(平成24年10月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人F、同H、同J(以下、順に「請求人F」、「請求人H」及び「請求人J」といい、これら3名を併せて「請求人Fほか2名」という。)及び同K(以下、「請求人K」といい、請求人Fほか2名と併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した建物及び土地について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達をいい、以下「評価基本通達」という。)に基づき、貸家及び貸家建付地として評価するなどして相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該建物は自用家屋、当該土地のうち、同建物の敷地部分は自用地、残りの部分は賃借権の目的となっている雑種地として評価すべきであるなどとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことから、請求人らがその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成20年12月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したL(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、法定申告期限までに別表1の「期限内申告」欄のとおり申告した。
ロ 請求人らは、平成22年1月12日、原処分庁に対し、相続した土地の一部の評価額が過大であり、また、債務の計上漏れがあったとして、本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべきとする更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、平成22年4月9日付で、上記ロの更正の請求の内容の一部を認め、本件相続税について、別表1の「減額更正」欄のとおり、請求人らに対する各更正処分をした。
ニ 原処分庁は、平成23年4月27日付で、上記ロにおいて請求人らが過大であると主張した評価誤り以外の評価誤りがあったとして、本件相続税について、別表1の「更正処分等」欄のとおり、請求人らに対する各更正処分及び請求人Fほか2名に対する過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人Fほか2名は、平成23年6月23日、上記ニの各更正処分及び本件各賦課決定処分に不服があるとして、別表1の「異議申立て」欄のとおり、全部の取消しを求める異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をそれぞれしたところ、異議審理庁は、同年9月22日、別表1の「異議決定」欄のとおり、請求人Fの申立てについてはいずれも棄却し、請求人H及び請求人Jの申立てについては、土地等に評価誤りがあり、また、本件相続税に係る相続税額の各相続人へのあん分割合の計算に誤りがあったとの理由によりそれぞれ更正処分の一部を取り消し、賦課決定処分についてはいずれも棄却する異議決定(以下「本件異議決定」という。)をした(本件異議決定を経た後の上記ニの各更正処分を、以下「本件各更正処分」という。)。
ヘ 請求人Fほか2名は、平成23年10月20日、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に不服があるとして審査請求をし、同日、請求人Fを総代として選任し、その旨を届け出た。
ト 原処分庁は、平成23年10月31日付で、本件異議決定と同旨の理由により、本件相続税について、別表1の「再更正処分等」欄のとおり、請求人F及び請求人Kに対する各再更正処分(以下「本件各再更正処分」という。)並びに請求人Fに対する過少申告加算税の賦課決定処分をした。
チ 請求人F及び請求人Kは、平成23年11月24日、本件各再更正処分及び上記トの賦課決定処分を不服として、異議申立てをそれぞれしたところ、異議審理庁は、国税通則法(平成23年12月法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項に基づき、当該各異議申立てに係る異議申立書を国税不服審判所長に送付した。
 上記各異議申立書は、平成23年12月14日に当審判所に送付されたため、通則法第90条第3項により、同日、審査請求がされたものとみなされることから、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に対する審査請求と併合審理する。
 なお、請求人らは、上記によりみなされた審査請求を含む本審査請求について、平成24年2月10日、請求人Fを総代として選任し、当審判所に対して、その旨を届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙6のとおりである(なお、略称等は本文中の例による。)。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人は、本件相続開始日である平成20年12月○日に死亡した。
 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人K、同長男である請求人F、同長女である請求人H及び同二女である請求人Jの4名である。
ロ 本件被相続人の相続財産の中には、別表2「不動産目録」記載の建物及び各土地(以下、順号1の建物を「本件A建物」、順号2の土地を「本件A−1土地」、順号3の土地を「本件A−2土地」(なお、本件A−1土地及び本件A−2土地を併せて「本件A土地」という。)、順号4の土地を「本件B土地」、順号5の土地を「本件C土地」、順号6の土地を「本件D土地」といい、本件A土地ないし本件D土地を併せて「本件各土地」という。)があった。
ハ 本件各土地は、いずれも、m鉄道d線a駅○口(以下「a駅○口」という。)から北西に約200メートル先に位置しており、同駅から通ずる公道(以下「e線」という。)と公道f号線とが交差するa駅○口交差点(以下「本件交差点」という。)に接する平坦な土地であり、形状、接面する道路との位置関係及び当該道路に付されている平成20年分の路線価(評価基本通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)等については、別紙7のとおりである。
ニ 本件交差点の各隅切り部分の歩道上には、いずれも、公道f号線を横断するための地下歩道(以下「本件地下歩道」という。)の出入口が配置されている。
ホ 本件地下歩道の出入口は、いずれも、約80センチメートルの土台の上に金属性の枠組みと透明のポリカーボネート板(プラスチック)によってドーム型に覆われており、その設備は地上からの高さが最高部で約4メートル、最低部で約2.5メートル、出入口の間口が約3メートルの緩やかに弧を描いた長さ約11メートルの構築物である(当該構築物を以下「本件地下歩道施設」という。)。
ヘ 本件異議決定を経た後の原処分における本件A建物及び本件各土地の価額及びその計算の根拠は、別表3のとおりである。
ト 請求人らが本審査請求において主張する本件A建物及び本件各土地の価額及びその計算の根拠は、別表4のとおりである。

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2 争点

(1) 本件各更正処分は、通則法第24条《更正》に規定する「調査」を欠く違法な処分か否か(争点1)。
(2) 本件各再更正処分は、通則法第26条《再更正》に規定する「調査」を欠く違法な処分か否か(争点2)。
(3) 本件A建物は、貸家として評価されるべきか否か(争点3)。
(4) 本件A土地は、まる1貸家建付地として評価されるべきか否か、まる2本件地下歩道施設のしんしゃくを要するか、まる3整形地の想定方法をどのように考えるべきか(争点4)。
(5) 本件B土地は、本件地下歩道施設のしんしゃくを要するか(争点5)。
(6) 本件C土地は、本件地下歩道施設のしんしゃくを要するか(争点6)。
(7) 本件D土地は、整形地の想定方法をどのように考えるべきか(争点7)。

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3 争点1及び2について(本件各更正処分及び本件各再更正処分は、通則法第24条及び同法第26条に規定する「調査」を欠く違法な処分か否か。)

