(平成24年5月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)は、売上金額の一部を除外するなどの、偽りその他不正の行為に基づく過少な申告をしていたとして、事業所得の金額及び課税売上高を推計して、所得税の更正処分等並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分等をしたのに対し、請求人が、まる1課税処分の取消原因となる違法な調査が行われた、まる2偽りその他不正の行為とされた事実に誤認がある、まる3原処分庁の推計方法は最適な方法でないなどとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成15年分ないし平成21年分の各年分(以下「本件各年分」という。)の所得税に係る審査請求(平成23年5月31日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
ロ 平成15年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成16年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成17年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成18年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成19年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間及び平成21年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下、順次、「平成15年課税期間」、「平成16年課税期間」、「平成17年課税期間」、「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」、「平成20年課税期間」及び「平成21年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等に係る審査請求(平成23年5月31日請求)に至る経緯は、別表2のとおりである。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる旨規定している。
ロ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項第1号は、事業者が国内において行った課税仕入れに係る消費税額は、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除する旨規定し、同条第7項は、原則として、同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れの税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には適用されない旨規定している。
ハ 消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項は、事業者が納税地の所轄税務署長にこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が50,000,000円を超える課税期間等を除く。)については、同法第30条ないし同法第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》の規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れに係る消費税額は、これらの規定に関わらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における同法第38条《売上げに係る対価の返還等をした場合の消費税額の控除》第1項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除した残額の100分の60に相当する金額とする旨規定している(以下、この所定の割合を用いて課税仕入れに係る消費税額を算出する特例制度を「簡易課税制度」という。)。
ニ 国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、過少申告加算税が課される場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
ホ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項第1号は、更正はその更正に係る国税の法定申告期限から原則として3年を経過した日以後はすることができない旨規定し、同条第4項第2号は、加算税の賦課決定はその納税義務の成立の日(賦課決定に係る国税の法定申告期限)から5年を経過した日以後はすることができない旨規定している。
 また、同条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正及び加算税の賦課決定は、同条第1項ないし第4項の規定に関わらず、更正はその更正に係る国税の法定申告期限(第1号)から、加算税の賦課決定はその納税義務の成立の日(第3号)から、それぞれ7年を経過する日まですることができる旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和60年10月○日に、U国から来日し、以後、現在まで引き続き日本国内に住所を有している。なお、請求人は、昭和61年1月○日に、同じくU国から来日したH(日本での通称は「J」。)と来日前から婚姻関係にあったが、平成19年の夏頃に離婚した。
ロ 請求人は、平成15年ないし平成21年の各年(以下「本件各年」という。)において、次の各店舗における飲食業を営んでいた。
(イ) K
 a県d市e町○−○に所在するスナックであり、平成11年5月頃に開店し、現在まで営業している。
(ロ) L
 a県d市e町○−○に所在する小料理屋であり、平成11年12月頃に開店し、現在まで営業している。
(ハ) M
 a県d市e町○−○に所在していた居酒屋であり、平成13年9月頃に開店し、平成20年12月まで営業していた。
(ニ) N
 a県d市e町○−○に所在していた居酒屋であり、平成19年9月に開店し、同年10月まで営業していた。
(ホ) P
 a県f市g町○−○に所在していた中華料理店であり、平成20年9月に開店し、平成23年1月まで営業していた。
(ヘ) Q
 a県d市e町○−○に所在する居酒屋であり、平成21年3月に開店し、現在まで営業している。
ハ 請求人は、本件各年において、主にPのランチタイムの接客及びKの営業に従事していたため、次のとおり各店舗の売上金を管理していた。
(イ) Kの売上金は、請求人が直接、管理していた。
(ロ) L、M、N及びQの各売上金は、当該各店舗の従業員に、営業日ごとに、その日の全ての売上伝票とともに封筒に入れた状態で、Kまで届けさせ、あるいはLで調理を担当するJを介するなどして、請求人が当該封筒を受け取っていた。
(ハ) Pの売上金は、同店の従業員に、営業日ごとに、その日の全ての売上伝票とともに封筒に入れた状態で、同店のレジスター内に保管させ、翌日に請求人が、当該レジスター内から当該封筒を回収していた。
ニ 請求人は、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等について、L、N、P及びQに係る所得等(所得及び課税売上げをいう。以下同じ。)を一切含めずに各確定申告をした(請求人が申告したK及びMに係る所得の収支状況等は、別表3のとおりである。)。
 なお、Lに係る所得等については、Jが、本件各年分の所得税及び平成17年課税期間以後の各課税期間の消費税等について、同人の所得等であるとして、各確定申告をしており(同人が申告したLに係る所得の収支状況は、別表4のとおりである。なお、当該各確定申告については、Lに係る所得等は同人に帰属しないものとする各減額更正がなされた。)、請求人も、原処分に係る調査及び異議申立段階では、Lに係る所得等はJに帰属する旨主張していたが、審査請求では、従前の主張を変更し、本件各年分及び本件各課税期間のLに係る所得等が請求人に帰属することを争わないとしている(もっとも、後述するとおり、請求人は、Lに係る所得等をJが申告していたことについて、請求人の税負担を免れる目的でしたことではない旨主張している。)。
ホ 請求人は、平成15年12月18日に消費税簡易課税制度選択届出書を当時の請求人の納税地(住所。なお、請求人は、平成22年4月28日に住所をa県h市i町○−○から肩書地へ移動した。)の所轄税務署長であったR税務署長に提出し、平成16年課税期間以後の消費税について、消費税法第37条第1項の規定の適用を受けている。
 また、請求人は、平成13年分以後の所得税について青色申告の承認を受けていたところ、原処分に係る調査により、平成22年10月27日付で平成15年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分を受けたため、当該処分に対する審査請求をしたが、当該審査請求は、平成24年3月28日付の裁決により棄却された。
ヘ 原処分に係る調査において、請求人が備付け、記録及び保存をしていた本件各年分及び本件各課税期間に係る帳簿書類の状況は、次表のとおりであり、請求人は、当該帳簿書類の全てを原処分庁所属の調査担当職員に提示した。

