(平成25年3月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人R及びU(以下、両者を併せて「請求人ら」という。)の亡父が、同人に係る個人事業の遂行上生じた貸付金等が貸倒れになったとして、当該貸付金等に係る残元金相当額を貸倒損失等として同人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入していたところ、原処分庁が、当該貸付金等は同人の事業の遂行上生じたもの等ではないから、当該貸付金等に係る残元金相当額を貸倒損失等として必要経費に算入することはできないなどとして、同人の納税義務を承継する相続人である請求人らに、同人の平成20年分及び平成21年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人らがその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該貸付金等が同人の事業の遂行上生じたもの等に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成24年5月11日請求)に至る経緯は、別表1及び2のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙6のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らの亡父について
 請求人らの父であるTは、○○の製造販売を主たる業務とするV社(本店所在地は、d市e町。)を中心とする菓子製造や食品調味料販売を行う法人グループの創業者で、代表取締役を務めていた者であり、また、「X社」の屋号で○○機械の修理業を営む他、不動産貸付け、ビジネスホテル及び金券ショップの経営等も行っていた者であったが、平成21年9月○日に死亡した。
 なお、Tは、貸金業の登録をしていなかった。
ロ Y社について
 Y社は、昭和32年10月○日に、造林事業等を目的とし、f県○市○町○−○を本店として設立されたものであり、遅くとも平成15年3月までにはZが代表取締役に就任し、代表取締役を務めていたが、平成20年5月6日付で、同人の長男であるjが代表取締役に就任した。
ハ k社について
 k社(以下、Y社と併せて「本件各法人」という。)は、平成14年2月○日に、農産物の生産、加工、販売等を目的とし、g県h市○町○−○を本店として設立されたものであり、設立当初よりZが代表取締役に就任していたが、平成20年5月25日付で、取締役であったiが代表取締役に就任した。
ニ Y社とk社との関係
 本件各法人は、いずれも過去にZが代表取締役を務めていた関連法人であるが、両社間に資本関係はない。
ホ Tの本件各法人に対する融資等について
(イ) 平成15年にされたY社との契約等
 Tは、平成15年10月16日付で、Y社に対し、100,000,000円を要旨次の約定で貸し付けた(以下、当該契約を「本件15年分契約」という。)。
 なお、k社は、自己の所有するh市○町○−○ほか16筆の不動産について、本件15年分契約に基因するTのY社に対する債権を被担保債権とする抵当権を設定し、当該不動産について、平成15年10月21日付で、その旨の抵当権設定登記(それぞれ乙区順位4番ないし順位12番)を経由した。
A 利息は年3.875%(年365日の日割り計算)、遅延損害金は年14%(年365日の日割り計算)とする。
B Y社は、Tに対し、元金及び利息を平成15年11月から毎月末日限り60回の手形をもって支払う(毎月の支払額1,836,013円)。ただし、平成15年10月は利息のみの支払とし、169,863円を平成15年10月末日限りTの指定する金融機関口座に振り込んで支払うものとする。
C Y社において、1回でも債務の支払を遅滞したとき等所定の事由に該当したときは、Tからの通知催告を要することなく、Y社は期限の利益を失う。
D Z及びα(k社の当時の取締役である。)は、Y社のTに対する債務につき、連帯保証の債務を負うものとする。
(ロ) 平成16年にされたk社等との契約
 Tは、平成16年7月31日付で、k社に対し、29,437,181円を要旨次の約定で貸し付けた(以下、当該契約を「本件16年分契約」という。)。
A 利息は年5%(年365日の日割り計算)、遅延損害金は年15%(年365日の日割り計算)とする。
B k社は、Tに対し、元金及び利息を平成16年8月から毎月末日限り120回の手形をもって支払うものとする(毎月の支払額312,227円)。
C k社において、まる13か月分以上債務の支払を遅滞したとき、まる2手形・小切手を不渡りにしたとき等所定の事由に該当したときは、Tからの通知催告を要することなく、k社は期限の利益を失う。
D k社は、本件の借入金の担保として、k社所有の所定の機械器具(○○製造に係るもの)を担保提供し、k社が期限の利益を失う所定の事由が発生したときは、当該機械器具の所有権は直ちにTに移転するものとし、自由に換金できるものとする。換金した金員は貸金残金の一部に充当する。
E Zは、k社のTに対する債務につき、連帯保証の債務を負うものとする。
(ハ) 平成17年にされたk社等との契約
 Tは、平成17年8月10日付で、貸主をT、借主をk社として、ビニールハウス5棟(以下「本件ビニールハウス」という。)を要旨次の約定で貸与(リース)する旨の契約(なお、同日付のリース契約書では貸主がV社とされていたが、同月9日付の覚書により、貸主をTとする他、リース料について変更するとされており、変更後のものを記載している。以下「本件17年分契約」という。)を締結した。
A Tは、k社が指定するY社から本件ビニールハウスを購入して、k社に貸与(リース)する。
B Tがk社に本件ビニールハウスを貸与する期間(以下、この約定において「リース期間」という。)は、k社がY社から本件ビニールハウスの引渡しを受けた日から5年間とする。
C 本件17年分契約のリース期間内は、解約できない。
D 本件17年分契約は、期間満了をもって終了し、本件ビニールハウスの所有権は自動的にTからk社に移転するものとする。
E k社は、本件ビニールハウスを園芸菜園で使用することとし、Tの書面による同意がない限り、転用してはならないものとする。
F 本件ビニールハウスが完全な状態で引き渡された場合、k社は、Tのために善良なる管理者の注意義務をもって本件ビニールハウスを保管し、使用及び保管に関する製造者及び売主の指示を守り、法令を遵守するものとする。
G Tは、いつでも本件ビニールハウスの保管及び使用の状況を検査でき、k社は、検査に協力しなければならないものとする。
H 本件ビニールハウスに関する公租公課は、k社の負担とする。
I k社は、Tに対し、リース料を60回の約束手形をもって支払う。手形は初回に一括60通を差し入れるものとする。最初の1年間は利息のみとし、2年度目から元利金を、次のとおり支払う。
 平成17年9月から平成18年8月まで毎月10日限り62,500円
 平成18年9月から平成22年8月まで毎月10日限り345,439円
J k社は、本件ビニールハウスを本来の用法に従って使用し、善良なる管理者の注意義務をもって管理することとし、本件ビニールハウスを毀損し、又は価値を減少させることのないよう努めなければならない。
K k社は、本件ビニールハウスを第三者に譲渡し、又は転貸し使用させることはできないものとする。
L k社は、本件17年分契約上の権利を第三者に譲渡することはできないものとする。