(1) 主張

イ 請求人ら
(イ) 本件各更正処分について
 通則法第24条が「税務署長は、納税申告書の提出があった場合において(中略)その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。」と規定していることに鑑みると、同条は、更正処分が課税庁の調査に基づいてされることを予定しているものと解すべきであり、その調査手続に重大な瑕疵があって更正処分が全く調査に基づかずにされたものと同視することができるような場合、当該瑕疵は、これに基づく更正処分の違法事由となるものである。
 そして、通則法第24条に規定している調査には、税務職員による調査結果の説明が含まれるところ、本件各更正処分は、原処分庁所属の調査担当職員が、課税の根拠としている反面調査で得た本件A土地の賃借人の担当者の申述を請求人らに秘匿し当該申述を把握させないことにより、反論の機会を奪うという、調査手続に重大な瑕疵があるものであり、全く調査に基づかずにされたものと同視することができる場合に当たるから、本件各更正処分は同条に規定する「調査」を欠く違法な処分というべきである。
(ロ) 本件各再更正処分について
 通則法第81条《異議申立書の記載事項等》第2項は、異議申立てがされている税務署長を「異議審理庁」と定義し、同じ税務署長であっても、通則法第26条に規定する原処分庁としての税務署長と明確に区別する。このことに照らすと、通則法第26条に規定する「調査」は、異議調査とは別の担当者によってされるべきものである。
 また、通則法における調査については、「納税義務者に対して、口頭又は書面による質問、帳簿書類その他の物件の検査という方法で行われる」べきであるところ、本件各再更正処分に関して、請求人らは、異議担当者以外の者から上記趣旨の調査を受けた事実はない。
 したがって、本件各再更正処分は、本件各更正処分に対する異議申立てに係る異議審理庁所属の異議担当者による調査のみに基づきされたものであり、通則法第26条に規定するところの原処分庁所属の調査担当職員による調査がないままされたものであるから、本件各再更正処分は同条に規定する「調査」を欠く違法な処分である。
ロ 原処分庁
(イ) 本件各更正処分について
 課税処分の適否は客観的な課税要件等の存否によって決まるものであり、税務調査は、これらの要件に該当する事実の存否を調査するための手続にすぎないことから、仮に調査手続に何らかの瑕疵があったとしても、当該調査手続に基づく処分が当然に違法になるものではなく、全く調査を欠く場合か、公序良俗に反するような方法で処分の基準資料を収集するなど調査が存在しないと同視できるほどの重大な瑕疵がある場合に限って、初めて調査手続上の瑕疵が課税処分の取消事由になり得るものである。
 本件における調査で、全く調査を欠いていた事実はなく、また、当該調査が公序良俗に反する方法でされたといった調査が存在しないと同視できるほどの重大な瑕疵の存在を根拠づける事情も見当たらず、原処分庁所属の調査担当職員が反面調査の内容を請求人らに開示していなかったからといって、本件各更正処分が違法となるものではないというべきである。
 また、請求人らは、委任した税理士が平成23年1月14日付書面により反論を行っているとおり、反論の機会を奪われた事実はない。
(ロ) 本件各再更正処分について
 通則法第26条にいう調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じて課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものであり、いわゆる机上調査のような課税庁内部における調査を含むものと解される。
 また、通則法上、税務署の異議申立てに係る担当者とその後にされた各再更正処分の担当者が同一の者であってはならないとする旨の規定は見当たらない。
 そして、本件各更正処分に係る異議申立ての調査の過程で事案を検討した本件の異議担当者は、本件各更正処分において請求人らの相続税の納付すべき税額の計算に誤りがあること及び請求人らが相続により取得した土地の一部に評価誤りがあることを把握し、過少となっていた相続税額について、異議決定とは別異に、本件各再更正処分をしたものであるから、通則法第26条の規定に反する違法はない。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 通則法第24条及び同法第26条が、「その調査により」、更正処分及び再更正処分を行う旨規定していることに鑑みると、法は、更正処分及び再更正処分が課税庁の調査に基づいてされていることを予定しているものと解される。
 したがって、調査手続に重大な瑕疵があって、当該更正処分及び再更正処分が全く調査に基づかずにされたのと同視できるような場合には、当該調査手続の瑕疵は、これに基づく更正処分及び再更正処分の違法事由となるものと解すべきである。
(ロ) ここにおいて、通則法第24条及び同法第26条に規定する「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令解釈を経て更正処分又は再更正処分に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念であるところ、法がその方法、時期等の具体的手続について何ら規定していないことからすると、調査の方法、時期、範囲に関しては、課税庁の合理的な裁量に委ねられており、課税庁が必要と判断する範囲及び程度において調査し、それをもって足りるものと解され、また、課税庁内部において既に収集した資料等を基礎として正当な課税標準等又は税額等を求めることも「調査」に含まれるものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各更正処分に至る経緯
 本件各更正処分に係る原処分庁所属の調査担当職員は、平成22年9月16日、本件相続税について、税務代理人である税理士2名の立ち会いの下、相続税法第60条《当該職員の質問検査権》に基づき、請求人F及び請求人Kに対する質問並びに本件被相続人の遺産に関する書類等の確認などの調査を実施し、同日以後も反面等の調査を行った結果、土地の評価等に係る問題点を把握し、同年10月18日、請求人F及び当該税理士に対し、把握した上記問題点の指摘を行った。
 平成22年10月26日以降、当該指摘事項に係る処理について両当事者間における検討等がされ、請求人らの税務代理人である税理士は、原処分庁に対し、平成23年1月14日、同日付の「相続税の調査指摘事項に対する反論書」と題する書面を提出して、反論を行った。
 請求人らは、原処分庁が行った修正申告のしょうようには応じず、本件各更正処分がされるに至った。
 なお、原処分庁所属の調査担当職員が、本件各更正処分がされる前に、請求人らに対し、反面調査の内容を説明したことはなかった。
(ロ) 本件各再更正処分に至る経緯
A 本件異議決定では、別表3のとおりの本件各土地の価額の判断のほか、他の土地の評価誤りと相続税額のあん分割合の計算誤りが併せて判断されており、これにより、請求人H及び請求人Jに対しては、本件相続税の納付すべき税額が減少するとして、平成23年4月27日付でされた各更正処分の一部を取り消すこととされ、一方、請求人Fに対しては、納付すべき税額が増加するとして、異議申立てを棄却することとされた。
B 本件異議決定の後、平成23年10月4日から同月20日までの間、原処分庁所属の本件異議申立てに係る担当職員以外の職員によって、本件異議決定における本件相続税額の計算等、その内容について再度の検討がされた。
ハ 当てはめ
(イ) 本件各更正処分について
A 上記ロの(イ)のとおり、本件各更正処分は、原処分庁所属の調査担当職員がした相続税法第60条に基づく質問、検査や、反面調査等の調査の結果を踏まえてされたものであるから、通則法第24条に規定する「調査」を欠くものとは認められない。
B この点、請求人らは、通則法第24条に規定する「調査」には、税務職員による調査結果の説明が含まれる旨の主張を前提として、本件各更正処分に係る調査には、原処分庁所属の調査担当職員が反面調査によって得た申述の内容を請求人らに秘匿し反論の機会を奪うという調査手続上の重大な瑕疵があり、本件各更正処分は全く調査に基づかずにされたものと同視できる旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、そもそも課税庁が更正処分を行う際に反面調査の内容等について納税者等に対して説明しなければならないとする法の規定はなく、また、通則法第24条に規定する「調査」の方法、時期、範囲については課税庁の合理的な裁量に委ねられているのであるから、原処分庁所属の調査担当職員が反面調査の内容を請求人らに説明しなかったからといって、そのことをもって調査手続に重大な瑕疵があったとみることはできない。そして、他に本件各更正処分の調査手続に関する重大な瑕疵の存在は認められないから、本件各更正処分については、全く調査に基づかずにされたものと同視できるような場合には当たらず、通則法第24条に規定する「調査」を欠く違法な処分であるとは認められない。
(ロ) 本件各再更正処分について
A 上記ロの(ロ)のとおり、本件各再更正処分は、原処分庁所属の本件異議申立てに係る担当職員以外の職員による本件相続税額の計算等の結果を踏まえてされたものである。そして、上記イの(ロ)のとおり、課税庁内部において既に収集した資料等を基礎として正当な課税標準等及び税額等を計算することも「調査」に当たるから、本件各再更正処分が同条に規定する「調査」を欠くものとは認められない。
B この点、請求人らは、通則法第26条に規定する「調査」の範囲を限定的に解した上で、原処分庁所属の本件異議申立てに係る担当職員以外の職員から質問、検査の方法による調査を受けたことがないから、本件各再更正処分は同条に規定する「調査」を欠く旨主張する。
 しかしながら、通則法第26条に規定する「調査」の範囲については上記イの(ロ)のとおりと解すべきであるから、請求人らの主張は前提を誤るものであり、本件各再更正処分が通則法第26条に規定する「調査」を欠く違法な処分であるとは認められない。

