(平成25年4月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、ソフトウェア等の開発業務を請け負っていた審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、推計の方法により所得税の各更正処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、推計の方法に合理性がないとして、その全部又は一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分、平成19年分、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査を受けた後、本件各年分の確定申告書にそれぞれ別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも平成24年3月12日に原処分庁に対し提出した。原処分庁は、これに対し、同月15日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの無申告加算税の各賦課決定処分をした。
ロ また、原処分庁は、平成24年3月15日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税の各更正処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成24年5月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月6日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、平成18年分、平成19年分、平成21年分及び平成22年分の所得税の各更正処分及び無申告加算税の各賦課決定処分については、いずれもその一部を取り消し、平成20年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分については、いずれも棄却の異議決定をした。以下、異議決定を経た後の本件各年分の所得税の各更正処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年8月4日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、a県e市f町○−○所在のD社の代表取締役の地位にあり、本件各年分及び平成23年分において、請求人個人として、g県h市i町○−○所在のE社からソフトウェア等の開発業務(以下「本件業務」という。)を請け負っていた。
ロ 本件各年分及び平成23年分における本件業務は、いずれも消費者金融向けシステム開発支援作業などと称するものであり、本件各年分における本件業務の請負金額(税込み)は、別表3の「請求金額」欄の各金額のとおりである。
 なお、E社から各請求金額に対応する金員がF銀行j支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件預金口座」という。)にそれぞれ振り込まれている(別表3の「入金額」欄を参照)。
ハ 請求人は、本件各年分の所得税について、平成23年10月から平成24年3月までの間、調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)を受けたが、本件調査の時点において、本件各年分の本件業務に関する帳簿書類等を保存していなかった。
ニ 調査担当職員は、上記ハのとおり、帳簿書類等の保存がないことから、請求人に対し本件業務の内容及び外注工賃の明細(外注先及び金額等)について質問したところ、請求人は、本件業務に係る外注工賃は現金で支払ったが、外注先から領収証はもらっていない旨申述した。
 調査担当職員は、請求人から外注先等について明確な回答がなかったことから、平成23年10月24日、請求人に対し、平成23年分の本件業務に係る収支内訳及び外注工賃の明細(外注先及び金額等)を明らかにするよう依頼した。これに対し請求人は、上記依頼を受けて平成23年分の収支内訳書を作成し、同年分の外注工賃の内訳(外注先6件)及び本件調査の期間中に当該外注先から交付を受けたとする計11枚の各領収証(別表6の番号1ないし11。合計額21,320,250円)を、それぞれ、後日、調査担当職員に提示した。また、請求人は、平成24年2月13日、平成21年分及び平成22年分の本件業務に係る外注工賃の一部であるとして、外注先2件から交付を受けたとする計4枚の各領収証(別表7の番号1ないし4。平成21年分の合計額5,722,500円、平成22年分の合計額5,670,000円)を調査担当職員に提示した。なお、上記の各領収証には、いずれも「プログラム開発費として」又は「システム支援作業代金として」等の記載がある。
