(平成24年2月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、有価証券取引により生じた利益に係る所得を申告していなかったことについて、原処分庁が、まる1平成16年分の所得税の無申告に対し、偽りその他不正の行為及び隠ぺい、仮装に当たる行為があったとして所得税の決定処分及び重加算税の賦課決定処分を、まる2平成19年分の所得税の期限後申告に対し、隠ぺい、仮装に当たる行為があったとして重加算税の賦課決定処分を、それぞれ行ったところ、請求人が、偽りその他不正の行為及び隠ぺい、仮装に当たる行為はないとして、まる1については全部の、また、まる2については一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成23年2月18日)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成16年分の所得税の決定処分を「本件決定処分」という。
 また、以下、平成16年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分を「本件平成16年分賦課決定処分」、平成19年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分(平成22年9月10日付でされた変更決定処分後のもの)を「本件平成19年分賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項は、同法第66条《無申告加算税》第1項の規定により無申告加算税を課す場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、無申告加算税に代え、当該無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
ロ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税(当該国税に係る加算税を含む。)についての決定等は、その決定等に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P国の生まれであるが、平成3年4月以降、日本に居住し、平成14年までに日本国籍を取得した。なお、請求人は、平成7年5月に婚姻し、以後は夫Gと同居して暮らしている。
ロ 請求人は、平成16年3月○日以降、夫Gが取締役を務めるH社の代表取締役に就任していた。なお、H社は、請求人が350万円、夫Gが250万円をそれぞれ出資し、請求人らの自宅を本店所在地と定めて設立された、有価証券の取得、投資等を目的とする法人であり、請求人及び夫G以外の役員及び従業員はいない。
ハ 請求人は、平成15年12月14日以降、個人としてオプション取引の一種であるeワラント取引を行った。また、H社設立後の平成16年4月7日以降は、同社の代表取締役として法人のためにeワラント取引を行った。
ニ 請求人による上記ハの有価証券取引の状況は、別表2(eワラント取引の状況)及び次の(イ)及び(ロ)のとおりである。
(イ) 個人のeワラント取引の状況
A 請求人は、平成15年12月14日、J証券(現、K証券。以下「K証券」という。)に請求人名義の取引用口座を、同月16日にL証券に請求人名義の取引用口座を、また、平成20年4月30日にM証券に請求人名義の取引用口座を、それぞれ開設し、個人としてのeワラント取引を行った(その取引高などは、別表2の「請求人」欄のとおりである。)。
B その結果、請求人は、平成15年から平成20年までの間、eワラント取引により、別表2の「請求人」欄の「差引損益」の項に記載のとおりの各損益(譲渡損益)を得た。なお、これらの損益に係る所得は、短期譲渡所得に該当する。
(ロ) H社のeワラント取引の状況
A 請求人は、H社設立後の平成16年4月7日以降、夫Gと二人で、K証券にH社名義の取引用口座を開設し、H社のためにeワラント取引を行った(その取引高などは、別表2の「H社」欄のとおりである。)。
B その結果、H社は、平成16年から平成19年までの間、eワラント取引により、別表2の「H社」欄の「差引損益」の項に記載のとおりの各損益(譲渡損益)を生じた。
ホ 下記ヘの調査の日より前の、請求人の平成16年分、平成18年分ないし平成20年分の所得税の申告状況は、次のとおりである。
(イ) 請求人は、平成16年分の所得税の確定申告書を、法定申告期限までに提出しなかった。
(ロ) 請求人は、平成18年中にH社から支給された給与○○○○円を給与所得とし、また、同年中のeワラント取引により生じた損失の額(別表2の「請求人」欄の平成18年の「差引損益」の項の額)を雑損控除の対象とする旨記載した平成18年分の所得税の確定申告書を平成19年3月3日に提出し、その後の同月15日(法定申告期限内)に、上記eワラント取引により生じた損失の額を短期譲渡所得の損失の額とする旨の確定申告書を改めて提出した。
(ハ) 請求人は、平成19年分の所得税の確定申告書を、法定申告期限までに提出しなかった。
(ニ) 請求人は、平成20年中にeワラント取引により生じた利益の額を○○○○円とし、これを雑所得の金額として記載した平成20年分の所得税の確定申告書を、法定申告期限までに提出した。
ヘ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「原処分担当者」という。)は、平成22年4月6日、請求人の自宅へ赴き、請求人及び夫Gの所得税の調査を行った(以下、同日の請求人らに対する調査を「本件調査」という。)。
ト 請求人は、上記への本件調査の日より後の平成22年4月19日に、eワラント取引により生じた利益があるとして、別表1の平成19年分の所得税の「確定申告」欄のとおり、当該利益の額(別表2の「請求人」欄の平成19年の「差引損益」の項の額)を雑所得の金額として記載した平成19年分の所得税の期限後申告書を提出した。
チ N税務署長は、原処分担当者の調査に基づき、平成22年8月31日付で、別表1の「決定処分等」欄のとおり、本件決定処分及び本件平成16年分賦課決定処分をした。また、同日付で、上記トのとおり、平成19年分の期限後申告書の提出があったのに対し、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、平成19年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分をした。
リ さらに、N税務署長は、平成22年9月10日付で、上記トの平成19年分の所得税に係る期限後申告に対し、別表1の「更正処分等」欄のとおり、雑所得の金額として申告されたeワラント取引により生じた利益の額から譲渡所得の特別控除額50万円を控除した金額を短期譲渡所得とする旨の減額更正及びこれに伴う重加算税の変更決定をした。

