(平成25年3月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、青色申告の承認を受けていた審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、請求人が受領した金員を総勘定元帳の売上勘定に計上しなかった行為は、法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第3号に規定する事由に該当するとして、原処分庁が、青色申告の承認の取消処分を行ったのに対し、当該処分に係る通知書記載の理由に不備などがあるとして、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実(請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実)

イ 請求人
 請求人は、平成18年7月○日に設立された不動産の売買、仲介等を目的とする法人であり、代表取締役には、設立日以降、Bが就任している。
 なお、請求人は、平成21年9月○日に、商号をE社からA社に変更した。
ロ 青色申告の承認
 請求人は、平成18年11月9日に、平成19年7月1日から平成20年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)以後の法人税の青色申告の承認申請書を提出したところ、原処分庁が、当該申請につき遅くとも本件事業年度の終了の日である平成20年6月30日までに承認又は却下の処分をしなかったため、法人税法第125条《青色申告の承認があつたものとみなす場合》の規定により、青色申告の承認があったものとみなされた。
ハ 確定申告
 請求人は、原処分庁に対し、本件事業年度の法人税の青色の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 なお、上記確定申告書の別表一(一)の「事業種目」欄には、不動産仲介業と記載されている。
ニ 修正申告
 請求人は、平成20年10月ないし12月に、原処分庁による法人税等の調査を受け、別表の「仲介手数料」欄の仲介手数料(以下「本件手数料」という。)の額が本件事業年度の益金の額に算入されていない事実等が判明したことから、原処分庁に対し、同年12月10日に、本件事業年度の法人税の修正申告書を提出した。
ホ 国税犯則取締法に基づく調査
 請求人は、平成22年以降、国税犯則取締法に基づく調査を受けた。
ヘ 原処分
 原処分庁は、上記ホの調査の結果に基づき、平成24年3月22日付で、本件事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)を行った。
 本件青色取消処分に係る青色申告の承認の取消通知書(以下「本件取消通知書」という。)には、「取消処分の基因となった事実」として、「貴社の平成19年7月1日から平成20年6月30日までの事業年度(以下「当該事業年度」といいます。)の法人税確定申告書、決算書類及びその作成の基となった備付帳簿書類について調査したところ、貴社は、次表記載のとおり、貴社が仲介した物件の買主(貴社の売上先)から『中間金』などの名目で、あるいは、仲介手数料として受領した現金又はF信用金庫d支店のE社名義の普通預金(口座番号○○○○)への振込額、合計84,157,100円を貴社の総勘定元帳の売上勘定に計上せず、当該事業年度の損益計算書及び貸借対照表並びに法人税確定申告書を作成し、提出を行ったことが認められます。以上の事実は、法人税法第127条第1項第3号に規定する『帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること』に該当します。」と記載されており(以下、当該普通預金口座を「本件預金口座」という。)、上記「次表」の記載内容は、別表と同一である。
 なお、原処分庁は、本件取消通知書に記載した、「中間金」などの名目で受領した金員(以下「本件中間金」という。)の額が売上勘定に計上されていなかったことについて、法人税の更正処分を行っていない。
ト 不服申立て
 請求人は、本件青色取消処分を不服として、平成24年3月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、同年6月12日付で棄却する旨の異議決定をしたので、請求人は、同月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 法人税法第127条第1項第3号は、同法第121条《青色申告》第1項の承認を受けた内国法人につき、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる旨規定している。
ロ 法人税法第127条第2項は、税務署長は、同条第1項の規定による取消しの処分をする場合には、同項の内国法人に対し、書面によりその旨を通知することを規定し、この場合において、その書面には、その取消しの処分の基因となった事実が同項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない旨規定している。

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2 争点

(1) 争点1 本件取消通知書には、理由付記の不備による違法があるか否か。
(2) 争点2 総勘定元帳に本件中間金及び本件手数料の額を記載しなかったことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するか否か。

