(平成24年5月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、共同相続人である審査請求人らが、被相続人の相続により取得した土地のうち一部の土地について、それらの価額から、財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56、直審(資)17、国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)25《貸宅地の評価》及び86《貸し付けられている雑種地の評価》に定める借地権に係る減額及び賃借権に係る減額をしていなかったとして、それぞれ更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該借地権の減額に係る土地には借地権は存在せず、借地権に係る減額は認められないものの、当該賃借権に係る減額は認められるなどとして、当該各更正の請求の一部を認める各更正処分を行ったのに対し、審査請求人らが、当該借地権に係る減額は認められるべきであるとして、当該各更正処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求人G及び同E(以下、順次「請求人G」及び「請求人E」といい、両名を併せて「請求人ら」という。)は、平成21年3月○日を相続開始日とする被相続人H(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、原処分庁に対し、別表1の「申告」欄のとおり、法定申告期限までに共同して申告した。
ロ 請求人らは、原処分庁に対し、別表1の「更正の請求」欄のとおり、平成23年1月17日に、それぞれ更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、上記ロの各更正の請求について、別表1の「更正処分」欄のとおり、平成23年4月5日付で、その一部を認める各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をした。
ニ 請求人らは、本件各更正処分を不服として、平成23年6月1日に、その一部の取消しを求める異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年8月1日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人らは、上記ニの異議決定を経た後の本件各更正処分に不服があるとして、平成23年8月30日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、請求人Eを総代として選任し、その旨を平成23年9月21日に届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

イ 相続税法
 第22条《評価の原則》は、相続税法第3章で特別の定めのあるものを除くほか、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ロ 民法
(イ) 第265条《地上権の内容》は、地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する旨規定している。
(ロ) 第593条《使用貸借》は、使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる旨規定している。
ハ 借地借家法
(イ) 第2条《定義》第1号は、借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう旨規定している。
(ロ) 第10条《借地権の対抗力等》第1項は、借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる旨規定している。
ニ 評価通達
 25の(1)は、借地権の目的となっている宅地の価額は、11《評価の方式》から22−3《大規模工場用地の路線価及び倍率》まで、24《私道の用に供されている宅地の評価》、24−2《土地区画整理事業施行中の宅地の評価》、24−4《広大地の評価》及び24−6《セットバックを必要とする宅地の評価 》から24−8《文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地の評価》までの定めにより評価したその宅地の価額から27《借地権の評価》の定めにより評価した借地権の価額を控除した金額によって評価する旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
イ 本件被相続人の共同相続人
 本件被相続人の共同相続人は、本件被相続人の妻であるJ、長男であるK(以下、本件被相続人、J及びKの3名を併せて「本件被相続人ら」という。)、長女である請求人G、二女である請求人E及び養子であるLの合計5名である。
ロ 本件相続の開始時におけるa市c町○−○の土地の利用状況等
(イ) 本件相続の開始時において、本件被相続人が所有していたa市c町○−○に所在する825平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)の上には、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建(1階320.81平方メートル、2階287.46平方メートル)の倉庫兼事務所(以下「本件建物」という。)が建てられていた。
(ロ) 本件建物に係る登記事項証明書によれば、受付年月日を昭和62年6月○日、原因を同年5月○日新築、持分を本件被相続人につき5分の1、J及びKにつきそれぞれ5分の2とする所有権保存登記がなされていた。
 なお、本件土地の上に本件建物が建設されてから本件相続の開始時に至るまで、本件土地及び本件建物の所有者に変動はない。
ハ 本件建物に係る金銭消費貸借契約
 本件被相続人らは、M農業協同組合(現、N農業協同組合。以下同じ。)との間で、借入金の使途を本件建物の建築資金、金額を33,500,000円、債務者を本件被相続人、連帯保証人をJ及びK、最終返済期限を昭和72年6月末日とする旨の金銭消費貸借契約を、昭和62年6月25日付で締結した(以下、当該金銭消費貸借契約に係る契約書を「本件消費貸借契約書」という。)。
ニ 本件建物の賃貸借の状況
(イ) 本件相続の開始時の状況
 本件被相続人らは、P社との間で、本件建物を平成19年9月1日から平成22年8月31日までの間賃貸する旨の本件建物の賃貸借契約(以下「本件P社賃貸借契約」という。)を、平成19年9月1日付で締結し、当該契約は本件相続の開始時において存続していた。
(ロ) P社に賃貸する以前の状況
A 本件被相続人らは、Q社との間で、本件建物を昭和62年5月21日から昭和72年5月20日までの間賃貸する旨の本件建物の賃貸借契約を、昭和62年5月21日に締結し、これを証するものとして、同年6月10日に本件建物に係る建物賃貸借契約公正証書を作成した(以下、本件建物に係る建物賃貸借契約公正証書を「本件証書」といい、本件証書に係る契約を「本件Q社賃貸借契約」という。)。
 なお、本件証書には、要旨次のとおり記載されている。
(A) 第1条
 本件被相続人らは、連帯して本件建物を倉庫兼事務所として使用収益させるため賃貸し、Q社は、その目的でこれを賃借した。
(B) 第6条第4項
 Q社は、本件被相続人らの承諾を得ないで、敷地内に建物その他の工作物を築造することができない。
(C) 第9条
 Q社は、本件建物又はその敷地内で危険又は衛生上有害若しくは近隣の妨害となるような行為をしてはならない。
B 本件Q社賃貸借契約の締結後も、本件被相続人らとQ社は、平成2年5月19日、平成5年5月20日、平成8年5月20日、平成11年5月20日及び平成14年5月21日に本件建物の賃貸借契約を更新したが、当該各賃貸借契約に係る各契約書には、当該各契約書に記載された以外の事項は本件証書に従う旨記載されていた。
ホ 本件土地のJ及びKの使用料の有無
 本件土地の使用に関して、本件被相続人とJ及びKとの間では使用料は無償であった。

