(平成23年7月5日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、医療業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が元社員らから請求人に対する出資持分の払戻請求及び退職金の支払請求訴訟を提起されて和解し、同人らに支払った金員を特別損失として損金の額に算入して申告したところ、原処分庁が、当該金員は、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第5項に規定する資本等取引に該当し損金の額に算入できないなどとして法人税の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、本件事業年度の法人税について、別表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成21年11月24日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成21年11月25日付で別表の「賦課決定」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 原処分庁は、平成22年3月23日付で別表の「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。また、同日付で別表の「納税告知処分等」欄のとおり、平成20年3月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分(以下「本件告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分をした。
ホ 請求人は、上記ニの各処分を不服として、平成22年5月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成22年8月4日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、昭和29年8月○日に設立された出資持分の定めのある医療法人であり、平成17年5月30日にJが理事長に就任し、現在に至っている。
ロ Lは、夫Mの出資金(出資額1,000,000円)を昭和53年当時に相続し、請求人の社員かつ理事であったところ、平成15年4月7日に請求人を退社した。
 また、Nは、夫Pの出資金(出資額643,000円)を昭和63年当時に相続し、請求人の社員かつ監事であった。
ハ Lは、平成16年1月○日付で請求人を被告として、出資持分払戻請求金239,906,736円及び退職金○○○○円等の支払を求める訴訟をQ地裁a支部に提起した。
ニ S及びR(以下「Sら」といい、Lと併せて「Lら」という。)は、N(平成15年10月○日死亡)の相続人であるところ、平成16年4月○日付で請求人を被告として、Nの出資持分払戻請求金111,456,250円等の支払を求める訴訟をQ地裁a支部に提起した。
 さらに、Sらは、平成17年6月○日付で、Nの退職金○○○○円の支払等を求める訴え変更申立書をQ地裁に提出した。
ホ Lらがした上記ハ及びニの訴え(以下「本件訴訟」という。)については、平成20年3月○日に、請求人との間において和解(以下「本件和解」という。)が成立し、和解の内容を要旨次のとおり記載した調書(以下「本件和解調書」という。)が作成された。
(イ) 請求の表示
A Lの訴えについて
 Lが、請求人に対し、平成15年4月7日、退社及び役員辞職の意思表示並びに出資持分払戻請求をしたことによる、退職金○○○○円及び出資持分払戻請求金239,906,736円の合計金○○○○円並びにこれに対する平成15年4月8日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
B Sらの訴えについて
(A) Sらが、請求人に対し、平成16年1月30日、出資持分払戻請求をしたことによる、それぞれ出資持分払戻請求金55,728,125円及びこれに対する平成16年1月31日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(B) Sらの請求人に対する
a 主位的請求
 Nにつき、平成8年2月10日、請求人役員を退職するに当たって、○○○○円の退職金を支払う旨の決定がなされたことに基づく、それぞれ退職金○○○○円及びこれに対する平成8年2月11日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
b 予備的請求
 請求人の前代表者であるTが、平成8年3月19日、Nの退職金○○○○円を不法に領得したことによる不法行為に基づく、それぞれ損害金○○○○円及びこれに対する平成8年3月19日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(ロ) 和解条項
A 請求人は、Lに対し、解決金として、○○○○円の支払義務があることを認める。
B 請求人は、Sらに対し、解決金として、各自36,850,000円(合計73,700,000円)の支払義務があることを認める。
C 請求人は、Lに対し、退職金として、○○○○円の支払義務があることを認める。
D Lは、請求人に対し、みなし贈与のための立替金債務として、3,515,144円(借受金3,150,000円、未収金365,144円の合計額)の支払義務があることを認める。
E 請求人は、Lに対し、上記Aの金額にCの金額を加え、Dの金額を控除した○○○○円を、Sらに対し、Bの金額全額である73,700,000円を平成20年3月31日限り、一括して支払う。
F Lらは、その余の請求を放棄する。
G Lら及び請求人は、両者の間には、本件に関し、本和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
ヘ 請求人は、本件事業年度において、本件和解に基づき平成20年3月31日にLらに支払った金員○○○○円(以下「本件和解金」という。)のうち、Lに対する退職金○○○○円を除く○○○○円(以下「本件金員」という。)について、まる1Lの出資額の減少として資本金勘定を1,000,000円減額し、まる2Uの出資額の減少として資本金勘定を643,000円減額し、まる3残額の○○○○円を損害賠償金として計上し、特別損失として損金の額に算入した(請求人が特別損失として損金の額に算入した額を、以下「本件特別損失額」という。)。
 なお、この点に関する平成20年3月31日付の振替伝票は要旨次のとおりである。

