(平成24年3月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が2名の役員に割当てをした新株予約権について、原処分庁が、当該新株予約権の割当ては、請求人から有利な発行価額により新株を取得する権利を与えられた場合に該当するから、当該権利の行使により取得した新株の当該権利に基づく払込みに係る期日における価額から当該権利の行使に係る新株の発行価額を控除した金額は、請求人から供与された経済的利益として当該各役員の給与所得に当たり、請求人に源泉徴収義務があるとして納税告知処分等を行ったことに対し、請求人が、当該新株予約権の割当ては、有利な発行価額により新株を取得する権利を与えた場合に当たらないから当該各役員に対する経済的利益の額はないなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成22年9月30日付で、次表の「原処分」欄のとおり、給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。

区分
項目
原処分 異議決定
年月 平成19年6月分 平成19年6月分
所得の種類 給与 給与
法定納期限 平成19年7月10日 平成19年7月10日
納税告知処分(源泉所得税の額) ○○○○円 ○○○○円
賦課決定処分(不納付加算税の額) ○○○○円 ○○○○円

ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成22年11月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年2月24日付で、上記イの表の「異議決定」欄のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部を取り消された後の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件納税告知処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成23年3月24日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 商法関係
(イ) 商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)第280条ノ20は、要旨、次のとおり規定している。
A 会社は、新株予約権を発行することができる(第1項)。
B 発行する新株予約権の目的たる株式の種類及び数、各新株予約権の発行価額及び払込期日、各新株予約権の行使に際して払込みをすべき額等の事項は取締役会において決する。ただし、定款をもって株主総会がこれを決する旨を定めたときはこの限りでない(第2項)。
C 新株予約権の行使により新株を発行する場合においては、新株予約権の発行価額と新株予約権の行使に際して払込みをすべき額との合計額の1株当たりの額をその新株1株当たりの発行価額とみなす(第4項)。
(ロ) 商法第280条ノ27第1項は、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある場合(以下、当該定めがある会社を「株式譲渡制限会社」という。)においては、株主は新株予約権の引受権を有する旨、ただし、株主以外の者に対して新株予約権を発行すべきこと並びにその新株予約権の目的たる株式の種類及び数につき同法第343条に定める決議があったときは、この限りでない旨規定している。
(ハ) 商法第343条第1項は、同法第342条第1項の決議は、総株主の議決権の過半数又は定款に定める議決権の数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上に当たる多数をもってこれを行う旨規定している。
ロ 所得税関係
(イ) 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
(ロ) 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
(ハ) 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない旨規定している。
(ニ) 所得税法施行令(平成18年政令第124号による改正前のもの。以下同じ。)第84条《株式等を取得する権利の価額》は、発行法人から同条各号に掲げる権利を与えられた場合(法人税法第2条《定義》第14号(平成18年法律第10号による改正前のもの。)に規定する株主等として与えられた場合を除く。)における当該権利に係る所得税法第36条第2項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日(所得税法施行令第84条第4号に掲げる権利にあっては、当該権利に基づく払込みに係る期日。以下「権利行使日等」という。)における価額から同条各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による旨規定し、同条第4号は、当該権利が有利な発行価額により新株を取得する権利である場合には、その控除する金額は当該権利の行使に係る新株の発行価額とする旨規定している。
(ホ) 所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達。以下同じ。)23〜35共−7(平成18年12月19日付課個2−18ほか2課共同による改正前のもの。以下同じ。)《有利な発行価額》は、所得税法施行令第84条第4号に規定する「有利な発行価額」とは、その新株の発行価額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して社会通念上相当と認められる価額を下る発行価額をいうものとする旨定め、同通達注書1は、社会通念上相当と認められる価額を下る発行価額であるかどうかは、当該株式の価額と当該新株の発行価額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定する旨、また、同通達注書2は、発行価額を決定する日の現況における株式の価額とは、決定日の価額のみをいうのではなく、決定日前1月間の平均株価等、発行価額を決定するための基礎として相当と認められる価額をいう旨定めている。
(ヘ) 所得税基本通達23〜35共−9(平成19年6月22日付課個2−11ほか3課共同による改正前のもの。以下同じ。)《株式等を取得する権利の価額》の(4)(会社法施行日前において同通達を適用する場合には平成18年12月19日付課個2−18ほか2課共同による改正前の同通達23〜35共−9の(5)。以下、便宜上、改正後のものをもって表記することとする。)は、所得税法施行令第84条各号に掲げる権利の行使の日等における株式の価額について、当該権利の行使により取得する新株及び当該新株に係る旧株が証券取引所に上場されていないとき並びに当該新株及び当該旧株につき気配相場の価格がないときは、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる価額とする旨定めている。
A 売買実例のあるものは、最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額
B 公開途上にある株式で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募等が行われるものは、証券取引所等の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額
C 売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるものは、当該価額に比準して推定した価額
D 上記AからCまでに該当しないものは、権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額
ハ 法人税関係
 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達をいい、平成19年12月7日付課法2−17ほか1課共同による改正前のもの。以下同じ。)9−1−14《上場有価証券等以外の株式の価額の特例》は、法人が、上場有価証券等(法人税法施行令(平成21年政令第105号による改正前のもの。)第68条《資産の評価損の計上ができる場合》第1項第2号イに掲げる有価証券をいう。)以外の株式(売買実例のあるもの等を除く。)について法人税法(平成21年法律第13号による改正前のもの。)第33条《資産の評価損の損金不算入等》第2項の規定を適用する場合において、事業年度終了の時における当該株式の価額につき、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同国税庁長官通達をいい、会社法施行日前において同通達を適用する場合には平成18年10月27日付課評2−27ほか2課共同による改正前のもの、また、権利行使等の時点においては平成20年3月14日付課評2−5ほか2課共同による改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)の178《取引相場のない株式の評価上の区分》から189−7《株式の割当てを受ける権利等の発生している特定の評価会社の株式の価額の修正》までの例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次によることを条件としてこれを認める旨定めている。
(イ) 当該株式の価額につき評価基本通達179《取引相場のない株式の評価の原則》の例により算定する場合において、当該法人が当該株式の発行会社にとって評価基本通達188《同族株主以外の株主等が取得した株式》の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に評価基本通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
(ロ) 当該株式の発行会社が土地又は証券取引所に上場されている有価証券を有しているときは、評価基本通達185《純資産価額》の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」(以下「1株当たり純資産価額」という。)の計算に当たり、これらの資産については、当該事業年度終了の時における価額によること。
(ハ) 1株当たり純資産価額の計算に当たり、評価基本通達186−2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。
ニ 財産評価関係
(イ) 評価基本通達178は、取引相場のない株式の価額は、評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)が同通達に定める大会社、中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて評価する旨定め、また、同通達の(4)は、評価会社が「卸売業」、「小売・サービス業」又は「卸売業、小売・サービス業以外」のいずれの業種に該当するかは、直前期末(課税時期の直前に終了した事業年度の末日をいう。)以前1年間における取引金額(その期間における評価会社の目的とする事業に係る収入金額をいう。)に基づいて判定する旨定めている。
(ロ) 評価基本通達179は、評価基本通達178により区分された小会社の株式の価額は、1株当たり純資産価額によって評価する旨、ただし、納税義務者の選択により、Lを0.50として次の算式により計算した金額によって評価することができる旨定めている。