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2 争点

 本件相続の開始時点で、本件土地上に、本件建物の所有を目的とする地上権が存在していたか否か。

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3 主張

請求人ら 原処分庁
 次のとおり、本件相続の開始時点で、本件土地には、本件建物の所有を目的とする地上権が存在していた。  次のとおり、本件相続の開始時点で、本件土地には、本件建物の所有を目的とする地上権は存在していなかった。
(1) 親族間において無償で土地を使用する場合に地上権の成立が認められるためには、当事者が何らかの理由で特に強固な権利を設定することを意図したと認めるべき特段の事情を要すると解されるところ、以下の各事実によれば、本件建物の所有者であるJ及びKには、地上権を設定することを意図したと認めるべき特段の事情が存在するから、本件建物の所有を目的とする地上権の成立が認められる。 (1) 親族間において無償で土地を使用する場合に地上権の成立が認められるためには、当事者が何らかの理由で特に強固な権利を設定することを意図したと認めるべき特段の事情を要すると解されるところ、以下のとおり、請求人らの主張する各事実は、地上権を設定することを意図したと認めるべき当該特段の事情には当たらないから、本件建物の所有を目的とする地上権の成立は認められない。
イ 本件消費貸借契約書によれば、本件被相続人が、M農業協同組合から本件建物の建設資金を借り入れる際に、J及びKが連帯保証人(実質は連帯債務者である。)となっていること。 イ 本件消費貸借契約書から認められるのは、本件建物の建設資金の借入れに際し、本件被相続人が債務者、J及びKがその連帯保証人になった事実にすぎず、本件被相続人とJ及びKとの間で地上権を設定する合意はなく、また本件土地に地上権が設定されたことをうかがわせる根拠にもならない。
ロ 本件証書には、本件被相続人らが連帯して本件建物を賃貸する旨記載されている(第1条)以上、本件被相続人らは、個別に賃借人が賃貸借の対象となった本件建物が所在する本件土地の全体について、使用収益する権利を保障する責任を負うものである。 ロ 本件証書には「連帯して」の文言があるが(第1条)、単に本件被相続人らが、連帯してQ社に対して本件建物を賃貸する趣旨にすぎず、本件土地に地上権が設定されている旨を判断することはできない。
ハ 実際に、J及びKも本件被相続人と連帯して本件建物を賃貸しており、本件証書に本件建物の賃借人による本件土地の使用に係る条項(第6条第4項及び第9条)が記載されているのは、J及びKが建物の所有を目的とする地上権を有しているからであって、J及びKは、当該地上権者として行動している。 ハ 本件証書に記載された本件建物の賃借人による本件土地の使用に係る条項(第6条第4項及び第9条)は、いずれも本件土地に係る本件被相続人の所有権並びにJ及びKの敷地利用権に従属して、本件土地を使用することを認めているにすぎず、賃借人であるQ社が本件土地を使用収益できることをもって、本件土地に地上権が設定されていることにはならないだけではなく、本件土地に地上権が設定されたことをうかがわせる根拠にもならない。
ニ 建物がその敷地の所有者と所有者でない者との共有となっている場合には、当該敷地の所有者は、当該建物の所有者に対し、当該敷地について当該建物の所有を目的に使用することを許容しているものと解されるところ、本件建物は、本件被相続人らの共有となっており、本件被相続人は、本件土地について、J及びKに対して本件建物の所有を目的に使用することを許容していた。 ニ 本件建物を共有とした目的は、J及びKが将来において収入がなくなることのないよう、また、本件被相続人の所得金額を調整することにあり、本件建物の賃貸収入に係る申告を本件被相続人らが行っているとしても、当該経緯や事実は、単に夫婦及び親子という親密な関係における情義に基づく事情にすぎない。
(2) 借地借家法第10条第1項の趣旨は、建物登記簿の所在地番と敷地地番が一致し、現実に登記簿上の建物表示内容と同一の建物が存在していれば、有効な地上権の登記があるとみなされるところ、本件建物は、借地借家法の適用を受ける登記がされている。 (2) 請求人らは、J及びKが本件土地の地上権者であることを前提として本件建物の登記の効力を主張しているにすぎず、本件相続の開始時点における本件土地及び本件建物の権利関係は、登記事項証明書によっても、本件土地に地上権の設定されている事実が確認できないだけでなく、本件建物に係る本件土地の使用に係る法律関係も一切確認できない。

