(平成23年10月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人F(以下「請求人」という。)が、請求人名義の各土地及び各建物を、請求人の母親に売買を原因として所有権移転登記をしたことについて、原処分庁が、当該売買は所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する資産の譲渡に該当するとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該売買に係る契約は虚偽表示によるもので無効であるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 確定申告
 請求人は、原処分庁に対し、平成20年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり、平成21年5月7日に確定申告をした。
ロ 処分
 原処分庁は、平成22年5月28日付で、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、平成20年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 不服申立て
 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成22年7月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年9月22日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年10月8日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 民法第94条《虚偽表示》
 第1項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする旨規定している。
ロ 所得税法第33条
 第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨、また、第3項は、譲渡所得の金額は、総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した金額とする旨規定している。
ハ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》
 第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨、第2項は、譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、前項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする旨規定し、第2号で、その控除する金額について、その資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間以外の期間については、所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項の規定に準じて政令で定めるところにより計算したその資産の当該期間に係る減価の額とする旨規定している。
ニ 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》
 第1項は、個人が、その有する土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若しくは構築物で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額(以下「分離長期譲渡所得の金額」という。)に対し、分離長期譲渡所得の金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する旨規定している。
ホ 措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》
 第1項は、個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における分離長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条《昭和27年12月31日以前に取得した資産の取得費等》の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額(以下「概算取得費」という。)とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする旨規定し、第1号は、その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額と規定している。
ヘ 措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて(昭和46年8月26日直資4−5、直所4−5、直法2−6国税庁長官通達)
 31の4−1《昭和28年以後に取得した資産についての適用》は、措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする旨定めている。
ト 国税通則法第66条《無申告加算税》
 第1項は、期限後申告書の提出があった後に更正があった場合には、当該納税者に対し、当該更正に基づき第35条《期限後申告等による納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨、また、第2項は、前項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額が50万円を超えるときは、同項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨それぞれ規定している。

(4) 基礎事実

イ 不動産の所有権
 請求人及び請求人の母親であるHは、平成20年3月7日以前において、別表2に記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)を共有していた。
 本件各不動産のうち、別表2の順号1ないし3の各土地は、請求人の祖父であるJが昭和23年7月○日に相続により取得した後、これを平成13年11月22日に作成されたJの遺言公正証書に基づき、請求人及びHが、平成16年1月○日に相続により持分2分の1ずつ取得し、同4の土地は、Jが昭和23年7月○日に相続により取得した後、その持分5分の4を請求人の祖母であるKが平成2年12月25日に贈与を受け、これを請求人が平成6年8月○日に相続により、また、その持分5分の1をHが平成16年1月○日に相続によりそれぞれ取得し、同5のうち「地目・種類」欄が居宅の建物(以下「本件居宅」という。)は、平成7年5月に新築され、同欄が倉庫の建物(以下「本件倉庫」という。)は、平成4年に新築され、いずれも平成19年3月14日受付で請求人及びHの持分を各2分の1とする所有権保存登記がされた。
ロ 本件各不動産の所有権以外の権利
 本件各不動産の請求人の各持分(以下「本件請求人各持分」という。)には、平成19年7月30日付で、極度額を15,000,000円、債権の範囲を金銭消費貸借取引、手形貸付取引、証書貸付取引、手形割引取引、手形債権、小切手債権及び保証取引とし、債務者を請求人、根抵当権者をL社として、各根抵当権設定登記がされた。
 なお、上記の極度額は、平成19年8月21日に30,000,000円に変更登記された。
ハ 土地建物売買契約書の作成
 請求人及びHは、平成20年2月22日付で、請求人を売主、Hを買主とし、本件請求人各持分を、売主は総額148,xxx,xxx円(以下「本件売買代金」という。)で買主に売り渡し、買主の売買代金の支払と同時に、売主は本件請求人各持分を買主に引き渡す旨の土地建物売買契約(以下「本件売買契約」という。)に係る土地建物売買契約書(以下「本件売買契約書」といい、本件売買契約に係る本件請求人各持分の譲渡を、以下「本件譲渡」という。)を作成した。
ニ M銀行等からの借入れ
 Hは、M銀行との間において、平成20年3月7日付で借入金額を150,000,000円、資金使途を自宅持分買取りとする金銭消費貸借契約(以下、当該金銭消費貸借契約に係る借入金を「本件M借入金」という。)を締結した。
 なお、Hは、N銀行との間において、平成20年5月12日付で借入金額を151,000,000円、借入金使途を借換資金とする金銭消費貸借契約(以下、当該金銭消費貸借契約に係る借入金を「本件N借入金」という。)を締結し、同月14日付で、本件M借入金の借入残高の全額を返済した。
ホ 本件M借入金の入出金状況
 M銀行a支店のH名義の普通預金(口座番号○○○○、以下「本件H普通預金」という。)には、平成20年3月7日に証書貸付として本件M借入金に係る149,900,000円が入金され、同日、同支店の請求人名義の普通預金(口座番号○○○○、以下「本件請求人普通預金」という。)に148,xxx,xxx円が振替出金された。
ヘ 本件売買契約締結後の本件請求人普通預金の入出金状況
 本件売買代金と同額が本件H普通預金から本件請求人普通預金に入金された日(平成20年3月7日)における本件請求人普通預金の入出金状況は、別表3のとおりである。
ト 本件請求人普通預金と本件H普通預金との間の資金の移動
 別表3の番号21のとおり、平成20年3月7日に58,824,000円が「Hカリイレヘンサイ」として本件請求人普通預金から出金され、同日に振込手数料を除いた58,823,475円が、本件H普通預金に振り込まれた。
チ 根抵当権設定登記の抹消
 上記ロの各根抵当権設定登記は、平成20年3月7日の解除を原因として、同日に抹消された。
リ 持分全部移転登記
 本件請求人各持分は、いずれも平成20年3月7日に、原因を同日の売買、所有者をHとして、本件請求人各持分の全部移転登記がなされた(以下、この全部移転登記を「本件各持分移転登記」という。)。
 なお、本件各持分移転登記は、平成23年9月26日に至るまで、請求人に戻されていなかった。
ヌ 本件H普通預金から請求人名義普通預金への出金
 平成20年4月23日に、本件H普通預金から30,000,000円が出金され、N銀行a支店の請求人名義の普通預金(口座番号○○○○)に同額が振込入金された。
 なお、本件H普通預金の預金通帳には、上記出金について、Hの手書きにより「F(税金の支払い)」と記載されている。
ル 本件N借入金の返済状況等
 N銀行a支店のH名義の普通預金(口座番号○○○○)には、平成20年5月以降、毎月、4,790,000円の不動産賃貸料が振り込まれており、上記普通預金から、自動引落しにより本件N借入金が初回は916,825円、以降943,319円ずつ返済されている。
ヲ 「覚書」と題する書面
 請求人が原処分庁に対し提出した平成20年3月3日付の「覚書」と題する書面(以下「本件覚書」という。)には、要旨以下のとおり記載されている。
 なお、本件覚書には、請求人及びHの署名押印がされている。
(イ) L社その他への借金返済のため、M銀行a支店に融資の相談をしたところ、自宅の土地及び建物のうち請求人の持分をHに売却することとし、その購入資金としてHに融資するならばできる旨の回答を得た。
(ロ) 融資の条件を満たすためだけのために不動産売買の契約書を作成し、不動産売買の登記もするが、当事者であるHと請求人の間では、本来土地の売買などないことを確認する。
(ハ) 融資を受けL社その他への返済をした後、土地の売買登記をもとに戻すことを第一になすべきこととし、そのためにはM銀行以外の金融機関から融資を受けM銀行に返済する努力をしていくことを再確認する。
(ニ) この借換えその他諸条件が整い次第登記をもとに戻すことを当事者の間で同意する。
ワ 請求人の借入金の状況
 請求人の借入先は、別表3の番号2、4、6、7及び21の出金に係るものであって、その他は、美術品等の購入代金等の支払先である。平成20年3月7日の借入先への支払のうち、借入れの元金が明らかであるものは、L社が19,100,000円、P社が2,000,000円、Hからのものが少なくとも200,000,000円である。
 なお、元金が明らかであるもののうち、L社及びP社からの借入金は平成20年3月7日の支払により完済された。

