(平成23年12月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、G社等に対する損害賠償請求事件に関し、裁判外の和解に基づき支払を受けた損害賠償金、弁護士費用賠償金及び遅延損害金のうち遅延損害金を平成21年分の所得税の確定申告において雑所得の総収入金額に算入して申告した後、当該遅延損害金が非課税所得であるとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をし、また、損害賠償金及び弁護士費用賠償金は一時所得の総収入金額に算入すべきであるとして所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったところ、請求人が、当該損害賠償金等はいずれも非課税所得に当たるとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該和解に基づき支払を受けた損害賠償金、弁護士費用賠償金及び遅延損害金が非課税所得に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成22年12月15日請求)に係る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ G社の有価証券報告書について
 G社(平成○年○月○日にH社に、平成○年○月○日にJ社にそれぞれ商号を変更した。以下「J社」という。)は、平成○年○月○日にK財務局長に対して、同社の平成○年○月○日から平成○年○月○日までの事業年度の有価証券報告書(以下「本件有価証券報告書」という。)を提出した。
ロ 本件有価証券報告書の虚偽記載について
 平成○年○月○日(以下「本件公表日」という。)に、報道機関により、本件有価証券報告書にはJ社の架空売上げの計上による経常利益の粉飾等重要な事項について虚偽記載がある旨の事実が、報道された。
ハ 請求人が保有していたJ社株式について
 請求人は、本件有価証券報告書の提出日の翌日から本件公表日の前日までの間にL証券を通じてJ社株式を取得し、本件公表日において、L証券に開設した租税特別措置法第37条の11の3第3項第1号に規定する特定口座(以下「本件特定口座」という。)に保管の委託等をしていたJ社株式(以下「本件J社株式」という。)の株数は、621,694株であった。
ニ 損害賠償請求訴訟の提起について
 請求人は、本件有価証券報告書の虚偽記載により本件J社株式及びJ社の子会社株式に関し損害を被ったとして、他の被害者ら(以下、請求人を含め「原告ら」という。)と共に、J社及び元同社役員等を被告(以下「被告ら」という。)として、本件J社株式及びJ社の子会社株式の取得に伴う損害額(取得価額から売却価額を控除した金額)、当該損害額の10%に相当する弁護士費用及び訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めて、M地方裁判所に損害賠償請求訴訟(同裁判所平成○年(○)第○号他。以下「本件訴訟」という。)を提起した。
 なお、請求人の本件J社株式に係る請求額(以下「本件請求額」という。)は、別表2のとおりである。
ホ Nとの和解について
 平成19年12月12日に、原告らと被告らのうち元J社役員であったNとの間で、Nが原告らに和解金を支払い、原告らはNに対する訴えを取り下げる旨の裁判外の和解が成立し、両者間で同日付の「和解契約書」と題する書面(以下「本件N和解契約書」という。)が作成された。
 なお、請求人とNとの和解金(以下「本件N和解金」という。)は、本件請求額及びJ社の子会社株式に係る請求額の合計額(○○○○円)の1%に相当する金額に15,000円を加えた○○○○円であった。
ヘ M地方裁判所判決について
 本件訴訟における原告らのJ社に対する請求は、証券取引法第21条の2に基づく損害賠償請求、J社代表取締役であった者の不法行為に係る会社法第350条に基づく損害賠償請求及びJ社自身の不法行為に基づく損害賠償請求であった。