類似業種比準価額×L+1株当たり純資産価額×(1−L)

(ハ) 評価基本通達180《類似業種比準価額》は、評価基本通達179の類似業種比準価額は、類似業種の株価並びに1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額により計算した金額)を基にして計算した金額とし、この場合において、評価会社の直前期末における資本金等の額を直前期末における発行済株式数で除した金額が50円以外の金額であるときは、その計算した金額に、当該発行済株式数で除した金額の50円に対する倍数を乗じて計算した金額とする旨定めている。
(ニ) 評価基本通達181《類似業種》は、評価基本通達180の類似業種は、大分類、中分類及び小分類に区分して別に定める業種(以下「業種目」という。)のうち、評価会社の事業が該当する業種目とし、その業種目が小分類に区分されているものにあっては小分類による業種目、小分類に区分されていない中分類のものにあっては中分類の業種目による旨、ただし、納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目、類似業種が中分類による業種目にあってはその業種目の属する大分類の業種目を、それぞれ類似業種とすることができる旨定めている。
(ホ) 評価基本通達181−2《評価会社の事業が該当する業種目》は、評価基本通達181の評価会社の事業が該当する業種目は、評価基本通達178の(4)の取引金額に基づいて判定した業種目とする旨定めている。
(ヘ) 評価基本通達185は、1株当たり純資産価額は、課税時期における各資産を評価基本通達の定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び評価基本通達186−2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする旨定めている。
ホ 国税通則法関係
 国税通則法(以下「通則法」という。)第67条《不納付加算税》第1項は、源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、税務署長は、当該納税者から、同法第36条《納税の告知》第1項第2号の規定による納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する旨規定し、同法第67条第1項ただし書は、当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。
ヘ 日本標準産業分類関係
 日本標準産業分類(平成19年11月改定前のもの。以下同じ。)は、製造業とは、主として、新製品の製造加工を行う事業所及び新製品を主として卸売する事業所をいい、製造業の事業所は、一般に工場、作業所などと呼ばれるものである旨定め、また、事業所の業態により、自らは製造を行わないで、自己の所有に属する原材料を下請工場などに支給して製品をつくらせ、これを自己の名称で販売するものは製造問屋として卸売業に分類される旨定めている。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 本件各新株予約権について
(イ) 請求人の代表取締役G及び取締役J(Jは平成22年10月27日に取締役を退任。以下、この両名を併せて「本件代表者ら」という。)は、平成17年7月31日現在において、それぞれ請求人の発行済株式総数の59%及び7.625%を保有していた。
(ロ) 請求人は、平成17年8月8日に開催した取締役会(以下「本件取締役会」という。)において、「株主以外の者に対して新株予約権を発行する件」(第1号議案)として商法第280条ノ20の規定に基づき、まる1新株予約権をGに対し○○○○個、Jに対し○○○○個をそれぞれ割り当てる(以下、それぞれ割り当てられた新株予約権を「本件各新株予約権」という。)こと、まる2本件各新株予約権の目的たる株式の種類及び数を請求人が発行する普通株式○○○○株(本件各新株予約権1個につき普通株式100株を割り当てるもの。以下「本件新株」という。)とすること、まる3本件各新株予約権の発行価額を1個当たり6,300円とすること、まる4本件各新株予約権の発行価額の払込期日を平成17年9月7日とすること、まる5本件新株の1株当たりの払込金額を567円(以下「本件行使価額」という。)とすること、まる6本件各新株予約権の権利行使期間を同年9月7日から平成22年9月6日までとすること、まる7本件各新株予約権の割当てを受けた者は、任期満了による退任その他正当な理由がある場合を除き、権利行使時においても請求人の取締役の地位にあることを要すること、まる8請求人が株式の分割を行う場合、当該分割の時点において本件各新株予約権について権利が行使されていない場合に限り、上記まる2の株式数は、分割の比率に応じて調整することなどの本件各新株予約権の発行条件について承認し、発行する旨決議した。