トップに戻る

2 争点

(1) 争点1 本件売買契約は、民法第94条第1項に規定する虚偽表示に該当し無効となって、本件譲渡は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当しないこととなるか否か。

(2) 争点2 (仮に、本件譲渡が所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当する場合に、)分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は概算取得費の金額を上回るか否か。

トップに戻る

3 主張

(1) 争点1 本件売買契約は、民法第94条第1項に規定する虚偽表示に該当し無効となって、本件譲渡は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当しないこととなるか否か。

請求人 原処分庁
 本件売買契約は、次のとおり、民法第94条第1項に規定する虚偽表示に該当し無効となって、本件譲渡は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当しない。  本件売買契約は、次のとおり、民法第94条第1項に規定する虚偽表示には該当しないから無効とはならず、本件譲渡は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当する。
イ 請求人がM銀行に対し、借入れを申し込んだところ、同行が、請求人の担保不足を懸念し、Hとの共有であった本件各不動産を担保として差し入れることを条件に貸付けを行う方針を固め、かつ、本件請求人各持分をHに譲渡して、仮に強制執行をする場合における責任財産として本件各不動産を完全ならしめる措置を講じることを求めた。請求人及びHは、これに応じて、本件請求人各持分を譲渡する形式をとることとし、本件売買契約を締結し、本件各持分移転登記も行ったが、これはM銀行から強制されたものであって、請求人及びHは、本件請求人各持分を実際に売買する意思を持っていたわけではない。
 また、本件H普通預金から本件請求人普通預金に振替出金された148,xxx,xxx円は、売買代金ではなく、請求人に対する貸付金である。
イ 本件売買契約に基づいて、平成20年3月7日にHが請求人に対して本件売買代金を支払い、同日、請求人からHに対して本件各持分移転登記が行われている。
ロ 請求人がHから受け取った30,000,000円は、負債への返済に充てるために追加的に借りたものである。 ロ 本件売買代金の原資となった本件M借入金の申込時においては、本件売買代金から本件売買契約に係る所得税の支払も予定されており、請求人も、Hから本件売買契約に係る所得税の納税資金用として30,000,000円を受け取っている。
ハ 請求人は、Hからの借入れにより本件請求人普通預金に振替入金された148,xxx,xxx円から自身の債務を返済したものであり、これを毎月、Hに対し返済しているのであるから、本件請求人各持分の対価が現実の所得として実現しているという事実は一切ない。 ハ 本件売買契約に係る対価によって請求人自身の債務の返済等が現実に実行された。
 また、本件M借入金及び本件N借入金は、Hによっていずれも返済されているのであって、請求人には、本件N借入金を返済することができる経常的な収入はなく、請求人によって返済された事実もないのであるから、請求人は本件売買契約による本件請求人各持分の対価が現実の所得として実現している。