ホ 調査担当職員は、本件調査の期間中、請求人に対し、本件各年分における外注先を何度も質問したが、請求人は、過去の外注先については記憶がないなどと申述し、具体的な回答をしなかったことから、本件各年分における外注工賃の確認のため、上記ニの各外注先に対して文書又は聴取により取引状況の調査を行うなどした。また、パソコン等の情報調査を専門とする担当職員(以下「情報調査担当職員」という。)が、調査担当職員とともに請求人の自宅に臨場し、請求人が本件業務に使用したとするパソコンのフォルダ内の確認を行った。
ヘ 調査担当職員は、上記ホの各外注先への取引状況の調査によって、上記ニの各領収証に係る取引以外の取引があることを確認できなかったことから、E社から本件預金口座に振り込まれた金額の本件各年分ごとの合計額を本件各年分のそれぞれの総収入金額とし、これらの金額に、請求人が平成23年12月に再度提出した平成23年分の収支内訳書(上記ニの平成23年分の収支内訳書の記載内容の一部を修正したもの)等を基に算定した算出所得率(総収入金額に占める一般経費差引後の所得金額の割合をいう。以下同じ。)をそれぞれ乗じて、本件業務に係る各事業所得の金額(調査認定額)を推計の方法により算定した上、平成24年3月9日、請求人の関与税理士に対し、本件各年分の外注工賃については、上記ニの取引が確認できた平成21年分及び平成22年分の外注工賃以外は認められない旨など本件調査の結果を説明し、併せて上記の調査認定額等を記載した文書を交付した。
ト 請求人は、上記ヘの調査認定額は本件各年分における外注工賃が考慮されておらず納得できないとして、平成24年3月12日、原処分庁に対し、請求人が計算した各総収入金額に、同ヘの交付を受けた文書に記載された平成23年分の調査認定額を基に計算した所得率(総収入金額に占める一般経費及び外注工賃等差引後の所得金額の割合をいう。以下同じ。)7.86%をそれぞれ乗じて、本件業務に係る各事業所得の金額を計算し、本件各年分の期限後申告(以下「本件各期限後申告」という。)をした。
チ これに対し、原処分庁は、本件調査の結果に基づき、本件各期限後申告に係る確定申告書に記載された各事業所得の金額に、平成23年分の外注費率(総収入金額に占める外注工賃の額の割合をいう。)を基に算定した金額をそれぞれ加算するなどして、本件各年分の事業所得の金額を算定し、所得税の各更正処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をした。
リ 請求人は、上記(2)のハのとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁は、異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)において、上記チの各更正処分における収入金額の帰属年分、及び請求人が平成24年3月13日の確定申告時に提出した平成23年分の収支内訳書(内容は別表4のとおり。以下「本件収支内訳書」という。)の一般経費等の内容を調査して、これにより帰属年分を是正し算定した本件各年分の総収入金額(本件預金口座への入金日により計上していたものを請求日による計上に是正した。)に、別表5の平成23年分の算出所得率97.66%をそれぞれ乗じて、別表2のとおり、本件業務に係る各事業所得の金額を推計の方法により算定した。その結果、本件各年分の納付すべき税額は、別表1の「異議決定」欄のとおりであるとして、原処分庁がした各更正処分等のうち、平成18年分、平成19年分、平成21年分及び平成22年分についてはいずれもその一部を取り消し、平成20年分については棄却の異議決定をした。
ヌ なお、請求人は、審査請求において、請求人の本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額を推計の方法で算定すること、及びその算定に当たり、本件収支内訳書を基に算定した平成23年分の本人比率を用いること自体は、争っていない。