  平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年
K 帳簿 なし 有(一部)
売上書類 なし なし なし
経費書類 なし なし 7月のみ
M 帳簿 なし なし  
売上書類 なし なし 2〜12月のみ 1〜2月のみ
経費書類 なし なし 2〜12月のみ なし
L 帳簿 なし
売上書類 なし なし
経費書類 なし なし
N 帳簿         なし    
売上書類
経費書類
P 帳簿           なし 有(一部)
売上書類 9〜10月のみ 3〜12月のみ
経費書類 9〜10月のみ 3〜12月のみ
Q 帳簿            
売上書類
経費書類

(注)

  1. 1 「帳簿」は、K及びMの平成15年及び平成16年のみ総勘定元帳であり、それ以外は、いずれも現金出納帳(日々の現金有高の記載がないもの)である。
  2. 2 売上書類及び経費書類の「有」は、特定の月に偏りなく、その年の各書類が保存されていたことを示す(全ての書類が保存されていたことを示すものではない。)。
  3. 3 Qの帳簿には平成21年8月31日以後の売上の記載がない。また、Qの平成21年9月以後分と思われる売上書類は、未整理の状態である上、日付の記載がないため、整理することができない。

ト 原処分庁は、上記ヘのとおり、本件各年分及び本件各課税期間に係る帳簿書類の備付け、記録及び保存が適切になされていなかったことに加え、売上伝票の状況などから売上除外の事実が認められ、提示された帳簿書類によっては、請求人の本件各年分の事業所得の金額及び本件各課税期間の課税売上高を実額で計算することができないとして、当該売上伝票の内容及び本件各年のビールの仕入数量に基づき、請求人の本件各年分の事業所得の金額及び本件各課税期間の課税売上高を推計して、所得税及び消費税等に係る原処分を行った。

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2 原処分庁が主張する各更正処分の根拠等

 原処分庁は、別表5及び別表5−付のとおり、請求人の本件各年分の事業所得の金額(総所得金額)を算出し、これらの金額がいずれも原処分の額を上回るから、本件各年分の所得税の各更正処分は、いずれも適法であると主張している。
 また、原処分庁は、別表6のとおり、請求人の本件各課税期間の納付すべき消費税等の額を算出し、これらの金額がいずれも原処分の額を上回るから、本件各課税期間の消費税等の更正処分は、いずれも適法であると主張している。

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3 争点

 本件の争点は、次のとおりである。
 なお、請求人は、上記1の(4)のニで述べたLに係る所得等の帰属のほか、原処分庁が請求人の本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等について推計による課税を行う必要があったことに関しては争わず、また、本件各年分の事業所得の必要経費、並びにN及びPの各収入金額及び各課税売上高についても、原処分庁主張額のとおりであるとして争っていない。

  1. 争点1 原処分に係る調査において課税処分の取消原因となる違法があったか否か。
  2. 争点2 偽りその他不正の行為に関する次の各点。
    1. (1) Lに係る所得等を、請求人が申告せず、Jが申告していたことは、偽りその他不正の行為に当たるか否か。
    2. (2) K、M、L及びQについて売上金額の一部の除外(売上除外)があったか否か。
  3. 争点3 原処分庁が主張する推計方法は最適な推計方法であるか否か。

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4 争点1について

(原処分に係る調査において課税処分の取消原因となる違法があったか否か)

(1) 主張

イ 請求人
 平成22年7月30日にg町のカラオケボックスで行われた原処分に係る調査において、原処分庁所属の担当職員(以下「本件職員」という。)は、大声を出し、机をたたくなど、請求人が畏怖を感じるような強圧的な言動を行った。このような調査は違法であり、課税処分の取消原因となるものである。
ロ 原処分庁
 本件職員は、請求人の都合及び税務職員の守秘義務に配意し、平成22年7月30日に、g町にあるPの近くのカラオケボックスにおいて調査を行った。当日は、各店舗の売上伝票の作成状況から記帳に至るまでの経緯等について、請求人に説明を求め、その際、本件職員は、机上の書類をトントンと指し示したが、請求人が主張するような言動は行っていない。

(2) 判断

イ 課税処分の適否は、課税要件事実の存否によって決せられるべきであるから、税務調査の違法があったと認められる場合でも、その違法の程度が刑罰法規に抵触し、又は公序良俗に反するなど、およそ課税処分の前提となる税務調査が行われたとはいえないような重大なものでない限り、当該税務調査の違法が課税処分の取消事由となることはないと解される。
ロ これを本件についてみると、平成22年7月30日にg町のカラオケボックスにおいて行われた調査の状況を報告するために本件職員が作成した同日付の調査報告書には、まる1親族名義の預金等口座に入金された金員が請求人に帰属するか否かについて、請求人がこれを否定した旨、まる2請求人から各店舗の事業概況(売上伝票の作成状況から記帳に至るまでの経緯を含む。)の説明を受けた旨、及びまる3各店舗の売上伝票に他の売上伝票の記載が筆圧で残った痕(以下「筆圧痕」という。)があるのに、当該筆圧痕に対応する売上伝票が存在しない理由について、請求人が、Qについては売上除外をしたこと(数葉の売上伝票を抜き取って売上を過少に計上したこと)を認めたが、Q以外の店舗についてはわからないとの回答を繰り返した旨が記載されているところ、同調査報告書が上記調査の行われた日付で作成されていること、当審判所において同調査報告書を閲覧した請求人が、これらの記載について、事実に反するなどの主張をしていないこと、及び同調査報告書に記載された内容が、当審判所に対する請求人の主張(後記5の(2)のイの(ロ))に沿うものであることからすると、上記調査の状況は、同調査報告書に記載されたとおりであったと認められる。
 そうすると、上記調査時に、請求人は、本件職員の質問に対し、必要に応じて事実を否定したり、不明である旨の申述を繰り返したりすることが容易にできる状態であったことが明らかであるから、本件職員が請求人を畏怖させるような強圧的な言動を行ったという請求人の主張内容には、疑わしいところがあるといわざるを得ないし、仮に請求人の主張するような本件職員の言動があったとしても、そのことをもって、およそ税務調査が行われたとはいえないような重大な違法があったとは認められない。
 したがって、原処分に係る調査において課税処分の取消原因となる違法があったとはいえない。
ハ これに対し、請求人は、請求人の主張を裏付けるものであるとして、S医師が作成した請求人の病状に関する平成23年4月5日付の診断書(「傷病名:○○○」、「上記診断にて当院外来加療中である」との記載がある。)を当審判所に提出している。
 しかし、そもそも当該診断書の記載をもってしても、原処分に係る調査を原因として請求人が上記傷病に罹患したのか否かは明らかでないから、当該診断書に基づく請求人の上記主張は、上記ロの認定判断を左右するものではない。

