(平成24年10月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人P1、同P2、同P3、同P4及び同P5(以下、順に「請求人P1」、「請求人P2」、「請求人P3」、「請求人P4」及び「請求人P5」といい、これら5名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した財産のうち、まる1土地の価額を、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達をいい、以下「評価基本通達」という。)の定めによらず、不動産鑑定士による鑑定評価額により評価し、また、まる2T社の株式を評価する際に、まるアT社が所有する土地及び借地権の価額を、同通達の定めによらず、不動産鑑定士による鑑定評価額により評価し、まるイT社は同通達189《特定の評価会社の株式》の(3)に定める土地保有特定会社(以下「土地保有特定会社」という。)には該当しないとして、T社の株式の価額を同通達に定める類似業種比準価額により評価して、相続税の申告をしたところ、原処分庁が、まる1請求人らが鑑定評価額により評価した土地については、同通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はないため、同通達の定めにより評価をすべきであるとして、また、まる2T社の株式については、T社は土地保有特定会社に該当するため、純資産価額により評価をすべきであるなどとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人らが当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成20年12月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したP6(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、本件被相続人の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、法定申告期限までに、別表の「当初申告」欄のとおり記載した申告書をK税務署長へ提出して、相続税の申告をした。
ロ 請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成22年12月27日、上記イの相続税の申告に相続財産の一部が含まれていなかったなどとして、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書をK税務署長へ提出して、相続税の修正申告をした。
 K税務署長は、平成23年1月28日付で、別表の「賦課決定」欄のとおり、重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ K税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成23年4月18日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4に対する各更正処分を「本件各更正処分」といい、請求人P5に対する更正処分を「本件P5更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ニ 請求人らは、平成23年6月17日、本件各更正処分等及び本件P5更正処分に不服があるとして、全部の取消しを求める異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年9月16日付で、別表の「異議決定」欄のとおり、本件各更正処分等に係る異議申立てについては棄却し、本件P5更正処分に係る異議申立てについては却下する異議決定をした。
ホ 請求人らは、平成23年10月14日、異議決定を経た後の本件各更正処分等及び本件P5更正処分を不服として、審査請求をし、同日、請求人P1及び請求人P2を総代として選任し、その旨を届け出た。
ヘ 原処分庁は、平成23年12月26日付で、本件各更正処分及び本件P5更正処分において評価額の減額を行った別紙7「不動産目録」記載の順号11の土地(以下「本件C土地」という。)の価額の算定の際に地積が過小であったとして、別表の「再更正処分等」欄のとおり、各再更正処分(以下、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4に対する各再更正処分を「本件各再更正処分」といい、請求人P5に対する再更正処分を「本件P5再更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件第2次各賦課決定処分」といい、本件各再更正処分と併せて「本件各再更正処分等」という。)をした。
ト 請求人らは、平成24年2月3日、本件各再更正処分等及び本件P5再更正処分を不服として、それぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、国税通則法(以下「通則法」という。)第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項に基づき、当該各異議申立てに係る異議申立書を国税不服審判所長に送付した。
 上記各異議申立書は、平成24年2月9日に当審判所に送付されたため、通則法第90条第3項により、同日、審査請求がされたものとみなされることから、本件各更正処分等及び本件P5更正処分に対する審査請求と併合審理する。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙6のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続について
(イ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の配偶者である請求人P5、子である請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4の5名である。
(ロ) 本件被相続人の相続財産の中には、まる1別紙7「不動産目録」記載のまるア順号17ないし19の各土地(以下、順号12ないし19の各土地を併せて「本件D土地」といい、順号17ないし19の各土地を「本件被相続人所有D土地」という。)、まるイ順号21の土地(以下、順号20及び21の各土地を併せて「本件E土地」という。)の共有持分(100分の25)及びまるウ順号11の土地(本件C土地)の共有持分(200分の160)並びにまる2T社の株式21,400株があった。
(ハ) 請求人らは、平成22年1月26日、本件相続に係る遺産分割協議を成立させ、まる1別紙7「不動産目録」記載のまるア本件被相続人所有D土地については、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4がそれぞれ持分4分の1ずつを取得し、まるイ順号21の土地(本件E土地の一部)の本件被相続人の共有持分については、請求人P5が全部を取得し、まるウ順号11の土地(本件C土地)の本件被相続人の共有持分については、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4がそれぞれ持分800分の160ずつを取得し、まる2T社の株式については、請求人P5が10,700株、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4がそれぞれ2,675株ずつを取得した。
ロ T社の株式等について
(イ) T社は、不動産の賃貸借及び管理業務等を目的として昭和31年に設立された株式会社であり、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度(以下「平成20年3月期」という。)における資本金額は10,900,000円であった。
(ロ) T社の株式は、本件相続開始日において、まる1金融商品取引法第2条《定義》第16項に規定する金融商品取引所に上場されておらず、また、まる2まるア登録銘柄(日本証券業協会の内規によって登録銘柄として登録されている株式)及び店頭管理銘柄(同協会の内規によって店頭管理銘柄として指定されている株式)並びにまるイ公開途上にある株式ではなかった。
 したがって、T社の株式は、評価基本通達168《評価単位》の「取引相場のない株式」であった。
(ハ) T社の本件相続開始日の直前に終了した事業年度(平成20年3月期)の期末の総資産価額は9,474,544,016円であり、同期末以前1年間において、取引金額は2,326,611,463円であり、従業員数は37名であった。
 T社は、評価基本通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》に定める会社の規模区分の判定に当たり、卸売業及び小売・サービス業以外の業種に該当し(上記(イ))、大会社に区分される会社であった。
(ニ) T社の発行済株式総数は21,800株であり、上記イの(ハ)記載の遺産分割後において、請求人P5が10,720株、請求人P1及び請求人P2がそれぞれ2,775株ずつ、請求人P3及び請求人P4がそれぞれ2,675株ずつ、その他の株主が合計180株、それぞれ所有していた。
ハ T社が所有していた土地等について
 T社は、本件相続開始日において、別紙7「不動産目録」記載の各土地のうち、まる1順号1、順号3ないし7、順号9、順号10、順号12ないし16、順号20、順号22ないし30、順号32及び順号33の各土地を所有し、まる2順号21の土地を請求人P5と共有(T社の共有持分100分の75)し、まる3順号2の土地のうち区分所有建物の所有権敷地権の持分割合791,460分の316,584及び順号8の土地のうち区分所有建物の所有権敷地権の持分割合234,762分の69,026を有し、まる4順号31の土地を当該土地の所有者から賃借していた(以下、順号1ないし4の各土地を併せて「本件A土地」、順号5の土地を「本件甲土地」、順号6ないし10の各土地を併せて「本件B土地」、順号22の土地を「本件F土地」、順号23ないし31の各土地を併せて「本件G土地」、順号32及び順号33の土地を「本件H土地」という。)。
ニ 請求人らの本件相続に係る相続税に関する申告内容等について
(イ) 本件被相続人の相続財産の土地及びT社所有の土地等の評価について
A 請求人らは、別紙7「不動産目録」記載の各土地について、まる1本件A土地(ただし、別紙7「不動産目録」の「区分」欄に記載した本件A−1土地ないし本件A−13土地の部分に限る。)及び本件甲土地、まる2本件B土地(ただし、別紙7「不動産目録」の「区分」欄に記載した本件B−1土地ないし本件B−12土地の部分に限る。)、まる3本件C土地、まる4本件D土地、まる5本件E土地、まる6本件F土地、まる7本件G土地並びにまる8本件H土地の別に、それぞれ不動産鑑定士による鑑定評価を行った。
B 請求人らは、別紙7「不動産目録」記載の各土地のうち、本件被相続人の相続財産の土地及びT社所有の土地等について、上記Aの不動産鑑定士が作成した不動産鑑定評価書(以下「請求人ら鑑定書」といい、その要旨は別紙9ないし15のとおりである。)の鑑定評価額により評価して、本件相続に係る相続税の申告をした(なお、請求人らは、本件C土地及び本件E土地の本件被相続人の共有持分については、本件各更正処分及び本件P5更正処分の後、原処分庁による評価額を争っていない。)。
(ロ) T社がいわゆる「土地の無償返還に関する届出書」を提出して使用していた土地の評価について
A 本件被相続人は、本件相続開始日までに、自己が所有又は共有する土地及び自己の共有持分(まる1p県s市x−2町○−○、同番○及び同番○の各土地、まる2同市x−2町○−○の土地の自己の共有持分(20分の15)、まる3別紙7「不動産目録」記載の順号21の土地(本件E土地の一部)の自己の共有持分(100分の25)、まる4同市x−1町○−○の土地、まる5同市x−3町○−○の土地、及びまる6同市x−1町○−○の土地)について、単独所有の土地及び共有持分については単独で、また、共有する土地については共有者とともに、T社との間で、賃貸借契約を締結していた。
 当該各賃貸借契約には、将来T社から無償で土地の返還を受ける旨の条項が定められていた。
B 本件被相続人、上記Aの土地の共有者及びT社は、連名で、本件被相続人及び当該共有者が上記Aの賃貸借契約に基づき将来T社から無償で土地の返還を受けることとなっている旨を届け出る、法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達。以下同じ。)13−1−7《権利金の認定見合せ》に定める届出書(以下「無償返還届出書」という。)を、K税務署長に提出していた。
C 請求人らは、上記Bの無償返還届出書が提出された土地について、まる1当該土地の価額の100分の80に相当する金額を本件相続に係る相続税の課税価格に算入するとともに、まる2T社の株式の評価上、残りの100分の20に相当する金額を同社の純資産価額に算入して、本件相続に係る相続税の申告をした。
(ハ) T社所有の本件甲土地の評価について
A T社は、平成19年11月30日付で、L社との間で、賃貸人をT社、賃借人をL社、目的物を本件甲土地上にT社が建設する建物(以下「本件建物」という。)とする定期建物賃貸借予約契約(以下「本件予約契約」という。)を締結し、本件建物は、本件相続開始日において、建築中であった。
B 請求人らは、本件甲土地の価額について、本件予約契約に係る土地の利用制限により100分の10に相当する金額を減じて、本件相続に係る相続税の申告をした。
(ニ) T社が本件相続の開始前3年以内に取得した借地権の評価について
A T社は、平成19年9月6日、M社、P7及びP8から、本件甲土地の借地権(以下「本件甲借地権」という。)及び本件甲土地上の建物を代金225,000,000円で買い受けた。
B T社は、平成20年3月24日、裁判上の和解により、P9から、別紙7「不動産目録」記載の順号30の土地のうち44.65平方メートルの部分に設定されていた借地権(以下「本件乙借地権」という。)及び当該土地上の建物を代金137,927,200円で買い受けた。
C 請求人らは、本件甲借地権及び本件乙借地権の価額を請求人ら鑑定書の鑑定評価額により評価して、本件相続に係る相続税の申告をした。

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2 争点

(1) 相続財産のうち、土地の評価について

 本件被相続人所有D土地の評価に当たり、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるか否か(争点1)。

(2) 相続財産のうち、株式の評価について

イ 評価基本通達189−4《土地保有特定会社の株式又は開業後3年未満の会社等の株式の評価》及び185《純資産価額》括弧書の定めは、相続税法第22条《評価の原則》の規定に反するか(争点2)。
ロ T社の株式の評価に当たり、T社は評価基本通達189(3)に定める「土地保有特定会社」に該当するか否かについて
(イ) 「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日付直資2−58ほか国税庁長官通達。以下「相当地代通達」という。)8《「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の貸宅地の評価》により純資産価額に算入される自用地としての価額の20%に相当する金額は、評価基本通達189(3)イに定める土地保有割合(以下「土地保有割合」という。)を算定する際の「土地等の価額」に該当するか否か(争点3)。
(ロ) T社が所有する土地の評価に当たり、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるか否か(争点4)。
(ハ) T社が所有する本件甲土地の価額について、L社との間で本件予約契約が締結されていることを理由に減額をすべきか否か(争点5)。
(ニ) T社が本件相続の開始前3年以内に取得した借地権(本件甲借地権及び本件乙借地権)の価額はいくらによるべきか(争点6)。

(3) 異議決定後にされた本件各再更正処分及び本件P5再更正処分は違法であるか否か(争点7)。

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3 争点1(本件被相続人所有D土地の評価に当たり、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるか否か。)について