(2) 争点2 (仮に、本件譲渡が所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当する場合に、)分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は概算取得費の金額を上回るか否か。

請求人 原処分庁
 本件居宅及び本件倉庫に係る請求人の各持分(以下「本件各建物請求人持分」という。)の取得に要した費用の額は52,271,072円であり、概算取得費の金額を上回るので、実際に取得に要した費用を基に算定した取得費の額が、分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額である。  本件審査請求に至り、請求人が明らかにした請求人の主張及び各証拠には、次のとおり疑義があることから、当該各証拠に記載された金額をもって、直ちに本件各建物請求人持分の取得に要した金額に該当する旨判断することはできない。
イ 本件居宅及び本件倉庫の工事に係る領収証は、支払時期が平成4年9月7日付ないし平成8年2月13日付のものであり、当該各領収証の記載額の全てが本件居宅及び本件倉庫の取得に要した金額であることが確認できず、また、当該各領収証には、同一日付で同額の領収証が複数枚存在すること、領収証と重複する振込金受取書が混在していることが認められる。
ロ 宅地造成に係る各領収証は、土地の造成工事に係る支払であり、本件居宅及び本件倉庫の取得費に該当するものではなく、本件各不動産のうち土地の取得費に該当する可能性がある。
ハ 上棟祝等諸雑費に係る各領収証の大半は、支払原因が明らかではなく、本件居宅及び本件倉庫の取得に要した金額であることが確認できない。
ニ 本件居宅及び本件倉庫の見積書として請求人が提出した平成8年4月25日付の「御見積書」に記載されている工事場所と、平成6年3月10日付の「御見積書」に記載されている工事場所及び本件各不動産の所在地とは異なるものと認められる。
ホ 本件各建物請求人持分に係る取得費の計算に当たっては、所得税法第38条第2項に規定する償却費相当額を控除しなければならない。

トップに戻る

4 判断

(1) 争点1 本件売買契約は、民法第94条第1項に規定する虚偽表示に該当し無効となって、本件譲渡は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当しないこととなるか否か。

