(平成24年1月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が提出した所得税の修正申告書について、原処分庁が過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該修正申告書は調査があったことにより提出したものではないから加算税を課すことは違法であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成23年3月20日に、平成22年10月22日付でされた平成19年分及び平成20年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分について審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は別表記載のとおりである。

(3) 関係法令

 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同条第5項は、同条第1項の規定は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、適用しない旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成18年頃から、C税理士(以下「本件関与税理士」という。)に対し、請求人の所得税に関する税理士法第2条《税理士の業務》第1項に規定する業務を委任していた。
ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成21年9月に、請求人に係る所得税の調査に着手した。
ハ 調査担当職員は、平成21年11月5日に請求人及び本件関与税理士と面接し、請求人に対し、国内における株式等に係る譲渡所得等の申告漏れを指摘した。
ニ 原処分庁は、平成21年11月6日付で、国税庁を通じてD国○○庁に対し、租税条約に規定する情報交換制度(以下「情報交換制度」という。)に基づく個別的情報提供の要請をした。
ホ 請求人は、平成21年12月4日に、上記ハの申告漏れについて平成18年分及び平成19年分の修正申告書を提出した(以下、この修正申告書を「当初修正申告書」という。)。
ヘ 請求人は、D国○○庁から、国税庁からの要請に対し回答する旨等が英文で記載された平成22年3月29日付の「○○○○」と題する通知文書(以下「本件通知文書」という。)を受け取った。
ト 請求人は、請求人が国外に所有する資金の運用に係る雑所得(以下「本件国外所得」という。)の申告漏れがあったとして、平成22年4月28日に、平成19年分及び平成20年分の各修正申告をした(以下「本件各修正申告」といい、本件各修正申告に係る申告書を「本件各修正申告書」という。)。

(5) 争点

 本件各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるか否か。

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2 主張

(1) 請求人

イ 調査の存否について
 請求人は、平成21年秋に税務調査を受けた際、調査担当職員との間で、国内・国外の個人所得に関する様々な会話(国外送金資料に基づく資金運用等についての質問、関係資料の保存がないため情報交換制度を利用してほしい旨の申出等を含む。)を交わしたが、最終的に、調査担当職員から「株式等の売却益等の誤りに係る修正申告をもって今般調査の全てを終了する。」との言葉を受け、当初修正申告書を提出した。当然ながら、請求人は当初修正申告書の提出をもって請求人の所得に関する調査は国内・国外を問わず全て終了したものと認識している。
 もし、請求人の申告に誤りがあれば、原処分庁は課税要件事実に係る証拠に基づき所得金額及び税額を再計算して請求人に知らせて修正申告をしょうようするなどして新たな納税額等を確定させるべきであるが、原処分庁にそのような行動はなく、本件各修正申告書は、当初修正申告書の提出によって調査が全て終了した後に、請求人自らの判断で提出したものである。
 したがって、本件各修正申告書はいずれも通則法第65条第5項に規定する「調査があったこと」により提出したものではない。
ロ 更正の予知について
 仮に、本件各修正申告書について、調査があったことにより提出されたとみるべきであるとしても、次の理由から、本件各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
(イ) 請求人は、本件関与税理士から、申告に不適切な点があれば自ら進んで是正するのが申告納税制度の本来の姿であると指導を受け、請求人もそのように理解して、当初修正申告書の提出後、自らのつてを頼って自主的に国外に所有する資金の調査を行い、原処分庁から本件国外所得の金額に関する課税要件事実の開示がない中で、ようやく平成18年、平成19年及び平成20年の各年末現在において国外に所有する資金の概算残高を確認することができた。そこで、請求人は、これらの残高に基づいて、申告漏れとなっていた雑所得の金額を計算して本件各修正申告書を提出したのであり、対象期間について調査担当職員から「過去3年、5年」などと言われた記憶はあるが、請求人はそれとは無関係に国外に所有する資金の全てを自ら進んで計算したものである。
(ロ) 請求人は、当初修正申告書の提出から本件各修正申告書の提出に至るまでの間、原処分庁から何らの連絡も指導等も受けておらず、本件各修正申告書を提出した後になって初めて本件国外所得の金額について照会を受けたのであるから、請求人に更正を予知して本件各修正申告書を提出するような事情が存しないことは明らかである。
(ハ) 請求人は、本件通知文書を受け取ったような記憶があるが、いつ請求人の手元に届いたかは定かでなく、また、英語能力にも乏しいためその内容は今もって正確には理解できていない。原処分庁は、本件通知文書を受領したことにより、やがて請求人の申告漏れが発覚し更正に至るであろうことを客観的に相当程度の確実性をもって認識したものと推認される旨主張するが、具体的事実を欠く主張で理解できない。
(ニ) 請求人は、国外に所有する資金を複数の国及び複数の銀行間で頻繁に移動しており、D国○○庁から原処分庁に対し請求人が国外に所有する資金に関する資料が送付されたとしても、原処分庁がその資料によって請求人の所得を把握することは不可能であった。このことは、本件各修正申告書を提出した後に、調査担当職員から本件国外所得の金額の計算根拠について問い合わせを受けたことからも明らかであり、請求人が更正があるべきことを予知していなかったことの証左でもある。
(ホ) 原処分は原処分庁がしたものであり、当該処分の適法性等の立証責任は原処分庁にあるから、その具体的内容を原処分庁が立証すべきである。