(1) 主張

イ 原処分庁
(イ) 相続財産の評価に当たり、評価基本通達に定められた評価方法により画一的に評価をすることは、納税者間の公平等の見地から合理的であるから、評価基本通達を画一的に適用することによりかえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるといった特別の事情がある場合を除き、相続財産の評価は評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当である。そして、上記特別の事情があるといえるためには、評価基本通達により算定した土地の評価額が客観的交換価値を上回ることが明らかであると認められることが必要と解される。
 なお、路線価は、通年適用を前提に1年間の地価変動にも耐え得るものであることが必要であること等の評価の安全性に配慮して定められており、平成20年分の路線価にリーマンショックによる地価下落が反映されていないことをもって、直ちに評価基本通達による評価額が客観的交換価値を上回るということはできない。
 また、評価基本通達の各種補正率は、実際の土地取引等に即したものであり、専門の調査機関に依頼した調査結果に基づき定められている実証的なものであるから、鑑定評価における個別格差率と差異があったとしても、直ちに評価基本通達に基づく各種補正が不十分であるということもできない。
(ロ) 次のとおり、請求人ら鑑定書には合理性に疑問があり、他に評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はないから、本件被相続人所有D土地の価額は、別紙18のとおりの評価基本通達による評価額によることが相当である。
A 時点修正率について
 請求人ら鑑定書は、時点修正率について、平成20年1月1日から平成21年1月1日までの地価公示法に基づく公示地(以下「公示地」という。)の価格(以下「公示価格」という。)の下落率を上回る下落率を見込んで算定している。しかし、平成21年1月1日の公示価格は、地価の推移及び動向並びに地価水準を十分検討した結果に基づいて、同時点における適正な価格として決定されているものであるから、当該公示価格を下回る地価を見込んだ時点修正率を用いた上記請求人ら鑑定書には合理性に疑問がある。
B 個別格差率について
 まる1本件D土地は、本件相続開始日の直前まで、本件被相続人所有に係る部分とT社所有に係る部分の相互間で地役権を設定して一体利用していた土地であること、まる2T社は請求人らがその大部分の株式を保有している同族会社であることからすると、本件D土地をどのように利用するかについては専ら請求人らの意思によって決定できるものであり、そうすると、無道路地となる部分の経済価値をいたずらに低下させるような不自然な土地利用は通常考えられず、このことは、本件D土地がその後駐車場として一体利用されていること及び現時点において既に共同ビルとして一体利用が予定されていることに照らしても妥当性がある。
 そうすると、請求人らが主張する建築上の制約は、評価上考慮すべき事情には当たらず、この点を重視して大幅な補正をした請求人ら鑑定書には合理性に欠ける点がある。
C 比準価格の算定について
(A) 取引事例A、E、H及びIに係る事情補正は根拠が不明確であって妥当性が判断できず、取引事例Bと取引事例Iはともに競売事例であるにも関わらず取引事例Iについてのみ補正されていて整合性を欠き、競売事例である取引事例Iよりも競売事例でない取引事例Hの補正の方が大きいのは一般的にみて不自然で合理性に欠ける。
(B) 取引事例F及びGは地域格差が大きく、当該事例を採用することに合理性がない。
ロ 請求人ら
(イ) 評価基本通達に基づく評価方法は、不動産の特殊性を排した最大公約数的な算定方法であり、鑑定評価によらないで簡易かつ安価に評価する手法として示されたものにすぎない。また、路線価による評価は、線としての「道路の時価」を補正し、調整することで評価対象地の評価額を間接的に算定する方法であって、評価対象地の評価額を直接的に評価するものではない。一方、不動産鑑定士による鑑定評価は、評価対象地の時価を直接的に評価するものであるから、不動産鑑定士による鑑定評価額こそが相続税法第22条にいう時価というべきである。したがって、不動産鑑定評価書に基づく相続税の申告について、評価基本通達が採用する路線価による評価方法(以下「路線価方式」という。)による更正処分が許されるのは、当該不動産鑑定評価書に決定的な誤りが存する不合理な場合に限るべきである。
 本件においては、以下の理由から、路線価方式による評価額を相続税法第22条にいう時価ということはできない。
A 平成21年の公示価格は、その鑑定評価作業の開始時期を考えると、平成20年9月15日から始まったリーマンショックによる急激かつ著しい地価下落を反映しているとはいえないところ、当該公示価格を前提に決定された路線価方式による評価額に基づき行われた原処分庁の評価は、時価を正しく反映したものとはいえないため、不合理である。
B 個別的な特殊要因が大きい土地については、評価基本通達による画一的な補正の適用では適正に時価を算定し得ない。
(ロ) 次のとおり、請求人ら鑑定書による評価額は合理的であり、評価基本通達による評価額は客観的交換価値を上回っているから、本件被相続人所有D土地の価額は、請求人ら鑑定書による評価額によることが相当である。
A 時点修正率について
 平成21年の公示価格は、上記(イ)のAのとおり、急激かつ著しい地価下落を反映しているとはいえず、平成21年1月1日時点の価格を正しく反映したものとはいえない。他方、請求人ら鑑定書は地価変動率を査定し、時点修正を行ったものであるから、請求人ら鑑定書には合理性がある。
B 個別格差率について
 請求人ら鑑定書は、本件D土地のうち、別紙7「不動産目録」記載の順号18及び19の土地が無道路地であり、p県建築安全条例による建築制限が存することから、鑑定に当たり同条例を遵守し、評価の適正を期した結果、当該部分の個別格差率を22%と査定したものであり、合理性を有する。
 他方、請求人ら鑑定書の合理性を論難する原処分庁の主張は、以下のとおり理由がない。
(A) 評価単位を所有者の別として無道路地としての評価をしておきながら、無道路地であることによる建築制限を適切に考慮しないことは矛盾している。
(B) いかに同族会社といえども、人格を異にするT社所有に係る土地について、株主である請求人らの持株割合を考慮することなく、本件被相続人所有に係る土地と一緒に売却処分をできる前提で財産評価を行うことは、誤りである。
(C) 本件D土地は、本件相続開始日において、その利用計画を決められる状況にはなかった。
C 比準価格の算定について
(A) 取引事例の事情補正は、公示価格の評価作業の過程で不動産鑑定士が作成し、不動産鑑定士協会によって提供された精度の高い取引事例カードの記載内容に従って行ったものであるから、請求人ら鑑定書の比準価格は合理性を有する。
(B) 地域格差率の査定については、各取引事例に対して複数回の実査を行い、土地価格比準表及び路線価も参考にした上、不動産鑑定士としての経験則に基づき判断しており、地域格差が大きいという理由で事例を採用したことに合理性がないというのは不合理である。

(2) 判断

イ 法令解釈等
 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、同条にいう時価とは、相続開始時における当該財産の客観的交換価値を示す価額をいうものと解するのが相当である。
 しかしながら、全ての財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は評価基本通達によって財産評価の一般的基準が定められ、そこに定められた画一的な評価方法によって財産を評価することとされている。このような取扱いは、まる1財産の客観的な交換価値を適切に把握することは必ずしも容易ではないこと、他方、まる2財産を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、課税の公平の観点からみて好ましいとはいえないばかりか、回帰的かつ大量に発生する課税事務の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的な取扱いであると解される。
 そうすると、例えば、評価基本通達により算定される価額が時価を上回るなど、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるといった特別の事情がある場合を除き、財産の評価は、評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当であると解される。
ロ 認定事実
 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件D土地の位置、形状、法的規制等については、次のとおりである。
A 本件D土地の位置並びに本件被相続人及びT社の所有の状況は、別紙8のとおりであり、本件D土地の地積は、1,340.88平方メートルである。
B 本件D土地の用途地域は商業地域、建ぺい率は80%、容積率は600%である。
C 本件D土地は、本件相続開始日において、更地であった。
(ロ) 本件D土地に係る請求人ら鑑定書の要旨は、別紙11のとおりである。
(ハ) 本件D土地に係る請求人ら鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等は、以下のとおりである。
A 取引事例Cは、地積が約70平方メートルの画地の事例である。
B 本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、標準画地と比較して環境条件が異なることを主な理由として、取引事例A、D、F、G及びIについて、それぞれ、161.9分の100、173.3分の100、280.4分の100、409.8分の100及び189.7分の100の地域要因格差による補正をしている(別紙11の5の(2))。
C 取引事例Bは、担保不動産競売による売却の事例である。
D 本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、売り急ぎがあったとして、取引事例A、H及びIについて、それぞれ、70分の100、50分の100及び60分の100の事情補正をしている(別紙11の5の(2))。
E 取引事例Gは、その用途地域が、商業地域(建ぺい率80%・容積率700%)及び第二種住居地域(建ぺい率60%・容積率400%)にまたがって所在する土地に係る事例である。
F 取引事例Hは、その用途地域が、商業地域(建ぺい率80%・容積率500%)、第一種住居地域(建ぺい率60%・容積率300%)及び第一種中高層住居専用地域(建ぺい率60%・容積率300%)にまたがって所在する土地に係る事例である。
(ニ) 本件D土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地の状況等は、以下のとおりである。
A 本件D土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地の地積は737平方メートルであり、用途地域は商業地域、建ぺい率は80%、容積率は600%である。
B 上記Aの標準画地は、公示地であるとともに国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》第1項に規定する基準地(以下「基準地」という。)であり、当該標準画地の公示価格又は基準地の標準価格は、平成20年7月1日時点で2,600,000円、平成21年1月1日時点で2,200,000円、平成21年7月1日時点で2,050,000円であった。
ハ 当てはめ
(イ) 本件D土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
A 取引事例比較法による試算価格について
(A) 上記ロの(ハ)のAのとおり、取引事例Cの地積は約70平方メートルであり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地(上記ロの(ニ)のA)の地積737平方メートルに比べて一画地の面積が著しく過小であるから、取引事例Cは、標準画地との類似性を著しく欠くものである。本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、このような類似性を著しく欠く事例を採用している点で不合理である。
(B) 上記ロの(ハ)のBのとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、地域要因格差の分析において、標準画地の所在する地域と比べて、取引事例A、D、F、G及びIをいずれも著しく高位であると見積もっているが、このような地域格差の著しい事例は取引事例としての規範性に欠けるものである。本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
(C) 上記ロの(ハ)のCのとおり、取引事例Bは競売による取引事例であり、補正を要する特殊な事情がある。それにも関わらず、本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、事情補正をしておらず、この点で不合理である。
(D) 本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、上記ロの(ハ)のDのとおり、取引事例A、H及びIについて事情補正をしているが、当該鑑定書を作成した不動産鑑定士が事情補正率の査定の根拠とする取引事例カードには事情補正率の割合の数値しか記載されておらず、その他請求人らから当審判所に提出された資料によっても事情補正率の割合の査定根拠が明確にされていないことから合理性が疑われる。
(E) 上記ロの(ハ)のEのとおり、取引事例Gは、複数の用途地域にまたがって所在する土地に係る事例であり、当該土地に係る建ぺい率は65%、容積率は490%と認められる(別紙11の5の(1))。しかしながら、上記ロの(ニ)のAのとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地の建ぺい率は80%、容積率は600%であるところ、当該鑑定書は、地域要因格差の行政的条件の分析において、取引事例Gは、標準画地に比して容積率が劣る事例であるにも関わらず、プラスの補正をしており、この点で不合理である。
(F) 上記ロの(ハ)のFのとおり、取引事例Hは、複数の用途地域にまたがって所在する土地に係る事例であり、当該土地に係る建ぺい率は100%、容積率は383%と認められる(別紙11の5の(1))。しかしながら、上記ロの(ニ)のAのとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地の建ぺい率は80%、容積率は600%であるところ、当該鑑定書は、地域要因格差の行政的条件の分析において、建ぺい率が100%、容積率が700%の取引事例(取引事例A、B、D、F及びI)についてはプラス7ポイントの補正をしている一方、取引事例Hについてはマイナス7ポイントしか補正をしておらず(別紙11の5の(2))、この点で不合理である。
(G) 以上のとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書には、取引事例比較法において採用している取引事例の採用等について合理性を欠く点が多く認められる。
B 公示価格を規準とした価格について
(A) 国土交通省が定める不動産鑑定評価基準は、鑑定評価額を決定する場合において、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》第1項の公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない旨定めている。この公示価格を規準とすることとは、地価公示法第11条《公示価格を規準とすることの意義》において、評価対象地と標準地の位置、地積等の土地の客観的価値に作用する諸要因との比較を行い、当該標準地の公示価格と評価対象地の価格との間に均衡を保たせることをいう旨規定している。
(B) 上記ロの(ニ)のBのとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地の公示価格又は基準地の標準価格は、平成20年7月1日から平成21年7月1日までの間は下落している。本件相続開始日は平成20年12月○日であるから、上記の標準画地の公示価格又は基準地の標準価格の価格動向に照らすと、本件D土地について、公示価格を規準とした価格(以下「規準価格」という。)は、平成21年1月1日時点の公示価格である2,200,000円を下回ることはないはずである。しかしながら、本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、規準価格を2,190,000円と査定しており(別紙11の5の(3))、平成21年1月1日時点の公示価格を下回っているから、本件D土地に係る請求人ら鑑定書が鑑定評価額の算定に当たって規準とした価格は、それ自体が合理性を欠いている。
C 小括
 以上のとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書は、合理性を欠く点が多く認められる。したがって、当該鑑定書による鑑定評価額は本件D土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
(ロ) 請求人らの主張について
A 請求人らは、不動産鑑定士による鑑定評価は、評価対象地の時価を直接的に評価するものであるから、不動産鑑定士による鑑定評価額こそが相続税法第22条にいう時価というべきである旨主張する(上記(1)のロの(イ))。
 しかしながら、相続税法第22条に規定する時価については、上記イのとおりと解すべきであるから、請求人らの主張は採用できない。
B 請求人らは、平成21年の公示価格(平成21年1月1日評価時点)は、急激かつ著しい地価下落を反映しているとはいえないものであるから、公示価格を前提に決定された路線価に基づき行われた原処分庁の評価は、時価を正しく反映したものとはいえず不合理である旨主張する(上記(1)のロの(イ)のA)。
 しかしながら、公示価格とは、国土交通省におかれる土地鑑定委員会が、都市計画法第4条《定義》第2項に規定する都市計画区域内の標準地について、毎年1月1日を評価時点として、2人以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って判定されたものであるから、平成21年1月1日時点の公示価格が、当然に、請求人らのいう地価下落の状況を反映したものと認められるから、請求人らの主張は採用できない。
 また、この点をおくとして、路線価とは、毎年1月1日を評価時点として、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、地価事情精通者の意見価格等を参酌し、かつ、隣接地域間における均衡をも考慮して評定されている上、公示価格の8割程度の水準を目途として設定されているものである。この公示価格の8割程度の水準とは、路線価が相続税等の課税に当たり1年間適用されることから、その間の地価変動にも耐え得るものであることの必要性など、評価上の安全性を考慮したものであり、路線価自体が合理性を有するものであるし、評価基本通達による評価は、この路線価に各種補正を行うこととしている。
 したがって、評価基本通達に基づく原処分庁の評価が時価を正しく反映したものとはいえないとする請求人らの主張は採用できない。
C 請求人らは、原処分庁の評価は、評価単位を所有者の別として無道路地としての評価をしておきながら、無道路地であることによる建築制限を適切に考慮しないという矛盾したものである旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のBの(A))。
 しかしながら、上記イのとおり、評価基本通達により算定される価額が時価を上回るなど、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情がある場合を除き、財産の評価は、評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当と解されるところ、上記(イ)のCのとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書の鑑定評価額は本件D土地の時価を適切に示しているものとは認められず、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情は認められないことから、請求人らの主張は採用できない。
 また、この点はおくとしても、不動産の鑑定評価額については、不動産鑑定評価基準において、「不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。」旨定められていることからすると、本件D土地は、請求人ら及び請求人らがその大部分の株式を保有している同族会社であるT社が所有する一団の土地であるから、本件D土地をどのような形で利用するかについては専ら請求人らの意思によって決定できるものであるところ、無道路地となる部分を発生させ、本件D土地の経済価値をいたずらに低下させるような不自然な土地利用は通常考えられないから、請求人らが主張する無道路地であることによる建築上の制約は、鑑定評価上考慮すべき事情には当たらず、この点を重視して大幅な補正をした本件D土地に係る請求人ら鑑定書には合理性に欠ける点がある。したがって、このような不合理な本件D土地に係る請求人ら鑑定書に基づく鑑定評価額を前提として、評価基本通達に基づく原処分庁の評価において本件D土地の無道路地としての建築制限の考慮が適切でないとする請求人らの主張は認めることができない。
ニ 結論
 以上のとおりであるから、本件被相続人所有D土地の評価について、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるとは認められない。
 したがって、本件被相続人所有D土地の価額は、評価基本通達により評価した価額によることが相当であり、その価額は、別紙18の原処分庁算定額と同額となると認められる。

