(平成24年11月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人D及び同F(以下、両名を併せて「請求人ら」という。)が、相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、鑑定評価額で申告した土地の中に財産評価基本通達14−3《特定路線価》に定める路線価(以下「特定路線価」という。)をもって評価すべきものがあるなどとして更正処分を行ったのに対し、請求人らが、当該土地の価額は同通達14《路線価方式》に定める路線価(以下「路線価」という。)をもって評価すべきであるとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成20年12月○日に死亡したG(以下「本件被相続人」といい、本件被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)の共同相続人であり、本件相続に係る相続税について、別表1「当初申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限内に提出した。
ロ 請求人らは、平成22年10月8日、別表1「更正の請求」欄記載のとおり、それぞれ本件相続に係る相続税の更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、平成23年7月29日付で、請求人らに対し、それぞれ別表1「更正処分」欄記載のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)を行った。
ハ 請求人らは、本件各更正処分を不服として、平成23年9月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年12月20日付で、当該申立てをいずれも棄却する異議決定をした。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年1月20日に審査請求をするとともに、同日、Dを総代として選任する旨を届け出た。

(3) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る共同相続人は本件被相続人の子である請求人ら2名である。
ロ 請求人らは、別表2の順号1から順号5Cまでの土地(以下、順号1の土地を「本件1土地」といい、他の順号の土地についても同様に表記する。)などを本件相続により取得した。
ハ 本件1土地、本件2土地、本件3土地及び本件4土地(以下、これらを併せて「本件各土地」という。)上には、それぞれ建物1棟(以下、これらの建物を併せて「本件各建物」という。)が所在しており、本件各建物は、本件相続の開始時において、共同住宅として貸付けの用に供されていた。
ニ 本件5A土地は、本件5B土地を経てa市道○号線(以下「本件市道」という。)に接続しており、本件相続の開始時において、公衆用道路として使用されている私道であった。
ホ 本件5A土地及び本件5B土地は、建築基準法第42条《道路の定義》第1項第5号に規定する位置指定道路(以下、本件5A土地及び本件5B土地を併せて「本件位置指定道路」といい、本件5C土地と併せて「本件位置指定道路等」という。)に指定されている。
 なお、本件各土地及び本件位置指定道路等の形状・接道状況等は、別図のとおりであり、本件各土地は本件位置指定道路にのみ接道している。
ヘ H国税局長が定めた平成20年分の財産評価基準によれば、本件市道に付された路線価は、1平方メートル当たり195,000円(以下「本件路線価」という。)である。
ト 請求人らは、平成21年4月26日に、本件各土地、本件各建物及び本件位置指定道路等(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)を売買代金121,000,000円で譲渡した。
チ Dは、平成21年8月12日に、E税務署長に対し、本件相続に係る相続税の申告に必要であるとして、本件5A土地について特定路線価の設定を求める申出をした。
リ これに対し、E税務署長は、平成21年9月9日付で、本件5A土地を路線とみなし、平成20年分の特定路線価を1平方メートル当たり170,000円(以下「本件特定路線価」という。)と設定してD宛に回答した。
ヌ 請求人らは、平成21年10月26日に、本件各土地の価額を不動産鑑定士による鑑定評価額とするなどして、本件相続により取得した財産の価額を別表3「申告額」欄記載のとおりとする相続税の申告をした。
ル 本件各更正の請求は、本件相続により取得した土地の中に評価通達24−4《広大地の評価》に定める広大地の評価を適用すべきものがあるとして、別表3「更正の請求の額」欄記載の金額に更正することを求めるものであった。
ヲ 本件各更正処分は、本件各更正の請求に係る土地の評価額につきその請求を認めた上で、別途、請求人の申告に係る本件各土地及び本件位置指定道路等の鑑定評価額が時価よりも低いとして、まる1本件各土地については、本件特定路線価により、また、まる2本件位置指定道路等については、本件路線価により算定した価額に基づいてされた処分である。

(5) 争点

 本件各土地の価額は、本件特定路線価により算定すべきか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件各土地の価額は、以下の理由のとおり、本件特定路線価により算定すべきであり、それにより算定すると、別表3「原処分庁主張額」欄記載のとおりとなる。
イ まず、評価方法の選択については以下のとおりである。
 本件位置指定道路は、本件各建物を建築するため、建築基準法の規定により位置指定道路として指定された私道であり、本件各建物の賃借人等の通行の用に供されていることが認められる。また、本件各土地に係る平成20年度の1平方メートル当たりの固定資産税評価額は、ほぼ同水準であることが認められる。このような本件各土地及び本件位置指定道路の利用状況並びに地区の別等を併せ考慮すれば、本件位置指定道路に平成20年分の路線価が付されていないことを理由に、本件路線価を正面路線価として画地調整を行って評価することは、必ずしもその実情に即しているとはいえず、このような評価方式を採用してまで本件各土地の間に価格差があるとして評価する合理的な理由も見当たらない。
 よって、本件各土地の価額は、本件5A土地を路線とみなして設定された本件特定路線価を正面路線価として評価するのが相当である。
ロ また、具体的な特定路線価の評定については、以下のとおりである。
 評価通達14−3で、特定路線価は、その特定路線価を設定しようとする道路に接続する路線及びその道路の付近に設定されている路線価を基に、その道路の状況、地区の別等を考慮して税務署長が評定することとされている。そして、特定路線価の存する地域の路線価と、a市長が定めた平成20年度の固定資産税の路線価(以下「固定資産税路線価」という。)の均衡が取れている場合には固定資産税路線価との格差によって評定することが妥当であると認められるところ、本件各土地のある地区はこの均衡が取れていることから、本件特定路線価は、本件市道と本件位置指定道路との固定資産税路線価の格差によって評定しており、妥当な額である。