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5 争点2について

(1) Lに係る所得等を、請求人が申告せず、Jが申告していたことは、偽りその他不正の行為に当たるか否か

イ 主張
(イ) 原処分庁
 請求人は、本件各年分及び本件各課税期間のLに係る所得等が請求人に帰属するにも関わらず、これを請求人の所得等として申告せず、上記1の(4)のニのとおり、Jに帰属するものであるとして、同人に当該所得等の申告をさせていた。このことは、偽りその他不正の行為に当たる。
(ロ) 請求人
 請求人が、本件各年分及び本件各課税期間のLに係る所得等を請求人の所得等として申告せず、上記1の(4)のニのとおり、Jに帰属するものであるとして、同人に当該所得等の申告をさせていたことは認める。
 しかし、これは、請求人の税負担を免れようとして行ったものではない。すなわち、請求人は、平成15年にR税務署長所属の調査担当職員による税務調査を受けた際に、平成12年分のLに係る所得を請求人が申告し、平成13年分及び平成14年分のLに係る所得をJが申告した理由を聞かれて、平成12年分の申告が誤りである旨の説明をしたところ、請求人の平成12年分の所得税について、Lに係る所得の金額を減額する旨の更正を受けたので、以後、Lに係る所得等はJに帰属するものとして、申告をしなかったにすぎない。
 したがって、Lに係る所得等を、請求人が申告せず、Jが申告していたことは、偽りその他不正の行為には当たらない。
ロ 判断
(イ) 法令解釈
 通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によって国税の税額の全部又は一部を免れた納税者がある場合に、これに対して適正な課税を行うことができるよう、それ以外の場合よりも長期の除斥期間を定めたものであるから、ここにいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うことをいうものと解するのが相当である。
(ロ) 本件への当てはめ
 当審判所の調査の結果によれば、Lに係る所得等については、請求人の主張のとおりの請求人及びJの各申告がなされたこと、並びにR税務署長所属の調査担当職員による税務調査が行われ、請求人の平成12年分の所得税について、Lに係る所得の金額を減額する旨の更正がされたことが認められる。
 もちろん、ある所得がその納税者のものであるか否かは当該納税者が最もよく知る事実であるから、請求人は、Lに係る出資者、経営方針等の決定権者又は稼得した利益の享受者は誰かなどを検討して、Lに係る所得等の帰属者を正しく判定し、適正な申告をすべきであった。しかし、請求人は、平成15年当時、Jと婚姻関係にあり、同人と共同でLを運営していたことからして、当該判定の要素が両名に混在し、請求人がLに係る所得等の帰属者を明確かつ容易に判定できるとは必ずしもいえない状況にあったことは、否定し難い。
 そして、上記の申告等の経緯及び請求人の当時の状況を前提とすると、請求人は、一旦はLに係る所得を自身に帰属するものとして申告した後、Lの店長的な立場にあったJに当該所得等が帰属するものと考え直し、同人に当該所得等を申告させたところ、この考えに沿う内容の更正がR税務署長により行われたため、その後は自らの所得等としての申告をせず、Jによる申告を継続させた上、上記1の(4)のニのとおり、原処分に係る調査及び異議申立段階では、Jに当該所得等が帰属するとした上記申告に沿う主張をしたものの、原処分及び異議決定を経て、この点に関する処分の理由の内容を理解し、その内容に沿って自身の従前の主張を変更するに至ったものと認めることができる。そうすると、請求人は、必ずしも自身の税額を免れる意図をもって本件各年分及び本件各課税期間のLに係る所得等について上記のとおりの申告を継続していたとはいえない。
 したがって、Lに係る所得等を、請求人が申告せず、Jが申告していたことをもって、請求人が、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行ったと評価することはできないから、このことは、偽りその他不正の行為に当たらない。

(2) K、M、L及びQについて売上金額の一部の除外(売上除外)があったか否か

イ 主張
(イ) 原処分庁
 請求人は、以下のとおり、本件各年を通じて、K、M、L及びQについて売上伝票の一部を破棄するなどの方法により、売上除外をしていた。
 したがって、平成15年ないし平成18年において、偽りその他不正の行為があった。
A Kの売上除外
(A) 平成18年ないし平成20年
 Kの売上伝票は、一枚一枚はがして使用せず、一綴りのまま使用されていたため、売上伝票に記載された品名及び単価等の文字及び数字が、その下の売上伝票の用紙に筆圧で残ることがある。しかし、次表の売上伝票に残された料金と思われる数字の筆圧痕については、いずれも当該筆圧痕に対応する売上伝票が存在せず、しかも、請求人は、その理由を合理的に説明できない。
 そうすると、請求人は、売上伝票の一部を破棄する方法により、Kの売上除外をしていたというべきである。

売上伝票の日付 売上伝票の料金 数字の筆圧痕
平成18年3月23日 31,000円 38,000
平成18年3月27日 25,000円 6,000
平成18年4月6日 63,000円 8,500
平成18年4月13日 40,000円 36,000
平成18年4月18日 18,000円 12,000
平成19年4月5日 49,000円 10,000
平成19年4月9日 8,400円 20,000
平成19年4月12日 9,200円 12,500
平成20年2月11日 18,000円 12,000
平成20年2月13日 7,600円 9,000
平成20年2月22日 49,000円 32,000、48,000
平成20年2月29日 29,900円 6,800

(B) 平成18年ないし平成21年
 提示された売上伝票上の瓶ビールの売上本数と瓶ビールの仕入本数を比較すると、次表のとおり、その差が大きい。これは、請求人が、上記(A)の方法により、経常的にKの売上除外をしていたことを裏付けるものである。