(イ) 損害賠償金の処理(単位:円)
借方 貸方 摘要
損害賠償金 ○○○○ 普通預金 ○○○○ 解決金 L
損害賠償金 36,850,000 普通預金 36,850,000 解決金 S
損害賠償金 36,850,000 普通預金 36,850,000 解決金 R
(ロ) 資本金の処理(単位:円)
借方 摘要 貸方 摘要
資本金 1,000,000 L 損害賠償金 1,000,000 L
資本金  643,000 U 損害賠償金  321,500 S
損害賠償金  321,500 R

ト 原処分庁は、本件金員について、まる1○○○○円はNに対する退職金と認定するとともに、当該金員については、平成8年3月期において既に損金の額に算入されているから本件事業年度の損金の額には算入されない、まる2○○○○円はLらの出資持分の払戻請求に対して支払われた出資払戻金と認定し、L及びNに係る出資金の合計額1,643,000円を除く○○○○円については、法人税法第22条第5項に規定する資本等取引であるから本件事業年度の損金の額には算入されないとして本件更正処分等をした。
チ 本件更正処分に係る更正通知書(以下「本件通知書」という。)には、更正の理由が、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 請求人は、Lらから本件訴訟を提起され、本件和解が成立し、平成20年3月31日に本件和解金を支払った。
(ロ) 請求人は、本件事業年度において、本件和解金のうちLに対する退職金○○○○円を損金の額に算入するとともに、本件特別損失額を損金の額に算入した。
(ハ) 請求人は、本件和解金から本件訴訟においてLらから請求されていたL及びNに対する退職金各○○○○円(合計○○○○円)を差し引いた○○○○円について、L及びNのそれぞれ従来の出資口数に基づく割合により算出した額を、それぞれLらへの解決金としていると認められる。
(ニ) 請求人は、平成20年3月31日付で、Lの出資金1,000,000円、Nに係る出資金と認められる643,000円の合計1,643,000円全額を減資している。
(ホ) 本件和解金のうち○○○○円は、その全額がLらの出資持分の払戻請求に対して支払われた出資払戻金と認められる。
(ヘ) 本件特別損失額のうち、Nに対する退職金○○○○円を除く○○○○円は、法人税法第22条第5項に規定する資本等取引と認められるから、同条第3項の規定により本件事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されないので所得金額に加算する。
(ト) 請求人は、Nに対する退職金○○○○円について、本件事業年度の損金の額に算入しているが、当該退職金は平成8年2月10日の臨時社員総会においてその額が確定し、平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度において既に損金の額に算入されているから、法人税法第22条第3項の規定に該当せず、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されないので所得金額に加算する。

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2 争点

(1) 争点1 本件通知書の理由付記に不備があるか否か。

(2) 争点2 本件特別損失額は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができるか否か。

(3) 争点3 本件金員のうち○○○○円について、請求人に所得税法第181条第1項に規定する源泉徴収すべき義務があるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(本件通知書の理由付記に不備があるか否か。)について

イ 原処分庁
 本件通知書には、更正の理由が、前記1の(4)のチのとおり、原処分庁のし意の抑制及び納税者に対する不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に記載されているから、何ら不備はない。
ロ 請求人
 本件通知書には、まる1平成7年12月20日にNからUに出資持分が贈与され、Uは平成7年分贈与税の申告を行っているという事実関係が誤りであるという理由、まる2Nに対する退職金の認定について、平成8年3月19日付の振替伝票処理が適正に行われ、当該退職金に係る源泉所得税を納付している事実があるという前提を否定した理由、まる3Nに対する退職金の支払事実及びそのことを証する帳票等が存在しないにもかかわらず、当該退職金を支払った旨認定した理由がいずれも記載されていない。
 よって、本件通知書の理由付記には、その課税根拠とした資料等が示されていないか、示されていてもその課税の根拠は全く異なっており、請求人は、課税の根拠を知ることはできないから、理由付記には不備がある。

(2) 争点2(本件特別損失額は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができるか否か。)について

