(平成23年12月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、軽油の購入額の全額を消費税の課税仕入れに係る支払対価の額として確定申告をしたところ、原処分庁が、同購入額のうち軽油引取税の名目での支払額は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとして原処分を行ったのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成19年8月1日から平成20年7月31日まで、平成20年8月1日から平成21年7月31日まで及び平成21年8月1日から平成22年7月31日までの各課税期間(以下、順次「平成20年7月課税期間」、「平成21年7月課税期間」及び「平成22年7月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)について、審査請求(平成23年5月17日請求)に至る経緯及び内容は、別表1記載のとおりである。
 なお、請求人は、国税通則法第11条《災害等による期限の延長》に基づき、災害等により審査請求をできない場合の期限の延長措置の適用を受けた。

(3) 関係法令

 別紙4のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、建築及び土木資材の販売業を営む法人である。
ロ 請求人は、本件各課税期間において、F社及びG社(以下、F社と併せて「本件各仕入先」という。)から軽油を購入していた。
ハ 原処分庁は、本件各仕入先からの軽油の購入額のうち別表2−1から別表2−3までに記載した各金額(以下「本件各金額」という。)について、軽油引取税として区分された支払額は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとして、本件各更正処分等をした。
ニ F社は、請求人に販売した軽油について、その内訳として、軽油の販売の合計金額を「商品計」に、軽油の販売数量に軽油引取税の税率を乗じた額の合計金額を「軽油税計」に、軽油の販売に対する消費税等の額の合計金額を「消費税計」にそれぞれ記載した各請求書を販売した月の末日付で請求人あてに発行した。
 なお、F社に関する本件各金額は、当該各請求書に「軽油税計」としてそれぞれ記載された金額であり、他社が請求人名義で購入した軽油に係る軽油引取税の金額は含まれていない。
ホ G社は、請求人に販売した軽油について、その内訳として、軽油の販売数量に軽油引取税の税率を乗じた額の合計金額を「軽油引取税額」に、「軽油引取税額」として記載された金額を除いた軽油及び軽油以外の商品の販売に対する消費税等の額の合計金額を「消費税額」に、「軽油引取税額」及び消費税等の額を含んだ軽油の販売の合計金額を「軽油」にそれぞれ記載した各請求書を販売した月の末日頃に請求人あてに発行した。
 なお、G社に関する本件各金額は、当該各請求書に「軽油引取税額」としてそれぞれ記載された金額である。

(5) 争点

 本件各金額は、課税仕入れに係る支払対価の額に該当するか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 軽油引取税は、軽油引取税の特別徴収義務者又は同特別徴収義務者と委託販売契約を締結した業者から軽油を引き取る場合に当該軽油を引き取る者に課されるのであるから、この場合における軽油引取税に相当する額は資産の譲渡等の対価に該当せず、また、課税仕入れに係る支払対価の額にも該当しない。
ロ 本件各仕入先が請求人あてに発行した各請求書には、軽油引取税が区分して記載され、当該軽油引取税とは別に、軽油の対価及び当該対価に対応する消費税等の金額が記載されていることから、本件各仕入先は、特別徴収義務者又は同特別徴収義務者と委託販売契約を締結した業者に当たると認められる。
 したがって、本件各金額は軽油引取税であると認められるから、課税資産の譲渡等の対価の額に当たらず、課税仕入れに係る支払対価の額にも当たらない。
ハ 請求人が引用する裁決は、その前提条件となる事実が必ずしも明らかでなく、本件については上記イ及びロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(2) 請求人

