(平成24年11月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人D及び同F(以下、両者を併せて「請求人ら」という。)が、相続によって取得した株式を発行した株式会社から、解散による残余財産の分配として支払を受けた金銭の一部につき、配当所得に該当するとして所得税の各申告をした後、原処分庁に対し、当該株式を相続によって取得する際に相続税の課税を受けているので、当該配当所得については二重課税となるとして、各更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の各通知処分を行ったことに対し、請求人らがその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該配当所得は、所得税法第9条《非課税所得》第1項第16号(以下「本件非課税規定」という。)に規定する「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成24年1月17日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、請求人らは、Dを総代として選任し、平成24年2月7日にその旨を当審判所に届け出た。

(3) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らは、G(以下「本件被相続人」という。)の死亡による相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人であり、本件相続は、本件被相続人の平成18年10月○日死亡によって開始した。
ロ 請求人らは、本件相続により、本件被相続人が所有していたL社(以下「本件会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)90,000株について、それぞれ45,000株を取得した。
ハ 本件会社は、昭和35年10月○日に設立された○○等を営む同族会社であり、本件相続の開始直前において、同社の発行済株式90,000株は、同社の代表取締役であった本件被相続人が全て所有していた。
ニ 本件会社は、平成16年10月○日、H地方裁判所により破産宣告を受け、J弁護士を破産管財人とする破産手続(以下「本件破産手続」という。)が開始された。
ホ 本件破産手続は、平成19年5月○日に終結し、同日、J弁護士を本件会社の清算人とする本件会社の清算手続(以下「本件清算手続」という。)が開始された。
ヘ 請求人らは、本件清算手続が開始された後の平成19年8月28日に、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を原処分庁に提出した。
 なお、本件相続税の申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」には、本件株式に係る評価額として、別表2のとおり記載されている。
ト 本件会社は、平成22年2月○日付で、株主である請求人らに対し、本件会社の解散による残余財産分配金(以下「本件各分配金」という。)を支払い、本件清算手続は結了した。
 本件会社が、本件各分配金の支払に関して、請求人ら各人に交付した「平成22年分配当等とみなす金額に関する支払調書(支払通知書)」には、当該支払が「解散による残余財産の分配」としてされたものである旨、交付する金銭の1株当たりの金額が4,479円24銭、1株当たりの資本金等の額が○○○○円、1株当たりの配当等とみなされる金額が○○○○円○○銭である旨、株式の数が45,000株である旨及び配当等とみなされる金額の総額が○○○○円である旨がそれぞれ記載されている。
チ 請求人らは、平成22年分の所得税(以下「本件所得税」という。)について、本件会社から交付を受けた本件各分配金のうち、剰余金の配当とみなされる金銭(以下「本件各みなし配当金」という。)の額を○○○○円とし、平成23年3月12日、別表1の「確定申告」欄に記載のとおり、本件各みなし配当金の額を配当所得の金額として記載した各確定申告書を原処分庁にそれぞれ提出した。

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2 主張

請求人ら 原処分庁
 本件所得税の申告に係る配当所得に相当する金額は、以下のとおり、本件非課税規定の非課税所得に該当するから、申告所得額を減額更正すべきであって、請求人らの更正の請求には理由があるから、原処分は取り消されるべきである。
(1) 本件には、残余財産分配金の基になる本件株式が「清算手続中の会社の株式」であること、その株式については既に相続税が課税されている点に特殊性がある。
(2) 破産宣告を受けた本件会社が、清算手続をする本件会社に移行しても、法人格は途切れることなく継続して存在し、その同一性は維持されており、双方の資産状態(債権、債務及び純資産)は同一であるから、清算会社が分配する最終的な残余財産は破産会社が内包していたことになる。
(3) 破産会社及び清算会社は、いずれを問わず事業活動をしないから、利益配当はできないし、残余財産分配請求権は、株式から離れて存在するものでも別個の財産権でもなく、解散して清算手続中の会社の株式にあっては株式そのものであるから、解散した会社の株式に経済的価値があるとすれば、残余財産分配請求権の価値そのものである。