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4 争点2(評価基本通達189−4及び185括弧書の定めは、相続税法第22条の規定に反するか。)について

(1) 主張

イ 原処分庁
(イ) 評価基本通達189−4及び185括弧書は、租税特別措置法の一部を改正する法律(平成8年法律第17号)による廃止前の租税特別措置法第69条の4《相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例》(以下「旧租税特別措置法第69条の4」という。)とは、その趣旨や根拠を異にしたものであり、同条の廃止に伴い直ちに廃止されるべきものではなく、相続税法第22条の規定に反するものではない。
(ロ) 評価基本通達185に定める純資産価額による評価方式(以下「純資産価額方式」という。)は、その会社の収益性について考慮しない点はあるものの、少なくとも会社の経営に対して支配的地位を有する株主の保有する株式については、その最低限度の価額を適正に把握する方式である。資産の保有状況が著しく土地等に偏っている会社の場合、株式の評価について評価基本通達180《類似業種比準価額》に定める類似業種比準価額による評価方式(以下「類似業種比準方式」という。)を適用する前提を欠き、また、株式の取引価格の決定に際しても、会社の資産内容に着目した取引価格の決定がされると考えられるから、評価基本通達189−4は、資産価値をよく反映し得る純資産価額方式により評価することとしたものであり、合理的な取扱いである。
ロ 請求人ら
(イ) 評価基本通達189−4及び185括弧書は、旧租税特別措置法第69条の4の規定の廃止に伴いその根拠法をなくしたもので、直ちに廃止されるべきものであるから、これらの通達による課税は何ら法律の根拠を有しない課税であって、租税法律主義に違反する。
(ロ) 仮に評価基本通達189−4が現在においても合理的な存在意義を有しているとしても、次のことから、純資産価額方式のみで評価するという取扱いは見直されるべきである。
A 拠出資本としての株式は営利を目的とした継続的な投資であるから、当該株式の営利性を加味した類似業種比準方式を排除し、純資産価額方式のみで評価した価額は、株式の時価とはいえない。
B 評価基本通達189(3)及び189−4は、大会社について土地保有割合が70%以上である場合にはその株式を純資産価額により評価する旨定めており、このような形式的な基準によって評価方式及び課税価格が大きく変動する可能性がある通達の定めは、実質的な租税負担の公平を担保するものではなく、合理性を有するものではない。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 上記3の(2)のイのとおり、相続税法第22条における「時価」とは、相続開始時における当該財産の客観的交換価値を示す価額をいうと解するのが相当であり、特別の事情がある場合を除き、財産の評価は、評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当であると解される。
(ロ) 評価基本通達189−4は、土地保有特定会社の株式の価額は、純資産価額方式により評価した価額によるとしている。これは、土地保有特定会社の保有する資産の大部分が土地であることから、当該会社の資産内容に着目し、その保有する土地等の価値を株価に反映させて評価をするものであり、土地保有特定会社の株式の評価を純資産価額方式で行うことは、相続税法第22条に規定する「時価」を算定する方法として合理的な取扱いであると解される。
(ハ) 評価基本通達185括弧書は、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等及び家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するとしている。これは、評価会社の株式を純資産価額で評価するに当たり、評価会社が所有する土地等及び家屋等の「時価」を算定する場合には、個人が所有する土地等及び家屋等の相続税法上の評価を行うことを念頭においた路線価等によって評価することが唯一の方法であるとはいえず、適正な株式評価の見地からは、むしろ通常の取引価額によって評価すべきであると考えられること、特に、課税時期の直前に取得又は新築し、実際の取引価額が明らかに分かっている土地等や家屋等についてまで、路線価等によって評価を行うことは、「時価」の算定上、適切ではないと考えられることによるものであり、相続税法第22条に規定する「時価」を算定する方法として合理的な取扱いであると解される。
ロ 請求人らの主張について
(イ) 請求人らは、評価基本通達189−4及び185括弧書は、旧租税特別措置法第69条の4の規定の廃止に伴いその根拠法をなくしたものであり、租税法律主義に違反する旨主張する(上記(1)のロの(イ))。
 しかしながら、旧租税特別措置法第69条の4の規定は、土地等又は建物等の相続税の課税価格に算入すべき価額について規定したものであるし、相続税法第22条に規定する「時価」に関わらず「取得価額」によるとするものであるから、評価基本通達189−4及び185括弧書の定めとはその趣旨や根拠を異にするものであり、請求人らの主張は採用できない。
(ロ) 請求人らは、営利性を加味しない純資産価額方式のみで評価した価額は株式の時価とはいえないから、評価基本通達189−4の取扱いは見直されるべきである旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のA)。
 しかしながら、上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、評価基本通達189−4及び185括弧書の取扱いは、相続税法第22条に規定する「時価」を算定する方法としていずれも合理的なものであるから、請求人らの主張は採用できない。
(ハ) 請求人らは、大会社について土地保有割合が70%以上であるかどうかという形式的な基準により評価方式及び課税価格が大きく変わる評価基本通達189−4の取扱いは、実質的な租税負担の公平を担保するものではなく、合理性を有しない旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のB)。
 しかしながら、評価基本通達により評価することが合理性を有することについては、上記3の(2)のイのとおりであり、また、土地保有特定会社を純資産価額で評価することが合理性を有することについては、上記イの(ロ)のとおりであるから、請求人らの主張は採用できない。
ハ 結論
 以上のとおり、評価基本通達189−4及び185括弧書の定めは、相続税法第22条に規定する「時価」を算定する方法として合理的な取扱いであり、同条の規定に反するものではない。

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5 争点3(相当地代通達8により純資産価額に算入される自用地としての価額の20%に相当する金額は、評価基本通達189(3)イに定める土地保有割合を算定する際の「土地等の価額」に該当するか否か。)について

(1) 主張

イ 原処分庁
 相当地代通達8により読み替えて適用される「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(昭和43年10月28日付直資3−22ほか国税庁長官通達。以下「相当地代貸宅地通達」という。)では、自用地としての価額の20%に相当する金額を「借地権の価額」であると明記している。その理由は、地主の土地所有権の価額と借地人の土地使用借権の価額の合計をもって、理論的には土地のいわゆる更地価額が顕現されるものであり、借地権相当額は、正にこの借地人の土地使用借権の価額であると位置づけているからである。
 したがって、自用地としての価額の20%に相当する金額は、借地権の価額であるので、評価基本通達189(3)イに定める「土地等の価額」に該当する。
ロ 請求人ら
 無償返還届出書が提出されている土地については、相当地代通達5《「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の借地権の価額》によりその借地権の価額は零として取り扱われることとなるから、相当地代通達8及び相当地代貸宅地通達により当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を純資産価額に含めるとしても、それは借地権の価額ではない。
 また、相当地代通達8及び相当地代貸宅地通達の定めは、同族会社を利用した相続税負担の恣意的軽減を防止するため、あえて、無償返還届出書が提出されている土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を純資産価額に算入するものであり、そのことをもって、借地人である同族会社に土地の上に存する権利が移転したとみることはできない。
 したがって、自用地としての価額の20%に相当する金額は、評価基本通達189(3)イに定める「土地等の価額」に該当しない。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 評価基本通達189(3)イは、土地保有特定会社に該当するかどうかの基準となる土地保有割合を、評価会社の有する各資産を評価基本通達の定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合と定めており、この「土地等」とは、評価基本通達185の定めにより、土地及び土地の上に存する権利をいう。そして、評価基本通達9《土地の上に存する権利の評価上の区分》(5)により、借地権は土地の上に存する権利の1つとされていることから、この「土地等」には借地権が含まれることとなる。
(ロ) 無償返還届出書は、法人税基本通達13−1−7の定めにより、借地権の設定等に当たり、権利金の認定課税に代えて、実際に収受している地代の額と相当の地代の額の差額について認定課税を受けようとする場合に、借地権の設定等に係る契約書において借地人等がその土地を将来無償で返還することを定めた上、その旨を税務署長に届け出るために土地所有者と借地人等との連名で提出されるものである。
 相当地代通達5は、借地権が設定された土地について、この無償返還届出書が提出されている場合には、当該借地権の価額は零として取り扱うこととしている。この取扱いは、設定された借地権の存在を否定するものではなく、土地所有者及び借地人間の当該土地を将来無償で返還することを約した契約を前提とすると、当該借地権の価額を零として取り扱うことが当事者間の取引の実態にかなうと考えられることによると解される。
(ハ) 相当地代通達8は、借地権が設定されている土地について、無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価することとし、このような場合において、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けているときには、相当地代貸宅地通達を読み替えて、被相続人が所有する同族会社の株式の評価上、当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を同社の純資産価額に算入する旨定めている。この取扱いは、被相続人が当該会社の同族関係者である場合に限って、借地権の価額を自用地としての価額の20%に相当する金額によるとすることにより、被相続人に係る相続税の課税上、当該土地の価額を個人と法人を通じて100%顕現させることが課税の公平上適当であると考えられることによるもので、上記(ロ)と同様に、設定された借地権の存在を否定するものではないと解される。
(ニ) 上記(ロ)及び(ハ)のとおりの相当地代通達5及び8の取扱いは、借地権が設定されている土地を前提としており、設定された借地権の存在を否定することなく、課税の各場面における借地権の価額の多寡を定めている取扱いである。したがって、相当地代通達8により純資産価額に算入される自用地としての価額の20%に相当する金額を借地権以外の価額と解することはできず、このことは相当地代通達8が読み替えることとする相当地代貸宅地通達の文言が、上記の自用地としての価額の20%に相当する金額を「借地権の価額」としていることからも明らかである。
 そして、この自用地としての価額の20%に相当する金額については、評価基本通達189(3)イに定める土地保有割合を算定する際の「土地等の価額」の合計額から除外するとの特段の定めもないから、当該金額は、上記の「土地等の価額」に該当すると解するのが相当である。
ロ 請求人らの主張について
 請求人らは、無償返還届出書が提出されている土地の自用地としての価額の20%に相当する金額は借地権の価額ではない旨の主張を前提として、当該金額を純資産価額に算入することをもって、借地人である同族会社に土地の上に存する権利が移転したとみることはできない旨主張する(上記(1)のロ)。
 しかしながら、上記イの(ニ)のとおり、無償返還届出書が提出されている土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を借地権以外の価額と解することはできないから、請求人らの主張は採用できない。
ハ T社が無償返還届出書を提出して使用していた土地への適用について
 上記1の(4)のニの(ロ)のA及びBのとおり、本件被相続人は、T社との間で賃貸借契約を締結した土地(共有持分を含む。)について、K税務署長に対して無償返還届出書を提出しており、上記賃貸借契約においては、将来借地人であるT社が無償で当該土地を返還する旨が定められていた。また、本件被相続人は、上記1の(4)のイの(ロ)及びロの(ニ)のとおり、T社の同族関係者に該当する。
 したがって、T社の株式の評価に当たっては、当該無償返還届出書が提出されている土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を、評価基本通達189(3)イに定める土地保有割合を算定する際の「土地等の価額」に含めて評価することとなる。

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6 争点4(T社が所有する土地の評価に当たり、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるか否か。)について

