(平成25年2月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事案の概要

 本件は、平成23年9月15日付及び同月16日付で債権の差押処分等(原処分1ないし12の各処分を指す。以下「本件各滞納処分」という。)を受けた審査請求人(以下「請求人」という。)が、まる1原処分庁が本件各滞納処分により徴収しようとする別表1−1記載の各税(以下「本件各国税」という。)の徴収権は本件各滞納処分が行われる前に時効により消滅していることなどから、本件各滞納処分は違法であるとして、本件各滞納処分の取消しを求めるとともに、まる2同表記載の各税のうち、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)についての各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分(原処分13の各処分を指す。以下「本件各納税告知処分等」という。)の取消しを求めた事案である。

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2 審査請求に至る経緯

(1) 本件各滞納処分の経緯

イ 原処分庁は、本件各国税のうち、まる1別表1−1の順号1ないし3の各国税についてはM税務署長から、まる2同表のその他の各国税についてはN税務署長から、いずれも国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、同表の「徴収の引継日」欄記載の日に徴収の引継ぎを受けたことにより、本件各国税の徴収の所轄庁となった。
ロ 原処分庁は、平成23年9月15日付及び同月16日付で、本件各国税を徴収するため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号及び同法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》第1項の各規定に基づき、別表2の順号1ないし6の各債権をそれぞれ差し押さえた(原処分1ないし6)。
ハ 原処分庁は、平成23年9月15日付で、本件各国税を徴収するため、徴収法第47条第1項第1号及び同法第56条《差押の手続及び効力発生時期等》の各規定に基づき、別表2の順号7の金銭を差し押さえた(原処分7)。
ニ 原処分庁は、平成23年9月15日付で、本件各国税を徴収するため、徴収法第47条第1項第1号及び同法第56条の各規定に基づき、別表2の順号8の軽自動車を差し押さえた(原処分8)。
ホ 原処分庁は、平成23年9月16日付で、本件各国税を徴収するため、徴収法第47条第1項第1号及び同法第71条《自動車、建設機械又は小型船舶の差押え》の各規定に基づき、別表2の順号9の各自動車を差し押さえた(原処分9)。
ヘ 原処分庁は、平成23年9月15日付で、別表2の順号10ないし12の各自動車検査証及び各鍵をそれぞれ取り上げた(原処分10ないし12)。

(2) 審査請求の経緯

イ 請求人は、平成23年11月11日、本件各滞納処分(原処分1ないし12)を不服として異議申立てをするとともに、本件各国税のうち、別表1−1の順号1ないし13記載の本件各納税告知処分等(原処分13)の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成24年2月9日付で、原処分2及び6については棄却、その他の原処分については却下の異議決定をした。
ロ 請求人は、平成24年3月6日、異議決定を経た後の各原処分に不服があるとして、審査請求をした。

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3 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

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4 原処分13に対する審査請求について

(1) 請求人は、原処分13に対する審査請求について、原処分庁がL国税局長であるとして審査請求をしているが、原処分関係資料によれば、同処分は、N税務署長により行われたものであると認められる。通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第2項第1号の規定によれば、原処分13に係る通知書に同処分に係る事項に関する調査が原処分庁所属の職員によってされた旨の記載があれば、同処分は原処分庁がしたものとみなされることとなるが、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、同通知書にその旨の記載がされていたか否かを確認することはできない。
 仮に、原処分13に係る通知書にその旨の記載がされていなければ、原処分庁がL国税局長であるとする審査請求は、L国税局長による処分が存在しないにも関わらずその取消しを求めてされた審査請求として、不適法である。
 また、仮に、原処分13に係る通知書にその旨の記載がされていたとしても、同処分に対する審査請求は、以下の理由から不適法なものである。すなわち、原処分関係資料によれば、原処分13は遅くとも平成12年11月28日までにされたものであると認められるところ、他方で、請求人が同処分の取消しを求めて異議申立てをしたのは平成23年11月11日であり、かつ、当審判所の調査の結果によっても、請求人について通則法第77条《不服申立期間》第3項の「やむを得ない理由」又は同条第4項ただし書の「正当な理由」があったとは認められないから、当該異議申立ては、通則法第77条が定める不服申立期間経過後にされた不適法なものであり、その後にされた審査請求もまた、通則法第75条第3項に規定する要件を欠く不適法なものである。
(2) そうすると、結局、原処分13に係る通知書に同処分に係る事項に関する調査が原処分庁所属の職員によってされた旨の記載がされていたか否かを問わず、原処分13についての審査請求は、不適法なものである。

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5 本件各滞納処分に関する争点

(1) 本件各国税の徴収権は、本件各滞納処分が行われる前に時効により消滅していたか否か(争点1)。
(2) 本件各納税告知処分等のうち別表1−1の順号2の国税に係るものが違法であった場合、本件各滞納処分も違法となるか否か(争点2)。

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6 本件各滞納処分に関する争点についての当事者双方の主張