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2 争点

 本件の争点は、次の2点である。
(1) 平成16年分について、偽りその他不正の行為があったか否か。
(2) 平成16年分及び平成19年分について、隠ぺい、仮装に当たる行為があったか否か。

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3 主張

(1) 争点1(平成16年分について、偽りその他不正の行為があったか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 請求人は、平成16年中のH社設立後、法人の業務としてeワラント取引を行い、当該取引に係る法人税の確定申告を継続的に行っていたにも関わらず、平成16年分の請求人個人のeワラント取引に係る所得税の申告をしなかった。
ロ 加えて、請求人は、夫Gが意図的に申告していなかったeワラント取引に係る利益を原資として、請求人個人のeワラント取引を開始している。
ハ 上記イ及びロを併せ考えれば、請求人は、税金を免れる目的で、平成16年分の請求人個人のeワラント取引に係る所得の無申告という誤った状況をあえて放置していたものと認められる。
ニ 請求人の上記ハの行為は、「偽りその他不正の行為」に該当する。
イ 請求人は、法人が行う取引の場合には、全ての取引について決算報告書を作成し、申告すべきことを理解していたものの、個人的に行っていたeワラント取引により生じた利益を申告すべきことは知らなかった。したがって、請求人は、平成16年分の請求人個人のeワラント取引に係る所得を意図的に申告しなかったのではない。
ロ なお、請求人が何を原資としてeワラント取引を開始したのかは、請求人が当該取引に係る所得税の申告の必要性を認識していたかどうかの判断には、関係のない事情である。
ハ 以上のとおり、原処分庁の主張する請求人の行為は、「偽りその他不正の行為」に該当しない。