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4 争点3について(本件A建物は、貸家として評価されるべきか否か。)

(1) 主張

イ 請求人ら
 借地借家法第40条《一時使用目的の建物の賃貸借》に規定する一時使用目的の建物の賃貸借といえるためには、賃貸借契約書の表題や条項で「一時使用目的の賃貸借」と明記し、当事者間で合意していたとしても、それだけでは足りず、当該賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、例外的に借地借家法の適用を排除すべき客観的かつ合理的な理由があると認められる場合にあって初めて、一時使用目的の建物の賃貸借と認められることとなると解するのが相当である。
 M社(以下「本件法人」という。)は、a営業所として、昭和55年3月1日より、本件被相続人から本件A建物等を賃借し、賃貸借契約書の第2条に基づき賃貸借契約期間の更新を繰り返し、その事業目的達成のためにこれを使用してきたものであって、その動機や目的からして、借地借家法の適用を排除すべき客観的かつ合理的な理由がない。
 一方、本件被相続人にあっても、本件A建物の貸付けに際し、一時使用目的を条件に付すことにより2年間又は3年間で立ち退きをさせるべき必要性がなく、同じく、借地借家法の適用を排除すべき客観的かつ合理的な理由がない。
 したがって、本件A建物は、契約書のタイトルという形で「一時使用」との文言は存在するものの、通常の賃貸借によって賃借人に貸し付けられているものであって、借地借家法第40条の規定によって同法の適用が排除されるものではない。
 また、賃貸借契約書中の本件法人において借家権がないことを再認識する旨の条項については、上記のとおり、本件A建物の賃貸借が通常の賃貸借であることから、借地借家法第30条《強行規定》に基づき無効とされるものである。
 以上から、本件A建物に借家権がないとして、評価基本通達93《貸家の評価》を適用せず過大にその価額を評価した本件各更正処分及び本件各再更正処分は違法である。
ロ 原処分庁
 本件の場合、まる1賃貸借契約書に、まるア建物一時使用による賃貸借契約である旨の記載があること、まるイ賃借人である本件法人において借家権がないことを再確認する旨の明示があること、まる2賃借人である本件法人においては、本件A建物の一時使用について認容する意思を持って契約締結に及んでいることが明らかであること、まる3本件A建物の構造が簡易なものであることが賃貸人(本件被相続人)と賃借人(本件法人)の間で認識されていることを併せ考えると、借地借家法第40条に規定する一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合に当たるものと認めるのが相当である。
 したがって、本件A建物は、本件法人に借家権がないため、貸家として評価することができないものであるから、自用家屋として評価した価額をもってした本件各更正処分及び本件各再更正処分は適法である。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 財産の評価について
 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、全ての財産の時価(客観的交換価値)は、必ずしも一義的に確定できるものではないことから、課税の実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用することによりかえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるといった特別の事情がある場合を除き、評価基本通達に定められた評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。
 当審判所においても、納税者間の公平や効率的な租税行政の実現等の観点からみて、上記特別の事情がない限り、相続税法第22条に規定する財産の価額は、評価基本通達によることが相当であると解する。
(ロ) 一時使用目的の建物の賃貸借と借地借家法の適用について
 評価基本通達93は、貸家の価額の評価方法について定めており、借地借家法の適用のある貸家はこれに基づく評価がされる。
 借地借家法第40条は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、同法第3章《借家》の規定を適用しない旨規定しているところ、「一時使用のため」といえるか否かは、その賃貸借期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断されるか否かによるべきものである(最高裁昭和36年10月10日第三小法廷判決、民集15巻9号2294頁参照)から、単に、契約書中の文言のみによることなく、建物の使用目的、契約に至る動機その他の事情からみて、当事者双方が賃貸借契約を短期間に限って存続させる合意をしたものであることが客観的に明らかであるか否かによって決すべきである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、信用性に問題のない本件A建物の賃貸借等に係る関係者(後記(ロ)のA記載の昭和51年2月に締結された賃貸借契約の仲介業者であるN社の契約当時の担当者及び本件法人の担当者)の答述、請求人Fの答述、その他当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件A建物の状況等
A 本件A建物は、本件A−1土地上に存在する、床面積52.44平方メートルの軽量鉄骨造地上1階建ての事務所建物である。
B 本件A建物は、本件被相続人が、昭和55年、本件法人のレンタカー事業のための事務所用建物として建築したものであり、同年から現在に至るまでの約30年間、本件A土地とともに本件法人のレンタカー事業のa営業所の事務所として使用されていた。
C 本件A建物について、登記はされていない。
(ロ) 本件A建物に係る賃貸借契約が締結された経緯・内容等
A 本件法人は、昭和51年頃、レンタカー事業の用地として本件A土地を借り受けたい旨の強い意向を有し、本件被相続人にその旨申し入れていた(N社の契約当時の担当者の答述)。
 本件被相続人は、本件法人からの上記申入れを受けて、昭和51年2月、本件法人のレンタカー事業のため、本件法人との間で、本件A土地の一部及び本件被相続人がその上に建築したプレハブ造の建物を月額30万円で貸し渡す旨の賃貸借契約を締結し、当該契約を更新していた。
 なお、本件被相続人は、上記契約をいつでも解約可能な状態にしておきたいとの意向を有していたため、上記契約に係る契約書の表題には「一時使用」の文言を使用し、また、上記契約書と同時に作成された約定書の条項中には、賃借人である本件法人は借地権等の権利を主張できない旨の定め(以下「本件権利主張禁止条項」という。)を置くことを求めたため、上記契約書及び上記約定書には、この求めに沿った表題及び本件権利主張禁止条項が設けられた(N社の契約当時の担当者の答述)。
