(平成24年7月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成19年3月○日から平成20年3月21日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の計算上、賃貸用建物の取得費用に係る消費税額を本件課税期間の消費税の計算において課税仕入れに係る消費税額として控除していたところ、原処分庁が、これを控除することはできないとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人が原処分庁の認定には誤りがあり、また、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の手続に違法があるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 本件課税期間の消費税等について、審査請求(平成23年9月2日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成23年5月18日付でされた本件課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

イ 消費税法第2条《定義》第1項第12号は、課税仕入れとは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう旨規定している。
ロ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項本文及び第1号は、事業者(同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
ハ 消費税法第62条《当該職員の質問検査権》第1項は、国税庁の当該職員又は事業者の納税地を所轄する税務署若しくは国税局の当該職員は、消費税に関する調査について必要があるときは、納税義務がある者、納税義務があると認められる者又は同法第46条《還付を受けるための申告》第1項の規定による申告書を提出した者及びこれらの者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等をする義務があると認められる者又はこれらの者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる旨、また、同法第62条第6項は、同条第1項(第2項において準用する場合を含む。)又は第3項の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない旨規定している。
ニ 消費税法基本通達(平成7年12月25日付課消2−25ほかの国税庁長官通達)9−1−5《請負による資産の譲渡等の時期》は、請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする旨定めている。
ホ 消費税法基本通達11−3−1《課税仕入れを行った日の意義》は、消費税法第30条第1項第1号に規定する「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受け若しくは借受けをした日又は役務の提供を受けた日をいうのであるが、これらの日がいつであるかについては、別に定めるものを除き、同通達の第9章《資産の譲渡等の時期》の取扱いに準ずる旨定めている。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の概要等
(イ) 請求人は、平成19年3月○日に設立され、a市に本店を置く、アパート、店舗等の賃貸、損害保険代理業及び生命保険の募集に関する業務などを目的とする合同会社である。
(ロ) 請求人の社員は、設立の日以降、業務執行社員で代表社員であるGのみである。
ロ 工事請負契約の締結等
(イ) 請求人は、賃貸に供するアパートを建築するため、平成19年5月10日、K社との間で、注文者を請求人、請負者をK社とする同日付の工事請負契約書を取り交わして、まる1工事の着工日を同年6月15日、まる2完成予定日を平成20年3月10日、まる3請負代金を95,502,681円とする、まる4K社は、工事が完了したときは、K社の管理技師であるLが検査を行うものとし、検査に合格しないときは、K社は、補修又は改造してLの検査を受ける、まる5引渡時期を検査合格後7日以内とすることなどを内容とするアパートの新築工事の請負契約(以下、このアパートの新築工事を「本件工事」、本件工事に係る請負契約を「本件請負契約」という。)を締結した。
 なお、平成19年4月5日付の本件工事に係る見積書(以下「本件見積書」という。)によれば、上記請負代金95,502,681円は、工事費90,954,935円及び消費税等相当額4,547,746円の合計額であり、当該工事費の内訳は別表2のとおりである。
(ロ) 上記(イ)の請負代金は、その後、平成20年3月20日までの間に、95,502,681円から95,001,841円に変更された。
 以下、上記のとおり変更された後の請負代金を「本件請負代金」という。
ハ 建物に係る登記の状況
(イ) 請求人は、本件請負契約に係る建物について、平成20年3月4日、別表3のとおり、原因を同月3日新築とする表示登記を経由した。
