別紙4

当事者双方の主張

(1) 争点1(本件調査の手続に違法又は不当があるか否か。)について

請求人 原処分庁
 本件調査は、虚偽回答、信義則違反行為、関与税理士であるL税理士を排除しようと持ち掛けたりした不法行為により行われた、違法かつ不当な調査である。  本件調査は、通則法、所得税法及び消費税法の規定に基づき適法に行われており、違法、不当な点はない。
イ 事前通知について
 前調査担当職員及びその上司である統括国税調査官(以下「担当統括官」という。)は、L税理士への事前通知を平成22年5月13日に行ったと発言しているにも関わらず、答弁書において、当該通知日を同月12日に変更しているが、同月12日及び同月13日ともL税理士は、事前通知を受けておらず、調査の通知自体が全く行われていない。
イ 事前通知について
 前調査担当職員は、平成22年5月12日にL税理士に対して本件調査に係る事前通知を行っており、事前通知が行われていない旨の請求人の主張には理由がない。
ロ 取引先への調査について
 本件調査の初日(平成22年5月17日)に、請求人が申告した平成21年分の収入金額とN社からファックスで取り寄せた明細書の取引金額とが相違していたため、前調査担当職員は、その解明をL税理士に依頼した。L税理士の解明結果に納得がいかない場合には、その後の解明は、前調査担当職員が行うよう促したものであった。
 それにも関わらず、前調査担当職員は約束を守らずにその翌日(同月18日)にN社への調査を実施するという、信義則違反の行為が行われた。
 また、N社への調査の内容自体についても、担当統括官は「L税理士に依頼した事項とは別の事項である。」と回答したが、L税理士がN社へ確認した結果、前調査担当職員がL税理士に依頼した事項と同一の調査内容であった。
ロ 取引先への調査について
 所得税法第234条及び消費税法第62条により、税務職員には納税義務者等に対する質問検査権が認められているところ、納税者の取引先に対する調査については、質問検査権の行使の一環として、いかなる時期に、いかなる方法で、どの程度行うかは、質問検査の必要があり、かつ、その必要性と納税義務者等の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、調査の権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解される。
 前調査担当職員は、請求人とN社との取引金額の確認だけではなく、その取引内容、具体的な業務内容、決済方法等を確認する必要があったことから、N社への調査を行ったものである。
 したがって、請求人が主張するような信義則に違反する行為を行った事実はない。
ハ 事前連絡をしないで請求人に面接したことについて
 調査担当職員は、請求人の意思を直接面談しなくても妻との電話で確認しているにも関わらず、調査担当職員が平成22年11月29日及び同年12月9日の二度にわたって事前に請求人に連絡せずに請求人宅を訪れた行為は、妻が○○症であることから、人命に危害を及ぼす可能性が高い行為である。これは、国税庁がかねてから無通知により行う税務調査に対する合理的な裁量のいずれの条項にも該当せず、生命に危険が及ぶような特殊な病状中に、事前連絡を行わず、一度ならず二度にわたり行った質問検査権の行使を、合理的な裁量の範囲内の行為であると主張することはできず、調査担当職員の恣意により行われた職権濫用の行為である。
 また、調査担当職員が、平成22年11月29日に請求人宅を訪れた時刻は午後4時近くで、L税理士の事務所から請求人宅までの移動時間を考慮すれば、L税理士に事前連絡を行わないことにより、請求人宅での本件調査にL税理士を立ち会わせないようにしたところで請求人を調査担当職員の意思に従わせようとした意図が明白である。
 以上、L税理士を排除しようと持ち掛けた不法行為がある。
ハ 事前連絡をしないで請求人に面接したことについて
 調査担当職員は、L税理士に対し、音声を記録可能な装置(以下「レコーダー」という。)による録音なしでの調査に対する協力及び青色申告に係る帳簿書類の提示を求めたが、L税理士が、その求めに応じなかったため、請求人に対しても本件調査に対する協力及び本件各年分の所得税の青色申告に係る帳簿書類の提示を直接面会した上で求める必要があると判断した。
 ところが、調査担当職員は、請求人に電話連絡するも容易に請求人と面会することができなかったので、平成22年11月29日及び同年12月9日に連絡を行わず請求人宅を訪れたものである。
 所得税法第234条の規定により、税務職員には納税義務者に対する質問検査権が認められており、質問検査権の行使については、調査の権限を有する税務職員の合理的な裁量に委ねられている旨解されているところ、調査担当職員が請求人に連絡を行わず、請求人宅を訪れた行為は、調査担当職員の合理的な裁量の範囲内の行為である。
 なお、調査担当職員が、L税理士を排除しようとした事実はなく、違法、不当な調査を行った事実もない。
ニ その他
(イ) 調査担当職員による全取引先への調査実施や所得税の青色申告の承認の取消処分をちらつかせた脅しがL税理士に対して行われた。
(ロ) 原処分庁が行った違法な調査から有効な処分が行われることはなく、消費税等の更正処分等も当然に違法である。
 

