(平成23年11月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、K税務署長が、冠婚葬祭互助会の代理店業務等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対して行った推計課税による所得税の更正処分等並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税と地方消費税を併せて「消費税等」という。)の決定処分等について、請求人が、違法を理由として原処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の6点である。

  1. 争点1 原処分は更正決定の所轄庁を誤って行われたものか否か。
  2. 争点2 原処分に係る調査手続は違法か否か。
  3. 争点3 推計の方法による課税の必要性は認められるか否か。
  4. 争点4 推計の方法による課税の合理性は認められるか否か。
  5. 争点5 給与所得の課税は適法か否か。
  6. 争点6 請求人が外交員に対して支払った手数料(以下「本件手数料」という。)に係る消費税額について、課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)の適用は認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税並びに平成18年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成19年1月1日から同年12月31日までの課税期間及び平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下、順次「平成18年課税期間」などといい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、審査請求(平成22年12月3日請求)に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりである。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙4のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人の事業所(以下「本件事業所」という。)は、L社が運営する冠婚葬祭互助会の会員募集等の代理店として、平成22年8月に請求人が設立したM社に引き継がれるまで、a市b町○−○に所在していた(以下、この所在地を「本件事業所地」という。)。                        
ロ 請求人の住民票によれば、請求人は、平成19年3月22日にa市c町○−○からd県e市f町○−○へ、同年8月25日に同所からd県e市f町○−○(以下「本件住所地」という。)へ、平成23年5月16日に本件住所地から肩書地であるa市b町○−○へ住所地をそれぞれ異動している。
ハ 請求人は、平成19年分及び平成20年分の所得税の確定申告書(以下「本件各申告書」という。)のいずれにも、住所欄の上段に本件事業所地、下段に本件住所地を記載して、平成19年分の確定申告書は平成20年5月7日に、平成20年分の確定申告書は平成21年5月22日に、それぞれJ税務署長に提出した。  
ニ 請求人は、本件住所地を所轄するK税務署長及び本件事業所地を所轄するJ税務署長のいずれに対しても、所得税法第16条第4項に規定する、その事業場等の所在地を納税地とする旨等を記載した書類(以下「納税地変更届出書」という。)を提出していない。                     
ホ 上記ロのとおり、請求人の住所地が肩書地に異動していることから、この審査請求における原処分庁は、K税務署長からJ税務署長となった。