 以下、別表3の建物を「本件建物」という。
(ロ) 請求人は、本件建物について、平成20年3月11日、所有権保存登記を経由した上、同月21日、原因を同日金銭消費貸借同日抵当権設定、債権額を60,000,000円、債務者を請求人、抵当権者をM銀行とする抵当権設定登記を経由した。
ニ 本件請負代金の支払状況
 請求人は、本件請負代金を、別表4のとおり、平成19年10月5日から平成20年3月21日までの間、6回に分けて支払った。
ホ 消費税等に係る各種届出及び申告の状況
(イ) 請求人は、平成19年4月27日、原処分庁に対し、事業を開始した日の属する本件課税期間について、消費税法第9条第4項(平成23年法律第82号による改正前のもの)の規定に基づき、同条第1項本文に規定する納税義務の免除の規定の適用を受けない旨記載した「消費税課税事業者選択届出書」を提出した。
(ロ) 請求人は、平成20年5月20日、原処分庁に対して、本件課税期間の消費税等について、「課税売上額(税抜き)」欄に○○○○円、「課税売上割合」欄に100%、「課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)」欄に本件請負代金95,001,841円を含む○○○○円、「控除対象仕入税額」欄に○○○○円などと記載した「付表2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」を添付して、消費税等の還付税額を○○○○円とする還付を受けるための申告書を提出した。
ヘ 本件調査
(イ) 本件調査の担当者(以下「本件調査担当者」という。)は、平成23年4月11日、請求人の本店に赴き、請求人に対する本件課税期間の消費税等の調査を開始し、同日及び翌12日、本件建物の取得状況等について調査を行った。
(ロ) 本件調査担当者は、平成23年4月19日、K社に赴き、本件建物の施工状況等について調査を行った。
(ハ) 本件調査担当者は、平成23年4月25日、K社の取引先であるN社に赴き、K社を担当するN社の営業担当者に対し、本件建物への照明器具やエアコンの納品状況等について聴取調査を実施し、翌26日、同人に対し、申述内容を取りまとめた書面への署名及び押印を求めた。

(5) 争点

  1. 争点1 本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。
  2. 争点2 請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は、本件課税期間か否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)

請求人 原処分庁
 次のとおり、本件調査の手続には原処分を取り消すべき違法がある。
イ 本件調査担当者は、当初から、本件建物の取得について、課税仕入れに係る消費税額の控除(以下、この控除を「仕入税額控除」という。)を否認する目的をもって調査を行い、その際、請求人は、本件建物の取得状況等について、帳簿書類を提示するなどして調査に協力したにも関わらず、本件調査担当者は、必要もないのに本件工事の請負業者であるK社に対して調査を行った。
 このことは税務職員に委ねられた裁量権の範囲を逸脱している。
ロ 本件調査担当者は、請求人と直接に金銭の支払等に係る権利義務のないK社の取引先、更にはその取引先の営業担当者に対しても調査を行い、当該営業担当者に対し、本件調査担当者が作成した書面に署名を求めるなど、請求人、K社及びその取引先を信用せず、犯罪者扱いするような調査をして、これらに圧力をかけた。
 このように、本件調査は、請求人に間接的に圧力をかけ、請求人がその圧力に屈し、原処分庁の言いなりになることを目的として行われたものであり、税務職員に委ねられた裁量権の範囲を逸脱している。
ハ 消費税法第62条第6項は、質問又は検査の権限は犯罪捜査のために認められたものと解してはならない旨規定しているが、本件調査担当者が行った上記ロの調査は、正に犯罪捜査のために行われたものと解されるので、同項に違反するとともに、納税者に苦痛を与えたり、不満を抱かせるような税務行政であってはならない旨等を定めた昭和51年の国税庁税務運営方針を逸脱している。
 次のとおり、本件調査の手続には原処分を取り消すべき違法はない。
イ 消費税法第62条第1項の規定は、消費税について調査の権限を有する税務署等の職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の内容、帳簿等の記入保存状況、調査対象事業者の事業の形態等諸般の具体的事実に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、調査の一方法として、同項各号に定める者に対し質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等、実定法上特段の定めのない実施の細目については、上記にいう質問検査の必要があり、かつ、その必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、これを権限ある税務署等の職員の合理的な選択に委ねたものと解されている。