 併せて、請求人は、本件取締役会において、株主以外の者に対して新株予約権を発行することについては、商法第343条の特別決議を要するとして、平成17年8月23日に臨時株主総会を開催することを承認し、決議した。
(ハ) 請求人は、平成17年8月23日、臨時株主総会において、「株主以外の者に対して新株予約権を発行する件」(第2号議案)として上記(ロ)と同内容の発行条件で本件各新株予約権を発行する旨決議した。
(ニ) 請求人は、平成17年8月31日、本件代表者らとの間で上記(ロ)と同内容の発行条件による新株予約権割当契約を締結し、本件各新株予約権を発行した。
(ホ) 請求人は、平成19年5月8日に、請求人の発行済株式(以下「請求人株式」という。)に関して1株につき3株の割合をもって分割した。この結果、本件代表者らに対して発行された本件各新株予約権は、1個につき本件新株が300株(株式分割前の本件各新株予約権1個につき100株×3)割り当てられることとなり、本件行使価額も189円(株式分割前の行使価額567円÷3)となった。
(ヘ) 本件代表者らは、平成19年6月19日に、それぞれ本件各新株予約権を行使した(以下、本件代表者らが、本件各新株予約権を行使した日を「本件権利行使日」という。)。
(ト) 請求人が本件各新株予約権に関し、本件新株の1株当たりの発行価額として決定した630円(本件各新株予約権の1個当たりの発行価額6,300円を100株で除した金額63円と本件行使価額567円の合計金額であり、以下「本件決定価額」という。)は、請求人の顧問税理士であったK(以下「K税理士」という。)が作成した請求人株式に関する評価明細書により算定された1株当たりの価額627円に基づくものであり、当該評価明細書によれば、その算定方法は要旨、次のとおりであった。
A 請求人株式の評価時点は平成17年4月30日であり、請求人は評価基本通達178に定める「中会社」に該当し、評価基本通達179に定める取引相場のない株式の評価の原則により評価する。
B 請求人の1株当たりの純資産価額は、請求人の評価時点の直前の事業年度である平成15年8月1日から平成16年7月31日までの事業年度(以下「平成16年7月期」という。)の決算書類に基づき評価する。
C 請求人株式の1株当たりの価額を評価基本通達179に定める評価方法により算定すると、1株当たり純資産価額が627円、類似業種比準価額が1,131円となるから、低い方の金額である627円が請求人株式の1株当たりの評価額となる。
(チ) 請求人が本件代表者らに対して平成19年6月19日の属する月の前月(5月)に支払った給与等の額(社会保険料等を控除した後の金額)は、Gが○○○○円及びJが○○○○円であった。
(リ) 異議審理庁は、平成19年6月19日を評価時点とする請求人株式の1株当たりの価額(上記(ホ)の株式分割後のもの。)について、請求人が評価基本通達178に定める「小会社」に該当するとして評価基本通達179の(3)ただし書の定めにより算定すると、請求人株式の1株当たりの価額(上記(ホ)の株式分割後のもの。)は667円(1株当たり純資産価額を677円、類似業種比準価額を658円として算出。)になるとして、原処分の一部を取り消す異議決定をした。
ロ 請求人の電子応用事業の営業譲渡について
(イ) 請求人は、平成17年6月30日付で、M社との間で、請求人の電子応用事業部の営業譲渡に関し、要旨次の内容の基本契約を締結した。
A 請求人は、平成17年7月31日(以下、この基本契約において「譲渡日」という。)をもって、請求人の電子応用事業に属する営業をM社に譲渡する。ただし、譲渡日については、手続の進行に応じて必要があるときは、請求人及びM社が協議の上、変更することができるものとする。
B 請求人からM社に譲渡される財産(以下、この基本契約において「譲渡財産」という。)は、譲渡日現在の請求人の電子応用事業に属する製品在庫、仕掛品、材料等の営業権を除く資産、従業員、顧客、営業権等の有形無形の資産とし、その細目及び金額については、請求人及びM社協議の上、譲渡日までに営業譲渡契約において決定する。
C 譲渡財産の価額は、製品在庫、仕掛品及び材料の価額の合計金額に営業権の価額150,000,000円(消費税別)を加算した金額とする。ただし、本契約締結後、譲渡日までに本契約条項に従ってM社が行う請求人に対する監査の結果等を考慮し、M社が譲渡財産の価額を減額する必要があると認めた場合には、請求人及びM社協議の上、上記の金額を減額することができるものとする。
(ロ) 請求人は、平成17年7月29日付で、M社との間で、上記(イ)の基本契約に基づき営業譲渡契約を締結した。なお、当該営業譲渡契約においては、譲渡日は同(イ)のAと同じであり、また、同(イ)のBの譲渡財産については、営業権に関する部分を除き、平成17年6月30日現在の製品在庫、仕掛品等の明細書、請求人からM社に転籍する予定の従業員名簿及び引継対象主要顧客名簿が当該契約に係る契約書の別紙1から別紙3として添付されており、さらに、当該契約書には同(イ)のCの譲渡財産の価額について記載がないものの、同Cのただし書は記載されていた。

