(平成24年12月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、P社(旧商号G社。以下「本件滞納法人」という。)の滞納国税を徴収するため、譲渡禁止特約が付された敷金返還請求権の差押処分を行ったところ、審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該敷金返還請求権は差押処分前に本件滞納法人が行った会社分割(新設分割)によって請求人が取得しているから請求人に帰属する財産であり、これを本件滞納法人の財産であるとして行った差押処分は違法なものであるとして、当該差押処分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成23年7月7日付で、本件滞納法人に係る別表1の各滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、別表2の債権(以下「本件敷金返還請求権」という。)の差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ロ 請求人は、平成23年9月1日、本件差押処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月30日付で、棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件差押処分に不服があるとして、平成23年12月28日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税徴収法第47条《差押の要件》第1項は、まる1滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき(第1号)、又はまる2納税者が国税通則法第37条《督促》第1号各号に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき(第2号)は、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。また、同条第2項は、国税の納期限後同条第1項第1号に規定する10日を経過した日までに、督促を受けた滞納者につき国税通則法第38条《繰上請求》第1項各号の一に該当する事実が生じたときは、徴収職員は、直ちにその財産を差し押さえることができる旨規定している。
ロ 民法第466条《債権の譲渡性》第1項は、債権は譲り渡すことができるが、その性質がこれを許さないときはこの限りでない旨を、第2項は、第1項の規定は当事者が反対の意思を表示した場合には適用しないが、その意思表示は善意の第三者に対抗することができない旨を規定している。
ハ 民法第467条《指名債権の譲渡の対抗要件》第1項は、指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない旨を、第2項は、第1項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない旨を規定している。
ニ 会社法第2条《定義》第30号は、新設分割とは、一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう旨規定している。
ホ 会社法第762条《新設分割計画の作成》第1項は、一又は二以上の株式会社又は合同会社は、新設分割をすることができ、この場合においては、新設分割計画を作成しなければならない旨規定している。
ヘ 会社法第764条《株式会社を設立する新設分割の効力の発生等》第1項は、新設分割により設立する株式会社(新設分割設立株式会社)は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、証拠上容易に認められる事実である。
イ 本件滞納法人について
(イ) 本件滞納法人は、西洋料理店の経営等を目的とする株式会社であり、複数の建物においてレストラン事業を営むなどしていた(以下、g県h市j町○−○(住居表示:同市j町○−○)に存する建物を「本件建物」といい、本件建物において営んでいたレストラン事業を「jレストラン事業」という。)。
(ロ) 本件滞納法人の代表取締役は、Hである。
ロ 本件建物に係る賃貸借契約について
(イ) 本件滞納法人は、平成16年6月1日、K社(以下「本件第三債務者」という。)との間で、本件建物について、まる1賃貸人を本件第三債務者、賃借人を本件滞納法人とし、まる2賃貸借期間は平成16年6月1日から平成18年5月31日まで、まる3使用目的は店舗としての利用、まる4賃料は月額1,100,000円とし、毎月15日限り当月分を振込み又は持参払いの方法により支払う旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
(ロ) 本件賃貸借契約に係る契約書においては、要旨、以下の事項が定められていた。
