意書が添付された同月23日付臨時社員総会議事録が作成されているが、S4は、名義の移転を知らなかった上、本件同意書についても、S11名義の出資持分5口を相続するとされたS4及びその法定代理人S13は本件同意書の作成を知らなかったと認められるから、本件被相続人とS4又はその法定代理人S13との間で贈与契約が締結されたと認める余地はない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
B また、請求人らは、上記2の「請求人ら」欄の(2)のとおり、仮に、定款第32条の解釈が原処分庁の主張のとおりとしても、S5及びS4は、K会を退社した後においても出資持分を有するから、本件相続の開始時において、K会の出資持分を有する者は、本件被相続人、S5及びS4であり、本件被相続人に帰属していたK会の出資持分は総口数910口のうち60口である旨主張する。
 しかしながら、S4名義の出資持分10口のうちS11名義からS4名義に変更された5口が本件被相続人に帰属することは、上記(イ)のCのとおりである。
 また、上記(イ)のDの(B)及び(C)のbのとおり、S5名義の出資持分840口及び本件丙贈与契約書に基づいてS4が取得した同人名義の出資持分5口はいずれも両者がK会を退社したことにより喪失したものと認められるから、上記(イ)のEのとおり、本件相続の開始時におけるK会の出資持分の総口数は65口であり、そのすべてが本件被相続人に帰属するものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(2) 本件各更正処分について

イ K会の1口当たりの出資持分の価額
(イ) 法令解釈
A 相続税法第22条《評価の原則》は、特別の定めのあるものを除き、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、当該財産の取得時における時価による旨規定するところ、同条が規定する「時価」とは、相続又は遺贈により財産を取得した時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかし、財産の客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるのではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17の国税庁長官通達。ただし、平成21年5月13日付課評2−6による改正前のもの。以下「評価通達」という。)によって定められ、そこに定められた画一的な評価方法によって相続財産を評価することとされている。
 これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものであり、一般的には、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができることから、租税平等主義にかなうものであると解される。
B そして、医療法人に対する出資の価額の評価について、評価通達194−2《医療法人の出資の評価》は、別紙8の8のとおり定めるところ、これは、医療法人は、医療法において、営利法人化することを防止する目的の下に剰余金の配当が禁止されているほかは、事業により利益を上げるという点において、一般の私企業とその性格を異にするものではないことなどを踏まえ、医療法人の出資持分の客観的交換価値の評価を取引相場のない株式の評価に準じて行うこととした趣旨であると解される。
 そうすると、その方法によっては当該医療法人の出資を適切に評価することができない特別の事情の存しない限り、これによってその出資を評価することには合理性があると認められる。
 なお、本件において、医療法人の出資の評価を取引相場のない株式の評価に準じて行うに際して適用する評価通達は、別紙8の1から7までのとおりである。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A K会の評価上の区分
 K会経理部長のS17の本件異議審理担当者に対する申述から、本件相続が開始した平成20年1月当時、K会の常勤の従業員数は約425人であると認められ、直前期末以前1年間においてその期間継続してK会に勤務していた従業員は100名以上であったものと推認されるから、K会は、評価通達194−2及び評価通達178の定める大会社に該当するものと認められる。
B K会の出資の評価方式等に係る請求人らの選択
 請求人らの相続税の申告書第11表「相続税がかかる財産の明細書」に記載されたK会の1口当たりの出資持分の価額及び原処分庁がS1から入手したK会の出資持分の評価に係る「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の「第4表 類似業種比準価額等の計算明細書」の記載内容から、請求人らは、評価通達179の適用上、純資産価額による評価を選択せず、類似業種比準価額を適用したこと、評価通達182の適用上、類似業種の株価について、課税時期(本件相続の開始時)の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価及び類似業種の前年平均株価のうち最も低い価額を選択したこと、評価通達183の(2)の適用上、「1株(資本金等の額50円)当たりの利益金額」をK会の直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額を基として計算したことが認められる。
C K会の資本金等の額、利益金額、純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
(A) K会の資本金等の額