(2) 争点2(本件調査において請求人が帳簿書類を提示しなかったとして行われた本件青色申告承認取消処分は適法か否か。)について

原処分庁 請求人
 請求人は、平成19年分の帳簿書類を前調査担当職員に対して平成22年5月17日及び同月21日に2回提示しただけであり、そのほかには、次のとおり、担当統括官及び調査担当職員に対し、平成19年分の帳簿書類を提示しなかったのであるから、所得税法第150条第1項第1号の規定に基づく本件青色申告承認取消処分は適法である。  請求人は、次のとおり、担当統括官、前調査担当職員及び調査担当職員に対し、帳簿書類を提示したのであるから、本件青色申告承認取消処分は違法である。
イ レコーダーでの録音について
 L税理士が、本件調査のやりとりについて録音する旨発言し、レコーダーのスイッチを入れ録音を開始したことから、担当統括官又は調査担当職員は、L税理士に対して再三再四、レコーダーでの録音の中止、録音なしでの調査に対する協力及び青色申告に係る帳簿書類の提示を求めたが、L税理士は、このいずれにも応じなかった。
 また、税務職員は、通則法第126条の規定により、税務調査に関して守秘義務を負っているところ、守秘義務の対象となる事項や税務調査の内容に関することなどが録音されることとなると、録音機器が原処分庁の所有、管理するものではないことから、その録音内容の全部又は一部が第三者に明らかにされるおそれもあり、税務職員が録音することを承諾した場合、守秘義務違反に問われる可能性もある。したがって、担当統括官又は調査担当職員は、録音機器が作動している状況下若しくは録音機器を作動させる準備がされた状況下では、請求人又は請求人の取引先等の秘密事項等の保持に懸念せず必要かつ十分な帳簿書類の閲覧等の税務調査ができる状況とはいえないことから、L税理士に対し、録音の中止、録音なしでの本件調査に対する協力及び帳簿書類の提示を求めたものである。
イ レコーダーでの録音について
 レコーダーでの録音をせざるを得ない状況を作った原因は、まる1前調査担当職員が信義則違反の行為を行ったこと、まる2その後の対応において虚偽の説明や回答を繰り返したこと、まる3取引先全部に対し調査を実施し、青色申告の承認を取り消すとの脅し発言を行ったこと等原処分庁の行為により作り出されたものである。
 したがって、レコーダーでの録音は、担当統括官又は調査担当職員の質問検査権の妨害等を目的としたものではなく、新たなトラブルを防ぐためにやむを得ず行ったもので、合理的な理由がある。
 また、録音を行い、その記録を残すことにより、円滑な調査の実施を求めているものであるから、まる1原処分庁が録音機器を準備する、まる2L税理士所有の録音機器をそのまま持ち帰り、原処分庁が管理を行う、まる3帳簿を無言のまま調査する、まる4帳簿をK税務署に持ち帰り検査を行う等の工夫がされるべきであった。
ロ 帳簿書類の提示について
 調査担当職員が請求人に対して帳簿書類の提示を求めるも、請求人は、帳簿は税理士に預けており、調査のことは自分では分からないので税理士に任せている旨申し述べるのみで、帳簿書類を提示しなかった。
 ところで、L税理士は、請求人の税務代理人であり、L税理士が本件調査において、請求人の名において行った意思表示、また、受け取った意思表示の法律効果は請求人に帰属することとなる。
ロ 帳簿書類の提示について
 帳簿書類の提示がなかったとする原処分庁の主張は事実ではなく、前調査担当職員には応接室のテーブルの上に帳簿書類を準備し、提示した。調査担当職員に代わった後においても、すぐに提示できるように準備していたが、調査担当職員は提示を求めなかった。
 また、L税理士は、税理士法第38条《秘密を守る義務》により守秘義務を負っており、守秘義務を負っていない事業専従者等を排除し、税理士の事務所内をL税理士のみとした状況で帳簿書類を提示し、本件調査を実施するよう求めた。
ハ 青色申告の承認の取消しについて
 調査担当職員は、L税理士に対してまる1請求人の青色申告の承認を取り消す旨、まる2L税理士に調査結果を知らせるために、修正申告書の下書を送付するが、請求人の青色申告の承認を取り消すことから、青色申告特別控除及び青色事業専従者給与は認められない内容である旨の説明を行っているのであり、修正申告書を提出しないことを理由として本件青色申告承認取消処分を行ったわけではない。
ハ 青色申告の承認の取消しについて
 調査担当職員が、平成23年2月18日に電話で、同月25日までに修正申告書を提出しない場合は青色申告の承認を取り消す旨告げた理由とは異なる帳簿書類が不提示であるとの理由で青色申告の承認を取り消したのは信義則違反行為である。
 修正申告書の目的は、納税者をして誤り事項を認識させて提出を求めるものである。また、修正申告書を提出した場合は、異議申立てや審査請求の道が閉ざされることとなる。したがって、修正すべき理由が明確でないにも関わらず、修正申告書を提出することはあり得ず、依頼もしていない修正申告書の下書をL税理士に送り付けたことが意味するものは、調査担当職員の意に従わなければ、青色申告の承認を取り消すとの脅し以外にない。

