(平成24年11月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人E(以下「請求人E」という。)の母の預金口座から出金された金員が、請求人Eの預金口座及び審査請求人G(以下、「請求人G」といい、請求人Eと併せて「請求人ら」という。)の預金口座に入金された後、請求人らの債務の返済に充てられているところ、原処分庁が、請求人らは、当該入金に係る金員を債務の返済に充てたことによって、請求人Eの母から相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで…利益を受けた」ものであるとして、請求人らに対してそれぞれ贈与税の決定処分等を行ったのに対し、請求人らが、当該入金は請求人Eの兄から使途不明金の返還を受けたものであって、請求人Eの母から相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで…利益を受けた」ものではないとして、各原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 請求人らの審査請求(平成23年12月22日請求)に至る経緯等は、別表1及び2のとおりである。
 なお、請求人らは、平成24年4月23日、請求人Eを総代として選任し、その旨を届け出た。

(3) 関係法令

イ 相続税法第9条は、対価を支払わないで利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
ロ 国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項第1号は、同法第25条《決定》の規定による決定があった場合には、当該納税者に対し、当該決定に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課するが、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らとその親族の関係等
(イ) 請求人Eは、亡H(以下「H」という。)と亡J(大正○年○月○日生まれ。以下「J」という。)の三男であり、Kは、HとJの次男、Lは、HとJの四男である。
(ロ) 請求人Gは、請求人Eの妻であり、Mは、請求人Eと請求人Gの長男である。
ロ Jの預金口座の資金移動及び請求人らの債務の返済
(イ) 平成17年10月11日午後3時9分、N銀行d支店に開設されていたJの普通預金口座(口座番号○○○○。以下「J口座」という。)から○○○○円が出金(以下「本件出金」という。)され、同時刻、当該金員により、同支店に開設されていた請求人Eの普通預金口座(口座番号○○○○。以下「E口座」という。)及び請求人Gの普通預金口座(口座番号○○○○。以下「G口座」という。)に各○○○○円が入金(以下「本件各入金」という。)された。
(ロ) 平成17年11月24日午後3時7分、G口座から○○○○円が出金され、同日午後3時8分、当該金員により、E口座に同金額が入金された。
(ハ) 平成17年11月30日、E口座から○○○○円が出金され、振替により、N銀行を債権者、請求人らを債務者とする証書貸付けに係る債務(顧客番号○○○○、借入日平成5年7月20日、当該振替前の残高242,926,981円。以下「本件債務」という。)の一部繰上返済(以下「本件返済」という。)に充てられた。

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2 争点

(1) 争点1

 請求人らについて、Jから相続税法第9条の「対価を支払わないで…利益を受けた」と認められるか否か。

(2) 争点2

 請求人らが贈与税の期限内申告をしなかったことについて、通則法第66条第1項の「正当な理由」があると認められるか否か。

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3 主張

(1) 争点1

イ 原処分庁
 請求人GがJに本件債務の返済に係る援助を求め、JがKに対し、Jの預金を当該返済に充当するよう指示したことにより、平成17年11月30日、本件返済がされたものであり、請求人らは、同日、対価を支払わないで、Jから、本件債務の減少という利益を受けた(相続税法第9条)ものである。
ロ 請求人ら
 請求人らがJに資金援助を求めた事実はなく、本件各入金は、請求人らがKに使途不明金の返還を求め、Kが請求人らに使途不明金の一部を返還したという単純な取引であって、相続税法第9条の「対価を支払わないで…利益を受けた」ものではない。

(2) 争点2

イ 原処分庁
 本件返済について作成された条件変更申込書の署名押印は請求人らが行ったものと思料されること、N銀行d支店の担当行員が本件返済について請求人らに説明していること、請求人GがJに本件債務の返済について援助を求めていたことからすると、請求人らは、本件返済について、J口座から返済資金が出捐されていることを全く知らなかったということに強い疑問があり、結局、請求人らは、対価を支払わずに本件債務が減少したという経済的利益を受けたことについて、相続税法上贈与税が課されることを知らなかったことが無申告となった原因であり、税法の不知にすぎないものであるから、正当な理由があるとはいえない。
ロ 請求人ら
 請求人GがJに対して本件債務の返済についての援助を求めた事実はなく、請求人らは、贈与税の申告期限において、本件出金の事実を知らなかったものである。また、仮に請求人らが本件返済のときに本件出金の事実を知っていたとしても、請求人らが自己の預金を本件返済に充てたとの認識にすぎないのであるから、贈与税の申告を要することを知り得ることとはならない。
 よって、仮に請求人らに贈与税が課されるとしても、請求人らが贈与税の期限内申告をしなかったことについて正当な理由が認められるべきである。