 他方、上記契約書の条項中には、賃貸借期間の満了前に賃借人である本件法人から申入れをすれば、契約を更新することができる旨の定め(以下「本件更新条項」という。)がされた。
 上記のとおりの契約書及び約定書の内容は、本件被相続人の意向に沿ったものとなっていた(N社の契約当時の担当者の答述)。
B 上記(イ)のBのとおり、昭和55年に本件A建物が建築されたところ、本件被相続人及び本件法人は、上記A記載の賃貸借契約に引き続き、別紙8のとおり、本件A土地及び本件A建物について、本件被相続人を賃貸人、本件法人を賃借人とする賃貸借契約を締結し、契約を更新していた。
 別紙8記載の各契約では、上記A記載の賃貸借契約同様、順号1及び2を除き、当該契約書の表題には「一時使用」の文言が使用され、また、当該契約書又はこれと同時に作成された約定書の条項中には、賃借人である本件法人の本件権利主張禁止条項が定められた一方で、順号3を除き、当該契約書の条項中には、本件更新条項が定められていた。
C 本件相続開始日が賃貸借期間に含まれる本件A建物の賃貸借契約(以下「本件A建物賃貸借契約」という。)は別紙8の順号12(平成18年11月21日付契約)であり、同契約で定められている主な条項は、別紙8に記載したもののほか、次のとおりである。
 なお、次の(B)の賃料及び(C)の保証金の各金額は、別紙8の順号8の契約書による契約以降、変更されていない。
(A) 本件被相続人は、本件法人に対し、本件A建物(敷地面積約224平方メートル)を、現況有姿のまま、貸自動車業務のみの目的として使用することをもって賃貸借する(第1条)。
(B) 賃料は、1か月400,000円と定める。なお、本件被相続人は、土地の状況、地代の高騰、諸税公課その他の本件A建物に対する負担の増額等により、賃料を改定することができる(第3条)。
(C) 保証金は、5,000,000円とし、本件法人は本件被相続人に本件A建物賃貸借契約と同時に預託する。なお、保証金について預託期間中は無利息とし、本件法人が本件A建物賃貸借契約を円満に解決し、本件A建物を原形に復して明け渡した場合には、本件被相続人は本件法人に対し保証金(本件法人の負担すべき費用等があった場合には、その費用を精算した後の金額)を返還する(第4条第1項)。
(D) 本件A建物賃貸借契約期間中でも、本件被相続人は本件法人に対し、また、本件法人は本件被相続人に対し、本件A建物賃貸借契約の解約予告を書面にて6か月前までに行えば、本件A建物賃貸借契約は解約することができる(第5条)。
D 本件A土地を相続した請求人Fは、本件法人との間で本件A土地及び本件A建物に係る賃貸借契約を更新し、本件A建物賃貸借契約の期間満了後も契約関係を継続している。
E 本件法人は、本件A土地がa駅に近く立地条件がよいことから、本件A建物賃貸借契約を自ら終了させる意思は有しておらず、本件A建物賃貸借契約を更新し続けて現在に至っており(本件法人の担当者の答述)、他方、本件A土地を相続した請求人Fとしても、現在のところ、本件A建物賃貸借契約を終了させて本件法人に立ち退きを求める意向は有していない(請求人Fの答述)。
(ハ) 本件A土地の利用計画
 本件被相続人が本件法人に本件A土地を賃貸するようになった昭和51年以降現在に至るまで、本件A土地の利用計画は決まっていない。
(ニ) 本件A建物の本件相続開始日における固定資産税評価額
 本件A建物の平成20年度の固定資産税評価額は、800,596円である。
ハ 当てはめ
(イ) 本件A建物賃貸借契約は一時使用のための賃貸借か否か。
A まず、本件A建物賃貸借契約に係る契約書の文言についてみると、上記ロの(ロ)のBのとおり、その表題は、「建物(店舗)一時使用による賃貸借契約書」となっており、また、本件法人が「借家権無きことを再認識する。」との本件権利主張禁止条項(第11条)も存在する。
 しかしながら、他方で、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件A建物賃貸借契約には、賃貸借の更新を予定する本件更新条項(第2条)が存在し、同条項は、別紙8の順号3の契約を除き、一貫して設けられていたものである。
B また、上記ロの(イ)のBのとおり、本件A建物は、昭和55年以降、本件法人のレンタカー事業の事務所等として使用することを目的として賃貸されていたものであり、本件権利主張禁止条項の存在に照らしても、本件被相続人は、本件A建物賃貸借契約について、いつでも解約を可能にしておきたいとの意向を有していたものと認められる。
 しかしながら、他方で、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件被相続人は、契約の更新を前提とした本件更新条項を設けていること、また、本件A土地及び本件A建物に係る賃貸借契約は、本件A土地の具体的な利用計画が決まらないまま、昭和55年以降約30年間にわたり契約の更新がされてきたものであることに照らすと、本件被相続人が、本件A建物賃貸借契約を特に短期間に限定して存続させる意思を有していたとは認め難い。
 またさらに、本件法人としては、本件A建物賃貸借契約を特に短期間に限定しなければならない理由はなく、自ら本件A建物賃貸借契約を終了させる意向は有していないばかりか、本件A土地の立地条件が良好であることに照らすと、むしろ更新による契約の継続を強く希望していたものと認められるから、本件法人が、本件A建物賃貸借契約を特に短期間に限定して存続させる意思を有していたとも認め難い。
C 加えて、本件A建物賃貸借契約については、本件法人から本件被相続人に対して、高額の保証金(5,000,000円)が差し入れられた上で、相当額の賃料(月額400,000円)の支払が継続されており、また、本件A建物賃貸借契約の条項には、第3条(借地借家法第32条《借賃増減請求権》関係)、第5条(同法第27条《解約による建物賃貸借の終了》関係)といった条項が設けられていることに照らすと、その内容が通常の賃貸借契約と大きく異なるとはいい難い。
D これらの事実からすれば、本件A建物賃貸借契約は、当事者双方が賃貸借契約を短期間に限って存続させる合意をしたものであることが客観的に明らかであるとは認められず、むしろ、本件被相続人及び本件法人は、昭和55年以降、本件A土地及び本件A建物について、特段の事情が生じない限り継続することを前提とした賃貸借契約関係を継続してきたものと認められる。
 したがって、本件A建物賃貸借契約は、一時使用のための賃貸借であるとは認められない。
(ロ) 本件A建物の価額について
 上記(イ)のとおり、本件A建物賃貸借契約は、借地借家法が適用されるものであるから、その適用がないことを前提とした原処分庁の主張には理由がなく、本件A建物は、借地借家法が適用されるところで本件法人が賃借しているものであるから、本件相続税の課税価格に算入されるべき価額を、別表5の1のとおり評価基本通達93の定めにより貸家として評価し、560,417円とするのが相当である。