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2 争点1(原処分は更正決定の所轄庁を誤って行われたものか否か。)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 納税地は、住所地と事業所の所在地のいずれかを選択できるところ、請求人は、本件事業所地を納税地として記載し、本件事業所地を所轄するJ税務署長に申告書を提出している上、J税務署の職員の調査にも応じていることから、請求人の納税地は本件事業所地である。
 したがって、請求人の納税地を勝手に本件住所地に変更してK税務署長が行った原処分は、所轄庁を誤っており違法である。
 請求人は、本件事業所地を納税地であるとして本件各申告書をJ税務署長に提出したが、その場合に必要とされる納税地変更届出書を提出していないため、請求人の納税地は原則のとおり本件住所地である。
 したがって、請求人の納税地を本件住所地であるとしてK税務署長が行った原処分は、所轄庁を誤っておらず適法である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当職員(以下「調査担当職員」という。なお、以下イないしチにおいては、J税務署の職員をいう。)は、平成21年9月9日及び同月29日に本件調査のため本件事業所に臨場したところ、税理士資格のない第三者が同席していたため、請求人に対して、税理士資格のない第三者の立会いは認められない旨説明し、当該第三者を退席させた上で帳簿書類を提示するよう求めたところ、請求人は、同月9日はこれに応じなかったものの、同月29日にはこれに応じ、当該第三者を退席させた。
 そして、当該第三者退席後、調査担当職員は、請求人から事業概況を聴取した上、提示された代理店収入に係る請求書(以下「本件請求書」という。)の控え、必要経費の支払表(以下「本件経費支払表」という。)、必要経費に係る領収書(以下「本件領収書」という。)及び本件手数料に係る支払内訳表(以下「本件手数料内訳表」という。)を確認検査した。           
ロ 調査担当職員は、平成21年10月23日に本件事業所に臨場し、請求人から本件請求書の控えの写しを受領するとともに、本件経費支払表、本件領収書及び本件手数料内訳表を預かり、その内容を検討した。           
ハ 調査担当職員は、上記イ及びロのとおり、確認検査及び内容検討をした結果、本件経費支払表及び本件手数料内訳表に記載されたものの中には、支払の事実が確認できないものがあり、また、本件領収書の中には、あて名及び支払の内容が不明なものがある上、本件手数料に係るものは含まれていなかったことから、平成21年11月26日に電話により請求人に対してこの事実を伝え、支払日、支払金額、相手先等が明確でない領収書に係る支出については、事業所得の金額の計算上、必要経費として認められないこと、また、領収書と帳簿に記載がない支出については、消費税等の税額計算上、仕入税額控除ができないことを説明したところ、請求人からは、更に経費の領収書などを提示する準備をしている旨の回答があった。
ニ 調査担当職員は、平成21年12月16日及び平成22年1月20日に本件事業所に臨場し、請求人に対して、新たな帳簿書類の提示を求めたが、請求人からの提示はなかった。                          
 なお、調査担当職員は、平成21年10月23日に請求人から預かった書類を、同年12月16日に請求人に返却した。                  
ホ 調査担当職員は、平成22年2月1日に電話により請求人に対して、請求人が本件各課税期間において消費税等の課税事業者に該当すること、帳簿及び請求書等の確認ができない場合には、消費税等の税額計算上、仕入税額控除の適用がないことを説明し、新たな帳簿書類の提示を求めた。
 そして、調査担当職員は、平成22年2月1日の午後及び同月17日に、○○○○の1階事務所に臨場し、請求人の従業員を通じて、本件手数料内訳表の基となる個人別の明細表(以下「本件個人別明細表」という。)の提示を受け、これを預かった。
 なお、本件個人別明細表は、本件手数料について外交員ごとに作成されていたものの、提示があったのは一部の外交員に係るものであり、調査担当職員は、平成22年2月18日までに本件個人別明細表を返却した。
ヘ 調査担当職員は、平成22年2月22日に本件事業所に臨場し、請求人に対して、現時点においては、本件各年分の所得税については帳簿書類が不備、不正確であるため推計の方法により所得金額を計算せざるを得ないこと、本件各課税期間の消費税等については帳簿及び請求書等の保存がなければ仕入税額控除は認められないことを説明し、これらを踏まえた結果として、本件各年分の所得税の総所得金額及び税額並びに本件各課税期間の消費税等の税額を併せて説明し、修正申告及び期限後申告のしょうようを行ったが、請求人はこれに応じなかった。 
ト 調査担当職員は、平成22年4月6日及び同月16日に本件事業所に臨場し、請求人に対して、新たな帳簿書類の提示を求めたが、請求人からの提示はなかった。
チ 調査担当職員は、平成22年4月27日に本件事業所に臨場し、請求人に対して、J税務署長に本件各申告書を提出しているが、納税地変更届出書を提出しなければ本件住所地が請求人の納税地となり、K税務署から改めて本件調査に関する連絡をすることとなる旨説明し、当該届出書の提出の意思を確認したが、請求人は提出する意思を示さなかった。
リ 上記チにより本件調査を引き継いだ調査担当職員(以下リ及びヌにおいては、K税務署の職員をいう。)は、平成22年5月24日に電話により請求人に対して、請求人の住所地が本件住所地であることを確認した上で、改めて本件住所地を所轄するのはK税務署であることを説明し、納税地変更届出書の提出の意思を確認したが、請求人からは当該届出書を提出しない旨の回答があった。
ヌ 調査担当職員は、平成22年5月27日に電話により請求人に対して、本件調査を引き継いだ旨説明した上で、同年6月8日に○○○○の1階事務所に臨場し、請求人に対して、新たな帳簿書類の提示を求めたが、請求人からの提示はなかった。
 そこで、調査担当職員は請求人に対して、本件調査の結果として、本件各年分の所得税の総所得金額及び税額並びに本件各課税期間の消費税等の税額を説明し、修正申告及び期限後申告のしょうようを行ったが、請求人はこれに応じなかった。 
ル 請求人の住民票上の住所地は、上記1の(4)のロのとおり異動しているところ、この住所地の異動状況とは異なる住所が存在していたとする証拠はない。