 M地方裁判所は、平成○年○月○日の判決(以下「本件判決」という。)において、原告らのJ社に対する上記各請求について、まる1J社は、原告らに対し、証券取引法第21条の2第1項の規定に基づき本件有価証券報告書の虚偽記載により生じた損害を賠償する責任を負うとともに、同虚偽記載について会社法第350条の規定に基づき同社の代表取締役であった者と同一の不法行為責任を負うとし、まる2証券取引法第21条の2第1項の規定による損害額について、本件有価証券報告書の提出がなければJ社株式を購入することはなかったから当該株式の取得自体が損害であり取得価額から売却価額を控除した全額が損害額であるとの原告らの主張を排斥し、同条第2項の規定による1株当たりの推定損害額○○○○円のうち同条第5項の規定により本件有価証券報告書の虚偽記載以外の事情により生じた株価の値下りとして推定損害額の約3分の2に相当する○○○○円を控除した○○○○円を1株当たりの損害(J社が本件有価証券報告書に虚偽記載をしなかったと仮定した場合のJ社株式取得時の本来あるべき市場株価と現実の市場株価(取得株価)の差額(以下「取得時差額」という。))と認め、まる3J社の代表取締役であった者に対する不法行為による損害額についても、少なくとも取得時差額による損害の発生が認められ、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとして、民事訴訟法第248条の規定に基づき、1株当たりの損害額を○○○○円と認めた上、まる4証券取引法第21条の2第1項の規定に基づく請求においては、弁護士費用に係る損害の賠償を求めることはできないから、原告らのJ社に対する請求は、結局、証券取引法第21条の2の規定に基づく請求を数量的に含むところの代表者の不法行為に係る会社法第350条に基づく責任で認容すべきであるとして、Nを除く被告らに対して、当該損害額、弁護士費用相当額及びその合計額に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合で算出した遅延損害金の支払を命じた。
 本件判決により請求人について認定された損害賠償金の額は、次のとおりである。
(イ) 請求人が支払を受ける取得時差額に係る損害賠償金の額
 621,694株(本件J社株式の株数)×○○○○円(取得時差額)−○○○○円(本件N和解金)=○○○○円
(ロ) 請求人が支払を受ける弁護士費用賠償金の額
 ○○○○円×5%=○○○○円
ト J社との和解について
 J社は本件判決を不服として控訴したが、平成21年7月23日に原告らとJ社の間で、J社が原告らに対して本件判決において認容された損害賠償金等の額(主文に記載された元金及びこれに対する和解当日までの遅延損害金)を支払い、原告ら及びJ社双方が控訴をしない又は控訴を取り下げる旨、及び、原告らは本件訴訟のJ社以外の全ての被告ら(元J社役員等)に対する訴えを取り下げる旨の裁判外の和解(以下「本件和解」という。)が成立し、両者間で同日付の「合意書」と題する書面(以下「本件合意書」という。)が作成された。
 本件合意書によれば、請求人に係るJ社との和解金(以下「本件J社和解金」といい、本件J社和解金と本件N和解金を併せて「本件各和解金」という。)は次のとおりである。
(イ) 本件判決認容額○○○○円(うち上記ヘの(イ)の損害賠償金○○○○円に相当する部分を、以下「本件損害賠償金」といい、上記ヘの(ロ)の弁護士費用賠償金○○○○円に相当する部分を、以下「本件弁護士費用賠償金」という。)
(ロ) 遅延損害金○○○○円(以下「本件遅延損害金」という。)=(○○○○円+ ○○○○円)×5%×(1,152日/365日)
チ 本件各和解金の支払について
 本件訴訟の原告らの代理人である弁護士法人○○○○は、請求人に対して、平成21年7月30日付の本件N和解金に関する明細書(以下「本件明細書」という。)及び同月31日付の「御精算書」と題する書面(以下「本件清算書」という。)を送付し、本件各和解金の額及び請求人からの預り金の額から弁護士報酬等(以下「本件弁護士費用等」という。)の金額を差し引いた金額を、請求人の預金口座に振り込む方法により支払った。
 なお、本件清算書及び本件明細書の記載内容は、別表3のとおりである。
リ 請求人の所得税の確定申告について
(イ) 平成18年分の確定申告について
 請求人は、法定申告期限内に、租税特別措置法第37条の12の2第2項に規定する上場株式等に係る譲渡損失の金額を翌年以後に繰り越す旨を記載した平成18年分の所得税の確定申告書を原処分庁へ提出した。
 同申告書に添付しているL証券が発行した特定口座年間取引報告書(投資家交付用)には、まる1譲渡の対価の額「○○○○円」、まる2取得費及び譲渡に要した費用の額等「○○○○円」、まる3所得金額「○○○○円」と記載されており、同譲渡の対価の額並びに取得費及び譲渡に要した費用の額等には、本件J社株式の譲渡価額及び取得価額が含まれている。
 また、同申告書第3表の「その他・株式等」の「翌年以後に繰り越される損失の金額」欄に記載された金額は、上記まる3と同額の○○○○円である。
(ロ) 平成19年分及び平成20年分の各確定申告について
 請求人は、法定申告期限内に、平成19年分及び平成20年分の所得税の各確定申告書を提出した。当該各確定申告書第3表の「その他・株式等」の「翌年以後に繰り越される損失の金額」欄には、上記(イ)と同じ○○○○円が記載されていた。