(3) 争点3(推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 次のとおり、推計の方法による課税の必要性があった。  次のとおり、推計の方法による課税の必要性はない。
イ 請求人は、調査担当職員に対して、帳簿書類はL税理士に預けており、本件調査については、L税理士に任せている旨申述するのみで、請求人から帳簿書類の提示及び申告額を正当とする具体的な理由の説明はなかった。 イ 上記(2)の請求人の主張のとおり青色申告の承認の取消しの要件には該当しないため、本件青色申告承認取消処分が違法となり取り消されるべきであるから、青色申告者である請求人に対して推計課税を行うことはできない。
ロ また、調査担当職員がL税理士に対し、再三再四、調査に対する協力及び帳簿書類の提示を求めたにも関わらず、L税理士は、調査のやり取りを録音する旨主張し、帳簿書類の提示を行わず、申告額を正当とする具体的な理由の説明もしなかった。 ロ L税理士は、調査担当職員の求めに応じ帳簿書類の提示を行った。しかしながら、調査担当職員は、帳簿書類を検査しようともせず、ただレコーダーによる録音を止めるように求めるだけで、申告額を正当とする具体的な理由の説明も求めなかった。
ハ このような状況下では、実額による収支計算の方法で所得税の事業所得の金額の算定が不可能であったため、やむを得ず、請求人の取引先等の調査により把握した資料等に基づき推計の方法により事業所得の金額を算定せざるを得なかったのである。 ハ L税理士は、調査担当職員に対して、申告額を正当とする理由解明のために、自主的に監査を行いたいとの申出を行ったにも関わらず、調査担当職員は、これを拒否した。