(3) 判断

 所得税法第15条第1号、第16条第2項及び同条第4項並びに消費税法第20条第1号、第21条第2項の規定によれば、請求人が、本件事業所地を納税地とするためには、納税地変更届出書の提出が必要であるところ、上記1の(4)のニのとおり、請求人は、納税地変更届出書を住所地及び事業所の所在地の所轄税務署長のいずれに対しても提出していない。
 しかも、上記(2)のチ及びリのとおり、調査担当職員が請求人に対して、納税地変更届出書を提出しなければ、本件住所地が請求人の納税地となる旨を説明の上、当該届出書の提出の意思を確認したにもかかわらず、請求人は当該届出書は提出しない旨の意思を示したことが認められる。
 したがって、所得税法第15条第1号及び消費税法第20条第1号に規定するとおり、原処分時における請求人の所得税及び消費税等の納税地は本件住所地となるから、本件住所地を所轄するK税務署長が原処分を行ったことは、通則法第30条第1項の規定に照らして相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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3 争点2(原処分に係る調査手続は違法か否か。)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 調査担当職員が、本件調査において請求人の依頼した第三者の立会いを認めなかったことは違法である。  調査担当職員が第三者の立会いを認めなかったのは、法律上の守秘義務が課されていない第三者の立会いを認めると請求人の取引先等との関係で、その秘密保持に種々の懸念が生じ、適正な調査ができないと判断したものであり、適正な処置である。
 なお、調査に際し、第三者の立会いを認めなければならない旨を定めた法律上の規定はないので、第三者の立会いを認めないで調査を行っても何ら違法ではない。

(2) 法令解釈

 所得税法第234条《当該職員の質問検査権》第1項並びに消費税法第62条《当該職員の質問検査権》第1項及び第2項の規定による質問検査権に基づく税務調査に際し、第三者の立会いを認めなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、第三者を立ち会わせるか否かについては、調査権限を有する税務職員の合理的な判断にゆだねられていると解するのが相当である。

(3) 判断

 当審判所の調査の結果によれば、調査担当職員は、法律上の守秘義務が課されていない第三者の立会いを認めると、請求人の取引先等との関係でその秘密保持に種々の懸念が生じ、適正な調査ができないと判断しているところ、この判断は合理的なものと認められる。したがって、本件調査の手続に違法はなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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4 争点3(推計の方法による課税の必要性は認められるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 調査担当職員は、請求人から、まる1本件請求書の控え、まる2本件経費支払表、まる3本件領収書、まる4本件手数料内訳表及びまる5本件個人別明細表(以下、これらを併せて「本件提示資料」という。)の提示を受けた。
 しかしながら、本件経費支払表及び本件手数料内訳表には支払の事実が確認できないもの並びに本件領収書にはあて名及び支払の内容が不明なものが含まれていた。
 そこで、請求人に対して、本件提示資料以外に所得金額の計算に必要な帳簿書類の提示を再三にわたり求めたが、新たな帳簿書類の提示はなかった。
 以上のことから、本件提示資料からでは請求人の事業所得の金額を取引実績額に基づく損益計算(以下「実額計算」という。)の方法により算定することが不可能であったので、やむを得ず推計の方法により事業所得の金額を算定したものである。
 調査担当職員が本件提示資料を十分調査していれば、本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法で算定することができたのであるから、推計の方法による課税の必要性はない。

(2) 法令解釈

 所得税法第156条は、所得の金額を推計して課税することを認めているところ、この規定は、税務調査に対する納税者の非協力や帳簿書類の不備等によって納税者の所得金額を直接資料によって把握することができない場合に、課税を放棄することは租税の公平負担の見地から許されないため、税務署長が入手し又は容易に入手し得る推計のための基礎事実、統計資料等の間接的な資料を用いて、所得額に近似した額を推計し、これをもって課税することを是認する趣旨と解される。