A 諸物価の変動、租税公課、地代その他諸経費の増額、土地建物の価格又は近隣建物賃料の変動その他の事由により、賃貸人(本件第三債務者)から請求があったときは、賃料を増額すること(同契約書第3条第三)。
B 賃借権の譲渡等をしないこと(同契約書第3条第六。以下、本件賃貸借契約に係る賃借権を「本件賃借権」といい、本条項のうち譲渡禁止に係る部分を「本件賃借権に係る譲渡禁止特約」という。)。
C 賃貸人(本件第三債務者)の同意承諾は、書面によらなければ効力がないものとすること(同契約書第4条)。
D 賃貸人(本件第三債務者)が賃借人(本件滞納法人)から交付を受けた敷金(10,000,000円)は、無利息とし、本件賃貸借契約終了後、本件建物の返還を受け、かつ、一切の債務が完済されたときから6か月据置き、賃借人(本件滞納法人)に返還すること。ただし、賃借人(本件滞納法人)に賃料その他の未払分があるときは、賃貸人(本件第三債務者)はこれを差し引くことができること。賃借人(本件滞納法人)は、上記敷金の返還請求権を第三者に譲渡等をしてはならないこと(同契約書第10条。以下、本条項のうち譲渡禁止に係る部分を「本件敷金返還請求権に係る譲渡禁止特約」という。)。
E 法定又は合意により賃貸借が更新される場合は、賃貸期間は2年間とすること(同契約書第11条)。
(ハ) 本件賃貸借契約は、その後更新され(上記(ロ)のE)、本件差押処分時に至った。
(ニ) 本件滞納法人は、平成22年9月10日、本件第三債務者に対し、本件賃借権をL社(現商号G社。以下「L社」という。)へ譲渡したい旨を申し入れた。
(ホ) 本件第三債務者は、平成22年9月14日付の内容証明郵便に係る書面により、本件滞納法人に対し、上記(ニ)の申入れについては、まる1建物が老朽化していること、まる2当該地域がレストラン営業に法的に不適地であること、及びまる3その他自己使用の必要性等の諸事情から承認できない旨を通知した。
ハ 請求人の設立に至る経緯等について
(イ) 本件滞納法人は、平成22年9月15日、L社との間で事業譲渡契約を締結し、jレストラン事業を除く全事業を譲渡した。
(ロ) 本件滞納法人は、平成22年12月20日、新設分割により設立する会社(以下「新設分割設立会社」という。)にjレストラン事業を承継させるため、会社分割(以下「本件会社分割」という。)を計画し、要旨、以下の内容の新設分割計画を作成した(以下、当該新設分割計画を「本件分割計画」といい、本件分割計画に係る計画書を「本件分割計画書」という。)。
A 本件滞納法人は、jレストラン事業に係る本件分割計画書第6条所定の権利義務を新設分割設立会社(請求人)に承継させ、新設分割設立会社はこれを承継する(本件分割計画書第1条)。
 なお、本件分割計画書第6条第1項に定める新設分割設立会社が承継する権利義務は要旨以下のとおりであり、その中には、本件賃貸借契約に係る契約上の地位(別表2の本件敷金返還請求権を含む。)が含まれていた。
(A) 資産
a 食材、飲料及びワイン
b 本件賃貸借契約に係る敷金
c その他jレストラン事業に係る一切の資産
(B) 負債
a 本件滞納法人との間の仕入取引基本契約に基づく買掛金債務
b 本件滞納法人との間の出向契約に基づく未払金債務
c 本件滞納法人との間の商標使用許諾契約に基づく未払ロイヤリティ債務
d 本件賃貸借契約に基づく賃料その他の債務
e その他jレストラン事業に係る一切の債務(ただし、借入金債務、リース契約若しくは割賦売買契約に基づく債務及び公租公課債務は除く。)
(C) 契約上の地位その他
a 本件滞納法人との間の仕入取引基本契約における契約上の地位
b 本件滞納法人との間の出向契約における契約上の地位
c 本件滞納法人との間の商標使用許諾契約上における契約上の地位
d 本件賃貸借契約上における契約上の地位
e その他jレストラン事業に係る一切の契約(ただし、金銭の借入れに係る契約、リース契約又は割賦販売契約を除く。)における契約上の地位
f jレストラン事業に係る法令上必要な許認可の一切
B 新設分割設立会社は、本件会社分割に際して発行した全株式を本件滞納法人に交付する(本件分割計画書第2条。本件会社分割は、分社型分割(分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産がその分割の日において当該分割法人の株主等に交付されない場合の当該分割。法人税法第2条《定義》第12号の10)である。)。
C 分割期日(新設分割設立会社設立の日)は、平成22年12月○日とする(本件分割計画書第9条)。
(ハ) 平成22年12月○日、本件分割計画に基づき新設分割設立会社である請求人が設立され、本件滞納法人は、商号をG社からP社へ変更した。
 なお、請求人の代表取締役は、Hである。
ニ 本件差押処分について
 原処分庁は、平成23年7月7日現在において本件滞納国税が完納されていなかったことから、同日付で本件差押処分を行った。
 本件差押処分に伴い本件第三債務者に対して送付した債権差押通知書は、平成23年7月8日に本件第三債務者に到達した。