(ハ) 平成21年分の確定申告について
 請求人は、法定申告期限内に、平成21年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出した。請求人は、当該確定申告書において、本件各和解金のうち本件遅延損害金のみを雑所得の総収入金額に算入していた。
(ニ) 平成18年分ないし平成21年分の修正申告について
 請求人は、平成22年6月1日に、平成18年分の所得税の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算において、本件損害賠償金及び本件N和解金の合計額を本件J社株式の取得価額から控除した金額を基に計算した上場株式等に係る譲渡損失の金額(当初申告額から減少した金額)を翌年以後に繰り越される損失の金額とした平成18年分ないし平成20年分の所得税の各修正申告書及び前年分からの株式等の繰越譲渡損失の金額を減少させた平成21年分の所得税の修正申告書を提出した。
(ホ) 平成21年分の更正の請求について
 請求人は、平成22年6月9日に、本件遅延損害金は非課税所得に該当するから平成21年分の雑所得の金額が過大となっていたとして、平成21年分の所得税の更正の請求書を原処分庁に提出した。
ヌ 原処分庁の処分について
 原処分庁は、平成22年6月22日付で、上記リの(ホ)の更正の請求に対し、本件遅延損害金は雑所得の総収入金額に算入すべき金額に該当するとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をし、また、同月24日付で上記リの(ニ)の平成18年分ないし平成20年分の所得税の修正申告に対し、平成18年分の所得税の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算において本件損害賠償金及び本件N和解金の合計額を本件J社株式の取得価額から控除することはできないとして、翌年以後に繰り越される損失の金額を修正申告前の金額に増額(減額更正)し、平成21年分の所得税の修正申告に対しては、本件損害賠償金、本件N和解金及び本件弁護士費用賠償金を一時所得の総収入金額に算入し、本件弁護士費用等をその収入を得るために支出した金額として控除して、請求人の平成18年分から平成21年分の所得税について各更正処分(うち平成21年分の所得税に係る更正処分を、以下「本件更正処分」という。)及び平成21年分の過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」といい、本件更正処分等と本件通知処分とを併せて「本件各処分」という。)をした。
ル 異議申立てについて
 請求人は、平成22年8月20日に、本件各処分に不服があるとして、それぞれその全部の取消しを求め異議申立てをした。
ヲ 異議決定について
 異議審理庁は、平成22年11月16日付で、上記ルの各異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。

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2 主張

 別紙2のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1 本件損害賠償金は非課税所得に該当するか否か。

イ 法令解釈
(イ) 所得税法における所得概念について
 所得税法は人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を構成するという包括的所得概念を採用しており、人の担税力を増加させる経済的利得は、その源泉、形式、合法性の有無を問わず、全て所得として把握するものとし、非課税とする趣旨の規定がない限り、これを課税対象としているものと解するのが相当である。
 そして、この人の担税力を増加させる所得をその担税力の違いに着目して、源泉ないし性質により10種類に分類し、それぞれ個別に所得の金額を計算することを基礎としているが、その計算の方法は、利子所得の金額を除き、基本的には「収入金額」又は「総収入金額」から「必要経費」等を控除することとし、所得税法第36条第1項において、別段の定めがある場合を除き、各種所得の金額の計算上計上すべき「収入金額」又は「総収入金額」を「収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)」としており、外部からの経済的価値の流入を収入と捉えているものと解するのが相当である。
(ロ) 所得税法における所得の帰属年分について