(単位:本)
年分等
項目
平成18年 平成19年 平成20年 平成21年
瓶ビールの売上本数 まる1 380 443 381 237
瓶ビールの仕入本数 まる2 480 621 645 388
差(まる2まる1) 100 178 264 151

B Mの売上除外
(A) 平成18年及び平成20年
 Mの売上伝票は、数葉を重ねて使用されていたため、売上伝票に記載された品名及び単価等の文字及び数字が、その下の売上伝票の用紙に筆圧で残ることがある。しかし、次表の売上伝票に残された品名と思われる文字や、単価又は料金と思われる数字の筆圧痕については、いずれも当該筆圧痕に対応する売上伝票が存在せず、しかも、請求人は、その理由を合理的に説明できない(なお、次表中、「ボ 2,980」は「ボトル 2,980円」の意味であり、「T」は清酒の銘柄であると認められる。また、平成20年2月6日の「3,5■■」は末尾2桁を明瞭に読み取ることができないことを示す。)。
 そうすると、請求人は、売上伝票の一部を破棄する方法により、Mの売上除外をしていたというべきである。

売上伝票の日付 文字及び数字の筆圧痕
平成18年7月22日 26,215
平成18年7月25日 ボ 2,980
平成20年2月1日 8,850
平成20年2月2日 10,520
平成20年2月4日 7,360
平成20年2月6日 3,5■■
平成20年2月6日 14,540
平成20年2月15日 26,760
平成20年2月20日 T
平成20年2月27日 12,850
平成20年2月27日 5,000

(B) 平成17年及び平成19年
 Mの売上金は、その日の全ての売上伝票等とともに封筒に入れた状態で、Mの従業員により、又はJを介するなどして、請求人に届けられるが、同従業員は、店名、日付及び売上金の合計額などを当該封筒に記載していたため、その記載した文字及び数字が封筒内の売上伝票等に筆圧で残ることがある。しかし、次表の売上伝票等に残された上記の日付や、同日の売上金の合計額と思われる数字の筆圧痕については、請求人が同従業員から受領した封筒内の売上伝票等を自ら整理して、当該売上伝票等の日付の売上として記帳した額(平成17年8月4日については、帳簿の保存がないため、同日の各売上伝票の料金の合計額)といずれも一致せず、しかも、請求人は、その理由を合理的に説明できない。
 そうすると、請求人は、売上伝票の一部を破棄する方法により、Mの売上除外をしていたというべきである。

売上伝票等の日付 日付又は数字等の筆圧痕 各日付の売上として記帳された額等
平成17年8月4日 カード31,190、83,195 81,470円
平成19年2月6日 2月6日(火) 115,220 72,150円
平成19年2月16日 2月16日(金) 132,740 82,420円
平成19年2月27日 2月27日(火) 94,740 53,280円
平成19年4月18日 4月18日 104,109 25,860円
平成19年4月24日 4月24日(火) 88,945 60,140円
平成19年5月12日 5月12日(土) 74,839 27,300円
売上伝票等の日付 日付又は数字等の筆圧痕 各日付の売上として記帳された額等
平成19年6月12日 6月12日(火) 77,059 37,810円
平成19年6月14日 6月14日(木) 85,544 55,075円
平成19年6月21日 6月21日(木) 51,990 22,130円
平成19年6月25日 6月25日(月) 87,039 42,909円
平成19年8月15日 8月15日(水) 50,870 22,920円
平成19年8月16日 8月16日(木) 84,640 41,760円
平成19年10月18日 10月18日(木) 58,920 52,020円
平成19年10月31日 10月31日(木) 92,210 84,770円
平成19年12月7日 12月7日(金) 132,400 109,030円

C Lの売上除外
(A) 平成18年ないし平成21年
 Lの売上伝票は、数葉を重ねて伝票ボードにはさみ、使用されていたため、売上伝票に記載された品名及び単価等の文字及び数字が、その下の売上伝票の用紙に筆圧で残ることがある。しかし、次表の売上伝票に残された料金と思われる数字の筆圧痕については、いずれも当該筆圧痕に対応する売上伝票が存在せず、しかも、請求人は、その理由を合理的に説明できない。
 そうすると、請求人は、売上伝票の一部を破棄する方法により、Mの売上除外をしていたというべきである。

売上伝票の日付 数字の筆圧痕
平成18年10月5日 7,000
平成19年5月2日 4,940
平成19年5月29日 11,000
平成20年9月23日 43,330
平成20年9月29日 16,000
平成21年9月10日 16,480

(B) 平成17年及び平成18年
 Lの売上金は、その日の全ての売上伝票等とともに封筒に入れた状態で、Lの従業員又はJにより、請求人に届けられるが、同従業員等は、売上金の合計額などを当該封筒に記載していたため、その記載した文字及び数字が封筒内の売上伝票等に筆圧で残ることがある。しかし、次表の売上伝票等に残された当該売上金の合計額と思われる数字の筆圧痕については、そのほとんどが、請求人が同従業員等から受領した封筒内の売上伝票等を自ら整理して、当該売上伝票等の日付の売上として記帳した額と一致せず、しかも、請求人は、その理由を合理的に説明できない。
 そうすると、請求人は、売上伝票の一部を破棄する方法により、Lの売上除外をしていたというべきである。

売上伝票等の日付 数字等の筆圧痕 各日の売上として記帳された額
平成17年3月15日 売上 54,490 41,460円
平成17年6月13日 51,030 39,140円
平成17年8月4日 売、カ88,910 68,120円
平成17年8月5日 74,350 47,910円
平成17年8月22日 46,130 46,130円
平成17年8月25日 53,050 29,540円
平成17年12月7日 25,250 53,160円
平成18年1月13日 97,090 65,070円
平成18年8月12日 36,070 30,010円