(5) 争点

イ 争点1 本件各新株予約権は、所得税法施行令第84条第4号に規定する有利な発行価額により新株を取得する権利に当たるか。
ロ 争点2 本件権利行使日における請求人株式の1株当たりの価額を評価基本通達に基づいて算定する場合において、類似業種比準価額を算出する際の請求人の業種目は製造業又は卸売業のいずれに当たるか。
ハ 争点3 請求人に、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるか。

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2 主張

(1) 争点1(本件各新株予約権は、所得税法施行令第84条第4号に規定する有利な発行価額により新株を取得する権利に当たるか。)について

イ 原処分庁
(イ) 商法第280条ノ20第1項及び第2項の規定からすると、請求人は、本件取締役会において本件各新株予約権の発行条件を承認し、決議したのであるから、本件取締役会が開催された平成17年8月8日が本件新株の発行価額を決定した日である。
 そして、平成17年8月8日の現況における請求人株式の1株当たりの価額は、直前の事業年度である平成16年8月1日から平成17年7月31日までの事業年度(以下「平成17年7月期」という。)の決算数値に基づき法人税基本通達9−1−14等に定める条件の下に、評価基本通達178から189−7までの例により算定すると、1,652円となる。
 したがって、本件新株の1株当たりの発行価額である567円(本件行使価額)は、上記の請求人株式の1株当たりの価額1,652円に比して社会通念上相当と認められる価額を下る発行価額であるから、本件各新株予約権は、有利な発行価額により新株を取得する権利に当たる。
(ロ) なお、本件新株の発行価額を決定する日の現況における請求人株式の価額の算定においては、平成17年7月期の決算が確定していたか否かは影響するものでなく、平成17年7月期の末日から同年8月8日までの間に、資産及び負債の金額に著しい増減は認められないから、請求人株式の価額を同年7月31日現在の資産及び負債の金額を基に算定することが不合理とは認められない。また、M社に対する請求人の電子応用事業の営業譲渡についても、平成17年7月31日付で行われているから、当該営業譲渡に係る収益を請求人株式の価額の算定の基礎となる数値に含めることが相当である。
(ハ) 請求人が主張する平成17年7月8日を評価時点として算定した価額や当該価額と同年8月8日を評価時点として算定した価額の加重平均により算定した価額は、同年7月8日と本件新株の発行価額を決定した日である同年8月8日との間における同年7月31日に営業譲渡が行われているから、同年8月8日の現況における株式の価額として実態にそぐわないものであり、有利な発行価額の判定のための相当な価額とは認められない。
ロ 請求人
(イ) 請求人は、平成17年5月31日に開催した経営会議において、本件各新株予約権の具体的な割当対象者及び割当株数を検討し、K税理士が評価基本通達により算定した1株当たりの価額627円に基づき本件決定価額(630円)を決定した後、同年7月20日に開催した経営会議において割当株数を修正したことから、最終的に本件決定価額を決定した日は平成17年7月20日である。
 そして、平成17年7月20日を評価時点とする請求人株式の1株当たりの価額は、同日の直前の事業年度である平成16年7月期の決算数値に基づき評価基本通達178から189−7までの例により算定すれば627円となり、また、平成17年5月の月次決算数値に基づき同様に算定すれば665円となる。
 したがって、本件決定価額(630円)は、上記の請求人株式の1株当たりの価額627円及び665円と比較しても、社会通念上相当と認められる価額を下らないから、本件各新株予約権は、有利な発行価額により新株を取得する権利に当たらない。
(ロ) 仮に、本件新株の発行価額を決定した日が平成17年8月8日であったとしても、その発行価額を決定する日の現況における請求人株式の価額は、その時点で算定可能な評価額とすべきであり、原処分庁が未だ確定していない平成17年7月期の決算数値に基づいて算定したことは不合理である。また、電子応用事業の営業譲渡は、最終的に調印がされた同年10月5日に確定したのであるから、当該営業譲渡に係る収益を請求人株式の価額の算定の基礎とすることはできない。
(ハ) 所得税基本通達23〜35共−7に定める新株の発行価額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額とは、発行価額を決定する日の価額だけでなく、発行価額の決定日前1月間の平均株価等、発行価額を決定するための基礎として相当と認められる価額であるから、社会通念上相当と認められる日本公認会計士協会が作成した企業価値評価ガイドラインによる評価方法に基づき算出された評価額も含まれるというべきである。
 そして、本件新株の発行価額の決定日である平成17年8月8日の1月前である同年7月8日を評価時点として評価基本通達及び企業価値評価ガイドラインによる評価方法に基づいて算定すれば、平成16年7月期の決算数値を用いた評価基本通達に基づく評価方法による請求人株式の1株当たりの価額は426円、平成17年6月の月次決算数値を用いた企業価値評価ガイドラインによる時価純資産法に基づく請求人株式の1株当たりの価額は450円となり、これらの金額は、本件決定価額(630円)を下るから、この点からしても、本件各新株予約権は、有利な発行価額により新株を取得する権利に当たらない。
 また、平成17年8月8日を評価時点として算定すれば、平成17年7月期の決算数値を用いた評価基本通達に基づく評価方法による請求人株式の1株当たりの価額は1,407円及び平成17年7月の月次決算数値を用いた企業価値評価ガイドラインによる時価純資産法に基づく請求人株式の1株当たりの価額は825円となり、これに上記の426円及び450円を用いて同年7月8日から同年8月8日の期間を評価時点として1月の加重平均額を算出すれば、請求人株式の1株当たりの価額は612円となり、さらに、評価基本通達により算出した価額(上記の426円及び1,407円)のみによる1月の加重平均額も679円となるから、この点からしても、本件決定価額(630円)は、社会通念上相当と認められる価額を下らないから、本件各新株予約権は、有利な発行価額により新株を取得する権利に当たらない。