イ 法令解釈
(イ) 虚偽表示
 虚偽表示とは、相手方と通じて、内心の意思と異なる内容の意思表示をなすことであると解される。
(ロ) 資産の譲渡
 所得税法第33条第1項は、譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいう旨規定しているところ、譲渡の意義については、税法上明文の規定は置かれていないものの、同項にいう「資産の譲渡」とは、有償、無償を問わず譲渡性のある所有権その他の権利等保有資産を移転させる一切の行為をいうものと解される。
 そして、所有権を移転させる行為とは、売買の場合、法律的ないし社会通念上、売買契約の締結に始まり、売買代金の決済、物件の引渡し及び所有権の移転登記等実質的にその資産の移転をうかがわせる諸般の事情に照らして判断するものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人及び関係者の当審判所に対する答述から認められる事実
A 請求人の答述要旨
(A) 本件売買契約に至る経緯
 M銀行a支店の融資の担当者が、融資金額が高額であることから銀行内部のりん議について幹部の了解を得るために作為的に売買とし、当該担当者から売買契約をするよう求められたものである。
(B) 本件売買代金の説明
 本件売買代金について、M銀行a支店の融資の担当者から説明を受けたことはない。
B 本件M借入金に係る融資担当者であったQの答述要旨
(A) M銀行a支店への融資の申込
 平成19年10月頃、Hは、自宅に借主を請求人とするL社の抵当権がついていたことから、M銀行a支店を訪れ、融資の相談をしたが、Qは、請求人がW社勤務であることからW社に相談されたい旨回答し、当該相談を終えた。その後しばらくして、Hが、M銀行a支店を再度訪れ、W社には請求人の立場もあるので相談できないが、請求人に資産がある限り請求人がまた借財をする可能性があるので請求人の資産をなくしたいと考え、本件請求人各持分をHが買い取るからその代金としてM銀行から融資を受けたい旨の相談をし、Qは、Hが売買で本件請求人各持分を購入するのであれば、融資できる可能性があると話したところ、同年11月頃、請求人とHがM銀行a支店を訪れ、本件請求人各持分を売買するので融資をしてほしい旨話をした。
(B) 本件売買代金の決定
 本件請求人各持分を売買するには適正な価格を見積もらなければならないことから、請求人及びHは、M銀行から紹介を受けた税理士に相談して、本件各不動産のうち、土地は売買実例を参考に建物は固定資産税評価額に基づき、本件売買代金の金額を算定した。
C 上記A及びBから認められる事実
(A) 本件売買契約の締結状況(M銀行の担当者からの強制の有無)
 Qは、上記Bの(A)のとおり、Hからの当初の融資の申出に対し、他の金融機関で融資を受けることを検討するよう回答していることからすれば、Qがあえて銀行内部の幹部の了解を得るために作為的に売買とする必要性はないと認めるのが相当である。
 そして、前記1の(4)のワのとおり、請求人は、L社及びP社から21,100,000円の借入れがあり、平成20年3月7日の支払により完済され、同ロのとおり、L社は、本件請求人各持分に対し、30,000,000円の根抵当権設定登記をしており、同チのとおり、当該根抵当権設定登記は、同日の解除を原因として抹消され、同ニないしヘのとおり、本件M借入金によって、上記の21,100,000円の借入れが返済されたことは、いずれも、上記Bの(A)のQの答述要旨と矛盾するところは見当たらない。
 以上によれば、上記Bの(A)のQの答述は信用することができ、これに反する上記Aの(A)の請求人の答述は採用することができない。そして、上記Bの(A)のQの答述によれば、平成19年10月から11月にかけて、請求人に資産がある限り請求人がまた借財をする可能性があるので請求人の資産をなくしたいとの考えの下、本件請求人各持分を売買するのでその代金の融資が受けられないかとの相談を持ちかけたのはH及び請求人であるから、H及び請求人は、請求人の借財を増やさないためにHが本件請求人各持分を買い取ることを意図して、売買という法形式を自ら選択したものとみるべきである。
 したがって、本件売買契約は、M銀行の担当者からの強制により締結されたものとは認められない。
(B) 本件売買代金の決定状況
 上記Bの(B)のQの答述によれば、本件売買代金は、請求人及びHが税理士に相談の上算定したとされているが、請求人は、上記Aの(B)のとおり、本件売買代金について、M銀行a支店の融資の担当者から説明を受けたことはない旨答述し、Hは何ら答述しないところ、請求人がM銀行a支店の融資の担当者から説明を受けたことはないことをもって、本件売買代金がどのように算出されたかについて知らないことにはならず、Qの答述によれば、請求人がその算定に加わった本件売買代金について、M銀行a支店の融資の担当者が改めて請求人に説明するとは考えられず、請求人の上記答述をもって、Qの上記答述を否定する根拠とはならない。
 したがって、本件売買代金は、上記Bの(B)のQの答述どおりに決定されたと認められる。
(ロ) 本件H普通預金の預金通帳への書き込みの状況から認められる事実
 本件H普通預金の平成17年10月25日から平成21年6月12日までの取引が記帳された預金通帳には、Hの手書きにより、家事に係る入出金や本件売買契約以外の不動産取引によるものと認められる入出金について、その内容等が記載されていることからすると、Hは普段から預金通帳に入出金の内容を記入していたものと認められる。
(ハ) 本件売買代金の内訳
 本件売買代金の内訳は、本件各不動産のうち、土地は売買実例を参考に1坪当たり500,000円として、別表2の順号1ないし3の各土地が113,266,000円、同4の土地が28,247,000円、建物は固定資産税評価額に基づき6,7xx,xxx円と算定された。
ハ 本件への当てはめ及び請求人の主張について
(イ) 本件売買契約が民法第94条第1項に規定する虚偽表示に該当するか否かについて
A 請求人は、本件売買契約について、M銀行から強制されたものであることを前提に、請求人及びHは、本件請求人各持分を実際に売買する意思を持っていたわけではないから、本件売買契約は民法第94条第1項に規定する虚偽表示に該当する旨主張し、これに沿う証拠として、原処分庁に対し、本件覚書を提出している。
B しかしながら、上記ロの(イ)のCの(A)のとおり、本件売買契約は、M銀行からの強制により締結されたものとは認められないから、そもそも、請求人の上記主張は前提を欠くものである。
C また、上記ロの(ロ)のことからすると、Hは普段から本件H普通預金の預金通帳に入出金の内容を記入していたものと認められるところ、そのHが、本件売買契約に基づき本件売買代金を支払った後において、前記1の(4)のヌのとおり、平成20年4月23日に本件H普通預金から出金されN銀行a支店の請求人名義の普通預金に振り込まれた30,000,000円について、本件H普通預金の預金通帳に、手書きにより「F(税金の支払い)」と記載していること、本件売買代金の額である148,xxx,xxx円に譲渡所得に係る所得税、県民税及び市民税を合わせた税率20パーセントを乗じた金額が○○○○円と30,000,000円に近似することからすれば、Hは、請求人に本件請求人各持分の譲渡による納税義務が発生することを認識していたものと推認される。これに対し、前記1の(4)のヲの(ロ)の本件覚書の記載内容、すなわち、融資の条件を満たすためだけのために不動産売買の契約書を作成し、不動産売買の登記もするが、当事者であるHと請求人の間では、本来土地の売買などないことを確認するものである旨の記載は、上記Hの認識と整合しないものである。