(平成24年6月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人G及び同J(以下、両者を併せて「請求人ら」といい、個々の請求人を「請求人G」などという。)が、被相続人が有していた、いわゆる特例有限会社であるK社に対する出資(以下「本件出資」という。)の口数(以下「本件出資口数」という。)は600口であるとして申告をしたところ、原処分庁が被相続人が有していた本件出資口数は900口であるとして相続税の更正処分等を行ったのに対し、請求人らが同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 請求人らは、平成19年7月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したL(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに共同で申告した。
ロ 請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、本件相続に係る相続税について、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成22年7月5日に共同で提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成22年9月15日付で、別表1の「賦課決定」欄のとおりとする過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 原処分庁は、平成22年10月4日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人らは、本件各更正処分等を不服として、平成22年11月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年1月27日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして、平成23年2月25日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、平成23年3月18日、請求人Gを総代として選任し、その旨を届け出た。

(3) 関係法令の要旨

 有限会社法(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)第1条第3号により廃止されたもの、以下「旧有限会社法」という。)第19条《持分の譲渡、社員の先買権》第2項は、社員がその持分の全部又は一部を社員以外の者に譲渡する場合には社員総会の承認を要する旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続関係
(イ) 本件相続に係る共同相続人は、被相続人の妻のM並びに被相続人と昭和60年10月○日に死亡した被相続人の先妻Nとの間に出生した長女のP、二女の請求人G、三女のQ及び四女の請求人Jである。
(ロ) Nの子には、P、請求人G、Q及び請求人Jの他、Rがいる。RがNの子であることは、S家裁の平成○年(○)第○号、親子関係存在確認請求事件における平成21年2月○日の判決により確認された。
ロ 被相続人の成年後見人
 被相続人は、平成11年6月○日付でS家裁から禁治産者の宣告を受け(平成○年(○)第○号、禁治産宣告申立事件)、Mが被相続人の成年後見人になった。
ハ 本件出資の状況等
(イ) K社は、昭和53年5月○日、資本総額を300万円及び出資口数を300口として設立された。設立時の出資者及び出資口数は、被相続人が150口、N、T(Qの前夫)、U(請求人Gの前夫)、R及びV(Pの夫)が各30口である。
 なお、K社の代表取締役には、被相続人が平成10年9月5日まで就任し、被相続人が退任した後にMが就任し、その後の平成17年8月1日にはPの長男であるWも就任している。
(ロ) K社は、昭和55年3月19日(登記日)に資本総額を600万円、出資口数を600口とする増資を、昭和57年7月19日(登記日)に資本総額を1,000万円、出資口数を1,000口とする増資をそれぞれ行った。
 なお、昭和55年3月の増資直後における出資者及び出資口数は、被相続人が300口、Nが180口、T、U、R及びPが各30口であり、昭和57年7月の増資直後における被相続人の出資口数は500口であった。
(ハ) K社は、平成18年5月1日の会社法(平成17年法律第86号)施行に伴い特例有限会社となり、同社の持分は1口1株の割合で株式にみなされた(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項及び第2項)。
ニ 本件出資に係る株主権確認請求訴訟
(イ) 請求人らは、Q及びR(以下、請求人らと併せて「原告ら」という。)とともに、平成22年2月○日付でM、W及びK社(以下「被告ら」という。)を被告として、株主権確認請求訴訟(平成○年(○)第○号、株主権確認請求事件)(以下「株主権確認訴訟」という。)をS地方裁判所(以下「S地裁」という。)に提起した。
(ロ) 株主権確認訴訟においては、本件相続開始日における被相続人の有する本件出資口数が争点の一つとなっており、原告ら及び被告らの主張は、要旨次のとおりであった。
A 原告ら
 Nの有する本件出資口数は、昭和60年10月の同人に係る相続開始時点で300口であった。他方、被相続人の有する本件出資口数は、昭和57年7月の増資直後には500口であり、昭和60年10月のNの相続により同人が有していた300口については未分割であることから法定相続分(2分の1)に相当する150口を取得し、平成7年1月に請求人Gに対して本件出資50口を譲渡した結果、本件相続開始日には600口であった。
 なお、Nが昭和57年6月にTの有する本件出資30口を譲り受けた事実はなく、また、被相続人が平成元年2月に請求人Jの本件出資20口及び平成9年1月にRの同50口を譲り受けた事実はない。
B 被告ら
 Nの有する本件出資口数は、昭和55年3月の増資直後は180口であり、昭和57年6月にTの有する本件出資30口を譲り受け、その後、同年7月の増資直後には330口となり、昭和60年10月の相続開始時まで増減がなく、同相続開始時点で330口であった。他方、被相続人の有する本件出資口数は、昭和57年7月の増資直後には500口であり、昭和60年10月のNの相続により同人が有していた330口を取得した後、平成元年2月に請求人Jの同20口及び平成9年1月にRの同50口を譲り受けた結果、本件相続開始日には900口であった。
(ハ) 平成23年11月○日にS地裁において、原告らの請求を一部認める株主権確認訴訟の判決言渡しが行われた。
(ニ) 被告らは、上記(ハ)の判決に不服があるとして、平成23年11月○日付でX高等裁判所z支部に控訴し、他方、Qも、同様に、平成24年1月○日付で附帯控訴した(平成○年(○)第○号、平成○年(○)第○号、株主権確認請求控訴、同附帯控訴事件)。
(ホ) 平成24年4月○日にX高等裁判所z支部において、原判決を一部変更する旨の株主権確認訴訟控訴審の判決言渡しが行われ、その理由中の判断で、被相続人が平成元年2月に請求人Jの同20口及び平成9年1月にRの同50口を譲り受けた事実を認めるに足りる証拠はないとして、被相続人が本件相続開始日において有していた本件出資口数は830口である旨判示された。