 所得税法第36条第1項は、各種所得の金額の基礎となる収入金額について「その年において収入すべき金額」と規定しているところ、「収入すべき金額」と定め、「収入した金額」としていないことから考えると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、上記権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという権利確定主義を採用しているものと解される。
(ハ) 株式等の譲渡による所得の所得区分について
 租税特別措置法第37条の10は、株式等の譲渡による所得には、事業所得、譲渡所得及び雑所得があることを前提とする規定をしているが、同条は、株式等の譲渡による所得のうち、いかなる態様のものが事業所得、譲渡所得又は雑所得のいずれの所得に区分されるかについて特段の規定を置いていない。この点、平成14年6月24日付課資3−1ほか3課共同「租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて」(法令解釈通達)(以下「租税特別措置法関係通達」という。)37の10−2は、株式等の譲渡による所得が事業所得若しくは雑所得に該当するか又は譲渡所得に該当するかは、当該株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかにより判定するのであるが、その者の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、まる1上場株式等で所有期間が1年を超えるものの譲渡による所得、まる2上場株式等以外の株式等の譲渡による所得については、譲渡所得として取り扱って差し支えない旨、さらに、まる3信用取引等の方法による上場株式等の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得として取り扱って差し支えない旨定めている。
 この租税特別措置法関係通達37の10−2は、株式等の譲渡による所得について、まず、株式等の性質から上場、非上場に区分の上、上場株式等は流動性が高いことから「営利、継続取引」される可能性が高いとして事業所得又は雑所得に区分し得るものとする一方、非上場株式等は流動性が低いとして譲渡所得に区分することとし、次に、上場株式等であってもその株式等の所有期間が長期にわたるものの所得の実現は保有期間中の値上り益の実現とみて、譲渡所得に区分し、さらに、信用取引等の方法による上場株式等の譲渡による所得は、その取引形態における強い営利性からして事業所得又は雑所得に区分し得るものとしている。この租税特別措置法関係通達による株式等の性質や取引形態に基づいた株式等の譲渡による所得の区分に関する取扱いは、当審判所においても、相当と認める。
(ニ) 非課税所得に該当しない損害賠償金について
 所得税法第9条第1項第16号の委任を受けた所得税法施行令第30条は、その本文のかっこ書きにおいて、「これらのもの(所得税法第9条第1項第16号に規定する保険金及び損害賠償金等)の額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分」と規定し、損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための保険金及び損害賠償金等の金額は非課税所得に該当しない旨を明らかにしている。
 ところで、所得税法においては、各種所得の金額の計算において、収入金額又は総収入金額から控除する金額について、まる1不動産所得、事業所得、山林所得及び雑所得(公的年金等に係るものを除く。)の場合は「必要経費」、まる2譲渡所得の場合は「取得費及びその資産の譲渡に要した費用」、まる3一時所得の場合は「その収入を得るために支出した金額」と、所得の種類に応じて書き分けている。このことは、所得税法施行令第17条第2号の規定の文言をみても明らかなとおり、所得税法施行令においても、同様であるから、所得税法施行令におけるこれらの用語は、所得税法と整合的に解釈すべきである。
 そうすると、不法行為その他突発的な事故により資産につき損害を受けた者のその損害を受けた資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得の基因となる資産であり、その者の受けた損害賠償金がこれらの所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額であれば、その損害賠償金は所得税法施行令第30条本文かっこ書きに該当し、非課税所得から除かれると解すべきである。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件J社株式の取引状況について