なお、本件H普通預金の預金通帳の「F(税金の支払い)」との記載につき、請求人は、Hに対する所得税の調査の際に、担当の調査官が、これは納税資金のはずだと何度も虚偽の事実を刷り込んだため、Hが誤解し誤って記載した旨主張するが、当該調査を担当した原処分庁所属の調査担当職員は、当審判所に対し、手書きによる「F(税金の支払い)」との記載はHに対する平成21年12月2日の調査の際、既に記載があった旨答述しており、当該調査担当職員がHの所得に関係のない出金について、虚偽の事実を刷り込む必要もないのであり、また、上記ロの(ロ)のとおり、Hは普段から本件H普通預金の預金通帳に入出金の内容を記入していたものと認められることからも、当該記載は、当該調査の前から記載されていたと認めるのが相当であるから、当該調査担当職員の答述は信用することができ、これに反する請求人の主張は採用できない。おって、請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、請求人がHから受け取った30,000,000円は、負債への返済に充てるために追加的に借りたものである旨主張するが、当審判所が、請求人に対し、上記30,000,000円について、その内容を説明するよう求めても、上記主張内容を繰り返すばかりで、請求人は、当該負債の存在及びその返済の事実を明らかにする資料を提出せず、当審判所の調査の結果によっても、上記30,000,000円が何らかの負債の返済に充てられたことをうかがわせるような事実は認められないので、請求人の主張には理由がなく、仮に、請求人の主張のとおりであるとすれば、Hが、本件H普通預金の預金通帳に「F(税金の支払い)」と手書きするはずもない。
D さらに、本件覚書には、前記1の(4)のヲの(ハ)及び(ニ)のとおり、融資を受けL社その他への返済をした後、本件各持分移転登記をもとに戻すことを第一になすべきこととし、そのためには本件M借入金をM銀行以外の金融機関から融資を受け返済する努力をする旨、また、借換えその他諸条件が整い次第登記をもとに戻すことを当事者の間で同意する旨記載されているが、前記1の(4)のチのとおり、本件請求人各持分の各根抵当権設定登記は、平成20年3月7日の解除を原因として、同日に抹消された上、同ニのとおり、Hは、同年5月12日付で本件N借入金の融資を受け、これをもって同月14日付で本件M借入金を返済しているにも関わらず、同リのとおり、本件請求人各持分はHから請求人に戻されていない。
E 以上のとおり、Hの認識及び客観的事実と合わない本件覚書の記載内容は信用することができない。そして、上記Bのとおり、M銀行の担当者が本件売買契約の締結を強制したという請求人の主張は前提を欠くものである上、Hは、前記1の(4)のヲの(イ)のとおり、L社その他への借金返済のため、M銀行a支店に融資の相談をしたところ、自宅の土地及び建物のうち請求人の持分をHに売却することとし、その購入資金としてHに融資するならばできる旨の回答を得たから、請求人の借財を増やさないために本件請求人各持分を買い取るつもりで売買という法形式を選択し、本件売買契約を締結したのであって、そのつもりもないのに請求人と通じて売買の意思表示をしたとも認められないから、本件売買契約は民法第94条第1項に規定する虚偽表示に該当する旨の請求人の主張は理由がない。
(ロ) 請求人とHとの間における金銭貸借の存否について
 請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のハのとおり、Hからの借入れにより入金された148,xxx,xxx円から請求人自身の債務を返済したものであり、Hからの借入れを毎月、Hに対し返済しているのであるから、本件請求人各持分の対価が現実の所得として実現しているという事実は一切ない旨主張する。
 しかしながら、前記1の(4)のハのとおり、本件売買契約書は、請求人及びHにより作成されたものであり、本件売買契約の成立には何らの争いがないのであるから、特段の事情がない限り、本件売買契約書に明記されたとおりに、請求人及びHとの間で、本件請求人各持分をHに対し148,xxx,xxx円で売り渡し、Hがこれを買い受けるという売買契約が成立していたと認めるのが相当であり、当審判所の調査の結果によっても、これを覆すような特段の事情は認められない。さらに、請求人が上記主張を証するものとして当審判所に対し提出した「FとVとの関係」と題する書面及び請求人のVに対する金銭消費貸借契約に基づく未払金の支払請求に係る調停調書には、請求人とVなる人物との金銭貸借関係について記載されているだけで、Hから請求人に対する貸付金及びその返済に関する記載はなく、当審判所の調査の結果によっても、請求人からHへの貸付金の返済がされている事実も認められない。したがって、請求人の主張どおりの事実を認定することはできない。
 また、前記1の(4)のトのとおり、平成20年3月7日に58,824,000円が「Hカリイレヘンサイ」として本件請求人普通預金から出金され、同日に振込手数料を除いた58,823,475円が、本件H普通預金に振り込まれた点について、当審判所が、請求人に対し、説明を求めたところ、請求人は、M銀行からHが融資を受け、一旦請求人が当該融資を受けた金員を受け取ってHが返済すべきノンバンクなどからの借入金の返済や必要なものに使った後の残金をHに返しただけである旨答述するが、一方で、請求人は、この振込みはHに対する従前の借入金について弁済を行ったものであるとも主張しており、これらの請求人の答述と主張とは、整合性がない上、上記ロのCの(A)のとおり、M銀行に対し、平成19年10月から11月にかけて、請求人に資産がある限り請求人がまた借財をする可能性があるので請求人の資産をなくしたいとの考えの下、本件請求人各持分を売買するのでその代金の融資が受けられないかとの相談を持ち掛けたのはH及び請求人であり、前記1の(4)のホのとおり、本件M借入金は本件H普通預金に入金されているのであるから、仮にHが返済すべきノンバンクからの借入金があったとすれば、返済すべき者であるHからの返済の記録を残すため、本件H普通預金から直接出金して各債権者へ返済するのが自然であって(この点は、別表3のとおり、本件請求人普通預金において、出金先の記録が残されていることからも明らかである。)、わざわざ請求人を通じて返済する理由が見当たらないことからすれば、Hが返済すべきノンバンクなどからの借入金があったとする請求人の上記答述は信用することができない。
 以上によれば、Hから請求人に対する振込みは、請求人に対する貸付金であって、この貸付金から自身の債務を返済したものである旨及びこれを前提とした請求人の上記主張には、理由がない。
(ハ) 本件譲渡は所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当するか否かについて
 上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件売買契約は民法第94条第1項に規定する虚偽表示には該当せず、本件売買代金を請求人に対する貸付金と認めることもできない。そして、まる1前記1の(4)のハのとおり、本件売買契約書が請求人及びHにより作成されたことに争いはなく、まる2同ホのとおり、本件売買契約書に記載された金額と同額が、本件H普通預金から出金された後、本件請求人普通預金に入金されたこと、まる3同リのとおり、本件各持分移転登記がされており、その後、本件請求人各持分を請求人に戻す登記がされた事実もないことが認められることからすると、売買契約の締結、売買代金の決済及び持分全部移転登記の事実が存在するのであるから、これら一連の事実は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当することとなる。