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2 争点

 本件各更正処分において、請求人の本件業務に係る事業所得の金額を算定した推計方法に合理性があるか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
 次のとおり、原処分庁が用いた推計方法には合理性がある。
(1) 請求人が本件各年分及び平成23年分にわたり行っていた本件業務は、同一の取引先であるE社との間の消費者金融向けシステム開発支援などに係る一連の「ソフトウェア開発業務」の請負であり、これらの各年分における本件業務の内容には同一性があると認められる。
 他方で、請求人は、原処分庁に対し、平成23年分の外注先に関する明細等並びに平成21年分及び平成22年分の外注工賃の一部に関する領収証を提示するのみで、これ以外の外注工賃の支払先及び支払金額等を明らかにしていないから、本件各年分においても、平成23年分と同様の外注工賃の支払があったのか否かが明らかではない。
(2) 外注工賃は、本件業務の性質上、業務委託契約に係る仕様内容やその受注量などに応じて生ずるような極めて個別性の高い経費項目であるから、請求人が、本件業務の収支状況を明らかにするような記帳をしておらず、提示した領収証等以外に外注工賃の発生をうかがわせるような証ひょう類の保存もない上、請求人本人ですら当該外注工賃の支払先及び支払金額等を明らかにできない以上、本件各年分の外注工賃が平成23年分のそれと同様に発生したことを前提とした推計方法によって、請求人の所得金額を算定することはできないというべきである。
(3) そうすると、請求人の平成23年分の申告額を指標に、旅費交通費、消耗品費等のいわゆる一般経費を推計し、これに実額による外注工賃の額を加算した上で、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定するという、原処分庁が採用した推計方法は、本件業務の性質及び外注工賃という経費項目の個別性を十分に考慮し、かつ、請求人が主張する外注工賃の存否に係る調査の結果をも踏まえたものであるから、請求人の本件業務に係る事業所得の金額の近似値を算定するのに最も合理的な推計方法である。
 次のとおり、原処分庁が用いた推計方法には合理性がない。
(1) 請求人が本件各年分及び平成23年分において行っていた本件業務の内容には、差異がない。このことは、本件調査において、調査担当職員が平成23年分の外注工賃の支払先及び支払金額の存在を確認したこと、及び本件預金口座の出入金状況等によれば、平成23年分と本件各年分における収支状況や財産状況に大きな増減のないことから明らかである。また、本件調査において、調査担当職員は、請求人のパソコン内のデータを確認し、請求人自身がソフトウェア開発業務を行っていないことも確認した。
(2) 以上によれば、本件各年分において、平成23年分と同様の外注工賃が存在することは合理的に明らかであるから、請求人の本件各年分の事業所得の金額は、請求人が本件各期限後申告の際に用いた方法と同様に、平成23年分の外注工賃を考慮した本人比率(所得率)を基に算定すべきである。
(3) そうすると、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定するに際し、平成23年分の外注工賃を考慮せずに算定した本人比率(算出所得率)を用いた原処分庁の推計方法は、請求人の本件業務に係る事業所得の金額の近似値を算定するのに最も合理的な推計方法とはいえない。

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4 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第156条は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額を推計して、これをすることができる旨規定しているところ、この推計課税は、納税者が帳簿書類等の備え付けをしない場合など、当該納税者の所得を実額で把握することが不可能又は困難であるときに、税務署長が入手し、又は容易に入手し得る推計のための基礎事実及び間接的な資料を用いて、所得額に近似した額を推計し、これをもって課税することを是認する趣旨であると解される。
 そして、推計の方法が合理的であるというためには、まる1推計の基礎事実が正確に把握されていること、まる2推計方法としてその事案に最適な方法が選択されていること、まる3具体的な推計方法ができるだけ真実の所得に近似した数値が算出されるような客観的なものであることを要すると解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ E社が作成した平成17年9月から平成23年4月までの本件業務に係る「注文書(請負)」の主な内容、及びこれらの発注に対応して請求人名義で発行された「請求書」の内容は、それぞれ別表8及び別表9のとおりである。これらの内容によれば、上記期間における本件業務は、1件の発注業務(別表8の番号8の業務)を除き、いずれも消費者金融向けシステム開発支援作業などと称するものであり、その納品までに少なくとも2か月ないし4か月程度の期間を要すると見込まれるものである。なお、これらの書類(写し)は、請求人がE社から入手し、異議調査の際に提出したものである。
ロ 本件預金口座における主な出入金の状況は、別表10のとおりであり、この出入金の状況によれば、E社から各請求金額に相当する金額が振り込まれた日、あるいは数日後などに、請求人が同社からの振込金額のおよそ9割を超える金額をそれぞれ引き出している。
ハ 調査担当職員は、平成23年12月16日、情報調査担当職員とともに請求人の自宅に臨場し、請求人が本件業務に使用したとするパソコンのフォルダ内の確認を行ったが、本件業務に関係するものは見当たらなかった。
ニ 原処分庁は、平成24年1月末から同年2月にかけて、請求人が提出した各領収証の作成者として記載されている別表6及び別表7の各外注先に対し、平成17年10月1日から平成24年1月31日までの間の請求人との取引金額等の回答を求める旨の照会文書を送付したところ、当該各外注先からは、いずれも上記各別表に記載の各領収証に係る取引のみである旨の回答書が提出された。また、調査担当職員は、上記各外注先のうち、平成23年分の各外注先に対し取引状況についての聴取(電話聴取を含む。)を行ったが、同年分の取引(別表6の各取引)を確認したものの、これ以外の取引があることを確認することができなかった。
 なお、平成23年分の各外注先のうち、まる1G(別表6の番号1)は、完成後、請求人に完成物を送り、代金は請求人と会って現金で受け取った旨、まる2H(同表の番号2)は、取引は同年分のみで、受注はメールか携帯で行い、完成後引渡し時に現金をもらった旨、まる3J(同表の番号3)は、取引は2・3年前からで、受注時は請求人と会っている旨、まる4K社(同表の番号5)は、取引は同年分のみで、打合せ、納品及び支払時に請求人と会った旨を、それぞれ調査担当職員に申述した。