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2 争点

 本件相続開始日において被相続人が有していた本件出資口数は何口か。

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3 主張

(1) 原処分庁

イ 一般的に財産の帰属については特段の事情のない限り、それを現実に支配管理している者がその所有者であると認めるのが相当である。
ロ Mは、被相続人の成年後見人であることから、被相続人の財産に関する法律行為についての包括的な代理権及びこれに対応する包括的な財産管理権を有しているものと認められる。
ハ そして、まる1K社の平成17年8月1日作成の定款第6条には、本件出資口数につき、被相続人が有するのは900口である旨の記載が認められること、まる2K社の平成17年8月1日付の社員総会議事録及び平成18年7月27日付の定時社員総会議事録には、各議案について出席社員全員一致をもって可決された旨の記載並びに議長(代表取締役M)及び出席役員の記名押印が認められること、まる3平成17年9月22日付及び平成18年10月20日付でS家裁に提出された後見事務報告書には、被相続人の財産状況として、本件出資について金額9,000,000円、株数900、管理者について成年後見人である旨が記載されていること及びまる4平成19年8月29日付でS家裁に提出された後見終了報告書における相続財産引継報告書には、本件相続に係る相続人全員に対し、被相続人の財産目録の送付などを平成19年8月23日に行い、当該財産目録には、本件出資について金額9,000,000円、株数900である旨が記載されていることが認められることから、成年後見人のMが、被相続人に代わって、本件出資900口を管理し当該出資に係る議決権を行使していたものとみるのが相当である。
ニ そうすると、本件相続開始日において、被相続人は本件出資900口を支配管理していたものとみるのが相当であることから、本件出資900口は、被相続人に帰属する財産と認められる。

