(平成24年8月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その所有していたゴルフ会員権を譲渡し、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるとして確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人がしたゴルフ会員権の譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当しないとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことに対して、請求人が違法を理由にその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、請求人がしたゴルフ会員権の譲渡が「資産の譲渡」(所得税法第33条第1項《譲渡所得》)に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成23年12月1日請求)に至る経緯は、別表のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ ゴルフクラブの概要等
(イ) H社(以下「本件運営会社」という。)は、昭和61年7月○日に設立され、主な事業はゴルフ場(Jゴルフ)(以下、このゴルフ場を「本件ゴルフ場」という。)の経営であり、本件ゴルフ場は、平成3年7月頃、開設された。
(ロ) 本件運営会社については、債権者であったK社により、会社更生手続開始の申立てがされ、L地方裁判所は、平成19年12月○日付にて、更生手続の開始を決定するとともに、管財人として弁護士M(以下「本件更生管財人」という。)を選任した。
(ハ) 本件更生管財人は、会社更生手続に関連して、大韓民国の法人とされるN社(以下「本件スポンサー会社」という。)との間で、平成21年1月30日付にて、本件ゴルフ場の運営事業を、本件運営会社から、本件スポンサー会社の指定する受け皿会社に対して事業譲渡する旨の契約(以下「本件スポンサー契約」という。)を締結し、平成21年6月30日、本件スポンサー契約が履行され、事業譲渡の受け皿会社として指定された、本件スポンサー会社の子会社であるP社(以下「本件事業譲受会社」という。)が、本件ゴルフ場の運営事業の事業譲渡を受けた(以下、当該事業譲渡を「本件事業譲渡」という。)。
 なお、本件事業譲渡後の会員権の管理を行う会社として、Q社(以下「本件会員権管理会社」という。)が、平成21年9月○日に設立された(なお、設立時の商号はR社である。)。
 また、本件事業譲渡に伴い、本件ゴルフ場の名称は、平成21年7月1日以降、「Sゴルフ」に変更された(以下、名称変更後の本件ゴルフ場を指して「本件新ゴルフ場」という。)。
(ニ) 本件更生管財人及び本件スポンサー会社は、連名にて、本件ゴルフ場の会員(以下「旧会員」という。)に対し、平成21年8月10日付にて、「会員権の取扱いについてのお知らせ(重要)」と題する書面(以下「本件会員通知書」という。)、「意思確認書兼旧会員権譲渡・新会員権譲受申込書」と題する書面(以下「本件申込書」という。)及び別紙2のスキーム図(以下「本件スキーム図」という。)を交付した。
 なお、本件会員通知書には、要旨、次の内容の記載がある。
A 平成21年6月30日、本件スポンサー契約の決済が行われたことにより、事業譲渡がされ、本件ゴルフ場の運営主体は、本件スポンサー会社及びその子会社である本件事業譲受会社になったので、本件運営会社が発行した会員権(以下「旧会員権」という。)に基づくプレー権は本来消滅することになるが、平成21年10月31日までの間、旧会員は、暫定的に旧会員権に基づくプレー権が維持される(同日までに本件新ゴルフ場に来場した場合には、会員料金でプレーできる。)。
B 旧会員は、旧会員権を、会員権管理を担う会社として設立される予定のQ社(本件会員権管理会社)に譲渡するのと引換えに、本件会員権管理会社が発行する会員権(以下「新会員権」という。)を譲り受けることができる。これは、旧会員権のプレー権を実質的に保護するため、本件スポンサー契約で合意した旧会員権の処遇に基づく措置である。
C 旧会員は、このような、まる1旧会員権を譲渡し、新会員権を譲り受けるか、又は、まる2これらを行わず、引き続き更生会社(本件運営会社)の債権者として留まるかの選択をし、本件申込書を返送していただきたい。
