(平成23年7月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、原処分庁が、請求人と同族会社との間で合意した土地賃貸借に係る賃料の額を容認した場合には請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとして、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》第1項の規定を適用し、原処分庁が算定した適正な賃料の額に基づき不動産所得の金額及び所得税の額を計算して所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が原処分庁の認定には誤りがあるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、審査請求(平成22年7月27日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成22年2月25日付でされた本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(いずれも平成22年6月30日付でされた異議決定により一部が取り消された後のもの)を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

イ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
ロ 所得税法第157条第1項本文及び第1号は、税務署長は、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の総所得金額又は所得税の額等を計算することができる旨規定している。
ハ 法人税法第2条第10号(平成18年3月31日以前については平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)は、会社の株主等の3人以下及びこれらと政令で定める特殊の関係のある個人がその会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその会社は同族会社に該当する旨規定し、法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》第1項本文及び第1号は、株主等の親族は法人税法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係のある個人に該当する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人の同族会社
(イ) N社は、昭和53年12月○日に設立され、j市k町○−○に本店を置く、不動産の管理、賃貸業等を目的とする特例有限会社(平成18年4月30日以前は有限会社法に規定する有限会社)である。
(ロ) N社は、平成18年、平成19年及び平成20年(以下、これらを併せて「本件各年」という。)において、その発行済株式の総数(平成18年4月30日以前は出資金額)のすべてを請求人、請求人の実父であるP(以下「実父」という。)及び請求人の親族が有する、法人税法第2条第10号に規定する同族会社であり、その代表取締役には、実父が設立の日から就任している。
ロ 請求人とN社との間の賃貸借契約
(イ) 請求人の貸付地の相続等
 請求人は、平成13年12月○日、請求人の養父であるQ(以下「養父」という。)から、j市k町六丁目及び同七丁目所在の別表2の順号1から3までの各土地(以下、これらの各土地を、順次、「本件六丁目甲土地」、「本件六丁目乙土地」、「本件七丁目土地」といい、これらを併せて「本件各土地」という。)を相続により取得し、併せて養父がN社との間で締結していた本件各土地に係る賃貸借契約における賃貸人たる地位を承継した(以下、請求人が承継した賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。
(ロ) 本件各土地の状況
A 本件六丁目甲土地及び本件六丁目乙土地
(A) N社は、平成14年7月に本件六丁目甲土地の全部及び本件六丁目乙土地の一部の合計約518.14平方メートルの土地の上にアスファルトを敷設し、別表3のとおり、これらの土地をR社に駐車場として転貸する旨の契約を締結し(以下「本件転貸借契約」という。)、賃料として、本件各年にそれぞれ3,780,000円を収受した。
 以下、N社が駐車場として使用、転貸している上記土地を「本件六丁目駐車場用地」という。
 本件六丁目駐車場用地は、その西側及び北側がそれぞれ中央線の設けられていない幅員約5メートルの市道に面している。
(B) N社は、本件六丁目乙土地の一部の土地(約963.05平方メートル)の上に建築した別表4の鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建の建物(以下「本件倉庫事務所」という。)を所有し、別表5の順号1のとおり、本件倉庫事務所を平成17年2月28日から平成18年2月27日までの間はS社に、別表5の順号2のとおり、平成19年2月22日以降はT社にそれぞれ賃貸し、賃料として、平成18年に1,802,500円を、平成19年に7,736,400円を、平成20年に9,072,000円をそれぞれ収受した。
 以下、N社が本件倉庫事務所の敷地として使用し、本件倉庫事務所と併せて賃貸の用に供している上記土地を「本件六丁目建物敷地」という。
 本件六丁目建物敷地は、その北側が中央線の設けられていない幅員約5メートルの市道に面している。
B 本件七丁目土地
 N社は、養父と共同で、本件七丁目土地の上に建築した別表6の鉄筋コンクリート造陸屋根3階建の区分所有建物(以下「Uビル」という。)のうち、別表6の順号1の専有部分の建物(以下「N社専有部分」という。)を所有し、別表7の順号1から7までのとおり、N社専有部分を賃貸し、賃料として、平成18年及び平成19年にそれぞれ9,512,400円を、平成20年に9,338,400円を収受した。
 本件七丁目土地は、その南側が、幅員約4メートルの歩道が設けられた幅員約30メートルの片側3車線の大型市道(V線)に面している。
(ハ) 請求人がN社から収受した賃料の額
 請求人は、本件賃貸借契約に基づき、本件各年において、N社から、本件各土地の賃料として、平成18年及び平成19年はそれぞれ7,440,000円、平成20年は4,800,000円を収受した(以下、本件賃貸借契約に係る本件各年の賃料の額を「本件賃料額」という。)。
 なお、本件賃貸借契約は口頭により締結されており、養父及び請求人はN社との間で本件賃貸借契約に係る賃貸借契約書を作成しておらず、請求人及びN社において、本件各土地の賃料の内訳を記載した帳簿書類は作成されていない。
ハ 請求人の確定申告
 請求人は、本件各年分において、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている個人(以下「青色申告者」という。)であり、本件各年分の不動産所得の金額の計算上、本件各土地の賃貸に係る収入金額として、平成18年分及び平成19年分は本件賃料額7,440,000円を、平成20年分は本件賃料額4,800,000円をそれぞれ総収入金額に算入し、本件各年分の所得税の確定申告書をそれぞれ法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ニ 本件各更正処分等
 原処分庁は、N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとして、所得税法第157条第1項の規定を適用して、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を行った。

(5) 争点

  1. 争点1 原処分庁が所得税法第36条第1項ではなく、同法第157条第1項を適用して本件各更正処分を行ったことは違法か否か。
  2. 争点2 N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められるか否か。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点1(原処分庁が所得税法第36条第1項ではなく、同法第157条第1項を適用して本件各更正処分を行ったことは違法か否か。)

請求人 原処分庁
 所得税法第157条第1項は、同族会社を用いた租税回避行為を否認するための規定であり、税務署長が適正取引を想定し、これに引き直して課税することを目的とするものであって、税額確定の例外規定である。
 それゆえ、所得税法第36条第1項と同法第157条第1項の両方の適用が考えられるときには、原則規定である同法第36条第1項が同法第157条第1項に優先して適用されるべきであり、請求人は「収入がないところに課税はしない」という所得税の大原則を定めた同法第36条第1項に基づいて課税を受ける権利を有する。
 したがって、原処分庁が所得税法第36条第1項ではなく、同法第157条第1項を適用して本件各更正処分を行ったことは違法である。