(2) 請求人ら

イ 本件相続について相続人間で争いのあるところ、K社を支配している一部相続人が主張する本件相続開始日における被相続人の有する本件出資口数(900口)を是とした原処分庁の認定には誤りがあり、本件出資口数の推移については、別表3及び以下のとおりである。
(イ) 昭和57年7月15日における被相続人の有する本件出資口数は、500口である。また、同日におけるNの有する本件出資口数は、Tの有する本件出資30口が昭和57年6月29日にQに譲渡されており、Nへの譲渡の事実はないから、300口である。
(ロ) 請求人らは、Nの相続に係る遺産分割協議書に押印した覚えはなく、相続税の申告書を提出した覚えもない。したがって、遺産分割協議が整っていないものは、法定相続分で相続することから、昭和60年10月○日のNの死亡により同人が有していた本件出資300口のうち150口が被相続人へ法定相続分で相続されている。
(ハ) 平成7年1月20日に被相続人から請求人Gへ本件出資50口が譲渡されている。
ロ したがって、本件相続開始日において被相続人が有していた本件出資口数は600口となる。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 株主権確認訴訟関係
(イ) 原告らから証拠(甲第19号証)として提出された株主総会(社員総会)と題する書面(平成11年8月11日開催のK社社員総会における出席者の発言録であり、原告らが録音したものを文書にしたもの)によれば、請求人Gは、「私なんかの要望は、結局830とここに出てますよね。母の分の持ち株330、これも抱き合わしてあるから」と、請求人Jは、「あの330口の中に165口がお父さんで、残りが子供達にと、なっている」と発言している。
 なお、請求人Gは、この社員総会に社員である夫のU(平成12年2月○日離婚)の代理として出席案内があり出席しているが、代理出席に関して抗議などを行ったとは認められない。
(ロ) 請求人ら及びQの本人尋問における申述によれば、請求人ら及びQは、Nの遺産分割に関連して被相続人から500万円を受け取っている。
(ハ) 被告らから証拠(乙第1号証)として提出された領収証によれば、Rが平成9年1月28日に被相続人から50万円を受領した旨の記載があり、但書として「会社株不成立返し分」と記載があるものの、但書の筆跡が他の部分の筆跡と異なっている。
(ニ) 原告らから証拠(甲第24号証)として提出されたK社の平成5年6月1日から平成6年5月31日までの事業年度の決算報告書の借入金の内訳書によれば、Rは、K社に対して5,314,000円の貸付金がある。
(ホ) 被告らから証拠(乙第16号証)として提出された昭和60年11月13日付のK社の臨時社員総会議事録によれば、当該臨時株主総会においてNの有する本件出資330口は、被相続人が相続することが社員間で改めて確認され、出席した当時の社員である被相続人、U、P及びRにおいては自身で当該議事録に押印している。
ロ 不動産登記簿謄本によれば、別表2記載の不動産の所有権がNから被相続人に、また、a市d町○−○所在のマンション○号室の持分2分の1の所有権がNからQに、いずれも昭和60年10月○日相続を原因として移転している。