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5 争点4について(本件A土地は、まる1貸家建付地として評価されるべきか否か、まる2本件地下歩道施設のしんしゃくを要するか、まる3整形地の想定方法をどのように考えるべきか。)

(1) 主張

イ 請求人ら
(イ) 貸家建付地として評価されるべきか否かについて
 上記4の(1)のイで述べたとおり、本件A建物は貸家であるから、その敷地である本件A土地は、貸家建付地として評価されるべきものである。
 そして、本件法人は、レンタカー事業を営む法人であるから、その営業に当たり、道路運送法第80条《有償貸渡し》の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けるに際して、貸渡自動車の全てを収容する車庫を有していることを要するため、本件法人のa営業所は、本件A建物と本件A土地を一体として借り受けることが絶対条件だったことからも、一体として貸家建付地の評価を行うべきものである。
(ロ) 本件地下歩道施設のしんしゃくの要否について
 本件A土地は、十字交差点の角地に所在し、その角地部分に本件地下歩道施設が設置されていることに起因して、土地を評価する上で、まる1宣伝効果や採光等の減少、まる2交通障害という減額要因(本件各土地に共通する減価要因)が生じているのであり、正面路線の間口40メートルの内3.6メートルに上記利用制限を受けているから、本件A土地の評価に当たっては、この利用制限を受ける3.6メートル部分の正面路線価を1割減じた額を基礎とすべきである。
 そして、上記のとおり、本件A土地の角地部分に本件地下歩道施設が設置されていることに起因して、角地の効用が著しく減少していることから、側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用することが相当である。
(ハ) 不整形地の評価に係る整形地の想定について
 本件A土地は、形状がほぼ三角地であることから、かげ地割合(評価基本通達20《不整形地の評価》に係る不整形地補正率表に定めるもの。以下同じ。)が限りなく50%に近い数値が算定されるべきであるところ、航空写真、住宅地図、公図及び現地確認の結果、公図の地形が現状を的確に表していたことから、最適で合理的である公図上の長さを基礎としてセンチメートル単位で計算する方法により、想定整形地及び本件A土地の地積を算出した結果、限りなく50%に近い43.37%と算定され、本件A土地の形状の実態に沿う数値となった。
 したがって、当該計算結果により不整形地補正率0.97を適用すべきである。
ロ 原処分庁
(イ) 貸家建付地として評価されるべきか否かについて
 本件A土地は、本件法人がレンタカー事業の事務所及び車両置場として一体使用している土地であるものの、本件A−1土地は本件A建物の一時使用に係る賃貸借契約に基づき付随して使用できるものであり、一方、本件A−2土地は、別途締結された土地賃貸借契約に基づき使用されている土地であることがそれぞれ認められるから、本件A−1土地と本件A−2土地は、それぞれの権原の状況に応じて評価するのが相当である。
 そうすると、本件A土地は、一体として利用されている2以上の地目からなる一団の土地であり、その主たる地目は雑種地であることが認められるから、評価基本通達7《土地の評価上の区分》及び7−2《評価単位》(7)の定めにより、本件A土地全体を一団の土地として評価し、その価額を自用地として評価すべき部分(本件A−1土地)と賃借権の目的となっている雑種地として評価すべき部分(本件A−2土地)とのそれぞれの地積の割合に応じてあん分し、さらに本件A−2土地の部分に係る自用地としての価額から賃借権に相当する価額を控除して評価することが相当である。
(ロ) 本件地下歩道施設のしんしゃくの要否について
 本件A土地は、本件地下歩道施設の設置により、都市計画法上の用途地域、建ぺい率、容積率等について何ら制約を受けないことからすると、土地利用上の大幅な制限が生じるものとまでは認められないし、著しい交通障害が生じているとも認められないから、本件A土地の正面路線価の判断に当たって、本件地下歩道施設についてしんしゃくの必要はない。
 そして、上記のとおり、本件A土地の角地部分に本件地下歩道施設が設置されていることに起因して、角地の効用が著しく減少しているとは認められないから、側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用すべき理由はない。
(ハ) 不整形地の評価に係る整形地の想定について
 請求人らが主張する公図に基づき計算した本件A土地の地積によりかげ地割合を求める方法が、請求人ら自身が期限内申告において採用した本件A土地の公簿面積によりかげ地割合を求める方法よりも合理的であるとする根拠は見当たらず、また、当該申告における算定方法が本件A土地の状況に符合しない不合理なものであるとする根拠も見当たらないから、本件において、不整形地補正率が過大に計算されているとはいえない。
 したがって、当該申告において採用した不整形地補正率0.98を適用すべきである。