(3) 請求人の申述及び答述

イ 請求人が、本件調査において調査担当職員に対し申述した内容の要旨は、以下のとおりである。
(イ) 本件業務の内容は、ソフトウェア開発業務であるが、請求人の役割は、マネージメントである。
(ロ) 外注工賃は現金で支払ったが、領収証はもらっていない。
(ハ) 外注先については迷惑がかかるので、不確実なことは言えない。
(ニ) 本件業務に係る請負代金は、本件預金口座に入金された後、すぐに引き出し、一旦D社の金庫に保管した後、外注先に支払った。
(ホ) 過去の外注先については、記憶がない。
ロ 請求人が平成24年12月11日に当審判所に対し答述した内容の要旨は、以下のとおりである。
(イ) 本件業務は、プログラムやソフトウェアの開発のみであり、同じような内容のものばかりであった。請求人は、自らプログラム等の開発を行うのではなく、外注先に仕事を依頼するための中継地のような役割であった。
(ロ) 本件業務は、E社の代表者からの電話やメールで受注していた。E社から発注書を受け取ることはなく、発注時に仕事の期限の指示があり、請求人は外注先の手配やお金の受渡し等を任されていた。
(ハ) 請求人は、プログラムの作成等をする技術者ではないため、本件業務を自ら行うことはほとんどできず、E社から受注した本件業務は全て外注した。請求人がE社から本件業務を受注し始めた当初は、請求人が外注先を探して依頼していたが、時期は覚えていないが、取引量が増えた後は請求人のみでは外注先を探しきれなくなり、E社が外注先を紹介、指定するようになった。E社は代表者1人の会社であったので、引き続き請求人に外注先との連絡役としての役割を期待して発注したのだと思う。
(ニ) 本件各年分に係る本件業務に関する帳簿書類等は保存していない。請求人から各外注先への業務の依頼はパソコンのメールで行ったが、当該メールも残っていない。外注工賃や納期は請求人が決めていた。
(ホ) E社への請求書は、同社が作成したものに請求人が押印した。E社からの請負代金の支払は、全て預金口座への振込みであった。請負代金が振り込まれるとE社の代表者から電話連絡があった。その後、請求人が銀行の窓口で引き出し外注工賃の支払に充てた。預金口座への入金額と出金額の差額が、請求人の取り分であった。
(ヘ) 外注工賃の支払は、完成物と引換えで、請求人が各外注先に直接現金で支払った。外注先の中にはk地方に居住している者もいたが、それらの者に対しては、請求人が出向いて現金を支払った。銀行振込を利用しなかったのは、E社の指示によるものである。
(ト) E社への納品はケースバイケースで、最近のものは、請求人がハードディスクを直接渡したり、郵送したこともあった。
(チ) 本件調査において原処分庁に提出した各領収証は、連絡先が分かった各外注先にE社を通じて依頼するなどして発行してもらったが、これら以外の外注先については、連絡先が分からない。
(リ) 請求人は、本件業務に係る事業所得について確定申告の必要があることを認識していなかったので、外注工賃を支払った際に領収証は受け取っていなかった。
ハ 請求人は、上記イのとおり、調査担当職員に対し、外注工賃について具体的な取引先等の内容を申述せず、また、上記ロのとおり、当審判所に対しても同内容を答述していないが、上記の答述内容は、本件業務の内容、請求人の役割、取引経路等の内容、及び決済の状況など根幹において一貫したものであり、本件調査及び異議調査において請求人が提出した証拠書類並びに本件預金口座の出入金状況などの客観的な事実と矛盾せず、かつ、各外注先の申述とも整合するものであるから、請求人の答述のうち上記の本件業務に関する一連の取引形態に係る内容については、基本的に信用することができる。
 したがって、請求人は、E社から請け負った本件業務の全てについて、同社から受注後、請求人が探した、あるいは同社から指定された者に外注し、請求人は、同社から本件預金口座に振り込まれた請負代金を、後日これらの外注先に完成物と引換えに支払うという取引形態であったと認められる。