 評価通達189−6は、清算会社の純資産である残余財産の総額と同社の総株式の価額が一致すること、「清算結了時の清算会社の株式の価額」と「分配される残余財産の価額」は同額であり、確定した残余財産と全株式の経済的価値は同一であることを前提としているが、この通達によるまでもなく、破産会社も含めて清算中の会社の株式の経済的価値を量るとすれば、その株式によって分配を受けることができるはずの残余財産の価額となる。
(4) 本件では、破産宣告を受けた本件会社に残余財産が生じたので、それを清算するために清算会社に移行したものであり、最後に分配される残余財産は、元々破産会社の純資産として潜在的に存在していたはずであり、破産会社の残余財産は清算会社の残余財産、実際に分配された残余財産と同じものである。
 解散して清算手続中の会社の株式は、分配される残余財産と経済的価値を同じくする同一の財産であり、少なくとも経済的価値を同じくすること、また、請求人らが申告した本件株式に係る金額と請求人らが受領した残余財産分配金は近似しており(本件株式の評価額は、実際の分配金額の101.132パーセントである。)、経済的評価額(時価)が同じということは、もはや同じ財産であるし、株式は残余財産分配金を請求できる唯一の有価証券で、その受領によって消滅するものであることからすれば、請求人らが支払を受けた残余財産分配金と本件株式は相続財産として同一であり、経済的価値は同一である。
 なお、請求人らは、本件相続の開始時点でも、相続税の申告時点でも、残余財産分配金を受領していないが、受領する権利、すなわち残余財産分配請求権を内容とする株式を取得しているから、残余財産分配金を取得したのも同じである。
(5) 本件非課税規定は、二重課税を回避する趣旨であるが、本件株式を本件相続によって取得した請求人らは、残余財産分配金を相続によって取得したことになり、それは本件非課税規定に該当するので、残余財産分配金に所得税が課税されることはなく、その一部である配当所得の金額にも所得税が課税されることはあり得ない。本件株式と同じ財産若しくは少なくとも同じ経済的価値の残余財産分配金の一部に対して所得税が課税されるとすれば、二重課税に該当する。
 また、租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》の二重課税の調整規定は、相続財産の譲渡に限られており、請求人らは、結果的に二重課税が調整されないままとなるし、相続税も、所得税及び住民税も、最高税率の50パーセントの課税を受けており、結果的に100パーセントの課税を受けることは財産権の侵害に当たる。
(6) 最高裁判所平成22年7月6日第三小法廷判決(民集64巻5号1277頁、以下「本件最高裁判決」という。)の判旨に当てはめても、本件の配当所得の金額は、請求人らが相続によって取得したものとの結論になり、所得税が課税されることはない。
(7) 原処分庁の主張は、「残余財産の分配見込額が本件株式の評価額であって、残余財産分配金そのものではない」との趣旨と推測されるが、評価額があるのは残余財産分配金という財産が存在するからである。請求人らは「評価額」という財産について相続税の申告をしたわけではない。
 請求人らの主張は、本件会社に係る残余財産の分配見込額が既に相続税の課税対象となっていること、当該分配見込額と本件各みなし配当金が同一の経済的価値であることを前提にするものと解されるところ、本件相続税の申告書の第11表に記載された「未収入金」362,696,500円は、「同族会社の株式」45,000,000円とともに、本件株式の評価額の一部を構成するものにすぎず、相続税の課税対象となったのは本件株式であって、残余財産の分配見込額ではないから、請求人らの主張はその前提を誤ったものと認められ、理由がない。
 請求人らが本件相続により取得した本件株式と本件各みなし配当金が同一の経済的価値であるとは認められないから、本件各みなし配当金に本件非課税規定の適用はなく、更正の請求を認めなかった原処分は適法である。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法第9条第1項は、その柱書きにおいて「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と規定し、その第16号において「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げているところ、同項柱書きの規定によれば、同号にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは、相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。
 そして、当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される(本件最高裁判決)。