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4 判断

(1) 法令解釈

 相続税法第9条の趣旨は、同法第5条《贈与により取得したものとみなす場合》から第8条まで及び同法第1章第3節の規定に該当する場合を除き、法律的には贈与により取得した財産でなくても、その取得した事実によって実質的に贈与と同様の経済的利益を生ずる場合においては、税負担の公平の見地から、その取得した財産について、当該利益を受けさせた者からの贈与により取得したものとみなして贈与税を課税することとしたものと解される。
 上記の相続税法第9条の趣旨に照らせば、同条の「対価を支払わないで…利益を受けた」といえるかどうかは、当該利益を受けた者が当該利益を受けさせた者から実質的に贈与と同様の経済的利益を受けたと認められるか否かによって判断されることとなる。

(2) 認定事実

 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ E口座及びG口座について
(イ) 請求人らは、K夫婦及びL夫婦とともに、Hから、不動産の生前贈与を受け、第三者に当該不動産を賃貸して、賃料収入を得ていた。
(ロ) E口座及びG口座は、上記(イ)に記載の賃料収入の入金等に使用され、また、E口座は、本件債務の返済に係る出金等にも使用されていた。
ロ Kによる資金移動について
(イ) Kは、平成17年10月11日、N銀行d支店において、まる1J口座に係る預金払戻請求書に「J」と署名押印するなどして、本件出金を行い、まる2E口座に係る預金入金伝票に「E」と、また、G口座に係る預金入金伝票に「G」と、各署名するなどして、本件各入金を行った。
(ロ) Kは、平成17年11月24日、N銀行d支店において、まる1G口座に係る預金払戻請求書に「G」と署名押印するなどして、○○○○円を出金し、また、まる2E口座に係る預金入金伝票に「E」と署名するなどして、○○○○円を入金した。
(ハ) Kは、平成17年11月30日、N銀行d支店において、E口座に係る預金払戻請求書に「E」と署名押印するなどして、○○○○円を出金し、本件返済を行った。
ハ E口座及びG口座に係る通帳について
(イ) Kは、E口座及びG口座に係る各通帳及び各印鑑を預かり保管していたが、一時期請求人らに返却し、その後、平成17年10月及び11月当時はこれらを再び預かり保管中であった。
(ロ) E口座に係る通帳には、上記1の(4)のロの(イ)の平成17年10月11日の○○○○円の入金欄の横に、Kの手書きで「改修準備金より」と記載されている。
 また、同通帳には、上記1の(4)のロの(ロ)の平成17年11月24日の○○○○円の入金欄の横に、Kの手書きで「改修積立より」と記載されている。
ニ 平成17年頃のJの状況等について
(イ) Jは、平成16年5月21日付で、p市より、要介護状態区分を要介護○とする要介護認定を受けた。
 なお、要介護○とは、○○○○であるとされている。
(ロ) Jは、平成17年6月8日に実施された○○評価スケールで、30点満点中○○点であった。
 なお、当該スケールは、○○○○を問うものであり、○○点以下は○○○○の疑いありとされている。
(ハ) Jは、本件出金、本件各入金及び本件返済等が行われた平成17年10月及び11月当時、介護老人保健施設P(以下「本件介護施設」という。)に入所していたところ、「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」の○○○○と判定されていた。
 以上によれば、Jは、平成17年10月及び11月当時、軽度の認知症の状態にあったと推認される(なお、この点、請求人Gは、当審判所に対して、Jに○○○○などの症状はなかった旨答述するが、請求人らはJと起臥寝食をともにしていたわけではなく、Jの具体的な状況を指摘する答述内容でもないから、上記答述部分についての信用性は乏しい。)。
(ニ) 本件介護施設の外出・外泊届によれば、Jが平成17年9月1日から同年11月30日までの間に外出・外泊をした記録はなく、また、本件介護施設の面会者受付簿によれば、Jは、同年10月11日午後2時42分から午後3時15分までの間、本件介護施設において、四男のLと面会していた。