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2 争点

 本件差押処分時において、本件敷金返還請求権は本件滞納法人に帰属する財産か否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
(1) 民法第466条は、会社分割による承継対象債権に類推適用されるところ、当該債権に譲渡禁止特約が付されている場合には、同条第2項に規定する「当事者が反対の意思を表示した場合」に該当するから、同条第1項は適用されないこととなる。
 そして、本件の場合、本件賃貸借契約において本件敷金返還請求権に係る譲渡禁止特約が定められている上、本件第三債務者は、本件敷金返還請求権の譲渡を承諾しておらず、また、本件賃貸借契約の相手方を本件滞納法人であると認識している。
(2) 仮に、会社分割による承継の対象債権に民法第466条は類推適用されないとの立場をとったとしても、本件会社分割は、本件滞納法人が、本件第三債務者から本件賃借権の譲渡の承諾を得られなかったために、本件賃借権に係る譲渡禁止特約を潜脱する目的で、会社分割制度を濫用的に用いたものであるので、本件会社分割により本件敷金返還請求権が請求人へ移転したと認めるべきではない。
(3) したがって、上記(1)又は(2)のいずれの理由によっても、本件敷金返還請求権は、会社分割によって請求人へ移転するものではなく、依然として本件滞納法人に帰属する財産である。
(1) 会社分割による権利義務の承継は包括承継であり、会社分割に民法第466条が適用される余地はない。
 この点をおいても、本件第三債務者は、本件滞納法人が本件第三債務者に対して本件会社分割により請求人が本件敷金返還請求権を承継した旨を内容証明郵便により通知した後、本件差押処分に係る通知が本件第三債務者へ送達される以前に、異議を差し挟むことなく請求人から賃料を受領し、また、請求人に対して賃料増額の請求を行っている。このことは、本件第三債務者が、本件会社分割による契約上の地位の移転の効果を認め、本件賃貸借契約の相手方が請求人であると認識していることを示すものである。
(2) 本件会社分割は、本件滞納法人が、第三者から継続的な支援を受ける目的で行ったものであって、本件第三債務者から本件賃借権の譲渡の承諾を得られなかったために、本件賃借権に係る譲渡禁止特約を潜脱する目的で行ったものではなく、濫用的な会社分割であるとは認められない。
(3) したがって、本件敷金返還請求権は、請求人に帰属する財産である。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料(本件第三債務者の代表取締役であるMが平成23年4月6日に原処分庁所属の徴収職員に行った申述を含む。)及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件賃貸借契約に係る賃料の支払状況及び改定状況等について
(イ) 本件賃貸借契約は更新されていたところ(上記1の(4)のロの(ハ))、最終の更新に係る賃貸借期間は平成22年6月1日から平成24年5月31日までであった。
(ロ) 請求人は、本件会社分割後の平成23年1月14日、本件第三債務者指定の銀行口座に、同月分の賃料1,588,500円を振り込んだ。
(ハ) 本件滞納法人は、平成23年3月9日付の内容証明郵便に係る書面により、本件第三債務者に対し、本件会社分割によって本件敷金返還請求権を含む本件賃貸借契約に係る契約上の地位を請求人が承継した旨を通知し、当該書面は、同月10日に到達した。
 Mは、本件滞納法人からの上記通知を受け、まる1本件滞納法人が本件会社分割によりjレストラン事業を承継する新法人である請求人を設立したこと、まる2請求人の商号がG社であること、まる3本件滞納法人の商号がG社からP社へ変更されたことを認識した。
(ニ) 本件第三債務者は、平成23年6月5日付の文書により、請求人に対し、固定資産税の増額に伴い同年7月分以降の賃料を月額1,615,000円に増額改定する旨を申し入れた。
 請求人は、上記賃料の増額改定の申入れに応じ、平成23年7月15日、同月分の賃料について、改定後の賃料額である1,615,000円を本件第三債務者指定の銀行口座へ振り込んだ。
(ホ) 本件第三債務者は、平成23年11月7日付の内容証明郵便に係る書面により、請求人及び本件滞納法人に対し、まる1本件滞納法人が本件会社分割を行い請求人に賃借人の地位を承継させたことは、実質的には本件賃借権の無断譲渡等に当たり、本件賃貸借契約に係る契約書第3条及び民法第612条《賃借権の譲渡及び転貸の制限》第1項に違反しているとして、同条第2項に基づき本件賃貸借契約を解除すること、まる2仮に上記まる1の解除が認められないとしても、本件第三債務者には自己使用の必要等の正当事由が存するから、平成24年5月31日の賃貸借期間の満了をもって本件賃貸借契約を終了し更新しないこと等を通知した。
(ヘ) 請求人は、上記(ロ)の賃料支払以降、毎月、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を継続し(請求人提出資料によれば、平成24年5月分までの支払の事実を確認することができる。)、本件第三債務者は、請求人からの家賃収入として収益に計上していた(当審判所の調査の結果によれば、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの事業年度において上記処理がされている事実を確認することができる。)。
ロ 本件滞納法人及び請求人の本件滞納国税の納付に係る意向について
 本件滞納法人及び請求人の取締役であるNらは、平成23年2月7日、原処分庁所属の徴収職員に対し、本件滞納国税について、税務署からの通知に従って納付したという事跡になるのであれば請求人が納付する旨の意向を示し、第二次納税義務に基づく納付などの方途を教示願いたい旨を申し出た。