(1) 主張

イ 原処分庁
(イ) 相続財産の評価に当たり、評価基本通達に定められた評価方法により評価することについては、上記3の(1)のイの(イ)のとおりである。
(ロ) 次のとおり、請求人ら鑑定書には合理性に疑問があり、他に評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はないから、T社が所有する土地の価額は、別紙16ないし22のとおりの評価基本通達による評価額によることが相当である。
A T社が所有する土地に共通する事項
 請求人ら鑑定書における時点修正率については、上記3の(1)のイの(ロ)のAのとおりである。
B 本件A土地及び本件甲土地について
(A) 個別格差率について
a 評価基本通達に定める不整形地補正率は、不整形地の評価上勘案すべき不整形の程度、位置及び地積の大小の各要素を織り込み、また、経験則を集約して画一的、統一的に算定するための指針として恣意性を排除し、納税者間の課税の公平、評価方法の簡素化を図るために定められたものであり、その内容は合理的なものであるところ、本件A土地及び本件甲土地の評価基本通達に定める不整形地補正率は0.89ないし1.00の範囲であって、その最小値(0.70)と近似したものとなっていないことからすれば、その補正率による補正より大きな個別補正が必要な土地であるとは認められない。
b 請求人ら鑑定書は、別紙7「不動産目録」記載の本件A−10土地、本件A−12土地及び本件A−13土地について、地積又は不整形であることを理由として「総合判断」の項目で減価をしているが、地積等については既に「画地条件」の項目で減価をしているので、新たに「総合判断」の項目で減価をする必要はない。また、請求人ら鑑定書は、別紙7「不動産目録」記載の本件A−4土地について、「総合判断」の項目で減価をしていながら、その根拠が示されていない。かかる請求人ら鑑定書には、合理性に疑問がある。
(B) 比準価格の算定について
a 取引事例Aは同族関係者間における底地取引、取引事例Gは国有地である底地の払下げ取引であると見込まれるが、取引の内容を調査した上で適正な事情補正がされているか不明である。
b 取引事例Fに係る事情補正は根拠が不明確であって妥当性が判断できず、取引事例B及びIはともに競売事例であるにも関わらず取引事例Iについてのみ補正されていて整合性を欠き、競売事例である取引事例Iよりも競売事例でない取引事例Fの補正の方が大きいのは一般的にみて不自然で合理性に欠ける。
c 取引事例Gに対しては地積過小の標準化補正を行う一方で、一見して規模大と判断できる取引事例F及びHに対しては標準化補正を行っておらず、規模格差の査定に整合性が認められない。
d 取引事例C及びIは地域格差が大きく、当該事例を採用することに合理性がない。
C 本件B土地について
(A) 個別格差率について
a 上記Bの(A)のaのとおり、評価基本通達に定める不整形地補正率は合理的であり、本件B土地の評価基本通達に定める不整形地補正率は0.88ないし1.00の範囲であって、その最小値(0.60又は0.70)と近似したものとなっていないことからすれば、その補正率による補正より大きな個別補正が必要な土地であるとは認められない。
b 請求人ら鑑定書は、別紙7「不動産目録」記載の本件B−4土地及び本件B−8土地について、地積又は不整形であることを理由として「総合判断」の項目で減価をしているが、地積等については既に「画地条件」の項目で減価をしているので、新たに「総合判断」の項目で減価をする必要はない。かかる請求人ら鑑定書には、合理性に疑問がある。
(B) 比準価格の算定について
a 取引事例Eに対しては地積規模の標準化補正を行う一方で、一見して規模大と判断できる取引事例G及びIに対しては標準化補正を行っておらず、妥当性に劣る。
b 取引事例Gに係る「総額減価」は、標準化補正率の根拠が不明確である。
(C) 路線価による評価について
 本件B土地が接面する道路の両側は、環境等に差異はあるものの、異なる路線価を設定するほどの明確な価格水準の差があるとまではいえない。
D 本件D土地について
 上記3の(1)のイの(ロ)のとおりである。
E 本件E土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例B及びIに係る事情補正は、根拠が不明確であって妥当性が判断できない。
b 取引事例Dに係る地域格差の査定根拠が不明確であって妥当性が判断できないところ、地域格差の大きい事例は、場所的同一性の観点から信頼性に劣るため、その採用に合理性がない。
(B) 規準価格について
 請求人ら鑑定書の規準価格は、その算定に用いた公示地の平成21年1月1日の公示価格を下回っており、不合理である。
(C) 路線価方式による評価について
 鑑定評価における個別格差率と差異があったとしても、直ちに評価基本通達に基づく各種補正が不十分であるとはいえないし、評価基本通達による評価額が客観的交換価値を上回ることが明らかであるともいえないところ、そもそも、請求人ら鑑定書は、上記(A)及び(B)で指摘したとおり合理性に欠ける点があり、結果として適切な鑑定評価額が決定されていないおそれがある。
F 本件F土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例A及びIに係る事情補正は、根拠が不明確であって妥当性が判断できない。
b 取引事例Cに係る標準化補正(「建売り」としての補正)は、根拠が不明確であって妥当性が判断できない。
c 取引事例D及びIに対しては地積過小の標準化補正を行いながら、これらと同規模で一見して規模小と判断できる取引事例B、C、G及びHに対しては地積規模の標準化補正を行っておらず、妥当性に劣る。
(B) 規準価格について
 上記Eの(B)と同様である。
(C) 路線価方式による評価について
 上記Eの(C)と同様である。
G 本件G土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例Iに係る事情補正は、根拠が不明確であって妥当性が判断できない。
b 取引事例Aに係る標準化補正において、「超不整形」として大きく補正をしているが、その根拠が不明確であって妥当性が判断できない。
c 取引事例F及びGに係る地域格差の査定根拠が不明確であって妥当性が判断できないところ、地域格差の大きい事例は、場所的同一性の観点から信頼性に劣るため、その採用に合理性がない。
d 取引事例Iに対しては地積過小の補正を行いながら、これと同規模で一見して規模小と判断できる取引事例G及びHに対しては地積規模の標準化補正を行っておらず、妥当性に劣る。
(B) 規準価格について
 上記Eの(B)と同様である。
(C) 路線価方式による評価について
 評価基本通達による評価は、路線価に各土地の立地、地積又は地形等に応じた各種の補正率を乗じて算定されるものであるから、結果として評価額に開差が生じなかったとしても、市場性、経済性を無視したものではない。
H 本件H土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例A及びHに係る事情補正は根拠が不明確であって妥当性が判断できず、また、取引事例Cは取引事例Hと同様に競売事例であるのに補正されておらず、整合性を欠いている。
b 取引事例Bに係る標準化補正において、「超不整形」として大きく補正をしているが、その根拠が不明確であって妥当性が判断できない。
c 取引事例Hに対しては地積過小の補正を行いながら、これと同規模で一見して規模小と判断できる取引事例D、F及びGに対しては地積規模の標準化補正を行っておらず、妥当性に劣る。
(B) 規準価格について
 上記Eの(B)と同様である。
(C) 路線価方式による評価について
 本件H土地のように角地における角の部分がかげ地となっている形状の場合、側方路線影響加算率に代えてより低率の二方路線影響加算率を用いて評価するとともに、不整形地補正率の適用対象となるから、評価基本通達による評価でも角地における角の部分がかげ地になっていることについては考慮されている。
ロ 請求人ら
(イ) 相続税法第22条にいう時価の考え方については、上記3の(1)のロの(イ)のとおりである。
(ロ) 次のとおり、請求人ら鑑定書による評価額は合理的であり、評価基本通達による評価額は客観的交換価値を上回っているから、T社が所有する土地の価額は、請求人ら鑑定書による評価額によることが相当である。
A T社が所有する土地に共通する事項
 請求人ら鑑定書における時点修正率については、上記3の(1)のロの(ロ)のAのとおりである。
B 本件A土地及び本件甲土地について
(A) 個別格差率について
a 本件A土地は、極端な不整形地が多く、評価基本通達に定める不整形地補正率よりも大きな個別補正を要する。そもそも、評価基本通達に定める不整形地補正率は、かげ地がその土地のどの部分にあるかを問わず一律に定められているが、かげ地の位置によって不動産の価値は大きく変わることから、不合理である。
b 請求人ら鑑定書は、土地価格比準表を参考として査定を行っているが、極端な不整形地や地積の過小等、「画地条件」等の項目では補正し切れないものもあったことから、「総合判断」として補正をしたものであり、合理的である。
(B) 比準価格の算定について
a 取引事例の事情補正は取引事例カードの記載内容に基づいて行っているところ、取引事例A及びGに係る取引事例カードには取引事情がない旨記載されており、事情補正は不要である。
b 事情補正をするに当たり、事情の有無及び補正率については、取引事例カードの記載内容に基づいている。
c 商業地域の大規模画地は、高額で取引される場合もあれば、低額で取引される場合もある。
d 地域格差率の査定については、上記3の(1)のロの(ロ)のCの(B)と同様である。
C 本件B土地について
(A) 個別格差率について
a 本件B土地は、極端な不整形地が多く、評価基本通達に定める不整形地補正率よりも大きな個別補正を要する。そもそも、上記Bの(A)のaのとおり、評価基本通達に定める不整形地補正率は不合理である。
b 「総合判断」としての補正については、上記Bの(A)のbと同じである。
(B) 比準価格の算定について
a 標準化補正とは、対象地との比較で行うのではなく、取引事例が存する地域の標準的画地に合致したものに補正するものであり、取引事例G及びIの規模は当該地域において標準的であるから、標準化補正を行う必要はない。これに対して、取引事例Eは、小規模画地が多い地域に所在するが、マンション適地としての規模を有するため、規模による標準化補正が必要である。
b 取引事例Gに係る「総額減価」は、取引事例カードの記載内容に基づき、取引の内容、当事者の状況、当該地域の地価水準を考慮し、減額補正を行ったものである。
(C) 路線価による評価について
 本件B土地は、その向かい側と比べて、隣接する高速道路の騒音及び河川における夏場の悪臭等により環境条件が著しく劣っており、看過できない客観的差異があるのに、本件B土地が接面する道路の路線価はその向かい側と同価格となっており、不合理である。
D 本件D土地について
 上記3の(1)のロの(ロ)のとおりである。
E 本件E土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例の事情補正については、上記3の(1)のロの(ロ)のCの(A)と同じである。
b 地域格差率については、経験則に基づき数度の実査を行うとともに、路線価の比も参考として査定しているため、精度は高い。
(B) 規準価格について
 平成21年の公示価格は、平成20年9月15日から始まったリーマンショックによる急激かつ著しい地価下落を適切に反映していないと判断して、平成21年1月1日の公示価格を下回る規準価格とした。
(C) 路線価方式による評価について
 本件E土地は、T社が所有するビルの条例に基づく駐車場附置義務に係る代替駐車場となっているから、法令に基づく利用上の制約を受けており、このような制約は評価に反映されるべきである。
F 本件F土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例の事情補正については、上記3の(1)のロの(ロ)のCの(A)と同じである。
b 建売りについては、過去に建売業者へ聞取り調査をした結果により売主の開発利益が15%程度と推定できるから、15%の補正を行っている。
c 標準化補正とは、取引事例が存する地域の標準的画地に合致したものに補正するものであり、取引事例B、C、G及びHの規模は当該地域において標準的であるから、標準化補正を行う必要はない。
(B) 規準価格について
 上記Eの(B)と同じである。
(C) 路線価方式による評価について
 本件F土地は、奥行きが短く、規模が過小な宅地である上、第三者所有の隣地とともに共有建物の敷地となっており、売却をする場合に困難を伴い、担保価値も低下するから減価要因となるが、路線価方式による評価ではこれらの減価要因が適正に考慮されていない。
G 本件G土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例の事情補正については、上記3の(1)のロの(ロ)のCの(A)と同じである。
b 取引事例Aは鋭角に中程で屈折する非常に使い勝手の悪い超不整形地であり、容積率も十分使いきれないため、マイナス50ポイントと査定した。この事例は、超不整形地であるが、現に飲食店の敷地として利用されており、適切に補正を行えば、事例として採用することは不合理ではない。
c 地域格差率については、上記Eの(A)のbと同じである。
d 標準化補正とは、取引事例が存する地域の標準的画地に合致したものに補正するものであり、取引事例G及びHの規模は当該地域において標準的であるから、標準化補正を行う必要はない。
(B) 規準価格について
 上記Eの(B)と同じである。
(C) 路線価方式による評価について
 同一路線上でも立地、地積又は地形により経済価値は異なるが、路線価方式による評価では評価額にほとんど開差が生じず、市場性、経済性を無視している。
H 本件H土地について
(A) 比準価格の算定について
a 取引事例の事情補正については、上記3の(1)のロの(ロ)のCの(A)と同じである。
b 取引事例Bは鋭角に中程で屈折する非常に使い勝手の悪い超不整形地であり、容積率も十分使いきれないため、マイナス50ポイントと査定した。
c 標準化補正とは、取引事例が存する地域の標準的画地に合致したものに補正するものであり、取引事例D、F及びGの規模は当該地域において標準的であるから、標準化補正を行う必要はない。
(B) 規準価格について
 上記Eの(B)と同じである。
(C) 路線価方式による評価について
 本件H土地は、○○駅前方面から最も目立つ、交差点に接面する角地であるが、集客力のある角地が第三者の所有地であることによってかげ地となり、商業地として大きく経済価値が低下している。しかし、路線価方式による評価ではそのような事情は考慮されていない。

