(平成24年8月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)は風俗店(ファッションヘルス)を営んでおり当該事業に基因する所得を有する等として、平成18年分ないし平成21年分の所得税並びに平成20年1月1日から平成20年12月31日までの課税期間及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各決定処分及び更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、当該風俗店の経営者は請求人ではなく、当該風俗店の経営に係る所得の帰属を誤った違法があるとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該風俗店の経営に係る所得が請求人に帰属するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成23年9月20日請求)に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりである。
 なお、平成18年分、平成19年分、平成20年分及び平成21年分を、以下「本件各年分」といい、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの各課税期間を、以下順次「平成20年課税期間」及び「平成21年課税期間」といい、それらを併せて「本件各課税期間」という。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 平成18年3月17日付で、a市b町○−○所在のcビル○階に受付事務所を置くJ店と称するファッションヘルス(以下「本件J店」という。)について、請求人名義の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)に規定する「無店舗型性風俗特殊営業」に係る届出書がe県公安委員会に対して提出された。
 また、平成20年9月26日付で、本件J店に係る事業が平成20年1月13日から開始された旨記載された請求人名義の開業届出書が、原処分庁に提出された。
ロ 平成20年分の所得税について、納税地(事業所所在地)を本件J店の受付事務所の所在地とし、その申告者の職業を記載する欄に「サービス業」、当該職業に係る屋号等を記載する欄に「J店」とそれぞれ記載されている請求人名義の確定申告書が、法定申告期限までに原処分庁に提出されていた。
ハ 平成21年4月1日付で、本件J店に係る事業について平成21年1月31日に廃業した旨記載された請求人名義の廃業届出書が、原処分庁に提出された。
ニ 本件J店の事務所は、平成22年○月○日頃に、風営法違反被疑事件により警察による捜索差押えをされ、同月○日に、当時、本件J店を経営していたKが当該被疑事件に係る被疑者として警察に逮捕された。
 Kは、本件J店だけでなく、a市b町○−○所在のfビル○階に受付事務所を置くLと称するファッションヘルス(以下「本件L店」といい、本件J店と併せて「本件各店舗」という。)の経営も行っていた。
 なお、本件L店については、平成17年9月7日付で、M名義の風営法に規定する「無店舗型性風俗特殊営業」に係る届出書がe県公安委員会に提出されていた。
ホ Kが風営法違反被疑事件に係る被疑者として警察に逮捕された時期と前後して、本件J店の当時の店長であったN、Nの前任の本件J店の店長であった請求人、本件L店の当時の店長であったP及びPの前任の本件L店の店長であったMは、それぞれ風営法違反被疑事件に係る被疑者として警察の取調べを受けた。
ヘ 原処分に係る調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成22年10月19日に、請求人に対する所得税及び消費税等に係る調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
ト 本件調査の開始後に請求人の関与税理士となったQ税理士は、調査担当職員に以下のとおりの書類(以下「本件書類」という。)を提示したが、本件調査終了の時までに本件書類以外の帳簿書類の提示を行わなかった。