ロ これを本件についてみると、本件調査は、Gに対して質問調査等を行った上で、本件課税期間の申告書上、課税仕入れとされた本件建物の施工状況等を確認するためにK社に対する調査を実施したが、K社の協力が得られなかったので、やむを得ず、本件建物に係るエアコン等の器具備品をK社に納品したN社等に対する調査を実施したものであり、本件調査担当者による質問検査権の行使は、社会通念上相当な限度にとどまり、税務職員の合理的な裁量の範囲内にある。

(2) 争点2(請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は、本件課税期間か否か。)

原処分庁 請求人
 次のとおり、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は、本件課税期間ではない。
イ 消費税法第30条第1項第1号に規定する課税仕入れを行った日については、消費税法基本通達11−3−1の定めに基づき、資産の譲渡等の時期の取扱いに準じ、同通達9−1−5の定めに基づき、物の引渡しを要する請負契約にあっては、その目的物の全部が完成し引渡しがなされた日となる。
ロ これを本件についてみると、請求人は本件請負契約に基づき本件建物を取得しているところ、本件工事の工事監理者であるLが平成20年5月31日に本件建物の内装工事の確認(確認事項「建材」)をし、K社にエアコンを納品したN社が同年6月6日に当該エアコンを売上げに計上しており、本件建物に係るエアコン工事が未了であったこと、また、請求人は、本件建物について、工事完了予定年月日を同年2月29日とする建築基準法第6条《建築物の建築等に関する申請及び確認》第1項に規定する確認申請に対する平成19年4月9日付の確認済証(以下「本件確認済証」という。)を受けているが、その後、平成20年6月25日にされた本件建物に係る計画変更確認申請により、工事完了予定年月日が同月27日に変更され、実際に本件建物の完了検査が行われたのは同年7月2日であったことからすれば、同日まで、本件建物は共同住宅として使用できる状態にはなく、本件工事は完了していなかったものと認められる。
ハ そうすると、本件建物の全部が完成して請求人に引き渡された日は平成20年7月2日以降であると認められるから、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は、本件課税期間ではない。
 次のとおり、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は、本件課税期間である。
イ 上記1の(4)のロの(イ)のとおり、請求人及びK社は、本件建物の引渡時期を「検査合格後7日以内」と定めた本件請負契約を締結したところ、ここにいう検査とは、本件請負契約に係る約款の第14条(検査等)に定める工事完了時の管理技師による検査を指し、請求人は、当該検査後、平成20年3月11日に本件建物の引渡しを受けるとともに、本件建物の所有者として所有権保存登記を経由し、同月21日に本件建物に抵当権を設定し、金融機関からの融資を受けて本件請負代金を完済し、また、同月12日には、建設仮勘定として経理処理していた本件建物の取得に係る金額を建物勘定に計上した。
 このように、請求人は、本件課税期間内である平成20年3月11日にK社から本件建物の引渡しを受けたものである。
ロ 消費税法基本通達11−3−1、同通達9−1−13《固定資産の譲渡の時期》及び同通達9−1−2《棚卸資産の引渡しの日の判定》の定めに基づき、本件建物の課税仕入れを行った日は、本件建物の引渡しのあった日で判定すべきところ、引渡しのあった日がいつであるか明らかでないときは、代金の相当部分(おおむね50%)を収受するに至った日又は所有権移転登記の申請をした日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとされている。
 そうすると、請求人が所有権保存登記を目的とする登記申請を行ったのは平成20年3月11日で、本件請負代金を完済したのは同月21日であるから、上記の消費税法基本通達に定める取扱いからしても、請求人が本件建物の引渡しを受けた日は同月11日である。
ハ 原処分庁は、本件課税期間内に本件建物の引渡しが行われていないことの根拠として、本件建物の内装工事及びエアコン工事の未了、a市の建築主事による完了検査の未了を掲げているが、次に述べるとおり、これらの事項は、本件建物の引渡しを受けた日が平成20年3月11日であることに何ら影響しない。
(イ) Lが行った内装工事の確認(確認事項「建材」)とは、内装工事が終了したことの確認ではなく、建材にホルムアルデヒド対策されたものが使用されているか否かの確認であるから、当該確認をもって、本件課税期間内に内装工事が完了していなかったことにはならない。
(ロ) 本件見積書には、エアコン工事に係る費用が見積もられているが、一般的に建物の建築においては、見積計画が変更されることは大半であるから、本件課税期間内にエアコンが設置されたか否かは、本件建物が完成していたか否かとは関係はない。
(ハ) a市の建築主事に対する工事の完了検査の申請は、d県建築基準法施行条例に規定する敷地内避難経路を表示するライン引きなどの工事が完了した後に提出されるものであるから、完了検査の未了は本件建物の完成、引渡しの未了を意味するものではない。
ニ そうすると、本件建物の全部が完成して請求人に引き渡された日は平成20年3月11日であるから、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は、本件課税期間である。