イ 原処分庁
(イ) 本件特別損失額のうち○○○○円について
A まる1被告代理人がQ地裁に提出した上申書には、本件訴訟における解決金は退職金を含むもので、Lらの従来の出資口数の割合であん分してもらいたい旨が記載されていること、まる2Lらに対し、○○○○円をL及びNの出資額の割合であん分して算出した額に相当する金員に○○○○円を加算した額に相当する金員が解決金の名目で支払われていると認められること、まる3請求人は、平成20年3月29日の臨時社員総会において、本件和解調書に基づく解決金を支払うことに伴い、Lらの出資額全額を減額する旨決議し、当該出資額を減額する経理処理を行っていること、まる4請求人がe県a保健所長に対して平成20年5月30日付で提出した社員名簿には、Nの出資額に相当する643,000円が減額された後のUの出資額が記載されていることが認められる。
B 上記Aからすると、Nは、退社時において出資持分を有しており、退社によってこれに係る出資払戻請求権を有していたものとみるのが相当であり、Sらは相続により当該出資払戻請求権を取得したものと認められる。
 なお、Uの平成7年分贈与税の申告書が提出されていたとしても、当該申告書提出の事実は、請求人に対する出資持分全部をNがUに譲渡したことを原処分庁が認めたものではなく、また、当該申告書提出の事実をもって、NがUに出資持分を譲渡したことが証明されるものではない。
C そうすると、請求人がLらに対して支払った○○○○円は、実質的にLらが請求人に対して有する出資額の払戻し及び出資持分に対応する剰余金の払戻しがされたものであると認められる。
 したがって、○○○○円からLらの出資額1,643,000円を控除した○○○○円は、出資持分に対応する剰余金の分配と認められ、法人税法第22条第5項に規定する資本等取引に該当し、当該金員は同条第3項の規定に該当しないから、本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(ロ) 本件特別損失額のうち○○○○円について
A Sらが本件訴訟において○○○○円の退職金の支払を求めたように、当該退職金の支給事実について争いがあったところ、上記(イ)のAのまる1及びまる2に加え、本件和解に至る過程において当事者が作成した平成20年3月24日付、同月25日付及び同月26日付の書面によると、Lの退職金については退職金として、Nの退職金については税務処理の問題から解決金と名称を変更して支払われたものであると認められる。
 そうすると、Sらに支払われた金員のうち○○○○円は、Nの退職金として支払われたものと認められる。
B 請求人は、平成8年2月10日の臨時社員総会において、Nに対する退職金として○○○○円の支払決議をし、平成8年3月期において既に退職金として損金の額に算入していると認められるから、本件和解によりSらに支払われた金員のうち○○○○円は、本件事業年度において、法人税法第22条第3項に規定する損金の額に算入すべき金額には該当しない。
(ハ) 以上により、本件特別損失額は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することはできない。
ロ 請求人
(イ) 本件特別損失額について
A 本件金員の性格
 請求人が本件訴訟の和解勧告に応じた理由、背景は、本件訴訟が提訴後4年半を超え更に長期化が見込まれ、請求人の本来の医療事業に支障が発生したため、これらを排除し、本件訴訟を早期かつ穏便に終結したい意図があったものであり、本件和解は、Lらの請求内容を認めた内容の和解ではなく、Lらの請求金額と、請求人の財務的な面及びキャッシュ・フロー面からの支払可能額が交渉過程を経て合意したという多様な意味合いを包含した金額面での和解である。
 また、和解金額の提示は、円満解決に必要であるという裁判所の見解を考慮し、金額は交渉を重ねて決定されたものであり、医療事業継続という経営上当然の経済行為に基づく支払金という性格を意味している。
 したがって、本件金員は、出資金額があることを根拠に支払われたものではない。
 なお、本件和解調書に記載された内容のみが、裁判所が認め、当事者間で成立した私法上の契約内容そのものであるから、本件訴訟における請求人と対峙する当事者の主張及び「上申書」という一部の資料の一部分の記載事項のみを取り上げて課税処分の根拠にすることは到底認められない。
 また、本件和解金の配分方法については、Lらの申出に応じて決定されたものであり、この配分方法には請求人は一切かかわっていない。
 さらに、本件和解金の金額が交渉過程を経て決定されたのは、本件和解が成立した平成20年3月○日であり、Nの退社日、Lの退社日のいずれとも一致しない。このことは、本件金員が請求人の財産を評価した結果の配分金額ではなく、解決金であることの証左でもある。
B Nの出資持分について
 請求人の平成7年12月20日の臨時社員総会(以下「本件社員総会」という。)の議事録(以下「本件社員総会議事録」という。)には、Nの申出により出資持分全部をUに譲渡する旨の記載があり、同日にNの出資持分全部がUに譲渡されたので、Uは平成8年3月15日にK税務署長に平成7年分贈与税の申告書(課税額○○○○円)を提出し、同月14日に納税資金を金融機関から調達し、贈与税額○○○○円を納付している。
 したがって、Nの当該出資持分は存在しないから相続財産とはなり得ない。
 なお、平成20年3月29日付の臨時社員総会議事録において、「Sらに対する解決金の支払により、Nから平成7年12月20日譲渡を受けたU出資金643,000円の減少」の記載をし、実際は出資に係る権利関係が異動していないにもかかわらず、あたかも新しい権利関係が発生したような状況になったことは、事務手続上の重大なミスである。
C Lの出資持分について
 請求人は、本件社員総会において、退社員はその出資持分の払戻しの請求をしないものとする旨満場異議なく可決しているにもかかわらず、Lは、平成15年4月7日付で退社願を提出し、理事を辞任した際に、併せて出資持分の払戻請求をしている。
 請求人は、本件社員総会の決議に基づき、その支払請求に対しては応じられない状況が継続していたところ、平成15年8月18日付で出資額を限度に払戻請求ができる旨の定款変更の認可を得て、平成20年3月29日に臨時社員総会を開催して本件和解金支払の決議をしたのを機に、Lに対して同人の出資持分1,000,000円を返還することを決議し、改正後の定款の定めに基づき、出資金額1,000,000円を支払って資本金勘定を減額したのであり、請求人からLに対して支払われた○○○○円は、1,000,000円の出資持分を除いては、出資持分を根拠に支払ったものではない。
D Nの退職金について
 請求人が平成8年2月10日の臨時社員総会において○○○○円を支払う旨を決議し、同年3月19日に源泉所得税及び住民税を差し引いた○○○○円をNに支払っている事実は、請求人の振替伝票、総勘定元帳の写し及び普通預金通帳の写しにより確認できる。
 請求人は、現実に税務署に対する税務処理を履行しているため、退職金を再度支払う必要はなく、会計上、税務上も再度計上するような処理はできない。
 したがって、解決金として支払われた金員の一部を退職金と認定すること自体誤りである。
(ロ) 以上のことから、本件金員は、一連の訴訟終結等のために支出した「解決金」であり、Lに係る1,000,000円の出資持分を除く○○○○円は、本件事業年度の損金の額に算入されるべきであるから、本件特別損失額は、法人税法第22条第3項第2号又は第3号に該当し、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入できる。