(4) 争点4(推計の方法による課税の合理性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 原処分庁が行った推計の方法には、次のとおり合理性がある。  より的確に請求人の事業所得の金額を算定するためには請求人の粗利益率による推計を行うべきであり、原処分庁の推計の方法には次のとおり合理性がない。
イ 推計方法の合理性について
 本件各年分の事業所得の金額は、請求人の取引先等の調査により把握した総収入金額に、請求人と業種、業態及び事業規模が類似する同業者(以下「類似同業者」という。)の本件各年分の特前所得率(総収入金額から青色申告者に限り認められる必要経費等以外の必要経費の金額を減算した所得金額の総収入金額に対する割合をいう。以下同じ。)の平均値(以下「平均特前所得率」という。)を適用して合理的な推計の方法により算定した。
ロ 類似同業者の選定について
 類似同業者については、帳簿書類の備付け、記録及び保存が担保されている青色申告者の資料の正確性を考慮の上、業種、業態が類似し、かつ、総収入金額が請求人のそれの2分の1以上2倍以内であるなど事業規模が類似する者から選定しているので、その選定の方法には合理性がある。
ハ 類似同業者の所得率の差について
 類似同業者の平均特前所得率による推計の場合には、同業者間に通常存在する程度の営業条件等の差異は、その平均値に吸収され捨象されるものであるから、本件各年分の事業所得の金額は、合理的な推計方法により算定している。
イ 請求人の業態について
 請求人は、まる1ダム建設工事の下請であるという特殊な業態であること、まる2売上先は1社のみで収入金額が明確であること、まる3必要経費についても外注費・給与等が大部分であることから、所得金額が容易に算出できる。
ロ 収入金額について
 請求人の収入金額は、企業会計原則及び所得税法で規定する工事完成基準により計上されており、その計上基準によっていることは、前調査担当職員も確認し、十分了知している事実である。
 したがって、請求人が採用している売上計上基準により計上した金額を収入金額とすべきである。
ハ 工事原価(人件費)について
 前調査担当職員は、N社で工事に係る作業者名と従事日数を確認し、把握していることから、原処分庁は、請求人が計上している工事作業者の人件費が正確な額であることを容易に把握できている。したがって、領収書等から請求人が計上した人件費の金額に間違いがないことからその金額を認めるべきである。
ニ 材料費、一般管理費等
 請求人が計上した当該金額は少額であることからその計上額を認めることが相当である。

(5) 争点5(請求人が営む事業は、消費税法施行令第57条第1項第5号に規定する第四種事業に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
 請求人が営む事業は、次のとおり、第四種事業に該当する。  請求人が営む事業は、次のとおり、第四種事業には該当せず、第三種事業に該当する。
イ 請求人の事業内容について
 請求人は、前調査担当職員に対して、請求人の事業概況として、N社の下請で下水道やポンプ場での機械の設置、水田に隣接する水路等に設置した水門の点検をしている旨を説明した。
 また、前調査担当職員がN社に請求人とN社との取引について確認したところ、まる1請求人には下水道やポンプ場での作業を依頼している、まる2請求人が材料を負担することはない、まる3請求人が作業をする際、工具は請求人の持ち込みである、まる4大型の機械はN社のものを請求人に貸している、まる5作業に必要な人数をそろえてもらっている旨の説明があった。
イ 請求人の事業内容について
 原処分庁は、N社の誰がどのような立場で説明を行ったのか明らかにしておらず、また、単にN社の者が説明をしていたというだけで判断するのではなく、工事ごとに使用される材料を誰が負担したのか、工事現場責任者の話を聞き、どのような工事内容であったのかを裏付けして、この記録書類や工事日報等、事実の証拠書類に基づき事業区分を判断すべきである。
 請求人は、主材料についてN社から提供を受けるが、配線工事におけるケーブル線等副資材・副材料を負担する工事もN社から総合的に一括して受注しており、消費税法基本通達13−2−7にいう「他の者の原料若しくは材料又は製品等に加工等を施して、当該加工等の対価を受領する役務の提供」には該当しない。
ロ 請求人の業種区分について
 請求人の事業は、上記イのまる1ないしまる5のとおり、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」に該当すると認められることから、第四種事業に該当する。
ロ 請求人の業種区分について
 N社から「工事発注書」が出ている以上、工事発注書の単位により事業内容を判定すべきであり、そうすると、請求人の業態は請負工事業となることから、第三種事業に該当する。

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