(1) 争点1について

原処分庁 請求人
 次のイないしへによれば、本件各国税の徴収権の消滅時効は、本件各滞納処分が行われる前にいずれも中断しているから、本件各滞納処分は適法である。  次のイないしへによれば、本件各国税の徴収権は、本件各滞納処分が行われる前に時効により消滅しているから、本件各滞納処分は違法である。
イ 本件各国税の徴収権の消滅時効は、別表1−2の「督促処分」欄の各日付でされた各督促により中断している。 イ 請求人が本件各国税について督促された事実はないから、督促による時効中断の効力は生じていない。
ロ 本件各国税のうち別表1−1の順号14の国税の徴収権の消滅時効は、平成3年4月1日に請求人がその本税を納付したことにより中断している。 ロ 請求人が、本件各国税のうち別表1−1の順号14の国税について、平成3年4月1日にその本税を納付した事実はないから、納付による時効中断の効力は生じていない。
ハ 請求人の代表者は、まる1平成3年10月7日、N税務署長所属の徴収担当職員に対し、本件各国税のうち別表1−1の順号1、2及び順号14ないし17の各国税について、債権回収や借入れをして納付を検討する旨申し述べ、まる2平成12年5月9日、原処分庁所属の徴収担当職員に対し、本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし11及び順号14ないし29の各国税について、その所有する土地を売却して納税する旨申し述べ、まる3平成17年1月18日、原処分庁所属の徴収担当職員に対し、本件各国税を納付する旨等を申し述べている。
 上記まる1ないしまる3の請求人の代表者の申述は、上記の各国税の納付義務の存在をいずれも認識していたと認められる行為であり、時効中断事由である「承認」に該当するから、本件各国税の徴収権の消滅時効は上記申述の時点で中断している。
ハ 請求人の代表者は、税務当局に対し、本件各国税について納付する旨を申述した事実はないから、債務承認による時効中断の効力は生じていない。
ニ 本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし7及び順号14ないし24の各国税の徴収権の消滅時効は、平成8年9月25日付不動産差押えにより中断し、現在も中断の効力が継続している。 ニ 平成8年9月25日付で不動産の差押えがされて現在もその差押えが継続している事実はないから、本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし7及び順号14ないし24の各国税について、差押処分による時効中断の効力は生じていない。
ホ 本件各国税のうち別表1−1の順号8ないし13及び順号26ないし29の各国税の徴収権の消滅時効は、平成14年1月17日付不動産参加差押えにより中断し、現在も中断の効力が継続している。 ホ 平成14年1月17日付で不動産の参加差押えがされた事実はないから、本件各国税のうち別表1−1の順号8ないし13及び順号26ないし29の各国税について、参加差押処分による時効中断の効力は生じていない。
ヘ 本件各国税のうち別表1−1の順号25の国税の徴収権の消滅時効は、平成20年6月4日付交付要求により中断し、現在も中断の効力が継続している。 へ 平成20年6月4日付で交付要求がされた事実はないから、本件各国税のうち別表1−1の順号25の国税について、交付要求による時効中断の効力は生じていない。

(2) 争点2について

請求人 原処分庁
 本件各国税のうち別表1−1の順号2の源泉所得税に係る納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分については、平成2年に税務調査担当者が課税しないとの見解を示したにも関わらず課された違法な課税処分であり、それを知りながらなされた本件各滞納処分は違法である。  課税処分と滞納処分とは、それぞれ目的及び効果を異にし、それ自体で完結する別個の行政処分であり、課税処分の違法性は滞納処分には承継されず、課税処分に取り消し得べき瑕疵があってもその処分が取り消されるまでは滞納処分を行うことができると解するのが相当であるところ、本件各納税告知処分等が取り消された事実は認められないから、請求人の主張には理由がない。

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7 判断

(1) 原処分1、3ないし5及び7ないし12について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、平成23年9月15日、徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項の規定に基づき、原処分1、3及び4により差し押さえた各債権の全額をその第三債務者から取り立てた。
(ロ) 原処分5の被差押債権は別表2の順号5記載の賃貸借契約に基づく平成23年9月分以降の地代の支払請求権であるところ、当該賃貸借契約は原処分5に係る債権差押通知書が平成23年9月20日に第三債務者に送達される前に解除され、当該地代は平成23年8月末までに滞納者に支払済みであった。
(ハ) 原処分庁は、原処分8につき平成23年12月19日付で、原処分9につき同月16日付で、それぞれ差押処分を解除した。
(ニ) 原処分庁が原処分10ないし12により取り上げた各自動車検査証及び鍵は、請求人に返還済みである。
ロ 判断
(イ) 行政処分の取消しを求めるには、取消しを求める処分の効力が現に存在していることが必要であるところ、まる1上記イの(イ)の事実によれば、原処分1、3及び4は、取立てによりその目的を完了して既にその効力は消滅しており、まる2上記イの(ロ)の事実によれば、原処分5は、差押え時に被差押債権が弁済により消滅していたためにその効力が生じなかったものであり、まる3上記イの(ハ)の事実によれば、原処分8及び9は、既に解除されているために当該各処分の効力は消滅しており、まる4上記イの(ニ)の事実によれば、原処分10ないし12は、取り上げた証書等が既に請求人に返還されているために当該各処分の効力は消滅している。
 さらに、まる5徴収法第56条第3項が、徴収職員が金銭を差し押さえたときは、その限度において、滞納者から差押えに係る国税を徴収したものとみなす旨規定していることから、原処分7によって差し押さえられた金銭は、差押処分がされた時点で請求人の本件各国税に充てられたものとみなされるため、原処分7の効力は既に消滅している。
(ロ) 以上からすれば、原処分1、3ないし5及び7ないし12に対する審査請求は、いずれもその効力が存在しない処分の取消しを求めるものであり、請求人はその取消しを求める法律上の利益を有しないから、いずれも不適法なものである。