(3) 争点3(本件金員のうち○○○○円について、請求人に所得税法第181条第1項に規定する源泉徴収すべき義務があるか否か。)について

イ 原処分庁
 ○○○○円は、上記(2)のイのとおり、請求人のLらに対する剰余金の分配と認められるから、Lらが交付を受けた当該金員は、所得税法第25条第1項に規定する剰余金の分配とみなされ、同法第24条第1項に規定する配当等に該当する。
 したがって、請求人には、本件金員のうち○○○○円の支払につき、所得税法第181条第1項に規定する源泉徴収すべき義務がある。
ロ 請求人
 本件金員は、上記(2)のロのとおり、損金性を有する支出であるから、剰余金の分配とみなされる配当等に該当しない。
 したがって、請求人には、本件金員のうち○○○○円の支払につき、所得税法第181条第1項に規定する源泉徴収すべき義務がない。

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4 判断

(1) 争点1(本件通知書の理由付記に不備があるか否か。)について

イ 法令解釈
 法人税法第130条第2項が、青色申告に係る法人税を更正する場合には、更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、そのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解される。
 ところで、青色申告に係る更正処分の態様は、帳簿の記載自体を認めないで更正処分をする場合や事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正処分をする場合など様々であるが、個々の更正処分につき要求される理由付記の程度は、上記法人税法第130条第2項の規定の趣旨と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきものであり、帳簿の記載自体を認めないで更正処分をする場合はともかく、法的評価の相違による更正処分の場合には、それがいかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判断することができる程度に理由が表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないと解するのが相当である。
ロ 判断
 本件更正処分は、事実に対する法的評価につき請求人と見解を異にして更正処分をする場合に当たるところ、その理由付記においては、更正処分の対象となった事実(本件和解金の支払事実)及びそれに対する法的評価(資本等取引に該当する○○○○円及びNに対する退職金○○○○円は、いずれも損金の額に算入されない)が、前記1の(4)のチの(イ)、(ヘ)及び(ト)のとおり記載されており、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないから、法の要求する理由付記として欠けるところはない。
 したがって、理由付記に不備があるとの請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件特別損失額は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができるか否か。)について