(3) K、請求人ら及びMの供述等

イ Kについて
(イ) Kの原処分庁に対する申述の要旨
A 本件出金、本件各入金及び本件返済等について
(A) Kは、平成17年10月11日、N銀行d支店において、本件出金及び本件各入金を行った。本件出金及び本件各入金に係る各伝票の筆跡は、Kのものである。
(B) Kは、平成17年11月24日、N銀行d支店において、G口座から○○○○円を出金し、E口座へ同額を入金した。当該出金及び入金に係る各伝票の筆跡は、Kのものである。
(C) Kは、平成17年11月30日、N銀行d支店において、E口座から○○○○円を出金し、本件返済をした。当該出金及び本件返済に係る各伝票の筆跡は、Kのものである。
B 本件返済の経緯について
 Kが上記Aの各行為をしたのは、Jから指示を受けたからである。つまり、請求人GがJに借金返済が大変だと頻繁に言っていたため、JがKにJの預金から当該借金を返済してやるよう指示をしたものである。
(ロ) Kの当審判所に対する答述の要旨
A 本件出金、本件各入金、本件返済及びその経緯等について
(A) Kは、Jから指示されて、平成17年10月11日、同年11月24日及び同年11月30日に、上記(イ)のAのとおり、本件出金、本件各入金及び本件返済等を行った。伝票がKの筆跡であることからして、間違いない。
 なお、記憶が定かではないが、○○○○円を請求人らの口座に入金したときか、G口座からE口座に○○○○円を振り替えたときに、JもN銀行d支店に一緒に行ったような気がする。
(B) 本件各入金の手続をしたこと自体を覚えていないので、Jからどのような指示があったか記憶にないが、この金額からして、Jが指示したと思う。また、指示は平成17年10月1日頃にあったと思う。指示を受けた場所は、自宅か、自家用車の中か、銀行だったと思う。
 Jからは、頻繁に、請求人らが資金援助を求めてきている旨を聞いていた。
(C) 本件出金に係る○○○○円について、本件債務の返済用口座に全額入金することなくE口座及びG口座に○○○○円ずつ入金した理由については、入金手続をしたこと自体を覚えていないので、分からない。
 また、本件各入金から本件返済まで1か月以上経過している理由については、記憶がなく、繰上返済をすることにした経緯に関する記憶もない。
(D) Kが本件出金及び本件各入金をした際、その事実を誰かに伝えたか否かは覚えていない。
B E口座及びG口座の管理状況等について
(A) Hは、生前、所有していた土地に建物を建て、K夫婦、請求人ら及びL夫婦の合計6名に、当該土地及び建物を負担付で贈与した。
 当該土地及び建物の賃料収入については、一旦、Hの預金口座に入金された後、N銀行d支店に開設された上記6名の各人の預金口座(E口座及びG口座を含む。)に入金されており、当該各口座の通帳等はHが管理していた。Hの死亡後、当該各口座の通帳等は、Jの自宅に保管しており、Kが預かっていたといえばそうともいえるが、請求人E及びLはJの自宅に出入り可能であり、保管場所を知っていた。
 E口座及びG口座の各通帳等については、平成14年頃に一旦返却した後、1年くらいたって再度預かり、最終的に平成16〜17年頃か平成18年頃に請求人らに返却したと思う。請求人らに1年ほど返却していた時期以外の期間は、Jの自宅に保管していた。
(B) E口座の通帳の平成17年10月11日及び同年11月24日の各○○○○円の入金欄の横に「改修準備金より」及び「改修積立より」と記載されているが、Jからこういうふうに書けと言われて書いたのか、善意に解釈して請求人らを保護するために記載したのか、記載の意図は分からないが、記載した記憶はないものの、筆跡はKのもので間違いないと思う。
C 使途不明金の有無について
 Kが、E口座及びG口座から資金を流用したという事実はない。
 なお、請求人らの長男であるMから、E口座及びG口座の残高が少なく、このままいくと借入金返済ができなくなることから、資金ショートしないよう当該各口座に資金を戻せば、事を荒立てない旨の説明があったのは記憶している。
ロ 請求人らについて
(イ) 請求人Eの原処分庁に対する申述の要旨
A 本件返済を知った経緯等について
 平成17年11月30日当時、家賃収入や借入金返済口座の通帳や印鑑はKが全て管理しており、請求人Eは、預けていた通帳が戻ってきた平成19年6月頃までは本件返済の事実を知らず、借入金が減少している理由についても分からなかった。
 本件返済に充てられた○○○○円は、今考えるとJの預金から移動してきたものであるが、Kに確認してもらわないと分からない。