(2) 判断

イ 認定事実
 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件A土地及び本件甲土地について
A 利用単位について
(A) 本件A土地は、別紙7「不動産目録」の「区分」欄のとおり、区分した状態で利用されていた(以下、順に「本件A−1土地」、「本件A−2土地」、「本件A−3土地」、「本件A−4土地」、「本件A−5土地」、「本件A−6土地」、「本件A−7土地」、「本件A−8土地」、「本件A−9土地」、「本件A−10土地」、「本件A−11土地」、「本件A−12土地」及び「本件A−13土地」という。)。
(B) 本件A土地の本件相続開始日における利用状態は、まる1本件A−3土地はT社が所有する区分所有建物(他者への貸付け及びT社の社宅として利用)の敷地の用に供され、まる2本件A−12土地は更地であり、まる3その他の土地はそれぞれ異なる者に賃貸されていた。
B 本件A土地の法的規制及び形状等について
(A) 本件A土地の用途地域は商業地域、建ぺい率は80%、容積率は600%である。
(B) 本件A−1土地ないし本件A−13土地の形状等は、以下のとおりである(別紙7の(注)の位置図1参照)。
a 本件A土地は西側で県道○号線に接面している。
b 本件A−1土地は、間口8.78メートル、奥行15.61メートルの不整形の画地である。
c 本件A−2土地は、間口5.62メートル、奥行18.74メートルの長方形の画地である。
d 本件A−3土地は、間口7.23メートル、奥行18.50メートルの不整形の画地である。
e 本件A−4土地は、間口4.33メートル、奥行9.33メートルの長方形の画地である。
f 本件A−5土地は、間口7.03メートル、奥行17.75メートルの長方形の画地である。
g 本件A−6土地は、間口9.22メートル、奥行11.84メートルの不整形の画地である。
h 本件A−7土地は、間口8.59メートル、奥行10.67メートルの不整形の画地である。
i 本件A−8土地は、間口5.45メートル、奥行13.06メートルの不整形の画地である。
j 本件A−9土地は、間口7.86メートル、奥行12.63メートルの長方形の画地である。
k 本件A−10土地は、間口17.91メートル、奥行9.61メートルの不整形の画地である。
l 本件A−11土地は、間口6.75メートル、奥行12.12メートルの長方形の画地である。
m 本件A−12土地は、間口4.57メートル、奥行11.15メートルの長方形の画地である。
n 本件A−13土地は、間口4.82メートル、奥行7.47メートルの不整形の画地である。
C 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書の概要について
 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書の要旨は、別紙9のとおりである。
D 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等について
(A) 取引事例Aは、借地契約の当事者間における底地の売買の事例である。
(B) 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、標準画地と比較して環境条件が異なることを主な理由として、取引事例B、C及びIについて、それぞれ、186.2分の100、254.8分の100及び281分の100の地域要因格差による補正をしている(別紙9の4の(2))。
(C) 取引事例Bは、担保不動産競売による売却の事例である。
(D) 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、売り急ぎがあったとして、取引事例F及びIについて、それぞれ、50分の100及び60分の100の事情補正をしている。
(E) 取引事例Fは、その用途地域が、商業地域(建ぺい率80%・容積率500%)、第一種住居地域(建ぺい率60%・容積率300%)及び第一種中高層住居専用地域(建ぺい率60%・容積率300%)にまたがって所在する土地に係る事例である。
E 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書における個別格差率の査定について
 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、個別格差率の査定において、地積及び地形の利用効率性を考慮して、画地条件とは別の項目である「総合判断」として、本件A−4土地についてマイナス10ポイント、本件A−10土地についてマイナス15ポイント、本件A−12土地についてマイナス2ポイント、本件A−13土地についてマイナス10ポイント、それぞれ減価をしている。
(ロ) 本件B土地について
A 利用単位について
(A) 本件B土地は、別紙7「不動産目録」の「区分」欄のとおり、区分した状態で利用されていた(以下、順に「本件B−1土地」、「本件B−2土地」、「本件B−3土地」、「本件B−4土地」、「本件B−5土地」、「本件B−6土地」、「本件B−7土地」、「本件B−8土地」、「本件B−9土地」、「本件B−10土地」、「本件B−11土地」及び「本件B−12土地」という。)。
(B) 本件B土地の本件相続開始日における利用状態は、まる1本件B−4土地及び本件B−8土地はそれぞれT社の所有する貸家の敷地の用に供され、まる2その他の土地はそれぞれ異なる者に賃貸されていた。
B 本件B土地の法的規制及び形状等について
(A) 本件B土地の用途地域は準工業地域、建ぺい率は60%、容積率は300%である。
(B) 本件B−1土地ないし本件B−12土地の形状等は、以下のとおりである(別紙7の(注)の位置図2参照)。
a 本件B−1土地は北側及び東側で市道に接面しており、本件B−2土地ないし本件B−12土地は東側で市道に接面している。
b 本件B−1土地は、間口12.43メートル、奥行9.40メートルの長方形の画地である。
c 本件B−2土地は、間口7.77メートル、奥行13.89メートルの長方形の画地である。
d 本件B−3土地は、間口12.11メートル、奥行10.97メートルの不整形の画地である。
e 本件B−4土地は、間口61.42メートル、奥行15.32メートルの不整形の画地である。
f 本件B−5土地は、間口10.02メートル、奥行11.22メートルの不整形の画地である。
g 本件B−6土地は、間口9.65メートル、奥行17.05メートルの長方形の画地である。
h 本件B−7土地は、間口8.85メートル、奥行16.55メートルの長方形の画地である。
i 本件B−8土地は、間口53.56メートル、奥行14.68メートルの不整形の画地である。
j 本件B−9土地は、間口6.30メートル、奥行14.96メートルの不整形の画地である。
k 本件B−10土地は、間口6.51メートル、奥行13.84メートルの不整形の画地である。
l 本件B−11土地は、間口7.11メートル、奥行14.48メートルの長方形の画地である。
m 本件B−12土地は、間口6.47メートル、奥行15.72メートルの不整形の画地である。
C 本件B土地に係る請求人ら鑑定書の概要について
 本件B土地に係る請求人ら鑑定書の要旨は、別紙10のとおりである。
D 本件B土地に係る請求人ら鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等について
(A) 取引事例Jは、当該事例地の隣地の所有者が当該事例地を買い取った事例である。
(B) 取引事例Fは、間口距離が2メートル、奥行距離が33メートルの路地状部分を有する不整形な画地であり、本件B土地に係る請求人ら鑑定書において、その形状を理由に標準化補正としてマイナス32ポイントの補正を行っている事例であるところ、取引の対象となった土地の隣地の所有者が当該土地を買い取った事例である。
(C) 本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、標準画地と比較して環境条件が異なることを主な理由として、取引事例Dについて、160.3分の100の地域要因格差による補正をしている。
 上記地域要因格差による補正の理由は、主に標準画地と比較して環境条件が異なるとするものである(別紙10の4の(2))。
(D) 取引事例Gは、地積が約4,080平方メートルの画地で、当該土地が高層の事務所、店舗及び倉庫が混在する地域にある事例である。
(E) 取引事例Bは、地積が約80平方メートルの画地で、当該土地の前面道路の幅員が約4.3メートル、容積率が258%の事例である。
(F) 取引事例D及びEは、取引時点において、売主と第三者との間で、建物を目的とした賃貸借契約が締結されていた事例地に係る事例である。
E 本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、個別格差率の査定において、相当な不整形地であることを考慮して、画地条件とは別の項目である「総合判断」として、本件B−4土地についてマイナス5ポイント、本件B−8土地についてマイナス10ポイント、それぞれ減価をしている。
(ハ) 本件D土地について
 本件D土地の法的規制及び形状等、本件D土地に係る請求人ら鑑定書の概要並びに当該鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等については、上記3の(2)のロの(イ)ないし(ニ)のとおりである。
(ニ) 本件E土地について
A 本件E土地の法的規制及び形状等については、次のとおりである。
(A) 本件E土地の用途地域は商業地域、建ぺい率は80%、容積率は700%である。
(B) 本件E土地は、本件相続開始日において立体駐車場として利用されており、北東側及び南東側で市道に接面している、間口12.52メートル、奥行11.17メートルの長方形の土地である。
B 本件E土地に係る請求人ら鑑定書の要旨は、別紙12のとおりである。
C 本件E土地に係る請求人ら鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等は、以下のとおりである。
(A) 本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、標準画地と比較して環境条件が異なることを主な理由として、取引事例A、B、C、D、F及びHについて、それぞれ、52.2分の100、54.3分の100、28.2分の100、189.2分の100、61.9分の100及び42分の100の地域要因格差による補正をしている(別紙12の4の(2))。
(B) 取引事例Fは、間口10.5メートル、奥行25.0メートルの画地の事例である。
 また、当該取引事例の付近には公示地(s市5−18)があり、当該公示地の間口距離と奥行距離の比率は1対1.2である。
(C) 本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、買い進みがあったとして、取引事例Bについて200分の100、売り急ぎがあったとして、取引事例Iについて80分の100の事情補正をしている。
D 本件E土地は、p県駐車場条例第18条の規定に基づき、p県s市x−2町○−○に所在する土地上に建築された建物に係る駐車場附置義務に伴う代替駐車場として利用されている。当該附置義務により設定する代替駐車場は、当該建物の敷地から一定の距離内の場所に設置する必要があるが、必ずしも本件E土地に設置しなければならないものではない。
 本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、個別格差率の査定において、本件E土地が上記の駐車場附置義務により代替駐車場として利用されていることを勘案して、個別格差補正としてマイナス10ポイントの減価をしている。
(ホ) 本件F土地について
A 本件F土地の法的規制及び形状等について
(A) 本件F土地の用途地域は商業地域、建ぺい率は80%、容積率は800%である。
(B) 本件F土地の形状及び利用状況等は、以下のとおりである。
a 本件F土地は、南西側で県道○号線(○通り)に接面している、間口12.3メートル、奥行6.62メートルの長方形の土地である。
b 本件F土地は、本件相続開始日において、南東側で接面しているp県s市x−4町○−○所在の土地と一体として、地上9階地下1階建ての賃貸用店舗ビル(隣接地所有者と共有)の敷地の用に供されていた。
 当該敷地は、南西側で○通り、南東側で市道に接面している、間口20.19メートル、奥行6.62メートルの長方形の画地である。
c 上記bのp県s市x−4町○−○の土地には、第1順位として、債務者をN社、根抵当権者をQ銀行、極度金額を600,000,000円とする根抵当権が、第2順位として、債務者をN社、根抵当権者をQ銀行、極度金額を400,000,000円とする根抵当権が、第3順位として、債務者をN社、根抵当権者をR社、極度金額を450,000,000円とする根抵当権が、それぞれ設定されている。
B 本件F土地に係る請求人ら鑑定書の概要について
 本件F土地に係る請求人ら鑑定書の要旨は、別紙13のとおりである。
C 本件F土地に係る請求人ら鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等について
(A) 本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、標準画地と比較して環境条件が異なることを主な理由として、取引事例A、B、C、D、E、H及びIについて、それぞれ、39分の100、59.3分の100、50.6分の100、29.7分の100、41分の100、69.2分の100及び45.9分の100の地域要因格差による補正をしている(別紙13の4の(2))。
(B) 取引事例Gは、地積が約40平方メートルの画地である。
 また、当該取引事例の付近には公示地(s市5−32)があり、当該公示地の地積は125平方メートルである。
(C) 本件F土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地(公示地(s市5−33))は○○駅から約140メートルに位置している。
(D) 本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、売り急ぎがあったとして、取引事例A及びIについて、それぞれ、70分の100及び60分の100の事情補正をしている。
(E) 本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、標準価格の査定に当たり9つの取引事例の試算価格を算定しているが、取引事例Hについて、取引事例Gとほぼ同一地点であるものの同事例より過去の取引であるとの理由により、取引事例Hを除く8事例により標準価格を査定している(別紙13の4の(3))。
(ヘ) 本件G土地について
A 本件G土地の法的規制及び形状等について
(A) 本件G土地の用途地域は商業地域、建ぺい率は80%、容積率は800%である。
(B) 本件G土地の形状及び利用状況等は、以下のとおりである。
a 本件G土地は、別紙7「不動産目録」の「区分」欄のとおり、本件G−1土地ないし本件G−3土地及び本件G−1隣接地に区分されていた(以下、順に「本件G−1土地」、「本件G−2土地」、「本件G−3土地」及び「本件G−1隣接地」という。)。
b 本件G−1土地は、本件相続開始日において、本件G−1隣接地と一体として、地上8階地下2階建ての賃貸用オフィスビルの敷地の用に供されていた。
 当該敷地は、北東側、南東側及び南西側で市道に接している、間口27.51メートル、奥行22.72メートルの長方形の画地である。
 なお、T社は、本件G−1隣接地に借地権を設定していた(上記1の(4)のハ)。
c 本件G−2土地は、本件相続開始日において立体駐車場として利用されており、北東側及び南東側で市道に接面している、間口12.70メートル、奥行9.22メートルの長方形の画地である。
d 本件G−3土地は、本件相続開始日において駐車場として利用されており、北東側、北西側及び南西側で市道に接面している、間口9.26メートル、奥行22.48メートルの長方形の画地である。
 なお、本件G−3土地のうち44.65平方メートルについては、T社が、平成20年3月24日、裁判上の和解により、借地権を取得した(上記1の(4)のニの(ニ)のB)。
B 本件G土地に係る請求人ら鑑定書の概要について
 本件G土地に係る請求人ら鑑定書の要旨は、別紙14のとおりである。
C 本件G土地に係る請求人ら鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等について
(A) 本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、標準画地と比較して環境条件が異なることを主な理由として、取引事例E、F及びGについて、それぞれ、55.9分の100、195分の100及び187.2分の100の地域要因格差による補正をしている(別紙14の4の(2))。
(B) 取引事例Gは、地積が約40平方メートルの画地である。
 また、当該取引事例の付近には公示地(s市5−32)があり、当該公示地の地積は125平方メートルである。
(C) 本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、売り急ぎがあったとして、取引事例Iについて、60分の100の事情補正をしている。
(D) 本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、標準価格の査定に当たり9つの取引事例の試算価格を算定しているが、取引事例Hについて、取引事例Gとほぼ同一地点であるものの同事例より過去の取引であるとの理由により、取引事例Hを除く8事例により標準価格を査定している(別紙14の4の(3))。
(ト) 本件H土地について
A 本件H土地の法的規制及び形状等について
(A) 本件H土地の用途地域は商業地域、建ぺい率は80%、容積率は800%である。
(B) 本件H土地は、T社の所有する賃貸ビルの敷地の用に供され南西側で県道○号線(○通り)に、北西側及び南東側で市道に接面している、間口10.48メートル、奥行16.23メートルの不整形の画地である。
B 本件H土地に係る請求人ら鑑定書の概要について
 本件H土地に係る請求人ら鑑定書の要旨は、別紙15のとおりである。
C 本件H土地に係る請求人ら鑑定書において使用された取引事例の概要及び当該鑑定書における補正理由等について
(A) 本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、標準画地と比較して環境条件が異なることを主な理由として、取引事例A、B、C、D及びHについて、それぞれ、33.2分の100、36.6分の100、26.1分の100、54.2分の100及び40.2分の100の地域要因格差による補正をしている(別紙15の4の(2))。
(B) 取引事例Fは、地積が約40平方メートルの画地である。
 また、当該取引事例の付近には公示地(s市5−32)があり、当該公示地の地積は125平方メートルである。
(C) 取引事例Cは、担保不動産競売による売却の事例である。
(D) 本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、売り急ぎがあったとして、取引事例A及びHについて、それぞれ、70分の100及び60分の100の事情補正をしている。
(E) 本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、標準価格の査定に当たり9つの取引事例の試算価格を算定しているが、まる1取引事例Gについては、取引事例Fとほぼ同一地点であるものの同事例より過去の取引であるとの理由により、また、まる2取引事例Iについては、当事者の一方が投資法人であって高位で取引されているとの理由により、取引事例G及びIを除く7事例により標準価格を査定している(別紙15の4の(3))。
ロ 当てはめ
(イ) 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
A 取引事例比較法による試算価格について
(A) 以下のとおり、本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書には、取引事例比較法において採用している取引事例の採用等について合理性を欠く点が多く認められる。
a 上記イの(イ)のDの(A)のとおり、取引事例Aは借地契約の当事者間における底地の売買の事例であり、その取引価格は当該取引の当事者間においてのみ経済的合理性が認められる価格であるから、取引事例としての規範性に欠けるものである。本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
b 上記イの(イ)のDの(B)のとおり、本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、地域要因格差の分析において、標準画地の所在する地域と比べて、取引事例B、C及びIをいずれも著しく高位であると見積もっているが、このような地域格差の著しい事例は取引事例としての規範性に欠けるものである。本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
c 上記イの(イ)のDの(C)のとおり、取引事例Bは競売による取引事例であり、補正を要する特殊な事情がある。それにも関わらず、本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、事情補正をしておらず、この点で不合理である。
d 本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、上記イの(イ)のDの(D)のとおり、取引事例F及びIについて事情補正をしているが、当該鑑定書を作成した不動産鑑定士が事情補正率の査定の根拠とする取引事例カードには事情補正率の割合の数値しか記載されておらず、その他請求人らから当審判所に提出された資料によっても事情補正率の割合の査定根拠が明確にされていないことから合理性が疑われる。
e 上記イの(イ)のDの(E)のとおり、取引事例Fは、複数の用途地域にまたがって所在する土地に係る事例であり、当該土地に係る建ぺい率は100%、容積率は383%と認められる(別紙9の4の(1))。しかしながら、本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、取引事例Fについて、地域要因格差の行政的条件の分析において、建ぺい率が100%、容積率が500%の取引事例(取引事例G及びH)と同等にマイナス7ポイントの補正をしており(別紙9の4の(2))、この点で不合理である。
(B) また、本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書が、個別格差率の査定に当たり、本件A−4土地、本件A−10土地、本件A−12土地及び本件A−13土地について、面積及び地形の利用効率性を考慮して「総合判断」として減価をした点については、これらは、画地条件として地積過小及び不整形地の項目において既に補正したものである上、「利用効率性」という客観性に欠ける事情に基づく減価であって、相当ではない。