M k社は、本件ビニールハウスの引渡し後、契約終了までの間に、本件ビニールハウスが火災又は風水害により滅失(修理が不能又は著しく困難な場合を含む。)又は毀損した場合でも、本件17年分契約上の債務を履行するものとする。ただし、本件ビニールハウスの滅失又は毀損がTの責めに帰すべき場合は、この限りではない。
N 上記Mの場合、k社は、上記Cの規定に関わらず、リース料残額を支払って本件17年分契約を終了させることができる。
O 本件ビニールハウスの修理や改良は、k社が自らの費用で行うものとする。
P k社は、本件17年分契約に基づく債務の履行を1回でも怠ったとき等所定の場合、何らの通知催告がなくても期限の利益を失い、残リース料全額を直ちにTに支払うものとする。
Q Zは、本件17年分契約に基づくk社のTに対する一切の債務について、k社と連帯して保証する。
(ニ) 平成19年にされたY社等との契約
 Tは、平成19年10月1日付で、Y社に対し、30,000,000円を要旨次の約定で貸し付けた(以下、当該契約を「本件19年分契約」といい、本件15年分契約、本件16年分契約及び本件17年分契約と併せて「本件各契約」という。)。
A 利息は年5%(年365日の日割り計算)、遅延損害金は年14.5%(年365日の日割り計算)とする。
B Y社は、Tに対し、元金及び利息を平成19年10月から毎月末日限り24回の手形をもって支払うものとする(毎月の支払額1,316,142円)。
C Y社において、2か月分以上割賦弁済債務の支払を遅滞したとき等所定の事由に該当したときには、Tからの通知催告を要することなく、Y社は期限の利益を失う。
D Zは、Y社のTに対する債務につき、連帯保証の債務を負うものとする。
ヘ Tの本件ビニールハウスの購入について
 Tは、本件17年分契約を履行するためにY社からビニールハウスの設置に係る資材一式を購入し、平成17年6月20日付で、Y社よりビニールハウスの設置の完成に伴う代金の請求を受けたため、同年8月10日に、β銀行○○支店のT名義の普通預金口座から本件ビニールハウスの購入代金相当額15,000,000円を出金し、当該現金をm銀行○○支店のY社名義の普通預金口座に振り込む方法によりY社に支払った。
ト k社からの手形の受領について
 k社は、平成17年8月17日付で、本件17年分契約に係るk社振出しの手形金額を62,500円、支払期日を平成17年9月ないし平成18年8月の各月10日とする約束手形12通及び手形金額を345,439円、支払期日を平成18年9月ないし平成22年8月の各月10日とする約束手形48通の合計60通の約束手形(手形金額の総額17,331,072円)を送付し、Tはこれを受領した。
チ k社による共同根抵当権の設定について
 k社は、平成19年10月1日付で、Tとの間で自己の所有するh市○町○−○ほか16筆の不動産に対して、債権者をT、債務者を本件各法人、被担保債権の範囲をまる1金銭消費貸借取引、まる2手形債権・小切手債権、まる3本件17年分契約及びまる4平成16年10月1日手形貸付契約とする極度額60,000,000円の共同根抵当権を設定する旨の契約を締結し、当該不動産について、同日付で、その旨の共同根抵当権設定登記(それぞれ乙区順位7番ないし順位15番)を経由した。
リ 本件各法人の破産について
 Y社は、平成20年6月2日に、手形の不渡りを起こして手形交換所の取引停止処分を受け、その後、同年8月○日に、f地方裁判所○○支部に対して破産手続開始の申立てを行い、同月○日に、破産手続開始決定がされた。
 また、k社は、平成20年6月○日に、n地方裁判所に対して民事再生手続開始申立て及び弁済禁止等を内容とする保全処分申立てを行い、同日、保全処分がされ、同年7月○日に再生手続開始決定がされたが、同年12月○日に、同裁判所に対して再生手続廃止の上申書を提出し、同月○日に再生手続廃止決定がされた。その後、k社について、同裁判所から、平成21年1月○日に、破産手続開始決定がされたが、平成22年3月○日に、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足するとして破産手続廃止決定がされた。
ヌ Zの破産について
 Zは、f地方裁判所○○支部に対して破産手続開始申立てを行い、平成20年10月○日に、同裁判所より破産手続開始決定を受け、その後、平成22年3月○日に、同裁判所から破産手続廃止決定がされ、また、同日、免責許可決定がされた。
ル 本件各契約に係る債権の届出について
 Tは、Y社に係る破産手続において、f地方裁判所○○支部に対し、TがY社に対して有する債権額について、本件15年分契約に基因する貸付金の残元金10,892,602円及び本件19年分契約に基因する貸付金の残元金21,557,056円の合計32,449,658円である旨記載された平成20年8月22日付の破産債権届出書(以下「本件破産債権届出書」という。)を提出した。
 さらに、Tは、k社に係る再生手続において、n地方裁判所に対し、Tがk社に対して有する債権額について、本件15年分契約に基因する貸付金の残元金10,892,602円、本件16年分契約に基因する貸付金の残元金20,075,637円、本件17年分契約に基因する未収リース料相当額8,495,287円、本件19年分契約に基因する貸付金の残元金21,557,056円及び平成16年11月30日のk社との看板設置請負契約に基づく請負代金に係る準消費貸借契約(以下「本件準消費貸借契約」という。)に基因する貸付金の残元金5,795,988円の合計66,816,570円である旨記載された平成20年7月28日付の再生債権届出書(以下「本件再生債権届出書」という。)を提出した。
ヲ Tの平成20年分の所得税の確定申告について
 Tの平成20年分の所得税の確定申告書は、法定申告期限内に原処分庁に提出されたが、当該申告書に添付された平成20年分所得税青色申告決算書(一般用)には、本件再生債権届出書に記載された債権の合計相当額である66,816,570円の100分の50に相当する33,408,285円を貸倒引当金とし、当該金額がTの事業所得の金額の計算上必要経費に算入した旨記載されていた。
ワ k社の破産管財人への問い合わせ等
 Rは、Tがk社に対して有していた債権額について、k社の破産管財人であるp弁護士に対し問い合わせを行ったところ、p弁護士は、平成21年11月4日付で、本件再生債権届出書に記載されているTのk社に対して有する債権額とするもののうち、まる1本件16年分契約に基因する貸付金の残元金が19,847,058円である旨、まる2本件17年分契約に基因する未収リース料相当額は、本件再生債権届出書に記載のとおりの金額の8,495,287円である旨、まる3本件準消費貸借契約はk社とV社との間で締結されたものであり、本件準消費貸借契約に基因する貸付金の残元金はTのk社に対する債権に該当しない旨及びまる4本件15年分契約及び本件19年分契約はTとY社との間の金銭消費貸借契約であり、k社は物上保証を行っているだけである旨回答した。
カ Tの平成21年分の所得税の準確定申告について