B 本件出金を知った経緯等について
 請求人Eは、本件出金の事実について、調査で指摘されるまで知らなかった。
C Jから贈与を受けた事実の有無について
 請求人Eが、過去にJから贈与を受けたという事実はない。
(ロ) 請求人Gの原処分庁に対する申述の要旨
A 本件返済を知った経緯等について
 平成17年11月30日当時、E口座及びG口座の通帳や印鑑はKが全て管理しており、請求人Gは、預けていた通帳が戻ってきた平成19年6月頃までは本件返済の事実を知らなかった。(平成19年6月頃以降)借入金が減少していると分かったが、KがE口座及びG口座から出金した金を改修積立金の一部としてプールしていたものを返済に充てたと思っていた。
 KはG口座から勝手に預金を引き出しており、本件返済に充てられた○○○○円は、その金が一部返ってきたものだと思う。
B Jへの資金援助依頼の有無について
 請求人Gが、Jに対して、銀行借入の返済が大変なので資金を援助してほしいという話をしたことはない。
ハ Mについて
 請求人らの長男であるMが作成した平成24年2月22日付報告書の記載の要旨は、次のとおりである。
(イ) 請求人らが所有する不動産の管理の状況等
 請求人らの所有する不動産は、いずれも、昭和57年にKが主導した(Hからの)生前贈与によって取得されたものであり、請求人らの不動産収支を管理するE口座及びG口座の通帳と印鑑は、平成12年まではKによって管理されていたが、平成12年に請求人らがKから通帳と印鑑の返還を受けて確認したところ、預金残高が想定よりも数億円単位で少なかったと聞いている。
 そのため、請求人らは、Mが知る限り遅くとも平成15年頃には、KがE口座及びG口座から資金流用をしていたとの疑念を抱き、Kを問いただしていた。
(ロ) 使途不明金が判明した経緯等
 公認会計士であるMは、平成16年頃、請求人Gから、平成12年以前において、請求人らが第三者に賃貸していた土地の地代の一部が未収となっていた可能性がある旨の相談を受けた。
 そこで、Mは、請求人Gに対し、過去の通帳の記載を確認するよう助言したところ、請求人Gの話では、平成12年以前の分はKが通帳等を管理しており、返還してもらえなかったということであったため、MがN銀行d支店で平成12年以前の預金元帳を入手するよう助言し、請求人らは当該元帳を入手した。
 その後、請求人Gが未収地代の確認のために当該元帳を調査していたところ、平成12年以前に不透明な出金が繰り返されていたことに気が付いた。当該出金は、数百万円から数千万円単位の金額で複数回出金されており、その当時の事業の状況から考えても、また、請求人らが通帳等の返還を受けた平成12年以後の定期的な不動産収支の状況と比べても、明らかに異常な支出だと思った。
(ハ) KにE口座及びG口座の通帳と印鑑を再び預けることになった経緯等
 平成16年頃にはE口座及びG口座の残高が減少し、このままでは数年以内に資金ショートしかねない状況に陥っていたところ、平成12年以前の異常な支出が具体的に明らかとなり、その支出内容についてKから合理的な説明が得られなかったことから、請求人らは、Kに対して、より強く、資金流用によって発生した使途不明金の返還を求めたが、Kははぐらかすばかりだったとのことであり、強い危機感を覚えた請求人らは、Mに対応方を相談してきた。
 そこで、Mは、通帳と印鑑をKに押し付けることで、Kが使途不明金を返還せざるを得ない状況に追い込むという方法を提案した。このような方法を提案した理由は、KがN銀行d支店の初代支店長だった経歴があり、自ら連帯保証人になって本件債務を手配しただけでなく、K自身もN銀行に対して10億円以上の多額の借入金を負っていたため、そのような立場からすれば、E口座及びG口座を資金ショートさせることにより請求人らの本件債務の返済に支障を来すわけにはいかないはずであり、本件債務の返済を継続させるためには使途不明金を返還せざるを得ないだろうと考えたためであった。
(ニ) 平成17年7月にKにE口座及びG口座の通帳と印鑑を再び預けた際の状況等
 Mは、平成17年7月、Kに連絡を取って面会した。
 Mは、上記面会時、E口座及びG口座の通帳を見せて、少ない預金残高を示し、このままでは本件債務の返済ができなくなることを説明した上で、「この通帳に資金を戻してくれれば、資金流用について事を荒立てるつもりはない」と説得したところ、Kは、うなずいてE口座及びG口座の通帳と印鑑を受け取った。