B 小括
 以上のとおり、本件A土地及び本件甲土地に係る請求人ら鑑定書は、合理性を欠く点が多く認められる。したがって、当該鑑定書による鑑定評価額は本件A土地及び本件甲土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
C 請求人らの主張について
 請求人らは、本件A土地は極端な不整形地が多いとした上で、評価基本通達に定める不整形地補正率は、当該土地におけるかげ地の位置を考慮せずに一律に定められているから不合理である旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のBの(A)のa)。
 しかしながら、上記3の(2)のイのとおり、評価基本通達により算定される価額が時価を上回るなど、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情がある場合を除き、財産の評価は評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当であると解されるところ、上記Bのとおり、本件A土地に係る請求人ら鑑定書の鑑定評価額は本件A土地の時価を適切に示しているものとは認められず、また、不整形地補正率は、地区区分、地積区分及びかげ地割合といった要素に基づき詳細に場合分けをして定められていて合理性を有するものであり、場合分けの要素の中にかげ地の位置が含まれていないからといって、合理性を欠くものではなく、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情は認められないから、請求人らの主張は採用できない。
(ロ) 本件B土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
A 取引事例比較法による試算価格について
(A) 以下のとおり、本件B土地に係る請求人ら鑑定書には、取引事例比較法において採用している取引事例の採用等について合理性を欠く点が多く認められる。
a 上記イの(ロ)のDの(A)のとおり、取引事例Jは当該事例地の隣地の所有者が当該事例地を買い取った事例であり、その取引価格は当該当事者間においてのみ経済的合理性が認められる価格であるから、取引事例としての規範性に欠けるものである。本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける取引事例を採用している点で不合理である。
b 上記イの(ロ)のDの(B)のとおり、取引事例Fは、本件B土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地に比して著しく不整形な土地であるから、標準化補正として大幅な補正を行っているものの、そもそも選択する事例として適切ではない。また、取引事例Fは当該事例地の隣地の所有者が当該事例地を買い取った事例であり、その取引価格は当該取引の当事者間においてのみ経済的合理性が認められる価格であるから、取引事例としての規範性に欠けるものである。本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける取引事例を採用している点で不合理である。
c 上記イの(ロ)のDの(C)のとおり、本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、地域要因格差の分析において、標準画地の所在する地域と比べて、取引事例Dは著しく高位であると見積もっているが、このような地域格差の著しい事例は取引事例としての規範性に欠けるものである。本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
d 上記イの(ロ)のDの(D)のとおり、取引事例Gの地積は約4,080平方メートルであり、本件B土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地の地積約145平方メートルに比べて一画地の面積が著しく過大であるし、その存する地域も本件B土地の存する地域とは利用の状況が明らかに異なる地域である。本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、このような類似性を著しく欠く事例を採用している点で不合理である。
e 上記イの(ロ)のDの(E)のとおり、取引事例Bの地積は約80平方メートルであり、本件B土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地の地積約145平方メートルに比べて一画地の面積が過小であり、類似性を著しく欠く事例であるし、前面道路の幅員により容積率が258%となっている点について何ら考慮されておらず、不合理である。
f 上記イの(ロ)のDの(F)のとおり、取引事例D及びEは、取引時点において建物を目的とした賃貸借契約が締結されていた事例地に係る取引事例であると認められるところ、このような事例は譲受人がその建物及び敷地の利用について制約を受けることとなるので、そのような制約が存在しないことを前提とする正常価格を算定する場合には適正な補正が必要であるが、本件B土地に係る請求人ら鑑定書では当該補正がされていない。
(B) また、本件B土地に係る請求人ら鑑定書が、個別格差率の査定に当たり、本件B−4土地及び本件B−8土地について、相当な不整形地であることを考慮して「総合判断」として減価をした点については、これらは、画地条件として不整形地の項目において既に補正したものである上、「相当」という客観性に欠ける事情に基づく減価であって、相当ではない。
B 小括
 以上のとおり、本件B土地に係る請求人ら鑑定書は、合理性を欠く点が多く認められる。したがって、当該鑑定書による鑑定評価額は本件B土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
C 請求人らの主張について
 請求人らは、本件B土地はその向かい側と比べて環境条件が著しく劣るから、本件B土地と当該向かい側の土地が同価格となる路線価による評価は不合理である旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のCの(C))。
 しかしながら、それは単に道路が接面する両側の土地の条件を比較しているだけであって、そのことをもって直ちに本件B土地の評価基本通達により算定される価額が時価を上回ることになるわけではない。そして、上記3の(2)のイのとおり、評価基本通達により算定される価額が時価を上回るなど、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情がある場合を除き、財産の評価は評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当であると解されるところ、上記Bのとおり、本件B土地に係る請求人ら鑑定書の鑑定評価額は本件B土地の時価を適切に示しているものとは認められず、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情は認められないから、請求人らの主張は採用できない。
(ハ) 本件D土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
 上記3の(2)のハの(イ)のCのとおり、本件D土地に係る請求人ら鑑定書は合理性を欠く点が多く認められるから、当該鑑定書による鑑定評価額は本件D土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
(ニ) 本件E土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
A 取引事例比較法による試算価格について
(A) 以下のとおり、本件E土地に係る請求人ら鑑定書には、取引事例比較法において採用している取引事例の採用等について合理性を欠く点が多く認められる。
a 上記イの(ニ)のCの(A)のとおり、本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、地域要因格差の分析において、標準画地の所在する地域と比べて、取引事例A、B、C、F及びHをいずれも著しく低位であると見積もり、取引事例Dを著しく高位であると見積もっているが、このような地域格差の著しい事例は取引事例としての規範性に欠けるものである。本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
b 取引事例Fは、上記イの(ニ)のCの(B)のとおり、地域の標準的な画地である公示地(s市5−18)より、間口距離に比して奥行距離が長大であると認められるが、本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、そのことについて補正をしておらず、この点で不合理である。
c 本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、上記イの(ニ)のCの(C)のとおり、取引事例B及びIについて事情補正をしているが、当該鑑定書を作成した不動産鑑定士が事情補正率の査定の根拠とする取引事例カードには事情補正率の割合の数値しか記載されておらず、その他請求人らから当審判所に提出された資料によっても事情補正率の割合の査定根拠が明確にされていないことから合理性が疑われる。
(B) また、本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、個別格差率の査定に当たり、本件E土地が条例に基づく駐車場附置義務により代替駐車場として利用されていることを勘案して減価をしているが、上記イの(ニ)のDのとおり、当該義務により設置する駐車場は、必ずしも本件E土地に設置していなければならないというものではないから、代替駐車場として利用されている事実は、本件E土地の評価に影響を及ぼす事情として考慮すべきものとはいえない。
B 小括
 以上のとおり、本件E土地に係る請求人ら鑑定書は、合理性を欠く点が多く認められる。したがって、当該鑑定書による鑑定評価額は本件E土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
(ホ) 本件F土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
A 取引事例比較法による試算価格について
 以下のとおり、本件F土地に係る請求人ら鑑定書には、取引事例比較法において採用している取引事例の採用等について合理性を欠く点が多く認められる。
(A) 上記イの(ホ)のCの(A)のとおり、本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、地域要因格差の分析において、標準画地の所在する地域と比べて、取引事例A、B、C、D、E、H及びIをいずれも著しく低位であると見積もっているが、このような地域格差の著しい事例は取引事例としての規範性に欠けるものである。本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
(B) 取引事例Gは、上記イの(ホ)のCの(B)のとおり、地域の標準的な画地である公示地(s市5−32)に比して、地積が過小であると認められるが、本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、そのことについて補正をしておらず、この点で不合理である。
(C) 取引事例Fは、上記イの(ホ)のCの(C)のとおり、本件F土地に係る請求人ら鑑定書において使用された標準画地に比して、交通接近条件が劣ると認められるが、本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、そのことについて補正をしておらず、この点で不合理である。
(D) 本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、上記イの(ホ)のCの(D)のとおり、取引事例A及びIについて事情補正をしているが、当該鑑定書を作成した不動産鑑定士が事情補正率の査定の根拠とする取引事例カードには事情補正率の割合の数値しか記載されておらず、その他請求人らから当審判所に提出された資料によっても事情補正率の割合の査定根拠が明確にされていないことから合理性が疑われる。
(E) 上記イの(ホ)のCの(E)のとおり、本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、標準価格の査定に当たり、取引事例Hを採用していないが、時点修正等の補正が適切にされていれば採用することに問題はなく、ほぼ同一地点であり取引事例Gよりも過去の取引であるとの理由により採用しないことは相当ではなく、本件F土地に係る請求人ら鑑定書はこの点で不合理である。
B 小括
 以上のとおり、本件F土地に係る請求人ら鑑定書は、合理性を欠く点が多く認められる。したがって、当該鑑定書による鑑定評価額は本件F土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
C 請求人らの主張について
 請求人らは、本件F土地は、まる1奥行きが短く規模が過小な宅地である上、まる2隣接地とともにT社が当該隣接地の所有者と共有する建物の敷地となっているために、売買が制約され、担保価値も低下するから、当該事情は減価要因となるが、路線価方式による評価ではこれらの減価要因が適正に考慮されない旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のFの(C))。
 しかしながら、まる1評価基本通達は、画地の奥行きや間口と奥行きとの関係といった画地の形状及び規模について、必要な補正を行う旨の具体的な定めをおいている。また、まる2本件F土地が、T社が隣接地の所有者と共有する建物の敷地として利用されていることをもって直ちに本件F土地の売買が制約されているとまではいえず、実際に当該隣接地には根抵当権が設定されていること(上記イの(ホ)のAの(B)のc)に照らせば、当該建物の存在がその敷地を担保として供することの障害となり、担保価値を低下させているとまではいえない。
 したがって、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情は認められないから、請求人らの主張は採用できない。
(ヘ) 本件G土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
A 取引事例比較法による試算価格について
 以下のとおり、本件G土地に係る請求人ら鑑定書には、取引事例比較法において採用している取引事例の採用等について合理性を欠く点が多く認められる。
(A) 上記イの(ヘ)のCの(A)のとおり、本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、地域要因格差の分析において、標準画地の所在する地域と比べて、取引事例Eを著しく低位であると見積もり、取引事例F及びGをいずれも著しく高位であると見積もっているが、このような地域格差の著しい事例は取引事例としての規範性に欠けるものである。本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
(B) 取引事例Gは、上記イの(ヘ)のCの(B)のとおり、地域の標準的な画地である公示地(s市5−32)に比して、地積が過小であると認められるが、本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、そのことについて補正をしておらず、この点で不合理である。
(C) 本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、上記イの(ヘ)のCの(C)のとおり、取引事例Iについて事情補正をしているが、当該鑑定書を作成した不動産鑑定士が事情補正率の査定の根拠とする取引事例カードには事情補正率の割合の数値しか記載されておらず、その他請求人らから当審判所に提出された資料によっても事情補正率の割合の査定根拠が明確にされていないことから合理性が疑われる。
(D) 上記イの(ヘ)のCの(D)のとおり、本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、標準価格の査定に当たり、取引事例Hを採用していないが、取引事例Gと取引事例Hとは異なる土地における異なる当事者間の取引であり、時点修正等の補正が適切にされていれば採用することに問題はなく、ほぼ同一地点であり取引事例Gよりも過去の取引であるとの理由により採用しないことは相当ではなく、本件G土地に係る請求人ら鑑定書はこの点で不合理である。
B 小括
 以上のとおり、本件G土地に係る請求人ら鑑定書は、合理性を欠く点が多く認められる。したがって、当該鑑定書による鑑定評価額は本件G土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
C 請求人らの主張について
 請求人らは、本件G−1土地ないし本件G−3土地の3画地は、それぞれ同一の路線に面しており、同一路線上でも立地、地積又は地形により経済価値は異なるが、評価基本通達による評価ではほとんど評価額に開差が生じず、市場性、経済性を無視している旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のGの(C))。
 しかしながら、路線価方式による評価においては、路線価の評定において立地が考慮され、また、個別の土地の評価額を算定する際には、地積は当然として、地形も、奥行距離、間口距離、接道状況等に応じた補正及び加算により考慮されており、市場性や経済性を無視したものではない。また、上記3の(2)のイのとおり、評価基本通達により算定される価額が時価を上回るなど、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情がある場合を除き、財産の評価は評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当であると解されるところ、上記Bのとおり、本件G土地に係る請求人ら鑑定書の鑑定評価額は本件G土地の時価を適切に示しているものとは認められず、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情は認められないから、請求人らの主張は採用できない。
(ト) 本件H土地に係る請求人ら鑑定書の合理性の有無について
A 取引事例比較法による試算価格について
 以下のとおり、本件H土地に係る請求人ら鑑定書には、取引事例比較法において採用している取引事例の採用や補正等について合理性を欠く点が多く認められる。
(A) 上記イの(ト)のCの(A)のとおり、本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、地域要因格差の分析において、標準画地の所在する地域と比べて、取引事例A、B、C、D及びHをいずれも著しく低位であると見積もっているが、このような地域格差の著しい事例は取引事例としての規範性に欠けるものである。本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、このような規範性に欠ける事例を採用している点で不合理である。
(B) 取引事例Fは、上記イの(ト)のCの(B)のとおり、地域の標準的な画地である公示地(s市5−32)に比して、地積が過小であると認められるが、本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、そのことについて補正をしておらず、この点で不合理である。
(C) 上記イの(ト)のCの(C)のとおり、取引事例Cは競売による取引事例であり、補正を要する特殊な事情がある。それにも関わらず、本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、事情補正をしておらず、この点で不合理である。
(D) 本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、上記イの(ト)のCの(D)のとおり、取引事例A及びHについて事情補正をしているが、当該鑑定書を作成した不動産鑑定士が事情補正率の査定の根拠とする取引事例カードには事情補正率の割合の数値しか記載されておらず、その他請求人らから当審判所に提出された資料によっても事情補正率の割合の査定根拠が明確にされていないことから合理性が疑われる。
(E) 上記イの(ト)のCの(E)のとおり、本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、標準価格の査定に当たり、取引事例Gを採用していないが、時点修正等の補正が適切にされていれば採用することに問題はなく、ほぼ同一地点であり取引事例Fよりも過去の取引であるとの理由により採用しないことは相当ではなく、本件H土地に係る請求人ら鑑定書はこの点で不合理である。
B 小括
 以上のとおり、本件H土地に係る請求人ら鑑定書は、合理性を欠く点が多く認められる。したがって、当該鑑定書による鑑定評価額は本件H土地の時価を適切に示しているものとは認められない。
C 請求人らの主張について
 請求人らは、本件H土地は集客力のある角地が第三者の所有地であることによって商業地として大きく経済価値が低下しているが、路線価方式による評価ではそのような事情は考慮されない旨主張する(上記(1)のロの(ロ)のHの(C))。
 しかしながら、路線価方式による評価においては、第三者の所有地がある角地に係る加算は、側方路線影響加算率よりも低率の二方路線影響加算率を適用することにより、請求人らの主張する事情を考慮している。また、上記3の(2)のイのとおり、評価基本通達により算定される価額が時価を上回るなど、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情がある場合を除き、財産の評価は、評価基本通達に定められた評価方法に基づいて行うのが相当であると解されるところ、上記Bのとおり、本件H土地に係る請求人ら鑑定書の鑑定評価額は本件H土地の時価を適切に示しているものとは認められず、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情は認められないことから、請求人らの主張は採用できない。
ハ 結論
 以上のとおりであるから、本件A土地、本件甲土地、本件B土地、本件D土地(ただし、本件被相続人所有D土地を除く。)、本件E土地、本件F土地、本件G土地及び本件H土地の評価について、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるとは認められない。
 したがって、本件A土地、本件甲土地、本件B土地、本件D土地(ただし、本件被相続人所有D土地を除く。)、本件E土地、本件F土地、本件G土地及び本件H土地の価額は、評価基本通達により評価した価額によることが相当である。