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3 主張

(1) 争点1(本件取消通知書には、理由付記の不備による違法があるか否か)について

原処分庁 請求人
 原処分の理由付記は、以下のとおり、請求人がこれにより不服申立ての便宜を損なうことのない程度に具体的になされていることから、法人税法第127条第2項の要件を充足している。
 本件取消通知書には、前記1の(2)のヘのとおり記載され、「次表」では、「売上年月日」、「売上先」並びに「売上金額」として「中間金」、「仲介手数料」及び「合計」を具体的に示しており、「中間金」及び「仲介手数料」が売上げに該当することを示す具体的事実を請求人が具体的に知り得る程度に特定して摘示している。
 また、請求人の売上げである本件中間金及び本件手数料の額について、請求人が総勘定元帳に計上することなく、これに基づき納税申告書を提出していた旨記載され、「以上の事実は、法人税法第127条第1項第3号に規定する『帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること』に該当します。」と記載されていることから、隠ぺい又は仮装に該当する具体的事実を請求人が具体的に知り得る程度に特定して摘示している。
 本件取消通知書に付記された理由からは、本件中間金がなぜ請求人の売上げに該当するのか不明であり、また、隠ぺい又は仮装に該当する具体的な事実を知ることができない。

(2) 争点2(総勘定元帳に本件中間金及び本件手数料の額を記載しなかったことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するか否か)について

原処分庁 請求人
 次のことから、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。  次のことから、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当しない。
イ 請求人は、売買契約の仲介に際し、一取引について異なる売買価格を記載した売主用売買契約書、買主用売買契約書及び金融機関用売買契約書の複数の契約書並びに請求人が売主に対して売買代金の精算方法等を説明するための書類及び「決済内容のご説明」と題する書類を作成し、これらを用いて、買主に金融機関からオーバーローンを受けさせるなどした上で、売主とは売主価格に基づき売買代金の精算手続をする一方で、買主には買主価格が売買価格であると虚偽の説明をし、買主から買主価格と売主価格の差額である本件中間金を得ていた。
 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項の「益金」を取引に係る収益として観念し、取引によって生じた利益は、それが実現さえすれば、原則として全て益金に含まれ、現実にその行為によって利得が利得者の管理支配の下に入っている場合には課税の対象となると解されている。
 したがって、本件中間金の額は、請求人の益金の額に算入すべきものに該当する。
イ 原処分庁は、本件中間金が請求人の本件事業年度の売上げとして益金の額に算入すべきものであるとするが、その証拠は何ら示されていない。
 本件中間金は、買主の住宅ローン審査を通すために、請求人が買主からの依頼により、買主の借金の立替払いを行った金銭などであり、売上げ又は収益ではない。
ロ 本件中間金は18件あり、そのうち15件に係るものについては、本件預金口座に振り込まれており、残りの3件は、請求人が小切手などで受領したとして領収証を発行していることから、請求人は本件中間金を受領したことが認められる。 ロ 本件預金口座に入金された金員については、受領はしたが、売主か、紹介者か、買主に渡していたので、本件中間金に相当する収入を得ていない。本件預金口座に入金されていない金員については、請求人は受領していない。
 また、原処分庁は請求人が小切手などで受領したと主張するが、一般人の顧客が特殊なものである小切手を使用するはずがない。
ハ 法人税法第127条第1項第3号と国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」の文言は同義であると解され、請求人の収益となる本件中間金及び本件手数料を総勘定元帳の売上勘定に記載していないことは、典型的な「事実の隠ぺい」とされる売上等収入を脱漏したことに該当し、このことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する、帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録したことに該当する。 ハ 本件手数料は、会社の目の前にあるF信用金庫d支店の本件預金口座で管理していた。仮に、隠ぺいしようとするのであれば、会社の目の前の金融機関で管理するはずがない。
 また、請求人は、顧客から、顧客に関する情報が外部へ漏えいすることのないよう依頼されていたため、どのように税務申告をすべきか悩んでいた。その時に税務調査があったので、請求人の代表者は自発的に税務相談を行った。
 したがって、請求人は仮装隠ぺいなどしていない。