 請求人は、本件公表日において、本件特定口座に本件J社株式621,694株の保管を委託していたところ、保管されていた当該株式621,694株のうち、396,694株は信用取引により取得したものであり、225,000株は現物取引により取得したものであった。また、この現物株式225,000株のうち、180,000株は平成17年12月22日に買いの約定をし、同月28日に受渡しされたもので、残りの45,000株は同月27日に買いの約定をし、同月30日に受渡しされたものであった。
 そして、請求人は、これら本件J社株式を、信用取引による取得分396,694株については平成18年1月25日(約定日)に、現物株式225,000株については同月26日(約定日)に全て譲渡した。
(ロ) 平成16年から平成18年の間の請求人の株式の取引状況について
 請求人は、別表4のとおり、J社株式を、平成16年6月から平成18年1月26日に本件J社株式を全て譲渡するまでの20か月の間に、信用取引においては151日の約定日にわたり5,041,366株を購入し、4,950,566株を売却(差引株数90,800株は現引(信用取引の買い手が融資を受けた資金を返済し担保としていた株式を取得して、それにより取引が終了すること。以下同じ。)による株数の減少)し、現物取引においては39日の約定日にわたり1,296,380株を購入し、1,482,880株を売却(差引株数186,500株は信用取引からの現引や株式分割による取得等)した。
 また、請求人は、別表5のとおり、J社株式を含む上場株式を、平成16年1月22日から平成18年1月26日に本件J社株式を全て譲渡するまでの25か月の間に、信用取引においては66銘柄について284日の約定日にわたり8,029,647株を購入し、7,913,053株を売却(差引株数116,594株は現引による株数の減少)し、現物取引においては31銘柄について105日の約定日にわたり2,760,609株を購入し、2,993,098株を売却(差引株数232,569株は信用取引からの現引や株式分割による取得等。なお、請求人は、同日において80株を保有していた。)した。
ハ 判断
(イ) 本件損害賠償金及び本件N和解金に係る所得の帰属年分について
 原処分庁は、本件損害賠償金及び本件N和解金に係る所得の帰属年分について、いずれも平成21年分であるとして本件更正処分等を行っているところ、請求人は、この点について格別主張してはいないが、本件損害賠償金及び本件N和解金が課税所得又は非課税所得のいずれに該当するかという点の判断の前に、まず、これらの帰属年分について、以下、検討する。
 上記イの(ロ)のとおり、所得税法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、その権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという権利確定主義を採用しているところ、本件においては、上記1の(4)のホのとおり、平成19年12月12日に、原告らと元J社役員であったNとの間で、Nが原告らに和解金を支払い、原告らはNに対する訴えを取り下げる旨の裁判外の和解が成立し、両者間で同日付の本件N和解契約書が作成されたことから、本件N和解金は、同日において収入すべき金額が確定したとみるべきである。
 また、上記1の(4)のトのとおり、平成21年7月23日に原告らとJ社の間で、J社が原告らに対して本件判決において認容された損害賠償金等を支払い、控訴を取り下げる旨等の本件和解が成立し、本件合意書が作成されたことから、請求人が支払を受けることとなった本件J社和解金は、同日において収入すべき金額が確定したとみるべきである。
 そうすると、本件J社和解金に係る所得は平成21年分に帰属するが、本件N和解金に係る所得は平成19年分に帰属することになる。
(ロ) 本件損害賠償金の非課税所得への該当性等について
A M地方裁判所は、本件判決において、上記1の(4)のヘのとおり、原告らのJ社に対する請求を認め、Nを除く被告らに対し、損害賠償金の支払を命じた。その後、本件和解が成立したが、本件和解に至る経過及び本件和解に係る本件合意書の記載内容からすれば、本件和解は、本件判決において請求が認容された訴訟物、すなわち、原告らのJ社に対する会社法第350条に基づく損害賠償請求権及びその遅延損害金請求権について、その額を本件判決認容額のとおりに確定させた上で、本件有価証券報告書の虚偽記載に基づく原告らのJ社に対するその他の全ての請求を放棄したものと解される。