 所得税法第157条第1項は、同族会社の行為又は計算が、通常の経済人の行為として不合理又は不自然であり、それを容認した場合には、当該同族会社の株主等である居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときには、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直して、本来納付すべき税額を算定し、所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めているものであり、同法第36条第1項と別に規定されていること、また、同法第157条第1項は法律又は契約上収入すべき権利若しくは事実又は担税力の基礎となるべき資産の増加の事実を課税要件とするものではないことからすれば、同法第36条第1項が適用できる場合であっても、同法第157条第1項の課税要件を満たす限り、税務署長はこれを適用して所得税の更正又は決定を行うことができるものと解すべきである。
 そうすると、原処分庁が所得税法第36条第1項ではなく、同法第157条第1項を適用して本件各更正処分を行ったことは違法となるものではない。

(2) 争点2(N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められるか否か。)

原処分庁 請求人
 N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には、以下の理由により、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められる。  N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認しても、以下の理由により、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になるとは認められない。
イ 同族会社の行為又は計算を容認した場合に、所得税法第157条第1項に規定する「居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」に該当するか否かは、当該行為又は計算に基づいて算定された所得税額と、通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された所得税額とのかい離の程度によって判断すべきであり、本件においては、本件各土地につき請求人がN社から収受すべき適正な賃料の額(以下「適正賃料額」という。)と本件賃料額とを比較検討する方法により判断するのが合理的である。
 そして、土地の賃貸借契約においては、立地条件、用途、規模などが類似する土地であれば、特段の事情がない限り賃料の額は同程度となるのが通例であるから、本件においては、同族会社に貸し付けられた土地と立地条件、用途、規模などが類似する土地(以下「比準貸付地」という。)を賃貸する賃貸人が収受した年額賃料の1平方メートル当たりの金額の平均値(以下「比準貸付地平均賃料」という。)を用いて、本件各土地の適正賃料額を算定することが合理的であると認められる。
イ 同族会社の行為又は計算を容認した場合に、所得税法第157条第1項に規定する「居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」に該当するか否かは、当該行為又は計算が、通常の経済人として経済的合理性を欠いていると認められるか否かによって決められるのが相当である。
 そして、N社が請求人との間で合意した本件賃料額が通常の経済人として経済的合理性を欠いていると認められるか否かに関しては、比準貸付地平均賃料を用いて算定した本件各土地の適正賃料額と本件賃料額とを比較検討する方法によって判断すること自体を不合理とはいわない。
ロ 原処分庁が、比準貸付地として、本件六丁目甲土地については別表8−1の基準に該当する土地を、本件六丁目乙土地については別表8−2の基準に該当する土地を、本件七丁目土地については別表8−3の基準(以下、別表8−1から別表8−3までの各基準を「原処分庁主張基準」という。)に該当する土地を、それぞれ別表9−1から別表9−3までのとおり抽出し、その比準貸付地平均賃料にそれぞれ本件各土地の面積(ただし、本件七丁目土地上に存する区分所有建物には請求人の専有部分が存することから、床面積であん分した割合により算定したN社に対する賃貸面積221.35平方メートル)を乗じて、別表10のとおり、本件各土地の適正賃料額を算定したところ、本件各土地の適正賃料額と本件賃料額との間には著しいかい離が認められた。
 なお、比準貸付地平均賃料を用いて適正賃料額を算定するに当たっては、比準貸付地の抽出方法が合理的であれば、請求人の本件各土地と各比準貸付地の間に通常存在する程度の個別的な諸条件の差異は平均化され得るものであるから、納税者の個別具体的な事情のいかんは比準貸付地平均賃料を用いた適正賃料額の算定を全く不合理とする程度に顕著なものでない限り、しんしゃくすることを要しないと解されるところ、請求人には、比準貸付地平均賃料を用いた算定を全く不合理とする程度に顕著な個別具体的な事情があるとは認められない。
ハ 本件各土地の適正賃料額と本件賃料額との差額を、本件各年分の確定申告における不動産所得の総収入金額に加算して、請求人が本来納付すべき所得税額を算定したところ、別表11のとおりとなり、N社が、請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。
ロ しかしながら、比準貸付地平均賃料を用いて本件各土地の適正賃料額を算定するためには、本件各土地と真に同等の権利関係及び経済効果を有する比準貸付地を抽出することが必要であるところ、別表8−1から別表8−3までの原処分庁主張基準は、以下の(イ)から(ハ)までのとおり、本件各土地と真に同等の権利関係及び経済効果を有する比準貸付地を抽出するものとはなっていない。
(イ) 比準貸付地の場所、地積、地形、周囲の環境、利用目的、利用制限の有無、高度利用の可否、土地の需給バランスなどに加え、賃貸借契約の締結時期及び賃貸期間、比準貸付地の固定資産税評価額並びに比準貸付地上の建物の種類、設備、構造、用途及び老朽化の程度などは貸付地の賃料の額の多寡に影響を及ぼすが、原処分庁主張基準はこれらの点を考慮していない。
(ロ) 本件六丁目駐車場用地については、N社がアスファルトを敷設し、これを第三者に駐車場用地として一括賃貸するための敷地として利用し、その土地の使用収益の対価として請求人に賃料を支払っているものであり、その賃料の額は、第三者からN社が収受する賃料の額から、N社の費用及び利益を差し引いた額となるので、N社が自己使用する場合の賃料の額と比べて低廉となるにもかかわらず、別表8−1の原処分庁主張基準はこの点を考慮していない。
(ハ) 本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地については、N社が、請求人から賃借して、当該土地に建物を建築し、これを第三者に賃貸しているところ、比準貸付地上に建物が存する場合、当該建物の賃貸の有無、建物の構造及び用途並びに借地権(自然発生借地権を含む。)の有無は比準貸付地の賃料の額の多寡に影響を及ぼすにもかかわらず、別表8−2及び別表8−3の原処分庁主張基準はこの点を考慮していない。
ハ 原処分庁主張基準が、本件各土地と真に類似する比準貸付地を抽出するものとなっていないことは、以下のように不合理な結果が生じていることからも明らかである。
(イ) N社が、原処分庁が適正だと主張する本件六丁目駐車場用地の比準貸付地平均賃料7,182円で請求人から賃借した場合、当該金額はN社がアスファルトを敷設して同族会社等の関係のない第三者に賃貸して収受する本件六丁目駐車場用地の1平方メートル当たりの賃料の額7,295円とほぼ同額であるから、N社に正当な利益が得られない結果となる。
(ロ) 本件六丁目駐車場用地は角地であり、角地でない本件六丁目建物敷地と比べて優れた立地条件を備えているにもかかわらず、別表9−1及び別表9−2によれば、本件六丁目駐車場用地の比準貸付地平均賃料が本件六丁目建物敷地の比準貸付地平均賃料を下回る結果となっている。
(ハ) 別表9−1の本件六丁目駐車場用地の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間には、最大1.86倍ものかい離があり、また、別表9−3の本件七丁目土地の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間には、最大2.32倍ものかい離がある。
(ニ) 本件六丁目建物敷地と本件七丁目土地は立地条件が全く異なるにもかかわらず、同一と推測される事業者(別表9−2の「比準貸付地」欄記載のA2、B2及びC2と、別表9−3の「比準貸付地」欄記載のC3、E3及びF3)がそれぞれ比準貸付地として抽出されているが、本件六丁目建物敷地は、前面道路幅員約4.7メートルの市道にのみ面した第二種住居地域に所在する土地であるばかりか、周辺はスクールゾーンであるのに対し、本件七丁目土地は、幹線道路である幅員約30メートルの大型市道(V線)に面した角地で近隣商業地域に所在しており、条件だけをみても到底類似しているとはいえない。