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4 判断

(1) 争点1(本件取消通知書には、理由付記の不備による違法があるか否か)について

イ 法令解釈
(イ) 法人税法第127条第1項第3号は、前記1の(3)のイのとおり規定しているところ、この文言からすれば、同号に該当するというためには、「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し」たこと、又は「記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」の、いずれかに該当する事実があることが必要であると解される。
(ロ) また、法人税法第127条第2項は、前記1の(3)のロのとおり、税務署長が、同条第1項の規定による青色申告の承認の取消処分をする場合には、同項の内国法人に対し、その旨を当該法人に通知し、その通知の書面には、当該取消処分の基因となった事実が同条第1項各号のいずれに該当するかを付記しなければならないものと規定しているところ、同法が当該通知書にこのような付記を命じたのは、青色申告の承認の取消しが青色申告の承認を得た法人に認められる納税上の種々の特典を剥奪する不利益処分であることに鑑み、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消しの理由を処分の相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨であると解される。
 この趣旨からすれば、青色申告の承認の取消処分の通知書に要求される付記の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がなされたかを処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならないものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 上記イを本件についてみてみると、次のとおりである。
(イ) 本件取消通知書には、前記1の(2)のへのとおり、請求人が本件中間金及び本件手数料を売上げに計上しなかった事実は、法人税法第127条第1項第3号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」に該当する旨記載されているところ、この請求人の行為は、上記イの(イ)のうちいずれに該当する事実があったとするのか、すなわち、「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載又は記録し」たとするのか、それとも、「記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある」とするのか、いずれの事実によるものであるかが明らかではなく、仮に、これら双方に該当すると記載されたものであると解したとしても、どの事実が「隠ぺい」又は「仮装」であるとするのか、例えば、売上げに計上すべきものに該当する金員を簿外の銀行口座で管理していたことなど、売上金額の意図的な脱漏を示す事実が記載されていないことから、「隠ぺい」又は「仮装」に該当する事実を具体的に特定して摘示しているとはいえず、また、いかなる理由により帳簿書類の全体について真実性を疑うに足りるとするのか、例えば、計上漏れ金額が多額であるとか、全体的に間違いが多いことなど、真実性を疑うに足りる理由を具体的に摘示しているともいえない。
(ロ) また、本件取消通知書には、本件中間金の額を売上勘定に計上しなかった旨が記載されており、原処分庁は、本件中間金が請求人の売上げに該当することを取消理由の要素としていると考えられるところ、通常の不動産売買に係る取引慣行において、「中間金」という名目の金員は、売買代金等の一部として、本来売買当事者間で授受されるものであるので、不動産仲介業者を通じて授受されるとしても、当該不動産仲介業者の収益に計上すべき金員には該当しないのが一般的であるから、本件中間金が、前記1の(2)のハのとおり、不動産仲介業務を行う請求人の売上げに該当するというためには、通常の不動産売買にはみられない特別な事情が必要であるというべきであり、本件取消通知書において取消しの基因となった事実を摘示したというためには、当該特別な事情も記載されていなければならないというべきである。
 しかしながら、本件取消通知書には、本件中間金の額が売上勘定に計上されていないという事実が記載されているのみで、原処分庁が本件中間金の額を売上げに計上すべきと判断した理由(特別な事情)が何ら摘示されていない。
(ハ) そうすると、請求人は、本件取消通知書の記載内容からは、既に前記1の(2)のニの修正申告により益金の額に算入した本件手数料のみならず、本件中間金がいかなる事実関係により売上げに該当するとしているのか了知できないばかりか、本件中間金及び本件手数料の額を売上勘定に計上しなかったことが、法人税法第127条第1項第3号に規定する、「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し」たこと、又は「記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」のいずれの事実に該当するのかについても了知することができないものと認められる。
(ニ) したがって、本件取消通知書は、いかなる事実が法人税法第127条第1項第3号に該当する事実であるとして本件青色取消処分がなされたかを請求人においてその記載自体から了知し得るものということはできないから、本件青色取消処分は、同条第2項の定める理由付記の要件を欠くものとして、違法であるというほかない。

(2) その他

 上記(1)のロのとおり、本件青色取消処分は違法であるから、争点2について判断するまでもなく、これを取り消すべきである。

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