 Tに係る平成21年分の所得税の準確定申告書は、法定申告期限内である平成22年1月22日に原処分庁に提出されたが、当該準確定申告書に添付されたTに係る平成21年分所得税青色申告決算書(一般用)には、Tの平成20年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されていた貸倒引当金相当額33,408,285円について、その同額が貸倒引当金戻入れとしてTの平成21年分の事業所得の収入金額となる旨、さらに、Tが本件各法人に対して有する債権の額であるとして本件破産債権届出書に記載された債権の額の合計額32,449,658円並びに本件再生債権届出書に記載された債権の額のうちTがk社に対して有している債権であるとしてp弁護士から回答を受けた本件16年分契約に基因する貸付金の残元金19,847,058円及び本件17年分契約に基因する未収リース料相当額8,495,287円の各金額を合計した金額60,792,003円から、p弁護士から振り込まれた登記協力金相当額の300,000円を控除した金額に相当する額の60,492,003円について、貸倒損失としてTの平成21年分の事業所得の必要経費となる旨がそれぞれ記載されていた。
ヨ 原処分庁の調査について
 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成23年11月頃、Tの所得税等について調査に着手し、提示を受けた帳簿書類等の確認をした上で、請求人らに対し、本件各契約に基因する貸付金等について、いずれもTの事業の遂行上生じた貸金等に該当せず、本件各法人の破産等に基因する貸倒れについてTの事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない旨及び売上金額の計上漏れ等がある旨を指摘した。
タ 請求人らの修正申告について
 請求人らは、平成24年2月13日に、別表1の「修正申告」欄のとおり記載したTに係る平成20年分及び平成21年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の各修正申告書を原処分庁に提出した。
 なお、Tの本件各年分の事業所得の金額は、本件16年分契約及び本件19年分契約に基因する各残元金の額並びに本件17年分契約に基因する未収リース料相当額の各債権がTの事業の遂行上生じたものであるとして計算されていたが、本件15年分契約に基因する残元金について連帯保証人であるαが支払を行っているとして貸倒れ計上をしなかった。
レ 原処分庁の更正処分等について
 原処分庁は、平成24年3月13日付で、請求人らに対し、Tに係る本件各年分の所得税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
 なお、本件各年分の所得税の更正通知書には、要旨、本件16年分契約、本件17年分契約及び本件19年分契約のいずれもが金銭消費貸借契約であり、当該各契約に基因する各貸付金等がTに係る事業の遂行に付随する貸付金とは認められないことから、当該各契約に基因する各貸付金の貸倒れによる損失は、Tの事業所得の必要経費とすることができない旨記載されていた。
ソ 原処分庁の再更正処分等について
 原処分庁は、審査請求手続中の平成24年6月26日付で、請求人らに対し、別表1の「再更正処分等」欄のとおり、Tに係る本件各年分の所得税について、本件16年分契約に基因する貸付金の残元金に係る貸倒引当金相当額及び貸倒損失額をTの事業所得の必要経費とする等の内容の各再更正処分及び過少申告加算税の各変更決定処分をした。

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2 主張

原処分庁 請求人ら
 本件17年分契約に基因する未収リース料相当額及び本件19年分契約に基因する貸付金(以下、これらを併せて「本件貸付金等」という。)は、Tの事業の遂行上生じた貸付金及び事業の遂行に付随して生じた貸付金と認められず、本件貸付金等に係る貸倒損失等の額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できない。
 本件貸付金等に係る貸倒損失の額は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入される金額であり、雑所得の金額を限度として必要経費に算入すべきである。
 本件貸付金等は、Tの事業の遂行上生じた貸付金であり、本件貸付金等に係る貸倒損失等の額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである。
(1) Tは、○○機械の修理業、ビジネスホテル及び金券ショップの経営を事業として行っていたところ、ビニールハウスのリースと当該事業との間には何ら関連性も認められない上、まる1Tが平成17年分ないし平成19年分の所得税の確定申告において、平成17年8月10日付のリース契約書に添付された償還表に記載された金額のうち、利息充当額として記載された金額のみを雑所得の金額の計算上総収入金額に計上していたこと、まる2Zが調査担当職員に対して、Tはk社の開設以前からh市の発展のためにq社が進めていた研究を支援しており、q社から事業を引き継いだZに対しても、Tの方から支援の申出をしたものであり、Tは、h市のために、従来から事業の損得を超えて支援を行っており、また、同郷の出身でもあるZの事業方針に賛同して、経済的な支援以上のことをしてくれたのだと思う旨申述していることを併せ判断すると、k社に対するビニールハウスのリースは、Tの事業の一環として行われたものではなく、k社にビニールハウスの増設資金を貸し付けるに当たって、形式上リース契約の体裁を整えたにすぎないと認められるから、本件17年分契約の実質は、単なる金銭の貸付けとみるべきである。
 そうすると、Tが平成16年にk社から○○製造設備の設置工事を請け負ったことがあり、k社から○○を仕入れた事実があるとしても、これを理由として、k社に対して15,000,000円もの資金を貸し付けることが、客観的にみて、Tの事業の遂行上必要な行為であるとは認められない。
(1) 本件17年分契約に係る債権は、Tが月々の利息充当額を明らかにするため償還表を作成し、本件17年分契約に係る契約書に添付していたため、金銭の貸付けではないかとみられるかもしれないが、当該契約の実態はTが購入したビニールハウスをk社に貸与したリース契約であり、事業の遂行上生じた貸付金に該当する。
 Zは、Tについて、k社の開設以前からh市の発展のためにq社が進めていた研究を支援しており、q社から事業を引き継いだZに対しても、Tの方から支援の申出があった旨を原処分庁に対して申述しており、また、Tは、k社が○○の栽培事業を買収する前から研究を支援していたのであるから、Tによるk社の○○の栽培事業に対する資金貸付けは、TとZとの間の個人的な懇意による支援でないことは明らかである。
 そもそも事業というものは、日々その内容を時代の変化や取り巻く環境に合わせ変動していくものであって、将来のビジネスチャンスに期待し、必要な投資をすることは、事業の遂行上、通常行われることである。
 Tは、k社が事業主体となった後にも、○○製造設備のメンテナンス及び新規設備導入の受注を得て自己の事業拡大を図るにはk社とのつながりを密接にしておくことが、是非とも必要であると考えた上での事業投資であった。
 したがって、本件の貸倒損失が「事業の遂行上生じた貸金等の貸倒れによる損失」に該当することに間違いなく、その貸倒損失の額は、Tの事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきものである。
(2) TとY社との間には、事業上何らの取引関係も認められず、Y社に運転資金を貸し付けることによりk社に対する売掛債権の回収に当たって何らかの効果が見込まれるとしても、それは派生的なものであり、当該派生的な効果を目的として本件16年分契約に基因する貸付金の額を超える運転資金をY社に対して新たに貸し付けることは不合理であることからすれば、本件19年分契約に基因する貸付金は、Tの事業の遂行上生じたものであるとは認められない。 (2) 本件19年分契約に基因する貸付金は、Y社の資金繰りの悪化によるk社への売掛代金及びリース代金の回収不能を防止することを主眼とするものであり、事業の遂行上生じた貸付金に該当する。