ロ 所得税法は、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し、課税を行うこととしており、同法第36条第1項が、その期間中の総収入金額又は収入金額の計算について、「収入すべき金額とする」と定め、「収入した金額とする」としていないことから考えると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、当該権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される(最高裁判所昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁参照)。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件相続税の申告における本件株式の評価額について
(イ) 請求人らは、本件清算手続が開始された後の平成19年8月28日に原処分庁に対して提出した本件相続税の申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」において、本件株式につき、本件被相続人の払込出資額45,000,000円相当額の有価証券として「同族会社の株式」と記載し、また、本件会社の清算手続を行った結果、残余財産の分配として支払を受ける見込みの金員のうち本件被相続人の払込出資額相当額を除いた362,696,500円を「未収入金」として記載していた。
(ロ) 請求人らは、上記(イ)の「未収入金」の362,696,500円の金額について、評価通達189−6の定める清算中の会社の株式の評価方法を基に、本件会社の清算人であるJ弁護士から交付を受けた本件清算手続に関する「収支計算書(見込)」と題する書面に記載された「破産残余引継金835,356,218円」の金額から、今後見込まれる支出を減算するなどの修正を行い、清算所得に対する税額を減算するなどの加減算を行って、本件会社の清算手続を行った結果、残余財産の分配として支払を受ける見込みの金額を計407,696,500円と推計し(以下「本件分配見込額」という。)、本件分配見込額から本件被相続人の払込出資額相当額45,000,000円を控除することによって算出した。
ロ 平成22年分の配当所得について
(イ) 請求人らは、平成22年2月○日、本件会社から本件各分配金としてそれぞれ○○○○円の支払を受けた。
 ただし、本件各分配金の支払として請求人らの各預金口座へ振り込まれた額は、上記の本件各分配金の額から本件各みなし配当金に係る20パーセントの割合による源泉所得税○○○○円を差し引かれた後の○○○○円であった。
(ロ) 請求人らは、本件各分配金の支払を受けたことについて、所得税法第25条第1項第3号の規定に基づき、本件各分配金の額のうち本件会社の資本金等の額中請求人らの各株式に対応する部分の金額22,500,000円を超える部分に当たる○○○○円が、剰余金の配当とみなされる金銭に当たるものとし、これを配当所得として本件所得税の確定申告をした。
ハ 本件破産手続から本件清算手続に至る経緯について
(イ) 本件会社の破産管財人J弁護士は、本件破産手続中の平成17年3月○日に、本件会社所有の○○用地を計1,534,015,040円で売却した。本件会社が破産宣告を受けた平成16年10月○日時点での同社の財産状況を示した貸借対照表においては、同社は債務超過の状態にあったが、当該売却によって債務超過の状態は解消された。
(ロ) 本件破産手続は、破産管財人J弁護士によって平成17年7月○日付で債権者に対して100パーセントの配当率による最後配当がされた後、本件会社の破産財団として835,356,218円が残っている状態で平成19年5月○日に終結し、同日、破産宣告によって解散した本件会社の最終的な清算を行うために、本件清算手続が開始された。
ニ 本件清算手続における本件会社の収支及び資産の変動状況について
(イ) K労働組合及び本件会社の元従業員らを原告とし、請求人らないし本件会社を被告とする損害賠償請求訴訟が平成17年及び平成19年にH地方裁判所にそれぞれ提起され(同裁判所平成○年(○)第○号損害賠償請求事件及び平成○年(○)第○号損害賠償請求事件)、原告らの請求をいずれも棄却する旨の判決がされた後、平成21年11月○日、M高等裁判所において、被控訴人である本件会社が、和解金として控訴人一人当たり1,000,000円、合計24,000,000円の支払義務があることを認め、平成21年12月○日限りこれを支払う旨等を定めた和解が成立し(同裁判所平成○年(○)第○号事件)、本件会社は、平成21年11月○日、当該和解金24,000,000円の支払をした。
(ロ) 本件清算手続においては、開始時に本件破産手続における残余財産からの引継金835,356,218円の収入があり、その後、平成22年1月29日までに不動産売却代金や各種税金の還付金等の入金があったため、終結時点までの収入金額は合計939,048,049円となっており、他方、各種税金の納付、各種報酬及び上記(イ)の和解金等の支払が平成22年2月○日までにされ、同日、請求人らに対する本件各分配金の支払等が行われた結果、終結時点までの支出額は合計939,048,049円となったことから、終結時点での収支残高は零円となった。

(3) 判断

