(平成24年8月16日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人V、同C、同D、同E及び同F(以下、順に「請求人V」、「請求人C」、「請求人D」、「請求人E」及び「請求人F」といい、これら5名を併せて「請求人ら」という。)が、遺贈により取得した土地の価額について、遺言公正証書に基づいて遺言執行者が売却した価額を基礎として相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該土地の価額は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価基本通達」という。)に基づいて評価した価額によることが相当であるとして、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人らがその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成21年1月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したG(以下「本件被相続人」という。)を被相続人とする相続税(以下「本件相続税」という。)について、課税価格及び納付すべき税額を別表の「期限内申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を、法定申告期限までに原処分庁に提出して、相続税の申告をした。
ロ 原処分庁は、平成23年6月1日、請求人らに対して、本件相続税の課税価格、納付すべき税額及び過少申告加算税の額を別表の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人らは、平成23年7月31日、上記ロの各処分を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月28日にした異議決定において、請求人らに対する各更正処分の一部をそれぞれ取り消す(以下、当該各取消し後の各更正処分を「本件各更正処分」という。)とともに、請求人V、請求人C、請求人D及び請求人Eに対する過少申告加算税の各賦課決定処分の一部を取り消した。
ニ 請求人らは、平成23年11月21日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をするとともに、請求人Vを総代として選任し、その旨を届け出た。

(3) 関係法令の要旨

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ロ 地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》第1項は、土地鑑定委員会は、公示区域内の標準地について、毎年1回、2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って、一定の基準日(地価公示法施行規則第2条《標準地の価格判定の基準日》により1月1日)における当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、これを公示するものとする旨規定し、地価公示法第2条第2項は、上記「正常な価格」について、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格をいう旨規定している。なお、同法第8条《不動産鑑定士の土地についての鑑定評価の準則》は、官報で公示された標準地の価格を「公示価格」という旨規定している。
ハ 地価公示法第3条《標準地の選定》は、上記ロの標準地について、土地鑑定委員会が、国土交通省令で定めるところにより、自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域において、土地の利用状況、環境等が通常と認められる一団の土地について選定するものとする旨規定し、地価公示法施行規則第3条《標準地の選定》は、地価公示法第3条の規定による標準地の選定は、土地の用途が同質と認められるまとまりのある地域において、土地の利用状況、環境、地積、形状等が当該地域において通常であると認められる一団の土地について行うものとする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人らと原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人の共同相続人は、本件被相続人の長男である請求人V、同長女である請求人C、同二男である請求人D及び同養子であり請求人Dの妻である請求人Eの4名である。
ロ 請求人Fは、請求人Vの妻である。
ハ 本件被相続人は、a県d市e町○−○所在の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。
ニ 本件被相続人は、同人を遺言者とする平成20年10月○日作成の遺言公正証書(以下「本件遺言書」という。)により、要旨次の(イ)及び(ロ)の内容の遺言をした。
(イ) 本件被相続人は、H信託銀行(平成○年○月○日の合併の後はJ信託銀行。以下「本件遺言執行者」という。)を遺言執行者に指定する。
(ロ) 本件被相続人は、本件遺言執行者をして、本件土地を含む不動産、現金・預貯金債権、信託受益権及び有価証券の一切について換価処分させ、その換価代金から換価に要する実費等を控除した残額から、請求人Fに対し金300万円を遺贈し、その残余の金額を、請求人V及び請求人Cに対し各3分の1、請求人D及び請求人Eに対し各6分の1の割合で遺贈する。
ホ 本件遺言執行者及びK社は、平成21年3月7日付で、本件遺言執行者を売主、K社を買主として、本件土地及びその上に存する建物を代金65,000,000円(以下「本件換価価額」という。)で売買(以下「本件売買」という。)する旨の不動産売買契約を締結した。
ヘ 本件土地については、平成21年3月3日受付で、本件被相続人から請求人V、請求人C、請求人D及び請求人Eへの相続を原因とする所有権移転登記を経由し、次いで、平成21年3月27日受付で、K社への同日売買を原因とする所有権移転登記を経由した後、同年4月28日に、まる1a県d市e町○−○(地積109.59平方メートル)、まる2同所同番○(同109.78平方メートル)及びまる3同所同番○(同109.80平方メートル)にそれぞれ分筆され、その後、上記まる1の土地は、同年5月29日売買を原因として同日L及びMへ、上記まる2の土地は、同月28日売買を原因として同日Nへ、上記まる3の土地は、同月29日売買を原因として同日Pへ、それぞれ所有権移転登記を経由した。
 なお、上記ホの建物については、平成21年4月16日取壊しを原因として、同年5月1日に登記が閉鎖された。
ト 請求人らは、上記(2)のイの本件相続税の期限内申告において、本件換価価額に租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項第2号(200平方メートル部分の課税価格に算入する割合100分の50)の規定を適用した後の金額45,336,994円を本件土地の価額として課税価格に算入した。
 なお、上記ホの建物については、本件換価価額とは別に、固定資産税評価額1,063,800円に1.0倍を乗じた金額が、上記期限内申告における課税価格に算入されている(本件各更正処分においても同じ。)。
チ 原処分庁は、上記(2)のロの更正処分において、本件土地の地積330.57平方メートル(本件相続開始日において登記簿に記録されていた地積)に、Q国税局長が平成21年分財産評価基準書において定めた本件土地に接する路線の路線価310,000円を乗じた後の金額102,476,700円に措置法第69条の4第1項第2号の規定を適用した後の金額71,476,700円を本件土地の価額として課税価格に算入した。
リ 請求人らは、上記(2)のハの異議申立てに際して、原処分庁に対し、要旨、別紙2のとおり、本件土地を対象不動産として鑑定評価額を65,000,000円とする不動産鑑定士R作成の平成23年7月26日付不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)を提出し、本件土地の価額の基礎を65,000,000円とした上記(2)のイの期限内申告が妥当である旨を主張した。
ヌ 異議審理庁は、上記(2)のハの異議決定において、本件土地の地積が329.17平方メートル(実測地積)であるとして、Q国税局長が平成21年分財産評価基準書において定めた本件土地に接する路線の路線価310,000円を乗じた後の金額102,042,700円に措置法第69条の4第1項第2号の規定を適用した後の金額71,042,700円を本件土地の価額として課税価格に算入した結果、上記(2)のロの更正処分の一部を取り消した。