トップに戻る

(2) 争点2 分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は概算取得費の金額を上回るか否か。

イ 認定事実
 請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各不動産の取得
 平成13年11月22日に作成されたJの遺言公正証書によれば、別表2の順号1ないし3の各土地、本件居宅及び本件倉庫の各持分は、請求人及びHがJから相続により、また、同4の土地の持分は、前記1の(4)のイのとおり、請求人がKから相続によりそれぞれ取得したものである。
(ロ) 本件居宅の建築に係る各領収証等の記載内容
 本件居宅の建築に係る各領収証は、全てR社がJに宛て発行したもので、平成6年4月22日から平成7年5月1日にわたるものであり、ただし書には「住宅新築工事代金」等と記載され、その各領収証に記載された金額は、平成6年4月22日付が20,000,000円、同年7月1日付が5,000,000円、同年8月29日付が5,000,000円、同年10月31日付が10,000,000円、同年12月19日付が10,000,000円及び5,000,000円、平成7年3月31日付が10,000,000円、同年5月1日付が920,000円であり、その合計額は65,920,000円である。その他、平成6年12月19日付の振込金受取書には、R社に対し15,000,000円を振り込む旨記載されている。
(ハ) 本件倉庫の建築に係る各領収証の記載内容
 本件倉庫の建築に係る各領収証は、全てR社がJに宛て発行したもので、平成4年9月7日のものが2枚であり、ただし書には「倉庫工事代金」又は「倉庫工事代金一部」と記載され、その各領収証に記載された金額はいずれも7,000,000円であり、その合計額は14,000,000円である。また、本件倉庫の平成8年の修理に係る領収証には、工事代金が3,500,000円と記載されている。
(ニ) 造成費に係る各領収証の記載内容
 本件居宅及び本件倉庫の建築の際に支払われた造成費の各領収証は、Y又はY社が発行し、ただし書には「宅地造成代金」等と記載され、その各領収証に記載された金額は、平成4年7月30日付が110,000円、平成5年10月15日付が594,000円、平成6年3月24日付が1,400,000円、同月25日付が1,050,000円、同年7月28日付が700,000円であり、その合計額は3,854,000円である。
(ホ) 本件居宅及び本件倉庫の建築に係る各領収証とともに提出された見積書
 R社が作成したJ宛の平成6年3月10日付の見積書には、工事名が「住宅新築工事」、工事場所が「a市中部土地区画整理事業内仮換地番○○○○」、工期が「6年5月1日〜7年3月末日」、見積金額が「74,000,000円」と記載されている。また、同社が作成したJ宛の平成8年4月25日付の見積書には、工事名が「倉庫新築工事」、工事場所が「a市d町○−○他」、見積金額が「9,270,000円」と記載されている。
(ヘ) 自宅解体工事及び上棟祝等諸雑費に係る各領収証の記載内容
 自宅解体工事に係る領収証は、R社がJに宛て発行したもので、ただし書には「自宅解体工事一式」と記載され、その領収証に記載された金額は、平成5年1月22日付で1,025,000円である。そして、上棟祝等諸雑費に係る各領収証は、S社、T社、U社やコンビニエンスストアが発行し、平成5年4月5日から平成6年6月28日にわたるものであり、ただし書には「上棟式祝餅代」、「ビール代」等と記載され、その各領収証に記載された金額の合計額は1,243,143円である。
(ト) 本件更正処分における取得費の額
 原処分庁は、本件更正処分において、請求人が、本件居宅及び本件倉庫の取得に要した金額を証する契約書、領収証等を提出しておらず、また、別表2の順号1ないし4の各土地(以下「本件各土地」という。)の取得費の額も不明であるので、措置法第31条の4第1項及び「措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」の31の4−1を適用して、本件売買代金の金額の100分の5に相当する金額を取得費とした。
(チ) 上記(ロ)の振込金受取書に記載された金額に関して請求人の答述から認められる事実
 請求人の当審判所に対する答述によれば、上記(ロ)の振込金受取書は、平成6年12月19日付の各領収証に記載された金額10,000,000円及び5,000,000円の支払に係るものと認められる。
ロ 本件請求人各持分に係る取得費の額
(イ) 本件各土地について
 措置法第31条の4第1項は、個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の取得費を概算取得費による旨、また、そのただし書で、概算取得費がその土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額に満たないことが証明された場合には、当該合計金額とする旨規定しているところ、前記1の(4)のイ及び上記イの(イ)のとおり、本件各土地は、Jが昭和23年7月○日に相続により取得したもので、請求人がこれをJ又はKから相続により取得したので、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項第1号の規定により、譲渡所得の金額の計算については、請求人が引き続き所有していたものとみなされることとなるが、請求人から本件各土地の取得費を明らかにする証拠の提出はなく、当審判所の調査の結果によっても本件各土地の実際の取得費は不明なため、本件各土地の取得に要した金額と改良費の額の合計額は、上記イの(ニ)の造成費の額3,854,000円のみによらざるを得ず、一方で、本件各土地の請求人の各持分の概算取得費の額を算出すると、本件売買契約書には、本件売買代金の内訳が記載されていないものの、上記(1)のロの(ハ)のとおり、本件各土地の請求人の各持分の売買代金は、別表2の順号1ないし3の各土地の価額113,266,000円及び同4の土地の価額28,247,000円の合計額141,513,000円であるから、当該金額の100分の5に相当する金額が本件各土地の請求人の各持分の取得費の額となり、その金額は7,075,650円となる。
 以上によれば、本件各土地の請求人の各持分の概算取得費の額が本件各土地の取得に要した金額と改良費の額の合計額3,854,000円を上回っているから、本件各土地の請求人の各持分の取得費の額は7,075,650円となる。