(4) 検討

 請求人は、上記1の(4)のヌのとおり、請求人の本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額を推計の方法で算定すること、及びその算定に当たり、本件収支内訳書を基に算定した平成23年分の本人比率を用いること自体は争っていないところ、上記1の(4)のハ及び上記(3)のロの(ニ)のとおり、請求人は、本件調査及び当審判所による調査のいずれの時点においても、本件各年分の本件業務に関する帳簿書類等を保存していなかったのであるから、原処分の時点でも現時点でも、本件各年分の事業所得の金額を所得税法第156条に基づく推計の方法で算定せざるを得ず、推計課税の必要性があると認められる。そして、本件各更正処分の内容が推計課税によるものであり、その推計の方法により算定された当該事業所得の金額の適否を判断する必要があるから、上記1の(4)の各事実、上記(2)の認定事実及び同(3)の請求人の答述等を基に、上記(1)のまる1ないしまる3についてみると、以下のとおりである。
イ 推計の基礎となる総収入金額の正確性について
 本件各更正処分における本件業務に係る各総収入金額は、上記1の(4)のロ及びリのとおり、別表3の「請求金額」欄の各金額を各年分ごとに合計した別表2の「総収入金額」欄の各金額であり、この点について請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
ロ 推計方法の最適性について
 本件各更正処分における本件業務に係る各事業所得の金額は、請求人の平成23年分の本人比率(算出所得率)を用いて算定されているところ、一般に、推計の基礎となる年と推計の対象となる年との間に、業界に共通した経済事情の変化や、納税者の事業内容、事業規模、事業場所等の変化など、推計すべき課税要件の算定に影響を与えるような事情の変化がない限り、推計の対象となる年分の本人比率は、推計の基礎となる年分と同様であると推認して、本人比率による推計方法により課税要件等を推計することができると解される。
 これを本件についてみると、異議審理庁は、上記1の(4)のリのとおり、請求人の推計の基礎となる平成23年分の事業所得の金額を本件収支内訳書により実額により算定しているところ、当該事業所得の金額は、請求書及び領収証等の証拠資料並びに外注先への調査の結果などに裏付けられた総収入金額及び必要経費の額を基礎としているから、正確な本人比率を算定することができると認められる。そして、算定された平成23年分の事業所得の金額は、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
 また、推計の対象となる本件各年分と推計の基礎となる平成23年分との間において、請求人について本人比率に変動を来たすと認められるほどの経済事情の変化や、事業内容及び事業規模の変化等の特段の事情があったとは認められないから、原処分庁が、請求人の本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額を算定するに当たり、平成23年分の本人比率を用いたこと自体については、合理性があると認められる。
ハ 具体的な推計方法の合理性について
 本件における争点は、すなわち、請求人の本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額の算定に当たり、請求人の平成23年分の本人比率のうち、外注工賃を考慮しない算出所得率(原処分庁)、又は外注工賃を考慮した所得率(請求人)のいずれによるのが、請求人の真実の所得の近似値を算定するに最も合理的な推計方法であるかという点にある。
(イ) これを本件についてみると、上記1の(4)のロ及び上記(2)のイの各事実並びに同(3)のロの答述のとおり、本件各年分及び平成23年分における本件業務は、消費者金融向けシステム開発支援作業などと称するプログラムやソフトウェアの開発業務であり、当該各年分における本件業務の内容に同一性があると認められる。
(ロ) また、請求人は、上記1の(4)のイのとおり、本件各年分及び平成23年分においてD社の代表取締役の地位にあり、個人としての立場で本件業務を受注していたところ、本件業務は、その内容、金額及び業務の期間等からみれば、請求人個人のみで行うことは困難な規模の業務であると認められる。