B ところで、有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合、当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額、すなわち、当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は、上記投資者が、当該虚偽記載の公表後、上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を、また、上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同じ。)との差額をそれぞれ基礎とし、経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して、これを算定すべきものと解される。
 上記1の(4)のロ、ニ及びヘによれば、一般投資家であり、本件J社株式を取引所市場で取得した請求人において、本件有価証券報告書の虚偽記載がなければ、少なくとも本件J社株式の取得を避けたことは確実であって、これを取得するという結果自体が生じなかったとみることが相当であるというべきである。したがって、本件有価証券報告書の虚偽記載により請求人に生じた損害の額は、本件J社株式の取得価額と請求人が当該虚偽記載の公表後にこれを取引所市場において処分した際の処分価額との差額を基礎とし、経済情勢、市場動向、J社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して算定すべきものと解される。
 そうすると、本件判決によって認容された損害賠償金のうち弁護士費用賠償金を除く賠償金(取得時差額に係る損害賠償金)は、客観的には、本件有価証券の虚偽記載がなければ本件J社株式を取得することがなかったとみるべき場合に該当することを前提として上記の方法によりその額が算定されるべき損害の全部又はその一部と解すべきである。そして、上記Aの本件和解に至る経過及び本件和解の内容に鑑みると、本件損害賠償金についても、同様に解すべきである。
 以上によれば、本件損害賠償金は、本件J社株式の取得価額の一部を補填するものと解される。
C ところで、上記ロの(イ)のとおり、本件J社株式は、その半数以上が信用取引により取得されたものであり、平成18年1月26日にその全てが譲渡された現物株式についても、その全てが平成17年12月下旬に購入されたもので、所有期間は1か月にすぎない。このことに加えて、上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、平成16年から平成18年1月26日に本件J社株式を全て譲渡するまでの間、取引所市場においてJ社株式を含め、上場株式の取引を信用取引をも含めて活発に行っていたことを併せ考えると、上記イの(ハ)のとおり、請求人の平成18年分の本件J社株式の譲渡による所得の所得区分は、譲渡所得ではなく、営利を目的とする継続的行為から生じた事業所得又は雑所得と認められる。そして、請求人は株式等の取引に当たり特に設備等を保有し人員を投下するなどしているとは認められないから、結局、請求人の本件J社株式の譲渡による所得の所得区分は、雑所得と認められる。
D 本件損害賠償金は、上記Bのとおり、本件J社株式の取得価額の一部を補填するものであり、また、請求人の本件J社株式の譲渡による所得の所得区分は、上記Cのとおり、雑所得であるところ、これらを上記イの(ニ)の所得税法施行令第30条本文かっこ書きの適用関係に当てはめると、本件損害賠償金は、請求人の株式等の譲渡に係る雑所得の金額の計算上、株式等の取得価額の一部、すなわち、必要経費に算入される金額を補填する損害賠償金に該当するから、所得税法施行令第30条本文かっこ書きの「各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合」に該当し、非課税所得には該当しないこととなる。
(ハ) 本件損害賠償金の所得区分
 請求人の本件J社株式の譲渡による所得の所得区分は、上記(ロ)のC及び租税特別措置法第37条の10の規定から、申告分離課税の株式等の譲渡に係る雑所得と認められ、また、上記(ロ)のDのとおり、本件損害賠償金は、請求人の株式等の譲渡に係る雑所得の金額の計算上、株式等の取得価額(必要経費に算入される金額)の一部を補填する損害賠償金に該当すると認められる。
 ところで、租税特別措置法第37条の10の規定は、「株式等の譲渡をした」場合に適用されるものであり、本件損害賠償金それ自体は、請求人が「株式等の譲渡をした」ことにより取得した経済的利得ではないから、本件損害賠償金は、請求人の申告分離課税の株式等の譲渡に係る雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきものと解することはできない。