(2) 原処分庁

イ 調査の存否について
 原処分庁は、請求人が本件国外所得について申告していなかったため、請求人に対して当該所得の申告漏れの事実の端緒となる国外送金の事実を指摘した上で、当該資金の運用についての説明及び資料の提示を求めたものの、請求人の協力を得ることができなかったことから情報交換制度に基づく調査を実施しており、これら一連の行為が通則法第65条第5項に規定する調査に該当することは明らかである。
ロ 更正の予知について
 請求人は、調査担当職員に対し、情報交換制度を利用してD国○○庁から情報を収集し、その調査結果を説明してほしい旨申し出ており、これに対し調査担当職員は、情報交換制度の利用は時間がかかる旨及び回答が届いた後に申告漏れとなっている所得が明らかになれば修正申告が必要となる旨を説明していることから、請求人においても本件国外所得に関する調査が進行していることを認識していたものと推認される。
 また、請求人は、少なくとも本件通知文書を受領したことにより、やがて請求人の申告漏れが発覚し更正に至るであろうことを客観的に相当程度の確実性をもって認識したものと推認されるところ、請求人が、更正に至るであろうことを認識する以前に自ら進んで修正申告をすることを確定的に決意していたことを示す証拠も認められないことから、本件各修正申告書の提出は「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 修正申告書の提出があった場合には、通則法第65条第1項の規定により過少申告加算税を賦課するのが原則であるが、同条第5項は、納税者の自発的な修正申告を歓迎し、これを奨励する趣旨から「申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知」することなく自発的に修正申告書を提出した者に対しては、同条第1項の規定を適用しないとしたものである。そうすると、同条第5項は、修正申告書が提出された場合に原則として賦課される過少申告加算税を、例外的に賦課しない場合について規定したものであるから、修正申告書の提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないことの立証責任は請求人にあると解するのが相当である。
ロ 修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないことの判断に当たっては、通則法第65条第5項の文言及び趣旨からすると、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して判断すべきである。

(2) 認定事実

イ 請求人は、請求人及び請求人の家族が国外に所有する資金の運用を行っていた。
ロ 調査担当職員は、平成21年9月14日に、請求人、請求人の妻及び本件関与税理士と面談し、資産運用の状況等について質問した中で国外への送金の有無について質問したのに対し、請求人から国外への送金はない旨の回答を得た。
ハ 調査担当職員は、平成21年11月5日に、国内における株式等に係る譲渡所得及び不動産所得の申告漏れの指摘に併せて、請求人及び請求人の妻に対し、本件関与税理士立会いの下、請求人及び請求人の家族が平成14年4月から平成16年9月にかけて総額746,836,915円の資金を国外へ送金している事実を示した上で、当該資金の運用状況等についての説明と関係資料の提示を求めた。
 これに対し、請求人が、具体的な内容等については回答せず、原処分庁が情報交換制度を使って調べた上で結果を説明してほしい旨申し出たことから、調査担当職員は、情報交換制度を使った場合には、D国○○庁から回答を得るまでに時間がかかる旨及び回答を検討した結果申告漏れとなっている所得があれば修正申告が必要となる旨を請求人、請求人の妻及び本件関与税理士に説明した。
ニ 原処分庁は、平成21年11月6日付で、情報交換制度に基づき、国外の請求人及び請求人の家族名義の預金口座に関する情報提供の要請をした。
ホ 本件関与税理士は、調査担当職員から請求人及び請求人の家族の国外送金の明細を記載した「海外送金一覧」と題する平成21年11月9日付の書面を送付され、併せて電話で請求人及び請求人の家族が国外に所有する資金の運用状況を確認するよう要請された。本件関与税理士は、同書面の内容を検討し、請求人及び請求人の家族が国外に所有する資金の運用益について調べる必要があると考えたことから、請求人に対し、その運用益について調査するよう依頼した。
ヘ 平成22年3月29日付の本件通知文書には、D国○○庁が国税庁の要請に基づき、国税庁に対し、国外の請求人名義の預金口座に関する個別的情報について回答する旨等が英文で記載されていた。
ト 本件関与税理士は、平成22年4月18日頃に、請求人から請求人及び請求人の家族が国外に所有する資金の平成17年から平成20年までの各年末における残高のメモを受け取り、請求人及び請求人の家族の送金額の割合に応じて各人の所得金額を算定し、請求人及び請求人の家族の修正申告書を作成した。
チ 請求人は、本件国外所得の申告漏れがあったとして、平成22年4月28日に、本件各修正申告書を提出した。
リ 原処分庁は、平成22年7月に、D国○○庁から国税庁を通じて請求人及び請求人の家族が国外に所有する資金に関する資料を受け取った。