 なお、Tは、平成17年8月にk社に貸与するビニールハウスをY社から購入しており、TとY社との間には取引関係があった。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法施行令第184条の2は、資産の賃貸借で、まる1その賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること及びまる2その賃貸借に係る賃借人がその賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、その資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされていることの各要件を満たすものをリース取引という旨(第3項)、さらに、個人がリース取引をした場合において、まる1リース期間(リース取引に係る賃貸借期間をいう。以下同じ。)終了の時又はリース期間の中途において、リース資産が無償又は名目的な対価の額で当該賃借人に譲渡されるものであること、まる2賃借人に対し、リース期間終了の時又はリース期間の中途において、リース資産を著しく有利な価額で買い取る権利が与えられているものであること、まる3リース資産の種類、用途、設置の状況に照らし、リース資産がその使用可能期間中当該賃借人によってのみ使用されると見込まれるものであること若しくはリース資産の識別が困難であると認められるものであること、又は、まる4リース期間がリース資産の法定耐用年数に比して相当の差異があり、当該賃貸人又は賃借人の所得税又は法人税の負担を著しく軽減すると認められるものであることのいずれかの要件を満たすとき又はこれらに準ずるものであるときは、リース資産の賃貸人から賃借人への引渡しの時にそのリース資産の売買があったものとして、当該取引を行った者の各種所得の金額を計算する旨(第1項)各規定している。
 上記のようなリース契約については、所有権移転ファイナンスリースに該当するところ、このように規定されたのは、いわゆるファイナンスリースは、特定の物件の使用を希望する者(ユーザー)が、資金力がなかったり、購入を欲しない場合、自ら購入する代わりにリース業者に依頼して販売業者より当該物件を購入してもらい、しかる後、リース業者よりその使用収益の承諾を得て、一定期間内に定期的に一定額のリース料の支払を約束し、リース業者は、当該リース料によりリース物件の購入代金等の投下資本を回収するという仕組みの取引であり、さらに、ファイナンスリース契約のうち、リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて、リース業者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定されているいわゆるフルペイアウト方式によるものは、その実質がユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであって、当該フルペイアウト方式のファイナンスリース契約においては、リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し、リース料の支払が毎月一定額によることと約定されていても、それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず、各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない等、一般の賃貸借契約には認められない特色を有する契約であることから、一定の条件を満たすリース取引については、リース物件の賃貸人から賃借人への引渡しの時にそのリース物件の売買があったものとして、各年分の各種所得を計算するものであると解される。
ロ 所得税法第35条において、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定しているところ、これは、所得税法が人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を構成し、課税の対象としているものと解される。そして、ある所得が対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得(所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条第12号)として事業所得に該当するためには、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得であることを要するものと解するのが相当である。
ハ 所得税基本通達27−5(1)は、事業所得を生ずべき事業の遂行に付随して生じた「事業の遂行上取引先又は使用人に対して貸し付けた貸付金の利子」は、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入する旨定めている。
 所得税法第27条第1項の規定は、事業が総合的な活動であることに着目して、たとえ個々の所得発生の基因となった事業をみれば事業所得以外の所得とされるものであっても、事業の遂行に付随して生じた所得については、これを事業所得に含める趣旨であると解されることから、所得税基本通達27−5(1)の定めは、当審判所においても相当であると認める。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人ら提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各法人の各破産手続中の財産の状況について
 Y社の破産管財人であるr弁護士は、平成20年12月19日付の財産状況報告書をf地方裁判所○○支部に提出したが、当該財産状況報告書中には、破産会社の事業は、造林事業、木材事業、緑化事業及び農産事業の4つの事業から成っていたが、このうち主力である造林事業が国の政策変更により収益が急激に悪化し、他の事業に注力するも、造林事業の収益の悪化を補填するだけの収益を上げることができず、金融機関からの更なる借入れによって運転資金を調達することにも限界があり、平成19年6月30日時点で計上されていた流動資産約580,000,000円のうち多くが実質的に回収困難なk社ほかの関連会社に対する売掛金や処分性のない棚卸資産で占められていたこともあって、破産会社の資金繰りは回復不可能な程度にまで悪化したことによるものであること、Y社に係る破産財団の現在残高が5,537,003円である、現時点で一般債権者に対する配当の見込みはないことなどの記載がある。
 また、k社の破産管財人であるp弁護士は、平成21年4月23日付の財産状況報告書(以下「本件財産状況報告書」という。)をn地方裁判所に提出したが、本件財産状況報告書中には、まる1k社は、平成14年3月29日に、W−1社(本店所在地は、g県h市○町○−○。)から○○の栽培・販売に係るガラス温室、敷地及び関連施設等を総額700,000,000円で買収して、○○の栽培・販売事業を開始した、まる2k社は、設立直後から粉飾決算を行ってきたことがうかがわれるところ、平成20年3月期決算においては、架空計上額は、売掛金で約50,000,000円、仕掛品で約100,000,000円の合計約150,000,000円以上に達し、正しい決算をしたと仮定した場合累積欠損額も同額程度以上に達していたものと推測される、まる3k社は、初期段階での損失に加えて、上記買収資金700,000,000円の弁済に係る財政的負担は大きく、設立当初から資金繰りがひっ迫していた様子で、金融機関からの融資や取引先に対する弁済期日の繰延べ等の手段により資金繰りをつけていたことがうかがわれるが、Y社の倒産を受けて、独力で財政的窮地を乗り切ることができず、民事再生手続の申立てに至った、まる4k社が金融機関等から融資を受けるに当たっては、ZやY社が連帯保証人となるのが常であった、まる5破産債権者に対する配当実施の見込みがないといった記載がある。