イ 本件各金額が課税仕入れに係る支払対価の額に該当するか否かを判断するに当たっては、本件各仕入先が軽油引取税の特別徴収義務者又は同特別徴収義務者と委託販売契約を締結した業者であるか否かは関係がない。
 軽油の購入額として総額幾らを支払ったかで課税仕入れに係る支払対価の額が決まるのであり、請求人が軽油引取税の名目で支払った金額も、課税仕入れに係る支払対価の額に該当する。
 したがって、本件各仕入先が請求人あてに発行した各請求書に軽油引取税が記載されていることをもって、本件各金額が課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとする原処分は誤りである。
ロ 平成9年5月28日裁決(大裁 (諸)平8第117号)において、一般のガソリンスタンドが軽油引取税相当額として軽油の購入者から受け取る金額は、課税資産の譲渡等に当たるとされており、本件各金額についても同裁決と同様に解すべきである。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 消費税法第2条第1項第12号は、課税仕入れとは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう旨規定しているところ、租税は、法律の定めに基づいて課されるものであるから対価性はなく、他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けるものではない。したがって、納税義務者の租税の支払は課税仕入れに係る支払対価の額には該当しないと解される。
 軽油引取税は、法律の定めに基づいて課される租税であるから、軽油引取税を納税義務者として支払う場合には、軽油引取税に相当する金額は、課税仕入れに係る支払対価の額には該当しないと解するのが相当である。
ロ 地方税法第144条の2第1項は、軽油引取税の納税義務者を、特約業者又は元売業者(以下、両者を併せて「特約業者等」という。)から軽油を引き取る者と定めている。したがって、本来であれば、当該軽油を引き取る者が納税義務者として直接、軽油引取税を納入すべきところ、徴収方法の合理化、簡素化等の理由から、同法第144条の13及び第144条の14により、特約業者等が、その主たる事務所又は事業所が所在する道府県知事から指定を受けて特別徴収義務者となり、その者が軽油引取税を徴収し、かつ、納入するものとされている。そうすると、特別徴収義務者である特約業者等から軽油を引き取る者が特約業者等に対して支払う軽油引取税に相当する金額は、特約業者等が納税義務者から租税として預かったものにすぎず、軽油の対価ではない。
 また、軽油を販売する業者が特約業者等でなくとも、特約業者等との間で委託販売契約を締結し、同契約に基づいて販売をしていることの経理処理を行う業者(以下「受託販売業者」という。)の場合には、受託販売業者は、自己の名において委託者である特約業者等の計算で販売を行い、自らは委託者である特約業者等から手数料を受領しているにすぎないから、受託販売業者が委託販売契約に基づいて軽油を販売した場合も特約業者等の場合と同様に、受託販売業者が受け取った軽油引取税に相当する金額は預り金にすぎず軽油の対価ではない。
 よって、特別徴収義務者である特約業者等又は受託販売業者から軽油を引き取る者が当該特約業者等又は受託販売業者に支払う軽油引取税に相当する金額は、納税義務者としての租税の支払であり、課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないと解される。一方、当該特約業者等又は受託販売業者ではない者から軽油を引き取る者が支払う軽油引取税に相当する金額は、課税仕入れに係る支払対価の額に該当すると解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ F社は、特約業者であり、軽油引取税の特別徴収義務者の指定を受けている。
ロ G社は、軽油引取税の特別徴収義務者の指定を受けておらず、軽油の販売に関し、特約業者等との間で委託販売契約を締結していない。
ハ 請求人は、平成21年6月にF社からの軽油購入代金のうち他社が請求人名義で購入した152,015円について、当該他社から同年8月に同金額の返還を受けている。同金額は請求人においては立替金となることから課税仕入れに係る支払対価の額には該当しないところ、請求人は会計処理を誤り、平成21年7月課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額としており、平成22年7月課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額からは減算していた。

(3) 判断

イ F社からの軽油の購入について
 F社は、上記(2)イのとおり、特約業者であるから、F社に関する本件各金額は、請求人が納税義務を負う軽油引取税であって、購入した軽油の対価ではない。したがって、F社に関する本件各金額は、課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない。
ロ G社からの軽油の購入について
 G社は、上記(2)ロによれば、軽油引取税の特別徴収義務者、特約業者等又は受託販売業者のいずれにも該当しないと認められる。したがって、請求人は、G社からの軽油の購入に関しては、軽油引取税の納税義務を負わないから、G社に関する本件各金額は、上記1(4)ホのとおり、G社が請求人あてに発行した各請求書に軽油引取税として区別して記載されていたとしても軽油の対価の一部であり、課税仕入れに係る支払対価の額に該当する。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、軽油の購入額として総額幾らを支払ったかで課税仕入れに係る支払対価の額が決まるのであり、仕入先が特別徴収義務者などであるか否かは関係ない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)イのとおり、納税義務者が支払う租税は課税仕入れに係る支払対価の額ではないから、軽油引取税として区分される金額が課税仕入れに係る支払対価であるか否かは、軽油を引き取る者が軽油引取税の納税義務者となるか否かによるのであり、また、納税義務者となるか否かは、軽油を販売する業者が特別徴収義務者である特約業者等又は受託販売業者であるか否かによるのであるから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
(ロ) また、請求人は、一般のガソリンスタンドが軽油引取税相当額として購入者から受け取る金額は課税資産の譲渡等の対価の額に該当すると判断した裁決を引用して、本件各金額についても同様に解すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記裁決は、特別徴収義務者である特約業者等又は受託販売業者に該当しない業者が軽油を販売した場合について判断したものであり、F社に関する本件各金額については、F社が特約業者であって事実が異なることから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(4) 本件各更正処分等について

イ 本件各更正処分について
 上記(3)イ及びロのとおり、F社に関する本件各金額は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないが、G社に関する本件各金額は課税仕入れに係る支払対価の額に該当することになる。また、上記(2)ハのとおり、平成21年7月課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額から152,015円を減算し、同額を平成22年7月課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に加算すべきである。
 そうすると、本件各課税期間の消費税等の税額については、いずれも別紙1から別紙3までの「取消額等計算書」の「課税標準額及び税額等の計算」欄記載のとおりとなり、いずれも原処分の額を下回るから、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1から別紙3までのとおり取り消すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分はいずれもその一部を取り消すべきであるから、そうすると平成20年7月課税期間については、その過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円になるところ、国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により附帯税の額の計算の基礎となる税額が1万円未満であるときにはその全額を切り捨てることとなり、平成21年7月課税期間及び平成22年7月課税期間については、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定により各課税期間の過少申告加算税の額を計算するといずれの課税期間も○○○○円になるところ、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、過少申告加算税の額が5,000円未満であるときにはその全額を切り捨てることとなるので、本件各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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