D K、M及びLの上記以外の各年について
 本件各年のK、M及びLについては、請求人の売上伝票の管理方法等が本件各年を通じて同じであったから、売上伝票の破棄の事実を具体的に示していない上記AないしC以外の各年においても、請求人は、売上伝票の破棄による売上除外をしていたというべきである。
E Qの売上除外等(平成21年)
 Qについても、まる1連続して付番されたはずの伝票番号に多数の欠番がある、又はまる2売上伝票に残された従業員が記載した各日の売上金の合計額と思われる数字の筆圧痕のいずれも、請求人が当該各伝票の日付の売上として記帳した額と一致しないなど、売上伝票の欠落を示す事情がある。そうすると、請求人は、利益が生じていることを認識していながら、Qに係る所得等をあえて申告しなかっただけでなく、他の店舗と同様、売上伝票の一部を破棄するなどの方法により、Qの売上除外をしていたというべきである。
(ロ) 請求人
 Qについて、請求人が、利益が生じていることを認識していながら、Qに係る所得等を申告に含めていなかったこと、及び、帳簿に記帳する際、数葉の売上伝票を抜き取って、売上を過少に計上していたことをいずれも認める。したがって、このことを理由として、平成21年において、偽りその他不正の行為があったと評価されることについて、請求人は争わない。
 しかし、K、M及びLについて、売上除外の事実はないから、平成20年以前において、偽りその他不正の行為はない。
ロ 判断
(イ) Qの売上除外があったことについては争いがなく、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められるので、以下では、K、M及びLの売上除外があったか否かについて検討する。
A 売上伝票の作成から売上の記帳に至るまでの経緯等
(A) 当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
a K、M及びLの売上伝票は、数葉を重ねて(伝票ボードにはさむこともある。)、上から順に使用されていたため、売上伝票に記載された品名及び単価等の文字及び数字が、その下の売上伝票の用紙に筆圧痕として残ることがある。また、Kの売上伝票の用紙の下部には、客に料金を知らせるために切り離して用いる部分があり、Kでは、この部分を切り離して売上伝票の用紙(上部)の上に重ねて置き、料金を記載していたため、この料金の数字が当該売上伝票の用紙(上部)に筆圧痕として残ることがある。
b M及びLの売上金は、上記1の(4)のハのとおり、営業日ごとに、その日の全ての売上伝票とともに封筒に入れた状態で、当該各店舗の従業員により、又はJを介するなどして、請求人に届けられるが、その際、当該封筒の表に店名、日付及び売上金の合計額など(店舗・時期により項目は異なる。)を当該各店舗の従業員等が記載していたため、その記載した文字及び数字が、封筒内に入れられた売上伝票に筆圧痕として残ったり、クレジットカードで料金の支払を受けた際に店用の控えとして保管される感圧複写式のカード利用票(売上伝票とともに上記封筒に入れられる。)に感圧・発色して表示されることがある。
c 請求人は、M及びLについて、当該各店舗の従業員等から受領した上記bの封筒を整理する際、封筒内の各売上伝票の料金を集計して、当該従業員等が当該封筒の表に記載した売上金の合計額が正しいかどうかを確認した上、当該各売上伝票をホチキスで止め、一番下にある売上伝票の裏面に上記のとおり集計した額を記載し、その集計額をその日の売上として記帳していた。なお、整理が終わった時点で上記封筒は廃棄していた。
d また、請求人は、Kについて、営業日ごとに、その日の各売上伝票をホチキスで止め、一番下にある売上伝票の裏面に当該各売上伝票の料金の集計額を記載し、その集計額をその日の売上として記帳していた。
(B) そうすると、売上伝票又はカード利用票に文字及び数字の筆圧痕又は感圧・発色した表示がある場合、その筆圧痕等の体裁(文字及び数字の内容や筆圧痕等の位置)からして、上記(A)のaのような個々の売上伝票の記載内容や、単なるメモと判断されるものを除き、その筆圧痕等の文字及び数字は、従業員等が記載した各日の売上金の合計額又は請求人が記載した各日の各売上伝票の料金の集計額を示しており、また、その金額は、通常、請求人が同日の売上として記帳した額と一致するはずである。
B Kについて
(A) 平成18年ないし平成20年
 上記Aを前提として、原処分庁が売上伝票の破棄の事実を示すものであると主張する各筆圧痕(上記イの(イ)のAの(A)の表参照)について検討すると、平成18年4月13日、平成19年4月12日、平成20年2月11日及び同月29日については、当該各日付の各売上伝票にある筆圧痕の体裁(品名等の文字及び数字の内容や筆圧痕の位置)からして、当該各筆圧痕に対応する売上伝票が存在してしかるべきであるから、これらの売上伝票は欠落しているものと認められる。これら以外の日については、当該各日付の各売上伝票にある筆圧痕の体裁からして、料金等を示すものであるとは判読できないか、当該各筆圧痕に対応する売上伝票が存在してしかるべきであるとは認めることができない。
 しかし、上記のとおりの単発的で少数の売上伝票の欠落があることのみをもって、売上伝票の破棄による売上除外があったと認定することはできない。
(B) 平成18年ないし平成21年
 当審判所の調査の結果によれば、平成18年ないし平成21年の各年の売上伝票上の瓶ビールの売上本数と仕入本数等は、次表のとおりであると認められる。

(単位:本)
年分等
項目
平成18年 平成19年 平成20年 平成21年
瓶ビールの売上本数 まる1 380 447 388 250
瓶ビールの仕入本数 まる2 450 621 645 388
差(まる2まる1) まる3 70 174 257 138
まる3まる2に対する割合 まる4 15.6% 28.0% 39.8% 35.6%