(イ) 平成20年分及び平成21年分の本件J店に係る月別売上金額等を記載した月報
(ロ) 平成20年分及び平成21年分の本件J店の経費に係る領収証
チ 原処分庁は、平成23年5月25日付で、平成18年3月17日から平成21年1月31日までの期間に係る本件J店の事業所得が請求人に帰属するとして原処分を行った。

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2 主張

原処分庁 請求人
 請求人は、本件J店の営業に当たって、請求人自身の名義で同店の受付事務所を賃借し、かつ、風営法所定の届出書をe県公安委員会に提出しているほか、同店の開廃業届に関する届出書及び確定申告書を原処分庁に提出していることを総合して判断すると、本件J店に係る収益の帰属先は請求人であることが事実上推定される。
 これに対して、請求人は、上記事実と実体上の帰属先が異なること、すなわち、本件J店の収益がKに帰属することについて、上記推定を覆すに足りる事情を何ら主張立証していない。
 したがって、請求人が本件J店の実質所得者であるとしてされた原処分は適法である。
 請求人は、本件J店の単なる店長であり、実際の経営者はKである。
 このことは、平成22年○月に本件J店の風営法違反被疑事件に係る警察の捜査に際し、Kが逮捕され、請求人は一従業員であるとして逮捕されていないことによっても明らかである。
 また、請求人は、本件J店の受付事務所の賃借人及び風営法の届出人であるが、風俗業界ではこれらの名義人と納税者が異なる例が多数ある。
 このように、本件J店の実質所得者は、経営者であるKであり、本件J店の店長である請求人が実質所得者であるとしてされた原処分は事実誤認に基づく違法な処分である。

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3 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受するものに帰属するものとする旨規定している。したがって、事業から生ずる収益としての風俗店の営業に係る所得に対して所得税の課税を行う場合においても、当該所得の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その所得を享受しないときは、これを享受する者に対して課税を行うものである。そして、所得税法第12条の規定の適用上、事業から生ずる収益を享受するものが誰であるかは、その収益を受けるべき正当な権利者が誰であるかにより判断すべきものと解されるが、所得税基本通達12−2において、事業から生ずる収益の場合には、その事業の経営者がその収益を享受すべき者である旨定めており、当審判所においても、当該通達の定める取扱いは相当であると認める。
 また、消費税法第13条も、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、同法を適用する旨規定しており、所得税法と同様の実質課税の原則を規定したものと解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 調査担当職員は、本件調査の際、本件J店に関係する事務所内のパソコンから、本件J店に係る平成20年10月分ないし同年12月分の女子従業員別の売上金額、客数、女子従業員への支払金額及び粗利益等を記載した真実の営業データ表(以下「本件データ表」という。)を把握した。
ロ 本件J店におけるプレイ料金は、時間帯及びプレイ時間の長短により決められており、初めての客は、当該プレイ料金の他に原則として入会金が必要であり、女子従業員の指名を行う場合は指名料金が、また、プレイ時間の延長を行う場合には、別途延長料金が必要であった。
 また、本件J店においては、時期によって、風俗情報誌等に割引情報が掲載されることがあり、入会金、指名料及びプレイ料金込みで割引のある等のいわゆる「イベント」が行われていた。
 なお、同様の割引料金でプレイすることのできるイベントは、本件L店でも行われていた。
ハ 本件各店舗は、ファッションヘルスに係る客へのサービスの用に供するため、複数のマンションを賃借していたが、その際の賃貸借契約に係る賃借名義人は、賃貸借契約を締結した当時の本件各店舗の店長又は従業員であった。