(2) 争点2(平成16年分及び平成19年分について、隠ぺい、仮装に当たる行為があったか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 請求人が、H社の法人税の確定申告書を自ら作成し、これに同社のeワラント取引に係る取引残高報告書を添付して、法人税の申告をしていたこと、また、請求人とともにeワラント取引を行っている夫Gが、日本の税制に不満を持っていたので、eワラント取引に係る利益の有無に関わらず、当該取引に係る確定申告をしていなかった旨申述していることなどからすれば、請求人は、eワラント取引に係る所得の申告義務及び申告方法を熟知していたものと認められる。
ロ それにも関わらず、請求人は、まる1夫Gがeワラント取引により得て、申告していない利益を原資として、請求人個人のeワラント取引を開始し、当該取引について、損失が生じた場合にのみ所得税の申告をし、利益が生じた場合には申告をしなかった。また、請求人は、まる2eワラント取引に係る取引残高報告書等を保存せず、散逸するに任せていた。このまる1及びまる2の請求人の行為は、いずれも、請求人が当初から所得を申告しない意図であったことを示す行動であると評価できる。
ハ 以上のことからすると、請求人は、当初から平成16年分及び平成19年分の請求人個人のeワラント取引に係る所得を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったものと認められるから、隠ぺい、仮装に当たる行為があったことは明らかである。
イ 請求人は、上記(1)のイのとおり、法人が行う取引の場合には、全ての取引について決算報告書を作成し、申告すべきことを理解していたものの、個人的に行っていたeワラント取引に係る所得の申告義務及び申告方法を熟知していたものではない。なお、請求人自身が、請求人個人のeワラント取引により生じた利益について、所得税の申告義務があることを知ったのは、平成19年2月頃である。したがって、それ以後、請求人は、平成18年分の個人のeワラント取引により生じた損失を申告し、平成19年分の当該取引により生じた利益については、家庭の事情でたまたま申告を失念したものの、平成20年分の当該取引により生じた利益については雑所得として申告している。また、夫Gの申述は、請求人の申告義務に関する認識とは、関係のない事情である。
ロ 請求人は、そもそも、原処分担当者から、請求人個人のeワラント取引に関する資料の提示を求められたことがなく、夫Gが、原処分担当者に対し、請求人個人の当該取引に関する証券会社の名称の説明をしている。また、請求人は、個人のeワラント取引を実名で行っている。すなわち、請求人は、原処分担当者の調査を困難にするような行為を何もしていない。
ハ 以上のとおり、請求人は、隠ぺい又は仮装に当たる行為をしていない。

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4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料、請求人の提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ H社による有価証券取引及び申告の状況