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2 争点

 本件土地の評価に当たり、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるか。

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3 主張

(1) 原処分庁

 本件土地については、以下のとおり、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はない。
イ 相続税法第22条に規定する時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であるから、客観的な交換価値を示す価額、すなわち、買い進みや売り急ぎがなかったものとした場合における価額である。
 しかるに、本件売買の経緯をみると、まる1本件換価価額はK社の希望するとおりの価額であったこと、まる2本件売買は、売主である本件遺言執行者は瑕疵担保責任を負わず、建物の解体費用及び敷地内の撤去費用などは買主であるK社が負担することとされたものであったこと、及びまる3本件遺言執行者は本件相続税の申告期限を考慮して、本件土地を10月以内に売却する必要があると考え、実際には本件相続開始日から2月以内に売却したことが認められ、当該各事実は、本件土地の売却に際して売り急ぎがあったことを示すものである。
 したがって、本件換価価額は、相続税法第22条に規定する時価であるとは認められない。
ロ 本件鑑定書は、次のとおり合理的なものとは認められないため、本件換価価額が相続税法第22条に規定する時価であると認めるべき根拠とはならない。
(イ) 本件土地は敷地規模が小さく投下資本収益率の査定等の精度に問題があるため、開発法が適用可能な場合とまではいえない。
(ロ) 開発法による価格の試算に当たり、事業期間を12月と想定しているところ、本件土地は、実際には本件相続開始日から2月以内に本件遺言執行者からK社へ売却され、K社も約2月でエンドユーザーへ売却しており、想定した事業期間と大きく乖離している。
(ハ) 本件土地が、a県d市e町○−○に所在する地積330平方メートルの公示地(d―○、以下「本件公示地」という。)と同一路線に接し、ほぼ同一地積であるにも関わらず、比準価格及び収益価格を比較考量するにとどめて開発法による価格を重視しており、公示価格を規準しているとはいえず、不動産鑑定評価基準に照らして合理的なものとは認められない。
ハ 本件公示地の公示価格及び基準地価格並びに近隣における取引事例を基に比較して求めた本件土地の実勢価格は、118,391,586円であると認められる。

