(平成23年10月12日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、差押えをしていた不動産について公売公告処分をしたのに対し、請求人が、当該公売公告処分は、公売の対象とすべきではない不動産を対象としたものであるから、違法、不当であるなどと主張して、その処分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人の滞納国税について、D税務署長から、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成14年11月25日付、平成15年7月25日付及び平成15年8月25日付で順次、徴収の引継ぎを受けた。
ロ 請求人の滞納国税は、平成19年9月18日現在、別表記載のとおりとなっていたところ(以下、別表記載の滞納国税を「本件滞納国税」という。)、原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、同日付で、別紙不動産目録記載の各土地及び各建物(以下、これらを併せて「本件各不動産」という。)の差押えをし、その後、平成22年○月○日付で、本件各不動産を公売する旨の公売公告処分(以下「本件公売公告処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件公売公告処分を不服として、平成22年8月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月1日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成22年10月29日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第94条《公売》第1項は、税務署長は、差押財産を換価するときは、これを公売に付さなければならない旨規定し、同条第2項は、公売は、入札又は競り売りの方法により行わなければならない旨規定している。
ロ 徴収法第95条《公売公告》第1項は、税務署長は、差押財産を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに、次の各号に掲げる事項(以下「公売公告事項」という。)を公告しなければならない旨規定し、同条第2項は、同条第1項の公告は、税務署の掲示場その他税務署内の公衆の見やすい場所に掲示して行う旨規定している。

  1. 第1号 公売財産の名称、数量、性質及び所在
  2. 第2号 公売の方法
  3. 第3号 公売の日時及び場所
  4. 第4号 売却決定の日時及び場所
  5. 第5号 公売保証金を提供させるときは、その金額
  6. 第6号 買受代金の納付の期限
  7. 第7号 公売財産の買受人について一定の資格その他の要件を必要とするときは、その旨
  8. 第8号 公売財産上に質権、抵当権、先取特権、留置権その他その財産の売却代金から配当を受けることができる権利を有する者は、売却決定の日の前日までにその内容を申し出るべき旨
  9. 第9号 上記各号に掲げる事項の他、公売に関し重要と認められる事項

ハ 徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》は、通則法第43条第3項の規定により国税局長が徴収の引継ぎを受けた場合におけるこの法律の規定の適用については、「税務署長」又は「税務署」とあるのは、「国税局長」又は「国税局」とする旨規定している。
ニ 農地法第3条《農地又は採草放牧地の権利移動の制限》第1項は、同項各号に該当する場合及び同法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》第1項本文に規定する場合を除き、農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない旨規定し、同条第7項では、当該許可を受けないでした行為は、その効力を生じない旨規定している。

(4) 基礎事実

 本件公売公告処分は、平成22年○月○日に、要旨次の事項をC国税局の掲示場に掲示して行われた。
イ 売却区分番号 ○−○
ロ 公売財産の名称、数量、性質及び所在 別紙不動産目録記載のとおり
ハ 公売の方法 期間入札
ニ 公売の日時 平成22年○月○日から同年○月○日まで
ホ 公売の場所 C国税局公売場
ヘ 売却決定の日時 平成22年○月○日午前10時00分
ト 売却決定の場所 C国税局公売場
チ 公売保証金 ○○○○円
リ 買受代金の納付の期限 平成22年○月○日午後2時00分
ヌ 買受人の資格 徴収法第92条又は第108条に抵触しない者
ル 公売財産上の質権者、抵当権者等の権利の内容の申出 公売財産の売却代金から配当を受けることができる権利を有する者は、売却決定の日の前日までにその内容を申し出るべき旨
ヲ 公売財産上の賃借権等の権利の内容 第三者が使用している