(4) 争点1について

イ はじめに
 本件について、原処分庁は、請求人らが本件返済によりJから「対価を支払わないで…利益を受けた」(相続税法第9条)として課税をしていることから、請求人らが本件返済によりJから実質的に贈与と同様の経済的利益を受けたと認められるか否かが問題となる。
 そして、本件返済の経緯について、原処分庁は、Kが原処分庁にした申述に基づき、請求人GがJに資金援助を求め、Jがこれに応じて本件各入金をしたことにより本件返済がされたとの事実を認定し、当該事実に基づいて、請求人らが本件返済によりJから対価を支払わないで利益を受けたものである旨を主張するのに対し、請求人らは、請求人GがJに本件返済に係る資金の援助を申し入れたことはない旨申述して、請求人GがJに資金援助を求めた事実を否定するとともに、そもそも本件各入金は請求人らがKに返還を求めていた使途不明金の返還であり、請求人らがJから対価を支払わないで利益を受けたものではない旨を主張する。
ロ 本件返済の経緯についてのKの供述の信用性について
 そこで、原処分庁が課税の根拠とする、本件返済の経緯についてのKの供述(原処分庁に対する申述及び当審判所に対する答述)の信用性について判断する。
(イ) まず、本件返済の経緯について、Kは、まる1請求人Gから資金援助の依頼を受けたJから指示を受けた旨、まる2指示を受けたのは平成17年10月1日頃だったと思う旨、まる3指示を受けた場所は自宅か自家用車の中か銀行だったと思う旨、申述又は答述する(上記(3)のイの(イ)のB及び(ロ)のAの(B))。
 しかしながら、Kは、上記申述及び答述のいずれにおいても、当該指示の内容に係る具体的な供述を全くしていない。
 また、Jから指示を受けた場所に係るKの答述は、曖昧である上、平成17年9月1日から同年11月30日までの間にJが本件介護施設から外出・外泊していないという客観的事実(上記(2)のニの(ニ))と矛盾するものである。
(ロ) 次に、E口座の通帳の平成17年10月11日及び同年11月24日の各○○○○円の入金の記載の横に「改修準備金より」及び「改修積立より」とのKの手書きの記載が存在すること(上記(2)のハの(ロ))に照らすと、Kは、当時管理していたE口座の通帳に上記記載をした上で、請求人らにこれを返還したものと認められる。
 しかしながら、仮に、本件返済の経緯が、上記(3)のイのKの申述及び答述のとおり、Jが請求人Gから資金援助の依頼を受けKにJ口座の預金を原資に本件返済をするよう指示したというものであったならば、Kは、E口座の通帳に「改修準備金より」及び「改修積立より」などと記載して、当該各入金の原資がJ口座の預金であることを隠蔽して当該通帳を返還する必要性は全くないはずであり、Kの行動は、自らの供述を前提とすると不可解なものといわざるを得ない。
 加えて、上記記載をした理由についてのKの答述は、Jからこういうふうに書けと言われて書いたのか、善意に解釈して請求人らを保護するために記載したのか、記載の意図は分からないが、記載した記憶はないものの、筆跡はKのもので間違いないと思うなどという極めて曖昧なものであり(上記(3)のイの(ロ)のBの(B))、Kの行動を合理的に説明するものではない。
(ハ) また、仮に、本件返済の経緯が、上記(3)のイのKの申述及び答述のとおり、Jが請求人Gから資金援助の依頼を受けKにJ口座の預金を原資に本件返済をするよう指示したというものであったならば、J口座から本件出金をした後、直ちに、全額の○○○○円を本件債務の返済用口座であるE口座に直接入金し、本件出金及び当該入金の各事実を請求人らに伝えるのが自然な行動と考えられる。
 しかしながら、Kは、本件出金に係る○○○○円をわざわざE口座とG口座に分けて本件各入金を行い、しかも、本件出金から1か月以上経過した後になってようやく本件返済をする(上記1の(4)のロ)という自らの供述を前提とすると不可解な行動をとっており、しかも、上記行動をとった理由について、分からない、記憶がないなどの極めて曖昧な答述に終始し(上記(3)のイの(ロ)のAの(C))、本件出金及び本件各入金の各事実を誰かに伝えたか否か覚えていない旨の極めて曖昧な答述をしており(上記(3)のイの(ロ)のAの(D))、やはり、自らの行動の合理性を全く説明できていない。