(2) 判断

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件A土地の利用状況等
A 上記4の(2)のロの(イ)のBのとおり、本件A土地及び本件A建物は、本件法人のa営業所として一体でレンタカー事業に使用されているところ、その使用は、本件相続開始日現在、平成20年7月24日付の「駐車場一時使用による賃貸借契約書」に係る契約及び本件A建物賃貸借契約に基づいてされており、各契約の概要は次表のとおりである。
 なお、本件A−1土地は、本件A建物について土地とは別個に別紙8の順号8の契約(平成6年9月27日付「建物(店舗)一時使用による賃貸借契約書」)を締結するに際して、本件A土地の中で本件A建物の敷地に相当する部分として測量され、本件A建物賃貸借契約に「(敷地面積約224平方メートル)」と表記されているものに対応する部分であり、本件A−2土地は、平成20年7月24日付の「駐車場一時使用による賃貸借契約書」において「(面積約1,340平方メートル)」と表記されているものに対応する部分である。

契約書名 駐車場一時使用による賃貸借契約書 建物(店舗)一時使用による賃貸借契約書
契約日付 平成20年7月24日付 平成18年11月21日付
契約対象 本件A−2土地の駐車場 本件A建物
対象面積 約1,340平方メートル 52.8平方メートル(敷地面積約224平方メートル)
使用方法 現況有姿のまま、貸自動車業務のみの目的として使用すること 同左
契約期間 平成20年10月1日より平成22年9月30日 平成18年10月1日より平成21年9月30日
賃料月額 1,700,000円 400,000円
保証金の額 25,000,000円 5,000,000円

B 本件A土地のうち公道f号線に面する部分には本件A建物のほか洗車施設及びキャビネ型の保管庫3台が設置されており、本件A建物を含むこれらの施設はいずれも本件A−1土地上に存しており、本件A−1土地にはレンタカーの駐車場として使用されている部分はない。
C 本件A−2土地上の構築物(アスファルト、看板付屋根その他)は、全て本件法人が設置したものである。
(ロ) 本件A土地と面する本件地下歩道の状況等
A 本件A土地は、東側で公道f号線に約40.00メートル、南側でe線に約54.50メートル接面する地積1,536.12平方メートルの三角形に近い形状の土地である。
B 本件A土地が公道f号線に接面する間口部分約40.00メートルのうち、本件交差点から約3.60メートルの部分に、本件地下歩道の出入口が設置されている。
C 本件交差点付近の公道f号線上には横断歩道が設置されていないことから、e線を通行する人や自転車等が公道f号線を横断する場合は、本件地下歩道を使用している。
D 本件A土地に面する本件地下歩道施設の横の歩道部分は、人や自転車等が通り抜けられる幅員が確保されている。
ロ 当てはめ
(イ) 本件A土地を貸家建付地として評価すべきか否かについて
A 本件A−1土地について
 本件A−1土地は、本件A建物賃貸借契約において本件A建物の敷地とされているところ、上記イの(イ)のBのとおり、本件A建物及びその附属設備と認められるものの敷地の用に供されていることが認められる。
 そして、上記4の(2)のハの(ロ)において示したとおり、本件A建物は貸家として評価すべきものであるから、その敷地として利用されている本件A−1土地は、評価基本通達26《貸家建付地の評価》に定める貸家建付地として評価することが相当である。
B 本件A−2土地について
 本件A−2土地は、上記イの(イ)のCのとおり、本件被相続人が本件法人に貸し付けた建物が存在しないものであり、上記イの(イ)のAのとおり、「駐車場としての現況有姿のまま、貸自動車業務のみの目的として使用すること」のために本件被相続人が本件法人に貸し付けたものであるところ、賃借権の登記がされた事実はなく、また、賃借権の設定の対価としての権利金その他の一時金の授受もなく、堅固な構築物の所有を目的とするものでもないことから、評価基本通達86《貸し付けられている雑種地の評価》(1)ロに定める貸し付けられている雑種地として評価するのが相当である。
C 請求人らの主張について
 請求人らは、本件A土地全体が本件A建物の敷地であるとした上で、本件法人のa営業所は、本件A建物と本件A土地を一体として借り受けることが絶対条件だったことからも、本件A−1土地及び本件A−2土地(すなわち本件A土地)を一体として貸家建付地の評価を行うべきものである旨主張する。
 この点、本件A土地が本件法人のレンタカー事業の事務所敷地及び車両置場として一体として利用されている土地であることについては、上記イの(イ)のAのとおり認められ、原処分庁においても争うものではないが、一体として利用されていることは、そのうちの主たる地目からなるものとして、その一団の土地ごとに評価する(評価基本通達7ただし書)か否かについての判断の基礎となるものではあっても、「貸家の敷地の用に供されている宅地」であるか否かについての判断の基礎となるものではない。
 そして、評価基本通達26は、「貸家の敷地の用に供されている宅地」について定めたものであるところ、本件A−2土地には「貸家の敷地の用に供されている宅地」部分がないことが明らかであり(上記イの(イ)のA)、当該部分が零である以上、貸家建付地として減ずる金額が算出されることがない。
 したがって、請求人らの主張は、本件A−1土地について貸家建付地として評価すべきとする部分には理由があるものの、本件A−2土地についても貸家建付地として評価すべきとする部分には理由がない。
(ロ) 本件地下歩道施設のしんしゃくの要否について
 請求人らは、本件地下歩道施設が設置されていることによって、本件A土地に、宣伝効果の減少や採光等の著しい減少及び人や車両の交通障害が生じているとして、まる1正面路線の間口のうち3.6メートル部分について、正面路線価を1割減算し、まる2側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算とすべき旨を主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のホによれば、本件地下歩道施設は、周囲からの見通し、採光、景観及び通風等に配慮した構造となっており、本件A土地に、宣伝効果の減少や採光等の著しい減少は認められないものである。
 また、本件地下歩道の設置は、上記イの(ロ)のCのとおり、これにより、幅員が広く交通量の多い公道f号線を人や自転車等が安全に横断することができ、他方、横断歩道が設置されていないために自動車も公道f号線を円滑に通行できるなど、人や車両等の安全かつ円滑な往来に寄与していることが認められるし、また、上記イの(ロ)のDのとおり、本件地下歩道施設の横を人や自転車等が通行できる幅員も確保されていることからすると、請求人らが主張するように交通障害が生じているとも認められない。
 したがって、請求人らの主張は、いずれも採用できない。
(ハ) 不整形地の評価に係る整形地の想定について
 請求人らは、本件A土地のかげ地割合の計算は、想定整形地及び本件A土地の地積を公図上の長さを基礎としてセンチメートル単位で計算する方法によるべきである旨主張する。
 しかしながら、かげ地割合の計算において請求人らが公図上の長さを基礎として算出した本件A土地の地積39.16平方センチメートル平方メートル単位の面積に換算すると1,409.90平方メートル)は、地積が1,536.12平方メートル(公簿面積)であることを前提とする本件A土地の評価の基礎として不適当であるし、地積1,536.12平方メートルの本件A土地について、かげ地割合の計算に限って地積を上記の39.16平方センチメートル(1,409.90平方メートル)であるとすべきとの主張に合理性も見いだせない。
 したがって、請求人らの主張は採用できない。
(ニ) 本件A土地の価額について
 以上のとおり、請求人らの主張は、本件A−1土地について貸家建付地として評価すべきとする部分には理由があるものの、その他の部分には理由がないから、本件A土地の本件相続税の課税価格に算入されるべき価額は、評価基本通達7のただし書の定めにより、その全体を一団の土地として求めた自用地としての1平方メートル当たりの価額を基礎として、まる1本件A−1土地部分の価額は評価基本通達26の定めにより、まる2本件A−2土地部分の価額は評価基本通達86(1)ロの定めにより、別表5のとおり評価した価額とすることが相当である。