(ロ) 本件居宅及び本件倉庫について
 まず、本件居宅及び本件倉庫は、上記イの(イ)のとおり、請求人及びHがJから相続により取得したものであるから、所得税法第60条第1項第1号の規定により、譲渡所得の金額の計算については、請求人及びHが引き続き所有していたものとみなされる。
 次に、本件居宅及び本件倉庫の建築に際して支払われた金額が概算取得費を上回る場合には、実際に支払われた金額を基にその取得費の額を計算することとなるところ、まる1上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人から当審判所に対し提出された各領収証がJ宛であること、前記1の(4)のイのとおり、本件居宅は平成7年5月に、本件倉庫は平成4年に新築され、上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人から当審判所に対し提出された各領収証の日付が、それぞれの新築された時期と符合していることから、当該各領収証に記載された各金額は本件居宅及び本件倉庫の建築のために支払われた金額と認められること、まる2当該各領収証に記載された各金額の合計額(別表4の「建築費の総額」欄の各金額)は、本件居宅及び本件倉庫の概算取得費の金額(6,7xx,xxx円(上記(1)のロの(ハ))×5%=3xx,xxx円)を上回ることからすると、本件居宅及び本件倉庫の取得費の額は、当該各領収証に記載された各金額を基礎として計算することとなる。
 なお、上記イの(ホ)の各見積書に記載された金額は、実際に本件居宅及び本件倉庫の取得のために支払われた金額であることを証するものではないから、ここに記載された金額をもって、本件居宅及び本件倉庫の取得のために要した金額を示すものと認めることはできない。また、上記イの(チ)のとおり、上記イの(ロ)の振込金受取書は平成6年12月19日付の各領収証に記載された金額10,000,000円及び5,000,000円の支払に係るものと認められるので、当該振込金受取書に記載された15,000,000円を本件居宅の工事代金に合算することはできない。さらに、同(ニ)の宅地造成に係る費用は、土地の造成工事に係る支払であって、本件居宅及び本件倉庫の取得費に該当するとは認められないし、同(ヘ)の自宅解体工事に係る費用及び上棟祝等諸雑費は、その記載内容から、本件居宅及び本件倉庫の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額に該当すると認めることもできない。
 そして、本件居宅及び本件倉庫は減価償却資産であるので、譲渡所得の計算上控除すべき取得費の額の算定に当たっては、前記1の(3)のハのとおり、償却費相当額を控除して計算すべきである。
 そうすると、本件各建物請求人持分の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額を算定すると、別表4の「合計」欄の「請求人の持分に係る取得費の額」欄のとおり、○○○○円となる。
(ハ) 小括
 上記(イ)及び(ロ)によれば、本件売買契約に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は、本件各土地の請求人の各持分に係る取得費7,075,650円と本件各建物請求人持分に係る取得費○○○○円の合計額○○○○円となる。
ハ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、前記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、請求人が、本件審査請求に至り、請求人が明らかにした請求人の主張及び各証拠には疑義があることから、当該各証拠に記載された金額をもって、直ちに本件各建物請求人持分の取得に要した金額に該当する旨判断することはできないと主張するので、原処分庁が疑義があるとする点について検討した結果は、以下のとおりである。
(イ) 前記3の(2)の「原処分庁」欄のイのうち、領収証と重複する振込金受取書が混在している旨主張する点以外の主張
A 原処分庁が、本件居宅及び本件倉庫の工事に係る領収証は、支払時期が平成4年9月7日付ないし平成8年2月13日付のものであり、当該各領収証の記載額の全てが本件居宅及び本件倉庫の取得に要した金額であることが確認できない旨主張する点については、上記ロの(ロ)のとおり、当該各領収証に記載された各金額は、本件居宅及び本件倉庫の建築のために支払われたと認められるのであるから、これを採用することができない。
B 同一日付で同額の領収証が複数枚存在する旨主張する点は、確かに、当該主張のとおり、平成4年9月7日付で、金額が7,000,000円、発行者をR社といずれも記載された領収証が2枚存在するが、上記ロの(ロ)のとおり、当該各領収証に記載された各金額は、本件倉庫の建築のために支払われたと認められ、他に当該各金額が本件倉庫の建築のために支払われなかったとする証拠は認められないのであるから、原処分庁の上記主張は採用することができない。
(ロ) 前記3の(2)の「原処分庁」欄のニの主張
 原処分庁は、本件居宅及び本件倉庫の見積書として請求人が提出した平成8年4月25日付の見積書に記載の工事場所と平成6年3月10日付の見積書に記載の工事場所が異なっている旨主張するが、本件各建物請求人持分の取得に要した費用の額は、請求人が当審判所に対し提出した各領収証に記載された金額を基に算定しており、上記ロの(ロ)のとおり、当該各見積書に記載された金額は、実際に本件居宅及び本件倉庫の取得のために支払われた金額であることを証するものではないから、ここに記載された金額をもって、本件居宅及び本件倉庫の取得のために要した金額を示すものと認めることはできないのであり、原処分庁の主張をもって、本件居宅及び本件倉庫の取得のために要した金額を左右するものではない。
(ハ) 前記3の(2)の「原処分庁」欄のイのうち、領収証と重複する振込金受取書が混在している旨主張する点並びに同ロ、同ハ及び同ホの主張
 原処分庁が、前記3の(2)の「原処分庁」欄のイの領収証と重複する振込金受取書が混在している旨主張する点、同ロの宅地造成に係る費用は、本件各不動産のうち土地の取得費に該当する可能性がある旨主張する点、同ハの上棟祝等諸雑費は、本件居宅及び本件倉庫の取得に要した金額であることが確認できない旨主張する点及び同ホの本件各建物請求人持分に係る取得費の計算に当たっては、償却費相当額を控除しなければならない旨主張する点については、上記ロのとおり、相当と認められる。