(2) 株主権確認訴訟における証拠等

イ 株主権確認訴訟関係
(イ) 被告らから証拠(乙第18号証)として提出された昭和57年7月7日付のK社の臨時社員総会議事録には、資本増加に伴い、同日における各社員の有する本件出資口数は、被相続人が500口、Nが330口、Rが50口、請求人Jが20口等である旨記載され、出席取締役として、被相続人、N、請求人J、R、P等の記名押印がある。
(ロ) Rは、本人尋問において、要旨次のとおり申述している。
A 昭和57年7月15日当時、本件出資の所有口数については、被相続人が500口、Nが330口であることは間違いない。
B 私は、昭和57年7月7日の臨時社員総会に出席し、議事録に押印した。
(ハ) 原告らから証拠(甲第29号証)として提出された陳述書によれば、Rは、「他に3人の娘がおりますので、又3人とも故人(N)が株330を持っていたのを知っておりました。」と主張している。
(ニ) 被告らから証拠(乙第4号証の1ないし5)として提出された昭和60年10月○日に死亡したNの昭和61年4月7日付遺産分割協議書(以下「N遺産分割協議書」という。)によれば、Nの遺産分割は、要旨別表4のとおりであり、提出された当該遺産分割協議書には、N死亡当時の法定相続人全員の記名はあるが、押印はされていない。
(ホ) S地裁からの調査嘱託事項に対するY税理士の調査嘱託回答書によれば、同税理士は要旨次のとおり回答している。
A Nの相続税の申告については、当事務所で申告書の作成及び提出を担当した。
B N遺産分割協議書は、当事務所で作成した。
C Nの相続税の申告については、N遺産分割協議書に基づいて、相続税の申告書の作成をした。
D Nの相続税の申告に際しては、N遺産分割協議書及び相続税の申告書の必要箇所に全相続人が押印の上、所轄税務署長宛相続税の申告をした。
 なお、税務署の取扱いとしては全相続人の押印及び印鑑証明書の添付が必須条件となっており、印鑑証明書が添付されていたことは間違いないと思われる。
E Nの相続人のうち、相続税の申告に協力しなかった相続人はいなかった。全相続人の押印及び印鑑証明書の添付がなされていたことから、相続人全員が納得して申告したと思われる。
F 当事務所は平成5年に発生した○○水害によって被害を受け、当該相続税の申告書の写し等については、廃棄処分を行っており、現存していない。
(ヘ) 被告らから証拠(乙第25号証)として提出された昭和61年4月のカレンダーによれば、7日の欄に「子供話合い5人」、8日の欄に「子供話合い5人、Y税理士行き、社長、Q、J、提出済」、9日の欄に「Y税理士書類来社」という記載がある。
(ト) 被告らから証拠(乙第20号証)として提出された昭和61年10月のカレンダーによれば、26日の欄に「Y税理士昼食、相続話し合い(500×5=2,500)」という記載がある。
(チ) Pは、本人尋問において、要旨次のとおり申述している。
A 上記(ヘ)及び(ト)のカレンダーは、今の母のMが被相続人と一緒に暮らしていた自宅で見つけたものである。
B カレンダーに記載されたメモの筆跡は、被相続人のものである。
C 4月8日のメモの内容は、遺産分割協議書を提出するのに半年という期限があったので、私と請求人Gの分をきちんと押印、印鑑をそろえて被相続人に渡し、被相続人がそれを持って、Q及び請求人Jと3人でY税理士のところへ行ったということだと思う。
(リ) 被告らから証拠(乙第19号証)として提出された陳述書によれば、Pは要旨次のとおり主張している。
A Nの実際の遺産分割については、被相続人の意向が最優先され、N名義の全ての財産を被相続人が取得する代わりに、被相続人が相続人各人に500万円を交付するという方法によって遺産分割が完了している。
B RはNの実子ということで、同人にも私たちと同様に同額の金員が渡されている。
C 請求人Jが有していた本件出資20口については、請求人Jが平成元年2月10日付でK社の取締役を辞任した際、同社の内部処理上、被相続人に譲渡された扱いになっている。
 請求人Jは、本件出資20口を被相続人が取得することについて、これまで了解を与えていた。
(ヌ) Rは、本人尋問において、上記(1)のイの(ハ)の領収証に関し要旨次のとおり申述している。
A 日付、住所、私の名前、宛名及び金額の記載については、私が書いたものである。また、押印についても私が押印したものである。
B 但書の「会社株不成立返し分」の記載については、私が書いたものではないし、その意味も全然分からない。
C 私は、平成9年時点でK社に対してかなりの金額の貸付金があり、被相続人に対しても150万円の貸付金があった。
(ル) 請求人Jは、本人尋問において、要旨次のとおり申述している。
A 私の所有する本件出資20口は、これまで誰にも譲渡したことはない。
B 私は、Mから出席するようにと言われ、平成11年8月11日に開催されたK社の社員総会に出席した。
ロ 平成7年1月20日付の領収証
 平成7年1月20日付の領収証には、被相続人が請求人Gから株50口分として50万円受領した旨の記載がある。