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7 争点5(T社が所有する本件甲土地の価額について、L社との間で本件予約契約が締結されていることを理由に減額をすべきか否か。)について

(1) 主張

イ 原処分庁
 本件予約契約には解除条項が定められていることからすれば、本件甲土地の自己利用及び他者への転売が著しく制限されたとは認められない。
 また、本件予約契約の違約金の定めは、当該契約の履行を担保したものということはできても、借家権の補償を定めたものと解することはできず、本件甲土地の評価とは別個の問題である。
 加えて、本件被相続人に係る本件相続開始日において現に違約金の支払義務が生じているという事実も認められないことからすれば、T社が立退料相当の違約金の支払義務を有していたとの事実も認められない。
 したがって、本件甲土地について、本件予約契約の締結によりその経済的価値が低下しているとは認められないから、減額が認められるべきではない。
ロ 請求人ら
 T社が、本件予約契約を一方的に解除するためには、契約上、受領した敷金を返還するばかりか、その敷金の倍額を違約金として支払う必要があるし、また、本件建物は、借主となるべきL社の求めに応じて設計したいわば特殊仕様のものである。そうすると、契約上及び経済的合理性の観点から、T社が解除権を行使することは考え難く、L社は、本件予約契約に基づき、借家権に準ずる権利を有しているものと考えられる。
 したがって、本件甲土地は、自己利用及び他者への転売が著しく制限されているから、本件予約契約に係る土地利用の制限による10%相当額の評価減が許容されるべきであり、そうでないのであれば、自用地として利用するために必要となる違約金相当額について評価減をするのが相当である。

(2) 判断

イ 認定事実
 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) T社は、平成19年11月30日付で、賃貸人をT社、賃借人をL社、目的物を本件建物とする本件予約契約を締結した(上記1の(4)のニの(ハ)のA)。
(ロ) 本件予約契約の内容は、要旨以下のとおりである。
A T社とL社は、本件建物に関し、本件予約契約を締結する(前文)。
B まる1T社は、まるアその所有に係る本件甲土地上に、L社の要望を考慮し、T社の仕様設計により本件建物を建設し、まるイ本件建物の完成後、これをL社に賃貸し、まる2L社は、本件建物を賃借する(第1条《賃貸借物件》)。
C L社は、本件建物を、事務所を目的とする業務に使用する(第2条《使用目的》)。
D T社及びL社は、本件予約契約締結後は、相手側の債務不履行を理由とするものでなければ、本件予約契約を解除することはできない(第3条《本件予約契約の解除・解約》)。
E T社及びL社は、本件建物の建設が完了し検査済証を取得した後、遅滞なく、本件予約契約の趣旨により、本件建物につき借地借家法第38条《定期建物賃貸借》の定期建物賃貸借契約を締結し、T社は、平成21年1月末日を予定として、本件建物をL社に引き渡す(第4条《賃貸契約の締結及び本件建物の引渡し》)。
F 賃貸契約の期間は、本件建物の引渡日より7年間とし、更新はしない(第5条《契約期間》)。
G L社がT社に支払う賃料は、月額9,300,000円(消費税等別途)とする(第6条《賃料》第1項)。
H 賃料の起算日は、本件建物の引渡時とする(第6条《賃料》第3項)。
I L社は、本件建物の着工時までに、敷金111,600,000円をT社に預託する(第7条《敷金》第1項)。
J 本件建物の着工後L社への引渡し日までに、まる1T社の都合により本件予約契約を解除し、又は賃貸契約を締結しないときは、T社は、L社に対し、上記Iの敷金を返還した上で、別途その倍額を違約金として支払うものとし、まる2L社の都合により本件予約契約を解除し、又は賃貸契約を締結しないときは、L社は、上記Iの敷金返還請求権を放棄した上で、T社に対し、別途その同額の違約金を支払い、本件建物の建築費用及び取壊し費用を負担するものとする(第19条《特約2:違約金》)。
(ハ) T社は、平成20年5月30日、L社から上記(ロ)のIの敷金を受領した。
(ニ) T社は、平成21年2月5日付で、賃貸人をT社、賃借人をL社、目的物を本件建物とする定期建物賃貸借契約(以下「本件賃貸契約」という。)を締結した。
(ホ) 本件賃貸契約の内容は、要旨以下のとおりである。
A T社とL社は、本件建物について、平成19年11月30日に締結した本件予約契約第4条に基づき、平成21年2月5日、本件賃貸契約を締結した(第1条《契約の締結》)。
B 本件賃貸契約の賃貸借期間は、平成21年3月1日より平成28年2月29日まで(7年間)とし(第2条《賃貸借期間》第1項)、上記期間満了により終了し、更新することはできない(同条第2項)。
C L社は、事務所の目的で本件建物を使用し、それ以外の目的で使用してはならない(第3条《使用目的》)。
D L社は、T社に対し、賃料月額9,300,000円(別途消費税)を支払う(第4条《賃料》第1項)。
E L社がT社に対して本件予約契約に基づき預託した111,600,000円を、本件賃貸契約の敷金として充当する(第7条《敷金》第1項)。
F T社は、L社が本件賃貸契約の所定の条項に違反するなどした場合、無催告で、又は催告後に、本件賃貸契約を解除することができる(第15条《契約の解除》)。
G T社及びL社は、本件賃貸契約締結後、平成28年2月29日の満了まで、本件賃貸契約を解約することはできない(第17条《解約》)。
(ヘ) 本件建物については、本件相続開始日において建築中であったところ(上記1の(4)のニの(ハ)のA)、平成21年3月19日、同年2月17日新築を原因とする表示登記がされ、平成21年4月1日、T社を所有者とする所有権保存登記がされた。
ロ 本件予約契約が締結されていたことを理由として本件甲土地の評価額を減額すべきか否かについて
(イ) まず、まる1本件予約契約の内容は上記イの(ロ)のとおりであり、まるアT社及びL社は、本件建物の建設が完了した後、賃貸契約を締結して、T社がL社に本件建物を引き渡すこととされており、本件予約契約とは別に賃貸契約を締結することが予定されている。また、本件予約契約において、まるイ賃貸契約の期間は本件建物の引渡日より7年間と定められ、まるウ賃料の起算日は上記引渡日とされている上、まるエ違約金条項(第19条)をみると、賃貸契約が締結されない場合が想定されている。そして、まる2本件相続開始日においては本件建物は未完成であり(上記イの(ヘ))、まる3平成21年2月5日付で、まるア本件予約契約に基づくことを明らかにした上で本件賃貸契約が締結され(上記イの(ホ)のA)、まるイ賃貸借期間の始期は同年3月1日と定められていることからすると、本件予約契約は、飽くまで、将来の賃貸借契約の締結を予約したものにすぎないから、賃貸借契約と同視することはできず、本件予約契約の締結により賃貸借契約の効力が発生したとみることもできないというべきである。
 なお、本件予約契約においてT社はL社から敷金を受領することとされ、実際に敷金を受領した事実が認められるが(上記イの(ロ)のI及び(ハ))、上記まる1ないしまる3の事実に照らすと、T社の敷金受領の事実をもって、本件予約契約を賃貸借契約と同視し、あるいは本件予約契約の締結により賃貸借契約の効力が発生したとみることはできない。
(ロ) したがって、本件甲土地について、本件相続開始日において本件予約契約が締結されていたからといって、評価額の減額をすることは相当ではない。
ハ 請求人らの主張について
 請求人らは、上記(1)のロのとおり主張するが、上記ロの(イ)のとおり、本件予約契約を賃貸借契約と同視し、あるいは、本件予約契約の締結により賃貸借契約の効力が発生したとみることはできない。また、一般に、経過した賃貸借の期間が長いほど、その賃料は賃貸借の目的となっている建物及びその敷地の経済価値に対応する適正な賃料から乖離する傾向がみられるが、賃料が、その対象となる貸家及びその敷地の経済価値に対応した適正な水準に維持されている場合は、いわゆる借家権価格は発生せず、当該貸家及びその敷地の価格は自用の建物及びその敷地の価額におおむね一致すると認められる。本件については、本件相続開始日において、賃貸借契約は締結されておらず、上記適正賃料との乖離は発生していないから、本件甲土地は自用の建物の敷地として評価すべきであり、特段、減額の必要は認められない。さらに、本件建物は、L社へ賃貸することを目的に建築中であることからすると、L社へ賃貸することが最も合理的な利用方法であり、自己利用することや本件予約契約を解除しなければならない合理的な事情も認められないから、これらの点を考慮して、上記違約金相当額を考慮する必要も認められない。
 したがって、請求人らの主張には理由がない。

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8 争点6(T社が本件相続の開始前3年以内に取得した借地権(本件甲借地権及び本件乙借地権)の価額はいくらによるべきか。)について