 上記(1)のロの(イ)のDの(B)のとおり、S5は、平成14年9月にK会を退社したことにより、同人名義の出資持分840口を失い、払込済出資額を限度とする出資金払戻請求権を取得したこと、当審判所の調査によれば、K会は、その直前の事業年度(平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度)において、貸借対照表上2,178,714,940円の剰余金を計上していることから、同人は上限の84,000,000円の出資金払戻請求権を取得したことが認められるので、同人がK会を退社した時点において、K会の出資金の額は7,000,000円(設立時の出資金の額91,000,000円から84,000,000円を差し引いた金額)に減少し、出資口数も70口となった。
 また、上記(1)のロの(イ)のDの(C)のbのとおり、S4は、平成19年10月25日にK会を退社したことにより、同人名義の出資持分5口を失い、払込済出資額を限度とする出資金払戻請求権を取得したこと、当審判所の調査によれば、K会は、その直前の事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度)において、貸借対照表上3,642,689,083円の剰余金を計上していることから、同人は上限の500,000円の出資金払戻請求権を取得したことが認められるので、同人がK会を退社した時点において、K会の出資金の額は6,500,000円(上記の7,000,000円から500,000円を差し引いた金額)に減少し、出資口数も65口となった。
 以上のほかに、K会において、法人税法第2条第16号の規定により委任された同法施行令第8条《資本金等の額》第1項各号に該当する金額はなく、本件相続の開始時までに、K会において資本金等の額が変動する事実も認められない。
(B) K会の利益金額
 本件相続の開始時の直前のK会の事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度)の法人税の修正申告書によれば、直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額は○○○○円であったことが認められる。
(C) K会の純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
 上記(A)のとおり、K会の直前期末における出資金の額は7,000,000円であり、上記(B)の修正申告書によれば、評価通達183の(3)の直前期末における法人税法第2条第18号に規定する利益積立金額に相当する金額(法人税申告書別表五(一)「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」の差引翌期首現在利益積立金額の差引合計額)は3,642,376,683円であるから、純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)は、これらを合計した金額3,649,376,683円となる。
(ハ) K会の出資の評価
A K会の出資の評価に係る算式等
 K会は、上記(ロ)のAのとおり、大会社の区分に該当する医療法人であり、上記(ロ)のBのとおり、請求人らは、その出資の価額を類似業種比準価額によって評価しているので、K会の出資の価額は、評価通達194−2が定める算式「A×(まるC/C×3+まるD/D)/4×0.7」によって計算することになる。
 この場合において、K会の本件相続の開始時の直前期末における出資持分1口当たりの出資金の額は100,000円(7,000,000円÷70口)となり、50円以外の金額であるから、1口当たりの出資持分の価額を計算するには、上記算式によって計算される「資本金等の額50円当たりの価額」に、出資金の額100,000円の50円に対する倍数(2,000)を乗じて計算することになる。
B 類似業種の株価(評価通達194−2の算式の「A」)
 評価通達194−2は、医療法人の業種目は評価通達181の定めにより別に定める業種目のうちの「その他の産業」とする旨、評価通達182は、評価通達180の類似業種の株価は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いものとする旨、ただし、納税義務者の選択により類似業種の前年平均株価によることができる旨、その金額は別に定める旨定めるところ、請求人らは、上記(ロ)のBのとおり、類似業種の株価を課税時期(本件相続の開始時)の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価及び類似業種の前年平均株価のうち最も低い額を選択している。
 そして、評価通達182の「その金額は別に定める」との定めに基づき国税庁長官が定める「平成20年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)」(平成20年6月6日付課評2−13の国税庁長官通達)において、医療法人であるK会の類似業種である「その他の産業」の株価(資本金等の額50円当たりの株価)は、平成19年の平均株価が268円、同年11月分の株価が237円、同年12月分の株価が232円、平成20年1月分の株価が205円であり、このうち最も低い価額は205円となる。
C 類似業種の「1株当たりの年利益金額」(評価通達194−2の算式の「C」)及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」(評価通達194−2の算式の「D」)
 類似業種の「1株当たりの年利益金額」及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」(いずれも1株当たりの資本金等の額を50円とした金額)は、評価通達183−2の別に定める旨の定めに基づき国税庁長官が定める上記Bの法令解釈通達の「その他の産業」の「1株当たりの利益金額」及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」(いずれも1株当たりの資本金等の額を50円とした金額)であり、それぞれ21円及び172円となる。