(2) 原処分2及び6について

イ 争点1について
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 請求人について
 請求人は、昭和57年に設立された土木工事等の施工等を目的とする法人であるところ、昭和63年7月19日から平成4年8月1日に移転するまでの本店所在地はf県g市h町○−○であり、同日以降の本店所在地はf県d市e町○−○であった。
 また、請求人は、平成4年8月6日付で、旧本店所在地であるf県g市h町○−○に支店を設置した。
B 督促状の発送について
(A) 督促状の発送等に関する取扱いについて
a 国税が納期限を経過しても納付されない場合、その国税の徴収の所轄庁である税務署において、督促状を作成し、納税者に発送する取扱いが従前からされている。この督促状には、納税者の納税地、氏名又は名称(納税者が法人である場合には法人の名称)を記載するとともに、督促状発付年月日、納期限、税目、督促番号、本税及び附帯税別の滞納税額等が併せて記載される。
 そして、督促状自体は納税者本人に送付されるため、税務署長等の下に保管されることはないが、督促状と同時に作成される滞納処分票には、督促状に記載された納税者の納税地(住所又は所在地)、氏名又は名称、督促状発付年月日、納期限、税目、督促番号、本税及び附帯税別の滞納税額等が記載され、完納等により滞納国税の納税義務が消滅するまで、この滞納処分票が徴収の所轄庁の下に保管される取扱いが従前からされている。
b 督促状は、通常、普通郵便で納税者に対して発送されるが、督促状に記載された納税地に納税者が居住していないなどの理由により当該発送に係る督促状が返戻された場合、担当職員において納税者の居住地等を調査・確認し、住所の変更があったことが判明したときは、変更後の住所が従来と同じ税務署の管轄地域内であれば、担当職員が変更後の住所地に督促状を再度発送する取扱いが従前からされている。
 そして、この場合、担当職員は、滞納処分票を新たに作成することはなく、当初作成に係る滞納処分票に記載された督促年月日、督促番号等の督促に関する情報が、再度の督促に係る督促年月日、督促番号等に訂正され、これにより督促状の再発送の経緯を明らかにする取扱いがされている。
(B) 本件各国税に係る督促状の発送の状況等について
 本件各国税に係る各滞納処分票は、その作成当時の徴収の所轄庁であるN税務署において作成され、請求人の納税地、法人名、税目、納期限、本税及び附帯税別の滞納税額等が記載されているところ、別表1−1の順号1ないし3及び順号14ないし18の各国税に係る滞納処分票については、請求人の所在地として旧本店所在地であるg市h町○−○と印字され、その他の各国税に係る滞納処分票については、現本店所在地であるd市e町○−○と印字されている。
 そして、上記(A)のaで述べたとおり、督促状の発送と同時に、督促状に記載された納税者の納税地(住所又は所在地)、氏名又は名称、督促状発付年月日、納期限、税目、督促番号、本税及び附帯税別の滞納税額等が記載された滞納処分票が作成される取扱いがされているところ、本件各国税に係る各滞納処分票の督促に関する欄には、別表1−2の「督促処分」欄記載の各日付と各督促状に付した督促番号がそれぞれ記載されており、上記(A)のbで述べた督促に関する情報の訂正に係る記載はされていないから、請求人に対して発送された本件各国税に係る督促状が返戻された事実は認められない。
C 平成3年4月1日付でされた法人税の納付の状況について
(A) 滞納処分に関する原処分関係資料の取扱い等について
 滞納処分票は、督促状発送後、納付などにより滞納税額が変動した場合、納付額や変動後の滞納税額等を逐次記録し、滞納国税の納税義務が消滅するまで一貫して使用する取扱いがされている。
 また、国税が滞納となった場合、短期間で完納されない場合も多く、滞納整理を担当する徴収職員が交替することも少なくないため、税務署や国税局において滞納整理に従事する徴収職員は、滞納処分や財産の調査、滞納者との面接等を行った場合、その日付と滞納処分の内容や滞納者との面接結果を正しく記録するとともに、自己の印章を押印することとされている。
(B) 別表1−1の順号14の法人税に係る滞納処分票について
 別表1−1の順号14の法人税に係る滞納処分票には、その税額の異動について、まる1「2.12.17」と印字された行において、事由欄に「カゼイゾウ(フカ)」、徴収決定済額欄に「○○○○」、収納未済額欄に「○○○○」と印字され、まる2「3.4.1」と手書きで記載された行において、事由欄に「収納」、徴収決定済額欄に「まるエ○○○○」、収納済額欄に「○○○○」、収納未済額欄に「○○○○」と手書文字で記載されている。
(C) 請求人の代表者であるKの言動について
a 本件各国税についての滞納整理を担当した徴収職員が記録した原処分関係資料には、まる1平成3年4月1日に関する記録として、「代表者からTel受」、「本日とりあえず本税を銀行納付しておく、とのこと」、「後日、延お知らせ送付するのでその後で延の納付計画を立てる見込」との記載があり、また、まる2平成8年9月18日に関する記録として、請求人の代表者であるK(以下「請求人代表者」という。)が、原処分庁所属の徴収職員に対し、滞納原因について、平成3年4月に本税は何とか納付したが、その後のバブル崩壊の影響を受けて業績が低迷し納税ができなかった旨申し述べたとの記載があり、いずれにも徴収職員の押印がされている。
b 上記(A)のとおり、滞納整理に従事する徴収職員は、滞納者との面接等を行った場合、その面接結果等を正しく記録することとされているところ、上記aで述べた原処分関係資料には特段不自然な点は認められず、また、当審判所の調査の結果によっても、当該資料に事実と異なる内容が記録されたことをうかがわせる事情も見当たらない。そして、まる1当該資料の平成3年4月1日に係る記載によれば、同日、請求人代表者から当時のN税務署長所属の徴収職員に電話があり、当該電話で、まるア請求人代表者が、同日取りあえず本税を銀行から納付する予定である旨申し立てたこと、また、まるイ請求人代表者及び当該徴収職員との間で、延滞税については後日納付計画を立てる予定である旨の認識が一致していたことの各事実が認められ、まる2平成8年9月18日に係る記載によれば、請求人代表者は、同日、原処分庁所属の徴収職員に対して、平成3年4月に本税を納付した旨を自認していた事実が認められる。
(D) 平成3年4月1日付でされた法人税の納付について
