(平成23年8月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が取得した土地の持分の所有権移転登記に係る登録免許税について、原処分庁が、当該土地の近傍類似価格を基にして登録免許税の課税標準の額及び税額の認定処分を行ったのに対し、請求人が、近傍類似価格を基にして行われた認定処分は違法であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年11月○日に、d市e町○−○の土地516平方メートル(以下「本件土地」という。)の持分516分の○○(以下、本件土地の当該持分を「本件持分」という。)について、登記の目的を所有権移転、課税価格を○○○○円及び登録免許税の額を○○○○円と記載して、その税額に相当する金額の収入印紙を貼付した登記申請書をC地方法務局d出張所に提出した(以下「本件登記申請」といい、提出された登記申請書を「本件登記申請書」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成22年11月19日付で本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の額を○○○○円及び登録免許税の額を○○○○円とする認定処分(以下「本件認定処分」という。)を行った。
ハ 請求人は、本件認定処分に不服があるとして、平成22年11月24日に審査請求をした。
ニ その後、原処分庁は、本件認定処分による登録免許税が納付されていないとして、平成22年12月6日付で本件登記申請を却下した。
ホ なお、原処分庁は、平成23年4月1日付人事異動により、C地方法務局d出張所登記官EからC地方法務局d出張所登記官Dとなった。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成22年9月30日に、Fから本件持分及び本件土地に隣接するd市e町○−○の土地349平方メートル(以下、本件土地と併せて「本件取得土地」という。)を買い受けた。
ロ 本件取得土地は、都市計画法第7条《区域区分》第3項に規定する市街化調整区域内に所在し、その登記簿上の地目は山林である。
ハ 請求人は、本件取得土地を評価対象不動産とする平成22年9月7日付の不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」といい、この不動産鑑定評価を「本件鑑定評価」という。)の写しを本件登記申請書に添付して提出した。なお、本件鑑定評価書の要旨は、別紙2のとおりである。
ニ d市長が発行した本件土地の平成22年度の土地評価証明書には、現況地目欄に「公衆用道路」、評価額欄に「0円」及び備考欄に「近傍類似価格(宅地)38,900円/平方メートル」(以下「本件近傍類似価格」という。)とそれぞれ記載されている。
ホ 原処分庁は、本件近傍類似価格に、平成15年2月27日付C地方法務局首席登記官依命通知(以下「本件依命通知」という。)に基づく公衆用道路の補正率100分の30並びに本件土地の地積516平方メートル及び持分516分の○○を乗じて本件持分の課税標準の額を算定した。

(5) 争点

 本件持分の課税標準の額は、本件近傍類似価格を基に算定すべきか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 不動産の所有権移転の登記申請に係る登録免許税の課税標準の額は、登録免許税法第10条第1項の規定により、登記の時における不動産の価額によることとされ、当該不動産の価額は、同法附則第7条の規定により、地方税法第341条第9号に掲げる固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格、すなわち台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができることとされている。
 そして、本件土地は、台帳価格のない公衆用道路であるところ、台帳価格のない不動産については、登録免許税法施行令附則第3項の規定により、当該不動産に類似する不動産で台帳価格のあるものの金額を基礎として登記官が認定した価額が課税標準の額となり、台帳価格のない公衆用道路については、登記官の認定の統一を図るため、本件依命通知により、近傍宅地の価格の100分の30に相当する価格を基準に認定することとされている。
 したがって、本件持分の課税標準の額は、本件近傍類似価格を基に適正に算定されている。

(2) 請求人

 登録免許税法施行令附則第3項は、台帳価格のない不動産の課税標準の額については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で台帳価格があるものの台帳価格を基として登記機関が認定した価額とする旨規定しているのに対し、原処分庁が、当該不動産に類似する不動産で台帳価格があるものの台帳価格ではなく、土地評価証明書に記載された公定力のない本件近傍類似価格を基に本件持分の課税標準の額を算定し、本件認定処分を行ったことは違法である。
 本件土地については、「当該不動産に類似する不動産で台帳価格があるもの」が存在しないから、本件持分の課税標準の額は、本件鑑定評価書に記載されている鑑定評価額1,800,000円(以下「本件鑑定評価額」という。)の1平方メートル当たりの単価5,150円を基に、公衆用道路としての補正率100分の30並びに本件土地の地積516平方メートル及び持分516分の○○を乗じて算定すべきであって、本件登記申請書に記載した課税価格○○○○円と同額になる。