(2) 争点2(本件権利行使日における請求人株式の1株当たりの価額を評価基本通達に基づいて算定する場合において、類似業種比準価額を算出する際の請求人の業種目は製造業又は卸売業のいずれに当たるか。)について

イ 原処分庁
 請求人が原処分庁に提出した書類等の記載内容によれば、請求人は、電子応用機器等の製造及び販売を行っていると認められるから、請求人が営む事業は、日本標準産業分類上、製造業に該当し、類似業種比準価額の計算上の業種目は、大分類「製造業」の中分類「電気機械器具製造業」(平成19年分:番号61)の小分類「その他の電気機械器具製造業」(平成19年分:番号67)に該当する。
ロ 請求人
 請求人は、製造を行う組織及び場所を有しておらず、自己が所有する原材料を請求人以外の者に支給して製品を作らせ、これを自己の名称で販売しており、いわゆる製造問屋であるから、請求人が営む事業は、日本標準産業分類上、卸売業の「5332電気機械器具卸売業(家庭用電気機械器具を除く。)」に該当し、類似業種比準価額の計算上の業種目は、大分類「卸売業」(平成19年分:番号78)の中分類「機械器具卸売業」(平成19年分:番号83)に該当する。

(3) 争点3(請求人に、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるか。)について

イ 請求人
 本件決定価額を決定する際に基礎とした請求人株式の価額の算定に当たっては、主幹事証券会社であるN証券の指導のもと、株式公開審査上認められ、また、株主等の利害関係者その他広く社会一般に認められた評価方法に基づいて行っている。
 したがって、本件決定価額の決定については、請求人に単なる法律の不知や錯誤に基づく過失は存在せず、本件代表者らが享受した経済的利益に係る源泉所得税が法定納期限までに納付されなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由がある。
ロ 原処分庁
 本件代表者らが享受した経済的利益に係る源泉所得税が、法定納期限までに納付されなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由に該当する事由は認められない。