(3) 判断

 本件は、本件相続開始日において被相続人が有していた本件出資口数について、請求人らは600口と主張し、原処分庁は900口と主張するので、以下、検討する。
 なお、前記1の(4)のニの(ロ)のとおり、株主権確認訴訟においても原告らと被告らとの間で同様の争いとなっている。
イ 被相続人の昭和57年7月の増資直後の本件出資口数について
 前記1の(4)のハの(ロ)のとおり、昭和57年7月の増資直後における被相続人の本件出資口数は500口である。
ロ Nの死亡時(昭和60年10月○日)の同人の本件出資口数について
 上記(2)のイの(イ)のとおり、昭和57年7月7日付のK社の臨時社員総会議事録には、Nが有する本件出資口数が330口である旨記載され、原告らの一員である請求人J及びRが記名押印している。
 そして、上記(2)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、原告らの一員であるRは、本人尋問において、昭和57年7月15日当時、Nが本件出資330口を所有していたことは間違いない旨、同月7日のK社の臨時社員総会に出席し、当該総会に係る議事録に押印した旨申述し、また、他に3人の娘がおり、3人とも故人(N)が株330を持っていたのを知っていた旨主張している。
 さらに、上記(1)のイの(イ)のとおり、請求人らは、平成11年8月11日の株主総会において、Nの有する本件出資口数が330口であることを前提とした発言をしている。
 以上のことからすると、Nが死亡時に有していた同人の本件出資口数は330口であったと認められる。
ハ 被相続人はNが有していた本件出資の全てを遺産分割により相続したか否かについて
(イ) 被相続人がNの有する本件出資330口を取得する旨の記載があるN遺産分割協議書には、被相続人及びQがNの有する各不動産を取得する旨の記載があるところ、上記(1)のロによれば、当該各不動産は、その遺産分割協議書の記載どおりに昭和60年10月○日相続を原因としてNから被相続人及びQに所有権が移転しており、当該所有権を移転するには、請求人らを含むNの死亡当時の相続人全員の記名押印された遺産分割協議書及び印鑑証明書の添付が必要である。
(ロ) また、Nの相続税の申告については、上記(2)のイの(ホ)のとおりY税理士はS地裁に対して、N遺産分割協議書及び相続税申告書の必要箇所に全相続人が押印の上、所轄税務署長宛相続税の申告をした旨及び税務署の取扱いとしては全相続人の押印及び印鑑証明書の添付が必須条件となっており、印鑑証明書が添付されていたことは間違いない旨回答しているところ、株主権確認訴訟においては利害関係のない第三者である同税理士がS地裁に対し虚偽の回答をする理由はないから上記回答は信用することができ、同税理士は、Nの死亡当時の全相続人の押印及び印鑑証明書を添付したN遺産分割協議書を添えた相続税の申告書を所轄税務署長に提出したと認められる。
 このことは、上記(2)のイの(ヘ)の昭和61年4月のカレンダーの記載内容、同(チ)のPの本人尋問における申述内容及び当時の相続税法の規定ではNの相続税の申告書の提出期限が相続のあった日の翌日から6か月以内である昭和61年4月○日であったことからも裏付けられる。
(ハ) さらに、上記(2)のイの(ニ)のとおり、S地裁に提出されたN遺産分割協議書には、N死亡当時の法定相続人全員の記名があること並びに上記(イ)及び(ロ)の事実からすれば、N遺産分割協議書は、請求人らを含むNの死亡当時の法定相続人全員が記名押印し、印鑑証明書を添付したものと推認することができ、したがって、当該遺産分割協議書は真正に成立したものと推定される。
(ニ) そして、上記(1)のイの(ロ)並びに(2)のイの(ト)、同(リ)のA及びBからすれば、実際には、被相続人は、Rを含むNの相続人5名に対してそれぞれ500万円を交付するのと引換えに、上記(イ)で述べたQに所有権が移転した不動産を除くNの相続財産を取得したと認められ、また、上記(1)のイの(ホ)のとおり昭和60年11月13日付のK社の臨時社員総会議事録に、Nが死亡し、本件出資330口を被相続人が相続した旨の記載があることを併せ考えれば、Rを含むNの全相続人間において、Nが有する本件出資330口を被相続人が全て取得する旨の遺産分割協議が成立したか、あるいは、Rを除く相続人間で同旨の遺産分割が成立し、Rがこれを追認したものと認めるのが相当である。したがって、Nが有していた本件出資330口の全てを被相続人が相続により取得したものと認められる。
ニ 被相続人から請求人Gに対する本件出資50口の譲渡について
 請求人らは、被相続人は平成7年1月20日に請求人Gに対して本件出資50口を譲渡した旨主張する。
 しかしながら、前記1の(3)のとおり、旧有限会社法第19条第2項の規定によれば、社員がその持分の全部又は一部を社員以外の者に譲渡する場合には社員総会の承認が必要であって、この手続を欠く譲渡は無効であると解されるところ、前記1の(4)のハの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人Gは、K社の設立時及び出資総額の増資時において出資者でないことから、請求人Gが社員と認められるためには、Nの遺産分割によって本件出資を相続する必要があるが、上記ハで判断したとおり、請求人GがNの有する本件出資を相続により取得したとは認められないことから、平成7年1月20日の譲渡の当時、請求人GはK社の社員でないこととなる。そして、上記出資の譲渡について、K社において社員総会の承認がなされたと認めるに足りる証拠は見当たらない。