D 旧会員が、まる1(旧会員権譲渡・新会員権譲受)を選択した場合、平成21年11月1日に、本件スキーム図のとおり、平成21年度年会費を所定の方法で支払うことを条件に、旧会員権を本件会員権管理会社に旧会員権1口当たり○○○○円(旧会員権に基づく本件運営会社に対する預託金返還請求権の金額を問わない。)で譲渡し、これと引換えに、本件会員権管理会社が発行する○○○○円の預託金返還請求権と本件新ゴルフ場のプレー権を有する新会員権を譲り受ける(なお、まる1を選択した場合について整理をした表において、「暫定的プレー権 ○」「新会員権 ○」「旧会員権に基づく更生会社に対する預託金返還請求権 ×」と記載されている。)。
E 旧会員が、まる2(更生会社(本件運営会社)の債権者として留まる)を選択した場合、平成21年10月31日までは、暫定的に旧会員権に基づきプレーすることが可能だが、同年11月1日以降は、旧会員権に基づくプレーはできなくなり、更生計画に基づき権利変更等をすることになるが、旧会員権に基づく預託金返還請求権に対する配当が実施される可能性は極めて低い。
ロ 請求人の本件ゴルフ場に係る会員権
(イ) 請求人は、平成3年3月頃、本件運営会社より、旧会員権を購入し、預託金として○○○○円を支払い、本件ゴルフ場の個人会員となり、まる1ゴルフ場施設の優先的施設利用権、まる2預託金返還請求権及びまる3年会費納入等の義務からなる契約上の地位を有することになった。
(ロ) 請求人と本件運営会社は、平成12年頃、上記(イ)の旧会員権(預託金額面額○○○○円)を、合計16口(預託金額面額は、○○○○円のもの1口と、○○○○円のもの15口。)に分割することを合意した。
(ハ) 請求人は、平成21年8月頃、本件会員通知書、本件申込書及び本件スキーム図の各書面の交付を受け、本件申込書において、本件会員権管理会社に対して、上記(ロ)の分割後の旧会員権のうち12口(預託金額面額は、○○○○円のもの1口と、○○○○円のもの11口。以下「本件会員権」という。)を対象として、本件申込書の「スキーム図所定の方法により、旧会員権を譲渡して、新会員権を譲り受ける」と記載された欄に丸印を書き、これを返送した。なお、当該欄の「契約内容」には、本件会員権管理会社との契約内容の詳細については本件スキーム図を参照下さい、という旨の記載がある。
 なお、上記(ロ)の分割後の旧会員権のうち4口については、請求人が第三者に譲るなどしていたため、本件の譲渡の対象とはされていない。
(ニ) 請求人は、本件会員権管理会社より、新会員権に係る平成21年11月1日付の「会員資格保証書」12枚の発行を受けた。なお、当該書面は、会員名として請求人の氏名、会員番号として○○○○から○○○○の各番号、会員種別として正会員という各記載がされるとともに、会員名欄に記載された者が本件会員権管理会社の発行する会員権の保有者であることを証明する旨及び会員の証として当該書面記載の条件で預託金○○○○円を預かった旨が記載されたものである。
ハ 請求人の所得税の確定申告
(イ) 請求人は、平成22年3月10日、平成21年分の所得税の確定申告において、本件会員権の譲渡価額が合計額○○○○円、購入価額が合計額○○○○円であるとして、譲渡所得の金額の計算上、合計額○○○○円の損失の金額が生じた旨記載して、原処分庁に対し、青色申告書を提出した。
(ロ) 請求人は、平成23年3月14日、平成22年分の所得税の確定申告において、上記(イ)により平成21年分に生じた純損失の金額を繰越控除することを前提に、原処分庁に対し、青色申告書を提出した。

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2 主張

原処分庁 請求人
1 預託金会員制のゴルフ会員権は、ゴルフクラブの会員となる者が、ゴルフ場経営法人に保証金又は入会金を預託し、かつ、当該ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生じるまる1優先的施設利用権、まる2据置期間経過退会時の入会保証金や預託金の返還請求権及びまる3年会費納入義務という債権債務からなる契約上の地位を総称したものであると解されている。
 したがって、預託金会員制のゴルフ会員権の譲渡は、ゴルフ場施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できるという事実上の権利、すなわち経済的価値の生じた契約上の権利の譲渡であり、当該権利は譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当するため、当該会員権の譲渡による所得は譲渡所得の対象となる。
 一方、ゴルフ会員権の資格喪失などにより、優先的施設利用権が消滅した後のゴルフ会員権は、ゴルフ場運営会社に対する預託金返還請求権のみを内容とする金銭債権にすぎないことから、譲渡所得の基因となる資産には当たらない。