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3 判断

(1) 争点1(本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)

イ 法令解釈
 税務署長は、消費税につき、国税通則法第24条《更正》に規定する更正その他の処分を行うことができるところ、この権限を適切に行使するためには事実関係その他事項の確認及び判定が不可欠とされるから、これらの事項の確認に必要な限度で職権で調査が行われることは、法の当然に許容するところであり、税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申告等の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等の諸般の具体的事情に鑑み、客観的に必要があると判断される場合には、調査の範囲、程度、時期、場所等については、調査の客観的な必要性があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。
 そして、上記調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものであるから、各調査手続の違法は、それが刑罰法令に触れたり、あるいは公序良俗に反する程度に至った場合等およそ税務調査を行ったとはいえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合を除いては、課税処分の取消事由にはならないものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、本件調査担当者及びGの当審判所に対する答述並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人に対する調査
A 本件調査担当者は、平成23年4月11日、上記1の(4)のヘの(イ)の調査の際、Gから、請求人の事業概況、本件建物の取得及び賃貸の経緯などを聴取し、本件建物に係る工事請負契約書、登記関係書類、賃借人との間の賃貸借契約書、請求人の平成19年3月○日から平成20年3月21日まで、同月22日から平成21年3月21日まで及び同月22日から平成22年3月21日までの各事業年度に係る総勘定元帳などの帳簿書類の提示を受けた。
B 本件調査担当者は、平成23年4月12日、上記1の(4)のヘの(イ)の調査の際、Gから上記Aの帳簿書類の提示を受け、本件建物について、所有権保存登記を経由してから最初の賃借人が入居した平成20年8月9日まで約5か月が経過していることなどを把握したことから、請求人が本件課税期間内に本件建物を譲り受けたことに疑問を持ち、本件建物の所有権保存登記の経由後、最初の賃借人が本件建物に入居するまでに長い時間が経過した理由をGに質問した。
 これに対し、Gは、本件建物は所有権保存登記が経由された平成20年3月11日の時点で完成し、引渡しが完了した旨、本件建物の完成後、本件工事に含まれない、外構工事や舗装工事があり、それらの工事が完了した後に賃借人が入居可能となったためである旨回答した。
(ロ) K社に対する調査
A 本件調査担当者は、Gからの上記(イ)のBの回答を裏付けるために、本件工事の請負業者であるK社に対し調査を行い、本件建物の施工状況、完成及び引渡しの時期などの確認が必要であると判断し、平成23年4月12日、K社の取締役であるLにK社に対する調査の日程調整を依頼した。
B 本件調査担当者は、Lと日程調整した上、平成23年4月19日、上記1の(4)のヘの(ロ)の調査を行い、その際、L及びK社の経理を担当していたPに対して、本件建物の施工状況、完成及び引渡しの時期などを確認する必要があるとして、K社の事業概況、経理処理の流れ、作成する書類等について説明を求めたところ、K社の従業員であるGが、「平成20年3月11日に建物の登記は完了しており、法律上、その時に引渡しが完了しているということで何ら問題はないと考える。K社のことを聞くということは、K社の調査ということか。」、Pが、「そういうことを聞くのは、K社の調査ということではないか。出面帳を用意しているから、これだけ見れば分かる。」旨それぞれ申し立て、出面帳と題する書類を本件調査担当者に提示した。
 本件調査担当者は、G及びPに対し、請求人の消費税等に係る調査上本件建物の施工状況及び完成時期の確認が必要である旨説明し、出面帳と題する書類以外の書類の提示を求めたが、Pが工事台帳を作成していない旨申し立て、Gが現状では協力できない旨申し立てたことから、本件調査担当者は、Gに対し、調査に協力してもらえないなら、別の方法で確認する旨を告げて、K社の本社から退出した。
(ハ) K社の取引先等に対する調査
A 本件調査担当者は、上記(ロ)のK社に対する調査により、本件建物の施工状況、完成及び引渡しの時期などを確認することができなかったことから、本件工事の最終工程で本件建物に設置されたと見込まれるエアコン等の器具備品の納品状況を確認するために、当該器具備品をK社に納品したと認められるN社を調査することとした。