 そして、本件損害賠償金は、営利を目的とする継続的な株式等の売買において生じた損害に対する損害賠償金であり、営利を目的とする継続的行為から生じた経済的利得であるから、所得税法第35条第1項に規定する総合課税の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入されることとなる。
(ニ) 請求人及び原処分庁の主張について
A 請求人は、請求人が本件J社株式の取得価額を譲渡所得の取得費として申告したのは平成18年分であり、本件損害賠償金に係る課税上の取扱いは、所得税法第51条第1項及び第4項所定の「保険金、損害賠償金その他これらに類するもの」と同様であるから、平成18年分の請求人の株式等の譲渡に係る譲渡所得の金額を是正すべきであると主張する。
 請求人は、所得税法第51条第1項及び第4項において、「保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額」を、固定資産等に生じた損失の金額から除くと規定されていることから、同様に本件損害賠償金についても、請求人が平成18年分で計上した株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額から控除すべきと主張するが、所得税法第51条第1項及び第4項は、株式等の譲渡に係る譲渡所得及び雑所得の金額の計算上生じた損失の金額には適用がないことは、その規定の文言上明らかであるから、請求人の主張を採用することはできない。
B 次に、請求人は、平成18年分の株式等の譲渡に係る所得の金額の計算上本件J社株式の取得価額を請求人は既に控除しているのであるから、その取得価額を補填するところの本件損害賠償金を非課税とすれば、二重控除になるとの原処分庁の主張に沿えば、本件損害賠償金を取得した時点でJ社株式を譲渡していなかった者は本件損害賠償金相当額について課税されないが、既に譲渡していた者は課税されるという奇異な結果になる旨主張する。
 しかしながら、所得税法施行令第30条本文かっこ書きの規定の文言は、「必要経費に算入される金額を補てんするための金額」と規定し、「必要経費に算入した金額を補てんするための金額」とは規定していないことからすれば、同規定は、同条所定の損害賠償金等が損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填する内容、性質のものである場合には、その者において当該補填の対象となる金額を必要経費に算入したか否かを問わず、当該損害賠償金等を非課税とはしない旨を規定したものであると解されるのであり、本件損害賠償金を取得した時点でJ社株式を譲渡していなかった者についても、その者がJ社株式を譲渡した場合には、当該譲渡に係る所得がその者の事業所得又は雑所得に該当する限り、当該株式の取得価額はその者の当該所得の金額の計算上必要経費に算入される金額となり、本件損害賠償金は当該金額を補填するための金額として、課税の対象とされるのであるから、本件損害賠償金を取得した時点において当該株式を譲渡していたか否かによって課税関係を異にすることはないのであり、請求人の上記主張は採用することができない。
C さらに、請求人は、仮に、本件損害賠償金が所得税法施行令第30条本文かっこ書きの必要経費として控除されることになる金額を補填するものに該当するとしても、本件では、請求人の株式等の譲渡に係る所得の金額は多額の譲渡損を生じており、他の株式等の譲渡に係る所得の金額と通算できる期間内に、その損失を通算してなお課税されるだけの株式等の譲渡に係る所得の金額を生じることはなかったのであるから、二重に控除される余地はなく、同かっこ書きを、本件で適用する必要はない旨主張する。
 しかしながら、本件損害賠償金が所得税法施行令第30条本文かっこ書きの必要経費に算入される金額を補填するための金額に該当する以上、本件損害賠償金が非課税所得であるとすれば、結果として本件損害賠償金相当額が必要経費及び非課税所得としていわば二重に控除されることとなるのであり、請求人の株式等の譲渡に係る所得の金額が多額の譲渡損となり、その損失を通算してなお課税されるだけの株式等の譲渡に係る所得の金額を生じることがなかったとしても、この点において異なるところはないのであるから、請求人の上記主張は採用することができない。
D 他方、原処分庁は、本件損害賠償金が、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない一時の所得であることをもって、一時所得であると主張する。