ロ Tのk社に対する機械装置等の販売等について
 Tは、平成16年中に、k社に対して、○○製造に係る機械装置等(以下「本件装置等」という。)の販売・設置等の業務を総額29,437,181円で請け負い、当該金額をTの事業所得の金額の計算上収入金額に算入しているが、当該契約に係る金額は、本件16年分契約の貸付金の額と同額であり、さらに、Tの個人事業の名称である「X社」発行のk社に対する請求書には、k社に納品された本件装置等の名称及び数量が記載されているが、本件装置等と同一の名称及び数量の機械器具が本件16年分契約に係る担保物件とされていた。
ハ 本件ビニールハウスの売却について
 TないしRは、遅くともk社の破産手続中であった平成21年6月18日までに、本件ビニールハウスの売却についての交渉を開始し、まる1本件ビニールハウスの瑕疵に基づく異議・賠償等の申立てを行わないこと及びまる2本件ビニールハウスの解体、運搬及び残存物の処分について買主が行うことなどを条件として、遅くとも同年10月20日までに、売却価額1,500,000円で第三者に売却した。
ニ 本件19年分契約に係るメモについて
 Tが作成した本件19年分契約の内容を記載したメモには、最上部に「Y社株」と記載され、その下の行には「運轉資金」と記載されていた。
ホ Tの本件各法人以外の取引先との取引について
 Tは、平成11年12月15日付で、貸主をTとし借主を○○等の醸造を主たる業務とするW−2社(本店所在地はu県○市○町。)として、Tが所有する取得価額37,710,860円の○○に係る装置等を、リース期間96か月、月額リース料462,714円、総額44,420,544円でリースする旨の契約を締結したが、当該リース契約の条項には、まる1リース期間内は解約できないこと、まる2W−2社は、リース期間の満了に際し、当該リース契約を1年間更新(再リース)するか又は終了させるかを選択することができること、まる3W−2社は、当該○○装置等を他に譲渡したり、第三者に使用させたり、その他、Tの所有権を侵害する行為ができないこと及びまる4W−2社がリース料の支払を1回でも怠ったとき等所定の事由に該当したときは、Tはリース料の残額の即時の弁済の請求をすることができる等の条項が含まれていた。
ヘ Tの本件各法人以外に対する貸付けについて
 Tは、平成11年6月25日付で、q社の関係会社であり、後にk社がその資産を買収して○○製造等を引き継ぐこととなるW−1社に対し、100,000,000円を年利3.8%、返済期間を10年の約定で貸し付けた。
 また、Tは、V社が賃貸する不動産の賃借人であり、○○等のチェーン店を営業するW−3社(本店所在地は、d市e町。)に対し、平成17年5月1日付で39,000,000円を年利5%、返済期間1年の約定で、また、同年12月26日付で10,000,000円を年利5%、返済期間10か月の約定でそれぞれ貸し付け、さらに、W−3社の関係会社でV社の取引先でもあるW−4社(本店所在地は、d市○町)に対し、平成19年12月10日付で20,000,000円を年利5%、返済期間1年の約定で貸し付けた。
ト V社のh市における業務等について
 V社は、平成2年6月頃から、g県h市の工業団地において○○等の納入先商標による受託製造(OEM)を行っており、主に、W−5社及びW−6社等の製品を生産している。
 なお、当時のh市長は、Tの葬儀に際し、公費から支出してh市長名で供花をした。

(3) 関係者の答述等

イ Rの申述等について
(イ) Rの調査担当職員への申述
 Rは、Tの所得税等の調査の際に、調査担当職員に対して、要旨以下のとおりの申述をした。
A Tは、昭和20年8月の終戦をh市で迎えた後、昭和24年にd市で○○の販売業を開業し、順次事業を拡大して7法人を経営するまでに至った。
B Tは、自身が慣れ親しんだ地域への思い入れが強く、無一文から事業を興したd市と並んで、h市は、戦時中、軍隊に配属され、終戦後も何かとお世話になったため、いつか恩返しをしたいとの思いから、V社によってW−5社等の○○メーカーの納入先商標による受託製造のための○○工場を建設し、h市の雇用促進に寄与する他、○○駅の駅舎を寄贈するなどして、事業の垣根を越えて経済的な支援をした。
(ロ) Rの当審判所の質問に対する回答について
 Rは、当審判所の質問に対し、平成24年11月9日付で、要旨次のとおり回答した。
A Y社の経営不振が表面化したのは、手形が不渡りとなった平成20年6月2日のことである。
B 請求人らが、本件19年分契約に係る貸付金がTのk社に対する売掛金及びリース料の残金が貸倒れとなることを防ぐため貸し付けたものであると主張する根拠は、Tがそのように言っていたからである。Tは、k社とY社を一体のものと考えていた。
ロ Zの申述等について
(イ) Zの調査担当職員への申述
 Zは、平成24年1月31日に、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
A k社は、Zがh市で設立した法人である。q社から○○栽培の事業に同人の知識を貸してほしいと言われたのが始まりで、その後、事業全体を700,000,000円で買い取ってほしいと依頼されて、引き受けた。事業を買い取るための資金は、300,000,000円しか用意できないとq社に伝えたが、金額は動かせないとのことで、支払猶予を取り付けて買い受けたが、その後も予定していなかった大きな支出があり、資金繰りが苦しかった頃、Tから100,000,000円の融資を受けて、運転資金に充てたと思う。
B k社は、黒字経営であり、k社の倒産は、Y社が破綻したことが原因である。
C Tは、Zがh市で事業を引き受ける前からh市の発展のためにq社が進めていた研究を支援してきており、k社に対する事業展開のアドバイスや資金面での支援をしてもらった。資金面での支援は、k社の設立当初に100,000,000円を借りた後、○○の製造設備として29,000,000円、○○の糖度センサー購入資金として30,000,000円を借り受けたほか、ビニールハウス増設の際に15,000,000円のリースをしてもらった。もっとも、Tとの間に顧問契約のような関係はなかった。
D Tの貸付金には貸付先がk社ではなくY社となっているものがあるが、それは、取引銀行から、k社が投資超過会社と認識されないように、Y社に資産を取得させてk社がこれを利用する手法を採ったものであると思う。
E 本件17年分契約をした経緯は分からないが、Tにビニールハウスを増設したいと相談した際に、リースにしたらどうかと提案され、かなりの安価で設置してくれたと思っている。増設工事の発注はY社が行い、設備はk社が使用していた。
F Tは、h市を活力のある町にしたいとの思いから、事業の損得を超えて支援を行ってきた中の一つとして、k社の○○栽培があり、Zの事業方針に賛同して経済的な支援以上のことをしてくれたと思う。
(ロ) Zの当審判所への答述
 Zの当審判所に対する答述の要旨は、以下のとおりである。