(ハ) そして、上記(2)のイないしニの各事実によれば、請求人は、E社からその完成物の納品までに数か月を要すると見込まれるソフトウェア等の開発業務を受注し、同社から本件預金口座に請負代金の振込みがあった都度、その振込金額のおよそ9割を超える金額を引き出しているところ、当該引き出した各金額のうち、平成21年分及び平成22年分の各一部並びに平成23年分の9割超の部分については、請求人が提出した各領収証及び調査担当職員による各外注先への調査の結果等によって、外注工賃の支払に充てられた事実が裏付けられている。
 また、情報調査担当職員が、請求人が本件業務に使用したとするパソコンのフォルダ内の確認を行ったにも関わらず、本件業務に関係するものが全く見当たらなかったことは、請求人が本件業務の全てを外注に出していたことと矛盾しない。
(ニ) 以上のことに加え、上記(3)のハのとおり、同ロの請求人が答述した本件業務に関する一連の取引形態どおりの内容が認められることを総合すると、請求人は、本件各年分においても、平成23年分と同様に、E社から受注した本件業務の全てについて、請求人が探した、あるいは同社から指定された者に外注し、本件預金口座に振り込まれた請負代金から外注工賃を支払っていたと推認することができる。一方で、この推認の妨げとなる事情は認められない。
(ホ) そうすると、請求人が行っていた本件業務について、常に外注工賃が存在するという業態についても、本件各年分と平成23年分とに同一性があると認められるから、請求人の本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額の算定に当たっては、平成23年分の外注工賃を考慮した所得率を用いるのが、請求人の真実の所得の近似値を算定するのに最も合理的な推計方法であるというべきである。
ニ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、外注工賃は、本件業務の性質上、業務委託契約に係る仕様内容やその受注量などに応じて生ずるような極めて個別性の高い経費項目であるから、請求人が、本件業務の収支状況を明らかにするような記帳をしておらず、提示した領収証等以外に外注工賃の発生をうかがわせるような証ひょう類の保存もない上、請求人本人ですら当該外注工賃の支払先及び支払金額等を明らかにできない以上、本件各年分の外注工賃が平成23年分のそれと同様に発生したことを前提とした推計方法によって、請求人の所得金額を算定することはできないと主張する。
(ロ) そこで検討するに、推計課税は、上記(1)のとおり、納税者の所得を実額で把握することが不可能又は困難である場合に、やむを得ず間接的な資料等を用いて、所得額に近似した額を合理性のある推計方法により算定する課税方式であるところ、原処分庁は、請求人に本件業務に係る帳簿書類等の保存がなく、実額計算の方法による事業所得の金額の算定をすることができないと判断した上、本件調査等によって推計の基礎となる事実等に関する間接的な資料等を収集しながら、当該資料等に基づいて、まる1本件業務の業態が本件各年分と平成23年分とでは同一でないこと、及びまる2本件各年分においては請求人が提示した外注工賃以外の支払の事実がないことなどの明らかにすべき事項を明らかにしないまま、請求人が外注工賃に関してその外注先及び支払金額等を特定しないことなどを理由に、推計課税による所得金額の算定から外注工賃を除外し、一般経費のみを考慮した算出所得率を用いて推計した。
 確かに、一般に、外注工賃などの特別経費は、個別性が高く、収入金額との比例関係が一般経費に比べ希薄と考えられるものの、本件の場合、上記ハのとおり、平成23年分と本件各年分においては、ソフトウェア等の開発業務である本件業務の内容、及び常に外注工賃が存在するという業態に同一性があると認められ、請求人は受注した本件業務について、請求人自身がソフトウェア等の開発業務を行うことなく、全て外注に出していたと認められることからすれば、収入金額と外注工賃とに、一般経費と同じように比例関係があるというべきである。
(ハ) そうすると、推計の基礎となる平成23年分の本人比率は、一般経費のみならず外注工賃を考慮した所得率を用いて、本件各年分の事業所得の金額を算定するのが、請求人の真実の所得の近似値を算定するに最も合理的な推計方法であるというべきであるから、原処分庁の主張は採用できない。
ホ 結論
 以上のとおり、原処分庁が主張する平成23年分の算出所得率を用いた推計方法には合理性がないと認められるから、請求人の本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額の推計に当たっては、平成23年分の所得率を用いて算定すべきである。