 そして、上記(A)のとおり、平成18年ないし平成20年の各年にはいずれも売上伝票の欠落があるところ、平成21年と当該各年とを比較すると、平成21年における売上伝票上の瓶ビールの売上本数と仕入本数の差及びその差の割合は、当該各年と同程度に大きいことから(上表のまる3欄及びまる4欄参照)、平成21年についても、当該各年と同程度の売上伝票の欠落があった可能性を否定できない。
 しかし、そもそも平成18年ないし平成21年の各年における売上伝票上の瓶ビールの売上本数と仕入本数との間に上表の程度の差があることをもって、当該各年において請求人が経常的にKの売上除外をしていたと断定することはできない。
C Mについて
(A) 平成18年及び平成20年
 上記Aを前提として、原処分庁が売上伝票の破棄の事実を示すものであると主張する各筆圧痕(上記のイの(イ)のBの(A)の表参照)について順に検討する。
 まず、平成18年7月22日付の売上伝票にある筆圧痕の内容は不明瞭であるが、同月25日付の売上伝票にある筆圧痕の内容は品名及びその単価とみられる特徴的な文字及び数字であり、当該筆圧痕に対応する売上伝票が存在してしかるべきであるから、この売上伝票は欠落しているものと認められる。
 次に、平成20年2月1日、同月2日、同月15日、同月20日及び同月27日(2枚)については、当該各日付の各売上伝票にある筆圧痕の体裁(品名等の文字及び数字の内容や筆圧痕の位置)からして、当該各筆圧痕に対応する売上伝票が存在してしかるべきであるから、これらの売上伝票は欠落しているものと認められる。
 なお、これら以外の日については、当該各日付の各売上伝票にある筆圧痕の体裁からして、料金等を示すものであるとは判読できないか、当該各筆圧痕に対応する売上伝票が存在してしかるべきであるとは認めることができない。
 そうすると、平成18年については、上記のとおりの単発的で少数の売上伝票の欠落があることのみをもって、売上伝票の破棄による売上除外があったと認定することはできないが、平成20年については、一月という短期間に少ないとはいえない枚数の売上伝票の欠落があり、これを単なる紛失とみるのは困難であるから、売上伝票の破棄による売上除外があったと認定することができる。
(B) 平成17年及び平成19年
 上記Aを前提として、原処分庁が売上伝票の破棄の事実を示すものであると主張する各筆圧痕(上記イの(イ)のBの(B)の表参照)について検討すると、平成17年8月4日付の売上伝票にある筆圧痕の内容は不明瞭である。これ以外の平成19年の各日については、当該各日付の各売上伝票にある筆圧痕の体裁(品名等の文字及び数字の内容や筆圧痕の位置)からして、いずれも従業員等が記載した当該各日の売上金の合計額と判読できるものであるが、上記イの(イ)のBの(B)の表のとおり、それらの金額は、いずれも請求人が当該各日の売上として記帳した額と一致せず、これを上回っているから、請求人が当該各日付の各売上伝票の料金の集計額として記帳した額は、当該各売上伝票の料金を合計した額ではあるものの、いずれも過少なものと認められる。
 そうすると、平成19年については、売上伝票の破棄による売上除外があったと認定することができる。
D Lについて
(A) 平成18年ないし平成21年
 上記Aを前提として、原処分庁が売上伝票の破棄の事実を示すものであると主張する各筆圧痕(上記イの(イ)のCの(A)の表参照)について検討すると、平成20年9月29日付の売上伝票にある筆圧痕の内容は不明瞭であるが、これ以外の平成18年ないし平成21年の各日については、いずれも当該各日付の各売上伝票にある筆圧痕の体裁(品名等の文字及び数字の内容や筆圧痕の位置)からして、当該各筆圧痕に対応する売上伝票が存在してしかるべきであるから、これらの売上伝票は欠落しているものと認められる。
 しかし、上記のとおりの単発的で少数の売上伝票の欠落があることのみをもって、売上伝票の破棄による売上除外があったと認定することはできない(ただし、次の(B)のとおり、平成18年については、結局、売上伝票の破棄による売上除外があったと認定することができる。)。
(B) 平成17年及び平成18年
 上記Aを前提として、原処分庁が売上伝票の破棄の事実を示すものであると主張する各筆圧痕(上記イの(イ)のCの(B)の表参照)について検討すると、平成17年12月7日付の売上伝票にある筆圧痕の内容は不明瞭である。これ以外の平成17年及び平成18年の各日については、当該各日付の各売上伝票にある筆圧痕の体裁(品名等の文字及び数字の内容や筆圧痕の位置)からして、いずれも従業員等が記載した当該各日の売上金の合計額と判読できるものであるが、上記イの(イ)のCの(B)の表のとおり、それらの金額は、平成17年8月22日を除き、いずれも請求人が当該各日の売上として記帳した額と一致せず、これを上回っているから、請求人が当該各日付の各売上伝票の料金の集計額として記帳した額は、当該各売上伝票の料金を合計した額ではあるものの、いずれも過少なものと認められる。
 そうすると、平成17年及び平成18年については、売上伝票の破棄による売上除外があったと認定することができる。
E K、M及びLの上記以外の各年について
 原処分庁は、K、M及びLについては、請求人の売上伝票の管理方法等が本件各年を通じて同じであったから、本件各年のうち、売上伝票の保存がないために、売上伝票の破棄の事実を具体的に示していない上記BないしD以外の各年においても、売上伝票の破棄による売上除外が行われていたと推認される旨主張している。
 しかし、上記BないしDのとおり、Kについては、平成18年ないし平成21年のいずれの年においても売上除外があったことを認定することはできず、M及びLについても、平成17年ないし平成21年の一部の年においてそれぞれ売上除外があったことを認定できるにとどまるのであるから、K、M及びLについて、上記BないしD以外の各年において、当然に同様の売上除外があったと推認することはできない。
(ロ) 以上によれば、Mの平成19年及び平成20年の各年について、Lの平成17年及び平成18年の各年について、並びにQの平成21年について、それぞれ売上除外があったと認められるが、これ以外に売上除外があったとは認められない。
 したがって、平成17年及び平成18年の各年については、偽りその他不正の行為があったと認められるが、平成15年及び平成16年の各年については、偽りその他不正の行為があったとは認められない。

(3) 偽りその他不正の有無(争点2(1)及び争点2(2))について

 上記(1)及び(2)によれば、平成17年及び平成18年の各年については、偽りその他不正の行為があったと認められるが、平成15年及び平成16年の各年については、偽りその他不正の行為があったとは認められない。

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6 争点3について

(原処分庁が主張する推計方法は最適な推計方法であるか否か)