A Tは、Zがk社を設立し○○の栽培及び販売事業を始める前から、h市の発展のため、q社の関係法人(W−1社)が行っていた事業を支援していた。k社がW−1社の事業を引き継ぐことを知って、α(k社の取締役)の仲介で、Tに会ったのが最初だったと思う。Tは、Zの事業構想に賛同して、k社に対する事業展開のアドバイスや資金援助をしてくれた。
B k社が行っていた○○の栽培及び販売事業は、もともとq社が関係会社(W−1社)を設立し広大なガラス温室を設置して行っていた事業であった。q社から、Zの○○の栽培に関する知識を貸してもらいたいと言われたのが始まりで、Zは、q社の事業に関わることになり、その後、q社から事業全体を買い取ってもらいたいとの依頼があったので、引き受けることとした。
C Y社は、Tとの間で、本件15年分契約を締結して100,000,000円の借入れを行ったが、当該金員は、k社の敷地内に販売用店舗を建設するための費用に使用した。当該販売用店舗は、Y社が所有してk社に貸し付ける形にした。
 当該金員をY社が借りることとした理由は、k社には、取引銀行からの借入れ限度の関係で問題があったためである。
D 本件17年分契約に際し、TがY社から購入した本件ビニールハウスは、Y社がg県の事業者に発注して購入したもので、購入代金は15,000,000円だったと記憶している。
 ビニールハウスは、もともとTが事業としてやりたいと思っていたもので、ビニールハウスで収穫する野菜等を販売したいとの意思があったことから、Y社からTが本件ビニールハウスを買い取る形をとった。
E Y社は、Tとの間で、本件19年分契約を締結したが、Y社が○○国に輸出する木材仕入れのための資金として借り入れたものである。これは、Y社の新たな事業展開のための借入金であり、k社に使用するための資金ではなかった。以前、調査担当職員に糖度センサーの購入資金であると回答したことは、自分の勘違いであり、訂正する。
ハ p弁護士の回答について
 k社の破産管財人であったp弁護士の当審判所の質問に対する平成24年10月18日付回答の要旨は、次のとおりである。
(イ) p弁護士が破産管財人として保管しているk社の金融機関からの借入金に係る契約書によれば、5件の借入金のうち少なくとも2件についてY社が連帯保証人となっている。
(ロ) k社は、少なくとも平成16年3月期以降の各事業年度において、k社の敷地内の販売用店舗における売上げのうちY社が収入すべき金額を自らの売上げとして計上するなどの方法により売上げの架空計上や前倒し計上を行ったり、経費の過少計上や棚卸商品等の過大計上を行ったりして、利益を過大に計上する会計処理を行っていた。
(ハ) k社とY社との間では様々な身勝手な契約が交わされ、何が正しくて何が間違いなのか不明確であった。
ニ r弁護士の答述について
 Y社及びZの破産管財人であったr弁護士の当審判所に対する答述の要旨は、次のとおりである。
(イ) k社とY社との取引については、承知していない。
(ロ) Tからの借入金の存在については承知しているが、その使途等については知らない。
(ハ) Zについては、当初から配当見込みが乏しかったので、裁判所も債権調査を留保して破産手続開始決定をしている。

(4) 判断

イ 本件17年分契約に係る債権は事業の遂行上生じたものであると認められるか否か。
(イ) 本件17年分契約の性質について
 上記(1)のイのとおり、いわゆるファイナンスリースとは、特定の物件の使用を希望するユーザーが、資金力がなかったり、購入を欲しない場合、自ら購入する代わりにリース業者に依頼して販売業者より当該物件を購入してもらい、しかる後、リース業者よりその使用収益の承諾を得て、一定期間内に定期的に一定額のリース料の支払を約束し、リース業者は、当該リース料によりリース物件の購入代金等の投下資本を回収するという仕組みの取引であり、さらに、いわゆるフルペイアウト方式(リース物件の残価を零とみて投下資本の全てを回収できるようにリース料を定める方式)のファイナンスリース契約によるものは、その実質がユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであって、リース料債務が契約の成立と同時にその全額について発生し、リース料の支払が毎月一定額によることと約定されていても、それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず、各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない等の特色を有する取引である。
 そうであるところ、上記1の(4)のホの(ハ)、ヘ、ト、ル及びワ、上記(2)のハ並びに上記(3)のロの(ロ)のDのとおり、まる1本件17年分契約については、TがY社から本件ビニールハウスを購入してk社にリースする旨、リース期間は5年で、当初の12か月は毎月62,500円で、残りの48か月は毎月345,439円(契約総額17,331,072円)のリース料を約束手形により支払う旨、リース期間内は契約の解約ができず、期間満了をもって契約は終了し、本件ビニールハウスの所有権は自動的にTからk社に移転する旨、k社は本件ビニールハウスを園芸菜園として使用し、Tの書面による同意がない限り転用できず、さらに、k社は、本件ビニールハウスを第三者に譲渡等をすることができず、また、本件17年分契約上の権利を第三者に譲渡することができない旨、本件ビニールハウスの修理や改良は、k社が自らの費用で行う旨及びk社の債務不履行等の所定の場合は、k社は残リース料の全額をTに直ちに支払う旨が約定されていること、まる2Tは、Y社から本件ビニールハウスを15,000,000円で取得し、k社は、k社振出しの手形金額62,500円の約束手形12通及び手形金額345,439円の約束手形48通の合計金額17,331,072円の約束手形合計60通を一括してTに交付していること、まる3k社が平成20年6月30日にn地方裁判所に対して民事再生手続開始申立てを行った後、Tは、本件再生債権届出書に、平成17年分契約に基因する未収リース料相当額をk社に対する債権額として記載していたこと及びまる4本件ビニールハウスは、k社に係る破産手続において、破産財団に組み入れられることもなく、Tの所有に係る相続財産として請求人らに承継され、本件ビニールハウスの売却手続がRの指示のもとに進められたことの各事実が認められる。
 以上の各事実からすれば、本件17年分契約に基因する取引関係は、k社がビニールハウスを導入する際に、TがY社から本件ビニールハウスを購入し、Tが本件ビニールハウスの所有権を有したままの状態で、k社に契約の中途解約を認めずに継続して5年間これを使用させ、また、k社以外の者に使用させることを禁じてk社に本件ビニールハウスからもたらされる経済的利益を享受させ、本件ビニールハウスの取得価額である15,000,000円に利益相当額を加算した金額である17,331,072円をリース期間中毎月のリース料として支払わせ、リース期間の満了時に本件ビニールハウスの所有権を自動的にk社に移転させるものであり、本件17年分契約は、リース期間満了時にリース物件である本件ビニールハウスに残存価値はないものとみて、Tがリース期間中に本件ビニールハウスの取得費その他の投下資本の全額を回収することができるようにリース料が算定された、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンスリース契約であるということができるから、k社は、本件17年分契約の締結と同時にリース料の総額である17,331,072円の支払債務を負い、毎月のリース料の支払という形で期限の利益を得ていたものであって、n地方裁判所への民事再生手続申立てにより当該期限の利益を失い、Tに対して未払リース料相当額の債務を負うこととなったとものと認められる。