 また、上記(1)のイの(イ)のとおり、請求人Gは、上記出資の譲渡を受けたのであれば社員として出席しているはずの平成11年8月11日のK社の社員総会に、夫の代理として出席案内を受けて出席しているにも関わらず、代理出席に関して抗議などを行った事実も認められない。
 以上のことからすると、上記(2)のロの領収証をもって、被相続人が請求人Gに対して本件出資50口を譲渡したと認めることはできない。
ホ 本件相続開始日において被相続人は本件出資900口を支配管理していたか否かについて
(イ) 原処分庁は、K社の平成17年8月1日作成の定款には、被相続人が本件出資900口を有する社員である旨記載されていること並びに平成17年9月22日付及び平成18年10月20日付でS家裁に提出された後見事務報告書及び平成19年8月29日付で同家裁に提出された後見終了報告書には、被相続人の財産状況として、本件出資について金額9,000,000円、株数900である旨が記載されていることを理由に、本件相続開始日において、被相続人は本件出資900口を支配管理していたとして、本件出資900口は、被相続人に帰属する財産と認められる旨主張する。
(ロ) ところで、成年後見人であるM及び定款の作成者であるK社がともに株主権確認訴訟の被告であり、被告らが被相続人の有する本件出資口数が900口であると主張する根拠として、前記1の(4)のニの(ロ)のBのとおり、被相続人が平成元年2月に請求人Jの同20口及び平成9年1月にRの同50口をそれぞれ譲り受けた結果である旨主張していることからすると、上記(イ)の定款及び各報告書に記載されている同900口には、Rの同50口及び請求人Jの同20口が含まれていると認められることから、以下、当該各譲受けの有無について検討する。
A Rが有していた本件出資50口の譲受けについて
 上記(1)のイの(ハ)のとおり、平成9年1月28日付のRから被相続人宛の領収証には、50万円を「会社株不成立返し分」として領収した旨の記載があり、当該領収証からは、Rが被相続人に対してその有する本件出資50口を譲渡したかのようにみえるものの、但書として記載された「会社株不成立返し分」の筆跡が他の部分の筆跡と異なっていること、上記(2)のイの(ヌ)のA及びBのとおり、Rは、本人尋問において、上記領収証に署名押印したことは認めているものの、その但書の「会社株不成立返し分」との記載は行っていない旨申述していることを考慮すると、当該但書部分の記載が同人によるものであると認定することはできないことから、上記領収証はRが被相続人に対してその有する本件出資50口を譲渡した事実を証する証拠にはならない。そして、上記(1)のイの(ニ)及び(2)のイの(ヌ)のCのとおり、Rがその当時K社及び被相続人に対し貸付金を有していたことを考慮すると、当該領収証は、その貸付金に関する金銭の授受について作成されたものである可能性も否定できない。したがって、被相続人がRから本件出資50口を譲り受けたとまでは認められない。
B 請求人Jが有していた本件出資20口の譲受けについて
 上記(2)のイの(リ)のCのとおり、Pは、請求人Jが有する本件出資20口については、請求人Jが平成元年2月10日にK社の取締役を辞任した際、同社の内部処理上、被相続人に譲渡された扱いになっており、請求人Jは、同20口を被相続人が取得することについて、これまで了解を与えていた旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のイの(ル)のAのとおり、請求人Jは、本人尋問において、自分が有している本件出資20口については、これまで誰にも譲渡したことはない旨申述していること、上記(1)のイの(イ)及び(2)のイの(ル)のBのとおり、平成11年8月11日に開催されたK社の社員総会に出席していることからすると、上記譲渡については、K社が請求人Jの承諾を得ずに勝手に処理した可能性も否定できないことから、上記Pの申述は信用することができない。したがって、被相続人が請求人Jから本件出資20口を譲り受けたとまでは認められない。
(ハ) そうすると、被相続人が平成元年2月に請求人Jの本件出資20口及び平成9年1月にRの同50口をそれぞれ譲り受けたとまでは認めることはできず、原処分庁が主張する上記(イ)の定款及びS家裁に提出された上記(イ)の各報告書に記載された被相続人の本件出資900口は、上記の譲受けがあったという誤った認識に基づくものというべきであるから、本件相続開始日において被相続人が本件出資900口を支配管理していたとは認められない。したがって、当該定款及び当該各報告書を根拠とした原処分庁の主張には理由がない。
ヘ 結論
 以上のことから、被相続人は、昭和57年7月の増資時に本件出資500口を有し、Nの死亡によって同人が有していた同330口を相続により取得した後、本件出資を譲り渡し又は譲り受けたとは認められないことから、本件相続開始日において被相続人が有していた本件出資口数は830口であったと認められる。
ト その他の請求人らの主張について
 請求人らは、昭和57年6月29日にNがTの有する本件出資30口を譲り受けた事実はなく、同出資はQが譲り受けたものであるから、Nが死亡時に有していた本件出資口数は300口である旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、昭和60年10月にNが死亡した際に同人が有していた本件出資口数は330口であって、当該口数は、それ以前における同人の有する本件出資口数の増減が反映されたものにほかならないから、同人の死亡以前である昭和57年6月に同人が本件出資30口を譲り受けたか否かを判断するまでもない。したがって、請求人らの主張には理由がない。