 本件調査担当者は、平成23年4月25日、上記1の(4)のヘの(ハ)の調査の際、N社の代表者に事業概況を、経理担当者に受注、納品、請求などの事務処理の流れを聞くとともに、請求書控え、仕入先及び外注先からの請求書等の提示を受け確認を行った。
 その際、N社の営業担当者でK社を担当するQが不在であったため、本件調査担当者は、一旦退出した後、平成23年4月25日、再度、N社の本社に赴き、Qに面接し、N社がK社宛に発行した締切日が平成20年6月20日の請求書控えを示して、当該請求書控えに係る商品の納品時期、納品場所等を質問し、同人の申述内容を証拠として保全する必要があると判断したが、同人が時間がない旨申し立てたため、翌日の早い時間に再度面接することを約してN社の本社から退出した。
B 本件調査担当者は、平成23年4月26日、N社の本社において、Qに対し、本件調査担当者の作成した聴取書と題する書面(以下「本件聴取書」という。)を提示して本件聴取書への署名及び押印を求めたが、Qは、「お話した内容に間違いはありませんが、今後の営業に差し障りがあるといけないので、署名と押印は拒否します。」旨申し立て、署名及び押印を拒んだ。
 そこで、本件調査担当者は、作成日付を平成23年4月25日とし、本件聴取書の末尾に記載されていた「任意上記のとおり署名押印した。」の文言を二重線で抹消の上、「するも、署名押印は拒否した。」と加筆した。
 なお、上記A及び上記の調査の際だけではなく、その後も、N社の代表者及びQから、原処分庁に対し、上記A及び上記の調査に関する抗議や苦情は申し立てられていない。
ハ 判断
(イ) 争点について
A K社に対する調査
 上記ロの(イ)のとおり、本件調査担当者は、請求人から提示を受けた帳簿書類等を検討した結果、本件建物について、所有権保存登記を経由してから賃借人が入居するまでに約5か月が経過した事実を把握したことから、請求人が本件課税期間内に本件建物を譲り受けたことに疑問を持ち、上記ロの(ロ)のとおり、本件建物の施工状況、完成及び引渡しの時期などを確認するために、本件工事の請負業者であるK社に対して調査を行ったものと認められるのであり、K社に対する調査に客観的な必要性があったことは明らかである。
 そして、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件調査担当者が、K社に対する調査において、L及びPに対して、K社の事業概況、経理処理の流れ、作成する書類等について説明を求めたが、Pが工事台帳を作成していない旨申し立て、出面帳以外の書類を提示せず、本件調査担当者の調査への協力依頼に対しても、Gがこれに応じられない旨申し立てたことから、本件調査担当者はK社の本社から退出したのであり、本件調査担当者に強制的な言動があったなどの事実は認められないから、K社に対する調査は、調査の客観的な必要性と相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまり、税務職員の合理的な裁量の範囲を逸脱しているとはいえず、K社に対する調査手続に違法があったとはいえない。
B N社等に対する調査
 上記Aのとおり、本件調査担当者は、請求人が本件課税期間内に本件建物を譲り受けたことに疑問を持ち、本件建物の施工状況、完成及び引渡しの時期などを確認するためにK社に対して調査を行ったが、結果として、これらを確認できなかったことから、上記ロの(ハ)のとおり、本件工事の最終工程で設置されたと見込まれるエアコン等の器具備品の納品状況を確認するために、N社及びその営業担当者に対して調査を行ったのであるから、当該調査に客観的な必要性があることは明らかである。
 また、上記ロの(ハ)のとおり、本件調査担当者は、N社の代表者及び営業担当者であるQに対して聴き取りを行ったが、上記ロの(ハ)のBのとおり、いずれの者からも調査に対する抗議や苦情が述べられなかったこと、Qは、本件調査担当者から本件聴取書への署名及び押印を求められても拒否したのであって、本件調査担当者が署名又は押印をQに強要したなどの事実はなかったと認められるから、N社及びその営業担当者に対する調査は、調査の客観的な必要性と相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまり、税務職員の合理的な裁量の範囲を逸脱しているとはいえず、N社及びその営業担当者に対する調査手続に違法があったとはいえない。
(ロ) 請求人の主張について
A 上記2の(1)の「請求人」欄のイのとおり、請求人は、本件調査担当者が、仕入税額控除を否認する目的をもって調査を行い、また、帳簿書類を提示するなどして調査に協力しており、必要がないにも関わらず、K社に対して調査を行ったことは、税務職員に委ねられた裁量権の範囲を逸脱している旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のAのとおり、本件調査担当者は、請求人が本件課税期間内に本件建物を譲り受けたことに疑問を持ち、本件建物の施工状況、完成及び引渡しの時期などを確認するために、K社に対して調査を行ったのであって、当該調査に客観的な必要性があったことは明らかであり、その調査の範囲、程度等についても、調査の客観的な必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまると認められ、税務職員に委ねられた裁量権の範囲を逸脱しているとはいえない。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