(ロ) 本件17年分契約に係る所得税法の適用について
 上記(1)のイのとおり、所得税法の適用上、資産の賃貸借で、まる1その賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること及びまる2その賃貸借に係る賃借人がその賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、その資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされていることの各要件を満たすものをリース取引といい、リース期間終了時又はリース期間の中途において、リース資産が無償又は名目的な対価の額で賃借人に譲渡されるものである場合等の要件を満たす取引は、当該リース資産の賃貸人から賃借人への引渡しの時に当該リース資産の売買があったものとして、当該取引を行った者の各種所得の金額を計算することとされている。
 そして、上記(イ)で認定説示のとおり、本件17年分契約は、リース期間内は本件17年分契約を解約することができない旨が約定されていること及びk社が本件ビニールハウスからもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、その使用に伴って生ずる費用を実質的に負担するものとされていることからすれば、リース取引に該当し、さらに、リース期間終了時に本件ビニールハウスの所有権は自動的にk社に移転する旨約定されていることから、所得税法の適用上、Tが本件ビニールハウスをk社に引き渡した平成17年中に本件ビニールハウスに係る売買があったものとされ、リース料の総額17,331,072円は、リース期間の経過に関わらず、その全額が平成17年中に発生した本件ビニールハウスに係る売買に基因する売掛債権とされることになる。
(ハ) 本件17年分契約に係る所得区分について
 上記(1)のロのとおり、ある所得が対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得(所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条第12号)として事業所得に該当するためには、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得であることを要するものと解される。
 そうであるところ、上記1の(4)のイのとおり、Tは、同人が設立した○○の製造販売を主たる業務とするV社の代表取締役を務めていたほか、個人でも、○○機械の修理業、不動産貸付け、ビジネスホテル及び金券ショップの経営等を手広く行っていた者である。そして、上記(2)のイのとおり、k社は、平成14年にW−1社から○○の栽培・販売に係るガラス温室、敷地及び関連施設等を買収して○○の栽培・販売事業を行っていたところ、上記1の(4)のホの(イ)並びに上記(3)のロの(イ)のD及び(ロ)のCによれば、Tは、k社がその敷地内に販売用店舗を設置することができるよう、Y社との間で本件15年分契約を締結してY社に100,000,000円を貸し付けることによりY社に当該販売用店舗を建築させた上、これをk社に賃貸させたこと、上記1の(4)のホの(ロ)、上記(2)のロ及び上記(3)のロの(イ)によれば、Tは、k社に対し、平成16年中に○○製造に係る本件装置等を販売・設置し、その代金を消費貸借の目的とする本件16年分契約を締結したこと、上記1の(4)のホの(ハ)及びヘ、上記(3)のロの(イ)のC及びE並びに(ロ)のDによれば、Tは、k社がビニールハウスを増設するため、Y社が業者に発注して購入した本件ビニールハウスをY社から購入した上、k社との間で本件17年分契約を締結して本件ビニールハウスをk社にリースしたこと、以上の事実が認められる。さらに、上記(2)のホのとおり、Tは、平成11年12月に、○○等の醸造を主たる業務とするW−2社に対し、○○に係る装置等を購入してこれをリースしている事実が認められる。
 以上の事実によれば、本件17年分契約に係る本件ビニールハウスのリースは、k社の事業に対する支援の一環として行われたものであると認められるところ、本件ビニールハウスのリースを含むTの上記一連の設備・装置等の販売・設置やリース等に係る業務は、営利性、有償性を有することはもとより、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるから、本件17年分契約に基づくリース料債権に係る所得は、対価を得て継続的に行う事業から生じる所得として、Tの事業所得に該当するものというべきである。
(ニ) 小括
 上記(ロ)及び(ハ)によれば、本件17年分契約に基因する未収リース料相当額の債権は、その全額が、本件ビニールハウスがk社へ引き渡された日の属する平成17年分のTの事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入される。
ロ 本件19年分契約に基因する債権は事業の遂行上生じたものであると認められるか否か。
(イ) 上記(1)のロのとおり、ある所得が対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得(所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条第12号)として事業所得に該当するためには、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得であることを要するものと解される。
 そうであるところ、確かに、Tは、上記1の(4)のイのとおり、個人でも、○○機械の修理業、不動産貸付け、ビジネスホテル及び金券ショップの経営等を手広く行っていた者であり、本件19年分契約に基づくY社に対する貸付け以外にも、上記1の(4)のホの(イ)のとおり、本件15年分契約に基づくY社に対する貸付けをはじめ、上記(2)のヘのとおり、平成11年6月にW−1社に対する貸付けを、平成17年5月及び12月にV社が賃貸する不動産の賃借人であるW−3社に対する貸付けを、平成19年12月にW−3社の関係会社でV社の取引先でもあるW−4社に対する貸付けをそれぞれ行って、利息収入を得ている(なお、本件16年分契約に係るk社に対する貸付けが本件装置等の販売・設置代金に係る準消費貸借金であることは上記イの(ハ)のとおりである。)事実が認められる。
 しかしながら、上記1の(4)のイのとおり、Tは、貸金業の登録をしておらず、本件の証拠により認められる貸付先も、いずれも、W−1社、Y社、W−3社及びW−4社といったV社ないしT個人の関係先に限られ、本件の全証拠をもってしても、Tが金銭の貸付けのための人的・物的設備を所有したり、貸付けのための広告宣伝等を行っていた様子等はうかがわれない。
 そうであるとすれば、Tが行っていた金銭の貸付行為には、一定の営利性、有償性は認められるものの、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる態様で行われていたものであるとまでは認められないから、Tは、対価を得て継続的に行う事業として金銭の貸付業務を行っていたということはできず、したがって、当該貸付行為による貸付金は、本件19年分契約による貸付金を含めて、対価を得て継続的に行う事業から生じる所得ということはできない。