 上記(B)の滞納処分票の記載によれば、まる1平成3年4月1日に別表1−1の順号14の法人税の本税○○○○円が収納されたこと、及びまる2同日現在の延滞税額が○○○○円、収納未済の滞納税額が○○○○円であることが認められ、また、上記まる1及びまる2の各事実に加えて、上記(C)のbで認定した請求人代表者の言動等の各事実を総合すると、請求人代表者は、平成3年4月1日に、当該法人税の本税に充当されることを認識した上で、当該本税○○○○円を納付し、かつ、当該法人税の延滞税が発生していることを認識していた事実が認められる。
D 平成3年10月7日の納付面談等について
(A) 請求人代表者の言動等について
 平成3年8月及び10月当時請求人の滞納国税の徴収を担当していたN税務署長所属のP国税徴収官(以下「P徴収官」という。)が記録した原処分関係資料には、まる1平成3年8月19日に関する記録として、P徴収官が、滞納国税について、同日、納付催告書を請求人に対して発送した旨の記載があり、また、まる2同月21日に関する記録として、「代表者より来電」、「納税のために借入れしたばかりであり、加えて不動産業界の不景気が重なって、資金繰りがつかない」、「2〜3日中に出署し、納付相談したいとのこと〜了承」との記載があり、さらに、まる3同年10月7日の記録として、まるア請求人代表者がN税務署に出署して、P徴収官と面接した旨の記載、まるイ滞納国税の納付に関して請求人代表者が申し立てた内容の1つとして、「Q社に対する債権があり、それが入ってくればある程度納付できるし、借入についても検討はしてみる」との記載、まるウ滞納国税について請求人代表者が申し立てた内容の1つとして、平成元年11月〜12月頃受けた法人調査による追徴課税の納税資金について、平成2年10月期の役員報酬分の資金を回しており、請求人からすると役員報酬は未払金であるので、(源泉所得税について)その旨の更正の請求をするつもりである旨の記載があり、上記まる1ないしまる3のいずれについても「P」の印影の押印がされている。
(B) 本件各国税に係る滞納処分票について
 本件各国税に係る滞納処分票のN税務署管理徴収第1部門統括官の確認印の日付又は交付年月日欄の日付の各記載によれば、平成3年10月7日の時点で、本件各国税のうち、当時、督促状の発送されていた別表1−1の順号1、2及び順号14ないし17の各国税に係る滞納処分票は、全てP徴収官に交付されていたと認められる。
E 平成8年2月14日付及び同年9月25日付の各差押処分について
(A) 原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし5及び順号14ないし23の各国税を徴収するため、徴収法第47条第1項第1号及び同法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》の各規定により、平成8年2月14日付で、請求人が所有するr市j町所在の土地(以下「r物件」という。)についての差押処分(以下「r物件差押処分」という。)を行うとともに、請求人宛に同差押処分に係る差押書を発送し、同月19日付で、同差押処分の登記が経由された。
 なお、差押書は、通常、簡易書留郵便による方法で滞納者に発送されるところ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、上記差押書が返戻された事実は認められない(簡易書留は、まる1受取人に配達し、若しくは交付するときは、郵便物の配達証に受取人の受領の証印又は署名を受けることとされ、また、まる2受取人不在のため配達することができなかった郵便物で所定の期間内に再配達又は再交付ができないものは、その期間経過後に差出人に返還することとされている。)。
(B) 原処分庁は、請求人から、r物件は取得代金の全額を金融機関からの借入れにより取得したものであるが、借入利息を軽減するために売却することを考えているので、請求人が所有するg市h町所在の土地及び建物(以下、当該土地及び建物を「g物件」という。)を差し押さえた上で、r物件の差押えを解除してもらいたいとの申出を受け、平成8年9月25日付及び同年10月14日付で、r物件差押処分を解除した。
(C) 原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし7及び順号14ないし24の各国税を徴収するため、徴収法第47条第1項第1号及び同法第68条の各規定により、平成8年9月25日付で、請求人が所有するg物件についての差押処分(以下「g物件差押処分」という。)を行うとともに、請求人宛に同差押処分に係る差押書を発送し、同月30日付で、同差押処分の登記が経由された。
 なお、上記(A)のとおり、差押書は、通常、簡易書留郵便による方法で滞納者に発送されるところ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、上記差押書が返戻された事実は認められない。
F 平成12年5月9日の納付面談について
(A) 平成12年5月当時請求人の滞納国税の徴収を担当していた原処分庁所属のS国税徴収官(以下「S徴収官」という。)が記録した原処分関係資料には、平成12年5月9日に関する記録として、まる1S徴収官が請求人の支店(上記A)に臨場し、同所において請求人代表者と面接した旨の記載、及びまる2滞納国税の納付に関して請求人代表者が申し立てた内容の1つとして、請求人が所有するd市e町の50坪の土地を売却して納付するので、g物件差押処分を解除してほしい旨を申し述べたとの記載があり、「S」の印影の押印がされている。
(B) 原処分庁は、上記(A)の面談日である平成12年5月9日までに、M税務署長及びN税務署長から、当時滞納となっていた全ての国税(本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし11及び順号14ないし29の各国税)について徴収の引継ぎを受けていた。
G 平成14年1月17日付参加差押処分について
 原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号8ないし13及び順号26ないし29の各国税を徴収するため、徴収法第86条《参加差押えの手続》第1項の規定により、平成14年1月17日付で、g物件差押処分をした行政機関である原処分庁に対し参加差押書を交付して、参加差押処分(以下「本件参加差押処分」という。)を行うとともに、請求人宛に同参加差押処分に係る参加差押通知書を発送し、同月21日付で、同参加差押処分の登記が経由された。
 なお、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、上記参加差押通知書が返戻された事実は認められない。
H 平成17年1月18日の納付面談について