(1) 主張

イ 原処分庁
 次のとおり、本件甲借地権及び本件乙借地権の価額は、原処分庁が依頼した不動産鑑定士が作成した不動産鑑定評価書(以下「原処分庁鑑定書」という。)による評価額に基づき当該価額に借地権割合を乗じた価額によるべきである。
(イ) 原処分庁鑑定書による評価額は、取引事例比較法による比準価格と土地残余法による収益価格を関連付けて決定しているところ、比準価格及び収益価格のいずれも合理的に算定されたものであるから、通常の取引価額に相当する金額と認めるに足りる合理性を有する。
A 本件甲借地権について
 採用した取引事例が投資法人による取引事例や隣地買収の事例であることのみをもって事例として規範性がなく不適切ということにはならず、採用した取引事例はいずれも取引価格が正常なものと判断できたものであり、規範性は高い。
B 本件乙借地権について
(A) 採用した取引事例には系列会社間取引の事例もあるが、これは正常価格への補正が可能である。
(B) 収益価格は建築士に依頼した想定建物に基づいて算定したものであるが、仮に収益価格が低下するとしても、そのことが鑑定評価額の決定に影響を及ぼすものではない。
(ロ) 請求人らが主張する評価額について
A 請求人ら鑑定書が合理性を欠くことについては、上記6の(1)のイの(ロ)のB及びGのとおりである。
B 本件甲借地権の評価について本件予約契約による評価減を行う必要がないことについては、上記7の(1)のイのとおりである。
ロ 請求人ら
 次のとおり、本件甲借地権及び本件乙借地権の価額は請求人ら鑑定書による評価額によるべきである。
(イ) 原処分庁鑑定書による評価額は、次のとおり、合理性を欠くものである。
A 本件甲借地権について
 採用されている取引事例には、以下のとおり規範性に欠ける事例が含まれている。
(A) 投資法人による取引事例が含まれているが、同事例は路線価と比較して非常に高い価格で取引されており、到底正常な取引とは認められない。
(B) 限定価格と認められる隣地買収の事例が含まれている。当該事例は形状から隣地所有者以外の買取りは考えられない事例である。
(C) p県s市x−5町○丁目の取引事例の標準化補正としてプラス8ポイントは、合理性が全く見受けられない。
B 本件乙借地権について
(A) 採用されている取引事例のうち比準価格の算定の中心としたとする事例は、規範性に欠ける系列会社間取引であり本来採用すべきではない。
 なお、正常な価格への補正が可能として事情補正を行うことを前提に採用しているが、原処分庁鑑定書では事情補正されておらず、そのようにして決定された鑑定評価額は適切ではない。
(B) 収益還元法について、原処分庁鑑定書では10階建てを想定しているが、そのような建物は建築基準法上建築することはできない。建築可能な建物は、斜線制限により使用容積率は制限されたものであって、収益価格が低下することは避けられず、収益価格の低下は鑑定評価額に影響を及ぼす。
(C) 原処分庁鑑定書が規準としている公示地は角地であり、標準化補正をすべきところ、その補正がされていないのは、明らかな誤りである。
(ロ) 請求人らが主張する評価額について
A 請求人ら鑑定書が合理的であることについては、上記6の(1)のロの(ロ)のB及びGのとおりである。
 なお、合理的な鑑定書に基づき借地権割合を乗じており適正である。
B 本件甲借地権の評価について本件予約契約による評価減を行う必要があることについては、上記7の(1)のロのとおりである。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 評価基本通達185括弧書は、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等及び家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価すると定めており、この定めは株式の「時価」を算定する際の評価会社の純資産価額の計算において、評価会社の有する土地等又は家屋等の「時価」を算定する方法として定められたものであると解するのが相当である。
(ロ) 評価基本通達27《借地権の評価》は、借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、借地権割合(自用地としての価額に対する借地権の価額の割合)を乗じて計算した金額によって評価するとしているところ、借地権割合は、借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として、その割合がおおむね同一と認められる地域ごとに定められているものであるから、この評価方法は、相続税法第22条の趣旨に照らし、合理性を有するものと解する。
ロ 認定事実
 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件甲土地及び本件G−3土地の近隣の基準地及び公示地について
A 本件甲借地権が設定されている本件甲土地の近隣には、都市計画法上の用途地域を同じくする基準地(s市5−13)が存しており、その位置、形状及び基準地の標準価格等の状況は、別紙25のとおりである。
B 本件乙借地権が設定されている土地を含む本件G−3土地の近隣には、都市計画法上の用途地域を同じくする公示地(s市5−5)が存しており、その位置、形状及び公示価格等の状況は、別紙26のとおりである。
(ロ) 本件甲土地及び本件G−3土地が存する地域の借地権割合について
 評価基本通達27に基づきH国税局長が定めた本件相続開始日の属する年分の、本件甲土地が存する地域の借地権割合は80%であり、本件G−3土地が存する地域の借地権割合は90%である。
(ハ) 本件甲借地権及び本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書について
A 本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書の概要等について
(A) 本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書の要旨は、別紙23のとおりである。
(B) 本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書が採用した取引事例1は、投資法人による取引の事例であり、取引時点は平成20年7月、取引価格は1平方メートル当たり2,937,000円であった。
 当該投資法人が一般に公表している内容によると、不動産鑑定評価を基に取引価格が決められており、当該不動産鑑定評価による鑑定評価額の価格の種類は、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する特定価格であることが認められる。
 なお、上記取引事例1の同一路線上で北方約230メートルの位置に上記(イ)のAの基準地(s市5−13)があり、取引事例1及び基準地(s市5−13)の同一路線上における相続税の平成20年分路線価は、取引事例1の地点では1平方メートル当たり1,520,000円、基準地では1平方メートル当たり1,530,000円であった。
(C) 本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書が採用した取引事例2は、取引の対象となった土地の隣地の所有者が当該土地を買い取った事例であった。
(D) 本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書は、本件甲土地の鑑定評価額の決定に当たり上記(イ)のAの基準地(s市5−13)を規準としており、当該基準地の平成20年7月1日時点の価格である1平方メートル当たり1,920,000円に時点修正、標準化補正、地域格差補正及び個別格差補正を行い、本件相続開始日時点の規準価格を1平方メートル当たり1,630,000円と算定している。
B 本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書の概要等について
(A) 本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書の要旨は、別紙24のとおりである。
(B) 本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書が採用した取引事例3は、間口距離6.0メートル、奥行距離12.0メートルの画地の事例であった。
 なお、当該取引事例の付近には上記(イ)のBの公示地(s市5−5)があり、当該公示地の間口距離と奥行距離の比率は1.2対1である。
(C) 本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書が、本件乙土地の収益価格の算定に当たり想定した建物は、地上10階地下1階の店舗兼事務所ビルである(別紙24の5)。
(D) 本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書は、本件G−3土地の鑑定評価額の決定に当たり上記(イ)のBの公示地(s市5−5)を規準としており、当該公示地の平成21年1月1日時点の価格である1平方メートル当たり4,280,000円に時点修正、標準化補正、地域格差補正及び個別格差補正を行い、本件相続開始日時点の規準価格を1平方メートル当たり4,840,000円と算定している。
(E) 本件G−3土地が存する用途地域は商業地域、容積率は800%であるため、建築基準法第56条《建築物の各部分の高さ》の規定により、建築物の各部分の高さは、前面道路の反対側の境界線からの水平距離が30メートル以下の範囲内においては、建築物の各部分から前面道路の反対側の境界線までの水平距離に、1.5を乗じて得た数値に制限される(以下「道路斜線制限」という。)。
(F) 本件G−3土地が北東側で接する市道の幅員は約11メートル、北西側で接する市道の幅員は4メートル、南西側で接する市道の幅員は4メートルである。
ハ 請求人らが算定する本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額について
 請求人らは、本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額を、本件A土地及び本件甲土地並びに本件G土地に係る請求人ら鑑定書に基づき算定しているが、上記6の(2)のロの(イ)のB及び上記6の(2)のロの(ヘ)のBのとおり、当該各鑑定書は合理性を欠くから、上記算定額は本件相続開始日における本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額を適切に示しているとは認められない。
ニ 原処分庁が算定する本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額について
 原処分庁は、本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額を、本件甲借地権及び本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書に基づき算定しているが、次のことから、上記算定額は本件相続開始日における本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額を適切に示しているとは認められない。
(イ) 本件甲借地権について
A 本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書が採用した取引事例1は、上記ロの(ハ)のAの(B)のとおり、その取引価格が特定価格を求める不動産鑑定評価に基づいて決められた事例であり、正常価格を求めることとしている原処分庁鑑定書において事情補正をすることなく採用するのは不合理である。
 なお、取引事例の取引価格や基準地の標準価格とそれぞれの地点における相続税の路線価との比は必ずしも一致するものではないが、それぞれの相続税の路線価がほぼ同じ額であるのに対して、取引事例1の取引価格(1平方メートル当たり2,937,000円)は近隣の基準地(s市5−13)の標準価格(1平方メートル当たり1,920,000円)の1.5倍以上となっており、このことからも、取引事例1を事情補正することなく採用するのは不合理である。
B 本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書が採用した取引事例2は、上記ロの(ハ)のAの(C)のとおり、取引の対象となった土地の隣地の所有者が当該土地を買い取った事例であり、その取引価格は当該取引の当事者間においてのみ経済的合理性が認められる価格であるから、取引事例としての規範性に欠けるものであり、この取引事例を採用するのは不合理である。
C 上記A及びBのとおり、本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書が採用した4つの取引事例のうち2事例が合理性を欠くものであり、このような合理性を欠く取引事例に基づく比準価格及びそれを比較考量して決定された鑑定評価額は合理性を欠く。
D 土地の正常価格を求める場合には、公示価格等を規準して、公示価格等との均衡を保たせなければならないところ、本件甲借地権に係る原処分庁鑑定書では、本件甲土地の鑑定において、上記ロの(ハ)のAの(D)のとおり、規準価格を1平方メートル当たり1,630,000円と算定したにも関わらず、鑑定評価額を1平方メートル当たり1,870,000円と算定し、規準価格から約15%乖離したものとなっているが、当該乖離の原因について、分析及び検討がないまま鑑定評価額が決定されており、鑑定の合理性が疑われる。
(ロ) 本件乙借地権について
A 本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書が採用した取引事例3は、上記ロの(ハ)のBの(B)のとおり、地域の標準的な画地である公示地より、間口距離に比して奥行距離が長大である事例であるが、当該原処分庁鑑定書はそのことについて補正をすることなく採用しており、不合理である。
B 本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書が収益価格の算定に当たり想定した建物は、上記ロの(ハ)のBの(C)のとおり、地上10階地下1階建ての建物であるが、本件G−3土地は、上記ロの(ハ)のBの(E)及び(F)のとおり、道路斜線制限により、北東側で接する道路との境界線では16.5メートルの建築物の高さの制限を、当該境界線から10メートルの地点では31.5メートルの建築物の高さの制限を、それぞれ満たす必要があり、同様に、北西側及び南西側に接する道路からも道路斜線制限を満たす必要がある。
 このような制限がある中で、地上10階建ての建築物を想定するのは適切ではなく、そのような想定に基づき算定された収益価格及びそれを比較考量して決定された鑑定評価額は合理性を欠く。
C 土地の正常価格を求める場合には、公示価格等を規準として、公示価格等との均衡を保たせなければならないところ、本件乙借地権に係る原処分庁鑑定書では、本件G−3土地の鑑定において、上記ロの(ハ)のBの(D)のとおり、規準価格を1平方メートル当たり4,840,000円と算定したにも関わらず、鑑定評価額を1平方メートル当たり5,230,000円と算定し、規準価格から約8%乖離したものとなっているが、当該乖離の原因について、分析及び検討がないまま鑑定評価額が決定されており、鑑定の合理性が疑われる。
ホ 当審判所が算定する本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額について
 上記ハ及びニのとおり、請求人ら及び原処分庁の算定した本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額は、いずれも合理性を欠き、採用することができないので、当審判所において通常の取引価額を検討したところ、次のとおりである。
(イ) 本件甲借地権及び本件乙借地権の存する地域の近隣地域及び同一需給圏内の類似地域における取引事例として、請求人ら鑑定書及び原処分庁鑑定書において採用された取引事例を検討したところ、適切な補正や地域要因の比較及び個別要因の比較が可能である事例が限られ、多数の取引事例による比較考量が困難であるが、これらの借地権の存する地域と状況が類似する地域に存する公示地及び基準地を確認したところ、別紙25及び別紙26の公示地及び基準地が認められた。
(ロ) ところで、公示価格は、地価公示法第2条第1項に規定する「正常な価格」を判定したものであり、この「正常な価格」とは、同条第2項において、土地について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格である旨規定していることからすれば、公示価格及び相続税法第22条に規定する時価は、共に、自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格、すなわち客観的交換価値をいうものと解することができる。
(ハ) また、基準地の標準価格は、国土利用計画法施行令第9条第1項に規定する「標準価格」を判定したものであり、この「標準価格」とは、同条第2項において、土地について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格である旨規定していることからすれば、基準地の標準価格及び相続税法第22条に規定する時価は、共に、自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格、すなわち客観的交換価値をいうものと解することができる。
(ニ) そして、公示価格及び基準地の標準価格は、一般の土地の取引価額に対しての指標、不動産鑑定士の鑑定評価及び公共事業の用地の買収価格等の規準とされるものである。
(ホ) そこで、公示価格及び基準地の標準価格を基に、当審判所においても相当と認められる基準である土地価格比準表(昭和50年1月20日付国土地第4号国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評価等について」。ただし、平成6年3月15日付国土地第56号による改正後のもの。)に準じて、地域要因及び個別的要因等の格差補正を行って本件相続開始日における本件甲借地権及び本件乙借地権の目的となっている宅地の更地価格を算定したところ、次のとおりである。
A 本件甲借地権の目的となっている本件甲土地の本件相続開始日における更地価格(時価)は、別紙27の1の表の「更地価格」欄のとおり、1平方メートル当たり1,688,000円と算定される。
B 本件乙借地権の目的となっている本件G−3土地の本件相続開始日における更地価格(時価)は、別紙28の1の表の「更地価格」欄のとおり、1平方メートル当たり5,018,000円と算定される。
(ヘ) 上記イの(ロ)のとおり、借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の更地価格に評価基本通達27に基づきH国税局長が定めた借地権割合を乗じて計算した価額によって評価するのが相当であり、上記(ホ)の更地価格を基に本件甲借地権及び本件乙借地権の価額を算定すると、次のとおりとなり、当該価額をT社の株式の評価に当たり純資産価額に算入することとなる。
A 本件甲借地権の価額は、別紙27の2のとおり、398,368,000円となる。
B 本件乙借地権の価額は、別紙28の2のとおり、201,648,330円となる。

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9 争点7(異議決定後にされた本件各再更正処分及び本件P5再更正処分は違法であるか否か。)について

(1) 主張

イ 原処分庁
 通則法第83条《決定》第3項ただし書の規定は、異議申立てがされた場合、その手続内において増額する異議決定をすることを禁止しているものであって、改めて別個の手続で再更正処分をすることを禁止しているものではないから、本件各再更正処分及び本件P5再更正処分は違法なものではない。
ロ 請求人ら
 平成23年9月16日付の異議決定により、本件C土地の評価額は本件各更正処分及び本件P5更正処分における評価額で確定している。当該異議決定後に本件C土地に係る評価額を増額する本件各再更正処分及び本件P5再更正処分を行うことは、異議申立人の不利益に処分を変更するものであり、通則法第83条第3項ただし書の規定に違反するから、本件各再更正処分及び本件P5再更正処分は違法である。

(2) 判断

イ 通則法第83条第3項ただし書は、異議決定において異議申立人の不利益に原処分の変更をすることができない旨規定しているが、同規定は、異議決定に関する一連の手続の中で異議申立人の不利益に処分を変更することを禁止するにとどまるものであり、処分行政庁が、異議決定に関する一連の手続とは別個の手続に基づき再度の更正処分をすることを禁止するものではない。
ロ 本件各再更正処分及び本件P5再更正処分は、原処分庁が、異議決定に関する一連の手続とは別個の手続で、通則法第26条《再更正》の規定に基づいてしたものであり、また、同法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項に規定する期間内にされているから、同法第83条第3項ただし書に反するものではない。
ハ したがって、上記(1)のロの請求人らの主張には理由がない。

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10 T社の株式の価額について

(1) T社の株式は土地保有特定会社に該当するか否かについて

 T社の株式は、上記1の(4)のロの(ロ)により、取引相場のない株式に該当し、同族株主が取得した株式として同株式を評価することとなるが、土地保有割合が70%以上となる場合には、評価基本通達189−4の定めにより土地保有特定会社として評価することとなるので、T社の株式が土地保有特定会社に該当するか否かについて検討したところ、次のとおりである。
イ 無償返還届出書が提出されている土地の自用地としての価額の20%に相当する金額は、上記5の(2)のハのとおり、借地権の価額として、土地保有割合を算定する際の土地等の価額に含まれる。
ロ 本件A土地、本件B土地、本件D土地(ただし、本件被相続人所有D土地を除く。)、本件E土地、本件F土地、本件G土地及び本件H土地の価額については、上記6の(2)のハのとおり、評価基本通達により評価した価額によることが相当であり、その価額は、上記各土地のうち本件H土地以外の土地については、別紙16ないし21のとおりとなり、原処分庁算定額と同額である。
 ただし、本件H土地については、実測面積により計算すべきであることから、別紙29のとおりとなり、原処分庁算定額(別紙22)とは異なる。
ハ T社が課税時期前3年以内に取得した借地権の評価額は、上記8の(2)のホの(ヘ)のとおり、本件甲借地権は398,368,000円、本件乙借地権は201,648,330円となる。
ニ 以上のことから、T社の資産及び負債の金額は別紙30のとおりとなり、資産の部の合計は17,574,556,000円、資産の部のうち土地等の価額の合計額は13,281,221,000円となるから、土地保有割合は75%となり、T社は土地保有特定会社に該当することとなる。

(2) T社の株式の価額について

 上記(1)により、T社は土地保有特定会社に該当することとなるので、T社の株式の価額は、評価基本通達189−4の定めにより純資産価額方式により評価することとなり、その1株当たりの価額は別紙30のとおり、1株当たり551,817円となる。

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11 本件各更正処分、本件P5更正処分、本件各再更正処分及び本件P5再更正処分について

 以上により、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別紙31のとおりとなるから、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4に係る本件各更正処分及び本件各再更正処分を別紙2ないし5のとおり取り消し、請求人P5に係る本件P5再更正処分については、その全部を取り消すべきである。
 また、請求人P5に係る本件P5更正処分が不利益処分に当たるか否かは、当該処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきところ、本件P5更正処分は納付すべき税額を増加させる更正処分でないことが明らかであり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえないから、請求人P5は、本件P5更正処分の取消しを求める利益はなく、本件審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

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12 本件各賦課決定処分及び本件第2次各賦課決定処分について

 上記11のとおり、本件各更正処分及び本件各再更正処分は、その一部が取り消されるべきものであるところ、その他の部分の税額の計算の基礎となった事実については通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そこで、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P4の過少申告加算税の額を計算すると、別紙31のとおりとなるから、本件第2次各賦課決定処分については、その全部を取り消し、本件各賦課決定処分については、いずれもその一部を別紙2ないし5のとおり取り消すべきである。

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13 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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