(イ) 平成16年から平成19年までの間、H社が実際に行った事業は、eワラント取引(上記1の(4)のニの(ロ)のA)のみであり、H社は、平成16年3月○日から平成18年12月31日までの各事業年度において、当該取引(事業)に係る法人税の各確定申告を、いずれも法定申告期限内に行った。
(ロ) 上記(イ)の各確定申告は、まず、夫Gが、決算期末の翌年2月頃、インターネットを経由して、証券会社を通じて行った1年分の有価証券取引のデータをダウンロードし、それを集計した金額のほか、請求人から指示された費用などの金額をパソコンに入力し、そのデータを基に会計ソフトを用いて決算報告書を作成し、次に、請求人が、所轄税務署の職員に相談しながら、当該決算報告書に基づく確定申告書を作成し、提出するという方法で行われた。
ロ 本件調査の状況
(イ) 原処分担当者は、平成22年4月6日、予告なく請求人の自宅を訪れ、本件調査を開始した。
(ロ) これに対して、夫Gは、その頃既に夫G個人のeワラント取引等をやめて取引用口座を解約しており、請求人らの自宅にあったパソコンのインターネットを経由して夫G個人の取引関係書類を閲覧できない状態であったため、夫G個人のeワラント取引等を行っていた証券会社の名称を全て開示するとともに、請求人個人及びH社がeワラント取引を行っていた証券会社の名称を全て開示した。これを受けて、原処分担当者は、本件調査の当日、夫Gから開示された上記の情報を基に証券会社に対する調査に着手し、結局、別表2に記載のとおりの請求人及びH社の各取引高などを把握した。
(ハ) また、原処分担当者は、本件調査の当日、上記(ロ)の証券会社に対する調査と並行して、請求人が自宅を一時不在にしている間に、夫Gに対して、夫Gが個人として行ったeワラント取引等に係る各所得の申告状況について質問し、これに対する夫Gの申述を、平成22年4月6日付聴取書に録取し、夫Gの署名押印を得た。
(ニ) 他方で、原処分担当者は、本件調査の当日、請求人については、請求人が個人として行ったeワラント取引に係る所得の申告状況についての申述を録取した聴取書を作成せず、同日以後も、かかる聴取書を作成しなかった。
(ホ) なお、本件調査の当日、請求人の自宅には、eワラント取引に係る所得の申告の要否及び方法等に関する記述のある「○○○○」と題する書籍(平成13年9月○日発行)があった。
ハ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 請求人が、個人として行ったeワラント取引により生じた損益に係る所得の申告義務があることを知ったのは、夫Gの書籍(上記ロの(ホ)の書籍)に目を通した平成19年2月頃である。それ以降、請求人は、請求人個人のeワラント取引により生じた損益に係る申告を行った。
(ロ) すなわち、請求人は、平成18年分の確定申告において、H社からの給与○○○○円とともに、個人のeワラント取引により生じた損失を申告した。
(ハ) また、平成19年分の確定申告は、家庭内のごたごたがあり、申告を失念してしまったが、平成20年分の確定申告は、家庭も落ち着いたので、所轄税務署に行き、職員と相談しながら、個人のeワラント取引により得た利益に係る所得の申告をした。
(ニ) H社のeワラント取引については、会社設立時に、会社の場合は個人と違って、当該取引により生じた損益の決算及び申告が必要なことを学んでいたので、当該取引に係る法人税の申告をした。