(5) 平成23年分の所得率の算出について

 上記(4)のとおり、原処分庁が主張する推計方法については合理性がなく、請求人の本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額の算定に当たっては、平成23年分の所得率を用いて算定すべきであるから、これを前提に当審判所において、請求人の平成23年分の所得率を算出すると、別表11の「所得率」欄のとおり、8.99%となる。

(6) 本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額の算定について

 以上を基に、請求人の本件各年分の本件業務に係る各総収入金額に、上記(5)の平成23年分の所得率8.99%を適用して、本件各年分の事業所得の金額を算定すると、別表12の「事業所得の金額」欄のとおり、平成18年分は○○○○円、平成19年分は○○○○円、平成20年分は○○○○円、平成21年分は○○○○円及び平成22年分は○○○○円となる。

(7) 本件各更正処分について

 以上のことを前提として、請求人の本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額を算定すると、別表13の各金額のとおりとなる。その結果、平成18年分、平成20年分及び平成21年分の各総所得金額及び各納付すべき税額は、いずれも本件各更正処分の額を下回り、平成19年分及び平成22年分の各総所得金額及び各納付すべき税額は、いずれも本件各期限後申告の額を下回るので、本件各更正処分のうち、平成18年分、平成20年分及び平成21年分については、別紙1ないし別紙3「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消し、平成19年分及び平成22年分については、いずれもその全部を取り消すべきである。

(8) 本件各賦課決定処分について

イ 上記(7)のとおり、平成18年分、平成20年分及び平成21年分の各更正処分の一部をいずれも取り消すべきであるから、無申告加算税の各賦課決定処分の基礎となる税額は、平成18年分は○○○○円、平成20年分は○○○○円及び平成21年分は○○○○円となる。
ロ また、上記イの各年分の税額の計算の基礎となった事実のうちに、各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第4項において準用する同法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 したがって、国税通則法第66条第1項の規定に基づいて無申告加算税の額を計算すると、平成18年分は○○○○円、平成20年分は○○○○円及び平成21年分は○○○○円となり、平成20年分の金額は、賦課決定処分の金額を下回るから、当該賦課決定処分は、別紙2「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきであり、平成18年分及び平成21年分については、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、無申告加算税の額が5,000円未満であるときにはその全額を切り捨てることとなるから、当該各年分の無申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。
ハ 上記(7)のとおり、平成19年分及び平成22年分の各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきであるから、当該各年分の各賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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