B 上記2の(1)の「請求人」欄のロのとおり、請求人は、本件調査担当者が、K社の取引先の営業担当者に対し、本件聴取書に署名を求めるなど、当該取引先及び営業担当者を犯罪者扱いするような調査を行っており、そのような本件調査は請求人に間接的に圧力をかけ、原処分庁の言いなりになることを目的として行われたものであり、税務職員に委ねられた裁量権の範囲を逸脱している旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のBのとおり、N社及びその営業担当者に対する調査には客観的な必要性が認められること、聴取書に署名、押印を求めることは、犯罪捜査に限られるものではなく、税務調査において納税者やその取引先などの関係者から事実関係を聴取し、聴取結果を証拠化する上で通常行われていることであって、聴取書に署名、押印を求めることが納税者や関係者を犯罪者扱いしたことにはならないこと、本件調査担当者がN社の営業担当者に署名及び押印を強要したなどの事実はなかったことからすれば、N社及びその営業担当者に対する調査は、調査の必要性と相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当の限度にとどまるものであり、税務職員の合理的な裁量の範囲を逸脱しているとはいえない。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
C 上記2の(1)の「請求人」欄のハのとおり、請求人は、本件調査担当者が行った調査は、犯罪捜査のために行われたものと解されるので、消費税法第62条第6項に違反するとともに、昭和51年の国税庁税務運営方針を逸脱している旨主張する。
 しかしながら、本件調査は、上記(イ)のAのとおり、本件建物の譲り受けの時期を確認するために行われたと認められ、犯罪捜査を目的として行われたとうかがわせる証拠もない上、上記税務運営方針は、納税者の自主的な理解、協力を得て、円滑な税務行政を遂行しようとする観点から国税内部における税務調査を含む事務運営の基本方針を示したものであって、仮にこれに違反しても直ちに調査に違法があることにはならないし、本件調査に違法がないことは上記(イ)のとおりである。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は、本件課税期間か否か。)

イ 法令解釈等
(イ) 消費税法第30条第1項は、事業者が、国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定し、同法第2条第1項第12号は、課税仕入れとは事業者が事業として他の者から資産を譲り受けることなどをいう旨規定しているところ、資産を譲り受けた日がいつであるかは、課税資産の譲受けと譲渡が表裏の関係にあることから、資産の譲渡の時期に準じて判断するのが相当である。
 そして、資産の譲渡の時期は、建物の建築請負工事に関していえば、原則として、請負契約の目的物の全部を完成して引き渡した日と解するのが相当であり、これと同旨の消費税法基本通達11−3−1及び同通達9−1−5は、当審判所においても相当と認められる。
(ロ) この場合、引渡しの日がいつであるかについては、建設工事等の契約の内容、作業の終了状況、工事代金の精算状況、登記の状況などの諸事情を総合考慮し、合理的と認められる日に引渡しがあったと認めるのが相当であり、若干の工事が残存して未完成であったとしても、工事が当該課税期間内に完成し引渡しがあったものと同視できる場合には、特段の事情のない限り、当該課税期間内に課税資産の譲渡(課税資産の譲受け)があったとみるのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件建物に係る登記手続等
 本件建物の表示登記の申請書に添付された、K社作成の平成20年3月3日付の工事完了引渡証明書と題する書面(本件工事を完了して請求人に引き渡したものであることを証明する旨記載されたもの)、土地家屋調査士R作成の同日付の不動産調査報告書と題する書類及び当審判所の調査によれば、本件建物は、同日時点で、外壁及び屋根により外気と分断されるなど、共同住宅の表示の登記が可能な程度に工事は完了し、共同住宅用建物としての構造も備えていたこと、請求人とK社は、本件建物が完成したとして本件建物の引渡しを合意するとともに、K社は、請求人の表示登記のため、同日付で本件建物を請求人に引き渡し、請求人は、上記工事完了引渡証明書と題する書面を添付して、本件建物の表示登記の申請をしたことが認められる。
(ロ) 本件建物に係る建築確認申請手続
A 確認申請書の提出及び確認済証の交付
 平成18年12月29日に提出された確認申請書(建築物)(以下「本件確認申請書」という。)及び本件確認済証によれば、請求人は、同日、a市の建築主事に対し、建築主を請求人、設計者をL、主要用途を共同住宅、工事種別を新築、工事着手予定年月日を平成19年5月1日、工事完了予定年月日を平成20年2月29日などと記載した本件確認申請書を提出したこと、これに対し、a市の建築主事が、平成19年4月9日付で、請求人に対し、本件確認済証を交付したことが認められる。
B 工事監理状況報告書の提出