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4 判断

(1) 認定事実

イ Kの異議審理庁所属の異議調査を担当した職員に対する申述及び、請求人らの代理人であるR税理士の当審判所に対する答述によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件建物を本件被相続人らの共有とした理由は、J及びKの収入がなくならないようにするため、また、Kが本件建物の共有者として対外的な折衝ができるようにするためであった。
(ロ) 本件土地の使用に関し、本件被相続人とJ及びKとの間で、具体的な取決めはなく、契約書も交わしていない。
ロ 本件土地の登記事項証明書によれば、本件土地について、地上権の設定登記はされていない。
ハ 本件P社賃貸借契約では、要旨次の条項が定められている。
 なお、本件Q社賃貸借契約の第1条(前記1の(4)のニの(ロ)のAの(A))と同様の条項は定められていない。
(イ) 第2条(使用目的)
 P社は、本件建物を倉庫兼事務所の目的にのみ使用し、これ以外の目的に使用してはならない。
(ロ) 第9条(禁止行為)
 P社は、下記の行為をしてはならない。
A 他の賃借人及び近隣に迷惑となる行為。
B 所轄官公庁の許認可を得ないで建物又はその敷地内で危険又は衛生上有害となるような一切の事業。
C 本件被相続人らの敷地内に本件建物以外の建物その他の造作・工作物を付加、築造すること。
D 本件建物の全部又は一部につき賃借権を譲渡し、又は転貸すること。