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3 判断

(1) 争点1(本件各新株予約権は、所得税法施行令第84条第4号に規定する有利な発行価額により新株を取得する権利に当たるか。)について

イ 法令解釈等
 所得税法施行令第84条第4号に規定する有利な発行価額とは、所得税基本通達23〜35共−7において、新株の発行価額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して、おおむね10%相当額以上下る発行価額をいうものと定められているところ、この定めは、有利な発行価額を判断する上で合理的であり、当審判所においても相当と認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の定款について
 請求人の定款第8条(株式の譲渡制限)は、請求人株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けることを必要とする旨定めていた。
(ロ) 請求人の電子応用事業の営業譲渡等について
A 請求人がM社に譲渡した電子応用事業については、M社が100%出資して平成17年7月○日に設立したP社に引き継がれた。なお、P社は、電子計測器、電子応用機器等の開発、製造、販売を業とする法人である。
B 請求人の平成17年7月期の売上高は約13億円であり、その内訳は、ミキサー事業部門が約74%、電子応用事業部門が約26%の割合であったが、平成17年8月1日から平成18年7月31日までの事業年度の売上高は約13億円であり、その全てがミキサー事業部門に係るものであった。
C 電子応用事業の営業譲渡契約により、請求人からM社に転籍する予定のひとりであったQは、平成17年7月31日付をもって請求人の取締役を退任し、請求人を退職しており、また、P社の設立時から同社の取締役に就任していた。
D 請求人は、平成17年7月期の確定申告において、電子応用事業の営業譲渡に係る売却益91,960,397円を特別利益として益金の額に算入していた。
E 請求人の平成17年7月期の会計監査を行ったR監査法人は、請求人が当該営業譲渡に係る売却益91,960,397円を特別利益として計上した会計処理について妥当なものと認める判断をした。
ハ 当てはめ
(イ) 本件新株の発行価額を決定する日について
 新株の発行価額を決定する日がいつになるかについては、税法上、特段の規定がないところ、商法第280条ノ20第2項は、発行する新株予約権の目的たる株式の種類等の事項について、定款をもって株主総会がこれを決議する旨を定めた場合を除き取締役会において決議する旨規定し、同法第280条ノ27第1項は、株式譲渡制限会社について、株主以外の者に新株予約権を発行する場合には、まる1株主以外の者に新株予約権を発行すること、まる2新株予約権の目的たる株式の種類及び数について株主総会の特別決議を要する旨規定しており、本件においても、これらの商法の規定に基づいて判断するのが相当と認められる。
 ところで、請求人は、上記ロの(イ)のとおり、株式譲渡制限会社に該当し、上記1の(4)のイの(ニ)のとおり、本件各新株予約権を本件代表者らのみに発行し、全ての株主に平等に発行していないところ、本件各新株予約権の発行は、商法第280条ノ27第1項に規定する株主以外の者に対して新株予約権を発行する場合に該当するから、商法上、請求人が本件各新株予約権を発行する場合は、株主総会の特別決議を必要とするものであったと認められる。そして、上記1の(4)のイの(ロ)ないし(ニ)のとおり、本件各新株予約権は、その発行に関して本件取締役会において臨時株主総会の決議を要することが決議され、実際に、平成17年8月23日の臨時株主総会の決議を経て、本件代表者らに対して発行されていることを踏まえると、請求人は、当該臨時株主総会の決議を経なければ本件各新株予約権は発行できなかったと認められる。
 そうすると、本件発行価額を決定した日は、当該臨時株主総会の決議がされた平成17年8月23日とするのが相当である。
(ロ) 本件各新株予約権が有利な発行価額により新株を取得する権利に当たるかについて
A 所得税基本通達23〜35共−7に定める発行価額を決定する日の現況における株式の価額について、同通達は、具体的な算定方法を定めていないものの、所得税基本通達23〜35共−9の(4)は、所得税法施行令第84条各号に規定する権利の行使の日等における株式の価額の評価方法について定めており、同通達の定めは、ある特定の時点における株価の算定の方法として合理的と認められるから、発行価額を決定する日の現況における株式の価額の算定に当たっても、同通達の定めに基づき算定するのが相当と認められる。
 ところで、所得税基本通達23〜35共−9の(4)の定めは、株式の低額譲受けに係る給与所得の金額等を計算するために株式の価額を評価する場合において、当該株式が非上場株式で気配相場や売買事例がなく、その発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する法人がないときにも妥当するものと解されるが、このような一般的、抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難である。
 他方、評価基本通達の定める非上場株式の評価方法は、相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し、課税実務上も定着しているものであるから、これと著しく異なる評価方法を所得税及び法人税の課税において導入すると、混乱を招くことになる。このような観点から、法人税基本通達9−1−14は、評価基本通達の定める非上場株式の評価方法を、原則として法人税課税においても是認することを明らかにするとともに、この評価方法を無条件に法人税課税において採用することには弊害があることから、所定の条件を付して採用することとしている。このことは、所得税課税においても同様に妥当するというべきである。したがって、評価基本通達が定める1株当たり純資産価額の算定方式を所得税課税においてそのまま採用すると、相続税や贈与税との性質の違いにより課税上の弊害が生ずる場合には、これを解消するための修正を加えるべきであるが、このような修正をした上で同通達所定の例により算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、所得税基本通達23〜35共−9の(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。
B そして、本件においては、当審判所の調査の結果によれば、請求人株式は、非上場株式で気配相場もなく、また、売買実例も認められず、さらに、請求人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額も認められないから、上記(イ)の本件新株の発行価額の決定日である平成17年8月23日における本件新株の価額は、所得税基本通達23〜35共−9の(4)に定める、権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額により評価すべきものと認められ、その評価方法は、必要となる修正をした上で評価基本通達178から189−7までの例によって評価を行うことが相当と認められる。