(2) 請求人ら

イ 請求人らは相続開始の4か月後に本件不動産を売買代金121,000,000円で譲渡しており、当該譲渡について、売り急ぎや買い進みなどの特殊事情は存在せず、当該売買代金は実勢価格と大きく異なるところはない。しかるに原処分庁の本件不動産に係る相続税評価額は、この金額を大きく上回っている。また、相続税評価額は、一般的には固定資産税評価額より1割高い水準であるところ、原処分庁が算定した本件各土地に係る相続税評価額は、固定資産税評価額より約3割高い水準であり格段に高い。
 したがって、本件各土地の価額については、本件路線価を正面路線価として画地調整を行って算定した方が、別表3「請求人主張額」欄記載のとおり、より課税の安全性及び公平性を反映した妥当な価額となるから、この方法により評価すべきである。
ロ 仮に、本件各土地の価額の算定に当たり、特定路線価を設定すべきであるとしても、本件特定路線価は、本件位置指定道路に付された固定資産税路線価124,000円に比し、かなり割高であるから、本件5A土地を路線とみなして設定される特定路線価は、路線価と固定資産税路線価の一般的な格差水準からみて、140,000円程度が妥当である。

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3 判断

(1) 法令解釈等

イ 相続税法第22条は、相続によって取得した財産の価額は、同法に特別の定めがある場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここでいう時価とは、当該財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、相続財産の評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされており、当該取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
ロ そして、路線価の設定されていない道路のみに接している宅地については、その道路に接続する路線に設定された路線価(評価通達14)を基に画地調整を行って評価することができるが、このように評価することが実情に即さない場合には、当該路線価の設定されていない道路のみに接している宅地を評価するために、評価通達14−3の定めにより、税務署長は、納税義務者からの申出等に基づき、特定路線価を設定することができることとされている。この特定路線価を設定して評価する趣旨は、評価対象地が、路線価の設定されていない道路のみに接している場合であっても、評価対象地の価額をその道路と状況が類似する付近の路線価の設定された路線に接する宅地とのバランスを失することのないように評価しようとするものであって、この評価方法は、当審判所においても相当と認められる。このような趣旨からすると、特定路線価は、路線価の設定されていない道路に接続する路線及び当該道路の付近の路線に設定されている路線価を基にその道路の状況、評価しようとする宅地の所在する地区の別等を考慮して評定されるものであるから、その評定において不合理と認められる特段の事情がない限り、当該特定路線価に基づく評価方法は、路線価の設定されていない道路にのみ接続する路線に設定された路線価を基に画地調整を行って評価する方法より合理的であると認められる。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
イ 本件位置指定道路の固定資産税路線価は、1平方メートル当たり124,000円である。
ロ 本件各土地の周辺に位置する道路(本件市道を含めて以下「本件各道路」という。)の路線価及び固定資産税路線価は別表4のとおりである。
ハ 原処分庁は、本件市道及び本件位置指定道路に付された各固定資産税路線価の割合に本件路線価を乗じる方法により本件特定路線価を算定した。

(3) 争点について

イ 本件各土地は、上記1(4)ホのとおり、路線価の付されていない道路のみに接しており、本件各土地が接する本件位置指定道路には、上記1(4)チ及びリのとおり特定路線価が設定されていることから、その価額の評価方法は上記(1)ロに示したとおり、本件位置指定道路に設定された特定路線価がその評定において不合理と認められる特段の事情がない限り当該特定路線価を正面路線価として評価するのが相当である。
 そこで、本件特定路線価の評定についてみると、本件各道路の各路線価及び各固定資産税路線価については別表4のとおりであり、本件位置指定道路の路線価及び固定資産税路線価とのバランスが取れていることから、上記(2)のとおり算定されている本件特定路線価の評定において不合理とみられる特段の事情は見当たらない。
 したがって、本件各土地の価額は、本件特定路線価を正面路線価として算定するのが相当である。
ロ 以上のとおり、本件特定路線価の評定において不合理とみられる特段の事情はないのであるから、本件路線価を正面路線価として算定した価額の方が妥当であるという請求人らの主張は採用できず、また、仮に特定路線価を設定するにしても設定すべき特定路線価は140,000円程度が妥当であるという請求人らの主張も理由がない。

(4) 本件各更正処分について

 以上によれば、本件各更正処分は、いずれも争点につき取り消すべき理由はなく、当審判所の調査の結果によれば、請求人らが本件相続により取得した財産の価額、課税価格及び納付すべき税額は、別表3の「原処分庁主張額」欄記載の額と同額となり、いずれも別表1の「更正処分」欄記載の本件各更正処分の課税価格及び納付すべき税額を上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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