ニ また、以下のように、原処分庁が抽出した比準貸付地の賃料の額の中には、その1平方メートル当たりの賃料の額が本件各土地の1平方メートル当たりの賃料の額とほとんどかい離しないものや、本件各土地の1平方メートル当たりの賃料の額の方が上回るものも存在するのであるから、「本件各土地の適正賃料額と本件賃料額との間には著しいかい離がある」とする原処分庁の主張は失当であり、N社は、請求人との間で同族会社の関係に基づき、請求人の所得税の負担を不当に減少させるような賃料の額とする合意をしたものと認められるべきではない。
(イ) 平成18年分及び平成19年分における請求人の本件賃料額の1平方メートル当たりの賃料の額は4,383円であり、原処分庁が税務上適正な金額と認識した別表9−1の比準貸付地B1の1平方メートル当たりの賃料の額5,090円と、ほとんどかい離がない。
(ロ) 平成18年及び平成19年において本件七丁目土地について請求人がN社から収受した賃料の額は、月額170,000円であり、その1平方メートル当たりの年額賃料は9,216円となるところ、当該金額は、別表9−3の本件七丁目土地の比準貸付地8物件のうちC3、E3、F3及びH3の4物件の1平方メートル当たりの賃料の額を上回る。
ホ さらに、原処分庁は、別表9−1及び別表9−2の比準貸付地平均賃料に、本件六丁目甲土地及び本件六丁目乙土地の不動産登記簿上の地積(500平方メートル及び976.39平方メートル)をそれぞれ乗じて、当該各土地の適正賃料額とする価額を算定しているが、N社が駐車場として使用、転貸しているのは本件六丁目駐車場用地(約518.14平方メートル)であり、本件倉庫事務所の敷地として賃借しているのは本件六丁目建物敷地(約963.05平方メートル)であるから、当該各土地の面積を乗じるべきであって、原処分庁の適正賃料額の算定過程には重大な誤りがある。
ヘ 以上のとおり、原処分庁が算定した本件各土地の適正賃料額は、「通常あるべき行為又は計算に引き直して算定した」といえるものではないから、当該金額と本件賃料額を比較して、かい離の程度を検討すること自体が全く無意味であり、当該検討の結果をもって「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかを判断することはできない。
 むしろ、本件賃料額は、地価の下落、固定資産税の減額及びN社の経営安定などを考慮して、N社と請求人との間で合意したものであるから、通常の経済人の行為として合理的、自然なものである。
ト したがって、本件賃料額を容認した場合に請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となるとする原処分庁の認定及び主張には重大な誤りがあり、当該誤りは本件各更正処分の無効原因とさえいえる。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1(原処分庁が所得税法第36条第1項ではなく、同法第157条第1項を適用して本件各更正処分を行ったことは違法か否か。)

イ 法令解釈及び判断
 所得税法第157条第1項は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、その株主ないし社員又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすく、そのような行為又は計算を放置した場合には、租税の公平な負担を害することになるから、そのような行為又は計算を正常な行為又は計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものであり、収入金額又は総収入金額に関する通則的な規定である同法第36条第1項とは別に、特別規定を設けた所得税法の構造からすれば、仮に、第三者から同族会社への支払が実質的には株主等に帰属する所得であるとして同項によって総所得金額を増額することができる場合であっても、その立証の困難性から、同法第157条第1項の要件を満たす限り、税務署長は、同項を適用して所得税の更正又は決定を行うことができるというべきであり、同項の要件を充足する場合にまで、同法第36条第1項の適用を優先させ、同法第157条第1項の適用が否定されると解することは相当ではない。
 したがって、原処分庁が、所得税法第36条第1項ではなく、同法第157条第1項を適用して本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を行ったとしても、直ちに本件各更正処分及び本件各賦課決定処分が違法となることはないというべきである。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のとおり、所得税法第157条第1項は同族会社を用いた租税回避行為を否認するための規定であり、所得税法の規定の例外規定であるから、所得税法第157条第1項と同法第36条第1項の両方の適用が考えられるときは、原則的規定である同法第36条第1項が同法第157条第1項に優先して適用されるべきであり、請求人は同法第36条第1項の規定に基づいて課税を受ける権利を有する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、収入金額又は総収入金額に関する通則的な規定である所得税法第36条第1項とは別に、特別規定を設けた所得税法の構造からすれば、同法第157条第1項所定の要件を満たす限り、同法第157条第1項を適用できるものと解するのが相当である。
 なお、所得税法第157条第1項の適用範囲が同法第36条第1項の適用範囲より限定されているとしても、それは、同法第157条第1項と同法第36条第1項の課税要件の違い、特に同法第157条第1項には同法第36条第1項にはない「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」との要件が存することに起因するのであって、上記イのとおり、同法第157条第1項の要件を充足した場合にまで同項に優先して同法第36条第1項が適用されることは相当ではなく、納税者が同項の規定に基づいて課税を受ける権利を有することを意味するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められるか否か。)

イ 法令解釈
 所得税法第157条第1項は、上記(1)のイのとおり、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、その株主ないし社員又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすく、そのような行為又は計算を放置した場合には、租税の公平な負担を害することになるから、そのような行為又は計算を正常な行為又は計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものであることに照らせば、同項の「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、当該行為又は計算が経済的合理性を欠くか否かにより判断すべきであり、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」とは、経済的合理性を欠いた行為又は計算の結果として所得税の負担が減少することをいうものと解すべきである。
 土地の賃貸借契約に関していえば、立地条件、用途、規模などの貸付地の状況が類似する土地(比準貸付地)であれば、特別の事情がない限り、賃料の額は同程度となるといえるから、同族会社とその株主等との間で貸し付けられた土地と立地条件、用途、規模などが類似する比準貸付地を抽出し、その比準貸付地平均賃料を用いて算定した適正賃料額と実際に株主等が同族会社から収受した賃料の額とを比較して、同族会社がその株主等と合意した賃料の額が経済的合理性を欠くか否かを判断することも許されるというべきである。
 この場合、比準貸付地が合理的に抽出されている限り、比準貸付地の間で通常存在する程度の個別具体的な事情は平均化により捨象されるから、比準貸付地平均賃料を用いて適正賃料額を算定する際に比準貸付地の個別具体的な事情は考慮する必要はないと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件賃貸借契約における賃貸面積
 上記1の(4)のロの(ロ)のAのとおり、N社が駐車場として使用、転貸している土地は、本件六丁目駐車場用地であり、その面積は約518.14平方メートルであること、また、N社が本件倉庫事務所の敷地として賃借しているのは、本件六丁目建物敷地であり、その面積は約963.05平方メートルであることが認められるところ、同族会社であるN社がその賃借地を請求人と合意した用途以外の用途に供することは通常考えられないことからすれば、本件賃貸借契約において、請求人は、N社に、駐車場として使用させるために本件六丁目駐車場用地(約518.14平方メートル)を賃貸し、また、本件倉庫事務所の敷地として本件六丁目建物敷地(約963.05平方メートル)を賃貸したと認められる。
 また、本件七丁目土地は、上記1の(4)のロの(ロ)のBのとおり、N社がUビルを区分所有することからすれば、請求人は、N社に、Uビルの敷地として使用させるために本件七丁目土地を賃貸したものと認められる。