イ 本件訴訟の経過等
(イ) 本件訴訟において被告(請求人)が証拠として提出した文書及びその要旨(本審査請求に関連するもの)
A 請求人の定款
 平成15年8月18日に定款変更の認可を受ける前の請求人の定款(以下「旧定款」という。)の第9条には、退社した社員は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる旨の定めがある。また、平成15年8月18日に定款変更の認可を受けた後の定款の第9条には、社員資格を喪失した者は、その出資額を限度として払戻しを請求することができる。ただし、剰余金は払戻しができない旨定めがある。
B 本件社員総会議事録
 本件社員総会議事録には、社員出資持分譲渡の件(第1号議案)として、社員Nの申出により出資持分全部をUに譲渡し退社する旨、社員出資持分の承継及び返還金の件(第3号議案)として、請求人の旧定款第9条による退社員はその出資持分の払戻しの請求をしないものとする決議があった旨記載されている。
C Nの退職金関係書類
(A) 平成8年2月10日付の臨時社員総会議事録
 当該議事録には、役員退職金贈呈の件として、請求人の監事Nが平成7年12月20日退職につき、同人に対する退職金○○○○円の贈呈を承認した旨記載されている。
(B) 平成8年3月19日付の請求人の振替伝票
 当該伝票には、借方科目に退職金○○○○円、摘要欄に「N」の記載がある。
(C) 平成8年3月19日付の領収証
 当該領収証には、相手方を請求人とし、○○○○円役員退職金、受領者名を「N代人T」とする記載がある。
D Uの平成7年分贈与税の申告書の写し
(ロ) 本件訴訟における当事者の主張の概要(本審査請求に関連するもの)
A 被告(請求人)の主張
(A) 本件社員総会にはL及びNは出席しており、同社員総会は適法に存在し、かつ有効に決議されている。すなわち、同社員総会で決議された出資持分の譲渡の承認や出資持分払戻請求をしないことの決議は、いずれも有効に成立している。
 なお、Lは、午前中は診療で忙しく本件社員総会に出席することが難しいため、夕方から開催したもので、議事録の時間と場所は異なるが、開催されたことは間違いない。
 また、Nは○○病で通院していたものの、生活能力・責任能力・判断能力等も保持されており、平成7年12月のNの出資持分のUへの譲渡は、同人の通常の判断能力の下でなされたものである。
(B) 本件社員総会において、Nが退社の申出と自分の出資持分をUに譲渡する旨明言し、出席社員の承認を得たものであり、Nの出資持分贈与の意思表示は明確である。Uは、Nから贈与を受けた出資持分に係る平成7年分贈与税の申告書を平成8年3月15日に提出した。
 なお、NからUに対する出資持分の贈与契約書は、独自のものは存在しない。
(C) Nは、平成15年10月○日に死亡しているところ、同人の死亡時には、既に、請求人においては出資額限度法人に移行した旨の定款変更の効力は発生しており、原告ら(Lら)が求めるような出資持分の払戻請求権は存在しない。
(D) 平成8年2月10日開催の臨時社員総会の決議により、Nに役員退職金○○○○円を支払い、同人はこれを受領した。
B 原告(Lら)の主張
(A) Lは、請求人が開催したとする本件社員総会に出席しておらず、J医院で診察を行っていた。
 また、社員権は、請求人設立の中心人物であるMから相続したものであり、重要な財産権を全面的に放棄することにつながる「第9条による退社員はその出資持分の払戻しの請求をしないものとする。」という定款変更議案にLが承諾するはずがない。
 Nは、○○病の症状で意思能力が明らかに欠如しており、本件社員総会に基づく贈与に関して判断能力を有するはずがなく、本件社員総会へ出席すること自体不可能であり、実際、出席してもいない。
 Nは、Pの出資持分を相続したが、その際、多額の相続税を支払っており、退社に当たって、出資持分払戻請求権を行使せず、これを他人に贈与することは同人の意思に反しており、到底考えられない。
 したがって、請求人が開催したとする本件社員総会は不存在であり、総会決議も無効であることは明らかであるから、本件社員総会決議の有効性を前提とする被告(請求人)の主張は失当である。
(B) NとUとの間の贈与契約を本件社員総会の席上で行うこと自体できないというべきであり、また、当該贈与契約を証する証拠としては贈与契約書しかないはずであるが、これが存在しないことは当事者間に争いがない事実である。
(C) 請求人の出資額限度法人への定款変更については、その目的と手段が齟齬していることは明らかであり、また、出資額限度法人の趣旨に真っ向から反対する側面があったというほかないから、当該定款変更は極めて不合理であり、無効というべきである。
(D) 平成7年12月20日になされたとされるNの監事辞任に伴って発生した役員退職金○○○○円について、請求人理事長Tから「N代人T」に対して平成8年3月19日に金員が移動した旨の領収証が存在しているから、N側に渡されなかったことは明らかである。
(ハ) 平成18年5月26日の和解勧告後、本件和解に至るまでに作成された文書(要旨)
A 原告代理人がQ地裁に提出した平成19年5月29日付の「原告ら和解案」と題する書面
(A) Lら各自に対し、本件訴訟における出資持分払戻請求額の9割相当額(Lにつき、金215,916,062円、Sらにつき金100,310,625円)に加えて退職金額各○○○○円の金員の一括支払を求める(総合計金○○○○円)。
(B) 退職金については当然の請求であり、和解においても減額をする必要性が認められない。なお、Sらについても、証拠上、退職金を受領したとは認められない。また、Tから退職金相当額の返還を求めて支払えばよいことで、請求人の経営に影響するものではない。