(2) 法令解釈

イ 指名債権は、その性質上譲渡できないものを除き、譲渡することができる(民法第466条第1項)が、当事者は譲渡禁止の特約を付すことができ(同条第2項本文)、譲渡禁止の特約に反して行われた債権譲渡は効力を生じない。
 もっとも、譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知らずに譲り受けた場合は、特約の存在をもって譲受人に対抗することはできない(民法第466条第2項ただし書)。
ロ しかしながら、譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知って譲り受けた場合でも、債務者がその譲渡について承諾を与えたときは、当該債権譲渡は譲渡の時に遡って有効となり、譲渡に際し、債権者から債務者に対して確定日付のある譲渡通知がされている限り、債務者は、当該承諾後に債権の差押・転付命令を得た第三者に対しても当該債権譲渡の効力を対抗することができると解され(最高裁昭和52年3月17日第一小法廷判決・民集31巻2号308頁)、当該承諾時に改めて確定日付のある証書をもって債権者が通知をし又は債務者が承諾をする必要はないものと解される。

(3) 当てはめ

イ 本件第三債務者は、平成22年9月14日の時点では、本件滞納法人からされた本件賃借権の譲渡の申入れを拒否していた(上記1の(4)のロの(ホ))が、まる1本件会社分割後の平成23年6月5日の時点では、本件滞納法人と請求人が別法人となっていることを認識した上で、請求人に対して同日付の書面で賃料の改定を申し入れており(上記(1)のイの(ハ)及び(ニ))、また、まる2同年3月9日に本件敷金返還請求権を含む本件賃貸借契約に係る契約上の地位を請求人が承継した旨の通知を受けた後、請求人からの家賃収入を収益計上している(上記(1)のイの(ヘ))。本件第三債務者の上記まる1及びまる2の行動は、請求人が賃借人であることを前提とするものである。
 そして、本件の場合、平成23年3月9日付の内容証明郵便に係る書面において、請求人が本件敷金返還請求権を含む本件賃貸借契約に係る契約上の地位を承継したと明記されていること(上記(1)のイの(ハ))も併せ考えると、本件第三債務者は、遅くとも平成23年6月5日の時点において、本件賃借権及び本件敷金返還請求権が本件滞納法人から請求人に承継されたことについて、書面による承諾をしたものと認めるのが相当である。
ロ ところで、上記(2)のとおり、譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知って譲り受けた場合でも、債務者がその譲渡について承諾を与えたときは、当該債権譲渡は譲渡の時に遡って有効となると解されることに照らすと、譲渡禁止の特約のある本件敷金返還請求権について、請求人がその特約の存在を知ってこれを承継し、本件第三債務者が当該承継について承諾をしたと認められる本件においては、会社分割による債権の承継の性質や、同承継に民法第466条が適用されるか否かについて判断するまでもなく、本件敷金返還請求権は本件会社分割によって請求人へ移転したものと認めるのが相当である。