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6 争点5について(本件B土地は本件地下歩道施設のしんしゃくを要するか。)

(1) 主張

イ 請求人ら
 本件B土地は、路線価が780,000円とされている路線の歩道部分と車道の間に本件地下歩道施設が設置されて自動車の出入口を設けることができない土地であることから、「路線価の高い方の路線の影響を受ける度合いが著しく低い画地については、その宅地が、影響を受ける度合いが最も高いと認められる路線を正面路線として、画地計算を行う」べきものである。
 また、本件B土地の場合、東側隅切り部分の隣接地との境界点から西南方向へ3.65メートル地点の正面に本件地下歩道施設が設置されていることに起因して、m鉄道a駅方向からの通行人及び自転車の通行の流れが中断され、この事実は路線価の設定に考慮されるべき道路系統の連続性に大幅な変化を与えるから、このような場合は、設定済みの路線価を前提に評価基本通達から容認される範囲で減額要因を合理的に反映させたところで評価することは当然である(この連続性の変化は本件各土地の評価に際し共通する減価要因である。)。
 以上のことから、本件B土地の評価にあっては、正面路線価を公道f号線に付された370,000円とし、また、角地の効用が著しく減少していることから、側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用することが相当である。
ロ 原処分庁
 本件B土地については、以下の理由から北側の路線を正面路線として評価すべきである。すなわち、請求人らが主張する「路線価の高い方の路線の影響を受ける度合いが著しく低い画地」とは、間口が狭小で接道義務を満たさないなど正面路線の影響を受ける度合いが著しく低い立地条件にある画地をいうところ、本件B土地は、間口距離及び奥行距離からすると、その北側及び西側がそれぞれ道路(歩道)に面しており、間口が狭小で接道義務を満たさないものには当たらず、正面路線の影響を受ける度合いが著しく低い立地条件にあるとは認められず、車両の進入の可否のみをもって、公道f号線を正面路線として評価すべきものとは認められない。
 そして、本件B土地については、本件A土地の場合と同様、正面路線価の判断に当たって、本件地下歩道の出入口に接することによるしんしゃくの必要はない。また、角地については、正面と側方に異なる1系統の路線があるため、利用間口が大きくなって、出入の便がよくなるほか、採光、通風にも有利になるなど、その効用は、車両の出入の可否のみにあるものではなく、本件B土地の角地部分に本件地下歩道施設が設置されていることに起因して、角地の効用が著しく減少しているとは認められないから、側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用すべきものとは認められない。

(2) 判断

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件B土地は、北側でe線に約11.75メートル、西側で公道f号線に約28.25メートル接面する地積414.52平方メートルの土地である。
(ロ) 本件B土地がe線に接面する部分のうち、東側隣接地との境界から北西に約3.65メートルの位置に、本件地下歩道の出入口が設置されている。
(ハ) 本件交差点付近の公道f号線上には横断歩道が設置されていないことから、e線を通行する人や自転車等が公道f号線を横断する場合は、本件地下歩道を使用している。
(ニ) 本件B土地に面する本件地下歩道施設の横の歩道部分は、人や自転車等が通り抜けられる幅員が確保されている。
(ホ) a駅○口から本件交差点までのe線沿いは、人通りが多く、中高層の商業ビルが連たんして歩道脇まで建っており、これら商業ビルの出入りは、歩行によっている。
ロ 当てはめ
 請求人らは、本件地下歩道施設によって、e線から本件B土地への自動車のための出入口が設置できず、また、人や自転車等の通行の流れが中断されていることから、路線価の設定に考慮されるべき道路系統の連続性に大幅な変化を与えており、さらに、角地としての効用も著しく減少しているから、本件B土地の評価に当たっては、まる1正面路線価を370,000円とし、また、まる2側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ホ)のとおり、a駅○口から本件交差点までのe線沿いの主な利用者は歩行者であるから、本件B土地においてのみ、e線から直接自動車が出入りできないことをもって、e線からの影響を受ける度合いが著しく低いものということは相当ではない。
 一方、上記イの(ハ)及び(ニ)のことからすると、上記5の(2)のロの(ロ)で述べたとおり、本件地下歩道の設置は、人や車両等の安全かつ円滑な往来に寄与していることが認められ、また、本件地下歩道施設の横を人や自転車等が通行できる幅員も確保されていることも認められるから、これらの事実からは、請求人らが主張するような、人や自転車等の通行の流れの中断は認められず、価額の減少を考慮すべき道路系統の連続性の大幅な変化があるものとも認められない。
 したがって、請求人らの主張は、いずれも採用できない。

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7 争点6について(本件C土地は本件地下歩道施設のしんしゃくを要するか。)