(3) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件手数料に関して、請求人から本件手数料内訳表と本件個人別明細表の提示があるものの、上記2の(2)のホのとおり、提示された本件個人別明細表は一部の外交員に係るものであり、また、本件手数料内訳表と本件個人別明細表とにおいては、本件個人別明細表に記載された者のうち本件手数料内訳表には記載されていない者がおり、しかも両表に記載された者においても、金額が相違していた。
ロ 本件手数料の支払は現金で行われていたところ、請求人は本件個人別明細表を作成していたが、外交員から請求書及び領収書を受領しておらず、本件手数料の支払の事実やその金額の正当性が確認できなかった。   
ハ 本件領収書の中には、あて名及び支払の内容が不明なものが含まれていた。

(4) 判断

 上記(3)及び2の(2)の認定事実によれば、原処分庁が、本件提示資料からでは請求人の本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法により算定することはできないと判断し、推計の方法により算定したことに違法は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 当審判所における推計の必要性

 請求人は、当審判所に対して、本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法により算定することを主張せず、本件提示資料以外の帳簿書類を提示しないため、当審判所においても、本件各年分の事業所得の金額を推計の方法により算定せざるを得ない。

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5 争点4(推計の方法による課税の合理性は認められるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 原処分庁は、同業者比率法によって本件各年分の事業所得の金額を推計したものであるが、同業者比率法による推計により事業所得の金額を算定する際に、業種、業態が類似する同業者の間において通常存在する程度の営業条件の差異は、その平均値に吸収され捨象されることから、その差異が当該平均値による推計自体を不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、これを考慮することは要しない。
 そして、原処分庁が、請求人の事業所得の金額を推計するに当たって採用した同業者は、請求人と業種、業態が類似する青色申告者で、代理店収入等の金額が請求人のそれの0.5倍以上2倍以下の者(以下「類似同業者」という。)であり、その抽出方法は合理的なものである。
 したがって、原処分庁が行った推計の方法には合理性がある。
 K税務署及びJ税務署の管内には、請求人と業種、業態が類似する同業者は存在しないので、原処分庁が行った推計の方法には合理性がない。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁が取引先等に対する調査で把握した請求人の事業所得に係る総収入金額は、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円であるところ、当審判所においても、請求人の本件各年分の総収入金額は、これらの金額といずれも同額と認められる。          
ロ 原処分庁は、類似同業者の選定において、請求人と業種及び業態が類似する者として、まる1冠婚葬祭互助会の代理店を営み、かつ、その事業所を当該冠婚葬祭互助会から賃借していること、まる2青色申告により所得税の確定申告書を提出していること、まる3総収入金額が請求人のそれの0.5倍以上2倍以下であること及びまる4年間を通じて事業を営んでいることという選定条件を設定し、当該条件に該当する者として、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり、平成18年分6件、平成19年分3件及び平成20年分5件を選定した。
ハ 原処分庁は、本件各年分の事業所得の金額を、上記イの総収入金額に、類似同業者の特前所得率(総収入金額に対する青色申告特典控除前の事業所得の金額の割合をいう。)の平均値(以下「平均特前所得率」という。)を乗ずる方法によって、別表4の「原処分庁主張額」欄のとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円と算定した。