(ロ) N社の本件六丁目駐車場用地に係る業務等
A 本件転貸借契約に係る契約書には、N社が本件六丁目駐車場用地に駐車場設備を設置して、R社に賃貸する旨定められている。
 しかしながら、本件転貸借契約に係る契約書には、それ以外に駐車場の見回り、違法駐車車両の撤去、駐車場の清掃など、N社がR社のために駐車場の管理業務をすることは定められていない。
 また、当審判所の調査によれば、本件六丁目駐車場用地にはN社の役員又は従業員が上記管理業務を行うために常駐できるような施設は存在しない。
B 本件転貸借契約に係る契約書には、賃料の支払方法につき、R社がN社の指定する金融機関の口座に振り込む旨定められていることから、N社が本件六丁目駐車場用地の賃料の集金を行っていたと認めることはできない。
C 本件転貸借契約の賃貸期間は、別表3の「賃貸期間」欄のとおり、平成14年9月1日から平成29年8月31日までの15年間であり、本件各年において、N社は本件六丁目駐車場用地の転借人の募集をする必要はない。
D N社の平成17年8月1日から平成18年7月31日まで、平成18年8月1日から平成19年7月31日まで、平成19年8月1日から平成20年7月31日まで、平成20年8月1日から平成21年7月31日までの各事業年度の損益計算書及び総勘定元帳には、不動産の管理業務を行っていれば、通常、発生する保守費、清掃費などの費用が計上されておらず、不動産管理会社に対する管理委託料も計上されていない。
E 以上からすれば、N社は、本件各年において、本件転貸借契約において、本件六丁目駐車場用地に関し、対価の支払を要するような管理業務を行っていなかったものと認めるのが相当である。
 なお、N社の平成19年8月1日から平成20年7月31日までの事業年度の減価償却資産の計算書によれば、平成14年7月、本件六丁目駐車場用地のアスファルトの敷設に要した費用は1,704,150円であり、その1平方メートル当たりの金額は3,288円(1,704,150円を518.14平方メートルで除して、小数点以下の端数を切り捨てた後のもの)、当該金額を本件転貸借契約の賃貸期間15年で除した金額は219円(小数点以下の端数を切り捨てた後のもの)となる。
(ハ) 原処分庁が適正賃料額とする金額の算定
 当審判所の調査によれば、原処分庁は、M税務署管内で平成18年から平成20年まで継続して不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者でその途中で貸付地の用途に大きく変化がないと判断した者に対して行った貸付地の所在、賃借人との関係、賃貸面積、賃貸料、貸付地の用途等の照会に対する回答から、本件六丁目甲土地については別表8−1、本件六丁目乙土地については別表8−2、本件七丁目土地については別表8−3の各抽出基準を用いて、別表9−1から別表9−3までの「比準貸付地」欄記載の土地をそれぞれの比準貸付地として抽出し、本件六丁目甲土地については、別表9−1の比準貸付地平均賃料に本件六丁目甲土地の不動産登記簿上の地積500平方メートルを、本件六丁目乙土地については、別表9−2の比準貸付地平均賃料に本件六丁目乙土地の不動産登記簿上の地積976.39平方メートルを、本件七丁目土地については、別表9−3の比準貸付地平均賃料にN社の賃借面積221.35平方メートル(請求人とN社の各専有部分の床面積であん分した割合により算定した面積)をそれぞれ乗じて、別表10のまる4欄のとおり、本件各土地の適正賃料額を算定したことが認められる。
(ニ) 原処分庁が抽出した比準貸付地の状況
 当審判所の調査によれば、別表9−1から別表9−3までの「比準貸付地」欄記載の土地に関し、次の事実が認められる。
A 別表9−1の「比準貸付地」欄記載のF1の賃貸面積は251.00平方メートルであり、上記1の(4)のロの(ロ)のAの本件六丁目駐車場用地の賃貸面積約518.14平方メートルの2分の1を下回っていた。
B 別表9−1の「比準貸付地」欄記載のA1及びB1の上記(ハ)の回答に記載された各賃貸面積は、各貸付地の不動産登記簿上の地積よりも著しく少ない面積であったが、当審判所の調査の結果、貸付地とされた土地のうち、当該回答の賃貸面積に相当する土地を賃貸していたことが認められる。
C 別表9−1の「比準貸付地」欄記載のG1の上記(ハ)の回答に記載された賃貸面積は297平方メートルとされているが、不動産登記簿上の地積は548.00平方メートルであり、一筆の土地の一部を賃貸したものと考えられるが、賃貸面積等を確認できる証拠書類等は存在しない。
D 別表9−1の「比準貸付地」欄記載のH1は、事業用建物に供する目的の借地権が設定された土地で、その賃貸面積は契約上615.85平方メートルである。
 そして、その賃借人は、本件各年において、鉄骨造2階建の建物を上記土地上に所有するとともに、同土地の一部にアスファルトを敷設して駐車場を設けていた。
E 別表9−2の「比準貸付地」欄記載のA2及び別表9−3の「比準貸付地」欄記載のC3については、土地が賃貸の目的物となっておらず、同土地上の建物が賃貸の目的物になっていた。
F 別表9−2の「比準貸付地」欄記載のB2及び別表9−3の「比準貸付地」欄記載のE3には、平成18年中に建物が建築され、当該貸付地に係る賃料の額が同年中に増額された。
G 別表9−3の「比準貸付地」欄記載のA3及びB3は、契約上、それらが一体の賃貸面積1,052.07平方メートルの建物敷地として貸し付けられており、かつ、土地又は賃貸人ごとに区分して契約されていない。
H 別表9−3の「比準貸付地」欄記載のH3の上記(ハ)の回答に記載された賃貸面積は188平方メートルとされているが、不動産登記簿上の地積は255.50平方メートルであり、二筆の土地の一部を賃貸したものと考えられるが、賃貸面積等を確認できる証拠書類等は存在しない。
I その他、別表9−1から別表9−3までに記載された各比準貸付地について、別表8−1から別表8−3までの各抽出基準とかい離するものは認められない。
ハ 判断
(イ) 本件賃貸借契約における適正賃料額
A 適正賃料額の算定方法
 上記ロの(イ)のとおり、請求人は、N社に、本件六丁目駐車場用地を駐車場用地として、本件六丁目建物敷地を本件倉庫事務所の敷地として、本件七丁目土地をUビルの敷地としてそれぞれ賃貸したものと認められるところ、上記イのとおり、土地の賃料の額は、一般的に、その立地条件、用途、規模などの貸付地の状況によって異なると考えられるから、本件各土地を、その用途によって本件六丁目駐車場用地、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地に区分し、その立地条件、規模などそれぞれの土地に類似する比準貸付地を抽出する基準を設け、これに該当する比準貸付地の各比準貸付地平均賃料に本件六丁目駐車場用地、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地の各賃貸面積を乗じた額を合計して本件各年分の適正賃料額を算定するのが相当である。
B 比準貸付地の抽出基準
(A) 上記イのとおり、貸付地の立地条件、用途、規模などの状況が類似する土地であれば、通常、土地賃貸借契約に係る賃料の額は同程度となるといえるから、本件各土地の比準貸付地を抽出する際には、本件各土地と立地条件、用途、規模などの類似性を確保できるような基準を用いるべきである。
 これを本件六丁目駐車場用地、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地について検討すると、次のとおりである。
(B) 本件六丁目駐車場用地の比準貸付地
a まず、貸付地の用途によって賃料の額が異なるのが通常であるから、原処分庁が、別表8−1のニのとおり、本件六丁目駐車場用地と同様に、貸付地が駐車場として利用されていることを抽出基準としたことは合理的である。
b 一般的に、事業として不動産賃貸業を営む者とそうでない者とでは、土地の賃料は異なると考えられる。
 また、青色申告者は法律上、帳簿書類の備付け、記録及び保存が義務付けられており、これにより資料の正確性が相当程度確保することができる。
 したがって、原処分庁が、別表8−1のイのとおり、貸付地の賃貸人が不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者であることを抽出基準としたことは合理的である。
 ところで、賃貸人がM税務署管内の者であることは、土地の賃料の額を決定する要素ではないが、原処分庁が比準貸付地の賃料の額をその申告書等から確認するために設けた基準として不合理ではない。
 また、原処分庁は、上記各基準のほか、上記ロの(ハ)のとおり、不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者にその貸付地の所在、賃借人との関係、貸付面積、賃貸料、貸付地の用途等の照会を行うに当たり、平成18年から平成20年まで継続して不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者で、その途中で貸付地の用途に大きな変化がないと判断した者を選別していたことが認められるが、本件各土地の適正賃料額を算定するに当たり、臨時的、一時的な土地の賃貸を除外するため、本件各年分を通じて継続して不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者で、その途中で貸付地の用途に大きな変化がないと認められる者の貸付地を比準貸付地とすることも必ずしも不合理ではない。