1 本件会員権については、譲渡時に、優先的施設利用権及び預託金返還請求権が存在しており、譲渡所得の基因となる資産に該当する。
2 本件会員権については、平成21年6月30日の本件事業譲渡により、本件運営会社は本件ゴルフ場事業を構成する全資産を有しないことになり、本件ゴルフ場の運営主体でなくなったことから、旧会員が本件運営会社に対して有していた優先的施設利用権は、事業譲渡により、平成21年6月30日、消滅したものと認められ、旧会員に対しては、同年10月31日までの間、本件運営会社に対する優先的施設利用権とは別の権利である暫定的プレー権が付与されたものと認められる。
 したがって、平成21年11月1日の本件会員権の譲渡時には、本件運営会社に対する優先的施設利用権は存在しない。
 また、暫定的プレー権も、平成21年10月31日まで付与されたものであることから、同年11月1日の本件会員権の譲渡時には存在しない。
 そうすると、譲渡時においては、本件会員権は、単に本件会員権に係る預託金の返還請求権という金銭債権のみを内容とするものであり、譲渡所得の基因となるゴルフ会員権には該当しないものとなる。
2 原処分庁は、譲渡時に、優先的施設利用権が存在しないと主張するが、本件スポンサー会社により、事業譲渡(平成21年6月30日)以降も旧会員権の譲渡手続が終了する平成21年11月1日まで、暫定的プレー権を付与するという形で優先的施設利用権が存在しており、請求人は、当該優先的施設利用権が存在したままの本件会員権を譲渡したのであるから、原処分庁の主張は失当である。
 なお、請求人は、平成21年8月10日付の通知によって、初めて事業譲渡により本件ゴルフ場事業を構成する全資産が譲渡されたことを知ったのであり、このことからしても、事業譲渡の前後を問わず、旧会員として、何ら変わらず優先的施設利用権を有していたものである。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法第33条第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定しており、ここでいう「資産の譲渡による所得」に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものと解される。
 このような趣旨からすれば、同項にいう「資産」とは、一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、資産の増加益の発生が見込まれるような全ての資産を含むと解され、また、過去に取得した資産について、「資産の譲渡」があったというためには、当該資産の取得時点と譲渡時点で資産の同質性が維持されている必要があると解される。
ロ そして、一般に、預託金会員制ゴルフクラブの会員権は、会員のゴルフ場運営会社に対する契約上の地位であり、会員権を構成する権利義務の内容は、まる1ゴルフ場施設の優先的施設利用権、まる2預託金返還請求権及びまる3年会費支払義務であるとされ、会員は、これらの権利義務関係を一体のものとして、一定の手続に従い自由に第三者に譲渡することができ、これらの権利義務関係から離脱するとともに、投下資本を回収することができるとされているから、このような性質を有する預託金会員制ゴルフクラブ会員権の第三者への譲渡は、所得税法第33条第1項にいう「資産の譲渡」に該当すると解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件スポンサー契約における旧会員の処遇等
 平成21年1月30日付の本件スポンサー契約においては、本件事業譲渡の実行に伴い本件運営会社から本件スポンサー会社の指定する受け皿会社に移転する資産は所定の除外資産を除く本件運営会社の全ての資産とすること、本件スポンサー会社は、旧会員のうち希望者に対して、本件運営会社に対する預託金債権及びプレー権と引換えに、原則として従前と同一内容のプレー権が認められる新会員権を付与すること、本件スポンサー会社は、新会員権の付与を希望する旧会員に対して新会員権を付与するのと引換えに、当該会員が有する本件運営会社に対する預託金債権及びプレー権を取得し、取得した預託金債権及びプレー権について更生手続その他いかなる手続においても、いかなる弁済もされないことを了解することなどが約定された。
ロ 本件事業譲渡について
 本件事業譲渡は、L地方裁判所の許可を得た上で平成21年6月30日に更生計画外で実行されたが、本件事業譲受会社は、本件ゴルフ場における本件ゴルフ場事業の全てを本件運営会社から譲り受け、同年7月1日以降、本件新ゴルフ場の運営を行っている。
ハ 本件更生管財人と本件スポンサー会社との間で締結された覚書について