 しかしながら、上記(ハ)のとおり、本件損害賠償金は、営利を目的とする継続的な株式等の売買において生じた損害に対する損害賠償金であり、営利を目的とする継続的行為から生じた経済的利得であるから、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有するか否かに関わりなく、一時所得であると認めることはできない。
(ホ) 小括
 上記(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)のとおり、本件損害賠償金は、請求人の平成21年分の総合課税の雑所得の総収入金額に算入される。

(2) 争点2 本件弁護士費用賠償金は非課税所得に該当するか否か。

 請求人は、上記1の(4)のニ及びチのとおり、本件有価証券報告書の虚偽記載に基づき本件J社株式に生じた損害の補填を受けるため本件訴訟を提起し、本件弁護士費用等を支出したものであり、上記1の(4)のヘのとおり、本件判決は、本件弁護士費用等のうち本件弁護士費用賠償金相当額を被告らの不法行為と相当因果関係のある損害であると認定しており、上記1の(4)のトのとおり、本件和解においても、本件判決の認容額のとおり請求人はJ社から本件弁護士費用賠償金の支払を受けるものとされている。
 ところで、上記(1)のハの(ハ)のとおり、本件損害賠償金は、営利を目的とする継続的な株式等の売買において生じた損害に対する損害賠償金であり、営利を目的とする継続的行為から生じた経済的利得であって、総合課税の雑所得の総収入金額に算入される。そして、このことは、帰属年分は異なるものの、本件N和解金においても同様である。そうすると、その本件損害賠償金及び本件N和解金を得るための本件弁護士費用等は、総合課税の雑所得の必要経費に算入されるものと認められ、さらに、その総合課税の雑所得の必要経費に算入される本件弁護士費用等を補填するための本件弁護士費用賠償金は、上記(1)のイの(ニ)のとおり、必要経費に算入される金額を補填する損害賠償金に該当するから、非課税所得に該当せず、営利を目的とする継続的行為から生じた経済的利得として、総合課税の雑所得の総収入金額に算入されることになる。

(3) 争点3 本件遅延損害金は非課税所得に該当するか否か。

 本件遅延損害金は、上記1の(4)のヘ及びトのとおり、本件判決において、本件損害賠償金相当額及び本件弁護士費用賠償金相当額に対して、本件訴訟に係る訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分による遅延損害金の支払が命じられたのを受けて、本件和解において判決内容に従ってその金額を確定させたものであるから、本件損害賠償金及び本件弁護士費用相当額の運用益に相当するものである上、上記(1)のハの(ハ)及び(2)のとおり、本件損害賠償金及び本件弁護士費用賠償金は、いずれも、営利を目的とする継続的行為から生じた経済的利得であることにも鑑みると、本件遅延損害金は、平成21年分の総合課税の雑所得の総収入金額に算入される。

(4) まとめ

 上記(1)、(2)及び(3)のとおり、本件N和解金を除き、本件損害賠償金、本件弁護士費用賠償金及び本件遅延損害金の合計額○○○○円は、いずれも請求人の平成21年分の総合課税の雑所得の総収入金額に算入され、本件弁護士費用等のうち本件J社和解金に係る24,129,362円(別表3)は、請求人の平成21年分の総合課税の雑所得の必要経費に算入されるので、その他の利息収入の金額1,166,370円を加えた請求人の平成21年分の所得税の総合課税の雑所得の金額は、別表6の「審判所認定額」の「雑所得の金額」欄のとおり○○○○円、総所得金額は別表6の「審判所認定額」の「総所得金額」欄のとおり○○○○円となり、請求人の平成21年分の所得税の納付すべき税額は別表6の「審判所認定額」の「納付すべき税額」欄のとおり○○○○円となり、当該納付すべき税額は、請求人が平成22年6月1日に提出した平成21年分の所得税の修正申告書に記載した別表6の「修正申告」の「納付すべき税額」欄の○○○○円を上回ることから、この金額の範囲内で原処分庁がした本件通知処分は適法であり、また、原処分庁が行った請求人の平成21年分の所得税に関する平成22年6月24日付の本件更正処分における別表6の「本件更正処分等」の「納付すべき税額」欄の○○○○円を上回ることから、この金額の範囲内で原処分庁がした本件更正処分は適法である。
 そして、本件更正処分は上記のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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