(2) 争点について

イ 「特段の事情」について
(イ) 建物所有を目的とする地上権は、その設定登記又は地上建物の登記を経ることによって第三者に対する対抗力を取得し、土地所有者の承諾を要せず譲渡することができ、かつ、相続の対象となるものであり、殊に無償の地上権は土地所有権にとって著しい負担となるものであるから、このような強力な権利が黙示に設定されたとするためには、当事者がそのような意思を具体的に有するものと推認するにつき、首肯するに足りる理由が示されなければならない。殊に、夫婦その他の親族の間において無償で不動産の使用を許す関係は、主として情義に基づくもので、明確な権利の設定若しくは契約関係の創設として意識されないか、又はせいぜい使用貸借契約を締結する意思によるものにすぎず、無償の地上権のような強力な権利を設定する趣旨でないのが通常であるから、親族間で土地の無償使用を許す関係を地上権の設定と認めるためには、当事者が何らかの理由で特に強固な権利を設定することを意図したと認めるべき特段の事情が存在することを必要とするものと解すべきである(最高裁昭和47年7月18日第三小法廷判決参照)。
(ロ) これを本件についてみると、まず、上記(1)のイの(イ)のとおり、本件建物を本件被相続人らの共有とした理由は、J及びKの収入がなくならないようにするため、また、Kが本件建物の共有者として対外的な折衝ができるようにするためであったと認められるところ、これらの目的は、わざわざ本件被相続人にとって著しい負担となる無償の地上権を設定するまでもなく、使用貸借であっても何ら問題なく達することができるものである。
(ハ) 次に、地上権を設定する場合、それが書面によることは必ずしも要求されるものではないが、それが自由に譲渡可能な強固な権利(物権)であることに鑑みれば、その内容を書面(処分証書)に記載して明確にし、併せてその地上権の設定登記もされることが一般的であるところ、前記1の(4)のイの本件被相続人とJ及びKとの関係に照らし、本件建物の建築時に実際に地上権を設定しようとしたのであれば、これらを容易に行うことができたはずにも関わらず、上記(1)のイの(ロ)及びロのとおり、本件土地の使用に関し、本件被相続人とJ及びKとの間で、具体的な取決めはなく、契約書も交わしておらず、地上権の設定登記もされていない。
(ニ) また、請求人らは、前記3の「請求人ら」欄の(1)のとおり、次のAないしDの主張を理由に、本件土地を無償で使用するJ及びKの地上権の成立が認められる「特段の事情」がある旨主張するが、次のとおり、いずれも当該「特段の事情」に該当するとは認められない。
A 請求人らは、本件被相続人が、M農業協同組合から本件建物の建設資金を借り入れる際に、J及びKが連帯保証人(実質は連帯債務者である。)となっている旨主張する(前記3の「請求人ら」欄の(1)のイ)。
 しかしながら、前記1の(4)のハのとおり、請求人らの主張に係る事実が認められるものの、当該事実によれば、本件被相続人らとM農業協同組合との間で金銭消費貸借契約に基づく権利義務関係が生じたことが認められるにすぎない。
B 請求人らは、本件証書に、本件被相続人らが連帯して本件建物を賃貸する旨記載されている以上、本件被相続人らは、個別に賃借人が賃貸借の対象となった本件建物が所在する本件土地の全体について、使用収益する権利を保障する責任を負うものである旨主張する(前記3の「請求人ら」欄の(1)のロ)。
 しかしながら、そもそも本件証書は、前記1の(4)のニの(ロ)のAのとおり、本件建物について賃借人をQ社とする本件Q社賃貸借契約を証する書面であるところ、本件相続の開始時における本件建物の賃借人は、同(イ)のとおり、P社であって、本件建物について賃借人を同社とする賃貸借契約(本件P社賃貸借契約)には、上記(1)のハのとおり、本件被相続人らが連帯して本件建物を賃貸する旨の条項がないのであるから、請求人らの上記主張は、その前提を欠くものである。
 なお、仮に、本件P社賃貸借契約に本件被相続人らが連帯して本件建物を賃貸する旨の条項があったとしても、一般に、建物の賃借人は、建物賃貸借契約の性質上、当該建物使用の目的の範囲内においてその敷地利用権を有するにすぎないものと解され、また、建物の賃借人の敷地利用権は、建物の所有者の敷地利用権から独立した別個の権利ではなく、建物の所有者の敷地利用権に従属して、その範囲内での権能にすぎないと解されることからすると、本件の場合、そのような条項は、本件被相続人らがP社に対して、同賃貸借契約の第2条(上記(1)のハの(イ))に定める使用目的の範囲内で、本件被相続人らそれぞれの本件土地の利用権の範囲内で本件土地を利用させることを約したにすぎないから、そのような条項の存在が、J及びKの本件土地の利用権の権利形態を何ら決定付けるものではない。
C 請求人らは、実際に、J及びKも本件被相続人と連帯して本件建物を賃貸しており、本件証書に本件建物の賃借人による本件土地の使用に係る条項が記載されているのは、J及びKが建物の所有を目的とする地上権を有しているからであって、J及びKは当該地上権者として行動している旨主張する(前記3の「請求人ら」欄の(1)のハ)。
 しかしながら、そもそも本件証書は、前記1の(4)のニの(ロ)のAのとおり、本件建物について賃借人をQ社とする本件Q社賃貸借契約を証する書面ではあるが、本件相続の開始時における本件建物の賃借人であるP社との間の賃貸借契約(本件P社賃貸借契約)にも、上記(1)のハの(ロ)のCのとおり、同社による本件土地の使用に係る条項が定められていることから、請求人らが同条項を捉えて上記主張をしていると解したとしても、同条項は、同社において本件土地上に新たな建物や造作・工作物等を付加、築造することを禁止しているにすぎないものであり、J及びKの本件建物の所有を目的とする権利の内容が、地上権であるか、あるいは使用借権であるかの判断に、何ら影響を及ぼすものではない。
D 請求人らは、建物がその敷地の所有者と所有者でない者との共有となっている場合には、当該敷地の所有者は、当該建物の所有者に対し、当該敷地について当該建物の所有を目的に使用することを許容しているものと解される旨主張する(前記3の「請求人ら」欄の(1)のニ)。
 しかしながら、敷地の所有者が、当該敷地上に存する建物の所有者に対し、当該建物の所有を目的に当該敷地を無償で使用することを許容することと、その許容によって設定される権利形態が地上権なのか使用借権なのかということは、別の問題であって、当該許容をもって直ちに結論付けることはできないものである。
(ホ) 以上(上記(ロ)ないし(ニ))のとおり、まる1本件建物を本件被相続人らの共有とした理由からすれば、わざわざ本件被相続人にとって著しい負担となる無償の地上権を設定する必要もないこと、まる2本件被相続人とJ及びKとの間で、地上権を設定する場合に通常取るであろう行動が、取れたにも関わらず、これを取っていないこと及びまる3本件においては、本件土地を無償で使用するJ及びKの地上権の成立が認められる「特段の事情」も見当たらないことからすると、本件建物の所有に係るJ及びKの本件土地上の権利は、せいぜい使用貸借によるものとみざるを得ない。
(ヘ) そして、本件建物の建築後、本件相続の開始に至るまで、その権利関係に変動があったことを認めるに足りる証拠はないから、本件相続の開始時点で、本件土地には、J及びKの地上権が存在していたとは認められない。
ロ その他の請求人らの主張について
 請求人らは、前記3の「請求人ら」欄の(2)のとおり、借地借家法第 10条第1項の趣旨は、建物登記簿の所在地番と敷地地番が一致し、現実に登記簿上の建物表示内容と同一の建物が存在していれば、有効な地上権の登記があるとみなされるところ、本件建物は、同項の適用を受ける登記がされているから、本件土地には本件建物の所有を目的とする地上権が存在していた旨主張する。
 しかしながら、前記1の(4)のロの(ロ)のとおり、確かに、本件建物はその所有権の保存登記がなされているものの、借地借家法第10条第1項は、借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる旨規定し、第三者への対抗要件を定めているにすぎないから、同項の趣旨を、請求人らが主張するように、建物登記簿の所在地番と敷地地番が一致し、現実に登記簿上の建物表示内容と同一の建物が存在していれば、有効な地上権の登記があるとみなすとするものと解するのは、文理上飛躍しすぎており、請求人ら独自の解釈といわざるを得ず、請求人らの上記主張を採用することはできない。