(3) 判断

イ 業種、業態が類似する同業者の平均値により推計をする場合には、当該同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は、その平均値に吸収され捨象されるものであるといえるから、当該推計方法において、業種の同一性、営業規模の類似性、同業者率算出過程の整合性等の推計の基礎的要件に欠けるところがない以上、営業条件の差異が同業者率による推計自体を不合理ならしめる程度の顕著なものでない限りこれを考慮する必要はないと解するのが相当である。
 この点、原処分庁は、類似同業者については上記(2)のロの条件に該当する者を選定しているところ、当該選定の条件は、業種の同一性、営業規模の類似性等の点で、請求人と同業者との類似性を確保し得るものであり、類似同業者の選定方法には合理性があると認められる。
ロ しかしながら、原処分庁の類似同業者の選定過程について当審判所が調査したところ、選定から除外された1名(別表3のG)については、確定申告書や青色申告決算書の記載内容等に照らし、類似同業者の選定から除外することに合理性は認められない。
 そこで、上記1名(別表3のG)を加えて、改めて類似同業者の平均特前所得率を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、平成18年分が8.98%、平成19年分が10.12%及び平成20年分が13.74%となる。
ハ なお、請求人は、K税務署及びJ税務署の管内には請求人と業種、業態が類似する同業者は存在しないので、原処分庁が行った推計の方法には合理性はない旨主張するが、原処分庁は、上記(2)のロのとおり、類似同業者の選定対象をK税務署及びJ税務署の管内に限定せず選定を行っている。
 そして、請求人の事業内容からすれば、類似同業者間で地域により営業条件等に差異があったとしても、そのことは、上記イのとおり、同業者間に通常存在する程度の差異であって、その平均値に吸収、捨象されるものであるといえるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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6 争点5(給与所得の課税は適法か否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 L社関連協力企業協同組合(以下「L社関連組合」という。)から請求人に対して給与として支払われた金員(以下「本件金員」という。)が平成20年中に1,560,000円あり、この金額から給与所得控除額を控除した残額の910,000円が平成20年分の給与所得の金額となる。
 したがって、給与所得の課税は適法である。
 本件金員は、請求人が葬祭業務を行うに当たり、寝台車を運転するためには社会保険への加入が必要となったため、代理店収入の一部の金額をL社が差し引いた上で、給与という形でL社関連組合から支払われたものにすぎず、請求人とL社関連組合との間において雇用契約等はなく、その実質は代理店収入の一部である。
 したがって、給与所得の課税は違法である。

(2) 法令解釈

 所得税法第28条第1項は、給与所得を「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定しているところ、ここでいう給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付の意味であり、このような給与所得に当たるかどうかを判断するに当たっては、給付の支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重要な要素になると解される。

(3) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 平成19年分以降の本件金員の額は、平成19年分が260,000円、平成20年分が1,560,000円であり、これらの額から源泉徴収された所得税額は、平成19年分が7,800円、平成20年分が46,800円であったが、本件金員は、請求人が葬祭業務を行うに際し、寝台車を運転するためには社会保険の加入が必要であったため、請求人の代理店収入の一部の金額をL社が差し引き、この金額に相当する金額をL社関連組合を経由して請求人に給与という名目で支払うという形式を採ったものである。
ロ 請求人とL社関連組合の間において、雇用契約その他これに類する契約の締結及び労務その他役務提供が行われた事実は認められず、また、請求人が葬祭業務を行うに当たって、L社関連組合から具体的に指示を受けた事実も認められない。

(4) 判断

イ 本件金員については、上記(3)のイのとおり、請求人の代理店収入の一部の金額を、給与という名目を用いてL社関連組合から支払われるという形式を採ったものと認めるのが相当であり、そして、上記(3)のロのとおり、請求人とL社関連組合の間において雇用に関する契約等の締結及び労務その他役務提供が行われた事実は認められず、L社関連組合から請求人に対して業務に関する具体的な指示がなされた事実も認められないことからすれば、本件金員は、上記(2)の給与所得としての要素を有するものとは認められず、その実質はL社からの代理店収入の一部と認めるのが相当である。
ロ そうすると、請求人の平成19年分以降の本件金員に係る給与所得はないものと認められる。
 したがって、原処分庁の主張には理由がなく、L社からの代理店収入の一部の金額を給与所得として課税したことは相当ではない。

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7 争点6(本件手数料に係る消費税額について、仕入税額控除の適用は認められるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 調査担当職員は、請求人に対して、本件手数料に係る消費税額について、仕入税額控除が認められるためには、消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(以下「帳簿及び請求書等」という。)の保存が必要である旨を教示し、再三にわたり帳簿及び請求書等の提示を求めたが、本件提示資料以外の提示はなかった。
 したがって、本件手数料に係る仕入税額控除の適用は認められない。
 請求人は、調査担当職員に対して、本件手数料に係る消費税額について、外交員の口座に振込払いしたことを証するものとして本件手数料の算定の基となる書類を提示しており、仕入税額控除の適用は認められるべきである。

(2) 法令解釈

 消費税法が事業者に対し、課税仕入れに係る取引の内容のみならず、その相手方の氏名又は名称等を帳簿及び請求書等に記載することを義務付けている趣旨は、帳簿及び請求書等によって仕入税額の信頼性、正確性が担保されない限り、その控除を認めないということにあり、事業者においてその仕入れに係る帳簿及び請求書等を保存させることにより、当該取引が仕入税額控除の対象となる課税仕入取引に係るものであることを立証させることにあると解される。