 なお、平成20年及び平成21年の本件各店舗における支払家賃及び光熱費の支払名義人は、別表3のとおりである。
ニ 関係者の警察に対する供述
 本件J店の店長であったN並びに本件L店の店長であったP及びM(以下、併せて「Nら」という。)は、風営法違反被疑事件に係る被疑者として警察の取調べを受けたものであるが、Nらの警察に対する以下の供述は、互いに整合的であり、明瞭で具体的であって、格別不自然な点は認められず、客観的証拠とも符合するから、信用することができるものと認められる。
(イ) Nの供述
A 平成17年5月頃に本件J店に採用されて働き出し、平成21年1月頃、それまで同店の営業責任者であった請求人の後任として同店の営業責任者を務めた。本件J店の営業責任者への就任は、Kからの指示によるものである。
B 警察が本件J店を捜査していることが分かった平成22年1月頃、経営者であるK及び本件L店のPと話合いの場を持ったが、Kから業態を派遣型デリバリーヘルスに変更するのでマンションの賃貸借契約を解約するよう指示を受け、当該指示に従ってマンションの賃貸借契約を解約した。
C 本件J店の業務は、まる1来客の受付、案内、まる2女子従業員の勤務管理、採用及び面接、まる3売上金の計算、管理、まる4広告媒体への広告、宣伝、まる5タオル等の備品の補充並びにまる6マンションの家賃の支払等であるが、このうちまる3売上金の計算、管理は、基本的に営業責任者であるNが行っており、当該売上金について、必要経費を除いた1か月分の利益相当額の金員を翌月の10日頃までに経営者であるKに手渡すこととしていた。
 なお、Nを含む本件J店の従業員の給与については、Kに1か月分の利益相当額の金員を手渡した後の毎月15日頃にKから受領していた。
D 本件J店の運営については、Kからある程度任されており、女子従業員の面接、採用については基本的にNが行っていたが、マンションの賃借名義の変更等についてはKの指示に従っていた。本件J店で使用していたマンションのうち1つだけN名義で賃借していたが、これは当時の営業責任者であった請求人から名義を貸してほしいと求められたためである。
(ロ) Pの供述
A 平成20年3月頃に本件L店の従業員として、当時本件L店の営業責任者をしていたMの下で働き始めた。
B 本件L店に勤め出して間もなく、Mから、自分はこの仕事を辞めようと思っているので、本件L店をやってみないかとの話があったため、自分の店を持つことができると思い、喜んで引き受けた。
 しかしながら、その後、Mから、本件L店の経営者はKであり、Mは風営法の届出上の名義人である旨、Kは本件J店も経営しており、普段の営業等のうちイベントや女子従業員の採用等は任されているが、毎月の売上げ及び客付については必ずKに報告しなければならず、賃貸マンションの契約や解約はKの指示がないとしてはいけない旨の説明を受けた。
C Mから本件L店を引き継ぐに当たり、同人からまる1風営法上の届出書は、無店舗型性風俗特殊営業届出であるが、届出の名義を変更すると無店舗型性風俗特殊営業をすることができなくなることから、届出名義であるMの名義で営業を続けてもよい旨、まる2毎日客付表を記録し、Kに対してその月の売上金額及び客付数(客数)を翌月の初めに電話で報告する旨、まる3売上金をKのところに持って行くか否かは、その都度Kに確認する旨及びまる4賃借しているマンションの賃料及び公共料金については、当該マンションごとに契約者名義が異なるため、「R」名義のキャッシュカードを使って、契約者の氏名を入力して振り込む旨等の本件L店を営業していく上での諸注意を受けた。
D 平成20年5月頃、Mから本件L店の営業に関する引継ぎを受けて、Mから聞いていたKの携帯電話の番号に電話をし、引継ぎを受けた旨の報告を行ったところ、Kから頑張るよう激励を受けた。
E 割引等のイベントについては、Kから営業を一任されていることから、営業責任者であるP自身が考えて本件L店の売上げを伸ばすためにやっていたものである。また、本件L店の7か所の賃借マンションの一部を解約すれば経費節約になるとも思ったが、Pが本件L店の経営者ではないことから、勝手に解約することはできなかった。