c 貸付地が所在する地域によって周辺環境や土地の需給バランスが異なれば、賃料の額も異なると考えられるから、原処分庁が、別表8−1のロのとおり、貸付地がM税務署管内で、本件六丁目駐車場用地の近隣に所在すること、また、貸付先が賃貸人と同族関係にある法人である場合、その株主等の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいから、賃貸人と同族関係にない法人に貸し付けられていることを抽出基準としたことは合理的である。
d 貸付地の規模が著しく異なれば、規模の格差により賃料の額にも違いが生じると考えられるから、原処分庁が、別表8−1のハのとおり、貸付地の面積が本件六丁目駐車場用地の面積の0.5倍以上2倍以内であることを抽出基準としたことは合理的である。
e 貸付地に接する道路の状況によって土地の収益性に違いが生じ、賃料の額にも違いが生じ得るところ、本件六丁目駐車場用地は、上記1の(4)のロの(ロ)のAの(A)のとおり、その西側及び北側が幅員約5メートルの市道に面し、国道又は幹線道路には面していないことから、原処分庁が、別表8−1のホのとおり、本件六丁目駐車場用地と同様に、貸付地が国道又は片側2車線以上の道路に面していないことを抽出基準としたことは合理的である。
f 以上の原処分庁の抽出基準に加え、賃貸人が貸付地にアスファルトを敷設して賃貸している場合は、その賃料の額には土地の使用収益の対価だけではなく、アスファルトの敷設の対価も含まれるから、抽出基準の策定に当たっては、貸付地がアスファルトで敷設されないで賃借人に貸し付けられたことを抽出基準とすべきである。
g また、貸付地の固定資産税評価額に著しいかい離がある場合には、土地の立地条件に著しい差異がある可能性が高く、一般的に、固定資産税評価額は賃料に影響すると認められることから、抽出基準の策定に当たっては、貸付地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額が本件六丁目駐車場用地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額の0.5倍以上2倍以内であることも抽出基準とすべきである。
h さらに、貸付地がどのような都市計画区域にあるのかや法律上又は事実上の制限の有無などを抽出基準とすることも考慮に値するが、かかる抽出基準を加えれば比準貸付地と本件六丁目駐車場用地との類似性が高まる一方、十分な比準貸付地数を抽出することが困難となるから、立地条件、用途、規模などの基本的な基準で抽出することも許されるものというべきである。
 また、立地条件等の著しい差異は、上記gのように固定資産税評価額を抽出基準とすることによって取り除くことができるから、上記aからgまでの抽出基準によっても十分な類似性を確保することができると考えられる。
i 以上から、当審判所は、上記aからgまでの要素を考慮し、別表12−1のイからへまでの基準により本件六丁目駐車場用地の比準貸付地を抽出するのを相当と認める。
(C) 本件六丁目建物敷地の比準貸付地
a 本件六丁目建物敷地について、原処分庁が、別表8−2のニの貸付地の上に賃借人が所有する建物が建てられていること、別表8−2のイの貸付地の賃貸人がM税務署管内で、不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者であること、別表8−2のロの貸付地がM税務署管内で、本件六丁目建物敷地の近隣に所在し、賃貸人と同族関係にない法人に貸し付けられていること、別表8−2のハの貸付地の面積が本件六丁目建物敷地の面積の0.5倍以上2倍以内であること、及び本件六丁目建物敷地は、上記1の(4)のロの(ロ)のAの(B)のとおり、その北側が幅員約5メートルの市道に面し、国道又は幹線道路には面していないことから、別表8−2のホの貸付地が国道又は片側2車線以上の道路に面していないことを比準貸付地の抽出基準としたことは、上記(B)のaからeまでに述べたことと同様に、いずれも合理的である。
 また、平成18年から平成20年まで継続して不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者で、その途中で貸付地の用途に大きな変化がないと判断した者の上記ロの(ハ)の回答から比準貸付地を抽出することも不合理ではないと認めることは、上記(B)のbのとおりである。
b 以上の原処分庁の抽出基準に加え、賃借人が堅固な建物を建てる場合には、建物を所有する目的で長期間の賃貸借契約が締結されることが多く、これらの事情は賃料の額に影響を及ぼすものといえるから、貸付地上に存する建物の構造の類似性も考慮すべきである。
 本件では、本件六丁目建物敷地の上に、上記1の(4)のロの(ロ)のAの(B)のとおり、鉄骨造の建物が建っていることから、貸付地上にもこれに類似した構造の建物、すなわち鉄筋コンクリート造又は鉄骨造の建物が建っていることを抽出基準にすべきである。
c また、上記(B)のgと同様、貸付地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額が本件六丁目建物敷地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額の0.5倍以上2倍以内であることも抽出基準にすべきである。
d その他に、都市計画区域の種類、法律上又は事実上の制限の有無などを抽出基準としないこと、また、上記aからcまでの要素を考慮した抽出基準によっても十分な類似性を確保することができると考えられることは、上記(B)のhと同様である。
e 以上から、当審判所は、上記aからcまでの要素を考慮し、別表12−2のイからへまでの基準により本件六丁目建物敷地の比準貸付地を抽出するのを相当と認める。
(D) 本件七丁目土地の比準貸付地
a 本件七丁目土地について、原処分庁が、別表8−3のニの貸付地の上に賃借人が所有する建物が建てられていること、別表8−3のイの貸付地の賃貸人がM税務署管内で、不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者であること、別表8−3のロの貸付地がM税務署管内で、本件七丁目土地の近隣に所在し、賃貸人と同族関係にない法人に貸し付けられていること及び別表8−3のハの貸付地の面積が本件七丁目土地の面積の0.5倍以上2倍以内であることを抽出基準としたことは、上記(B)のaからdまでに述べたことと同様に、いずれも合理的である。
 また、平成18年から平成20年まで継続して不動産賃貸業を営み、かつ、青色申告者で、その途中で貸付地の用途に大きな変化がないと判断した者の上記ロの(ハ)の回答から比準貸付地を抽出することも不合理ではないと認めることは、上記(B)のbのとおりである。
b 以上の原処分庁の抽出基準に加え、本件七丁目土地の上には、上記1の(4)のロの(ロ)のBのとおり、鉄筋コンクリート造の建物が建っていることから、貸付地上にもこれに類似した構造、すなわち鉄筋コンクリート造又は鉄骨造の建物が建っていることを抽出基準にすべきである。
c また、上記(B)のgと同様、貸付地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額が本件七丁目土地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額の0.5倍以上2倍以内であることも抽出基準にすべきである。
d その他に、都市計画区域の種類、法律上又は事実上の制限の有無などを抽出基準としないこと、また、上記aからcまでの要素を考慮した抽出基準によっても十分な類似性を確保することができると考えられることは、上記(B)のhと同様である。
e 以上から、当審判所は、上記aからcまでの要素を考慮し、別表12−3のイからホまでの基準により本件七丁目土地の比準貸付地を抽出するのを相当と認める。
C 比準貸付地の抽出
 当審判所は、上記ロの(ハ)の原処分庁が行った照会に対する青色申告者からの回答に基づき、本件六丁目駐車場用地、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地について、それぞれ別表12−1から別表12−3までの基準(以下「審判所抽出基準」という。)を満たす貸付地を抽出し、それらの土地について固定資産税評価額を調査し、更に、抽出された各貸付地に臨場して貸付地の利用状況や各貸付地の不動産登記簿からその地積を調査し、利用状況や不動産登記簿上の地積が当該回答と著しく異なるものについては、その賃貸人又は賃借人に賃貸借契約を確認するなどして、上記Bの基準を満たすものを比準貸付地として抽出した。
 このようにして抽出された比準貸付地は、原処分庁の抽出した比準貸付地とほぼ重なったが、以下のとおり、原処分庁が比準貸付地として抽出した土地の一部について審判所抽出基準を満たさないため比準貸付地とならないもの、また、審判所抽出基準に適合する比準貸付地として追加するものが認められた。