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3 判断

(1) 法令解釈

 登録免許税法第10条第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨規定し、同法附則第7条は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該不動産の台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定している。これを受けて登録免許税法施行令附則第3項は、台帳価格を基礎として政令で定める価額は、台帳価格のある不動産については、台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額に相当する価額とし、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で台帳価格のあるもののその価格を基礎として当該登記に係る登記機関が認定した価額とする旨規定している。
 このように、不動産の価額を台帳価格に基づいて求めることとしているのは、登記の都度、登記官において個々の不動産の価額を評価することは実際的でないばかりか、評価が区々となるおそれがあることなどから、課税の公平及び納税者の便宜等を考慮したことによるものと解される。また、台帳価格のない不動産について、類似する不動産の台帳価格を基礎としてその価額を認定することとしているのは、台帳価格のある不動産とない不動産の価額の間で不均衡が生じないよう、課税の公平を図るために、飽くまで台帳価格に依拠してその価額を求め、登録免許税の課税標準の額を決しようとする趣旨によるものと解されるから、登記官が認定した価額は、それが当該不動産に類似する不動産の適正な台帳価格を基礎として合理的に算定されたものであれば適法であると解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
イ 本件土地は、間口距離9.59メートル、奥行距離53.81メートル(地積516平方メートルを間口距離9.59メートルで除して得た奥行距離。以下同じ。)の東西に細長い不整形地で、西側で公道と接する行き止まりのアスファルト舗装された私道の用に供されている宅地であり、専ら本件土地に面する土地の使用者の通行の用に供されている。また、本件登記申請書の提出日において、固定資産課税台帳に価格が登録されていなかった。
ロ d市は、本件土地の所在する地域が主として市街地的形態を形成するに至らない地域であるとして、当該地域に所在する宅地の台帳価格の決定に当たっては、固定資産評価基準における「その他の宅地評価法」によって宅地の評価を行うこととしている。
 その他の宅地評価法とは、宅地の沿接する道路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便等を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められる宅地の所在する地区ごとに区分し(以下、区分された地域を「状況類似地区」という。)、状況類似地区ごとに標準宅地を選定し、標準宅地の評点数に比準して状況類似地区内の各筆の宅地の評点数を付設する評価方法であるところ、d市は、本件土地が存する状況類似地区として、県道G線以北の市街化調整区域でd市f町及びe町等の一部の地区(以下「本件状況類似地区」という。)を認定し、本件状況類似地区における標準宅地として、d市f町○−○に所在する間口距離約14メートル、奥行距離約15.5メートルのほぼ整形地で、東側で公道と接する宅地(以下「本件標準宅地」という。)を選定している。
 また、固定資産評価基準により評定された平成22年1月1日現在の本件標準宅地の単位地積当たり評点数は38,900点であり、d市は、本件状況類似地区に所在する各筆の宅地の平成22年1月1日現在の評点数について、本件標準宅地の単位地積当たり評点数38,900点に、別表1記載の宅地の比準表(以下「本件比準表」という。)により求めた各筆の宅地の比準割合を乗じ、これに各筆の地積を乗じて付設することとしている。
ハ 固定資産評価基準は、各筆の宅地の評価に当たって、各筆の宅地の評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各筆の宅地の価額を求めることとしているところ、d市は、評点1点当たりの価額を1.0円としており、本件近傍類似価格は、本件標準宅地の単位地積当たり評点数38,900点に評点1点当たりの価額1.0円を乗じて算定されている。

(3) 本件へのあてはめ

イ 本件持分の課税標準の額を算定するに当たっては、上記(2)イのとおり、本件土地が台帳価格のない不動産であることから、上記(1)のとおり、登録免許税法施行令附則第3項の規定により、「本件土地に類似する不動産の適正な台帳価格を基礎として合理的に算定されたもの」であれば適法であると解されるところ、上記(2)ロの固定資産評価基準における「その他の宅地評価法」は、市街地的形態を形成するに至らない地域に所在する宅地の台帳価格の算定方法として、当審判所においても相当と認められること、及び、「その他の宅地評価法」によれば、本件土地の存する本件状況類似地区内の宅地の台帳価格は、本件標準宅地の単位地積当たり評点数を基に当該宅地の形状等に応じた調整を行って算定するものであることからすると、これにより算定された価額が「本件土地に類似する不動産の適正な台帳価格を基礎として合理的に算定されたもの」であると認めるのが相当である。
ロ 本件において、原処分庁は、上記1(4)ホ及び上記(2)ハのとおり、本件近傍類似価格、すなわち本件標準宅地の単位地積当たり評点数38,900点に評点1点当たりの価額1.0円を乗じて算定された価格に、本件依命通知に基づく公衆用道路の補正率100分の30並びに本件土地の地積516平方メートル及び持分516分の○○を乗じて本件持分の課税標準の額を算定している。
 この点、原処分庁が本件持分の課税標準の額を算定するに当たって、本件標準宅地の単位地積当たり評点数を基としていることは、上記イのとおり相当であると認められるものの、本件近傍類似価格は、本件土地の形状等に応じた調整を行わずに算定されたものであるから、これをもって算定された本件持分の課税標準の額は、「本件土地に類似する不動産の適正な台帳価格を基礎として合理的に算定されたもの」であるとは認められない。
ハ ところで、本件土地の形状等に応じた調整に当たっては、地方税法第403条第1項の規定により、台帳価格そのものが固定資産評価基準によっていることから、同基準によることが相当であると認められる。
 そこで、当審判所において、上記(2)イのとおり、本件土地がその奥行き及び形状について本件標準宅地と相違があること並びに特定の者の通行の用に供されている私道であることに応じて、固定資産評価基準により、本件比準表及び本件依命通知に基づく調整を行い、「本件土地に類似する不動産の適正な台帳価格を基礎として合理的に算定されたもの」を算定すると、本件持分の課税標準の額及び登録免許税の額は、別表2のまる13及びまる14欄記載のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円となる。

(4) 請求人の主張について

 請求人は、本件持分の課税標準の額は本件鑑定評価額を基に算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件鑑定評価では、別紙2のとおり、原価法及び収益還元法を採用できず、取引事例比較法のみを採用しているが、取引事例4事例のうちの2事例は、近隣地域内の競売事例であり、競売の際に売却基準とされた価額に比して落札価額が大きく下回っているにもかかわらず事情補正しておらず、他の2事例は、近隣地域内の取引事例ではなく、地域要因格差補正等を行っているものの、交通・接近条件及び画地条件等が近隣地域の標準的画地と大きく異なっており、これら4事例を基に算定された比準価格は合理的なものとまでは認められない。
 したがって、本件鑑定評価により算定された本件鑑定評価額は合理的なものであるとは認められないから、本件鑑定評価額を基に本件持分の課税標準の額を算定することは相当ではなく、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(5) 本件認定処分について

 上記(3)ハのとおり、本件持分の課税標準の額及び登録免許税の額は、いずれも原処分庁が認定した額を下回るから、本件認定処分のうち、課税標準の額○○○○円及び登録免許税の額○○○○円を超える部分を取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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