 そして、請求人は、平成17年7月期の末日から本件新株の発行価額の決定日である平成17年8月23日までの期間において仮決算を行っている事実は認められず、また、同日と平成17年7月期の末日において、資産及び負債について著しく増減があったと評価される事実も認められないから、本件新株の発行価額の決定日である平成17年8月23日における請求人株式の価額は、その直前の事業年度である平成17年7月期の決算数値に基づいて算定するのが相当と認められる。
 なお、請求人の電子応用事業の営業譲渡に関しては、上記ロの(ロ)のDのとおり、その譲渡に係る売却益が平成17年7月期の特別利益として益金の額に算入されているところ、上記1の(4)のロのとおり、その譲渡日は平成17年7月31日とされ、当該譲渡日は、契約により変更が可能と認められるものの、変更がされたことを認めるに足りる証拠はなく、また、上記ロの(ロ)の各事実を併せ考えると、電子応用事業の営業譲渡は、平成17年7月31日をもって行われたと認めるのが相当である。
 そこで、当審判所において、必要となる修正をした上で評価基本通達178から189−7までの例により、平成17年8月23日における請求人株式の1株当たりの価額を算定すると1,715円となる。なお、請求人株式の1株当たりの価額の算定に当たっては、類似業種比準価額(算出過程は別表1−1付表1及び別表1−2付表1)と1株当たりの純資産価額(算出過程は別表1付表2)を用いて別表1−1及び別表1−2の方法により算出することとなり、類似業種比準価額の算出に当たっては請求人の業種目が関係するが、これについては、後記(2)の争点2のとおり、当事者間に争いがあるところ、請求人が主張する卸売業に基づき類似業種比準価額を算出すると2,527円となり、また、原処分庁が主張する製造業に基づき類似業種比準価額を算出すると4,548円となり、請求人株式の1株当たりの価額は、類似業種比準価額が上記のいずれの価額であったとしても、1株当たりの純資産価額である1,715円となる(別表1−1及び別表1−2参照)。
C また、新株予約権の行使により発行される新株の1株当たりの発行価額は、商法第280条ノ20第4項において、新株予約権の発行価額及び新株予約権の行使に際して払込みをすべき額との合計額とする旨規定しているところ、所得税法施行令第84条第4号に規定する新株の発行価額もこれと同様と解するのが相当であるから、本件新株の1株当たりの発行価額は、本件各新株予約権の1株当たりの発行価額63円と本件各新株予約権の行使に際して払込みをすべき1株当たりの額567円の合計額である630円となる。
 したがって、原処分庁の本件各新株予約権の行使に際して払込みをすべき金額567円が本件新株の1株当たりの発行価額である旨の主張は採用できない。
D 以上の結果、請求人の本件新株の1株当たりの発行価額は630円であり、この金額は、本件新株の発行価額の決定日である平成17年8月23日における請求人株式の1株当たりの価額1,715円を10%を超えて下るから、本件各新株予約権が有利な発行価額により新株を取得する権利に当たることは明らかである。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件決定価額を最終的に決定した日は、経営会議を開催した平成17年7月20日であり、同日における請求人株式の1株当たりの価額は、同日の直前の事業年度である平成16年7月期の決算数値又は同日において算定の基礎とすることができる平成17年5月の月次決算数値に基づいて、評価基本通達により算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が本件新株の1株当たりの発行価額を決定した日は、臨時株主総会の決議が行われた平成17年8月23日と認められ、また、本件新株の発行価額の決定日である平成17年8月23日における請求人株式の価額は、その直前の事業年度である平成17年7月期の決算数値に基づいて算定するのが相当であることは、上記ハの(イ)及び(ロ)のBのとおりである。さらに、請求人が主張する平成16年7月期末から本件新株の発行価額を決定した日である平成17年8月23日までの間には、上記ハの(ロ)のBのとおり、営業譲渡が行われており、請求人の資産及び負債に著しい増減があると認められるから、平成16年7月期の決算数値に基づいて算定することも平成17年5月の月次決算数値に基づき算定することも、合理性があるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 請求人は、未だ確定していない平成17年7月期の決算数値に基づき算定することはできないから、これに基づいて請求人株式の価額を算定することは不合理である旨、また、請求人の電子応用事業の営業譲渡は、最終的に調印がされた平成17年10月5日に確定したのであるから、その譲渡損益を請求人株式の価額の算定の基礎となる数値に含めるべきでない旨主張する。
 しかしながら、本件各新株予約権が所得税法施行令第84条第4号に規定する有利な発行価額により新株を取得する権利に当たるか否かを判断するに当たって、本件新株の発行価額が同号に規定する有利な発行価額に当たるか否かを、本件新株の発行価額の決定日の現況における請求人株式の価額に比して判断するものであることからすると、本件新株の発行価額を決定した平成17年8月23日の直前の事業年度である平成17年7月期の決算数値に基づいて請求人株式の価額を算定することが不合理とは認められず、また、請求人の電子応用事業の営業譲渡に関し、請求人の主張や証拠として提出された書面によれば、平成17年7月31日後において、当該営業譲渡に係る最終調印式が行われたことや製品在庫等の棚卸資産の引渡し作業が行われたことなどを認めることはできるものの、それらは、上記ハの(ロ)のBの平成17年7月31日をもって当該営業譲渡が行われたとする判断を左右するに足りる証拠とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、所得税基本通達23〜35共−7に定める発行価額を決定する日の現況における株式の価額には、企業価値評価ガイドラインによる評価方法に基づく評価額も含まれるから、これらの評価方法により算定された価額も本件新株の発行価額を決定した日の価額に含まれるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の評価方法により算定された価額は、直前の事業年度を平成16年7月期として評価基本通達により算定した価額をも基礎としているところ、上記(イ)のとおり、同期の末日から本件新株の発行価額を決定した日である平成17年8月23日までの間に、請求人の資産及び負債に著しい増減があると認められるから、同期の数値を用いて請求人株式の価額を算定することに合理性があるとは認めらない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