B 被告代理人がQ地裁にあてた平成20年2月4日付の「上申書」と題する書面
(A) 出資持分の取扱いについて、監督官庁への定款変更の問題及び税務署への申告問題等が複雑に絡むため、和解金の性質と表現は「解決金」ということでお願いする。
(B) 解決金としては、Lらの合計金額として○○○○円の支払金額を請求人から提示する。この金額は、Lらについての相続税課税、一時所得課税、他の社員に対するみなし贈与税など複雑ないし困難な問題があるため、課税問題は除外しての提示である。
 また、○○○○円は退職金を含むもので、Lらの従来の出資口数の割合であん分することになる。
C 原告代理人がQ地裁及び被告代理人にあてた平成20年3月24日付の「原告ら和解案」と題する書面
(A) 請求人は、Lに対し、解決金として、○○○○円の支払義務があることを認める。
(B) 請求人は、Sらに対し、解決金として、各自○○○○円(合計○○○○円)の支払義務があることを認める。
(C) 請求人は、Lに対し、退職金として、○○○○円の支払義務があることを認める。
(D) 請求人は、Sらに対し、Nの退職金として、各自○○○○円(合計○○○○円)の支払義務があることを認める。
D 被告代理人がQ地裁及び原告代理人にあてた平成20年3月25日付の「御連絡」と題する書面
(A) 上記Cの原告から提示された和解案について、和解金総合計○○○○円(解決金として)の支払自体について異議はない。
(B) ただし、その費目としての退職金については税務処理ができないため、解決金への変更をお願いする。その理由は、退職金としての会計処理は過年度計上として税務上の経費計上ができないためである。医療法人で退職金計上ができなければ、退社役員の側からの退職金計上としての税務処理ができなくなるためである。
 このような理由により、○○○○円全額を解決金として和解条項として記載されることが請求人側の意見である。
E 被告代理人が原告代理人にあてた平成20年3月26日付の「御連絡」と題する書面
(A) Nの退職金○○○○円については、訴訟で主張したとおり、平成8年2月10日付の臨時社員総会議事録及びこれについての源泉徴収票、振替伝票のとおり、請求人からNに支払われている。
 もちろん、Sらはこの○○○○円の受領の事実を否定しているが、現実に税務署に対する納税処理が履行されているため、現時点で再度○○○○円の退職金を支払う(換言すれば、平成8年度の税務申告とこれに関する納税が無効であるとする)ことは極めて困難ないし無理だと思料される。
(B) Lの退職金○○○○円については、この支払を現時点でする場合は、平成15年5月28日付の定時社員総会議事録に基づく退職金を、現時点で支払うこととなる。
 この場合、退職金の額が確定できなかったこと、係争事件により退職金の支給ができなかったという客観的な事実が存在することに該当するかどうか請求人側には確信がない。原告代理人の方でこの会計・税務処理で間違いがないということであればその方向で進むが、再度御検討をお願いする。
F 原告代理人が被告代理人にあてた平成20年3月26日付の「ご連絡」と題する書面
 Sらの件については全体として解決金でやむを得ない。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件訴訟は、前記1の(4)のハ及びニのとおり、まる1Lが請求人に対する出資持分払戻請求金及び退職金の支払請求を、まる2Sらが請求人に対する出資持分払戻請求金の支払請求をし、また、まる3SらがNが受領すべき退職金相当額の支払請求をしたものである。
(ロ) 本件訴訟における主たる争点は、上記イの(ロ)のとおり、まる1Lについては、同人の出資持分払戻請求権の有無、まる2Nについては、同人の出資持分が平成7年12月に譲渡されたか否か及び平成8年3月に請求人がNに対する役員退職金として支出した○○○○円を同人が受領したか否かであり、また、本件訴訟において、被告(請求人)は、同(ロ)のAのとおり、Nの出資持分全部がUに譲渡され、また、退社員はその出資持分の払戻しの請求をしない旨の決議がなされた本件社員総会は有効に成立している旨主張し、原告(Lら)は、同(ロ)のBのとおり、本件社員総会は不存在であり、本件社員総会決議も無効である旨主張し、本件社員総会の存否及び本件社員総会決議の有効性等が問題とされた。
(ハ) 上記イの(ハ)のとおり、裁判所による和解勧告後、原告・被告当事者間において、解決金支払に係る交渉が行われた結果、前記1の(4)のホのとおり、本件和解が成立し、本件和解調書に基づく本件和解金がLらに支払われた。
ハ 法令等
(イ) 法人税法第22条第3項第3号は、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものは、当該事業年度の損金の額に算入する旨規定し、同条第5項(平成22年3月法律第6号による改正前のもの。)は、資本等取引とは法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配をいう旨規定している。
(ロ) 一般に法律行為の解釈に当たっては、現に用いられた文言を無視することはできないものの、その文言のみに拘泥することも許されないのであって、当該行為に至った経緯等の諸事情を十分考慮して、その内容を確定すべきものであるし、訴訟における和解は、権利関係が確定されない状態で行われるもので、かつ、当事者間には対立する感情が生じているのが通常であるから、和解調書においては和解成立の前提となる個別の権利関係を明確には記載せず、紛争を解決するのに最低限必要な条項のみを記載して和解を成立させることも決して珍しくないのであるから、和解において形成された法律関係を考えるに当たっては、和解調書の記載の解釈が中心となることは当然であるが、こうした解釈を行うに際しては、紛争の性質、内容及びそのような和解に至った経緯についても十分考慮に入れた上で当事者間の合理的意思を認定する作業を行うべきであると解するのが相当である。