 本件スポンサー契約に基づく会員の処遇に関連して平成21年6月30日付で本件更生管財人と本件スポンサー会社との間で締結された覚書(以下「本件覚書」という。)には、本件スポンサー会社は、旧会員のうち希望者に対し、当該会員が有する本件運営会社に対する預託金債権及びプレー権(旧会員権)と引換えに、別途新設する会員管理会社(本件会員権管理会社)をして預託金を○○○○円とする新会員権を付与させる旨、本件スポンサー会社は、本件会員権管理会社に当該旧会員が有する本件運営会社に対する旧会員権を○○○○円で譲り受けさせるとともに、それと引換えに、上記希望者に対して新会員権を付与させる旨、本件スポンサー会社は、会員管理会社をして、上記旧会員権の譲渡代金○○○○円を新会員権の預託金○○○○円に充当させる旨、本件スポンサー会社は、やむを得ない事情により上記の手続が平成21年6月30日までに終了しなかったことを受け、同日から新会員権の付与手続が完了するまでの間、旧会員に対し、本件新ゴルフ場のプレー権を暫定的に付与することにより、その間、本件新ゴルフ場におけるプレー権が維持されることを了解する旨、本件スポンサー会社は、新会員権の付与と引換えに取得した本件運営会社に対する預託金債権について、更生手続その他いかなる手続においても、いかなる弁済もされないことを了解する旨などが約定されている。

(3) 判断

イ 上記(1)のイの法令解釈に照らせば、預託金会員制ゴルフ会員権の譲渡が所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に当たるというためには、取得の時点における預託金会員制ゴルフ会員権としての性質、すなわち、まる1ゴルフ場施設優先的利用権、まる2預託金返還請求権及びまる3年会費支払義務から成る契約上の地位としての性質が、譲渡の時点においても維持されている必要があるといえる。
ロ この点、原処分庁は、本件会員権については、平成21年6月30日の本件事業譲渡により、本件運営会社は本件ゴルフ場事業を構成する全資産を有しないことになり、本件ゴルフ場の運営主体でなくなったことから、旧会員が本件運営会社に対して有していた優先的施設利用権は、平成21年6月30日に消滅しており、「暫定的プレー権」は、これとは別の権利である旨主張する。
 そこで検討するに、確かに、上記(2)によれば、原処分庁が主張するとおり、平成21年6月30日の本件事業譲渡により、本件運営会社は本件ゴルフ場事業を構成する全資産を有しないことになり、本件ゴルフ場の運営主体でなくなったものと認められる。
 しかしながら、上記(2)のイのとおり、本件スポンサー契約において、旧会員のうち希望者に対して、本件運営会社に対する預託金債権及びプレー権と引換えに、原則として同一内容のプレー権が認められる新会員権を付与すること、本件スポンサー会社は、新会員権の付与を希望する旧会員に対して新会員権を付与するのと引換えに、当該会員が有する本件運営会社に対する預託金債権及びプレー権を取得し、取得した預託金債権及びプレー権について更生手続その他いかなる手続においてもいかなる弁済もされないことを了解することなどが約定されている。また、上記(2)のハのとおり、本件スポンサー契約に基づく会員の処遇に関連して本件事業譲渡の実行日に本件更生管財人と本件スポンサー会社との間で締結された本件覚書において、本件スポンサー会社は、旧会員のうち希望者に対し、当該会員が有する本件運営会社に対する預託金債権及びプレー権(旧会員権)と引換えに、別途新設する会員管理会社(本件会員権管理会社)をして預託金を○○○○円とする新会員権を付与させる旨、本件スポンサー会社は、会員管理会社に当該旧会員が有する本件運営会社に対する旧会員権を○○○○円で譲り受けさせるとともに、それと引換えに、上記希望者に対して新会員権を付与させる旨、本件スポンサー会社は、会員管理会社をして、上記旧会員権の譲渡代金○○○○円を新会員権の預託金○○○○円に充当させる旨、本件スポンサー会社は、やむを得ない事情により上記の手続が平成21年6月30日までに終了しなかったことを受け、同日から新会員権の付与手続が完了するまでの間、旧会員に対し、本件新ゴルフ場のプレー権を暫定的に付与することにより、その間、本件新ゴルフ場におけるプレー権が維持されることを了解する旨、本件スポンサー会社は、新会員権の付与と引換えに取得した本件運営会社に対する預託金債権について、更生手続その他いかなる手続においても、いかなる弁済もされないことを了解する旨などが約定されている。