イ 請求人らは、本件所得税の確定申告において配当所得として申告をした本件各みなし配当金に係る配当所得が、本件非課税規定の非課税所得に該当する旨主張するので、当該配当所得が本件非課税規定に規定する「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当するか否かについて、以下検討する。
(イ) 上記(2)のイによれば、請求人らは、本件相続税の申告において、本件株式につき、評価通達189−6の定める清算中の会社の株式の評価方法を基に、本件破産手続の終結時における本件会社の残余財産の残高835,356,218円に加減算を行い、評価通達189−6の定める「清算の結果分配を受ける見込みの金額」として算出した本件分配見込額をもって、本件相続の開始時における時価(客観的交換価値)としたものであり、他方、上記1の(4)のチ及び3の(2)のロのとおり、請求人らが本件所得税について配当所得として確定申告をした本件各みなし配当金は、本件清算手続において本件会社の残余財産の分配として請求人らが支払を受けた本件各分配金の一部であるから、本件相続税及び本件所得税のいずれの課税においても、本件会社の清算手続において請求人らが分配を受ける残余財産の経済的利益の額に着目して、課税対象となる経済的価値が評価されていたものということはできる。
(ロ) ところで、「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」について所得税を課さない旨規定する本件非課税規定及び上記(1)のイの法令解釈によると、相続人において所得税が課されないこととなる「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは、相続に基づく財産の取得により相続人に帰属する所得(相続の開始時における当該財産の価額に相当する経済的価値)であるから、当該相続を直接の原因として相続人の下で実現した所得に限られるのであって、当該相続後に当該相続とは別の原因で相続人の下で実現した所得はこれに該当しないものというべきである。
 本件において、請求人らが本件相続に基づき本件株式を取得したことによって請求人らに帰属した所得(本件相続の開始時における本件株式の価額に相当する経済的価値)は、本件相続を直接の原因として請求人らの下で実現したものであるから、本件非課税規定にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当することとなる。
 しかしながら、請求人らが本件各みなし配当金を取得したことによって請求人らに帰属した所得については、本件相続の開始後3年以上の期間が経過してから、本件相続とは別の事由、すなわち、上記(2)のニの(ロ)のとおり、本件清算手続において、平成22年2月○日までに本件会社の債務を完済し、残余財産が最終的に確定したことによって、初めて請求人らの下で実現したものというべきであり、また、本件相続の開始時において本件清算手続は開始すらされておらず、本件各みなし配当金の支払原因となる具体的な残余財産分配請求権は確定的に発生していなかったのであるから、上記(1)のロに記載の法令解釈によっても、本件相続を直接の原因として実現があったものとすることはできない。
 したがって、本件相続後に本件相続とは別の原因で請求人らの下で実現した本件各みなし配当金に係る配当所得については、本件非課税規定にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当すると認めることはできない。
(ハ) また、上記(1)のイの法令解釈によれば、本件各みなし配当金に係る配当所得が、本件非課税規定にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当するというためには、本件各みなし配当金の額に相当する経済的価値が、本件相続税の課税対象となる本件相続の開始時における本件株式の価額に相当する経済的価値と同一のものと評価することができることが必要となる。
 まず、本件株式の価額に相当する経済的価値については、本件相続の開始時において本件会社が本件破産手続の中途にあったことから、本件会社の財産を処分した場合の本件会社の清算価値に基づいて評価されるべきものである。なお、これによれば、本件相続税の申告に当たって、評価通達189−6の定める清算中の会社の株式の評価方法に従い、本件会社の残余財産分配金の見込額に基づいて本件株式の時価が算定されたことは相当というべきである。
 他方、本件各みなし配当金を含む本件各分配金の額に相当する経済的価値は、本件会社の最終的な清算価値であるということができるが、本件会社については、上記1の(4)のイ及びホ並びに3の(2)のニのとおり、本件相続の開始後、本件清算手続が開始され、本件各分配金の支払時までに、和解の成立及び和解金の支払など、本件会社の収支及び資産の状況に種々の変動があったものということができるから、当該変動後の本件会社の最終的な清算価値を具現化した本件各分配金の額に相当する経済的価値は、当該変動前の本件会社の清算価値に基づいて評価された本件株式の価額に相当する経済的価値と同一のものと評価することはできない。