 平成20年6月17日付の工事監理状況報告書(以下「本件工事監理状況報告書」という。)によれば、Lは、本件工事の工事監理者として、平成19年10月16日に本件建物に係る基礎工事の配筋の状況を、同年12月14日に本件建物に係る木工事の小屋裏の状況を、同月16日に本件建物に係る木工事の筋かいの状況を、平成20年5月31日に本件建物に係る内装工事の建材の状況を確認し、同年6月17日付で、a市の建築主事に対し、上記各確認を行った旨、工事完了予定年月日を同月19日とする旨各記載した本件工事監理状況報告書を提出したことが認められる。
 当審判所の調査によれば、本件建物に係る内装工事の建材の状況の確認とは、本件建物の居室の壁、床及び天井などの内装の仕上工事(以下「本件内装仕上工事」という。)の建材に、国土交通省告示第1113号、同告示第1114号及び同告示第1115号(平成14年12月26日)に定められた規格に係る表示があるかないかなどを確認するものであると認められるところ、本件内装仕上工事が完了すれば、上記規格に係る表示を外部から確認できなくなるから、平成20年5月31日には、本件内装仕上工事が完了していなかったと認められる。
 ただし、本件課税期間の末日である平成20年3月21日の時点で本件内装工事がどの程度未了であったかについては、当審判所の調査によっても不明である。
 なお、Lは、当審判所に対し、本件工事監理状況報告書に本件建物の内装工事を確認した日として記載した平成20年5月31日は、適当に確認日を同日としたのであって、内装工事は同年3月10日頃までに完了していた旨答述するが、本件工事監理状況報告書は、一級建築士であるLが職務上作成し、a市の建築主事に提出された公用文書であることに鑑み、本件工事監理状況報告書に記載された内容は、特段の事情がない限り、真実であると認めるのが相当であるが、Lがあえて本件工事監理状況報告書に虚偽の確認日を記載すべき特段の事情は同人の答述等によっても認められないのであるから、上記答述は、同年5月31日には本件内装仕上工事が完了していなかったとの認定に影響を及ぼさない。
C 完了検査申請書の提出
 平成20年6月17日付の完了検査申請書(以下「本件完了検査申請書」という。)、a市の職員が作成した完了検査復命書と題する書面及び当審判所の調査によれば、請求人は、同日付でa市の建築主事に対し、本件工事の完了予定年月日を同月19日などと記載した本件完了検査申請書を提出したこと、建築主事の委任を受けたa市の職員が、本件建物が建築基準法第6条第1項に規定する建築基準関係規定に適合しているかどうかを検査したところ、物置の位置及び面積、窓の位置、ホール部分の天井の仕上方法並びに非常照明及び浄化槽の種類、2階共用廊下の手すりの高さなどが本件確認済証により建築主事から確認を受けた建築計画に適合していないことが明らかになったこと、当該職員は、請求人に対し、現況に即して記載内容を変更した計画変更確認申請書を提出するように求めるとともに、計画変更確認申請書の提出で対応できない2階共用廊下の手すりの高さの微調整等について補修工事を行うよう求めたことが認められる。
D 計画変更確認申請書の提出
 平成20年6月25日付の計画変更確認申請書(建築物)(以下「本件計画変更確認申請書」という。)によれば、請求人は、同日付で、a市の建築主事に対し、上記Cの指摘事項に基づいて建築計画を変更するとともに、補修工事を行うため、工事完了予定年月日を同月27日に変更した本件計画変更確認申請書を提出したことが認められる。
E 検査済証の交付
 平成20年7月2日付の検査済証によれば、建築主事の委任を受けたa市の職員が、同日、本件建物に関する完了検査を行った上で、a市の建築主事は、同日付で、請求人に対し、建築基準法第7条第5項の規定による検査済証を交付したことが認められる。
(ハ) エアコン工事の状況
 上記1の(4)のロのとおり、本件見積書の工事費の内訳にはエアコン工事があることから、エアコン工事は本件工事に含まれると認められるところ、Gの当審判所に対する答述、本件聴取書及びN社がK社に対して発行した締切日を平成20年6月20日とする請求書本社控え及びS社がN社に対して発行した同日付の請求書によれば、N社が請求人にエアコンを納品したのは同月6日以降であったことから、エアコン工事が全て完了したのは、同日以降であったと認められる。
(ニ) 本件建物に係る経理処理の状況
A 請求人の経理処理
 請求人の平成19年3月○日から平成20年3月21日までの事業年度の総勘定元帳、同月12日の振替伝票(伝票No.124)によれば、請求人は、同日、K社から本件建物の引渡しを受けたとして、建設仮勘定に計上していた68,499,580円を建物勘定に振り替え、また、相手科目を未払金勘定として26,502,261円を建物勘定に計上し、これにより同日の建物勘定の残高は、95,001,841円(本件請負代金と同額である。)となったことが認められる。
B K社の経理処理及び確定申告
 K社の平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度の総勘定元帳、同日の振替伝票、当該事業年度の損益計算書、当該事業年度の法人税の確定申告書及び平成19年4月1日から平成20年3月31日までの課税期間の消費税等の確定申告書によれば、K社は、当該事業年度において、本件請負代金を、総勘定元帳上、完成工事高勘定に計上し、その総勘定元帳の記載に基づき、当該事業年度の法人税については、本件請負代金を所得金額の計算上益金の額に算入した確定申告書を、当該課税期間の消費税等については、本件請負代金を課税売上高に含めて課税標準額に対する消費税額を計算した確定申告書を提出したことが認められる。