(ニ) さらに、Kは、平成17年10月11日の本件各入金時又は同年11月24日のG口座からE口座への○○○○円の入金時にJもN銀行d支店に同行したような気がする旨を答述する(上記(3)のイの(ロ)のAの(A))が、平成17年9月1日から同年11月30日までの間にJが本件介護施設から外出・外泊していないこと、及び同年10月11日午後2時42分から午後3時15分までの間、Jが本件介護施設においてLと面会していたことという客観的事実(上記(2)のニの(ニ))と矛盾する内容である。
(ホ) 以上からすれば、本件返済の経緯についてのKの供述は曖昧であり、供述内容自体が客観的事実と矛盾し、あるいは客観的事実に基づいて通常人がとると考えられる行動に反する不合理なものであるから、これを信用することはできないというべきである。
ハ その他
(イ) 加えて、当審判所の調査の結果によっても、請求人GがJに資金援助を求め、Jがこれに応じた結果、本件返済がされたという事実を認めるに足りる証拠は見当たらず、当該事実を認めることはできない。
(ロ) なお、原処分庁は、請求人らは本件返済について作成された平成17年11月21日付の条件変更申込書に署名押印しており、また、N銀行d支店の担当行員が本件返済について請求人らに説明していることからして、本件返済を知らなかったとの請求人らの主張には強い疑問がある旨を主張する。
 この点、請求人らが上記条件変更申込書に署名押印しているという客観的事実等に照らすと、請求人らは、遅くとも上記条件変更申込書に署名押印した時点において、本件返済がされる事実を全く知らなかったとは考え難いところである。
 しかしながら、仮に請求人らにKが本件返済を行うことについての認識があったとしても、そのことが直ちに、請求人GからJへの資金援助の依頼の事実や、本件返済の原資がJ口座の預金であることの認識まで推認させるものではなく(KがしたE口座の通帳への記載をみると、Kは、請求人らに対して、当該各入金の原資が改修準備金等の名目でKが正当に管理していた金員であるかのように装い、実際の原資がJ口座の預金であることを隠蔽しようとしたものと考えられ、そうすると、請求人らが本件返済の原資がJ口座の預金であることを知らなかったとしても不自然であるとまではいえない。)、また、Kの供述の信用性を高めるものでもない。
ニ 各決定処分について
(イ) そして、本件においては、平成17年10月及び11月当時Jが軽度の認知症の状態にあったと認められる(上記(2)のニの(ハ))上、当審判所の調査の結果によっても、他にJが本件返済を認識し、事前事後に本件出金を承諾していたと認めるに足りる証拠も見当たらないから、結局、請求人らが本件返済によりJから実質的に贈与と同様の経済的利益を受けた事実を認めることはできない。
 したがって、本件においては、請求人らが本件返済によりJから「対価を支払わないで…利益を受けた」(相続税法第9条)とは認められない。
(ロ) なお、原処分庁は、請求人らが本件返済によりJ以外の者(K)から実質的に贈与と同様の経済的効果を受けた旨の主張立証はしておらず、当審判所の調査の結果によってもかかる事実を認めるに足りる証拠は見当たらない(この点、請求人らとKとの間では、KによるE口座及びG口座からの資金流用による使途不明金の有無について争いが存するが、請求人らが、Kに対して、E口座及びG口座からKが資金を流用したとして、Mを通じて強く使途不明金の返還を求めていたという点については、Kの答述及びMの報告書の内容が一致しているから、当該事実が認められるというべきである。そして、KがE口座の通帳に本件返済の原資を隠蔽するための記載をしていること(上記ロの(ロ))や、わざわざE口座とG口座に分けて本件各入金をしていること(上記(2)のロの(イ))も併せ考えると、KによるE口座及びG口座からの使途不明金が存在する可能性を否定することはできないというべきである。)。
(ハ) 以上からすれば、原処分庁が請求人らに対して平成23年6月29日付でした平成17年分の贈与税の各決定処分は違法であるから、その全部が取り消されるべきものである。

(5) 争点2について

 上記(4)のニのとおり、原処分庁が請求人らに対して平成23年6月29日付でした平成17年分の贈与税の各決定処分は違法でありその全部が取り消されるべきものであるから、通則法第66条第1項が適用される前提を欠く。
 したがって、原処分庁が請求人らに対して平成23年6月29日付でした無申告加算税の各賦課決定処分は違法であるから、その全部が取り消されるべきものである。

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