(3) 認定事実

 請求人は、本件各課税期間において課税事業者に該当することについて争わないところ、当審判所の調査の結果によっても請求人の本件各課税期間に係る基準期間の課税売上高は、いずれも1,000万円を超えることが認められるから、請求人は、本件各課税期間において課税事業者に該当すると認めるのが相当である。
 そして、上記2の(2)のとおり、本件調査において、請求人は本件提示資料を提示したものの、本件領収書には本件手数料に係るものが含まれていなかったことなどから、調査担当職員が請求人に対して、再三にわたり、新たな帳簿書類の提示を求めたが、本件提示資料以外の帳簿書類を提示しなかった事実が認められる。

(4) 判断

 上記(3)の認定事実によれば、調査担当職員は、本件調査において、本件手数料に係る請求書等(消費税法第30条第9項に規定する請求書等をいう。)の保存を確認することができず(なお、上記4の(3)のロのとおり、請求人はそもそも外交員から請求書又は領収書を受け取っていない。)、また、請求人が本件調査において提示した本件手数料内訳表及び本件個人別明細表は、いずれも個々の書類であって同条第8項に規定する帳簿という形態のものではなく、その記載内容についても上記4の(3)のイのとおりであるから、請求人は、本件各課税期間における本件手数料に関し、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当するものと認められる。
 なお、請求人は、調査担当職員に対して、本件手数料に係る消費税額について、外交員の口座に振込払いしたことを証するものとして本件手数料の算定の基となる書類を提示した旨主張するが、当該書類は請求人が外交員に対して支払った本件手数料の金額が記載されているものではないことから、消費税法第30条第8項に規定する帳簿又は同条第9項に規定する請求書等に該当するものとは認められない。
 したがって、本件手数料に係る消費税額については、消費税法第30条第1項に規定する仕入税額控除は適用されず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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8 原処分の適法性に関する判断

 以下において、原処分に係る納付すべき税額等の適否について審査し、その適法性に関する判断をする。
 なお、まる1平成18年分の所得税の決定処分(平成22年11月5日付でされた異議決定によりその一部が取り消された後のもの)及び無申告加算税の賦課決定処分については、それぞれ「本件18年分決定処分」及び「本件18年分賦課決定処分」と、まる2平成19年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分(いずれも同異議決定によりその一部が取り消された後のもの)については、それぞれ「本件19年分更正処分」及び「本件19年分賦課決定処分」と、まる3平成20年分の所得税の更正処分(同異議決定によりその一部が取り消された後のもの)及び無申告加算税の賦課決定処分については、それぞれ「本件20年分更正処分」及び「本件20年分賦課決定処分」と、まる4本件各課税期間の消費税等の決定処分(いずれも同異議決定によりその一部が取り消された後のもの)については「本件消費税等決定処分」と、まる5本件各課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分(平成18年課税期間及び平成19年課税期間については、いずれも同異議決定によりその一部が取り消された後のもの)については、「本件消費税等賦課決定処分」という。