(5) 争点

 本件公売公告処分には、公売の対象とすべきではない財産を対象とした違法、不当があるか否か。また、本件公売公告処分は、そのための調査手続が違法であることにより違法であるか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 本件各不動産は農地を含むものであるところ、請求人は、当該農地を平成12年頃から賃貸している。そして、その賃貸借は、本件公売公告処分に基づく落札人である新たな所有者に対抗できるのであるから、本件各不動産が公売された場合には、当該農地の賃借人と落札人である新たな所有者との間で法的な係争が起こることが予想される。
 国が公売を行う場合においては、このような紛争の要因をはらむものをその対象とすべきではないのであるから、本件各不動産を公売公告処分の対象としたことは誤りであり、本件公売公告処分は違法、不当である。
 なお、公売の対象とすべきではない本件各不動産をその対象としたのは、本件各不動産に対する権利関係の調査が十分に行われていなかったことに原因があると思われる。
 また、本件公売公告処分に先立って原処分庁が撮影した本件各不動産に係る写真の撮影場所について、原処分庁はその当時撮影場所を占有していたE社から許可を得て撮影したとしているが、当該撮影場所はF社が請求人から賃借している場所である。このように原処分庁がその撮影場所の権利関係を誤ったのも、本件各不動産に対する権利関係の調査が十分にされていなかったことに原因がある。
 本件公売公告処分に当たって、原処分庁は、そこに存する権利関係を調査するのが当然であるが、上記のように、本件各不動産については十分な調査が行われていないというべきである。
 したがって、本件公売公告処分は、不十分な調査に基づく処分であり、その手続に違法がある。
 さらに、原処分庁が行った上記写真撮影は正規の賃借人の同意のないままその敷地内に立ち入って撮影された違法なものであるから、本件公売公告処分は違法収集されたものを前提としたものというべきであり、その手続に違法がある。

(2) 原処分庁

 徴収法においては、賃借権が設定されている不動産を公売に付してはならないとの規定はないから、賃貸借の事実があるとしても本件各不動産を本件公売公告処分の対象としたことに誤りがある旨の請求人の主張には根拠がない。
 また、差押えは、滞納者の特定の財産について、法律上又は事実上の処分を禁止する効力を有するものであり、差押え後におけるその財産の譲渡や賃借権等の用益物権の設定等の法律上の処分は、差押債権者である国に対抗することはできないから、換価財産について差押え後に所有権や賃借権を取得した者は、その換価財産の買受人に対抗して権利を主張することはできないことになる。請求人が主張する請求人とF社との間の賃貸借について、F社がその権利の設定に関して農地法第3条の許可を受けたのは平成22年1月○日であり、本件各不動産について原処分庁が差押えを行った平成19年9月18日当時、F社が無権限者であることは明らかである。
 さらに、本件公売公告処分に先立って原処分庁が撮影した本件各不動産に係る写真については、この写真の撮影場所をその当時占有していたE社から許可を得て撮影したものであり、その撮影は違法なものではない。なお、本件各不動産に係る原処分庁の調査は適法に行われているが、公売の対象財産の調査におけるその財産の権利者に対する許可の有無は、公売の法令上の要件とは関係がないことから、仮に違法性が認められたとしても公売を中止すべき理由とはならない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 公売とは、差押財産の売却を買受希望者の自由競争に付し、その結果形成される最高の価額を売却価額とし、最高の価額での買受けの申込みをした者を買受人として決定する一連の手続である。そして、徴収法第94条第1項が差押財産を換価するときは公売に付さなければならない旨規定している趣旨は、差押財産を買受希望者の自由競争に付すことが、差押財産の換価の公正を担保することになると考えられるとともに、最も高価に売却することができ、差押財産の所有者や国等の権利関係人にとって有利になると考えられることにあるものと解される。さらに、徴収法第95条第1項が公売に先立って公売公告事項を公告しなければならない旨規定している趣旨は、公売に先立って、公売財産(公売に付す差押財産)を特定するとともに、売却決定日時や公売保証金の要否、買受代金の納付期限及び公売財産の権利関係などの買受人の負担等を広く周知することによって、公売財産の需要を喚起し、高価での買受申込みを誘引するとともに、買受希望者に対して入札するか否かの判断資料を提供することにあると解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各不動産の差押えが行われた平成19年9月18日現在の登記簿上の所有者は請求人であり、その後、所有者が異動した事実はない。
ロ 本件公売公告処分の時点でE社及びF社は、本件各不動産の一部をそれぞれ使用している。
ハ 本件各不動産のうち、別紙不動産目録の番号まる1からまる3まる6まる7まる9まる12まる13まる15からまる18及びまる21からまる29については、平成19年5月○日付で、E社への所有権の移転について農地法第3条の許可がされているが、E社への所有権の移転登記は経由されていない。
ニ 請求人が当審判所に提出した平成17年5月31日付の「土地賃貸借契約書」と題する書面には、請求人がF社に対して、本件各不動産を賃貸する旨の記載があり、本件各不動産のうち、別紙不動産目録の番号まる1まる2まる6まる7まる13まる16まる22及びまる24からまる27については、平成22年1月○日付で、F社を借主とする賃借権の設定について農地法第3条の許可がされている。