(A) 原処分庁が本件六丁目甲土地の比準貸付地として抽出した別表9−1の「比準貸付地」欄記載のF1は、上記ロの(ニ)のAのとおり、その面積が251.00平方メートルであり、本件六丁目駐車場用地の面積約518.14平方メートルの2分の1を下回り、別表12−1のハを満たさないから、当審判所は、本件六丁目駐車場用地の比準貸付地とならないものと判断した。
(B) 原処分庁が本件六丁目甲土地の比準貸付地として抽出した別表9−1の「比準貸付地」欄記載のG1は、上記ロの(ニ)のCのとおり、上記ロの(ハ)の回答に係る賃貸面積が不動産登記簿上の地積と著しく異なるところ、当該回答に係る貸付地の面積を確認できる証拠書類が存在せず、別表9−1の「比準貸付地」欄記載のG1が別表12−1のハを満たすことを確認できなかったため、当審判所は、本件六丁目駐車場用地の比準貸付地とならないものと判断した。
(C) 原処分庁が本件六丁目甲土地の比準貸付地として抽出した別表9−1の「比準貸付地」欄記載のH1は、上記ロの(ニ)のDのとおり、事業用建物に供する目的の借地権が設定された土地であり、別表12−1のホを満たさないから、当審判所は、本件六丁目駐車場用地の比準貸付地とならないものと判断した。
 ただし、別表9−1の「比準貸付地」欄記載のH1は、別表12−2及び別表12−3の抽出基準をいずれも満たすので、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地の比準貸付地として追加することとした(別表13−2の「比準貸付地」欄記載のH1及び別表13−3の「比準貸付地」欄記載のH1)。
(D) 原処分庁が本件六丁目乙土地及び本件七丁目土地の比準貸付地として抽出した別表9−2の「比準貸付地」欄記載のA2及び別表9−3の「比準貸付地」欄記載のC3は、上記ロの(ニ)のEのとおり、いずれも土地が賃貸の目的物ではなく、同土地上の建物が賃貸の目的物になっていた。
 したがって、別表9−2の「比準貸付地」欄記載のA2は、別表12−2のロ及びホを満たさず、別表9−3の「比準貸付地」欄記載のC3は、別表12−3のロ及びホを満たさないから、当審判所は、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地の比準貸付地とならないものと判断した。
(E) 原処分庁が本件六丁目乙土地及び本件七丁目土地の比準貸付地として抽出した別表9−2の「比準貸付地」欄記載のB2及び別表9−3の「比準貸付地」欄記載のE3は、上記ロの(ニ)のFのとおり、その貸付地上に建物が建てられたのは本件各年の途中であり、かつ、建物が建設された年に賃料の額も増額されている。
 したがって、別表9−2の「比準貸付地」欄記載のB2は、別表12−2のホを満たさず、別表9−3の「比準貸付地」欄記載のE3は、別表12−3のホを満たさないから、当審判所は、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地の比準貸付地とならないものと判断した。
(F) 原処分庁が本件七丁目土地の比準貸付地として抽出した別表9−3の「比準貸付地」欄記載のA3及びB3は、上記ロの(ニ)のGのとおり、契約上、それらが一体の賃貸面積1,052.07平方メートルの建物敷地として貸し付けられており、かつ、土地又は賃貸人ごとに区分して契約されていない。
 別表12−3のハの基準は、著しい規模の格差が生じない程度の規模の類似性を求めるものであるから、複数の土地が一体として賃貸されている場合には、賃貸借契約の対象となっている土地すべての合計面積を用いて、別表12−3のハを満たすかを検討すべきである。
 そうすると、別表9−3の「比準貸付地」欄記載のA3及びB3の合計面積は、上記ロの(ニ)のGのとおり、1,052.07平方メートルであり、本件七丁目土地の賃貸面積363平方メートルの2倍を超えるから、別表12−3のハを満たさず、当審判所は、本件七丁目土地の比準貸付地とならないものと判断した。
(G) 原処分庁が本件七丁目土地の比準貸付地として抽出した別表9−3の「比準貸付地」欄記載のH3は、上記ロの(ニ)のHのとおり、上記ロの(ハ)の回答に係る賃貸面積が不動産登記簿上の地積と異なるところ、当該回答に係る貸付地の面積を確認できる証拠書類がなく、別表9−3の「比準貸付地」欄記載のH3が別表12−3のハを満たすことを確認できなかったため、当審判所は、本件七丁目土地の比準貸付地とならないものと判断した。
(H) その他、原処分庁が本件六丁目駐車場用地の比準貸付地として抽出した別表9−1の「比準貸付地」欄記載のA1及びB1は、上記ロの(ニ)のBのとおり、上記ロの(ハ)の回答の賃貸面積と不動産登記簿上の地積とのかい離が認められたが、当審判所の調査の結果、当該回答のとおりの賃貸面積であることが確認された。
 そして、別表13−1から別表13−3までの「比準貸付地」欄記載の土地については、いずれも審判所抽出基準を満たすことが確認された。
D 本件各土地の適正賃料額
 上記Cのとおり抽出した別表13−1から別表13−3までの「比準貸付地」欄記載の土地について、本件各年分の1平方メートル当たりの賃料の額を算定し、比準貸付地平均賃料をそれぞれ算定すると、別表13−1から別表13−3までの本件各年分の「比準貸付地平均賃料」欄記載の金額となる。
 そして、別表13−1の本件六丁目駐車場用地に係る本件各年分の比準貸付地平均賃料に本件六丁目駐車場用地の面積約518.14平方メートルを、別表13−2の本件六丁目建物敷地に係る本件各年分の比準貸付地平均賃料に本件六丁目建物敷地の面積約963.05平方メートルを、別表13−3の本件七丁目土地に係る本件各年分の比準貸付地平均賃料にUビルの建物の敷地として利用されている面積363平方メートル及び請求人のUビルの敷地利用権の持分割合0.6098(Uビルのうち、N社専有部分の床面積358.63平方メートルを、Uビルの専有部分に係る床面積の合計588.11平方メートルで除した数値の小数点第5位以下の端数を切り捨てた後の数値)をそれぞれ乗じて、本件各年分の本件各土地の適正賃料額(以下「本件適正賃料額」という。)を算定すると、別表14のまる4欄のとおり、いずれも14,277,752円となる。
(ロ) 所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるかどうか
 本件各年分における本件賃料額と本件適正賃料額との差額を算定すると、別表15のまる3欄のとおりとなり、本件賃料額は、本件各年分においていずれも本件適正賃料額を大きく下回り、これにより減少する本件各年分の所得税の額は別表16のまる3欄のとおり、平成18年分が2,530,100円、平成19年分が2,735,200円、平成20年分が3,502,000円となる。
 したがって、N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められる。
(ハ) 原処分庁の主張
 原処分庁は、上記2の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件六丁目甲土地の比準貸付地平均賃料に本件六丁目甲土地の不動産登記簿上の地積500平方メートルを、本件六丁目乙土地の比準貸付地平均賃料に本件六丁目乙土地の不動産登記簿上の地積976.39平方メートルをそれぞれ乗じて適正賃料額を算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、本件賃貸借契約において、N社が、駐車場として使用、転貸するために本件六丁目駐車場用地(約518.14平方メートル)を賃貸するとともに、本件倉庫事務所の敷地として本件六丁目建物敷地(約963.05平方メートル)を賃貸しているのであるから、当該各貸付地の適正賃料額を算定するに当たって、実際に駐車場又は本件倉庫事務所の敷地として貸し付けられた土地の面積を用いるべきことは当然である。
 したがって、この点についての原処分庁の主張には理由がない。
(ニ) 請求人の主張
A 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、賃料の額は、物件の場所、地積、地形、周囲の環境、利用目的、利用制限の有無、高度利用の可否、土地の需給バランスなどに加え、賃貸借契約の締結時期及び賃貸期間、貸付地の固定資産税評価額並びに貸付地上の建物の種類、設備、構造、用途及び老朽化の程度などの要因によって異なるから、比準貸付地の抽出基準において、これらの要因を考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、比準貸付地の抽出に当たっては、立地条件、用途、規模などの要素を考慮すべきところ、上記(イ)のBのとおり、審判所抽出基準において、立地条件については、物件の場所(別表12−1から別表12−3までのロ)及び固定資産税評価額(別表12−1から別表12−3までのニ)、用途については、利用目的(別表12−1から別表12−3までのホ)及び貸付地上建物の種類(別表12−2及び別表12−3のホ)、規模については、面積(別表12−2から別表12−3までのハ)の各条件を付して、比準貸付地を抽出しており、これによって本件適正賃料額を算定する際に考慮すべき基本的な立地条件、用途、規模などの類似性は確保されている。