(1) 本件18年分決定処分、本件19年分更正処分及び本件20年分更正処分の適法性

イ 事業所得の金額
(イ) 総収入金額
 上記5の(2)のイのとおり、本件各年分の総収入金額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円である。
(ロ) 平均特前所得率
 上記5の(3)のロのとおり、本件各年分の平均特前所得率は、別表4の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年分が8.98%、平成19年分が10.12%及び平成20年分が13.74%である。
(ハ) 事業所得の金額
 本件各年分の事業所得の金額は、上記(イ)の総収入金額に上記(ロ)の平均特前所得率をそれぞれ乗じて算定すると、別表4の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円である。
ロ 給与所得の金額
 上記6のとおり、請求人には平成19年分以降の給与所得はないものと認められるから、給与所得の金額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載したとおり、いずれも○○○○円である。
ハ 総所得金額
 本件各年分の総所得金額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円であり、平成19年分については、本件19年分更正処分の額と同額であるが、平成18年分及び平成20年分については、本件18年分決定処分及び本件20年分更正処分の額をそれぞれ下回ることとなる。
ニ 源泉徴収税額
(イ) 原処分庁は、本件金員に係る源泉徴収税額が平成19年分は7,800円及び平成20年分は46,800円であるとして、本件19年分更正処分及び本件20年分更正処分をそれぞれ行ったが、上記6のとおり、本件金員に係る給与所得があるとは認められない。          
(ロ) ところで、所得税法上、納付すべき税額の計算に当たり、所得税額から控除すべき同法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、同法の源泉徴収の規定に基づき、正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、確定申告の手続において、納付すべき税額の計算上、支払者が誤って徴収した金額を所得税額から控除し又は誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないと解するのが相当である。             
(ハ) したがって、確定申告と同様に納付すべき税額を確定させる手続である更正処分において、納付すべき税額の計算上、誤って徴収された源泉徴収税額を控除することはできないから、平成19年分及び平成20年分の源泉徴収税額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載したとおり、いずれも○○○○円である。
ホ 納付すべき税額
 請求人の本件各年分の納付すべき税額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円となるところ、平成19年分の納付すべき税額は本件19年分更正処分の額を上回るから、本件19年分更正処分は適法であるが、平成18年分及び平成20年分の各納付すべき税額は、本件18年分決定処分及び本件20年分更正処分の額をそれぞれ下回るので、両処分は、いずれもその一部を別紙2及び別紙3のとおり取り消すべきである。

(2) 本件18年分賦課決定処分及び本件20年分賦課決定処分の適法性

 上記(1)のホのとおり、本件18年分決定処分及び本件20年分更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、無申告加算税の基礎となる税額は、平成18年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円となるところ、請求人の場合、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められず、また、平成20年分の税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項において準用される同法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとも認められない。
 したがって、通則法第66条第1項の規定に基づいて無申告加算税の額を計算すると、平成18年分が○○○○円及び平成20年分が○○○○円となり、これらの金額は、本件18年分賦課決定処分及び本件20年分賦課決定処分の金額をそれぞれ下回るので、両処分は、いずれもその一部を別紙2及び別紙3のとおり取り消すべきである。

(3) 本件19年分賦課決定処分の適法性

 上記(1)のホのとおり、本件19年分更正処分は適法であり、請求人の場合、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められず、また、平成19年分の税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項において準用される同法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとも認められないから、同法第66条第1項の規定に基づき行われた本件19年分賦課決定処分は適法である。

(4) 本件消費税等決定処分の適法性

イ 課税標準額
 原処分庁が算定した本件各課税期間の課税標準額にはいずれも誤りは認められず、本件各課税期間の課税標準額は、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円である。
ロ 課税標準額に対する消費税額
 課税標準額に対する消費税額は、上記イの課税標準額に消費税法第29条《税率》に規定する税率100分の4を乗じて算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円である。
ハ 控除対象仕入税額
 本件各課税期間において仕入税額控除が適用されると認められるものは、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円である。
ニ 納付すべき消費税額
 本件各課税期間の納付すべき消費税額は、上記ロの課税標準額に対する消費税額から上記ハの控除対象仕入税額を控除して算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円である。
ホ 地方消費税の課税標準となる消費税額
 本件各課税期間の地方消費税の課税標準となる消費税額は、上記ニの納付すべき消費税額と同額であるから、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円である。
ヘ 地方消費税の納付すべき譲渡割額
 本件各課税期間の地方消費税の納付すべき譲渡割額は、上記ホの地方消費税の課税標準となる消費税額に、地方税法第72条の83《地方消費税の税率》に規定する100分の25の税率を乗じて算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円である。
ト 納付すべき合計税額
 本件各課税期間の消費税等の納付すべき合計税額は、上記ニの納付すべき消費税額と上記への地方消費税の納付すべき譲渡割額を合計すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載したとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円及び平成20年課税期間が○○○○円となり、これらの税額はいずれも本件消費税等決定処分の税額と同額であるから、本件消費税等決定処分はいずれも適法である。

(5) 本件消費税等賦課決定処分の適法性

 上記(4)のトのとおり、本件消費税等決定処分はいずれも適法であり、また、請求人の場合、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められないから、同項及び同条第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき行われた本件消費税等賦課決定処分は、いずれも適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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