(A) 平成17年1月及び2月当時請求人の滞納国税の徴収を担当していた原処分庁所属のT国税徴収官(以下「T徴収官」という。)が記録した原処分関係資料には、まる1平成17年1月18日に関する記録として、まるアT徴収官が請求人の本店(上記A)に臨場し、同所において請求人代表者と面接した旨の記載、まるイ滞納国税の納付に関して請求人代表者が申し立てた内容の1つとして、「現状では月5万10万円の納付しか出来ない」、「本税の細かいものでも納付する」旨を申し述べたとの記載、及びまるウこれに対し、T徴収官が請求人代表者に対し、申出の分割納付額が少ないので、資金繰り表及び納付計画書の提出を求めた旨の記載があり、また、まる2同年2月4日に関する記録として、同日、T徴収官が請求人に対して電話をした際に、請求人代表者が、金額は未定であるが同月及び翌月に滞納国税を納付する旨を申し立てた旨の記載があり、上記まる1及びまる2のいずれについても「T」の印影の押印がされている。
(B) 原処分庁は、上記(A)の面談日である平成17年1月18日までに、M税務署長及びN税務署長から、当時滞納となっていた全ての国税(本件各国税)について徴収の引継ぎを受けていた。
I 平成20年6月4日付の交付要求処分について
 原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号25の消費税を徴収するため、徴収法第82条《交付要求の手続》第1項の規定により、平成20年6月4日付で、g物件差押処分の執行機関である原処分庁に対し交付要求書を交付して、交付要求処分(以下「本件交付要求処分」という。)を行うとともに、請求人宛に同交付要求処分に係る通知書を発送した。
 なお、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、上記交付要求処分に係る通知書が返戻された事実は認められない。
(ロ) 請求人代表者と納付面談をした徴収職員の答述の要旨
A P徴収官の答述の要旨(平成3年10月7日の納付面談について)
 P徴収官は、当審判所に対し、要旨以下のとおり答述した。
(A) P徴収官が記録した原処分関係資料の平成3年8月19日に関する記録(上記(イ)のD)は、同日、催告書を発したことを記載しているものである。
 当該催告書に記載した納付を求める国税とは、当該催告書の作成時点の滞納国税である。
(B) P徴収官が記録した原処分関係資料の平成3年8月21日に関する記録(上記(イ)のD)は、同日、請求人代表者から電話があり、要旨当該記載の発言があったことを記載しているものである。
 請求人代表者の発言の中に、2〜3日中に納付相談のためにN税務署に出署したい旨の発言があったが、この納付相談の対象となる国税とは、平成3年8月までに滞納になっていた国税を対象としていたはずである。
(C) P徴収官が記録した原処分関係資料の平成3年10月7日に関する記録(上記(イ)のD)は、同日、請求人代表者が、納付相談のためにN税務署に出署した際、要旨当該記載の発言をしたことを記載しているものである。
 この納付相談の対象となる国税とは、当該時点で担当者であるP徴収官の下に滞納処分票が回付済みの滞納国税の全てである。通常、納税者からの納付相談は、その時点で滞納となっている国税の全部について受けるものであり、滞納処分票が回付されているのに、一部の滞納国税を除外して納付相談を受けたことはなく、例えば、更正の請求が予定されている国税を除外して納付相談を受けるといったことはない。
B S徴収官の答述の要旨(平成12年5月9日の納付面談について)
 S徴収官は、当審判所に対し、要旨以下のとおり答述した。
(A) S徴収官が記録した原処分関係資料の平成12年5月9日に関する記録(上記(イ)のF)は、同日、S徴収官が請求人の支店に臨場した際、請求人代表者が、納付相談において要旨当該記載の発言をしたことを記載しているものである。
 この納付相談の対象となる国税とは、当該時点で滞納となっていた国税の全てである。
(B) S徴収官は、納付相談の際は、どの滞納者に対しても、面談時点で国税総合管理システム(国税債権の額等を電子計算組織により処理するもの。以下「KSK」という。)から出力した滞納金目録を必ず持参して交付しており、延滞税の額も含めた当該時点における滞納額を説明しており、同滞納金目録に記載された国税の一部を除外して納付相談をしたことはなく、平成12年5月9日の請求人代表者との納付相談も同様であった。
C T徴収官の答述の要旨(平成17年1月18日の納付面談について)
 T徴収官は、当審判所に対し、要旨以下のとおり答述した。
(A) T徴収官が記録した原処分関係資料の平成17年1月18日に関する記録(上記(イ)のH)は、同日、T徴収官が請求人の本店に臨場した際、請求人代表者が、納付相談において要旨当該記載の発言をしたことを記載しているものである。
 T徴収官は、平成17年1月18日当時の請求人の滞納国税の総額は○○○○円くらいで、1枚で28件記載できる滞納金目録が1枚目一杯あったか2枚目に至っていたか程度の滞納件数であったことを記憶しているところ、同目録の記載は、当該時点で滞納となっていた国税の全てである。
(B) T徴収官は、滞納処分で臨場する際は、KSKから出力した滞納金目録を必ず持参し、滞納者に交付しており、当該時点の滞納国税の一部を除外して納付相談したことはない。
(C) 平成17年1月18日の納付相談の際、請求人代表者から、滞納国税の一部については納付する意思がない旨の発言は一切なかった。仮にそのような発言がされていれば、売掛金の差押え等の処理をする。滞納国税の一部のみの納付を了承することはない。
(ハ) 法令解釈
A 書類の送達について
 通則法第12条《書類の送達》第2項は、税務署長が発する書類を通常の取扱いによる郵便(平成14年法律第100号による改正後は信書便を含む。)によって発送した場合には、その郵便物(平成14年法律第100号による改正後は信書便物を含む。)は、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定する旨規定しているから、送達の事実がなかったという反証がされない限り、当該推定は覆されることはないものと解される。
B 時効の中断事由について
(A) 滞納処分による差押えは、滞納となった租税を徴収するために、滞納者に対してその財産の処分を禁止し、換価できる状態に置くものであって、債務者に対してその財産の処分を禁止し、換価できる状態に置く点において、自己の債権の回収を図ろうとする私債権者の申立てによって裁判所が行う差押えと異なるものではないから、民法第147条《時効の中断事由》第2号の「差押え」に含まれると解され、消滅時効の中断事由に当たると解される。