(2) 争点1(平成16年分について、偽りその他不正の行為があったか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う行為を行うことをいうものと解される。
(ロ) そうすると、単なる不申告行為は「偽りその他不正の行為」に含まれないものの、納税者が、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意図をもって、申告をしないような場合には、それは単なる不申告にとどまらず、その不申告自体が積極的な所得秘匿工作と同視し得る不正行為であるということができるから、当該不申告行為も「偽りその他不正の行為」に含まれると解するのが相当である。
ロ 当てはめ
(イ) これを本件についてみると、請求人は、平成16年分の所得税について、請求人が同年中に個人として行ったeワラント取引により利益を得たにも関わらず(上記1の(4)のニの(イ)のB)、同年分の所得税の確定申告書を提出しなかったものの(上記1の(4)のホの(イ))、当該取引の際には自己の名義を使用し(上記1の(4)のニの(イ)のA)、また、本件調査の際には夫Gが、原処分担当者に対して請求人が個人としてeワラント取引を行った証券会社の名称を全て明らかにしており(上記(1)のロの(ロ))、積極的な所得秘匿工作があったとは認められない。そこで、以下では、上記の無申告自体が、上記イの(ロ)で示した「偽りその他不正の行為」と評価すべき態様の不申告行為に当たるか否かを検討する。
(ロ) この点について、原処分庁は、上記3の(1)のとおり、要するに、まる1請求人によるH社のeワラント取引に係る法人税の申告状況、及びまる2夫Gのeワラント取引に係る所得の申告事情等、の2点を根拠に、請求人が平成16年分の個人のeワラント取引に係る所得税を免れる意図を有していたものと推認し、それを前提として、請求人が当該取引により生じた利益に係る所得の申告をしていないこと(無申告)が、「偽りその他不正の行為」に当たる旨主張するものと解される。
 他方で、請求人は、上記3の(1)のとおり、要するに、平成16年当時は、法人として行ったeワラント取引に係る所得の申告義務があることは知っていたが、個人として行ったeワラント取引に係る所得の申告義務については知らず、平成19年2月に夫Gの書籍を見て初めて、個人として行ったeワラント取引に係る所得の申告義務があることを知ったので、それ以降(平成18年分の申告以後)は、個人として行った当該取引に係る損益の申告を行っており、平成19年分については家庭の事情でたまたま無申告になった旨主張し、当審判所に対しても、この主張に沿う答述(上記(1)のハ)をしている。
(ハ) そこで、平成15年から平成20年までの請求人による法人及び個人としてのeワラント取引に係る法人税及び所得税の各申告状況をみると、確かに、請求人は、上記1の(4)のロないしニ及び上記(1)のイのとおり、平成16年中に法人(H社)を設立してから平成18年12月までの間、事業年度ごとに、夫Gと2人で法人のために行ったeワラント取引に係る法人税の確定申告をしている。他方で、請求人は、上記1の(4)のハ及びニのとおり、平成15年に個人としてのeワラント取引を開始してから平成20年までの間、当該取引によって、別表2のとおり、平成15年、平成16年、平成19年及び平成20年には利益を、平成17年及び平成18年には損失を、それぞれ生じているが、上記1の(4)のホのとおり、平成18年分(当該取引に係る損失)及び平成20年分(当該取引に係る利益)についてのみ、申告をしている。もっとも、請求人は、個人としてのeワラント取引により申告を要する額の利益を生じた年分(平成16年分、平成19年分、平成20年分)のうち、最も多額の利益を生じた平成20年分の当該取引に係る所得について、法定申告期限までに自ら申告をしている。
 上記のような申告状況(特に平成20年分の申告状況)は、請求人個人のeワラント取引に係る所得税を免れる意図を有していたこととは、相容れない面がある。他方で、請求人の主張(上記3の(1))及びそれに沿う答述(上記(1)のハ)は、上記の申告状況を一応矛盾なく説明するものである上、上記(1)のロの(ホ)のとおり、請求人らの自宅に、eワラント取引に係る所得の申告の要否及び方法等に関する記述のあるガイド書籍が実際にあったこととも、整合している。さらに、上記(1)のロの(ニ)のとおり、請求人の調査段階における申述を録取した聴取書はなく、当審判所に対する答述と異なる申述があるわけではないことも併せ考えると、請求人の上記答述と異なる事実を認定する根拠はないといわざるを得ない。
 以上のことからすると、請求人が、平成16年分の申告の時点で、原処分庁が主張するように、請求人個人のeワラント取引に係る所得税を免れる意図を有していたとは認められない。
(ニ) これに対し、原処分庁は、上記(ロ)のまる1(H社の法人税の申告状況)及びまる2(夫Gの所得税の申告事情等)を根拠に、請求人が個人として行ったeワラント取引に係る所得税を免れる意図を有していたことを推認できる旨主張するものの、上記まる1及びまる2は、いずれも請求人が個人として行うeワラント取引に関する請求人の認識を直接示す事情ではないから、これらの事情があったとしても、上記(ハ)のとおり、請求人の法人及び個人に関するeワラント取引に係る申告状況その他の認定事実に照らし、請求人の当時の認識が請求人の上記答述とは異なるものであったと認定する根拠がないとの判断は変わらない。
 したがって、原処分庁が主張するように、上記まる1及びまる2の事情を根拠として、請求人が、税金を免れる目的で、平成16年分の請求人個人のeワラント取引に係る所得を申告していなかったと認めることはできない。
 そして、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、他に、請求人が、上記イの(ロ)で示した「偽りその他不正な行為」と評価すべき態様の不申告行為をしたことを認定できる証拠はない。
ハ 結論
 したがって、請求人の平成16年分の所得税の申告について、「偽りその他不正の行為」があったとは認められない。よって、平成16年分については、下記5の(1)のとおり、そもそも重加算税の計算の基礎となるべき税額が存在しないこととなるから、争点2についての原処分庁の主張は、これを検討するまでもなく理由がない。

