(平成24年12月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、裁判上の和解により配当が取り消されたことを受けて、当該配当に係る収入金額は零円であり、当該配当につき源泉徴収をされた所得税の額は確定申告書記載の額であるから還付金の額に相当する税額が過少であるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該配当につき源泉徴収をされた所得税の額は請求人の所得税額の計算において算出所得税額から控除できないから還付金の額に相当する税額が過少である場合には当たらないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことに対し、請求人がその処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、平成18年分の所得税について、国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号に基づき、更正の請求期限内である平成23年11月18日に、別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、本件更正の請求に対して、平成23年12月20日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分に不服があるとして、平成24年2月13日に別表1の「異議申立て」欄のとおりとする異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成24年4月11日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして、平成24年5月9日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨等

 関係法令の要旨等は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成18年10月○日にC社(所在地:a市b町○−○)から、会社法第453条《株主に対する剰余金の配当》による配当として、別表2「不動産の明細」に記載された土地及び建物(以下「本件土地等」という。)の引渡しを受けた(以下、この配当を「本件配当」という。)。
ロ 本件土地等については、D地方法務局e支局において受付年月日平成18年10月○日、受付番号第○○号、原因を平成18年10月1日贈与とするC社から請求人への所有権移転登記が行われたが、その後、登記原因に錯誤があったとして、受付年月日平成18年11月○日、受付番号第○○号で、原因を会社法第453条による配当とする所有権更正登記が行われた。
ハ 請求人は、本件配当に係る源泉徴収による所得税(以下「本件源泉所得税」という。)に相当する金額をC社に支払った。
ニ 請求人が提出した上記(2)のイの確定申告書には、「平成18年分配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」が添付されており、当該支払調書の「配当等の金額」欄には○○○○円、「源泉徴収税額」欄には○○○○円及び「支払者」の「名称」欄には「C社」と記載されている。
ホ C社は、平成20年12月○日にE地方裁判所に対し破産手続開始を申し立てたところ、平成21年1月○日に破産手続開始決定を受け、同日、E地方裁判所は破産管財人(以下「本件破産管財人」という。)を選任した。
ヘ 本件破産管財人は、破産法第160条《破産債権者を害する行為の否認》第1項第1号に規定する否認権を根拠として、平成22年3月○日に請求人他1法人を被告とする訴訟(以下「本件訴訟」という。)をE地方裁判所に提起した。
ト 本件訴訟は、平成23年10月○日にE地方裁判所において和解(以下「本件和解」という。)が成立し、終結した。
 本件和解の要旨は、次のとおりである。
(イ) 原告(本件破産管財人)は、本件配当を取り消す。
(ロ) 被告(請求人)は、平成18年10月○日D地方法務局e支局受付第○○号により本件土地等についてされているC社から被告(請求人)への所有権移転登記について、上記(イ)に定める配当取消を原因とする抹消登記手続をする。
チ 本件土地等については、上記トに基づき、平成23年11月○日、D地方法務局e支局において受付番号第○○号、原因を平成23年10月27日配当取消として請求人の所有権抹消登記がなされた。