(1) 主張

イ 請求人ら
 本件C土地の場合、角地部分に本件地下歩道施設が設置されていることに起因して、角地の効用が著しく減少していることから、側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用することが相当である。
ロ 原処分庁
 本件C土地については、本件A土地の場合と同様、正面路線価の判断に当たって、本件地下歩道施設に面することによるしんしゃくの必要はない。
 そして、本件C土地の角地部分に地下歩道の出入口が設置されていることに起因して、角地の効用が著しく減少しているとは認められないから、側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用すべき理由はない。

(2) 判断

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件C土地は、四方が道路と接面しており、このうち北側でe線に約27.50メートル、東側で公道f号線に約28.00メートル接面する地積1,407平方メートルの土地である。
(ロ) 本件交差点付近の公道f号線上には横断歩道が設置されていないことから、e線を通行する人や自転車等が公道f号線を横断する場合は、本件地下歩道を使用している。
(ハ) 本件C土地に面する本件地下歩道施設の横の歩道部分は、人や自転車等が通り抜けられる幅員が確保されている。
ロ 当てはめ
 請求人らは、本件地下歩道施設が設置されていることによって、本件C土地の角地としての効用は著しく減少しているから、側方路線影響加算に代えて二方路線影響加算を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)及び(ハ)のことからすると、上記5の(2)のロの(ロ)で述べたとおり、本件地下歩道の設置は、人や車両等の安全かつ円滑な往来に寄与していることが認められ、また、本件地下歩道施設の横を人や自転車等が通行できる幅員も確保されていることも認められるから、これらの事実からは、本件C土地の角地としての効用が著しく減少しているものとは認められない。
 したがって、請求人らの主張は採用できない。

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8 争点7について(本件D土地は、整形地の想定方法をどのように考えるべきか。)

(1) 主張

イ 請求人ら
 路線価350,000円の路線からの垂線によって本件D土地を囲むく形を想定整形地とし、不整形地補正率を0.70とすべきである(別紙9の(2)のとおり。)。
ロ 原処分庁
 屈折路に面する不整形地に係る想定整形地の取り方は、いずれかの路線からの垂線によって又は路線に接する両端を結ぶ直線によって、評価しようとする宅地の全域を囲むく形又は正方形のうち最も面積の小さいものを想定整形地とすることが合理的であると認められるから、本件D土地の路線に接する両端を結ぶ直線によって本件D土地の全域を囲むく形を想定整形地とし、不整形地補正率をO.84とすべきである(別紙9の(1)のとおり。)。

(2) 判断

イ 法令解釈等
 評価基本通達20は、不整形地の価額は、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、地区区分及び地積区分に応じた「不整形地補正率」を用いて評価する旨定めており、その不整形の程度については、想定整形地(不整形地の全域を囲む、正面路線に面するく形又は正方形の土地をいう。)の地積より評価対象地である不整形地の地積がどれだけ少ないかという地積比により算出することとしている。この取扱いの趣旨は、評価対象地が不整形の場合はその画地全部を宅地として十分に機能させることができず、整形地に比して利用価値が減少することを考慮して、利用価値が減少していると認められる範囲で補正するというものであり、当審判所もかかる取扱いは合理的であると認められる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件D土地は、西側で公道f号線に約5.8メートル、南側でe線に約3.2メートル接面する、地積6.37平方メートルの三角形の土地である。
(ロ) 原処分庁は、本件D土地に係る別表3の5の不整形地補正率の算定において、まる1公道f号線からの垂線によって評価対象地の全域を囲むく形、まる2e線からの垂線によって評価対象地の全域を囲むく形及びまる3公道f号線及びe線に接する両端を結ぶ直線に対する垂線によって評価対象地の全域を囲むく形による想定整形地を検討し、最も地積の小さいまる3のく形を想定整形地としている。
(ハ) 請求人らは、本件D土地に係る別表4の5の不整形地補正率の算定において、上記(ロ)のまる1のく形を想定整形地としている。
ハ 当てはめ
(イ) 評価基本通達20に定める評価をするに当たって、正面路線と評価対象地の位置関係や同対象地の形状によっては、想定整形地が複数ある場合も生じ得るところ、上記イの評価基本通達20の趣旨からすれば、その想定方法自体が不合理なものでない限り、その想定されたもののうち、最も小さい面積のものを想定整形地として上記評価を行うのが合理的である。
(ロ) 本件D土地についてみると、上記イのとおり想定整形地とは、評価対象地の画地全域を囲む、正面路線に面する最小面積のく形となっているものをいうことからすると、請求人らの主張する本件D土地の想定整形地のとり方に不合理な点は認められないが、他方、原処分庁の主張する上記ロの(ロ)のまる3の方法による想定整形地は、正面路線に面したく形ではないことから、評価基本通達20に定める想定整形地そのものには当たらない(なお、上記ロの(ロ)のまる2の方法による想定整形地は、請求人らの主張する想定整形地より地積が大きいため採用できない。)。
(ハ) したがって、本件D土地の整形地の想定方法は、請求人らが主張する方法(上記(1)のイ)によるべきであるから、本件D土地の本件相続税の課税価格に算入されるべき価額を605,441円とするのが相当である。

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9 本件A建物及び本件各土地の相続税評価額

 以上の結果、当審判所において本件A建物及び本件各土地の相続税評価額をそれぞれ算定したところ、本件A建物及び本件A土地については別表5のとおりとなり、本件B土地及び本件C土地については別表3の3及び4と同額となり、本件D土地については、別表4の5と同額となる。

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10 本件各更正処分及び本件各再更正処分について

 上記9に基づき、請求人らの本件相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ、別表6の各金額となり、いずれも、本件各更正処分及び本件各再更正処分における各金額を下回るから、その一部を別紙2ないし5「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

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11 本件各賦課決定処分について

 上記10のとおり、本件各更正処分及び本件各再更正処分は、その一部が取り消されるべきものであるところ、その他の部分の税額の計算の基礎となった事実については、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そこで、請求人Fほか2名の各過少申告加算税の金額を計算すると、別表6の各金額となり、まる1当該各金額は、いずれも、本件各賦課決定処分における金額を下回るから、本件各賦課決定処分の一部を別紙3ないし5「取消額等計算書」のとおり取り消すこととし、まる2請求人Fに対して平成23年10月31日付でされた平成20年12月○日相続開始に係る相続税の過少申告加算税の賦課決定処分については、過少申告加算税の金額が算出されないことから、その全部を取り消すべきである。

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12 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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