(4) 本件各更正処分について

イ 本件出資1口当たりの評価額について
 原処分庁は、本件各更正処分において、本件出資1口当たりの純資産価額を別表5のまる2欄のとおり61,838円とし、本件出資1口当たりの評価額を別表5のまる3欄のとおり42,303円としているが、本件出資1口当たりの純資産価額については、別表6のまる2欄のとおり62,077円であるから、本件出資1口当たりの価額は別表6のまる3欄のとおり42,398円となる。
ロ 請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額について
 上記イのとおり、本件出資1口当たりの価額は42,398円であり、上記(3)のへのとおり、本件相続開始日において被相続人が有していた本件出資口数は830口であるから、本件相続に係る相続税の課税価格に算入すべき本件出資830口の価額は別表7のまる1欄のとおりとなり、また、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがない本件出資以外の課税価格に算入すべき財産等の価額は別表7のまる2及びまる4欄のとおりであり、当該価額は当審判所においても相当であると認められる。
 そこで、上記価額に基づき請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表7のまる5及びまる8欄のとおり、いずれも○○○○円及び○○○○円となり、これらの金額はいずれも本件各更正処分の額を下回るから、当該各更正処分は、別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(4)のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるところ、請求人らの過少申告加算税の基礎となる税額は、いずれも審判所認定による納付すべき税額○○○○円と修正申告における納付すべき税額○○○○円との差額について、国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により10,000円未満の金額を切り捨てた金額である○○○○円となる。
 そして、納付すべき税額○○○○円の計算の基礎となった事実のうちに本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そこで、請求人らの過少申告加算税の額を計算すると、別紙2の3及び別紙3の3「課税標準等及び税額等の計算」の過少申告加算税の額のとおりいずれも○○○○円となり、これらの金額はいずれも本件各賦課決定処分の額を下回るから、当該各賦課決定処分は、別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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