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2 争点

 本件源泉所得税は、本件和解後においても、所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」に該当することを理由に、本件更正の請求により還付を受けることができるか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
 本件和解後においても、本件源泉所得税は、次の理由から、所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」に該当するから、本件更正の請求によって請求人は還付を受けられる。  本件和解後においては、本件源泉所得税は、次の理由から、所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」に該当しないから、本件更正の請求は認められない。
(1) 源泉徴収は飽くまでも申告納税制度を補足するものとして位置づけられ、源泉徴収された税額は所得税法第120条第1項第5号の規定により確定申告で精算されることになる。
 本件の場合は、所得税法第181条の規定に基づいて、本件源泉所得税が適法に徴収・納付され、請求人はそれに基づいて適法に確定申告書を提出していたところ、その後、C社が破産手続開始決定を受け、本件破産管財人が本件訴訟を提起することとなり、本件和解が成立した結果、本件配当の全部が取り消されたものである。
 本件和解を受けて本件配当の全部が取り消された事実(以下「本件事実」という。)は、通則法第23条第2項第1号の後発的事由に該当するから、本件源泉所得税は、所得税法第120条第1項第5号の規定に基づいて精算されるべきものである。
(1) 源泉徴収による所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税に関しては、国と法律関係を有するのは源泉徴収義務者たる支払者のみで、租税負担者たる受給者との間には直接の法律関係を生じないものとされていることからすれば、所得税法第120条第1項第5号の規定は、申告により納付すべき税額の計算に当たり、算出所得税額から源泉徴収の規定に基づき徴収すべきものとされている所得税の額を控除することにより、源泉徴収制度との調整を図る趣旨のものであると解される。
 本件の場合は、納付の時には適法な国税の納付であったものが、その後に本件和解により本件配当そのものが取り消されたため、源泉徴収義務者である支払者が納付した税額が超過納付となったものであり、超過納付となった金員はその国税を納付した源泉徴収義務者たる支払者に対して還付すべきものである。
 したがって、本件和解後の本件配当に係る源泉所得税の額は、○○○○円ではなく零円となるから、請求人に係る所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」は、社会保険庁からの年金に係る源泉徴収税額○○○○円となる。
 これにより、請求人の課税標準等及び税額等を計算すると、本件事実に基づき請求人の課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更が生じているものの、通則法第23条第1項の還付金の額に相当する税額が過少であるときに該当しない。
(2) 最高裁判所平成22年7月6日第三小法廷判決(平成20年(行ヒ)第16号)(以下「本件最高裁判決」という。)の主旨は、課税処分の取消しであり、法的には本件と同じである。
 本件最高裁判決は、適法に源泉徴収されていれば年金の受給者が申告等の手続により直接還付を受けることを認めたものであり、源泉徴収義務者である生命保険会社に還付しようとするものではない。
 所得税法第207条の生命保険契約等に基づく年金に係る源泉徴収の規定も同法第181条の利子所得及び配当所得に係る源泉徴収の規定も同じ源泉徴収体系の中にあり、源泉徴収義務の規定も同一性格のものである。
 本件源泉所得税は、適法に徴収・納付されていたもので、請求人は適法に平成18年分の確定申告を行っていたところ、判決と同一の効力を有する本件和解により本件配当が取り消されたものであるから、本件最高裁判決を準用し、請求人は本件源泉所得税を申告等の手続により精算できるものである。
(2) 本件最高裁判決は、所得税法第207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は、当該年金が同法に定める所得として所得税の課税対象となるか否かに関わらず、その支払の際、その年金について同法第208条所定の金額を徴収し、これを所得税として国に納付する義務を負うものと解するのが相当であるとし、当該年金の支払者が第1回目の年金(以下「初回分年金」という。)についてした同条所定の金額の徴収は適法であるから、当該年金の受給者が所得税の申告等の手続において初回分年金に係る源泉所得税の額を算出所得税額から控除し又はその全部若しくは一部の還付を受けることは許されるとしたものである。
 したがって、所得税法第181条に規定する源泉徴収の対象となる配当そのものが取り消された本件と、本件最高裁判決とは事情を異にするものである。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法第120条第1項第5号にいう「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、所得税法の源泉徴収の規定に基づき正当に徴収をされた又はされるべき所得税の額を意味するものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、所得税の確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は当該誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないと解するのが相当である(最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決・民集46巻2号77頁参照)。
ロ 所得税法上、源泉所得税について徴収・納税の義務を負う者は源泉徴収の対象となるべき所得の支払者とされ、その納税義務は、当該所得の受給者に係る申告所得税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し、これと並存するものであり、そして、源泉所得税の徴収・納付に不足がある場合には、不足分について、税務署長は源泉徴収義務者たる支払者から徴収し(所得税法第221条)、支払者は源泉納税義務者たる受給者に対して求償すべきものとされており(同法第222条)、また、源泉所得税の徴収・納付に誤りがある場合には、支払者は国に対し当該誤納金の還付を請求することができ(通則法第56条)、他方、受給者は、何ら特別の手続を経ることを要せず直ちに支払者に対し、本来の債務の一部不履行を理由として、誤って徴収された金額の支払を直接に請求することができる(最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決・民集46巻2号77頁参照)。
ハ 所得税法第207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は、当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かに関わらず、その支払の際、その年金について同法第208条所定の金額を徴収し、これを所得税として国に納付する義務を負うものと解するのが相当である(本件最高裁判決・民集64巻5号1277頁参照)。