 そして、本件滞納法人は、平成23年3月9日、本件第三債務者に対し、本件会社分割によって本件敷金返還請求権を含む本件賃貸借契約に係る契約上の地位を請求人が承継した旨の同日付の通知書を送付し、当該通知書は同月10日に到達している(上記(1)のイの(ハ))ところ、原処分庁は、これに遅れる同年7月7日に本件差押処分を行い、本件差押処分に伴い本件第三債務者に対して送付した債権差押通知書は同月8日に到達している(上記1の(4)のニ)から、本件差押処分は、本件敷金返還請求権の移転に劣後していることになる。
 そうすると、本件差押処分は、請求人に移転した後の本件敷金返還請求権に対してされたものであるから、請求人に帰属する財産に対してされた違法な処分である。
ハ なお、上記(1)のイの(ホ)のとおり、本件第三債務者は、平成23年11月7日付で、請求人及び本件滞納法人に対して、本件賃貸借契約について解除又は更新拒絶の意思表示をしているが、上記意思表示の後も請求人からの家賃収入を収益に計上していたこと(上記(1)のイの(ヘ))からすると、少なくとも平成24年5月31日の本件賃貸借契約期間の満了までは、本件賃貸借契約が継続していることを前提とした行動をとっているというべきであるから、本件第三債務者の上記意思表示が本件差押処分の帰属の認定に影響を及ぼすことはない。

(4) 原処分庁のその他の主張について

イ 原処分庁は、本件会社分割は、本件滞納法人が本件第三債務者から本件賃借権の譲渡の承諾を得られなかったために、本件賃借権に係る譲渡禁止特約を潜脱する目的で、会社分割制度を濫用的に用いたものであるので、本件会社分割により本件敷金返還請求権が請求人へ移転したと認めるべきではない旨を主張する。
ロ この点、確かに、本件会社分割は、本件第三債務者から本件賃借権の譲渡の承諾が得られなかったことをきっかけとして行われた側面があることは否定し得ないが、上記1の(4)のハの(ロ)のAのとおり、本件滞納法人が請求人に対し、jレストラン事業に係る一切の資産、債務及び契約上の地位を承継させていることに照らすと、直ちに、本件滞納法人が本件賃借権の譲渡禁止の約定を潜脱する不当な目的の下に会社分割制度を濫用したと評価することはできず、また、上記(1)のロのとおり、本件滞納法人のN取締役らは、本件差押処分の5か月も前から、原処分庁所属の徴収職員に対し、第二次納税義務に基づく納付などの方途を教示願いたい旨を自発的かつ積極的に申し出ていたのであるから、本件滞納法人が租税回避の不当な目的の下に会社分割制度を濫用したと評価することもできず、当審判所の調査の結果によっても、他に会社分割制度を濫用したことを根拠付ける事情があったとは認められない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

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5 結論

 以上のとおり、本件差押処分時において、本件敷金返還請求権は請求人に帰属する財産と認められるから、本件滞納法人に帰属するとしてされた本件差押処分は、差押財産の帰属の認定を誤ったものであり、違法なものとして取り消すべきである。

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