(3) 判断

イ 調査の内容・進捗状況
 上記(2)ハによれば、平成21年11月5日に、調査担当職員が請求人及び請求人の家族による国外送金の事実を指摘したのであるから、調査担当職員は、同日時点で既に請求人が国外に所有する資金の端緒を把握していたといえる。また、上記(2)ハからホまでによれば、調査担当職員は、同日に情報交換制度の利用について請求人に対して説明し、同月6日頃に情報交換制度に基づいて請求人名義の国外の預金口座について情報提供を要請し、同月9日頃に本件関与税理士に対して請求人が国外に所有する資金に係る運用状況の確認を要請したのであるから、同月5日の面接以降、請求人が国外に所有する資金の動きについて、預金口座に関する情報収集や関与税理士への確認要請という具体的な調査が進み、同日の面接時よりも請求人の国外における所得について更正される可能性が高まった状態にあったといえる。さらに、上記(2)リのとおり、請求人が国外に所有する資金に関する資料がD国○○庁から原処分庁に到着したのが平成22年7月であり、上記1(4)ホ及びトによれば、平成21年12月4日時点で当初修正申告書を提出してはいても、株式等の譲渡所得等に関する是正が行われたにすぎず、当初修正申告書の提出によって請求人に対する一切の調査を終了したことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はないから、同日時点で請求人の所得税の調査が終了したとはいえないのであって、請求人の国外における所得に関する調査は本件各修正申告書が提出された平成22年4月28日時点で継続中であったということができる。
ロ 調査の内容・進捗状況に関する請求人の認識
 上記(2)ハのとおり、請求人は、平成21年11月5日に、調査担当職員に対して、国外への送金に関し、情報交換制度の利用を申し出ていることからすると、同制度が利用され、請求人が国外に所有する資金に関する調査が以後も進行するであろうと認識していたということができる。また、上記(2)ホによれば、その後、請求人は、調査担当職員から確認依頼を受けた本件関与税理士から国外に所有する資金の運用益について調査を依頼されているのであるから、原処分庁の調査が進展中である旨認識していたと推認することができる。これらの認識を前提にすると、上記(2)ヘのとおり、本件通知文書が英文であり、原処分庁からの連絡ではないものの、請求人は、本件通知文書を受け取ったことにより、本件通知文書が情報交換制度に関する書面であり、同制度を利用して国外に所有する資金に関する具体的な調査が進展中であると認識したということができる。
ハ 本件各修正申告と調査の内容との関連性
 上記1(4)トによれば、本件各修正申告は、本件国外所得の申告漏れの是正を内容とするものであるのに対し、上記イによれば、進行していた調査の内容は請求人が国外に所有する資金に関する事実であって、ともに請求人が国外に所有する資金による所得に関するものであるということができる。仮に、結果的に原処分庁がD国○○庁から提供された情報によっても本件各修正申告における本件国外所得の金額を直接把握することができなかったとしても、請求人が国外において所有する資金による所得という点で共通していることに変わりはなく、これを理由に調査と関係なく自発的に本件各修正申告をしたとまでいうことはできない。
ニ 本件各修正申告に至る経緯
 上記(2)ホ、ト及びチによれば、請求人は、平成21年11月9日以降、本件関与税理士から請求人及び請求人の家族が国外に所有する資金の運用益について調査するよう依頼を受け、平成22年4月18日頃までに同資金の残高に関するメモを本件関与税理士に渡し、同月28日に同メモに基づく本件各修正申告をしているのであるから、平成21年11月9日から平成22年4月18日頃までの間に本件国外所得について修正申告する旨決意したと推認することができるにとどまり、その決意の具体的時期について認めるに足りる証拠はない。そして、請求人が本件各修正申告を決意する原因となった本件関与税理士による調査依頼は、調査担当職員からの確認要請を受けたことを原因とするものであるから、請求人の決意と請求人が国外に所有する資金に関する調査との関連性が認められる。
ホ 結論
 以上を総合すると、請求人は、調査担当職員からの確認依頼を発端として本件各修正申告を決意したものであり、本件関与税理士からの調査依頼や本件通知文書を受け取ったことなどにより、情報交換制度を利用するなどして請求人の国外における所得に関する調査が進行中であり、当該所得について更正される可能性が高まったことを認識したということができ、その後、その認識した調査の内容と関連性を有する本件各修正申告を行っているから、本件各修正申告は調査を受けたことを原因として更正される可能性があるとの認識によってされたものと認めることができる。
 したがって、本件各修正申告書の提出は、「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たらない。
 請求人は、原処分の適法性等の立証責任は原処分庁にあり、その具体的内容を原処分庁が立証すべきである旨主張するが、上記(1)イのとおり、修正申告書の提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないことの立証責任は請求人にあると解するのが相当であるから、請求人の主張は採用できない。

(4) その他

 以上のとおり、原処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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