F Kからの指示で、平成20年分から本件L店の事業所得に係る確定申告書をP名義で提出するようになった。申告の基礎となる資料は、本件L店に係る売上金額のデータであり、当該データをUSBメモリーに入れて業者の事務所へ持参していた。
(ハ) Mの供述
A 友人の紹介で本件J店に従業員として入店したが、当時の営業責任者である請求人がKに毎月の売上げを報告したり、売上げを手渡ししているのを見て、Kが本件J店の経営者であることを知った。
B 本件J店に入店してから半年後に、Kから、新しい店を出すので警察に届出書を出すよう指示され、M名義の本件L店の無店舗型性風俗特殊営業届出をS警察署に提出した。
C 本件L店の営業責任者になってからは、本件L店の毎月の売上げをKに渡し、当該売上げの中から自分の給料をもらっていた。
D 本件L店の仕事が夜遅くまで勤務しなければならないこと及び風営法上の違法営業を続けていきたくないことから、Pが平成20年3月又は4月頃に本件L店に入店して1週間程して、同人に対して、本件L店を辞めたい旨話したところ、同人から本件L店を引き続きやらせてほしい旨頼まれた。
 そのため、Kに対して、風営法上の届出をM名義のままPに営業を引き継ぐことについての了解を求め、Kの了解を得て、1か月程で業務を引き継いだ。その際、Pに対して、まる1本件L店の経営者はKであること、まる2月に一度、本件L店の売上げをKに報告し、売上金をKに渡さなければならないこと及びまる3イベントの内容の決定や、女子従業員の採用は、営業責任者が決めてよいが、マンションの賃貸借契約に関することについてはKに許可を得なければならないこと等の申し送りを行った。
E 以前、警察で事情聴取を受けた際には、自分が本件L店の経営者である旨供述したが、Kから、警察に摘発された際には同人の名前を言わないよう口止めされていたため、このように供述したのであり、実際には、本件L店の経営者はKであり、自分は営業責任者という店長のような立場である。
ホ 請求人の答述
 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述するところ、請求人の答述内容は、上記ニのNらの供述内容と互いに整合しており、明瞭で具体的であって、格別不自然な点は認められず、客観的証拠とも符合し、信用することができるものと認められる。
(イ) 請求人は、平成14年頃、本件J店で働くことになり、その後、3、4か月で一旦辞めたが、平成17年頃に再度勤務するようになって、平成18年3月に本件J店の店長になり、その後、平成21年1月に本件J店を辞めた。
(ロ) 本件J店の請求人の前任の店長は、Tであったが、同人は、本件J店が行っていた「マンションヘルス」という業務が風営法上違法であることを嫌がり、g町で合法な風俗店を行うこととなったため、Kの了解の下、請求人が後任の店長となった。
 Tは、本件J店が行っていた違法行為を嫌がっており、本件J店を退職した後にTの名前が残ることを嫌がっていたことに加え、Kからの指示もあって、本件J店に係る事務所の賃借人名義及び風営法の届出名義を、いずれも請求人の名義に変更することとなったため、請求人は、事務所の賃貸人との間で賃借人の名義を変更する合意書を作成するとともに、請求人名義の風営法上の届出書を提出した。
 なお、請求人が本件J店を辞める際、後任の店長は、Nであったが、風営法の改正の関係で届出名義の変更を行うことができなかったことから、請求人は、Kに対し、本件J店に係る風営法上の届出名義を請求人名義のままにしておくことを了承した。
(ハ) 請求人は、客の受付簿等から本件データ表を作成していたが、本件データ表の入力作業についてはNも行っていた。
 また、請求人及びNは、Kの指示により、本件データ表よりも少額で適当な金額が入力された確定申告用の集計表を作成し、業者の事務所に持参した。
(ニ) 本件J店の事務所、駐車場及びファッションヘルスに係る客へのサービスの用に供するためのマンション等の各賃借物件の新規契約や解約は、Kの了承の下、請求人を含む従業員が行っていたが、Kは、本件J店が風営法上違法な営業をしていたことから、極力Kの名前を表に出さないようにしていた。そのため、マンション等の賃貸借契約は、賃借人又は保証人についていずれも従業員名義で締結していた。