そして、本件スポンサー契約及び本件覚書に基づく通知として本件スポンサー会社が本件更生管財人と連名で旧会員に対して交付した本件会員通知書には、上記1の(4)のイの(ニ)のとおり、本件事業譲渡を行ったことにより、旧会員権に基づくプレー権は本来消滅することになるが、平成21年10月31日までの間、旧会員は、暫定的に旧会員権に基づくプレー権が維持され、同日までに本件新ゴルフ場に来場した場合は、会員料金でプレーすることが可能である旨、旧会員が旧会員権譲渡・新会員権譲受を選択した場合、平成21年11月1日に、平成21年度年会費を所定の方法で支払うことを条件に、旧会員権を本件会員権管理会社に1口当たり○○○○円で譲渡し、これと引換えに、本件会員権管理会社が発行する○○○○円の預託金返還請求権と本件新ゴルフ場のプレー権を有する新会員権を譲り受ける旨、及び旧会員が本件運営会社の債権者として留まることを選択した場合、平成21年10月31日までは暫定的に旧会員権に基づきプレーすることが可能であるが、同年11月1日以降は、旧会員権に基づくプレーはできなくなり、更生計画に基づき権利変更等をすることになるが、旧会員権に基づく預託金返還請求権に対する配当が実施される可能性は極めて低い旨などが記載されている。
 上記のとおり、本件事業譲渡に先立って締結された本件スポンサー契約においては、新会員権の付与を希望する旧会員の旧会員権の処理について、本件スポンサー会社は新会員権を付与するのと引換えに「更生会社に対する預託金債権及びプレー権」を取得する旨及び本件スポンサー会社は新会員権の付与と引換えに取得した「預託金債権及びプレー権について、本更生手続その他いかなる手続においても、いかなる弁済もなされないことを了解」する旨記載されており、金銭債権としての預託金返還請求権ではなくこれと優先的施設利用権を併せた契約上の地位としてのゴルフ会員権(旧会員権)そのものが本件スポンサー会社に対する譲渡の対象とされていることが明らかである。また、本件事業譲渡の実行日に締結された覚書においても、「承継希望会員が有する更生会社に対する預託金債権及びプレー権(合わせて以下、「現会員権」という。)と引換えに、別途新設する会員管理会社」をして新会員権を付与させる旨記載されるなど、預託金返還請求権と優先的施設利用権を併せた契約上の地位としてのゴルフ会員権(旧会員権)そのものを新会員権の取得を希望する旧会員が本件会員権管理会社に対して譲渡する枠組みが規定されている。これらに加えて、本件覚書において、「本件スポンサー会社は、やむを得ない事情により、前4項に定める手続がクロージング日(本件事業譲渡の実行日)までに終了しなかったことを受け、クロージング日から前4項に基づく新会員権の付与手続が完了するまでの間、現会員権を有する現会員に対し、本件ゴルフ場のプレー権を暫定的に付与することにより、その間、本件ゴルフ場におけるプレー権が維持されることを了解する。」旨記載されていること及び上記認定の本件会員通知書の記載内容等を併せ考えると、本件事業譲渡においては、譲渡人である本件運営会社と旧会員との間の旧会員権に係る権利義務関係の処理について、旧会員のうち本件事業譲渡後も引き続き本件新ゴルフ場に係る会員権の保有を希望する者に対しては、本件運営会社に対する契約上の地位である旧会員権そのものを1口○○○○円で新設される本件会員権管理会社に取得させることと引換えに、本件会員権管理会社をして預託金を同額の○○○○円とする新会員権を付与させ、本件会員権管理会社が取得した旧会員権に係る預託金返還請求権については本件運営会社に係る更生手続等においていかなる弁済も受けないことで処理するものとし、新会員権の取得を希望しない旧会員については、その預託金返還請求権を更生計画に従って処理するものとされたが、旧会員権の取得及び新会員権の付与に係る手続を本件事業譲渡の実行日までに終了させることができなかったことから、本件運営会社(本件更生管財人)と本件スポンサー会社との間において、当該手続が完了するまでの間、新会員権の取得を希望しない者も含めて旧会員が本件新ゴルフ場を利用することができるよう、本件スポンサー会社が旧会員の優先的施設利用を承認することを取り決めたものと認めるのが相当である。
 そうであるとすれば、本件事業譲渡において、新会員権の取得を希望する旧会員から本件会員権管理会社に対する譲渡の対象とされたのは、預託金返還請求権及び優先的施設利用権から成る契約上の地位としての旧会員権そのものであって、本件覚書における「本件ゴルフ場のプレー権を暫定的に付与する」旨並びに本件会員通知書における「旧会員権に基づくプレー権は本来消滅することになりますが、平成21年10月31日までの間、会員の皆様は、暫定的に旧会員権に基づくプレー権が維持されます」との記載及び「平成21年10月31日までは暫定的に旧会員権に基づき新クラブでプレーをしていただくことが可能ですが、同年11月1日以降は、旧会員権に基づくプレーはできなくなります」旨の記載等は、旧会員の本件運営会社に対する優先的施設利用権に基づく本件新ゴルフ場の利用を本件事業譲渡後平成21年10月31日までの間、本件スポンサー会社ないし本件事業譲受会社において承認するという趣旨のことを表現したものと解するのが相当であり、本件スポンサー会社ないし本件事業譲受会社が、新会員権の取得を希望しない旧会員を含めて全ての旧会員に対し、旧会員権の一内容としての優先的施設利用権と別個の「暫定的プレー権」を創設的に付与したものと解するのは、本件会員通知書における「旧会員権に基づくプレー権」という文言に照らしても、無理があるというべきである。したがって、原処分庁の主張は採用することができない。