(B) 民法第147条第3号の「承認」とは、債務者が債務の存在を認識し、それをその権利者に対して表示することをいうものと解されるところ、国税を納付する義務のある者が、国税当局に対して、納付の猶予の申出や納付の意思を表明するなど、国税の納付義務の存在を認識していたと認められる観念の通知と評価できる行為をしたときには、民法第147条第3号の「承認」に当たり、上記行為に係る部分の国税の徴収権の消滅時効は、当該「承認」により中断されると解される。
(ニ) 当てはめ
 本件各滞納処分が行われる前に、本件各国税の徴収権が時効により消滅していたか否かを検討すると、以下のとおりである。
A 督促処分による時効中断について
 上記(イ)のBの(B)で述べたとおり、請求人に対して発送された本件各国税に係る督促状が返戻された事実は認められないから、通則法第12条(平成14年法律第100号による改正前のもの)により、督促状は通常到達すべきであった時に送達があったものと推定される(上記(ハ)のA)。なお、当審判所の調査の結果によっても、送達の事実がなかったことをうかがわせる事情は認められない。
 したがって、本件各国税の徴収権の消滅時効は、通則法第73条《時効の中断及び停止》第1項柱書き及び第4号により、別表1−2の「督促処分」欄記載の各日に発送された各督促状が通常到達すべきであった時にそれぞれ中断し、各督促状を発した日から起算して10日を経過した日の翌日から、更に進行したものである。
B 平成3年4月1日付でされた法人税の納付による時効中断について
 上記(イ)のCの(D)で述べたとおり、請求人代表者は、平成3年4月1日に、別表1−1の順号14の法人税の本税に充当されることを認識した上で、当該本税○○○○円を納付している。
 したがって、別表1−1の順号14の法人税の延滞税の徴収権の消滅時効は、通則法第73条第5項により、平成3年4月1日に中断し、通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》第3項が準用する民法第157条《中断後の時効の進行》第1項により、その翌日から更に進行したものである。
C 差押処分による時効中断について
(A) r物件差押処分について
 上記(イ)のEの(A)で述べたとおり、原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし5及び順号14ないし23の各国税を徴収するために平成8年2月14日付でr物件差押処分を行っているところ、同差押処分に係る請求人への差押書が返戻された事実は認められない。簡易書留は、受取人不在のために所定の期間内に再配達をすることができなかった場合は差出人に返戻されることとなっており(上記(イ)のEの(A))、これらのことからすると、当該差押書は請求人に送達されたものと推認され、当審判所の調査の結果によっても、送達の事実がなかったことをうかがわせる事情は認められない。
 また、滞納処分による差押えは民法第147条第2号の「差押え」に含まれると解される(上記(ハ)のBの(A))。
 したがって、上記各国税の徴収権の消滅時効は、通則法第72条第3項が準用する民法第147条第2号により、r物件差押処分の日に中断し、平成8年10月14日付の同差押処分の解除(上記(イ)のEの(B))により、当該時効中断の効力は消滅したものである。
(B) g物件差押処分について
 上記(イ)のEの(C)で述べたとおり、原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号1ないし7及び順号14ないし24の各国税を徴収するために平成8年9月25日付でg物件差押処分を行っているところ、同差押処分に係る請求人への差押書が返戻された事実は認められない。そして、このことに加え、上記(A)で述べた簡易書留の取扱いからすると、当該差押書は請求人に送達されたものと推認され、当審判所の調査の結果によっても、送達の事実がなかったことをうかがわせる事情は認められない。
 また、滞納処分による差押えは民法第147条第2号の「差押え」に含まれると解される(上記(ハ)のBの(A))。
 したがって、上記各国税の徴収権の消滅時効は、通則法第72条第3項が準用する民法第147条第2号により、g物件差押処分の日に中断したものである(なお、同差押処分に係る財産の換価は終了しておらず、同差押処分が解除された事実も認められないことからすれば、上記各国税の徴収権の消滅時効の中断の効力は、現在も継続している。)。
D 本件参加差押処分による時効中断について
 上記(イ)のGで述べたとおり、原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号8ないし13及び順号26ないし29の各国税を徴収するために平成14年1月17日付で本件参加差押処分を行っているところ、同参加差押処分に係る請求人への参加差押通知書が返戻された事実は認められないから、通則法第12条(平成14年法律第100号による改正前のもの)により、当該通知書は通常到達すべきであった時に送達があったものと推定される(上記(ハ)のA)。
 したがって、上記各国税の徴収権の消滅時効は、通則法第73条第1項第5号により(参加差押えは交付要求の一方法である。)、当該通知書が請求人に送達された日に中断したものである(なお、同参加差押処分に係る財産の換価は終了しておらず、同参加差押処分が解除された事実も認められないことからすれば、上記各国税の徴収権の消滅時効の中断の効力は、現在も継続している。)。
E 納付面談における債務承認による時効中断について
(A) 平成3年10月7日の納付面談について
a P徴収官は、当審判所に対して、まる1平成3年8月21日に、請求人代表者が、電話で、要旨、原処分関係資料の記載のとおり(「納税のために借入れしたばかりであり、加えて不動産業界の不景気が重なって、資金繰りがつかない」、「2〜3日中に出署し、納付相談したい」)の発言をした旨、まる2同年10月7日の納付面談について、まるア請求人代表者は、当該面談の際、要旨、原処分関係資料の記載のとおり(「Q社に対する債権があり、それが入ってくればある程度納付できるし、借入についても検討はしてみる」)の発言をした旨、及びまるイ当該面談時に納付相談の対象となっていた国税は、当該時点でP徴収官の下に滞納処分票が回付済みの滞納国税の全てであって、滞納国税の一部を除外して納付相談を受けたことはない旨を答述する(上記(ロ)のA)。