(ロ) もっとも、上記(1)のハのとおり、所得税基本通達27−5(1)は、事業所得を生ずべき事業の遂行に付随して生じた「事業の遂行上取引先又は使用人に対して貸し付けた貸付金の利子」は、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入する旨定めている。
 上記イの(ハ)のとおり、Tは、k社に対して事業用の設備・装置等を販売・設置したりリースしたりするなど、k社の事業を継続的に支援しており、その手法として、Y社との間で本件15年分契約を締結してY社にk社の事業用店舗を取得させてこれをk社に賃貸させたり、k社にリースする本件ビニールハウスをY社に購入させたりするなど、Y社を関与させることがあったほか、上記1の(4)のニのとおり、k社とY社は、相互に資本関係はないものの、いずれも過去にZが代表取締役を務めていた関連会社であり、上記(2)のイ及び(3)のハの(イ)のとおり、k社が金融機関等から融資を受けるに当たり、Y社が連帯保証人となることがあった事実が認められる。
 そうであるところ、請求人らは、本件19年分契約に基因する貸付金について、Y社の資金繰りの悪化によるk社への売掛代金及びリース代金の回収不能を防止することを主眼としたものである旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のイの(ロ)のBのとおり、Rは、請求人らが、本件19年分契約に係る貸付金がTのk社に対する売掛金及びリース料の残金が貸倒れとなることを防ぐため貸し付けたものであると主張する根拠は、Tがそのように言っていたからであり、Tは、k社とY社を一体のものと考えていたと回答するのみで、請求人らは、本件19年分契約による貸付けが行われるに至った具体的経緯等についてそれ以上明らかにしない。また、上記(2)のニのとおり、Tが作成した本件19年分契約の内容を記載したメモにも、「Y社株」、「運轉(転)資金」とのみ記載されているにすぎない。そして、上記(2)のイのとおり、k社は、多額の売掛金等の架空計上を行うなどの粉飾決算を行っていたことがうかがわれるところ、上記(3)のロの(イ)のとおり、Zは、k社については黒字経営であり、k社の倒産はY社が破綻したことが原因である旨の申述をしているのであって、これらからすれば、k社やY社の本件19年分契約による貸付けが行われた当時、Tがk社の客観的な財務状態やY社の資金繰りの悪化を認識していたとはにわかに考え難い上、上記(3)のロの(ロ)のEのとおり、Zは、本件19年分契約による借入金は、Y社が○○国に輸出する木材仕入れのための資金として借り入れたものであって、Y社の新たな事業展開のための借入金である旨の答述をしていることを併せ考えると、本件19年分契約に基因する貸付金がY社の資金繰りの悪化によるk社への売掛代金及びリース代金の回収不能を防止することを主眼としたものである旨の請求人らの主張事実を認めるのは困難である。
 さらに、上記のとおり、Tは、k社の事業を支援する過程でY社を関与させることがあったものの、本件の全証拠によっても、TとY社との間にそれ以上の取引関係があったとは認められない。
 そうであるとすれば、本件19年分契約による貸付金は、Tの事業所得を生ずべき事業の遂行に付随して生じた取引先に対する貸付金であると認めることはできない。
(ハ) 以上によれば、本件19年分契約による貸付金は、Tの事業所得に係る総収入金額に算入することはできない。

(5) 本件各年分の所得税の税額計算

イ 所得税の納付すべき税額について
 上記1の(4)のリ及びヌ、上記(2)のイ、上記(3)のニの(ハ)、上記(4)のイの(ニ)及びロの(ハ)並びに当審判所が調査した結果によれば、本件17年分契約に基因する未収リース料相当額の債権は、Tの平成17年分の事業所得に係る総収入金額に算入され、k社がn地方裁判所に対して民事再生手続開始申立てを行った平成20年6月○日現在の本件17年分契約に基因する未収リース料相当額は、別表3−2の「審判所認定額B」の「本件17年分契約に基因する未収リース料相当額」欄のとおり8,981,414円であると認められるところ、平成20年10月○日に本件17年分契約における連帯保証人であるZがf地方裁判所○○支部により破産手続開始決定を受けており、その破産当初から破産債権者に対する配当実施の見込みは乏しく、また、p弁護士が平成21年4月23日付の本件財産状況報告書をn地方裁判所に提出した時点で、k社の破産債権者に対する配当実施の見込みはなかったというのであるから、Tのk社に対する本件17年分契約に基因する未収リース料相当額の債権の全額について貸倒れとなったと認められる。
 そうすると、Tの平成20年分の事業所得の金額の計算上、別表3−2の「審判所認定額B」の「貸倒引当金の額」欄のとおり、本件16年分契約に基因する貸付金の残元金相当額19,847,058円と本件17年分契約に基因する未収リース料相当額8,981,414円の合計額28,828,472円の100分の50に相当する金額14,414,236円が必要経費に算入され、さらに、別表3−1の平成21年分の「審判所認定額」の「貸倒損失の金額」欄のとおり、Tの平成21年分の事業所得の金額の計算上、28,828,472円が必要経費に算入されることとなる。
 また、本件19年分契約に係る所得は、Tの事業所得とは認められず、雑所得に該当するものと認められるところ、Y社の破産管財人であるr弁護士が平成20年12月19日付の財産状況報告書をf地方裁判所○○支部に提出した時点で、TがY社に対して有する本件19年分契約に基因する貸付金の残元金相当額の債権額21,557,056円の全額について弁済を受けられないことが明らかである上、本件19年分契約における連帯保証人であるZから弁済を受けられないことも明らかであったことからすれば、当該債権は、遅くとも平成20年12月19日にはその全額が貸倒れとなったと認められるから、本件19年分契約に係る貸倒損失の金額は、別表4−1及び別表4−2のとおり、Tの平成20年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである。
 以上のことから、Tの本件各年分の総所得金額は、別表5の「審判所認定額B」の各「総所得金額」欄のとおりとなるから、請求人らが納付すべきTの本件各年分の所得税の額は、別紙2ないし5の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の各賦課決定処分について
 本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は、本件の全証拠によっても、本件各年分の所得税の各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 ただし、本件各年分の所得税の各更正処分は、上記イのとおり、その一部を取り消すべきであるから、本件各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は、別紙2ないし5の「取消額等計算書」の「請求人Rが承継する納付すべき税額の計算」及び「請求人Uが承継する納付すべき税額の計算」の「裁決後の額B」の各「加算税の額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも原処分に係る金額を下回るので、いずれもその一部を取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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