 請求人が店長になってからは、マンション等の賃貸借契約については、基本的に賃借人を請求人名義で締結していたが、同一の請求人名義ばかり使用していると賃借したマンションが風俗に使用されているとの噂になっても困るので、賃借人を他の従業員名義にして賃貸借契約を締結することもあった。
 また、賃借物件の水道光熱費についても、Kの指示により同人の名前を出すことはなく、本件J店の従業員名義で支払を行っていた。
(ホ) 本件J店に係る売上金は、女子従業員報酬及び経費を支払った後、請求人が常に身に着けて保管していた。その後、請求人は、大体1か月に1度か2度の割合で、Kへ連絡し、又はKからの連絡で、街中のレストランや車中などで同人に会い、請求人が保管していた売上金を封筒に入れて渡していた。
 売上金を渡す封筒には、月報から日々の粗利益、経費及び残金を転記していたが、Kは、その場では売上金の金額と当該記載内容をチェックすることはなかった。
 請求人は、売上金をKに手交する際に、本件J店に係る広告の掲載方法、料金設定、女子従業員の採用や給与及び賃借マンションに関する契約等についての承諾等をKから得ていた。
(ヘ) 請求人は、平成17年4月頃から、本件J店の従業員としてKから給与を受け取っていたが、その額は定額ではなく、平均して月額で約○○○○円であった。
 ただし、平成20年以降については、売上金が少ないとの理由から、Kから給与を受け取っていなかった。
(ト) 請求人は、平成21年1月に本件J店を退職する前に、Kから、所得税の申告をするので請求人の名義を貸して欲しい旨要求され、税金の支払はKが行う旨の説明を受けて当該要求を了承した。
 請求人は、申告書の内容を確認していないが、申告書に押印された印鑑は、請求人がKに預けていたものが使用されたと思われる。
(チ) 請求人は、原処分庁に対して、本件J店に係る開業届出書及び廃業届出書を提出したことはない。また、Kからも当該各届出書の提出に関する話を聞いたことはない。
ヘ Kの答述
 Kは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述するところ、Kの答述内容は、上記ニのNらの供述内容及び上記ホの請求人の答述内容と互いに整合しており、明瞭で具体的であって、格別不自然な点は認められず、信用することができるものと認められる。
(イ) 平成17年4月、Tを店長にして本件J店を経営することになった。その後、平成18年3月にTが本件J店を辞めたため、以前から本件J店に勤めていた請求人を後任の店長にした。その後、平成21年1月に請求人が本件J店を辞めたため、本件J店の従業員をしていたNを後任の店長にした。このようにして、平成17年4月から平成22年○月まで本件J店を経営していた。一方、平成20年4月からPを店長にして平成22年○月まで本件L店を経営していた。
(ロ) 本件各店舗は、風営法上違法経営であったため、自分の名前が出ることは絶対にないよう注意していた。そのため、本件各店舗に係る事業に関する取引、契約及び書類などの名義については、警察の捜査があった後の平成21年分の本件J店の申告や源泉所得税の納付を除いて、請求人らの各店長や従業員の名前で行うよう指示し、経費の支払用の銀行口座も従業員の名前のものを使っていた。
(ハ) 風営法の届出の名義は、本当の経営者である自分の身代わりとなる者として、実際に店にいる責任者である店長とする必要があったので、請求人が店長になったときに請求人の名義で届出をしたが、それ以後は、風営法の運用により、店の名義を変えることが簡単にできなくなり、店長が交代しても風営法上の届出の名義を変更しなかった。
(ニ) 本件各店舗の店長の仕事は、受付での接客及び受付簿の作成、受付簿からの営業データのパソコン入力、売上金の管理、経費の支払、賃貸物件の契約、女子従業員の採用、広告会社との交渉、掃除等の雑用などであり、日常の業務は自分の大まかの指示の下で請求人らの各店長に任せていたが、賃貸物件の契約など重要なことについては店長と会う際や電話で事前あるいは事後の承諾をしていた。
(ホ) 本件各店舗の売上金は、各店長において一旦保管した後、各店長を喫茶店などに呼び出して受け取っていた。請求人の場合は、月報に記載の粗利益などを転記した封筒に売上金を入れて、NやPは、封筒に月報と売上金を入れて持ってくるので、封筒ごと売上金を受け取っていた。