 上記まる1及びまる2まるアの答述は、原処分関係資料の記載内容に基づくものであるところ、当該資料は、徴収職員が滞納者との面接等を行ったその都度作成されるものであり、滞納者との面接結果等を正しく記録することが求められている(上記(イ)のCの(A))ことからすると、その記載内容自体に高い信用性が認められるものといえる。そして、このように信用性の高い原処分関係資料の記載内容に基づく上記まる1及びまる2まるアの答述も、高い信用性が認められるものといえる。
 また、滞納処分や納付によって滞納国税を全額徴収することを職務とする徴収職員の職責からすれば、複数の国税が滞納となっている場合、その一部の国税の納税義務が更正の請求や還付金の充当等によって納付相談の直後に消滅することが明らかであるような場合を除き、当該国税を除外して納付相談を受けることは考えがたいから、滞納国税の一部を除外して納付相談を受けたことはない旨の上記まる2まるイの答述も、内容は自然であり、高い信用性が認められるものである。
 当審判所の調査の結果によっても、P徴収官の答述の信用性を疑わせる事情を認めることはできない。
b そして、原処分関係資料の記載(上記(イ)のDの(A))及び上記aのとおり高い信用性が認められるP徴収官の答述(上記(ロ)のA)によれば、まる1請求人代表者が、平成3年8月に受けた納付催告に対し、資金繰りがつかないために納付相談をしたい旨をP徴収官に申し出た上で、同年10月7日に自らN税務署に出向いた事実、まる2同日、請求人代表者が、P徴収官に、納付資金の原資の当てとして、第三者から回収予定の債権や借入れを検討する旨申し立てた事実が認められるというべきである。
 さらに、まる3請求人代表者は、平成3年4月1日の時点で、別表1−1の順号14の法人税の延滞税が発生していることを認識していたと認められること(上記(イ)のCの(D))、まる4上記まる1及びまる2のとおり、請求人の代表者がP徴収官に資金繰りがつかない旨や納付資金の原資の当てに係る申立てをしていることからみて、同年10月7日の時点で、納付催告を受けた滞納国税の総額を認識していたと推認されることも併せ考えれば、平成3年10月7日の納付面談における請求人代表者のP徴収官に対する言動は、請求人代表者が、当時滞納となっていた国税の全てについてその存在を認識し、原処分庁に対して納付の意思等を表明したものといえる。
(B) 平成12年5月9日の納付面談について
a S徴収官は、当審判所に対して、平成12年5月9日の納付面談について、まる1請求人代表者は、当該面談の際、要旨、原処分関係資料記載のとおり(請求人が所有するd市e町の50坪の土地を売却して滞納国税を納付するので、g物件差押処分を解除してほしい旨)の発言をした旨、まる2S徴収官は、請求人代表者に対し、まるアKSKから出力した滞納金目録を交付した上、面談時点における延滞税額も含む滞納金額がいくらであるかを説明した旨、まるイ当該滞納金目録に記載された国税の一部を除外して納付相談をしたことはない旨を答述する(上記(ロ)のB)。
 上記まる1の答述は、原処分関係資料の記載内容に基づくものであるところ、上記(A)のaで述べたとおり、当該資料は、その記載内容自体に高い信用性が認められるものということができ、信用性の高い原処分関係資料の記載内容に基づく上記答述も、高い信用性が認められるものといえる。
 また、上記(A)のaで述べたとおり、徴収職員の職責からすれば、通常、滞納国税の一部を除外して納付相談を受けることは考えがたいから、請求人代表者に滞納金目録を交付し、同滞納金目録に記載された国税の一部を除外して納付相談をしたことはない旨の上記まる2の答述も、内容は自然であり、高い信用性が認められるものである。
 当審判所の調査の結果によっても、S徴収官の答述の信用性を疑わせる事情を認めることはできない。
b そして、原処分関係資料の記載(上記(イ)のFの(A))及び上記aのとおり高い信用性が認められるS徴収官の答述(上記(ロ)のB)によれば、平成12年5月9日の納付面談の際、まる1請求人代表者が、S徴収官に対して、請求人所有の不動産を売却して滞納国税を納付する旨を申し立てた事実、及びまる2S徴収官が、請求人代表者に対して、滞納金目録を交付して、面談時点における滞納金額について説明していた事実が認められるというべきである。
 したがって、平成12年5月9日の納付面談における請求人代表者のS徴収官に対する言動は、請求人代表者が、当時滞納となっていた国税の全てについてその存在を認識し、原処分庁に対して納付の意思等を表明したものといえる。
(C) 平成17年1月18日の納付面談について
a T徴収官は、当審判所に対して、まる1平成17年1月18日の納付面談について、まるア請求人代表者は、当該面談の際、要旨、原処分関係資料記載のとおり(「現状では月5万10万円の納付しかできない」、「本税の細かいものでも納付する」)の発言をした旨、まるイ請求人代表者から、当該面談の際、滞納国税の一部について納付する意思がない旨の発言は一切なかった旨、まるウT徴収官は、これまで、滞納者にKSKから出力した滞納金目録を交付しており、当該時点の滞納国税の一部を除外して納付相談をしたことはない旨、まる2同年2月4日に、請求人代表者が、電話で、要旨、原処分関係資料の記載のとおり(金額は未定であるが同月及び翌月に滞納国税を納付する旨)の発言をした旨を答述する(上記(ロ)のC)。
 上記まる1まるア及びまる2の答述は、原処分関係資料の記載内容に基づくものであるところ、上記(A)のaで述べたとおり、当該資料は、その記載内容自体に高い信用性が認められるものということができ、信用性の高い原処分関係資料の記載内容に基づく上記答述も、高い信用性が認められるものといえる。また、仮に、請求人代表者が滞納国税の一部について納付意思を否認するといった言動をした場合、面談時の滞納者の言動として原処分関係資料にはその旨の記載がされるはずであるが、当該資料にはかかる記載はなく、そうすると、上記まる1まるイの答述も、信用性の高い原処分関係資料の記載と符合するものとして、高い信用性が認められるものといえる。
 さらに、上記(A)のaで述べたとおり、徴収職員の職責からすれば、通常、滞納国税の一部を除外して納付相談を受けることは考えがたいから、請求人代表者に滞納金目録を交付し、当該時点の滞納国税の一部を除外して納付相談をしたことはない旨の上記まる1まるウの答述も、内容は自然であり、高い信用性が認められるものである。
 当審判所の調査の結果によっても、T徴収官の答述の信用性を疑わせる事情を認めることはできない。
b そして、原処分関係資料の記載(上記(イ)のHの(A))及び上記aのとおり高い信用性が認められるT徴収官の答述(上記(ロ)の(C))によれば、まる1平成17年1月18日の納付面談の際、まるア請求人代表者が、T徴収官に対して、現状では月々少額の納付しかできないが、本税の細かいものでも納付する旨を申し立てた事実、まるイ請求人代表者が、滞納国税の一部について納付する意思がない旨の発言をしなかった事実、まるウT徴収官が、請求人代表者に対して、KSKから出力した滞納金目録を交付した事実、まる2同年2月4日に、請求人代表者が、電話で、金額は未定であるが同月及び翌月に滞納国税を納付する旨を申し立てた事実が認められるというべきである。