(3) 本件各更正処分の適法性

イ 本件土地の課税価格に算入すべき金額
 上記(2)のイの(ヘ)のとおり、本件相続の開始時点で、本件土地には、J及びKの地上権が存在していたとは認められず、J及びKの本件土地を使用する権利は、使用借権であると認められるところ、使用借権は、元々当事者間の好意ないし個人的信頼関係を基盤とするもので、建物所有を目的とするものといえども、賃借権のように借地借家法の適用はなく、その権利性はそれほど強固なものではないものである。そして、この使用借権に基づく敷地利用権の上に、建物の賃貸借関係が成立しているとしても、この建物賃貸借は、敷地所有者との関係でみると、使用貸借の存続・消滅と運命をともにするものにすぎないから、使用借権の付着している土地の相続に当たっては、使用借権が付着していることによる減価を考慮せず、これを更地として評価することが相当である。
 しかしながら、本件土地について、請求人ら及び原処分庁がその価額を算定する基とした本件土地の図面は、評価通達20《不整形地の評価》に定める想定整形地の面積が本件土地の面積を下回るほど不正確なものであったため、当審判所がS法務局a支局から入手した本件土地の「地積測量図」の写しに基づき、別表2のとおり、改めて想定整形地を求め、それを基礎として求めた不整形地割合を使用して本件土地の価額を算出したところ、別表3のとおり、58,639,919円となり、さらに、請求人らが本件相続税の申告においてその適用を選択した租税特別措置法第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》(平成21年法律第13号改正前のもの。)を適用して、本件土地の課税価格に算入すべき価額を算出すると、51,312,219円となる。
ロ 納付すべき税額及び結論
 本件相続税について、上記イのとおり、本件土地の課税価格に算入すべき価額に誤りが認められることから、これを是正して当審判所において改めて請求人らの納付すべき税額をそれぞれ算出すると、別表4の「請求人G」欄及び「請求人E」欄の「納付すべき税額」欄の各欄のとおり、請求人Gが○○○○円、請求人Eが○○○○円となり、いずれも本件各更正処分の税額を下回る。
 したがって、本件各更正処分は、いずれもその一部が取り消されるべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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