(ヘ) 本件調査の際、調査担当職員に対し、平成18年3月から平成21年1月までは請求人が本件J店を経営し、請求人から平成18年4月から平成20年10月まで毎月300,000円くらいのコンサルタント料を受け取っていた旨の説明をしたが、そのような虚偽の回答をしたのは、所得税や消費税を1人でまとめて支払うより請求人とに分けて課税された方が税金が安くなると考えたからである。

(3) 判断

イ 上記1の(4)のイないしニ及びチ、上記(2)のハないしヘ並びに当審判所の調査の結果によれば、まる1Kは、本件J店の毎月の売上金及び客数の報告を店長から受け、更に、本件J店に係る毎月の利益相当額を店長から手渡しで受領して、店長を含む従業員の給与を当該利益相当額の受領後に支払っていたこと、まる2本件J店の請求人の前任の店長であるTが退職した際、Kの了承により請求人が後任の店長に就任し、更に、請求人が退職した際の本件J店の後任の店長には、Kからの指示により、Nが就任していること、まる3ファッションヘルスに係る客へのサービスの用に供するためのマンションの賃貸借契約の締結及び解約は、Kの判断で行っており、その際、当該マンションの賃貸借契約及び当該マンションに係る水道光熱費の契約名義人については、Kの指示により、店長又は従業員の名義で行い、経費の支払のための銀行口座も店長又は従業員名義で開設していたこと、まる4Kの指示により、本件各店舗の当時の店長名義で風営法上の届出をし、また、警察の捜査を受ける前の平成20年分の本件各店舗に係る事業所得についての確定申告をしていたこと、まる5Kは、警察が捜査していることが分かった後、本件J店の業態を派遣型デリバリーヘルスに変更し、不要となった賃借マンションに係る賃貸借契約を解約させていること、まる6Kは、本件各店舗が風営法上違法な営業を行っていることから、自分の名前が表に出ないようにするために、風営法上の届出名義、本件各店舗における事業の用に供するために賃借したマンション等の賃借名義、光熱費の支払名義及び経費の支払のための銀行口座の名義等をいずれも本件各店舗の店長又は従業員名義としていたことの各事実が認められ、加えて、K自身、本件各店舗を平成22年○月までの間経営していた旨、及び本件調査の際、調査担当職員に対して平成18年3月から平成21年1月までは請求人が本件J店を経営していた旨の申述をした理由は、請求人と分けて課税される方が税金が安くなると考えたからである旨の答述をしている。
 これらからすれば、Kは、本件各店舗における経営者として、本件各年分を通じて本件各店舗の営業を支配管理し、その収益を自己に帰属させていたものと認められるから、本件各年分の本件J店に係る所得は、Kに帰属し、同様に、本件各課税期間の本件J店に係る資産の譲渡等の対価を享受する者はKであると認めるのが相当である。
ロ 原処分庁の主張
 原処分庁は、請求人は、本件J店の営業に当たって、請求人自身の名義で本件J店の受付事務所を賃借し、かつ、風営法所定の届出書を提出している他、本件J店の開廃業届に関する届出書及び確定申告書を原処分庁に提出していることを総合すれば、本件各年分の本件J店の収益は請求人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、これらの届出名義や契約名義等にも関わらず、Kが、本件J店における事業の経営者として、本件各年分を通じて、本件J店の営業を支配管理し、その収益を自己に帰属させていたものと認められるのであるから、所得税法第12条及び消費税法第13条の実質課税の原則からしても、本件各年分の本件J店に係る所得はKに帰属し、また、本件各課税期間の本件J店に係る資産の譲渡等の対価を享受する者はKであると認めるのが相当であり、この点における原処分庁の主張は採用することができない。
ハ 結論
 以上のとおり、本件各年分の本件J店に係る収益及び本件各課税期間の本件J店に係る資産の譲渡等に係る対価をそれぞれ享受する者は、請求人ではなくKであって、本件各年分の本件J店に係る所得及び本件各課税期間の本件J店に係る資産の譲渡等に係る対価がいずれも請求人に帰属するとしてされた原処分は違法であるから、原処分はいずれもその全部を取り消すべきである。

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