ハ 判断
(イ) 争点について
A 上記ロの(イ)のとおり、平成20年3月3日の時点で、本件建物は外壁及び屋根により外気と分断され、コンクリート基礎により土地に定着し、共同住宅用建物の用途に供し得るだけの構造を備えていたことからすれば、同日時点で、本件建物の大部分は完成していたこと、また、請求人とK社は、本件建物が完成したとして本件建物の引渡しを合意し、K社は、同日付で本件建物を請求人に引き渡したことが認められる。
 なお、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件課税期間の末日である平成20年3月21日の時点で本件工事の一部は未了であったと認められるが、同月3日時点で本件建物の大部分が完成していたとの上記認定を妨げるものではない。
 また、上記ロの(ロ)のC及び(ハ)のとおり、2階共用廊下の手すりの高さの微調整等について補修工事が必要であり、エアコン工事も本件課税期間内に完了していなかったことが認められるが、いずれも軽微な補修工事又は附属設備の工事にすぎないから、平成20年3月3日時点で本件建物の大部分が完成していたとの上記認定を妨げるものではない。
B そして、請求人は、平成20年3月3日、本件建物が完成したとしてK社と引渡しを合意して本件建物の引渡しを受け、同月11日、権利保全のため、本件建物の所有権保存登記を経由したのみならず、上記1の(4)のハの(ロ)のとおり、同月21日、M銀行との間で、本件建物に抵当権を設定して自己の所有物として処分し、上記1の(4)のニのとおり、同日、請負業者であるK社に対し、本件請負代金全部の支払を終え、上記ロの(ニ)のAのとおり、同月12日、本件建物に係る建設仮勘定を全額、建物勘定に振り替えたのであり、本件課税期間内に本件建物の権利保全、処分、本件請負代金の支払及び経理処理が全て行われたこと、さらに、K社においても、上記ロの(ニ)のBのとおり、本件請負代金の全部を受領した平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度において、本件請負代金全額を益金の額に算入し、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの課税期間において、本件請負代金を消費税の課税売上高に含めて課税標準額に対する消費税額を計算していることを併せ考えれば、本件工事に若干の工事が残存して未完成であったとしても、請求人とK社との間で、実質的に本件建物が完成され引渡しがなされたとして、本件請負代金の全部が本件課税期間内に精算され授受されたものと認められるから、本件課税期間内に本件建物が完成し引渡しがあったものと同視できる。
C したがって、本件においては、本件課税期間内に本件建物の譲渡があったと認めるのが相当であり、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は本件課税期間となる。
(ロ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、上記2の(2)の「原処分庁」欄のイからハまでのとおり、平成20年5月31日に工事監理者が本件建物の内装工事を確認し、同年6月6日にN社がエアコン設備を売上げに計上し、また、実際に本件建物の完了検査が行われたのが同年7月2日であったことからすれば、同日まで、本件建物は共同住宅として使用できる状態にはなく、本件工事が完了していなかったものと認められるから、本件建物の全部が完成して請求人に引き渡された日は同日以降であり、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は本件課税期間ではない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のBのとおり、本件の事実関係の下では、本件課税期間内に本件建物が完成し引渡しがあったものと同視でき、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は本件課税期間となる。
 したがって、この点についての原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分

 上記(2)のハの(イ)のCのとおり、請求人が本件建物を譲り受けた日の属する課税期間は本件課税期間であることからすると、本件課税期間中に本件建物の課税仕入れが行われたというべきであるから、本件建物の取得費用に係る消費税額を本件課税期間の消費税の計算において課税仕入れに係る消費税額として控除することはできないとしてされた本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(4) 本件賦課決定処分

 上記(3)のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

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