(2) 請求人ら

 本件土地については、以下のとおり、本件換価価額が本件土地の客観的な交換価値を示す価額と認められるから、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情がある。
イ 本件土地については、まる1本件遺言書において換価による分割方法の指定があり、かつ、本件遺言執行者が指定されている。民法上、遺産の換価分割の指定がある場合は、その遺言執行者が自己の責任によって当該遺産を売却しその売却代金を分割することとなっており、相続人は売却に参加できず、遺言執行者の処理に従うことしかできない。
 また、本件土地は、まる2d市で定めている開発指導要綱の適用を受ける地積300平方メートル以上の土地であり、最有効使用が区画分譲地であるから、購入者が不動産業者に限定されることとなる(実際に不動産業者が購入し3区画にして分譲している。)ため、有効需要が限定され、この場合、不動産業者が希望する購入価額は、分譲するまでの開発リスク、造成費用などの開発コスト、運転費用及び開発利益を控除した後のものとなる。
 本件換価価額は上記のような特別な事情のある土地としての実情に合ったところで決定されたものであるから、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、相続税法第22条に規定する時価というべきものである。
 なお、上記まる1のとおり、本件においては、本件土地を売り急ぎにより安く売却したと認定されるべき事実は存在しない。また、上記まる2のとおり、本件土地の最適な買主は不動産業者が中心となるものであるから、エンドユーザーが取得する際の価額ではなく、不動産業者が仕入れ値とする価額が本件土地の時価となり、エンドユーザーの取得価額と不動産業者の取得価額との間に開差があることをもって売り急ぎと認定できる根拠とはならない。
ロ 本件換価価額が相続税法第22条にいう時価であることは、本件鑑定書によっても明らかであり、本件鑑定書は以下のとおり合理的なものである。
(イ) 不動産鑑定評価基準は、開発法の適用について、必ずしも大規模な土地のみに適用するものではなく、小規模な土地であっても最有効使用が区画分譲地となる場合は、適用を検討することができるとしている。本件土地は、大規模な土地ではないが、地積が約330平方メートルであることから最有効使用が区画分譲地とすることであり、買主が不動産業者に限定されるため、開発法を適用することが相当である。
(ロ) 開発法の事業期間とは、不動産業者が土地を取得し、区画分譲し、販売完了するまでの期間をいうものであり、その土地のみを販売する期間をいうものではないから、本件相続開始日から本件遺言執行者が本件土地を不動産業者であるK社に売却した日までの期間が2月以内であり、K社が本件土地を取得後分筆し約2月で売却したとしても、当該事実は本件鑑定書が合理性を欠く理由とはならない。
(ハ) 本件公示地は330平方メートルであり、開発行為の対象となる土地であって、その地域の標準的規模の土地とはいえないことから、その公示価格を規準とした価格には規範性に問題があるため、当該規準をしなかったことには合理性がある。

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4 判断

(1) 法令解釈等

 相続税法22条にいう「時価」とは、当該財産の取得の時において、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。
 ところで、全ての財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもある。そこで、課税実務上は、相続税法に特別の定めのあるものを除き、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、算定される評価額が時価を上回るなど評価基本通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるというような特別の事情がある場合を除き、評価基本通達に定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされ、当審判所も、上記特別の事情がない限り、当該財産の価額は、税負担の公平、効率的な租税行政の実現等の観点からみて評価基本通達によることが相当であると解する。

(2) 認定事実

 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地及び本件公示地の状況等
 本件相続開始日現在における本件土地及び本件公示地の状況等は、次表のとおりである。