 また、請求人が主張するその他の要素も立地条件、用途、規模などの要素に含まれるか、あるいは、比準貸付地について共通に有する要素であり、比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額を平均化することにより捨象されるものである。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、本件六丁目駐車場用地については、N社がアスファルトを敷設し、これを第三者に駐車場用地として一括賃貸するための敷地として利用し、その土地の使用収益の対価として請求人に賃料を支払っているものであり、その賃料の額は、第三者からN社が収受する賃料の額から、N社の費用及び利益を差し引いた額となるので、N社が自己使用する場合の賃料の額と比べて低廉となるから、抽出基準においてこの点を考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、N社が請求人に支払う本件六丁目駐車場用地に係る賃料の額が、本件のようにN社がアスファルトを敷設してこれを第三者に転貸した場合に、N社がこれを自己使用する場合に比し低廉となるという点については、賃借人の土地の利用状況(転貸又は自己使用)によって賃料の額が影響を受けるものではないし、賃借人が賃借地上にアスファルトを敷設してこれを転貸した場合、賃借人はその敷設費用に相当する部分を転貸料に上乗せするのが一般的であるから、このような形で転貸したからといって、賃借人が賃借地を自己使用する場合に比して、賃料の額が低廉となるというわけではない。
 なお、土地の賃貸に際してアスファルトの敷設の有無を抽出基準として考慮すべきことは、上記(イ)のBの(B)のfのとおりであり、別表12−1のホのとおり、審判所抽出基準は、この点を考慮している。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のロの(ハ)のとおり、貸付地上に建物が存する場合、当該建物の賃貸の有無、建物の構造及び用途並びに借地権の有無は貸付地の賃料の額の多寡に影響を及ぼすにもかかわらず、これを考慮しないのは合理性を欠く旨主張する。
 しかしながら、審判所抽出基準は、別表12−2及び別表12−3のホのとおり、建物の構造を考慮して、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地の比準貸付地上に、鉄筋コンクリート造又は鉄骨造の建物が建っていることを要素としているし、また、鉄筋コンクリート造又は鉄骨造といった比較的長期間の存続が予定される堅固な建物の敷地とする場合には、建物を所有する目的で賃貸借契約が締結されることが通常であるといえるから、借地権の有無についても、実質的に考慮しているといえる。
 なお、建物の用途や賃貸借の有無は、上記Aのとおり、本件適正賃料額を算定する際に考慮すべき基本的な立地条件、用途、規模などの類似性は確保されているので、格別の考慮を要しないものと考えられる。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
D 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のハの(イ)のとおり、N社が、原処分庁が適正だと主張する本件六丁目駐車場用地の比準貸付地平均賃料7,182円で請求人から賃借した場合、N社は正当な利益が得られない旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、同族会社と株主等との間で合意をした賃料の額が経済的合理性を欠くか否かを判断する際、比準貸付地平均賃料を用いて適正賃料額を算定し、当該金額と実際に賃貸人が収受した賃料の額とを比較することも許されるのであって、これにより算定された適正賃料額が、同族会社が第三者から収受する転貸料を相当程度下回らなければ、当該適正賃料額や比準貸付地の抽出基準が不合理であるということになるものではない。
 また、本件においては、別表13−1のとおり、当審判所が認定する本件六丁目駐車場用地の比準貸付地平均賃料は7,116円であるところ、これに上記ロの(ロ)のEのアスファルトの敷設に要した費用の1平方メートル当たりの金額を賃貸期間で除した金額219円を加算すると7,335円となり、当該金額は、N社がR社に賃貸した本件六丁目駐車場用地の1平方メートル当たりの賃料の額7,295円を40円上回ることになるが、上記ロの(ロ)のとおり、N社が本件六丁目駐車場用地に関し対価の支払を要するような管理業務を行っているわけではないことも併せて考えれば、本件六丁目駐車場用地の比準貸付地平均賃料は、N社がR社に賃貸した本件六丁目駐車場用地の1平方メートル当たりの賃料の額と必ずしも均衡を失するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
E 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のハの(ロ)のとおり、本件六丁目駐車場用地は角地であり、角地でない本件六丁目建物敷地と比べて優れた立地条件を備えているにもかかわらず、本件六丁目駐車場用地の比準貸付地平均賃料が本件六丁目建物敷地の比準貸付地平均賃料を下回っていることからしても、本件六丁目駐車場用地及び本件六丁目建物敷地の比準貸付地の抽出基準が不合理であることが明らかである旨主張する。
 確かに、貸付地の用途(賃貸借の目的が、単に土地の貸付けであるのか、建物の所有を目的とする土地の賃貸借であるのか)が同じであれば、角地であることは、賃料の額に影響を及ぼすものといえるが、貸付地の用途が異なれば、角地の方の賃料の額が常に高くなるわけでもない。
 本件六丁目建物敷地は、上記1の(4)のロの(ロ)のAの(B)のとおり、建物の敷地となっているのに対し、本件六丁目駐車場用地はそうではないのであるから、本件六丁目駐車場用地の比準貸付地平均賃料が本件六丁目建物敷地の比準貸付地平均賃料を下回っていても、審判所抽出基準が不合理であるということはできない。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
F 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のハの(ハ)のとおり、本件六丁目駐車場用地の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間に最大1.86倍のかい離があること、本件七丁目土地の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間に最大2.32倍のかい離があることからしても、本件六丁目駐車場用地及び本件七丁目土地の比準貸付地の抽出基準が不合理であることが明らかである旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、比準貸付地平均賃料を用いた適正賃料額の算定は、比準貸付地に種々の個別具体的な事情が存することを前提としつつ、各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額を平均化することで、当該個別具体的な事情が捨象されるというものである。
 それゆえ、平均化を行う前の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額は比準貸付地に存する個別具体的な事情が捨象されていない価格であるから、当該各価格の間にある程度のかい離が生じることはむしろ自然である。
 もちろん、各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間に著しいかい離がある場合には、平均化によっても捨象されることができないような特殊事情が存するのではないかとの疑義が生じるが、審判所抽出基準により抽出された比準貸付地に関しては、別表13−1から別表13−3までのとおり、本件六丁目駐車場用地の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間に最大1.86倍、本件六丁目建物敷地の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間に最大1.02倍、本件七丁目土地の各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額の間に最大1.35倍のかい離が認められるものの、この程度のかい離では、比準貸付地において平均化によって捨象されないような特殊事情が存するのではないかとの疑義を生じさせるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