ハ また、原処分庁は、暫定的プレー権は平成21年10月31日まで付与されたものであり、平成21年11月1日の本件会員権の譲渡時には存在しない旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件覚書及び本件会員通知書等における暫定的プレー権の付与という表現は、本件スポンサー会社ないし本件事業譲受会社において旧会員の本件運営会社に対する旧会員権の一内容としての優先的施設利用権に基づく本件新ゴルフ場の利用を本件事業譲渡後平成21年10月31日までの間本件スポンサー会社ないし本件事業譲受会社において承認するという趣旨を表現したものであって、旧会員が平成21年11月1日以降旧会員権に基づく本件新ゴルフ場の利用ができなくなるのは、同日以降、本件運営会社に対する契約上の地位である旧会員権に基づく優先的施設利用権を第三者である本件事業譲受会社に対抗することができないことの結果にすぎないところ、上記ロのとおり、本件事業譲渡においては、新会員権の取得を希望する旧会員の旧会員権については、契約上の地位である旧会員権そのものを本件会員権管理会社に取得させることと引換えに、当該旧会員に本件会員権管理会社が発行する新会員権を付与する枠組みが規定されたのであり、別紙2のとおり、本件スキーム図においても、具体的手続として、「プレー権の継続を希望する会員は、所定の手続に従って、旧会員権(預託金返還請求権+プレー権)を会員管理会社に○○○○円で譲渡する」旨記載され、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、本件申込書において「スキーム図所定の方法により、旧会員権を譲渡して、新会員権を譲り受ける」旨記載されているところからすれば、新会員権の取得を希望する旧会員の旧会員権について、上記枠組みに従った契約上の地位としての旧会員権の本件会員権管理会社に対する譲渡という処理が行われたものと認められるのであって、これらからすれば、旧会員権の譲渡時において優先的施設利用権の存在が前提とされていたものといわざるを得ない。したがって、原処分庁の主張は、採用することができない。
 そして、上記1の(4)のロの(ハ)及び(ニ)のとおり、請求人は、「スキーム図所定の方法により、旧会員権を譲渡して、新会員権を譲り受ける」旨記載した本件申込書を本件会員権管理会社に送付し、本件会員権管理会社から新会員権の発行を受けているのであるから、請求人は、平成21年11月1日に、優先的施設利用権をも含めた本件運営会社に対する契約上の地位としての旧会員権(本件会員権)を本件会員権管理会社に譲渡したものと認められる。
ニ 以上のとおり、請求人は、平成21年11月1日に、本件運営会社に対する優先的施設利用権を含む契約上の地位としての本件会員権を本件会員権管理会社に譲渡したものと認められ、本件会員権の一内容である本件運営会社に対する預託金返還請求権のみを譲渡したものと認めることはできないから、請求人は、本件会員権管理会社に対し、取得時と同質性が維持された本件会員権という「資産の譲渡」をしたものと認められる。

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4 平成21年分及び平成22年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分について

 以上の結果、請求人の平成21年分及び平成22年分の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表の「確定申告」欄の総所得金額及び納付すべき税額と同額になることからすれば、原処分庁が、請求人がした本件会員権の譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当しないとしてした原処分(平成21年分及び平成22年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分)は違法であり、その全部を取り消すべきである。

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