対象
項目
本件土地 本件公示地
地積 329.17平方メートル 330.57平方メートル
地勢 平坦 平坦
形状 ほぼ正方形
間口約18メートル・奥行約18メートル
ほぼ正方形
間口約18メートル・奥行約18メートル
用途区域等 第一種低層住居専用地域
建ぺい率50%・容積率100%
第一種低層住居専用地域
建ぺい率50%・容積率100%
接道状況  南西側で幅員は約5メートルのd市一般市道f号線に接面  南西側で幅員は約5メートルのd市一般市道f号線に接面
(本件公示地は本件土地の同一路線上の南方約50メートルに位置する。)
公示価格
(1平方メートル当たり)
  平成20年1月1日424,000円
平成21年1月1日382,000円
平成22年1月1日362,000円
正面路線価 310,000円(平成21年分) 310,000円(平成21年分)
備考  本件土地及び本件公示地を含む上記区道に接する17区画の利用状況は戸建住宅で、その敷地の地積は、うち12区画が250平方メートル以上、更にそのうち9区画が300平方メートル以上である。

ロ 本件売買に至る経緯
(イ) 平成21年2月初旬、本件売買を媒介したS社(平成24年4月○日の合併の後はT社。以下「本件仲介業者」という。)は、本件遺言書に基づく本件土地の換価について、本件土地の地積が約100坪と大きいため不動産業者以外の者への販売は難しいと判断し、不動産業者数社に対してのみ売込みをした。
 なお、上記の売込みでは、本件仲介業者において不動産業者向けで通常する業務と同様に、希望する売買価格が提示されなかった。
(ロ) 平成21年2月下旬、上記(イ)の売込みを受けたK社は、本件土地を65,000,000円で買付ける旨を本件仲介業者に申し入れた。
(ハ) 請求人らは、インターネットで本件土地の時価を調べ、だいたい坪100万円ぐらいであるとの認識はあったが、平成21年3月上旬頃に、本件遺言執行者から、上記(ロ)に至る経緯、売買金額、売買条件等のほか、面積が大き過ぎて売れないなどとの説明を受けて上記(ロ)の申し入れを了承し、その後、同月7日、本件売買が成立した。
ハ 本件鑑定書の各補正等の理由
 本件鑑定書を作成した不動産鑑定士の答述によれば、本件鑑定書の各補正等の理由は、次のとおりである。
(イ) 本件鑑定書において、取引事例比較法における個別格差(別紙2の3の(4))のうち、画地条件の形状について12%の減価をしたのは、本件土地を戸建用地として分割した場合に、隣地の建物との間に、a県建築安全条例第19条《共同住宅等の居室》第1項第2号のロに定める窓先空地が必要になることを考慮したものであり、同個別格差のその他の条件(市場性減価)として15%の減価をしたのは、リーマンショックの影響で市場性が減退していることを考慮したものである。
(ロ) 本件鑑定書において、更地分譲を想定した場合の開発法における事業期間12月(別紙2の5の(4))は、一般的な事業期間が6月であるところ、リーマンショックの影響を加味して長めに想定したものである。
(ハ) 鑑定評価額65,000,000円の決定に当たっては、リーマンショック直後という経済状況を加味して、開発法による価格68,700,000円を下方修正した。