ニ 判断
(イ) 上記ハの(ロ)を踏まえ、上記イの(イ)ないし(ハ)の本件訴訟の経緯、対立点及び和解において請求人が本件和解金を支払うに至った経過並びに前記1の(4)のホの本件和解調書の和解条項内容及び同ヘの請求人の会計処理の事実についてみると、本件訴訟においては、本件社員総会の決議事項及び出資額限度法人への定款変更が有効に成立していたかどうか及びNが役員退職金を受領したか否かの判断がなされるまでには至らなかったものの、請求人とLらの間においては、請求人がLらに出資持分の払戻請求権相当の権利を認めるなど、本件和解金を支払うことで請求人とLらの債権債務関係を消滅させたものと推認される。
(ロ) ところで、上記イの(ハ)のCないしFからすると、平成8年3月19日に請求人がNに対する役員退職金として支出した○○○○円相当額の金員が本件和解金の計算に含められたものと認められるところ、同イの(イ)のCのことからすると、請求人が平成8年3月19日に○○○○円をNに対する役員退職金として経理処理し支出していることは会計書類上確認できるものの、同Cの(C)の領収証の受領者名及び当該金員相当額が本件和解金の計算に含められた経緯、特に同イの(ハ)のD及び同Eの(A)の記載から判断すると、請求人がNに対する退職金として支出した金員はN本人に渡っていないことが推測されるから、本件和解金のうち上記○○○○円相当額の金員については、請求人が平成8年3月当時に真に支払を受けた者に代わって仮払金・立替金の類として支払ったものであると考えるのが自然である。
 したがって、本件特別損失額のうち、○○○○円は費用計上できるものではなく、本件事業年度において法人税法第22条第3項に規定する損金の額に算入することはできない。
(ハ) そうすると、本件金員から上記(ロ)の○○○○円を差し引いた○○○○円(L分○○○○円、Sら分○○○○円)は、上記(イ)のとおり、社員の退社に基因する出資の払戻請求に対する金員であり、Lらの出資者たる地位に基づき支払われた金員であるといえる。
 したがって、前記1の(4)のヘの資本金勘定から減額された1,643,000円を控除した○○○○円は、剰余金の分配に当たると認められることから、本件特別損失額のうち○○○○円は、法人税法第22条第5項に規定する資本等取引に該当し、同条第3項の規定により本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(ニ) なお、請求人は、本件和解はLらの請求内容を認めた内容の和解ではなく、多様な意味合いを包含した金額面での和解であり、医療事業継続という経営上当然の経済行為に基づく支払金という性格を意味しており、本件金員は出資金額があることを根拠として支払ったものではない旨、その他るる主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、本件訴訟の内容及び本件和解に至った経緯等を考慮すると、本件和解金は、その額を決定するに当たり、請求人の経営に影響を及ぼさないように減額されたものと推認されるものの、そのことが本件和解金の税務上の取扱いを判断する要素とはならず、また、本件特別損失額が本件事業年度の損金の額に算入されないことは、上記(イ)ないし(ハ)のとおりであるから、請求人の主張にはいずれも理由がない。
 また、請求人は、本件社員総会議事録に基づきNの出資持分全部がUに譲渡され、Uは平成7年分贈与税の申告書を提出し納税を行っているから、Nの当該出資持分は存在しない旨主張する。
 しかしながら、本件訴訟において本件社員総会の決議が有効に成立していたかどうかの判断はなされておらず、また、贈与の存否の判断に当たって、Uの平成7年分の贈与税の申告及び納税の事実をもって直ちに贈与事実を認定することはできず、上記(ハ)のとおり、請求人からSらに対して支払われた○○○○円は出資者たる地位に基づいて支払われた金員であるから、これらの点に関する請求人の主張は採用できない。
 さらに、請求人は、本件社員総会の決議に基づき、Lの支払請求に対しては応じられない状況が継続していたところ、平成15年8月18日付で出資額を限度に払戻請求ができる旨の定款変更の認可を得たことから、平成20年3月29日に臨時社員総会を開催して本件和解金支払を決議し、Lに対して同人の出資持分1,000,000円を返還することを決議し、出資金額1,000,000円を支払って資本金勘定を減額したのであり、請求人からLに対して支払われた○○○○円は、出資持分1,000,000円を除き、出資持分を根拠に支払ったものではない旨主張する。
 しかしながら、本件訴訟において本件社員総会の決議が有効に成立していたかどうかの判断はなされていないところ、平成15年8月18日付で出資額を限度に払戻請求ができる旨の定款変更の認可を得たとしても、Lの出資持分払戻請求権相当の権利の有無の判断に影響を及ぼすものではなく、請求人からLに対して支払われた○○○○円が出資者たる地位に基づいて支払われた金員であることは、上記(ハ)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
 一方、原処分庁は、本件和解によりSらに支払われた金員のうち○○○○円が本件事業年度において損金の額に算入できない理由について、前記3の(2)のイの(ロ)のとおり主張しているが、上記(ロ)のとおり、本件和解によりNの退職金相当額が仮払金等として支払われたものとみるのが相当であるから、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。