 したがって、平成17年1月18日の納付面談における請求人代表者のT徴収官に対する言動は、請求人代表者が、当時滞納となっていた国税の全てについてその存在を認識し、原処分庁に対して納付の意思等を表明したものといえる。
(D) 債務承認による時効中断の効力について
 上記(A)ないし(C)のとおりの各納付面談の際の請求人代表者の言動は、いずれも、債務者(請求人)が債務の存在を認識している旨を表明するものであり、通則法第72条第3項が準用する民法第147条第3号の「承認」に該当するから、当該承認のあった日に時効中断の効力が生じ、通則法第72条第3項が準用する民法第157条第1項により、当該承認の日の翌日から更に時効の進行が開始する。
 したがって、まる1平成3年10月7日の請求人代表者の言動(上記(A))により、本件各国税のうち別表1−1の順号1、2及び順号14ないし17の各国税の徴収権の消滅時効は、同日に中断し、その翌日である同月8日から更に進行を開始し、まる2まるア平成12年5月9日の請求人代表者の言動(上記(B))により、同表の順号1ないし11及び順号14ないし29の各国税の徴収権の消滅時効は、同日に中断し、また、まるイg物件差押処分による時効中断の効力が生じていない同表の順号8ないし11及び順号25ないし29の各国税の徴収権の消滅時効は、その翌日である同月10日から更に進行を開始し、まる3まるア平成17年1月18日の請求人代表者の言動(上記(C))により、本件各国税の徴収権の消滅時効は、同日に中断し、まるイg物件差押処分及び本件参加差押処分による時効中断の効力が生じていない同表の順号25の国税の徴収権の消滅時効は、その翌日である同月19日から更に進行したものである。
F 本件交付要求処分による時効中断について
 上記(イ)のIで述べたとおり、原処分庁は、本件各国税のうち別表1−1の順号25の国税を徴収するために平成20年6月4日付で本件交付要求処分を行っているところ、同交付要求処分に係る請求人への交付要求通知書が返戻された事実は認められないから、通則法第12条(平成14年法律第100号による改正後のもの)により、当該通知書は通常到達すべきであった時に送達があったものと推定される(上記(ハ)のA)。
 したがって、上記国税の徴収権の消滅時効は、通則法第73条第1項第5号により、当該通知書が請求人に送達された日に中断したものである(なお、同交付要求処分に係る財産の換価は終了しておらず、同交付要求処分が解除された事実も認められないことからすれば、上記国税の徴収権の消滅時効の中断の効力は、現在も継続している。)。
G 小括
 以上によれば、本件各国税の徴収権の消滅時効は、別表1−2の「時効中断事由」欄記載の各時効中断事由による時効中断の効力が生じた時に中断し、その後、更に消滅時効が進行した時から5年を経過する前に、新たな時効中断事由による時効中断の効力が生じており、g物件差押処分、本件参加差押処分及び本件交付要求処分については、当該時効中断の効力が継続していると認められるから、本件各滞納処分が行われる前に本件各国税の徴収権が時効によって消滅していたとは認められない。
H 請求人の主張について
 請求人は、各時効中断事由に係る事実(まる1督促処分、まる2平成3年4月1日の本税納付、まる3平成3年10月7日、平成12年5月9日及び平成17年1月18日の各債務承認、まる4平成8年9月25日付不動産差押処分、まる5平成14年1月17日付不動産参加差押処分、並びにまる6平成20年6月4日付交付要求処分)はいずれも認められないとして、本件各国税の徴収権の時効中断の効力は生じていない旨主張する。
 しかしながら、当審判所の判断は上記Gのとおりであり、上記各時効中断事由に係る事実はいずれも認められるから、請求人の主張は前提を欠くものであり、採用することはできない。
ロ 争点2について
(イ) 源泉所得税の納税告知処分は、既に確定した納付すべき源泉所得税の額を明らかにし、源泉徴収義務者にその履行を請求する処分であり、不納付加算税の賦課決定処分(以下、源泉所得税の納税告知処分と併せて「納税告知処分等」という。)は、源泉所得税の法定納期限の経過により成立した不納付加算税の額を確定させることを目的とする処分である。一方、滞納処分は、既に確定した税額が納期限までに完納されない場合に、国税債権の強制的実現を目的とする徴収手続であるから、納税告知処分等と滞納処分とは、別個の法律的効果の発生を目的とする別個独立した行政処分である。そうすると、仮に、納税告知処分等に取り消し得べき瑕疵があったとしても、その違法性は滞納処分に承継されず、納税告知処分等の瑕疵が重大かつ明白であるとして無効と評価されるか、違法を理由として権限ある機関によって取り消された場合でない限り、納税告知処分等の違法を理由として滞納処分の取消しを求めることはできないと解するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、請求人が違法であると主張する本件各納税告知処分等のうち別表1−1の順号2の国税に係るものについては、当審判所の調査の結果によっても、重大かつ明白な瑕疵があったとは認められず、また、違法を理由として権限ある機関によって取り消された事実も認められない。
 したがって、本件各納税告知処分等のうち別表1−1の順号2の国税に係るものが違法であるとして、本件各滞納処分が違法であるとする請求人の主張には理由がない。
ハ 小括
 以上のとおり、本件においては、本件各滞納処分が行われる前に本件各国税の徴収権が時効により消滅していたとは認められず、また、本件各納税告知処分等の一部が違法であることを理由に本件各滞納処分が違法であるということもできない。そして、原処分2及び6のその他の点については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、原処分2及び6を取り消すべき理由はない。

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8 まとめ

 以上のとおり、まる1原処分1、3ないし5及び7ないし13の取消しを求める審査請求はいずれも不適法であり、まる2原処分2及び6については、これを取り消すべき理由はない。

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