トップに戻る

(3) 本件更正処分の適法性

イ 分離長期譲渡所得の金額
 本件請求人各持分は、前記1の(4)のイのとおり、平成20年1月1日現在において、請求人が所有していた期間が5年を超えていると認められるので、本件請求人各持分を譲渡したことによる所得は、措置法第31条に規定する分離長期譲渡所得となり、分離長期譲渡所得の金額を計算すると、次の(イ)から(ロ)及び(ハ)を控除した金額○○○○円となる。
(イ) 総収入金額
 本件請求人各持分の譲渡に係る総収入金額は、前記1の(4)のハのとおり、148,xxx,xxx円である。
(ロ) 取得費の額
 本件請求人各持分の譲渡に係る取得費の額は、上記(2)のロのとおり、○○○○円である。
(ハ) 譲渡に要した費用の額
 本件請求人各持分の譲渡に要した費用の額について、請求人は、その存在を明らかにする資料を提出しておらず、当審判所の調査の結果によっても、これを明らかにすることはできない。
 したがって、本件請求人各持分の譲渡に要した費用の額は○○○○円である。
ロ 総所得金額及び退職所得の金額
 総所得金額及び退職所得の金額は、請求人の申告額どおりであり、○○○○円及び○○○○円である。
ハ 所得控除の額
 当審判所の調査の結果によれば、請求人が平成20年中に支払った社会保険料の額は、源泉徴収票に記載された○○○○円の他、国民健康保険料120,600円であることが認められ、社会保険料控除の額は○○○○円となり、他に、請求人の確定申告のとおり、基礎控除380,000円があるので、所得控除の額は、これらを合計した金額○○○○円となる。
ニ 納付すべき税額
 上記イないしハに基づいて、平成20年分の納付すべき税額(100円未満切捨て)を算定すると、別表5の「納付すべき税額」欄のとおり、○○○○円となる。
ホ 結論
 上記ニのとおり、平成20年分の納付すべき税額は、本件更正処分の税額を下回ることとなるから、本件更正処分は、その一部が取り消されるべきである。

(4) 本件賦課決定処分の適法性

 上記の(3)のホのとおり、本件更正処分は、その一部が取り消されるべきであるから、無申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額を改めて算定すると、別表5の「加算税の基礎となる税額」欄のとおり、○○○○円となり、この税額の計算の基礎となった事実のうちに、国税通則法第66条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、平成20年分の無申告加算税の額は、別表5の「無申告加算税の額」欄のとおり、○○○○円となり、本件賦課決定処分の税額に満たない。
 したがって、本件賦課決定処分は、その一部が取り消されるべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る