(3) 争点3(本件金員のうち○○○○円について、請求人に所得税法第181条第1項に規定する源泉徴収すべき義務があるか否か。)について

イ 所得税法第25条第1項は、法人の株主等が当該法人の同項第5号に掲げる、当該法人の出資の払戻し、当該法人からの社員その他の出資者の退社若しくは脱退による持分の払戻しにより金銭の交付を受けた場合において、その金銭の額が当該法人の法人税法第2条第16号に規定する資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に係る金銭は、所得税法第24条第1項に規定する剰余金の分配とみなし、同法第181条第1項は、配当等の支払をする者は、その支払の際、その配当等について所得税を徴収しなければならない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、上記(2)のニの(ハ)のとおり、本件金員のうち○○○○円は、Lらが、社員の退社に基因する出資の払戻しとして交付を受けた金員であり、当該出資に対応する1,643,000円を超える額○○○○円は、所得税法第25条第1項の規定により剰余金の分配とみなされ、同法第24条第1項に規定する配当等に当たるから、請求人は、同法第181条第1項の規定により源泉徴収を要することとなる。

(4) 本件更正処分について

 上記(2)のニの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件特別損失額は、本件事業年度の損金の額に算入することはできず、これを当該損金の額から除外して請求人の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表の「更正処分等」欄と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件告知処分について

 上記(3)のロのとおり、本件金員のうち○○○○円が所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当し、同法第181条第1項の規定により源泉徴収を要することから、国税通則法第36条第1項第2号の規定に基づいて行われた本件告知処分は適法である。

(6) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(7) 平成20年3月分の源泉所得税の不納付加算税の賦課決定処分について

 上記(5)のとおり、本件告知処分は適法であるところ、本件告知処分により納付すべき源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

(8) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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