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(2) 争点2(本件権利行使日における請求人株式の1株当たりの価額を評価基本通達に基づいて算定する場合において、類似業種比準価額を算出する際の請求人の業種目は製造業又は卸売業のいずれに当たるか。)について

イ 法令解釈等
 評価基本通達180に定める類似業種比準価額により株式の価額を算定する場合において、評価会社の事業が類似業種比準価額の業種目のいずれに当たるかの判定に当たっては、日本標準産業分類が、産業構造の実態を把握するための統計上の必要性から定められたものではあるものの、我が国における標準産業を体系的に分類しており、他にこれに代わり得る普遍的で合理的な産業分類は見当たらないことからすれば、日本標準産業分類を基本とすることに合理性があると認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の本件権利行使日における組織は、経営管理部(総務課、経理課)、営業部(営業1課、営業2課、海外営業課、営業業務課、d営業所、応用技術係、マーケティング企画課)、技術部(製品設計課、製造技術課)、○○推進部(○○開発室、生産管理課、サービス課)、研究開発部(品質保証課、R&D室)の5つの部と上場準備室及びISO推進室兼内部監査室に区分されていた。
(ロ) 請求人は、本件権利行使日において、自ら自社製品(以下「請求人製品」という。)を設計・開発し、その試作品を製作しているものの、請求人製品を組立て・加工する工場及び部署を有しておらず、請求人以外の者に請求人製品に係る原材料を支給し、組立て・加工をさせ、請求人の名称で販売していた。
ハ 当てはめ
(イ) 上記ロのとおり、請求人は、請求人製品の試作品を自ら製作しているものの、請求人製品の組立て・加工などの製造行為を自ら行っておらず、そのすべてを請求人以外の者にさせていたことからすると、請求人が営む事業形態は、日本標準産業分類における自ら製造を行わないで、自己の所有に属する原材料を下請工場などに支給して作らせ、これを自己の名称で販売する製造問屋としての卸売業に区分されるというべきである。
(ロ) そうすると、評価基本通達における類似業種比準価額の計算の基礎となる類似業種の業種目については、上記イのとおり、日本標準産業分類の区分を基本とするところ、上記(イ)のとおり、請求人の営む事業は、日本標準産業分類の区分上、卸売業に区分されるから、類似業種比準価額の計算の基礎となる類似業種の業種目については、大分類「卸売業」、中分類「機械器具卸売業」とするのが相当である。
 したがって、請求人の営む事業は日本標準産業分類の区分上、製造業である旨の原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件納税告知処分の適法性について

 上記(1)のハの(ロ)のDのとおり、本件各新株予約権は、所得税法施行令第84条第4号に規定する有利な発行価額により新株を取得する権利に該当するところ、上記(2)のハの(ロ)のとおり、請求人の業種目は卸売業に該当するから、これに基づき評価基本通達178から189−7までの例により本件権利行使日における請求人株式の価額を算定すると、別表2(同付表1及び同付表2を含む。)のとおり525円となる。また、本件権利行使日における本件新株の1株当たりの発行価額は、上記1の(4)のイの(ホ)のとおり、請求人株式が平成19年5月8日に1株につき3株の割合をもって分割されているから、210円((567円+63円)÷3)となる。
 そうすると、本件各新株予約権の本件権利行使日における請求人株式の1株当たりの価額525円は、本件権利行使日における本件新株の1株当たりの発行価額210円を上回るから、その1株当たりの差額315円(525円−210円)に、本件代表者らが本件権利行使日に取得した本件新株の株式数を乗じて算出した別表3の「支払認定金額」の「合計」欄の合計金額○○○○円は、所得税法第36条及び所得税法施行令第84条の規定により、請求人から本件代表者らに供与された経済的利益の額に該当することになる。
 そして、上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、本件各新株予約権は、本件代表者らの地位にあることをもって与えられたものと認められるから、本件各新株予約権の行使により本件代表者らが享受した上記の経済的利益の額は、所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当し、請求人は、同法第183条第1項の規定により、当該経済的利益の額に係る源泉所得税を徴収し、これを国に納付しなければならないところ、当該経済的利益の額につき同法第186条第2項第1号の規定により、請求人が納付すべき源泉所得税の額を計算すると、別表3の「源泉徴収すべき税額」の「合計」欄の合計金額○○○○円となる。
 以上の結果、請求人が納付すべき源泉所得税の額○○○○円は、本件納税告知処分の額を下回るから、本件納税告知処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(4) 争点3(請求人に、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるか。)について

イ 法令解釈
 通則法第67条第1項に規定する不納付加算税は、源泉徴収に係る国税の不納付による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に納付した者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、不納付という納税義務違反の発生を防止し、適正な自主納付の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であると解するのが相当である。
 この趣旨に照らせば、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、法定納期限までに納付しなかったことについて真に源泉徴収義務者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、源泉徴収義務者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当であり、税法の不知若しくは法令解釈の誤解又は事実の誤認などの源泉徴収義務者の主観的な事情に基づくような場合は、これには当たらないと解すべきである。
ロ 当てはめ
 請求人は、請求人株式の価額の算定に当たっては、N証券の指導のもと、株式公開審査上認められ、また、広く社会一般に認められた評価方法に基づき行っているから、請求人に単なる法律の不知や錯誤に基づく過失は存在しない旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のイの(ト)のとおり、請求人は、本件新株の1株当たりの発行価額630円(株式分割前)をK税理士が評価基本通達により算定した1株当たりの価額627円に基づき自ら決定したものと認められるところ、上記(1)のハの(ロ)のBのとおり、本件新株の発行価額の決定日の現況における請求人株式の1株当たりの価額は1,715円であるから、請求人が自ら算定したとする627円が相当でないことは明らかである。
 そうすると、本件新株の発行価額の決定日の現況における請求人株式の1株当たりの価額の算定について、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえず、請求人の主張を考慮しても、なお請求人に通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件納税告知処分は、その一部を取り消すべきであるから、不納付加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は○○○○円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実について、上記(4)のロのとおり、請求人の主張には理由がなく、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の不納付加算税の額は○○○○円となり、本件賦課決定処分の額を下回るから、本件賦課決定処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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