(3) 本件公売公告処分固有の違法の有無について

 徴収法第95条は、差押財産を公売する場合には、公売の日の少なくとも10日前までに、公売公告事項を公告しなければならない旨規定しているところ、上記1の(4)からすれば、本件公売公告処分は、その公売の初日である平成22年○月○日の10日以上前である平成22年○月○日に、公売公告事項をC国税局の掲示場に掲示して行われていることが認められる。
 なお、上記1の(4)のヲのとおり、公売財産上の賃借権等の権利の内容として、「第三者が使用している」旨の記載の程度については、上記(2)のロのとおり、本件公売公告処分の時点において、E社及びF社が本件各不動産の一部をそれぞれ使用しており、同ハに記載の番号の各土地の所有権の移転について、E社は平成19年5月○日付で農地法第3条の許可を得ているにも関わらず、所有権の移転登記が経由されておらず、登記簿上の所有者は同イのとおり請求人のままであること、また、F社を借主とする同ニに記載の番号の各土地の賃借権の設定について農地法第3条の許可がされていることからすれば、原処分庁は本件各不動産を使用する権原が明らかでなかったことにより「第三者が使用している」と記載したものと考えられ、その記載の程度が公売公告事項として適切でないということはできない。そうすると、その他の公売公告事項についても徴収法第95条第1項の規定に基づき適切に記載されていることから、本件公売公告処分に記載不備の違法はない。
 また、通則法第46条《納税の猶予の要件等》の規定による納税の猶予や徴収法第151条《換価の猶予の要件等》の規定による換価の猶予がされている場合など一定の場合には、公売を行うことができないが、本件においては、公売が禁止される場合に該当する事実があったとは認められない。
 さらに、徴収法第90条《換価の制限》は、一定の場合に、換価が制限される旨規定しているが、本件においては、同条が規定する換価が制限される場合に該当する事実は認められない。なお、徴収法第75条《一般の差押禁止財産》から同法第78条《条件付差押禁止財産》は、一定の財産について差押えを禁止しており、また、一身専属的な権利やその性質から差押えが禁止される財産については、差し押さえることができないから、誤ってこれらの財産を差し押さえた場合、その財産についての公売を行うことは許されないと解されるが、本件各不動産は、これらの差押禁止財産に当たらない。
 したがって、本件公売公告処分に固有の違法はないと認められる。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、本件各不動産は農地を含むものであるところ、当該農地には平成12年頃から賃貸借の事実があり、その賃貸借は、本件公売公告処分に基づく落札人に対抗できるのであるから、本件各不動産が公売された場合には、その落札人と賃借人との間で法的な係争が起こることが予想され、このような紛争の要因をはらむものを公売の対象とすべきではなく、本件各不動産を公売公告処分の対象としたことは誤りであり、本件公売公告処分は違法、不当である旨主張し、その主張に沿う証拠として、上記(2)のニの土地賃貸借契約書を当審判所に提出している。
 しかしながら、本件各不動産を公売に付した場合に、その落札人と賃借人との間で何らかの紛争が起こり得るから財産の差押えを禁止する規定や公売を禁止する旨の法令上の規定はないから、公売後にその落札人と賃借人との間で紛争が起こり得るとしても財産の公売を違法とする理由はなく、また、請求人が主張する内容をもって財産の公売を不当とする事情もないことから、本件公売公告処分を違法、不当とする理由はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 次に、請求人は、本件各不動産の落札人に対抗できる賃借権についての調査が十分に行われていなかった旨主張する。
 しかしながら、上記(3)で判断したとおり、本件公売公告処分に記載不備の違法はなく、原処分庁は本件各不動産の権利関係について調査した結果に基づいて、公売公告に本件各不動産は「第三者が使用している」と記載したものと考えられるから、徴収法第95条第1項に規定する公告事項に関しての必要な調査は実施していると認められる。
 さらに、請求人は、原処分庁所属の徴収担当職員が本件各不動産を撮影した場所はF社が請求人から賃借している場所であり、賃借人の同意を得ず敷地内に立ち入って違法収集されたものを前提として本件公売公告処分がされており、調査手続に違法がある旨主張する。確かにF社は、上記(2)のニのとおり、農地法第3条の許可において本件各不動産の一部に設定されている賃借権の借主であり、原処分庁はF社の同意を得ず敷地内に立ち入って写真撮影を行ったと認められるが、公売対象財産の調査が公売公告処分の要件とされていないことからすれば、そのことをもって本件公売公告処分を違法とすべき理由はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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