D K会の「資本金等の額50円当たりの利益金額」(評価通達194−2の算式の「まるC」)及び「資本金等の額50円当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」(評価通達194−2の算式の「まるD」)
(A) 上記(ロ)のCの(B)のとおり、K会の直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額は○○○○円であるから、直前期末における「資本金等の額50円当たりの利益金額」(評価通達194−2の算式の「まるC」)は、○○○○円(端数処理は後記Eによる。)を、「資本金等の額7,000,000円」を50円で除して計算した数値「140,000」で除して計算した金額○○○○円(端数処理は後記Eによる。)となる。
(B) 上記(ロ)のCの(C)のとおり、K会の本件相続の開始時の直前期末における純資産価額は3,649,376,683円であるから、「資本金等の額50円当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」(評価通達194−2の算式の「まるD」)は、3,649,376,000円(端数処理は後記Eによる。)を、上記(A)で算定した数値「140,000」で除して計算した金額26,066円(端数処理は後記Eによる。)となる。
E K会の出資の価額
 上記BからDまでの数値を、上記Aの算式に代入し、「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」(平成2年12月27日付直評23、直資2−293の国税庁長官通達)の定めるところにより、数値については同通達の「第4表 類似業種比準価額等の計算明細書」の表示単位未満の端数を切り捨て、比準割合については小数点以下第2位未満を切り捨てて計算すると、「資本金等の額50円当たりの価額」は、
 205円×(○○○○円/21円×3+26,066円/172円)/4×0.7=○○○○円○○銭
となるから、1口当たりの出資持分の価額は、これを2,000倍した金額○○○○円となる。
ロ 請求人らの納付すべき税額
(イ) 上記(1)のロの(イ)のEのとおり、本件相続の開始時におけるK会の出資持分は65口であり、そのすべてが本件被相続人に帰属するものと認められ、上記イの(ハ)のEのとおり、1口当たりの出資持分の価額は○○○○円となる。
(ロ) ところで、上記(1)のロの(イ)のEのとおり、本件相続の開始時において本件被相続人に帰属するK会の出資持分65口の内訳は、本件被相続人名義が40口、S9名義が20口及びS4名義が5口であるところ、上記1の(3)のイの(ロ)のとおり、本件遺言書には、本件被相続人名義のK会の出資持分40口をS1に相続させる旨の記載しかなく、S9名義の出資持分20口及びS4名義の出資持分5口に関する記載がない。
 しかし、本件遺言書の第11条に、「遺言者は、遺言者の有する前各条記載の財産を除くその余の財産全部を前記遺言者の妻S9に相続させる。」と記載されていることからすれば、本件相続の開始により、本件被相続人に帰属するK会の出資持分65口のうち、本件被相続人名義の40口はS1が、S9名義の20口及びS4名義の5口を合計した25口はS9がそれぞれ相続することとなる。
(ハ) 以上を前提として、当審判所が請求人らの納付すべき税額を計算すると、別表4の「納付すべき税額」欄の各金額となり、S1の納付すべき税額は○○○○円(別表4のまる5欄)となり、この金額は更正処分のそれを上回るから、同人に対する更正処分は適法となるが、S2、S3、S4、S5、S6及びS7の各納付すべき税額は、それぞれ○○○○円(別表4のまる1欄)、○○○○円(別表4のまる2欄)、○○○○円(別表4のまる3欄)、○○○○円(別表4のまる4欄)、○○○○円(別表4のまる6欄)及び○○○○円(別表4のまる7欄)となり、これらの金額は同人らに対する各更正処分のそれをいずれも下回るから、同人らに対する各更正処分は、いずれもその一部を別紙2から別紙7までの「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) 本件各賦課決定処分について

 上記(2)のロの(ハ)のとおり、S1に対する更正処分は適法であり、また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められる場合には当たらないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた同人に対する過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
 また、上記(2)のロの(ハ)のとおり、S2、S3、S4、S5、S6及びS7に対する各更正処分の一部がいずれも取り消されることに伴い、同人らに対する過少申告加算税の基礎となる税額は、それぞれ○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円及び○○○○円となるが、これらの税額の計算の基礎となった事実が各更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合には当たらないから、同条第1項の規定又は同条第1項及び第2項の規定に基づいて、同人らに対する過少申告加算税の額を計算すると、それぞれ○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円及び○○○○円となる。
 そうすると、S2、S3、S4、S5、S6及びS7に対する各過少申告加算税の額は、同人らに対する過少申告加算税の各賦課決定処分の額をいずれも下回るから、同人らに対する過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙2から別紙7までの「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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