(3) 争点2(平成19年分において、隠ぺい、仮装に当たる行為があったか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をしたことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の課税要件が満たされるものと解される(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁)。
(ロ) また、通則法第68条第2項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。この隠ぺい又は仮装に基づく無申告に対して重加算税を課する制度の趣旨は、上記(イ)の隠ぺい又は仮装に基づく過少申告に対して重加算税を課する制度(同条第1項)の趣旨と同じであると認められるから、上記(イ)と同様に、必ずしも架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまでは必要ではなく、納税者が、当初から所得を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて申告をしなかったような場合には、重加算税の課税要件が満たされるものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
(イ) これを本件についてみると、請求人は、平成19年分の所得税について、請求人が同年中に個人として行ったeワラント取引に係る利益が生じたにも関わらず(上記1の(4)のニの(イ)のB)、法定申告期限までに同年分の所得税の確定申告書を提出せず、本件調査の後の平成22年4月19日、平成19年分の所得税の期限後申告書を提出しているところ(上記1の(4)のホの(ハ)及びト)、当該取引の際には自己の名義を使用し(上記1の(4)のニの(イ)のA)、また、本件調査の際には夫Gが、原処分担当者に対して請求人が個人としてeワラント取引を行った証券会社の名称を全て明らかにしており(上記(1)のロの(ロ))、上記の無申告とは別の隠ぺい又は仮装に該当する積極的な行為があったとは認められない。そこで、以下では、上記の無申告そのものとは別に、上記イで示した「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」が存在し、これに基づく無申告であったか否かを検討する。
(ロ) この点について、原処分庁は、請求人が当初から所得を申告しない意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動として、上記3の(2)のロのとおり主張するので、以下、検討する。
A まず、原処分庁は、「請求人は、eワラント取引に係る所得の申告義務及び申告方法を熟知していたものと認められるのに、請求人個人のeワラント取引について、損失が生じた場合にのみ所得税の申告をし、利益が生じた場合には所得税の申告をしなかった」旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記(2)のロの(ハ)のとおり、平成20年分の所得税については、同年中のeワラント取引によって生じた利益を雑所得として、法定申告期限までに申告したのであるから(上記1の(4)のホの(ニ))、原処分庁の主張するように、請求人がeワラント取引により損失が生じた場合にのみ申告をしていたとはいえない。
 したがって、上記の請求人の行為は、請求人が当初から所得を申告しない意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動に当たらない。
B また、原処分庁は、「請求人は、eワラント取引に係る取引残高報告書等を保存せず、散逸するに任せていた」旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイの(ロ)のとおり、証券会社に有価証券取引用の口座を開設し、インターネットを経由して、当該証券会社を通じて当該取引をした場合には、その取引のデータは、一定期間、インターネットを経由して当該証券会社から入手することができるのであり、また、上記(1)のロの(ロ)のとおり、当該取引用口座の解約後も、一定期間は、当該証券会社に照会して当該取引のデータを入手することができることは明らかである。そして、現に、原処分担当者は、請求人個人のeワラント取引に係る全ての取引のデータを、証券会社から入手することができている。そうすると、請求人が、当該各取引のデータを紙に出力して保存しておらず、また、証券会社から送付された取引残高報告書を保存していなかったことをもって、請求人が、納税者であれば通常保管しておくはずの証拠書類を保存せず、散逸するに任せていたと評価するのは相当でない。
 したがって、上記の請求人の行為は、請求人が当初から所得を申告しない意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動に当たらない。
C なお、原処分庁は、「請求人は、夫Gがeワラント取引により得た、申告していない利益を原資として、請求人個人のeワラント取引を開始し、当該取引に係る利益が生じた年分には申告をしていなかった」旨も主張するが、この事情の評価については、上記(2)のロの(ニ)のとおりであるから、当該事情があったとしても、請求人が当初から所得を申告しない意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動と評価することはできない。
D 以上によれば、原処分庁が主張するとおりの、請求人が当初から所得を申告しない意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動は認定できない。そして、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、他に、請求人が上記特段の行動に当たる行為をしたことを認定できる証拠はない。
ハ 結論
 したがって、請求人の平成19年分の所得税の申告について、隠ぺい、仮装に当たる行為があったとは認められない。

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5 本件決定処分及び本件各賦課決定処分について

(1) 本件決定処分及び本件平成16年分賦課決定処分について

 上記4の(2)のとおり、本件決定処分は、通則法第70条第5項の要件を満たさず、同条第3項に規定する決定の期間制限を徒過してなされた違法な処分であるから、その全部を取り消すべきである。また、それを基礎としてされた本件平成16年分賦課決定処分も、同様に違法であるから、その全部を取り消すべきである。

(2) 本件平成19年分賦課決定処分について

 上記4の(3)のとおり、本件平成19年分賦課決定処分は、通則法第68条第2項の重加算税の賦課要件を満たさない違法な処分である。また、請求人による平成19年分の所得税の期限内申告書の提出がなかったことについて、同法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。したがって、本件平成19年分賦課決定処分は、別紙のとおり、同条第1項及び第2項の規定に基づき算出した無申告加算税相当額を超える部分の金額につき、取り消すのが相当である。

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6 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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