(2) 本件への当てはめ

イ 本件源泉所得税について
 本件源泉所得税は、C社が本件配当を請求人に対して支払った際には、本件配当が所得税法第24条第1項に規定する配当に該当することから同法第181条の規定が適用され、適法に源泉徴収されていたものである。しかしながら、本件和解により本件配当が取り消された後は、本件配当は当該支払の時点に遡って無効となって、本件配当には所得税法第24条第1項が適用されない。そして、同法第181条は同条が適用される源泉徴収の対象である配当を「第24条第1項(配当所得)に規定する配当等」と規定していることから、本件配当は同法第181条の適用対象にもならないこととなる。
 また、上記(1)のイのとおり、所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、源泉徴収の規定に基づき正当に徴収をされた又はされるべき所得税の額を意味すると解され、本件和解後においては、本件配当は源泉徴収の対象とならないことから、本件源泉所得税は同号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」に該当しない。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、本件源泉所得税は適法に徴収・納付されていたもので、適法に平成18年分の確定申告を行っていたのであり、判決と同一の効力を有する本件和解により本件配当が取り消されたことから、本件最高裁判決を次のことから準用し、本件源泉所得税を請求人自らの申告等の手続によって精算できるものである旨主張する。
 まる1源泉徴収は飽くまでも申告納税制度を補足するものとして位置づけられ、源泉徴収された税額は所得税法第120条第1項第5号の規定により確定申告で精算される。
 まる2本件最高裁判決は、適法に源泉徴収されていれば、年金の受給者が申告等の手続により直接還付を受けることを認めている。
 まる3所得税法第207条の生命保険契約等に基づく年金に係る源泉徴収の規定も同法第181条の利子所得及び配当所得に係る源泉徴収の規定も同じ源泉徴収体系の中にあり、源泉徴収義務の規定も同一性格のものである。
 しかしながら、次のことから、請求人の主張は採用できない。
 まる1上記(1)のロのとおり、所得税法上、源泉所得税について徴収・納税の義務を負う者は源泉徴収の対象となるべき所得の支払者とされ、その納税義務は、当該所得の受給者に係る申告所得税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し、これと並存するものと解される。
 まる2本件最高裁判決の要旨は、初回分年金は被相続人の死亡日を支給日とする年金であるから所得税法第9条《非課税所得》に該当するところ、上記(1)のハのとおり、同法第207条は同条が適用される源泉徴収の対象である年金を「第76条第3項第1号から第4号まで(生命保険料控除)に掲げる契約、第77条第2項(損害保険料控除)に規定する損害保険契約等その他政令で定める年金に係る契約に基づく年金」と規定し、初回分年金は同法第207条が適用される年金に該当するから、その支払をする者は、初回分年金が同法第9条の規定に該当するか否かに関わらず、その支払の際、その年金について同法第208条所定の金額を徴収し、これを国に納付する義務を負い、当該年金受給者が所得税の申告等の手続においてその徴収された税額を算出所得税額から控除し又はその全部若しくは一部の還付を受けることは許されるとしたものであり、同法第207条の源泉徴収義務について判断したものである。
 まる3本件配当が本件和解により取り消された後は、本件配当には、所得税法第24条第1項が適用されないことから同法第181条の規定も適用されなくなったものであり、本件最高裁判決が、源泉徴収義務についての法令の根拠がなくなった源泉所得税についても所得税の申告等の手続においてその精算を認めたものではないことは明らかである。
ハ まとめ
 上記イのとおり、本件和解後において、本件源泉所得税は所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」には該当しないことから、請求人の平成18年分の所得税の納付すべき税額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となる。そうすると、確定申告書に記載された納付すべき税額は△○○○○円であることから、通則法第23条第1項の還付金の額に相当する税額が過少である場合に該当しない。したがって、本件更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の本件通知処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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