(1) 主張

イ 原処分庁
 原処分庁が、K、M、L及びQの各収入金額の算出に用いた方法は、請求人の一定期間の実績又は記録をもってする推計方法(本人比率による推計)であり、業務の内容等に特段の変動がない限り、個別的類似性が最も高い推計方法である。
 すなわち、原処分庁は、Kについては平成18年ないし平成21年、Mについては平成17年ないし平成19年、Lについては平成21年5月ないし同年12月、Qについては平成21年3月26日ないし同年8月31日の各期間における、当該各店舗の売上伝票から、当該各期間における売上金額及びビール注文数を当該各店舗別に把握し、前者を後者で除した「瓶ビール1本当たり又は生ビール1杯当たりの売上金額」をそれぞれ計算し、これに当該各店舗の「瓶ビール又は生ビールの仕入数量」をそれぞれ乗じて、当該各店舗の各収入金額を算出した(別表5−付参照)。
 したがって、この方法は、請求人の上記各店舗における営業状態を反映した、最適な推計方法である。
 なお、請求人は、推計の基礎とすべき「瓶ビール又は生ビールの仕入数量」につき、家事消費、ビール瓶の破損、飲み放題、開店周年記念や客引き等におけるサービス(無償)を考慮すべきである旨主張するが、そのような特殊事情があることを具体的に立証していないから、請求人の上記主張をもって原処分庁の主張する推計方法が最適な推計方法でないとはいえない。
ロ 請求人
 原処分庁の推計方法において、何らの補正もせずに、「瓶ビール又は生ビールの仕入数量」をそのまま推計の基礎として用いると、飲食店に通常存在する家事消費、ビール瓶の破損、飲み放題、開店周年記念や客引き等におけるサービス(無償)といった特殊事情が反映されず、収入金額が過大に算出されることとなる。
 しかし、原処分庁は、Lについては、原処分に係る調査において上記事情を聴取した上、「瓶ビール又は生ビールの仕入数量」について一定の補正をしたものの、K、M及びQについては、上記事情の聴取すら行わず、必要な補正をするのに要する事実を把握していない。
 したがって、原処分庁の主張する推計方法は、請求人の営業実態に即しておらず、最適な推計方法であるとはいえない。
 そして、上記の問題点を踏まえ、請求人が、平成22年分のK、L及びQの各売上金額(各店舗別の売上伝票の料金の年間合計額)及び各酒類仕入金額に基づき、当該各店舗の平成19年分ないし平成21年分の各収入金額を算出すると、別表7のとおりとなる。この方法が、当該各店舗の営業実態を最もよく反映した、最適な推計方法である。

(2) 判断

イ 推計に合理性があるというためには、推計の基礎とすべき事実が正確に把握されているだけでなく、最適な推計方法が選択されている必要があるところ、その推計方法が最適であるというためには、他の推計方法の方が真実の課税標準等の額により近似することが明らかである場合を除き、その推計方法に一応の合理性があると認められれば足りると解される。
ロ そこで、原処分庁の主張する推計方法についてみると、その方法は、K、M、L及びQの別に、各売上伝票に基づいて、安定的に注文のある瓶ビール又は生ビールを基礎として、その1本当たり又は1杯当たりの売上金額を求め、これに瓶ビール又は生ビールの仕入数量を乗じて、当該各店舗の各収入金額を算出するというものであるところ、このような方法自体は、当該各店舗の営業実態をよく反映するものであるといえるから、一応の合理性があると認められる。
 次に、請求人の主張する推計方法についてみると、上記5の(2)のロのとおり、K、M、L及びQのいずれについても、売上伝票の欠落が度々あったと認められることからして、平成22年にそれ以前の年に認められるのと同様の売上伝票の欠落がないといえるのかについては相当の疑問があり、推計の基礎とされた平成22年分の売上金額の正確性が十分に担保されているとは認められない上、原処分庁の主張する推計方法によっても、平成17年以後の各年については、推計の基礎とすべき数値のほとんどを把握できるのであるから、あえて平成22年の数値をもって当該各年の推計の基礎とする合理的な理由はないというべきである。
 そうすると、請求人の主張する推計方法が原処分庁の主張する推計方法よりも真実の課税標準等の額により近似することが明らかであるとはいえず、他方で、原処分庁の主張する推計方法は、一応の合理性があると認められるから、最適な推計方法であるということができる。
ハ ただし、原処分庁の主張する推計方法については、推計の基礎とすべき数値について、次の(イ)ないし(ハ)のとおり、補正を行うべきである。
(イ) M、L及びQの推計の基礎とする数値を変更すべきであること
 当審判所の調査の結果によれば、生ビールを扱わないKを除き、M、L及びQにおいては、いずれも開店以来、瓶ビールと生ビールを販売しているが、当該各店舗の各売上伝票では、いずれの注文についても品名が「B」又は「ビール」などと記載され(L及びQの各売上伝票には、品名を「瓶」又は「生」と区分して記載したものが混在する時期もある。)、いずれの注文であるかを明確には区分することができない(両者の単価は同額(600円)であるため、値段による区分もできない。)。
 原処分庁は、Mについては、瓶ビール又は生ビールの注文数を基に、「瓶ビール1本又は生ビール1杯当たりの売上金額」を計算して推計の基礎としたものの、L及びQについては、瓶ビールと生ビールの注文が区分して記載されているとの前提に立ち、Lについては平成21年5月以後、Qについては開店以後の各売上伝票に基づき、それぞれ「瓶ビール1本当たりの売上金額」を計算して推計の基礎とした。
 しかし、上記の当審判所の調査の結果のとおり、L及びQの各売上伝票の記載によれば、原処分庁が前提としたように、瓶ビールと生ビールの注文を明確には区分することができないのであるから、Mと同様に「瓶ビール1本又は生ビール1杯当たりの売上金額」を推計の基礎とすべきである。
(ロ) 推計の基礎とすべき「瓶ビール1本又は生ビール1杯当たりの売上金額」は、各年の数値を用いるべきであること
 原処分庁は、ビール1単位当たりの売上金額として、数年間の平均額を用いている。しかし、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、K、M、L及びQにおける瓶ビール及び生ビールの仕入数量の推移等(別表8−付参照)からして、各年における営業状況には変化が見られるから、平均額を用いるべき合理的な理由はない。
 したがって、推計の基礎とすべき「瓶ビール1本又は生ビール1杯当たりの売上金額」は、各年の数値を用いるべきである(なお、売上伝票の保存がない年については、当該変化の少ない直近の年の数値が最も近似性の高い数値であるといえるから、当該数値を用いるべきである。)。
(ハ) 1樽当たりの生ビールの杯数は、ジョッキ50杯として換算すべきであること
 原処分庁は、原処分に係る調査において実測したところにより、1樽当たりの生ビールの杯数をジョッキ47杯としている。しかし、当審判所の調査の結果によれば、上記調査の際に原処分庁が実測したジョッキの容量は、K、M、L及びQで実際に使用しているジョッキの容量とは異なることが判明した。そして、請求人の協力を得て当審判所が実測した結果、1樽当たりの生ビールの杯数は、ジョッキ50杯であった。
 したがって、この数値を推計の基礎として用いるべきである。