G 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のハの(ニ)のとおり、本件六丁目建物敷地と本件七丁目土地は立地条件が全く異なるにもかかわらず、同一と推測される事業者(別表9−2の「比準貸付地」欄記載のA2、B2及びC2と、別表9−3の「比準貸付地」欄記載のC3、E3及びF3)がそれぞれ比準貸付地として抽出されており、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地の比準貸付地の抽出基準が不合理である旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のBの(C)及び(D)のとおり、審判所抽出基準においては、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地について、それぞれの立地条件、用途、規模などの類似性を考慮して各比準貸付地を抽出しているのであるから、これに加えて都市計画区域の種類や近隣のスクールゾーンの有無を考慮しなければ、審判所抽出基準が合理性を欠くというものでもないし、その結果、当該各土地の比準貸付地として同一の土地が抽出されたとしても、このことをもって、審判所抽出基準の合理性が否定されるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
H 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のニの(イ)のとおり、平成18年分及び平成19年分における本件賃料額の1平方メートル当たりの賃料の額は4,383円であり、原処分庁が税務上適正な金額と認識した別表9−1の比準貸付地B1の1平方メートル当たりの賃料の額5,090円とほとんどかい離がないから、請求人の所得税の負担を不当に減少させるような賃料の額とする合意をしたものと認められるべきではない旨主張する。
 しかしながら、本件賃料額が経済的合理性を欠くか否かは、上記(イ)のAのとおり、本件賃料額と本件六丁目駐車場用地、本件六丁目建物敷地及び本件七丁目土地の各比準貸付地平均賃料から算定される適正賃料額とを比較して判断されるのであり、本件六丁目甲土地の比準貸付地の一部の比準貸付地の賃料の額と比較することは適切ではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
I 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のニの(ロ)のとおり、平成18年及び平成19年において請求人がN社から収受した本件七丁目土地の賃料の額は月額170,000円であり、その1平方メートル当たりの年額賃料は9,216円となるところ、当該金額は、別表9−3の本件七丁目土地の比準貸付地8物件のうちC3、E3、F3及びH3の1平方メートル当たりの賃料の額を上回るから、請求人の所得税の負担を不当に減少させるような賃料の額とする合意をしたものと認められるべきではない旨主張する。
 しかしながら、平成18年及び平成19年において請求人がN社から収受した本件七丁目土地の賃料の額が月額170,000円であったか否かについては、必ずしも証拠上明らかではないが、仮に、本件七丁目土地の賃料の額が月額170,000円であったとして、これに基づく1平方メートル当たりの年額賃料9,216円が、別表9−3の比準貸付地C3、E3、F3及びH3の1平方メートル当たりの各賃料の額を上回っていたとしても、比準貸付地を用いた適正賃料額の算定方法は、比準貸付地に個別具体的な事情が存することを前提としつつ、各比準貸付地の1平方メートル当たりの賃料の額を平均化することで、その個別具体的な事情が捨象されるというものであるから、上記の状況をもって、本件賃料額が経済的合理性を欠くか否かを判断するのは適切ではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
J 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のホのとおり、原処分庁は適正賃料額を算定する際、本件六丁目駐車場用地又は本件六丁目建物敷地の各比準貸付地平均賃料に、本件六丁目甲土地の不動産登記簿上の地積(500平方メートル)又は本件六丁目乙土地の不動産登記簿上の地積(976.39平方メートル)をそれぞれ乗じているのは、重大な誤りである旨主張する。
 確かに、請求人の主張するとおり、適正賃料額を算定する際、本件六丁目駐車場用地又は本件六丁目建物敷地の各比準貸付地平均賃料にそれぞれ乗ずるべきは、上記(イ)のDで述べたとおり、本件六丁目駐車場用地の面積(約518.14平方メートル)又は本件六丁目建物敷地の面積(約963.05平方メートル)であるから、原処分庁の適正賃料額の算定過程には誤りがあるといえるが、当審判所が、上記(イ)のDのとおり、本件六丁目駐車場用地の面積約518.14平方メートル及び本件六丁目建物敷地の面積約963.05平方メートルを基に算定した本件適正賃料額は、本件各年分についていずれも14,277,752円となり、上記(ロ)のとおり、本件各年分の本件賃料額は、いずれも本件適正賃料額を大きく下回り、その結果、N社が請求人との間で合意した本件賃料額を容認した場合には請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果になったことが認められる。
 したがって、原処分庁の適正賃料額の算定過程の誤りは、上記(ロ)の結論に影響を及ぼさない。
K 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のへのとおり、本件賃料額は、地価の下落、固定資産税の減額及びN社の経営安定などを考慮して、N社と請求人との間で合意したものであるから、通常の経済人の行為として合理的、自然なものである旨主張し、本件賃料額の決定の裏付け資料として、まる1請求人及び実父作成の平成23年3月24日付「『地代決定』に至るいきさつについて」と題する文書並びにまる2平成4年1月1日現在の「土地(補充)課税台帳」(本件各土地に係るもの)、まる3「平成19年度固定資産課税明細書」(本件七丁目土地に係るもの)、まる4「平成19年度固定資産税・都市計画税納税通知書」(本件六丁目甲土地及び本件六丁目乙土地に係るもの)及びまる5「平成3年分相続税財産評価基準路線価図」(本件各土地の所在地域に係るもの)の各写しを提出する。
 しかしながら、上記まる1の文書には、地代の決定について、近隣の同業者や不動産業者から得た賃料の額に関する情報、農協をはじめ金融機関からの情報及びアドバイス、固定資産税の額、相続税評価額などを参考にした旨記載されているものの、請求人は、当該記載内容や上記まる2からまる5までの書類を基に、養父又は請求人がN社との間でどのように本件賃料額を決定したのかを具体的に主張せず、これを裏付ける証拠資料もない。
 そして、上記(ロ)のとおり、本件賃料額が本件各年分においていずれも本件適正賃料額を大きく下回っていることからすれば、本件賃料額に係る合意は、経済的合理性を欠くものといえる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分について

イ 不動産所得の金額
(イ) 総収入金額
 請求人の本件各年分における本件各土地に係る収入金額は、上記(2)のハの(イ)のDで認定した本件適正賃料額のとおり、いずれも14,277,752円であり、それ以外の不動産所得に係る収入金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においても相当と認められるから、請求人の本件各年分の不動産所得に係る総収入金額は、別表17の「審判所認定額」欄のまる1欄のとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
(ロ) 必要経費及び青色申告特別控除の額
 請求人の本件各年分の不動産所得に係る必要経費及び青色申告特別控除の額は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においても相当と認められ、別表17の「審判所認定額」欄のまる2欄及びまる3欄のとおり、平成18年分がそれぞれ14,370,427円及び○○○○円、平成19年分がそれぞれ14,129,522円及び○○○○円、平成20年分がそれぞれ13,972,030円及び○○○○円となる。
(ハ) 不動産所得の金額
 上記(イ)及び(ロ)を前提として、請求人の本件各年分の不動産所得の金額を計算すると、別表17の「審判所認定額」欄のまる3欄のとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
ロ 総所得金額
 不動産所得以外の本件各年分の給与所得の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、本件各年分の総所得金額は、別表18の「審判所認定額」欄のまる3欄のとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となり、これらの金額は、いずれも本件各更正処分の額を上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件各更正処分は適法であり、請求人には本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に当たらないから、平成18年分及び平成19年分については同条第1項の規定に基づいて、平成20年分については同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る