(3) 当てはめ

イ 本件換価価額について
 請求人らは、本件土地については、本件遺言書において換価による分割方法の指定があり、本件遺言執行者が指定されていることから、請求人らは売却に参加できないという特別な事情があり、また、本件換価価額は、本件土地がd市で定めている開発指導要綱の適用を受ける地積300平方メートル以上の土地であり、最有効使用が区画分譲地であって、購入者が不動産業者に限定されるという実情に合ったところで決定されたものであるから、相続税法第22条に規定する時価である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のロのとおり、本件売買は、まる1本件仲介業者の判断により購入者が不動産業者に限定され、まる2K社の申入れ価額のまま契約が成立したものであるところ、上記(1)のとおり、相続税法第22条に規定する時価とは、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」(客観的交換価値)を示すものであるから、「特定の者の間で限定的に行われた取引」における価額は、客観的交換価値としての前提を欠くものである。
 また、相続税法第22条は、相続又は遺贈により取得した財産の「取得の時」における時価を相続税の課税価格に算入されるべき価額とする旨を規定するものであるから、本件相続開始日の後にされた本件遺言書に基づく換価による分割や本件遺言執行者の指定のあることが、本件土地の価額を減ずる要因となったり、本件の「特定の者の間で限定的に行われた取引」が「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合」に該当する根拠となるものでもない。
 そして、上記(2)のイのとおり、本件土地の南方約50メートルと極めて近い同一路線上には、自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域にあって、土地の利用状況、環境、地積、形状等が全く同一と言い得る本件公示地が、利用状況、環境等が通常と認められるものとして選定されていることや、同一路線に接する17区画の利用状況が戸建住宅で、その敷地の地積は、うち12区画が250平方メートル以上、更にそのうち9区画が300平方メートル以上である事実からして、本件土地は、本件土地の存する地域において標準的な区画であると認められるものであるから、購入者を不動産業者とする選択があったとしても、請求人の主張するように、本件土地の取引が上記選択のみに限定されるものとまでは認められない。
 したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
ロ 本件鑑定書について
 請求人らは、本件換価価額が相続税法第22条にいう時価であることは、本件鑑定書によっても明らかである旨主張する。
 しかしながら、本件鑑定書は、以下のとおり鑑定評価額の算定過程に不合理な点が認められるから、本件換価価額が相続税法第22条にいう時価であることを明らかにしたものとは認められない。
(イ) 取引事例比較法について
A 本件鑑定書では、本件土地の属する近隣地域を、本件土地を基点に東方約10メートル、西方約30メートル、南方約40メートル、北方約10メートルの範囲としたところで、標準的画地を、間口10メートル、奥行15メートル、面積150平方メートル程度の長方形の中間画地と想定しているが、当審判所の調査の結果によれば、当該近隣地域に属する土地の地積は約260平方メートルないし約462平方メートルであることから、上記想定には合理性が認められない。
B 本件鑑定書では、個別格差(別紙2の3の(4))のうち、画地条件の形状について12%の減価をしているが、本件土地はほぼ正方形の土地であることから、当該補正を行う必要性が認められない。また、a県建築安全条例第19条第1項第2号のロは、共同住宅等の居室についての規定である上、仮に、建築計画について制限を考慮するとしても、いずれも同様に当該制限が適用されるものと思料されるd市内の取引事例に基づいて査定された標準的画地と本件土地の間に補正すべき個別格差があるとは認められない。
(ロ) 鑑定評価額の決定について
 本件鑑定書では、上記(2)のハの(イ)及び(ロ)のとおり、リーマンショックの影響について取引事例比較法における市場性減価の率及び開発法における事業期間の査定で考慮されているところ、上記(2)のハの(ハ)のとおり、鑑定評価額の決定においてもリーマンショック直後という経済状況を加味して開発法による価格68,700,000円を下方修正しているが、このように重ねてリーマンショックの影響について下方修正を行うべき理由が認められない。
ハ 特別の事情の存否について
 異議審理庁が評価基本通達に基づいて算出した本件土地の価額102,042,700円(上記1の(4)のヌ)は、当審判所の調査・審理の結果においても相当であると認められ、上記価額は、当審判所が、不動産鑑定評価基準及び土地価格比準表に従い、本件公示地の公示価格に基づいて別紙3のとおり算出した本件土地の本件相続開始日の時価125,491,454円(381,236円/平方メートル)を超えるものではないから、本件土地の価額の評価において、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はないというべきである。

(4) 本件各更正処分について

 上記(3)のイ及びロのとおり、請求人らの主張には、いずれも理由がなく、本件相続税の課税価格に算入されるべき本件土地の価額は、評価基本通達に基づく価額102,042,700円に措置法第69条の4第1項第2号の規定を適用した後の価額71,042,700円となり、当該価額を基礎として、請求人らの納付すべき相続税額を計算すると、いずれも別表の「異議決定」の「納付すべき税額」欄と同額となるから、本件各更正処分は適法である。

(5) 過少申告加算税の各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(4)のとおりいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいて、本件各更正処分により新たに納付すべきこととなった税額を基礎としてされた過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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