 したがって、この点においても、本件各分配金に含まれる本件各みなし配当金に係る配当所得が、本件非課税規定にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当するということはできない。
(ニ) 以上によれば、請求人らが本件株式の評価額とした本件分配見込額と本件各分配金の合計額が近似していたとしても、請求人らが取得した本件各みなし配当金に係る配当所得が、本件非課税規定にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当するものと認めることはできないのであって、本件相続税の課税対象となった所得(経済的価値)に対して本件所得税が課されたものということも、同一の経済的価値に対する相続税と所得税との二重課税が生じているということもできない。
ロ 本件最高裁判決との関係について
 請求人らは、本件最高裁判決の判旨に当てはめても、本件の配当所得は請求人らが相続によって取得したものとの結論になり、所得税が課税されることはない旨主張するので、以下、この点について検討する。
(イ) 本件最高裁判決の判旨の概要
 本件最高裁判決の事案において、相続税の課税の対象となったのは、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第1号の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険契約の保険金(年金の方法により支払を受ける年金受給権)の額であり、他方、雑所得として所得税の課税対象となるか否かが争われたのは、当該契約に基づいて相続人が実際に受け取った第1回目の年金の額である。
 そして、本件最高裁判決は、相続税の課税対象となる年金受給権の価額は、将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額に相当し、年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ、所得税法第9条第1項第15号(平成22年法律第6号による改正前のもの。本件非課税規定と同内容。以下同じ。)により所得税の課税対象とならないものとし、被相続人の死亡日を支給日とする第1回目の年金については、その支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するものと解されるから、全て所得税の課税対象とならない旨の判断をした。
(ロ) 本件最高裁判決の事案と本件の対比
A 本件最高裁判決の事案においては、被相続人の死亡によって保険金たる年金の支払事由が発生し、相続人が将来にわたって一定金額の年金を受け取るべき権利(年金受給権)が確定的に発生したことによって、相続人が支給を受ける年金の各支給額のうち被相続人死亡時の現在価値に相当する経済的価値が相続人の所得として実現したものであるから、所得税法第9条第1項第15号の適用の対象となったものということができるのに対して、本件においては、上記イの(ロ)のとおり、本件各みなし配当金に係る配当所得が、本件相続後に本件相続とは別の事由によって実現したものであって、本件相続を直接の原因として実現があったものとすることができないから、本件最高裁判決と本件は重要な点において事案を異にしているというべきである。
B また、本件最高裁判決の事案において、相続人が相続によって取得したものとみなされた年金受給権は、生命保険契約に従って年金の方法により各保険金の支給を受ける金銭的な基本債権であり、当該年金受給権の価額に相当する経済的価値は、年金の総額を超えてこれとは別に存在するものではないことから、年金の各支給額のうち被相続人死亡時の現在価値に相当する部分は、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができるのに対して、本件においては、上記イの(ハ)のとおり、本件相続の開始時から本件各分配金の支払時までの間に、本件会社の収支及び資産の状況に種々の変動があり、本件各分配金の額に相当する経済的価値は、本件相続税の課税対象となった本件株式の価額に相当する経済的価値と同一のものと評価することができないのであるから、この点においても、本件最高裁判決と本件では事案を異にしているというべきである。
C 以上のとおりであるから、本件における当審判所の判断は、本件最高裁判決に反するものではなく、請求人らの主張は採用することができない。
ハ 結論
 以上によれば、請求人らが支払を受けた本件各みなし配当金に係る配当所得が本件非課税規定にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」に該当するとは認められないから、本件所得税の確定申告書に記載された課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったものとすることはできない。
 よって、請求人らの各更正の請求に対し、原処分庁が行った更正をすべき理由がない旨の各通知処分(原処分)はいずれも適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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