(3) 請求人の主張について

 請求人は、推計の基礎とすべき「瓶ビール又は生ビールの仕入数量」について、サービス(無償及び値引き)等の事情を考慮すべきである旨主張しているとも解されるので、念のため、この点について検討すると、当審判所の調査の結果によれば、K、M、L及びQの各売上伝票にはいずれも、「サービス」とビールの注文の横に記載されたものや、ビールの料金を徴していないもの、及び「セット300円」などと値引きをしたと思われるものが相当数見受けられる。そうすると、これらの売上伝票に基づいて計算される「瓶ビール1本又は生ビール1杯当たりの売上金額」には、上記のサービス(無償及び値引き)等の事情が反映されていることになる。
 したがって、本件においては、上記の売上伝票の記載のほかに、推計の基礎とすべき「瓶ビール又は生ビールの仕入数量」について、特別に考慮すべき特殊事情が存在するとは認められないから、請求人の上記主張は、上記(2)の認定判断(原処分庁の主張する推計方法が最適な推計方法であること)を左右しない。

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7 各更正処分及び各賦課決定処分について

 上記5の(3)のとおり、平成15年及び平成16年の各年については、偽りその他不正の行為があったとは認められないから、平成15年分及び平成16年分の所得税の各更正処分及び各賦課決定処分、並びに平成15年課税期間及び平成16年課税期間の消費税等の各更正処分及び各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。
 また、その他の原処分については、以下のとおりである。

(1) 平成17年分ないし平成21年分の所得税の各更正処分

 上記6の(2)のとおり、原処分庁の推計方法を補正した上で、請求人の平成17年分ないし平成21年分の事業所得の金額を算出すると、別表8及び別表8−付のとおりとなる。
 そして、これを前提に、請求人の平成17年分ないし平成21年分の納付すべき所得税の額を計算すると、いずれの年分についても更正処分の額を下回るから、平成17年分ないし平成21年分の所得税の各更正処分は、いずれも別紙1ないし別紙5のとおり、その一部を取り消すべきである。

(2) 平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の消費税等の各更正処分

 平成17年分ないし平成21年分の事業所得の総収入金額に基づき、平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の納付すべき消費税等の額を算出すると、別表9のとおりとなる。
 なお、平成17年課税期間及び平成18年課税期間については、当該各課税期間の基準期間である平成15年課税期間及び平成16年課税期間の課税売上高が50,000,000円を超えているから、簡易課税制度が適用されない(K、M及びLに係る課税売上高(税抜き)により判定した。別表3及び別表4参照。)。また、当審判所の調査の結果によれば、原処分には課税仕入れに係る支払対価の額について計算誤りが認められるので、これを別表9−付1及び別表9−付2のとおり補正した。
 そして、これを前提に、請求人の平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の納付すべき消費税等の額を計算すると、いずれの課税期間についても更正処分の額を下回るから、平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の消費税等の各更正処分は、いずれも別紙6ないし別紙10のとおり、その一部を取り消すべきである。

(3) 平成17年分ないし平成21年分の所得税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

 請求人の平成17年分ないし平成21年分の所得税が過少申告であったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない(なお、請求人が申告せず、Jが申告していたLに係る所得の金額に相当する部分についても、上記5の(1)のロの(ロ)で認定した申告等の経緯等によれば、真に請求人の責めに帰することのできない客観的事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお、請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合であるとはいえないから、上記の正当な理由があるとは認められない。)。
 そして、上記5の(2)のロのとおり、平成17年分及び平成18年分はL、平成19年分及び平成20年分はM、平成21年分はQについて、それぞれ売上除外があったと認められるから、請求人は、これらの各年分において、当該各売上除外により所得金額が過少であるかのように仮装したことが明らかである。したがって、平成17年分ないし平成21年分の所得税について、通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出していた場合に該当するから、当該各売上除外により過少申告となった所得金額に対応する部分の各税額については、重加算税が課され、それ以外の部分の各税額については、過少申告加算税が課されることとなる(別表10参照)。
 以上を前提として、請求人の平成17年分ないし平成21年分の所得税に係る加算税の額を計算すると、いずれの年分についても賦課決定処分の額を下回るから、平成17年分ないし平成21年分の所得税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は、別紙1ないし別紙5のとおり、その一部を取り消すべきである。

(4) 平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分

 請求人の平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の消費税等が過少申告であったことについては、上記(3)と同様に、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、上記5の(2)のロのとおり、平成17年課税期間及び平成18年課税期間はL、平成19年課税期間及び平成20年課税期間はM、平成21年課税期間はQについて、それぞれ売上除外があったと認められるから、請求人は、これらの各課税期間において、当該各売上除外により課税売上高が過少であるかのように仮装したことが明らかである。したがって、平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の消費税等について、通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出していた場合に該当するから、当該各売上除外により過少申告となった課税売上高に対応する部分の各税額については、重加算税が課され、それ以外の部分の各税額については、過少申告加算税が課されることとなる(別表11参照)。
 以上を前提として、請求人の平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の消費税等に係る加算税の額を計算すると、いずれの課税期間についても賦課決定処分の額を下回るから、平成17年課税期間ないし平成21年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分(平成23年4月28日付けでされた異議決定によりいずれもその一部につき過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)は、別紙6ないし別紙10のとおり、その一部を取り消すべきである。

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8 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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